-猪川 晴臣- 紫色した甘露の先に待つ黒い楽園 その2

  ☆

  「このビルだ……」

  僕-猪川晴臣-は、手に持った小さなメモをもう一度確認すると、薄汚れた小さな雑居ビルを見上げる。

  ここが目的の場所だった。

  「……行こう」

  僕は薄暗い明りの中をゆっくりと足を進める。

  電気が来ている事だけは解るが、周りのビルで外からの光はほぼ入ってこない。

  そこは、まるで世間から隔絶されたような印象を受ける場所だった。

  カタカタ。

  僕は階段を上り、扉を開けて奥の部屋に入る。

  そこには照明が煌々と灯り、きつい消毒薬の匂いが鼻をくすぐる。

  衛生管理に気をつけているのだろう。

  そこは病院施設なのだから。

  僕はもう一度、手にしたメモを見る。

  『犬ヶ浦診療所』。

  ここでは、とある犬人が無免許開業医として診察を行っているのだ。

  もちろん、違法行為と知りながら。

  待合室には様々な恰好をした大人達が黙りこくったまま座っていた。

  ヤクザ、娼婦、ニューハーフ、ホストにホステス。

  彼らはまるでで躾けられた飼い犬のように、皆大人しく順番を待っている。

  顔中傷だらけにしたやくざの幹部と思われるような人まで、礼儀正しくしているのだ。

  それは壁に大きく張り出された、『揉め事厳禁!診察の邪魔するなら帰れ!』の文字のせいもあるのだろう。

  こんなところに来るような人たちは、正規の病院で治療を受けることのできない訳ありばかり。

  だから、医者の言葉に逆らうことなどできはしないのだから。

  僕も受付を済ませ、空いている椅子に座る。

  見たことない新しい患者に、無遠慮な周囲の視線は集まるが、理由を聞いてくるような者はいなかった。

  お互いに不干渉なのも、ここでの決まりなのだろう。

  「猪川さん、どうぞ」

  

  その日の最後の患者は僕だった。

  待っていたすべての患者たちがいなくなると、僕は名前を呼ばれて、診察室へ入ることとなる。

  そこには大柄な体に白衣をまとい、少しくたびれたような顔をしたサモエド人の姿があった。

  「ん、見慣れねぇ顔だな」

  ぶしつけに僕の身体を上から下まで眺めると、その犬ヶ浦という医者はぶっきらぼうな口調で言う。

  「ここはガキが来るような場所じゃねえぞ。子供はちゃんとした病院で診てもらえばいい」

  確かに、そう思われてもおかしくはないだろう。

  今の僕は成人しているにしては小柄で、ウリ坊模様だってまだ体に残っている。

  顔つきも幼い。

  自分で鏡を見ても、とても大人には見えないのだ。

  だが。

  「僕、子供じゃないです。ちゃんと成人しています」

  その言葉に、犬人は眉をひそめた。

  「中学生ぐらいだと思ったが……」

  「21歳なんです」

  「っ!」

  少し驚いた顔をするサモエド人。

  「訳ありみたいだな。まあいい。……それで、お前みたいなとっちゃん坊やが、どうやってうちみたいなモグリの医者を知ったんだ」

  「これを書いてくれた人に紹介してもらったんです。俺に何かあれば、この人に頼れと。お前みたいな奴は、犬ヶ浦先生ぐらいしか見てくれる医者はいないだろうって」

  僕はメモと共に、手に持っていた名刺を差し出す。

  そこには、この病院を紹介してくれた人の名前が書かれてあった。

  「牛島輝明ねえ……。知らねえな」

  「ここの患者だと言ってました。先生にはずっとお世話になってるって。たしか竜山組の幹部だとか……」

  「確かに竜山組とは関わりはあるし、会長もそこの組員の面倒もずっと見ているが……はて……」

  首を傾げながらも、その名前に引っ掛かるものがあるのだろう。

  覚えてねえなと言いながらも、立ち上がったサモエド人は、ごそごそとカルテを探す。

  「んん? 確かにカルテはあるようだな。牛島輝明、竜山組の幹部と書かれている。通院履歴もかなりあるな。10年近いじゃねえか。……そういや、おぼろげながら思い出して来たぜ。確か顔に刀傷がある、角の1本折れた牛獣人だったか」

  「そうです!」

  「そうか。……しかし、こうまでよく通ってきてくれてる患者を忘れるなんて、俺も焼きが回っちまったのか」

  ため息をつく医者に、僕は首を振った。

  「そうじゃないと……思います。きっと他の人も覚えていないと思うんで」

  僕の言葉に一瞬、怪訝そうに顔をしかめたが、まあいい、と椅子に座るサモエド人。

  「それで、猪川君と言ったか。君みたいな子が、なんだってうちみたいな診療所に来たんだ」

  ぶっきらぼうに聞こえるその低い声の中には、気遣うような色が感じ取れて。

  ……僕の事、心配してくれてるんだ。

  ずっと緊張で張りつめていた、僕の目から涙があふれ出る。

  「お、おい……」

  「僕はもう、先生しか頼る人がいないんです……」

  「どういうことだ?」

  「なんで僕は……こんなおぞましい体になってしまったんでしょうか……」

  「何?」

  眉をしかめる犬人。

  「この体はとても成長が遅いんです、普通の人の何倍も」

  「まあ、成長具合は人それぞれだからな。そういう奴がいてもおかしくは……」

  「でも!」

  僕はその言葉を遮るように叫ぶ。

  「それだけじゃないんです! ……僕の精液は、人を……人を破滅させるんです……」

  「破滅?」

  いぶかしげな顔をしている犬人。

  「それを舐めた男たちは皆、僕の精液の虜になって……最後には亡くなってしまう……」

  「おいおい……」

  僕の言葉に苦笑する犬人。

  「そんな与太話みたいなことが……」

  「あるんです! じゃなきゃ、わざわざ先生の所に相談になんて来ません!」

  涙ながらの僕の必死に訴えに、半信半疑ながらサモエド人は頷いた。

  「……そんなに言うなら一応調べてやるよ。ベッドに横になりな」

  ◆

  その日、俺の元に訪れた最後の患者は、小柄な猪人だった。

  猪川晴臣と名乗った彼は、歳の頃なら15、6にしか見えない、未だ体に斑点が浮かんでいるウリ坊のような小柄な男。

  そんな彼が涙ながらの訴えた内容は、初めは妄言だと思っていた。

  子供に見えた彼が、実はすでに成人男性で、そんな彼の精液が人を狂わせる効果を持つなんて。

  俺は彼の訴えを聞き、血液検査や細胞検査を行う。

  しかし、その身体には異常は見られなかった。

  裸にさせて診察しても、おかしいところなどない。

  幼い体のわりに、逸物は非常に大きいように感じたが、それも個性の範疇だ。

  左胸に一か所と陰嚢、陰茎の一部にメスを入れたような小さな古傷はあったが、これだってとりたてておかしいわけではない。

  だが。

  「なんだこれは……」

  精液を精査した俺は、驚愕した。

  普通の人体ではありえない、紫色のザーメン。

  そう、白ではない。

  禍々しいまでの紫色をしているのだ。

  そんな異常な色をした精液には、非常に高い濃度の麻薬成分、強壮成分が含まれていた。

  人体から、そんなものが生成されていると言うのか。

  それだけでも驚愕に値するのだが、それ以上におぞましいのは精液を構成する物体。

  精液は通常、液体部分である精漿と細胞部分であるおたまじゃくしのような精子とで構成されている。

  だが、こいつのものはまったく違っていた。

  顕微鏡をのぞけば、形だけは精子に似てはいるが、全く別の青黒い何かがうねうねと蠢いているのだ。

  俺はそれを調べてぞっとした。

  その精子のような何かは、精漿の中でただやみくもに動くわけではなく、まるで明確な意思を持っているように見える。

  顕微鏡で覗いているこちらを認識しているかのように、そのすべてが鎌首をもたげて顕微鏡のレンズを見上げているように感じられたのだ。

  そのおぞましさに、俺は身体が震えるのを感じた。

  そして、その精子もどきは、どんな薬品を使っても死滅しなかった。

  精漿の中でくねりながら、延々と紫色の麻薬成分や強壮成分を吐き出し続けているのだ。

  だからこいつの精漿は、ほぼ麻薬成分で構成されていると言ってもいい。

  唯一、持ち主である猪川の体にある免疫で動きは鈍くなるようだが、一度外へ放出されると、動きは活発になり、吐き出す麻薬成分の量は格段に増しているようだった。

  「おい」

  俺はガラス棒で精液を掬うと、それを猪川の口に持っていく。

  「お前、これ舐めてみろ」

  「えっ?」

  裸のまま困惑したように俺を見る。

  「男に舐めさせたって言うぐらいなんだから、お前もゲイなんだろ。精液ぐらい舐められるだろ」

  「……はい」

  渋々といった様子でその紫色の液体を舐めとる猪人。

  だが、その様子は何ら変わらない。

  「やはり、本人には影響がないのか」

  

  そう呟くと、俺は舐め残した精液をじっと見る。

  ガラス棒についた紫色の精液は、なぜか俺の心をそそるようで……。

  べろり。

  

  俺は思わず、舐めとってしまう。

  「せ、先生!」

  驚いて声をあげる猪川。

  だが、その声を耳に入れる余裕など、その時の俺にはなかった。

  「あ……」

  からん、とガラス棒が手から落ちる。

  口の中に広がるのは、異常な程の甘味。

  そして一瞬で体が高揚していくのだ。

  含まれた麻薬成分が、尋常でない多幸感を俺に与え、強壮効果で逸物が勃起してしまうのがわかった。

  ……犯したい。

  本能が俺に訴えた。

  目の前の幼い猪人を犯して、したたかにザーメンをぶっ放したい。

  舐めとった精液の量がほんの少しでも多かったら、そして医師としての理性がなければ、俺はためらわずに目の前の猪人に襲い掛かっていただろう。

  血が滲むほど拳を握り、唇を噛みしめて、荒波のような獣欲を、俺はやり過ごす。

  「はぁ、はぁ……」

  「大丈夫ですか、先生!」

  「……ああ、大丈夫だ」

  なんとか耐え抜いたものの、それでも未だに目の前の小柄な猪人が、俺には雌にしか見えなかった。

  「今度は触診をする。……うつ伏せになってケツを向けてみろ」

  「え……は、はい」

  素直にうつ伏せになる猪川。

  俺の体にある猪川のザーメンがさせているのか。

  触診とは思えないほど優しく、そっとその体を撫でてしまう。

  まるで愛撫をしているように。

  「ああっ♡」

  小さなあえぎ声をあげる猪人に、俺の股間がより硬くなる。

  「せ、先生……」

  戸惑う猪川に、俺は言う。

  「ケツの穴も調べてやる」

  震える指でケツを撫で、そっとその肉穴に押し込んでいく。

  ぐちゅんっ。

  使ったことのないほどに小さな蕾は、抵抗もなく俺の太い指をするりと受け入れた。

  「ひぃっ♡!」

  「すげぇ……」

  中はマシュマロの様に軟らかく、それでいて肛門部分の締りは処女の様にきつく、触っただけで名器だとわかる。

  ここに逸物を差し込めば、極上の快感を得られるだろう。

  俺は思わず触診だというのも忘れて、肉穴を掻き回してしまう。

  くちゅんっ、くちゅんっ。

  「あっ♡、あっ♡」

  されるがままあえぎ声をあげる幼い猪人。

  「気持ちいいのか?」

  「気持ちいいです……」

  甘えたような声で、猪人は俺に答えた。

  その言葉に、俺の心は揺れ動かされる。

  ……この名器に舌を入れ思いっきり舐め回したい。

  ……そしてこの中に思いっきり自分の精液をぶっ放し、満足したい。

  俺はたまらず、片手でベルトを外して、ズボンのファスナーを……。

  ……俺は医者なんだぞ!

  ほんの少しの理性を手繰り寄せ、俺は歯を食いしばる。

  ……何をしているんだ。

  こいつは患者で、俺は医者なんだ!

  必死に欲望に蓋をして、俺は猪川の体から手を離した。

  「すまん……」

  これが、この精液の効果なのだ。

  麻薬成分に溺れて、目の前のこの男を犯したくて仕方なくなってしまう。

  その事実を知らない男なら、我慢なんて出来るわけがない。

  「なんなんだ、この身体は……」

  俺は途方に暮れたように呟いた。

  こんな患者、見たことがない。

  「きっと……きっと僕は呪われているんだと思います」

  体を起こした猪川は、服を身につけながら寂しそうに笑う。

  「悪魔のような声が聞こえたことがあるんです。『お前がどれだけ嫌がっても、相手はお前を求め続け、最後は狂い死ぬのだ』と」

  「……」

  確かに、この精液を摂取し続ければ、その言葉通りになるのだろう。

  「しかし、なんでそんなこと……」

  「先生、僕の話、聞いてもらえますか?」

  そう言うと、服を身につけ椅子に座り直した猪川は、鞄から古い新聞や週刊誌の切り抜きをいくつも取り出した。

  「なんだそれは?」

  「とあるカルト教団に対して、警察が行った家宅捜索に対しての記事です」

  俺はそれを受け取り、目を通す。

  そのカルト教団は災厄の悪魔と呼ばれるものを崇拝し、現世に復活させることを目的にした集団だった。

  ある日、子供たちを生贄にしているというリークがありそこに警察が突入する。

  しかし、すでにもぬけの殻で、残された当時5歳の幼児だけを保護したと新聞には書かれている。

  週刊誌の内容はもっと詳細で露骨だった。

  警察隊が奥にあった部屋に入ると、1人の幼児が気を失って仰向けに倒れていたらしい。

  悪魔を崇める祭壇の上に、裸で手足を大の字に広げた状態で繋がれたまま。

  体にべっとり纏わり付く様な甘い匂いの中、その幼児は何かがゼリー状に溶けた様な液体の海の上で、大人顔負けの立派な性器を天に向ってそそり勃たせ、その砲身をビクンビクンと震わせていたのだ。

  「それが、僕だったらしいんです。もちろん、当時の記憶はありませんが」

  色々な検査の結果、教団によって、彼の体には左胸に一か所と陰嚢、陰茎の一部に小さく執刀された形跡があると書かれていた。

  そして救出された時には、致死量をはるかに超えた麻酔薬を打たれていたようだとも。

  なぜ生きていられるのかわからないと、当時の検査をした医師の言葉も添えられていた。

  「結局、両親の事もわからず、捜索願も出ていなかったため、一時的措置として児童養護施設に入ることになり、僕はそこで育てられました」

  「……」

  壮絶な打ち明け話に、俺は言葉を発することも出来なかった。

  「でも、教団の中ではきっと幸せだったと思うんです。ほとんど記憶はないんですけど、そこには男性しかいなかったことだけは覚えてます。……近い年頃の子もいたし、みんな僕に優しかった。美味しいものを食べたり、好きなだけ甘えられた事、泣いている時などは教徒たちが傍にいてくれたことも覚えています。……だからでしょうね、僕は男性にしか心を開けなくなったし、男性にしか甘えることが出来なくなった。いつしか恋愛感情も、男性に向かうようになりました」

  「……」

  「それだけならば、昔の記憶をなくしただけのゲイとして、普通に生きていくことが出来るはずだったんです。でも……」

  一度言葉を区切ると、猪川はふぅとため息をつき、長くおぞましい話を、俺に聞かせ始めた。

  「10年前の話です。当時僕は小学5年生で……」

  ☆

  それは夏の校外学習でのことだった。

  11歳の僕は、授業の一環でクラスメイト達と動物園に写生会に来ていたのだ。

  「よお、坊主。精が出るなぁ」

  友達と離れて1人、猿の檻の前で絵を描いている僕に声をかけたのは、60代ぐらいの、大柄な河馬人。

  貫禄のある大人の男の人に優しそうな顔で笑いかけられて、僕はつい返事をしてしまう。

  「うん。おじちゃんも動物を見に来たの?」

  人懐っこく聞いた僕の問いかけに、河馬人はガハハと笑って首を振る。

  頼もしい近所のごついおじさんという風体に、僕は安心感を覚えた。

  

  「いやいや。おっちゃんはお仕事だよ。ほら、掃除道具持ってるだろ」

  よく見ると河馬人は作業着を着て、モップを手にしていた。

  「あっ、本当だ」

  「な?」

  にっこり笑うおっちゃんに嬉しくなってしまう僕。

  その時からすでに、僕は年上の男の人に甘えるのが好きだと自覚していた。

  「しかし、よく描けてるじゃないか。坊主は何年生だ?」

  「5年生だよ」

  「そのわりに小柄だな」

  「うん。よく小さいって友達にはからかわれるの」

  僕がそう言うと、おじさんはガハガハ笑いながら、僕の頭を撫でてくれた。

  その分厚くてごつごつした大きな手は温かくて、とても気持ちよかった。

  「そうかそうか。でも、おっちゃんは坊主みたいに小さい方が好きだぞ」

  「ありがとう。僕もおじちゃんみたいに大きな男の人、好きだよ」

  「そ、そうか!」

  「僕もおじちゃんみたいに大きくなれたらいいなぁ。……そうだ、おじちゃん。トイレってどこにあるかわかる? 僕、おしっこ行きたくなっちゃって……」

  夢中に絵を描いているせいか、僕は話しかけられて尿意を自覚してしまった。

  水筒のお茶を飲みすぎてしまったのもあるのだろう。

  「おお、そこをまっすぐ行くと、便所があるから行ってくるといい」

  「うん、ありがとう」

  僕は荷物を置いたまま、トイレに走る。

  その後を河馬人がつけているのも知らないままに。

  「ここだ」

  トイレを見つけた僕は駆け込むと、小便器の前でズボンをおろす。

  

  じょろじょろじょろ。

  「……ふぅ」

  心地よい脱力感を感じながら、僕がちんぽのしずくを切っていた時だった。

  ごとり。

  トイレの外で音がして、僕は思わず振り向く。

  そこにはさっきの河馬のおじさんが立っていたのだ。

  その手には『清掃中 使用できません』と書かれた看板を持っている。

  「おじちゃん?」

  

  その目は興奮したように、らんらんと輝いていて。

  河馬人は手にした看板をトイレの外に置くと、僕に近づいて、にやり、と笑ってみせた。

  「ほんと、坊主はかわいいなぁ」

  「あ、ありがとう」

  しゃがみ込むと、はにかむ僕の肩を両手で掴む河馬人。

  その鼻息は、暴れ馬のように荒々しかった。

  「な、なに……?」

  「わしはな、坊主みたいにかわいい子が好きなんだ」

  「う、うん……」

  食いつくように語り掛けるその様子に、僕は若干の恐怖を覚えてしまう。

  そのような強い感情を、大人の男の人に向けられたのは初めてだったから。

  養護施設には、そんな大人はいなかった。

  「……坊主、気持ちいいことしたくないか?」

  大柄なそのおじさんは、覆いかぶさるように僕を見下ろすと、そんなことを言い出した。

  「気持ちいい事?」

  「ああ、たまらなく気持ちいい事だ。……こっちにおいで」

  僕に答える暇など与えずに、その手を掴むと、河馬のおじさんはズボンをずり下げたままの僕を個室へと引っ張り込む。

  何も知らない僕は、抵抗するという事すら思い浮かぶことはなかった。

  狭い個室の中は、河馬人の巨体と、小柄な体格の僕とでぎゅうぎゅうになっていた。

  カチャリ、と扉を閉めると、おじさんは僕の目の前にしゃがみ込んだ。

  「おお、こりゃ体に似合わずデカい逸物だな」

  感心したように僕のちんぽを眺めると、そっと大きな手を伸ばして触れてくるのだ。

  「あっ。おじちゃん何を……」

  そのがさついた掌の感触に、僕は思わず声を漏らしてしまう。

  

  「言っただろ、気持ちいい事だよ。……おお、勃ってきた勃ってきた。やっぱりデカいな。子供のくせにわしのと同じぐらいはありそうだ」

  ぐちゅ、ぐちゅ……。

  そう言いながら、僕のちんぽをゆっくりと扱きだす河馬人。

  その手慣れた感触に、僕は体を震わせる。

  「気持ちいい……」

  「だろ、おっちゃんに任せれば、もっと坊主を気持ちよくしてやれるぞ」

  そう言うと、河馬おじさんは僕のちんぽに口を近づけて……。

  ぱくり。

  「ああっ♡!」

  その大きな口で僕のちんぽを咥え込んだのだ。

  電撃のように僕の身体を走る快感。

  それはとろけるように気持ちいいものだった。

  ぬちゅっ、ぬちゅっ。

  「んっ♡、んっ♡!」

  

  ぬめるように動く舌の動きに、僕は身体を悶えさせる。

  「おお、生意気に先走りが出てきたぞ」

  声をくぐもらせたまま、嬉しそうに笑う河馬人。

  「あ……なんだこの甘さは……」

  ちんぽから出てくる我慢汁を舐めとった河馬のおじさんは、恍惚とした表情を僕に見せる。

  「お、おじちゃん……?」

  「もっと、もっと出せるだろ」

  まるで何かにとりつかれたように、河馬人の舌の動きが早くなる。

  その様子はアブラムシの蜜を舐めとる蟻のように、必死だった。

  ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅ……。

  「あっ♡、あっ♡!」

  亀頭を掃除するような動きで、敏感な粘膜を刺激する舌先の愛撫。

  ざらついた感触がじゅるじゅると蛇のように這いまわる。

  僕は湧き上がってくる快感に、あられもない声をあげた。

  「んんんっ♡!!」

  「気持ちいいだろ? おっちゃんの口に思い切り出してもいいんだぞ」

  ひとたび舌の動きを止めて、そう言うと、再び舌先を蠢かす河馬人。

  「駄目ぇっ♡! 出ちゃうからぁぁぁっ♡!!」

  僕は泣きそうになりながら訴える。

  睾丸がきゅっと締まるのがわかるのだ。

  ちんぽから、せり上がってくる衝動が……。

  プルルルルルルルっ!

  それを中断させたのは、河馬獣人の懐から聞こえる電話の呼び出し音だった。

  「ちっ、こんな時に」

  おじさんは口を離して顔をしかめると、取り出した携帯電話で話をし始める。

  「なんだ! 今取り込み中で……ああ、わかった。すぐに行く」

  乱暴に電話を切ると、僕の方を見て再び笑顔を見せるおじさん。

  「ごめんな。せっかく気持ちよくしてやりたかったのに、おっちゃんこれから用事が出来ちまって……」

  「……う、うん」

  僕は素直に頷く。

  確かにおじさんの行為は気持ちよかったけど、そこにどこか罪悪感も感じてしまって、ホッとしたのも事実だったから。

  「しかし坊主のちんぽすごいなぁ。デカいし、なんか舐めてるとすごく幸せな気分になっちまうんだ。おっちゃん癖になりそうだったよ」

  そう言うと、少し考えこんで、河馬人は言う。

  「なあ。坊主、気持ちよかったろ?」

  「……気持ちよかった」

  確かに気持ちはよかったのだ。

  「それじゃ、またこの続きをしてやるよ。いや、もっと気持ちいい事をいっぱい教えてやるから」

  「でも……」

  僕は困ったように言うが、河馬人は安心させるように僕の頭を撫でた。

  「大丈夫だ。……そうだ、坊主はこの近くの学校の生徒だったよな。今日はこの後みんなで学校に戻るんだろ。学校終わりに校門で待っててやるからさ。その後おっちゃんといっぱい気持ちいいことしような」

  「え……。うん……」

  強引なその言葉に、僕は思わずこくりと頷いてしまう。

  

  「それと、誰にも言うんじゃないぞ。……よしよし。早退して、坊主を迎えに行かないと。じゃあ、また後でな!」

  嬉しそうな顔をすると、おじさんは手を振って走り去っていった。

  僕は不安と期待を膨らませながら、じっとその後ろ姿を見送ることしかできなかった。

  ☆

  写生会が終わり、学校に戻った僕は、そそくさと施設に帰ろうとする。

  あのおじさんと会うのが、少しだけ怖かったから。

  気持ちよさよりも、不安に対する感情の方が勝ったのだ。

  でも……。

  「待ってたぞ」

  僕が校門を出ようとすると、待ちかまえていたように声をかける河馬人。

  その時点で、逃げるという選択肢はもう残されていなかったのだ。

  「あ……うん」

  戸惑いながらも頷く僕の手を強引に掴むと、おじさんはこっちへおいでと停めてあった車の方へと引っ張る。

  その目は動物園でガハガハとほがらかに笑っていた時とは違い、飢えたような目をしていた。

  「さあ、いいところに連れて行ってやるからな」

  有無を言わさず僕を車に乗せると、おじさんは車を発車させる。

  「……」

  無言のまま運転を続けるおじさんの姿に少し怖さを感じた僕は、なんとか口を開かせようと話しかけた。

  「……おじちゃん、さっきと全然服が違う。なんか、スーツで格好いいね」

  「そりゃ、こう見えて社長だからな」

  「そうなんだ。……ただの掃除のおじちゃんだと思ってた」

  「ああ、今日は病気で休んだ従業員の代わりに仕事をしていたんだよ」

  そのままおじさんは、普段の自分の事を色々と話してくれた。

  樺山利数という名のその河馬人は、社員30人程の清掃会社社長で、

  ビルや商業施設、頼まれれば個人宅の清掃を行っているとか。

  現場大好きで予定の無い日などは社員と一緒になって働いているとか。

  ジョークが好きで、社員たちを笑わせようとするが、あんまり受けが良くないとか。

  そうして、サムいギャグを披露してくれる。

  僕は愛想笑いをしながら、その話を聞いていた。

  ……怖い。

  ただその気持ちだけを感じながら。

  樺山さんとのやり取りは、言葉面だけを見れば普通の会話のようだったが、そこには違和感しか存在しなかった。

  何か焦っているような、余裕のない雰囲気が、樺山さんからは感じられたのだ。

  まるで感情をどこかに置き忘れたような、機械と話しているようなそんな感覚。

  樺山さんは口を動かしてはいるものの、完全に上の空で運転をしているのだ。

  目的地に行くことだけを、そしてそこですることだけを考えて。

  「着いたぞ」

  唐突にそう言うと、樺山さんは大きなマンションの駐車場に車を滑り込ませた。

  「あの、ここ……」

  「いいから、こっちにおいで」

  もう我慢できなくなったのだろう。

  おじさんは僕の身体を抱え上げると、そのまま車から降り、鍵も閉めずにエレベーターへと乗り込んだ。

  「……」

  無言のまま時間が過ぎ、チンっという音とともに扉が開く。

  「行こうか」

  僕の身体を抱えたまま、河馬人は鍵を取り出すと目の前の部屋を開けた。

  そこは、広さのわりに、小さなタンスと大きなベッドしかない、殺風景な部屋だった。

  どさっ。

  僕の身体をベッドの上に落とすと、河馬獣人は何も言わずに僕のズボンをひきちぎる。

  「か、樺山のおじちゃん!」

  「大丈夫、大丈夫だから……」

  僕が恐怖で震えているというのに、おじさんはうわ言のようにそう呟くだけ。

  その目は僕の股間をじっと見つめている。

  そして、わななく口を開いて舌を差し出すと、僕のちんぽをべろり、と舐めた。

  「ひぃっ」

  「気持ちよくしてやるからな。待ってろよ……」

  河馬の口がガバリと開くと、赤く濡れた粘膜がぬちゃりと音を立てる。

  柔らかく温かそうなその様子に、僕はごくりとつばを飲み込んだ。

  「あ……」

  昼間に味わったイソギンチャクのような感触を思い出すだけで、僕のちんぽは硬さを増すのだ。

  はむっ。

  優しく閉じられると同時に、とろけるような快感が僕の股間を包み込む。

  温かさとぬめった感触が僕のちんぽへダイレクトに伝わってくるのだ。

  「ひゃぁぁぁっ♡♡!!」

  僕は思わず叫んでしまう。

  その大きな口はちんぽだけではなく、金玉までも咥え込む。

  興奮した河馬人の口の中は熱くて、心地よかった。

  じゅるっ、じゅるっ。

  そして舌先が、弄ぶように睾丸を舐め回す。

  皮の上から、転がすように舌先を動かすのだ。

  ぐりゅっ、ぐりゅっ。

  「あっ♡、あっ♡!」

  その動きにぐにゅぐにゅと形を変えながら、睾丸は僕に未知の快感を伝えてくる。

  「なにこれぇぇぇっ♡♡!!」

  動くのは舌だけではなかった。

  肉厚な口の粘膜は、大人顔負けの逸物を優しく包み込み、震えるように蠕動した。

  さざ波のようにゆったりと揺れたかと思うと、今度は荒波のように激しく攪拌するのだ。

  その度に、僕の身体は快楽にびくびくと踊ってしまう。

  痙攣してしまうほどに、全身を快感に包まれてしまっているのだ。

  ぐちゅんっ、じゅぽっ、じゅぽっ、じゅるんっ、ぐちゅんっ、ぐりゅっ、ぐりゅっ。

  羽毛で撫でるように、優しく触れた後、吸盤のように吸い付く生温かい粘膜。

  それは吐精を促すマッサージのようだった。

  それをおこなう雄臭いおじさんの顔は淫らに歪んでいて、まるで何かにとりつかれているように見えた。

  

  ぬちゅっ、じゅるっ、じゅるっ、くちゅっ、むちゅっ、じゅちゅっ……。

  「んんんんんっ♡!!」

  そして、徐々に激しさを増していく舌と口の蠢き。

  快楽を与え続けるその熟練した動きに、幼い僕が堪えられるはずなんてなかった。

  「あああああっ♡! なんか……なんか出ちゃうぅぅっ♡!」

  魂を引き抜かれるような感覚に、僕は悲鳴をあげてしまう。

  びゅるっ、びゅるっ!

  ずぞぞぞぞぞぞっ!

  吐き出されると同時に吸い込まれる僕の精液。

  それを嬉しそうに咀嚼すると、おじさんはごくりと呑み込んだ。

  「たまらんなぁ。坊主の子種は、なんでこんなに甘いんだ……」

  恍惚とした表情で自らの股間を揉みしだく河馬人。

  そこは、すでに白く濡れていた。

  ……え、白?

  だが、見慣れない色と匂いに驚きを現す余裕など、僕にはなかった。

  「もっと飲ませてくれよ……」

  まるで発情期にでもなったように顔を真っ赤に火照らせたおじさんは、再び逸物を咥え込む。

  「やだぁぁっ♡♡!」

  逃れようとばたついても、すっぽんのように食らいついた口は、決して離れない。

  大の大人が小さな子供を押さえつけて、その身体をひたすら貪るのだ。

  自分の欲求を満たすためだけに。

  「おじちゃん♡……お願いだからぁ♡……」

  僕の哀願など、獰猛な獣に伝わることはなかった。

  ぐじゅっ、ぐじゅっ……。

  「んぎぃぃぃぃぃぃっ♡♡!!」

  まただ。

  また、イッてしまう。

  嫌なのに、気持ちよさがすべてにおいて勝ってしまう。

  その柔らかい口の感触に僕のちんぽは萎えることを知らない。

  貪欲なおじさんの求めに応じるように、ひたすら吐精し続けることしか出来ない。。

  びゅるっ、びゅるっ!

  ごくごくごく……。

  「あっ♡! あっ♡!」

  どくどく……。

  じゅるっ。

  「……も、もう♡……」

  数えることが出来ないほど精を吐き出し続ける僕の逸物。

  その度に嬉しそうな顔で啜り上げる河馬人。

  いくら唾液と吐き出した精液に包まれているとはいえ、異常なほど執拗な動きに、僕のちんぽは痛みを感じるほどに腫れあがってしまっていた。

  じゅぽんっ。

  「ひぃっ♡!」

  どれだけの間、精を啜り続けられたのか。

  さすがに精も枯れ果てて、疲労困憊のまま立ち上がることも出来ない僕を見て、樺山はにちゃり、と笑った。

  その口の中は、僕の吐き出した精液で紫色に染まっていた。

  「うまかったなぁ」

  口に溜まったザーメンをごくりと飲み込むと、スーツの袖で唇を拭う河馬人。

  拭いきれなかった精液が、ポトリ、と僕の身体へ落ちた。

  「……んん? 坊主のザーメン、おかしな色をしてやがるな」

  「えっ」

  人前でそんな指摘を受けたことのない僕は、驚いたようにおじさんを見上げる。

  「なんだ、知らねえのか? 普通はザーメンなんてのは、白と相場が決まってるもんだ。お前のは紫色をしているじゃねえか」

  「……」

  その時初めて、僕は自分が他の人とは違う存在なのだと認識させられたのだ。

  「……まあいい」

  普通なら、嫌悪感を示してもおかしくないその状態。

  だが、それを何でもない事のように言う樺山の目は、正気を失ったように血走ってしまっていた。

  それはまさに、狂人の目。

  「いっぱい気持ちよくしてやったろう? ……次はわしを気持ちよくしてくれよ」

  優しい口調とは裏腹に、力任せに己の服を引きちぎる樺山のおじさん。

  その股間には、べっとりと白く濡れた長大な逸物が、僕を狙うようにいきり勃っていた。

  「ひぃっ!」

  目の前の雄がまるで知性のないケダモノのように見えて、僕は悲鳴を漏らした。

  腰が抜けて力のない体を必死に動かし、後退りしようとする。

  そんな僕を見つめるおじさんは、完全に捕食者の顔をしていた。

  「や、やめて……」

  「いいから喰わせろ!」

  その怒号と共に、僕の身体は宙に浮き、うつ伏せにベッドに押し付けられる。

  

  「やだっ! ごめんなさい! ごめんなさいぃぃっ!」

  僕は恐怖のあまり、意味もなく謝ることしか出来なかった。

  だがそれすらも、雄を誘う雌の鳴き声に聞こえたのか。

  力任せに僕の身体にのしかかると、河馬人の逸物は、容赦なく僕の肉穴を貫いた。

  ずごんっっ!!

  「ひぎゃぁぁぁぁぁっっ♡♡!!」

  僕は部屋の外まで聞こえてしまいそうな悲鳴をあげるが、おじさんは頓着する様子すら見せなかった。

  それどころか、僕の肉の感触に感嘆の声をあげる。

  「なんだこれは……。ガキのくせに熟れたケツマンなんかしやがって……」

  「やだやだやだぁぁっ♡♡!!」

  僕はもう、泣き叫ぶことしか出来なかった。

  その太い肉杭に貫かれてしまった僕の身体は、串刺しにされてしまったように身動きできなかったから。

  「お前、初めてじゃねえだろ。じゃなきゃ大人の逸物を簡単に咥え込めるわけねえ。 ……坊主。お前うぶな顔して、あちこちで雄の肉棒咥えこんでやがったのか」

  「違う……そんなこと……」

  身に覚えのない事を言われて、僕は必死に否定しようとする。

  だが、おじさんはそんな僕の訴えなど無視して、ひたすら腰を叩き付けるのだ。

  がつんっ、がつんっ、がちゅがちゅがちゅがちゅっ!

  「んああああああああっ♡♡!!」

  「くそっ、名器じゃねえか。入り口は初物みたいに締め付けるのに、中はトロトロだ。襞が竿に絡みつきやがる。こんな具合のいいケツマンコ、味わったことがねえや」

  ごちゅんっ、ばちゅんっ、ぬこっ、ぬこっ、ぬこっ……どちゅんっ!

  「んひぃぃぃぃっ♡♡!!」

  なぜだろう。

  体がひしゃげるほど押さえつけられ、何度も何度も太い肉棒を突き入れられているのに、僕は痛みを感じることがなかった。

  それどころか、僕の身体は快感に打ち震えてしまうのだ。

  ばちゅんっ、がちゅんっ、ぐじゅんぐじゅんぐじゅんっ、がちゅんっ!

  小さな僕の身体が壊れるほどの勢いで、凶悪な肉杭が僕の内臓を穿っていく。

  それでも、その衝撃はただただ気持ちよかった。

  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ♡♡!!」

  快楽をにじませた嬌声を僕はひたすらあげることしか出来ない。

  その激しい抜き差しで、僕に肉壁は赤く腫れて爛れたようになっているはずだ。

  それでも、擦れるたびに湧きおこる快感に、僕は歓喜の声をあげることしかできなかった。

  「んんっ♡! んんっ♡! んんっ♡! んんっ♡!」

  狂ってしまうほどにもたらされる極上の快楽。

  その刺激は、僕の身体を猪獣人から、快楽を貪るためのただの肉穴に変えてしまうのだ。

  雄の蜜を吸い取り蓄えるためだけに存在する、悪魔のような肉穴に。

  「しゅごいぃぃぃ♡♡!!」

  その快感が呼び水となり、僕の肉襞から粘液が漏れ出していく。

  それは河馬人をより狂わせたのだろう。

  ローションのような粘液を吸ったおじさんの肉棒が、より膨れ上がるのがわかったから。

  倍以上に膨らんだ逸物は、スポンジのように柔らかく感じられた。

  「すげぇよ。どんどん気持ちよくなってきやがる……。何だよこの穴……」

  がちゅんっ、ぐじゅりっ、ぐじゅりっ、ぐじゅりっ、ぐじゅりっ!

  「おがじぐなるぅぅぅぅぅっ♡♡!!」

  泣き喚く僕にかまうことなく、ひたすら快楽を貪る河馬人。

  「くそ……イッちまうぅぅぅぅぅぅっっ!!!」

  びゅるるるるるるるるるるるるるるっ!!

  僕の中で、なにかが弾けたのがわかった。。

  ものすごい勢いで吐き出される精液に、僕の腹が満たされていくのがわかる。

  ……ああ。

  僕の身体は、これを望んでいたのだ。

  「んあああああああああっ♡♡!!」

  雄の精に満たされたという事実が、僕の脳を凶悪な快感に浸らせる。

  恐ろしいほどの多幸感が快楽と共に電撃のように全身を貫くのだ。

  それは僕のちっぽけな精神にとってあまりにも強大すぎて。

  

  「駄目だからぁぁぁぁぁっ♡♡!!」

  僕は恐怖のあまり、叫んでしまう。

  だが、ケダモノの欲望はこんなものではおさまらなかった。

  「まだだ。もっと種を出してやる!」

  狂った河馬人は、僕の身体を力任せに押さえ込み、もみくちゃにしながらひたすら腰を叩き付けた。

  己の欲望を満たすため、ただただ腰を振り続ける。

  彼にはもう、何も見えていないし、何も聞こえていないのだろう。

  ただ性を啜る雌穴に己の逸物を突っ込み、雄汁を放つことしか考えられないのだ。

  がつんっ、がつがつがつがつがつがつっ、がちゅん、ぐちゅり、ごちゅん、ぐちゅん、ぐじゅり、ぐじゅっ、ぐじゅっ、ばちゅん、ばちゅん、がつんっ、ぐじゅりっ、ぐじゅぐじゅぐちゅぐちゅ、がつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつっ、がつんっ、がつんっ、がつんっ、じゅちゅじゅちゅじゅちゅじゅちゅっ、じゅるり、ずるり、ずるり、がつんっ、がつんっ、がつんがつんがつんがつんっ、がつがつがつがつがつがつがつがつがつがつがつ!

  びゅるるるるるるるるるるるるるるっ!

  びゅるっ、びゅるっ!

  どりゅりゅりゅりゅりゅりゅっ!

  どくどくどくどく……。

  吐精の瞬間も、その腰は止まることはない。

  逸物を動かしながら雄汁を撃ち出し、雌壁をえぐりながら、漏らした子種をその襞に摺り込んでいく。

  その熱く粘っこい感触を肉襞で感じさせられるだけで、僕はイッてしまうのだ。

  「ひぎゃっ♡! ふぎぃぃっ♡! あんっ♡! んがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♡♡!!」

  幾度となく繰り返される射精。

  それは僕に頭がおかしくなりそうなほどの快感を与え続けるのだ。

  僕はただ、犯されるままその肉棒を受け入れることしかできなかった。

  「やめてぇぇぇぇぇぇっ♡♡!!」

  心は嫌だと言っているに、僕の幼い体は、快楽に狂ってしまっていた。

  その肉穴は熟練の娼婦のように貪欲に快感を求め、肉襞を竿に絡ませて子種をねだり続けてしまうのだ。

  「誰か♡……誰か助けてぇぇ♡……」

  蚊の泣くような声で僕は訴えるが、その声を聞くものは部屋の中にはいなかった。

  「もっと……もっとだ。もう、止まられねぇ……」

  僕も絶頂に押し上げられたまま、快感に身を震わせる。

  枯れたはずの逸物から、再び吐き出される紫色の精液。

  おじさんはそれを掌で掬い取ると、ベロベロと舐め、また腰を振るのだ。

  そんな猟奇じみた極楽のような時間は、突然響いた怒声によって中断されてしまう。

  「動くな、警察だ!」

  部屋になだれ込む屈強な男たち。

  隣の住人から通報があったのだ。

  気の狂った男が、卑猥な言葉を叫びながら無理やり小さい子を凌辱していると。

  確かに訪れた警察官たちには、そう見えたのだろう。

  樺山さんは泣き叫ぶ僕の身体を持ち上げて、まるでオナホのように犯していたのだから。

  この小さい体に己の太長い逸物を突き入れて。

  「その子から離れろ!」

  僕とおじさんは駆け寄ってきた警察官に無理やり引き離される。

  それでも警官に抗う河馬人。

  「離せぇぇぇぇぇぇっ!!」

  押さえつけられながらも暴れるおじさんの目は、ただひたすら僕を見つめていた。

  逮捕されたことに抵抗したのではない。

  彼は僕との交尾を中断されることに抵抗したのだ。

  見ればおじさんの逸物は擦り切れて、ところどころ血が滲んでいた。

  もう正気が残っていないことは、誰が見ても明らかだった。

  その尋常ではない姿に、拘束されたままの河馬人は、薬物の使用を疑われ、救急車で運ばれていった。

  助け出された僕も、別の救急車で病院へ搬送されることになる。

  ◆

  目の前の幼く見える猪人は、驚きを隠せない俺の目の前で、涙ながらに言葉を続ける。

  「その後、僕は警察に、動物園で会ったこと、どんなことをされたのかを説明しました」

  「……」

  「樺山というその河馬人は、ペドフィリアだったようです。情事専用に買ったマンションの一室に、常習的に小児を連れ込んでみだらな行為をしていたんだとか」

  「……」

  「警察は、誘拐と強制猥褻で樺山を逮捕しました。その様子に薬物使用も疑われたようですが、一切の薬物反応が無かったため、それは断念したそうです。ただ、見た目は薬物中毒による状態だったので医療刑務所に送られたと聞きました」

  「……そうか」

  「はい。……樺山には奥さんと子供もいたそうですよ。噂が拡がるのを恐れたんでしょうね、奥さんはすぐに僕に多額の慰謝料を払ってくれました。その後、夫婦は離婚し奥さんは遠くへ引っ越したそうです」

  「……樺山はどうなったんだ」

  「彼はいつまで経っても、狂ったような症状はおさまらずに、ベッドに縛り付けられながらも僕の名前を叫び続けていたんだとか。……きっと、僕のせいなんでしょうね。僕の精液を飲んでしまったから……」

  「……」

  俺には、目の前の幼く見える猪人が嘘を言っているようには見えなかった。

  泣きながらこんな迫真迫った演技を出来る奴はいないだろう。

  しかし、こんなニュースをマスコミが黙って見過ごす事は無い。

  ……なぜそれを耳にした記憶がないのだろう。

  俺は困惑しながら、目の前の男を見つめた。

  そんな俺を見つめ返す幼い猪人。

  見た目はまだ思春期の子供のようなそんな彼が、壮絶な過去をわかって欲しいと、自分に縋ってきているのだ。

  「大変……だったな……」

  俺は立ち上がり、その身体を優しく抱きしめる。

  その心が少しでも癒えればいいと。

  だが。

  「あっ」

  猪人の小さな呟きに、俺は自覚してしまう。

  己の逸物が勃起してしまっていることを。

  ほんの少し舐めただけの紫色の精液が、未だに俺の脳を支配しようとしているのだ。

  摂取してしまったそれが、血流にのって頭へと運ばれて、俺の本能を刺激する。

  

  「くそっ……」

  もうどうしようもないほどに、俺の逸物はいきり勃ってしまっていた。

  再び本能が訴える。

  こいつを犯してしまえと。

  俺が犯しても、きっとこの猪獣人はそれを受け入れてくれるはずだ。

  体が熱くなり、口の中が渇く。

  立ち上がった俺の手は震え、目の前の猪人を求めるように差し出され……。

  「ごめんなさい」

  猪人は、顔をくしゃくしゃに歪めると、その場にしゃがみ込む。

  そして、俺のズボンのジッパーを開けた。

  「お、おい……」

  そして口を開き、俺の逸物を咥え込んだ。

  「大丈夫です。唾液には、麻薬みたいな成分はないから……」

  くぐもった声でそう言いながら、舌と口を使い、俺の逸物を愛撫する猪人。

  すでに昂り切った俺の逸物は、その極上の刺激に堪えることが出来ず。

  「くっ、イグぅっ!」

  押し殺した俺の声が、狭い診察室に響く。

  経験したことのないほどのおびただしい量のザーメンが、猪川の口に放たれる。

  猪人は、それを当たり前のように飲み下した。

  「はぁ、はぁ」

  俺は脱力感に襲われて、すとん、と椅子に腰を下ろす。

  「一度吐精すれば、少し落ち着くと思います。……ごめんなさい。一度でも僕の精液を舐めた人は、僕の身体に抱きつくと発情してしまうみたいで。肌と肌が触れ合うのが良くないんだと思います」

  申し訳なさそうな顔で謝る猪人。

  「そうか。……すまなかった」

  自分の勝手な行為で、俺は目の前の患者を苦しめてしまったのだ。

  「二度と……二度と医者と患者の立場から離れることはしない。もちろん、抱きしめるようなこともしない。だから……安心してくれ」

  「はい……」

  涙を流しながら、俯く猪人。

  きっとこの子は、誰かにすがりたかったのだろう。

  心の拠り所を他者に求めなければならないほど、過酷な人生を歩んでいるのだろうから。

  だが、俺は医者としてそれを受け入れることはできなかった。

  受け入れてしまえば、また新たに彼を悲しませる原因を作ることになるのだから。

  「それで、その樺山と言う奴は未だに入院しているのか?」

  「いえ……亡くなりました。僕の目の前で」

  「……何?」

  この残酷な話に、まだ続きがあるというのか。

  

  「あの……。もう少しだけ……僕の話を聞いてもらってもいいですか?」

  「……あ、ああ」

  そうやって聞かされた内容は、にわかには信じがたいものだった。

  ☆

  あの事件の後、児童養護施設では箝口令が敷かれることになった。

  一緒に暮らす子供たちに、決して聞かせられるような内容ではなかったから。

  僕も、見知らぬ人に簡単についていってはいけないと職員に叱られ、学校の登下校時は、登下校には必ず養護施設の子供複数人と一緒にいる事になった。

  そうして、日々が過ぎていく。

  おぞましい記憶も、日常に紛れ、少しずつ薄れていくものだ。

  それでも僕は、あの河馬人の狂気じみた目だけは忘れることは出来なかった。

  それから1年が経ち。

  僕が6年生になり、あと数か月で卒業と言うその年の暮れに、突然警察官が養護施設にやって来る。

  『なんですって! あの樺山が逃げたっていうんですか!?』

  応接室で職員が大きな声を出すのを、僕は少し離れた廊下の片隅で耳にした。

  ……えっ?樺山って。

  僕は少し気になって、気づかれないように応接室に近づくと、扉を小さく開ける。

  そこでは、施設長と警察官が、険しい顔をして向き合っていた。

  『検査を受けさせるために護送をしていた際、警護官の隙をついて逃げ出したとかで……』

  『そんなこと……』

  大きな声を出すと誰に聞こえるかわからないからだろう。

  先ほどとはうってかわって、施設長は小さな声で呟いた。

  『申し訳ありません。樺山は逃げ出す直前まで晴臣君の名を呼んでいたらしく、またここに姿を現すのではないかと思いまして……』

  『……』

  『もちろん、巡回はさせていただきますし、捜索も行っているので、すぐに見つかるとは思います。ですが、一応注意をしていただければと……』

  『……分かりました。でも、晴臣くんには伝えないようにしてください。あんな無体なことをされて、彼の心の傷は、完全に癒えたわけではないでしょうし』

  『ええ承知しています。』

  

  「……」

  僕は何も言えずに扉を閉めると、こっそりとその場を離れた。

  その時の僕の心の中は、いろんな感情が渦巻いて坩堝のようになっていた。

  河馬人の執着に対する恐怖と、それでもあの時感じさせられた、言いようもないほどの快感。

  そしてなんだろう。

  もう一つ理解できない感情が、心の奥底に小さく潜んでいた。

  どす黒いその感情は、僕自身のものではないようで。

  そこには暗い喜びが秘められているように感じられた。

  ☆

  そして結論から言うと、警察官の予想は的中した。

  冬休みのある日、公園で学校の友達と遊んでいた時の事だ。

  「ちょっとジュース買ってくるね」

  その場を離れる友達を見送っていた僕の目の前が、急に真っ黒になる。

  「えっ!」

  頭から大きな袋をかぶせられたのだ。

  

  そしてそのまま僕の身体は宙に浮き、荷物のように抱えられてどこかに放り込まれてしまう。

  バタン。

  ぶおおおんっ!

  扉が閉まる音と共に、車のエンジンが鳴り響く。

  僕は車に乗せられたのだろう。

  「誰? 誰なの?」

  混乱して袋の中で暴れるが、その袋の生地は分厚く、僕が暴れたぐらいでは破れることもなかった。

  ガタガタと激しく揺れるのは、道が悪いのか運転が乱暴なのか。

  袋に詰められたまま、その衝撃に耐えていると、不意に車が止まった。

  がちゃり。

  扉が開くと同時に、僕の身体は再び宙を浮く。

  どこかに運ばれているのだ。

  「やだっ! 離してよぉ!」

  僕は泣きながら体をばたつかせるが、なんの抵抗にもならなかった。

  そのままどさり、と床に落とされ、袋の口が開かれる。

  そこは、古ぼけたマンションの一室だった。

  壊れた家具などが無造作に置かれたそこは、僕の目にはまるで廃墟のように見える。

  通常の、人が住めるような環境にはとても思えなかった。

  薄暗いなりにも電気は通っているのか。

  チカチカと蛍光灯がまばたきをしていた。

  「……坊主。やっと会えたな」

  そこにいるのは、ぼろぼろのスーツを着たあの樺山だった。

  動物園で見たほがらかだった様子など欠片も存在しない、荒んだ表情の樺山は、怯える僕を見て、にたりと笑った。

  「晴臣……ていうんだってな。おっちゃん、ずっと晴臣に会いたかったんだぞ」

  その目は最後に見た時と同じで、狂気に彩られていて。

  「あ……」

  よだれを垂らしそうなほどに飢えた顔をした巨躯の男を目の当たりにして、幼い僕に出来ることなど何もなかった。

  恐怖で逃げ出すという考えすら、とてもじゃないが頭に浮かばなかったのだ。

  ただ怯えて縮こまる僕を見て、おじさんは満足そうに笑う。

  「また、おっちゃんと気持ちよくなろうなぁ」

  ただ見上げることしか出来ない僕の前で服を脱ぐと、樺山は身に着けていた褌を掴んで、僕に近寄る。

  「ここは解体予定のマンションだから、誰も来ないとは思うがな。こないだみたいに声を出したら、誰か来ないとも限らない……」

  「いやっ……んんんんっ!」

  樺山は褌を丸めると、僕の口に詰め込んで、吐き出せないようにひもで縛る。

  「大丈夫だ。おっちゃんも声が出ないようにするから。……お揃いだなぁ」

  僕の服を剥ぎ取り、全裸にすると、樺山は嬉しそうに僕のブリーフとズボンを口で咥え、自ら紐でぐるぐると縛る。

  声を出せないように。

  ……狂ってる。

  もう、樺山の頭は、正常な意識がなくなってしまっているのだろう。

  ただ延々と快楽を楽しむために、邪魔が入らないことを最優先するには、こうすることが一番だと、狂気の頭で判断したのだ。

  「……」

  お互いに声を出せないまま、樺山は僕を抱えて浴室へ向かう。

  

  「んんっ、んんっ!」

  そこでおこなわれた行為は、まさに凌辱だった。

  僕の尊厳などそこにはない。

  ぐちゅっ、ぐちゅっ。

  タイルの上に押し付けられて、太い指を何本も突っ込み、僕のお尻を乱暴にほぐす。

  まるでオナホの準備をするかのように、機械的な動き。

  それでもなぜか僕の肉穴は、そんな刺激にも敏感に反応してしまうのだ。

  犯されるのが当たり前だと言わんばかりに。

  

  「んんんんっ♡♡!!」

  ほんの少しの刺激で、すでにトロトロになってしまった雌穴は、その指に柔らかく吸い付き、締め付ける。

  

  「……」

  口を縛られたまま歓喜の笑みを浮かべた樺山は僕の体を抑えつけ、その逸物を容赦なく突き立てた。

  ごちゅんっ!

  「っっっ♡♡!!!」

  まるで赤子を抱きしめるように僕の身体を優しく包み込みながらも、激しく腰を打ちつける樺山。

  ばちゅんっ、ごりっ、ごりっ、ごりっ、ぬちゅんっぬちゅん、どちゅんっ、どちゅどちゅどちゅ、じゅりゅんっ、ぐじゅるっ、じゅりじゅりじゅりじゅりっ、ぶっちゅうっ、ごつんっ、ごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりごりっ!

  「んぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ♡♡!!!」

  巨躯の河馬人が全力で叩きつけているというのに、幼い僕の肉穴は壊れることもなかった。

  むしろその肉穴は、嬉しそうに肉杭の猛攻を受け止めて、さわさわと襞をくねらせながら子種を啜ろうと画策するのだ。

  それはもう、僕の意志とはまるで関係のない、独立した生き物のようだった。

  その快感に、樺山は堪えようとはしない。

  ただ心の赴くままに、僕の中でおびただしい量の子種を撃ち込んでいく。

  「んんっ♡! んんっ♡! んんっ♡! んんっ♡」

  どぴゅっ、びゅるっ……びゅるっ、びゅるるるるるるっ……どぽっどぷっ……びゅるるるるるるっ……びゅるるるるるるるるるるるるるるっ!

  樺山は壊れた蛇口のように、何度も何度も精液を放ち続けた。

  僕の腹が膨らんで、はちきれそうになっても、腰を動かし吐精を繰り返すのだ。

  「んぎぃぃぃぃっ♡♡!!」

  僕の頭も完全に快楽に支配されていた。

  荒々しい動きからも、僕の肉襞は余すことなく快楽を拾い上げて、脳へとダイレクトに快感を伝えてしまう。

  未発達な子供の脳はその負荷に堪えることなどでできるはずがないのだ。

  底なし沼にはまってしまうように、ずぶずぶと快楽に呑み込まれ抜け出すことも出来ずに溺れ続ける。

  それほどまでに尋常でない快感は、僕の逸物をこれまでにないほどにいきり勃たせてしまう。

  それはもはや子供の性器とは思えないほどに膨れ上がり、河馬人と同じように何度も射精をしてしまっていた。

  紫色に染まる僕の逸物。

  「……」

  そんな逸物をじっと見つめる河馬人の喉が、ごくりと鳴る。

  目の前のケダモノは、新たな快感を求めることを思いついたのだ。

  

  ぐじゅり!

  「っ♡!」

  彼は僕の肉穴から逸物を引き抜くと、僕の紫色の精液を自らのケツに塗る。

  指先でかき集めては、押し込むように肉穴を掻き回し、またザーメンをすくい上げては同じ動作を繰り返す。

  その変化は僕の精液を呑み込んだ時とは雲泥の差だった。

  肉襞の粘膜から吸収したザーメンのせいか、その顔は赤黒く変色し、まるで全力疾走した後のように息を荒げる河馬人。

  麻薬中毒者のように手は震え、縛ったはずの口からはぼたぼたと涎がこぼれた。

  あの貫禄のあった社長としての姿など、微塵も感じられない。

  僕の前にいるのは、ただの狂った廃人だった。

  樺山は引き攣った形相で、僕の上に跨ると、一気に腰を下ろす。

  ずぶずぶずぶずぶ……。

  何の抵抗もなく、僕の逸物はおじさんの肉穴に呑み込まれていく。

  「……………………っっ♡♡!!!!」

  脳がショートしたように、白目をむいたおじさんは身動きもできないまま、言葉にならない快感に喉を震わせる。

  ただ、無理矢理に詰め込んだブリーフとズボンがその声をすべて吸って、その快感の証は誰にも届かなかった。

  そんな、河馬人が感じている快感を、僕もしっかりと感じ取っていた。

  「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♡♡!!」

  くぐもったあえぎ声が僕の口からほとばしる。

  口を縛られているというのに。

  それほどまでに感じてしまう快感が、そこにはあったのだ。

  灼けつくように熱い肉穴は、媚びへつらうように僕の竿を咥え込むと、決して離れたくないとでもいうように、その肉襞を絡みつかせる。

  そこからもたらされるすさまじい快感に、僕はドロドロと精を溢れさせた。

  「!!!!!」

  中出しされた紫色の蠱惑的な精液は、樺山にさらなる快感を与えてしまう。

  まぶたが引き裂けるほどに目を見開いた男は、僕の小さな体をひしゃげるほどに押し付けて、そのうえで必死に腰を振った。

  それはもはや、人ではなかった。

  ただ快楽を貪るだけの肉の塊。

  

  どぷっ、どぷっ、どるりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅっっ!!!!

  その動きに応えるように、僕もひたすらに精を吐き出し続けた。

  快楽に喘ぎながら、魂を絞り出すように、おぞましい色の液体を河馬人の臓腑へ流し込むのだ。

  ぶちり。

  「んああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ♡♡!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

  あまりにも強大な快感に絶叫したせいだろう。

  唾液まみれのブリーフとズボンが口からこぼれ落ちた。

  大きく開けた河馬人の口が、縛っていた紐を引きちぎってしまったのだ。

  それは部屋中どころかマンション中に響き渡るような咆哮だった。

  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…………」

  だが、その声も長くは続かなかった。

  なぜなら、その口を塞ぐように、喉の内側から僕の逸物が突き出てしまったから。

  

  「へっ?」

  気の抜けたような音が、その口から聞こえてくる。

  ………なんで。

  僕も、目の前の非現実的な光景に、体を強張らせてしまう。

  まるで僕の逸物が伸びて、肉穴から口までを貫通してしまったかのように見えたから。

  ……いや、そうじゃない。

  僕が犯していたのは、獣人ではない何かだった。

  目の前の河馬人は、すでに人としての体をなしてはいなかったのだ。

  胴体や四肢はまるで硫酸を浴びでもしたように溶けさり、なくなってしまっていた。

  浴室のタイルには形をなくした肉が、泥水のように流れ落ちている。

  かろうじて残っているのはその無骨な頭だけ。

  僕の逸物が伸びたわけじゃない。

  身体が溶けて、残った頭が下に落ちて、僕の逸物に貫かれているのだ。

  「ああ……」

  壮絶なその様子に、しかし痛みなど感じていないのだろう。

  恍惚とした表情のまま、河馬人は満面に笑みを浮かべていた。

  それは命を失ってもなお満たされるほどの快楽に包まれているのだ。

  「おじ……さん?」

  虚ろの瞳のまま、樺山は口から生えた強大な逸物を見上げ、舌先で亀頭を愛撫する。

  ぞろり。

  そのぬめった感触に、もう自らの意志とは関係なしに毒々しい色の精液は吐き出す僕の逸物。

  どぴゅっ。

  その紫色のおぞましい液体が宙を舞い、落下して河馬人の顔にかかった瞬間。

  どろり。

  猟奇じみた満面の笑顔のまま、その残像だけを残して……溶けた。

  「あ……あ……」

  僕は目の前で展開された現実とは思えない光景に息を呑むことしか出来なかった。

  「……」

  

  ☆

  ただ固まることしか出来ないぼくは、一体いつまでそのままの状態でいたのだろう。

  そんな僕に語り掛けるように響く声。

  『シャワーで排水に流せ』

  驚いて周りを見回すが、もちろん誰もいない。

  その声は、僕の脳の内側から響いていたのだ。

  『シャワーで溶けた河馬人を排水溝に流せ』

  機械のように繰り返し聞こえる声に、僕は従うことしか出来なかった。

  その声にすがることしか、幼い僕に出来ることはなかったから。

  言われた通りにシャワーを流すと、その崩れ落ちた肉は水に溶けて、排水溝へと流れ落ちていく。

  僕はそれを何の感慨も湧かずにただ眺めていた。

  起きてしまったあまりの現実に、感情がうまく働かなくなってしまっていたのだ。

  その衝撃の大きさは、もう、幼い子供の許容できるレベルではなかったから。

  そうして、浴室から樺山さんの痕跡がなくなると、

  僕は服を身に着けて、ふらふらと夢遊病者のように歩きながらマンションを出た。

  ……ああ、ここ知ってる。

  そこは、普段住んでいる養護施設からはそれほど離れていない場所にある、マンションだったらしい。

  僕は何もなかったかのように、歩いて施設に戻った。

  すでに夜になっていたため、当然のように施設の職員には叱られてしまう。

  なんでこんな遅い時間まで遊んでいたのかと。

  だが。

  誰も河馬人の事を口にしなかった。

  警察が忠告に来て、職員たちもピリピリしていたというのに。

  僕が誘拐されたとは考えはしなかったのだろうか。

  不思議に思って尋ねた僕は、愕然としてしまう。

  なぜなら、誰一人として、河馬人の事を知らなかったから。

  警察から河馬人が逃げ出したことを聞かされた施設長さえも、僕の質問に不思議そうに首を捻るだけだったのだ。

  それだけじゃない、僕が誘拐された事件も、誰も覚えていなかった。

  まるで、そんな男はこの世に初めから存在しなかったかのように。

  ……なんで。

  僕は混乱したまま、自室へ戻りベッドの上に横たわった。

  ……これは夢なんだろうか。

  僕が体験したように思えた事は、ただの白昼夢だったんだろうか。

  『違う』

  再び頭の中に響く声。

  「えっ!」

  僕は思わず体を起こす。

  直接脳に語り掛けてくるその声は、河馬獣人をシャワーで流せと言ったのと同じ声だった。

  『お前の精液で溶けた男共は、水に流し消せば、皆の記憶からも流され消える』

  「……」

  淡々と語られるその言葉を、僕は黙って聞くことしか出来なかった。

  『事実は残るが、誰の記憶からも存在は消えてしまい誰も覚えていない。だから安心して楽しむがいい。一度でもお前の身体を知ってしまえば、男に興味が無いはずの男や子供でさえ、お前のその体液を欲しがるの様になる。そしてお前がどれだけ嫌がっても、相手はお前を求め続け、最後は狂い死ぬのだ』

  「……」

  その言葉を最後に、脳に響く声は聞こえなくなってしまう。

  嬉しそうな笑い声と共に。

  「……なんで。なんで僕だけそんなことに!」

  僕は叫び声をあげてしまう。

  堪えられなかった。

  幼い自分の身体に、あずかり知らない不気味な存在が巣食っているという事を知ってしまったから。

  それは、僕の身体を変えてしまったのだ。

  僕が誰かを好きになっても、幸せは訪れない。

  あの河馬人のように、ひとたび交わってしまえば、相手は僕の身体に狂ったように溺れて、最後には死んで溶けてしまうのだ。

  そしてそれを水に流してしまえば、誰もがその存在を認識することが出来なくなる。

  僕の愛した人は、この世にいなかったことにされてしまうのだ。

  そんな恐ろしい現実を、12歳の僕は突きつけられてしまった。

  「……僕は……化け物になってしまったんだ……」

  ……そんなの、人間じゃない。

  その事実は、子供の僕にはあまりにも辛すぎて。

  言いようのない絶望に泣き叫ぶが、誰も僕を助けてくれることはなかった。

  ◆

  ……そうか。

  目の前の猪人の話を聞いて、俺は思い至る。

  こいつが初めに語っていた、紹介されたという牛人の事を。

  10年面倒を見ていた患者の名前を、牛島輝明という存在を、なぜ俺が忘れてしまったのか。

  きっとその牛人は、この猪人とまぐわったのだろう。

  そして、消えてしまったのだ。

  彼の事を知る、すべての人の記憶と共に。

  おそらく、話にあった河馬人と同じように、猪川の精液に溺れて、ドロドロに溶けてしまったのだ。

  きっとカルテがなければ、俺も思い出すことすらできなかっただろう。

  その牛島という男に、猪川に対する恋愛感情があったのかはわからない。

  いや、あったのだろう。

  だからこそ、こいつに俺の事を紹介したのだろうから。

  だが、もうこの世界には存在していないのだ。

  「……うまくできているな」

  俺は乾いた声で呟く。

  頭の中に響いたというその声が、何を思って彼にそうさせているのかはわからない。

  だが、文字通り体を溶かされ、皆の記憶から消されていけば、たとえ彼が男たちを殺したとしても、疑われることはないのだから。

  猪人は常に守られているのだ。

  そして、その声の目的はきっと、彼に絶望を与えることなのだろう。

  男に惚れたり惚れられたりと何度も繰り返しても、その行きつく先はすべて猪川の愛した男の破滅。

  いくら彼の事を好きになっても、精液やケツから溢れ出る汁の奴隷になり、快楽のあまり狂ってしまう。

  彼ではなく、彼の与えてくれる快楽を好きになってしまうのだ。

  俺はただ悲しそうに俯く猪川を見つめた。

  幼く見える小柄な猪人。

  その見た目通り、きっと彼は甘えたで、ただ自分を愛してくれる男と一緒に過ごしたいだけなのだろう。

  父親のような大きな男に抱きしめられて、頭を撫でて欲しいだけなのだ。

  だが、それは叶うことのない望み。

  彼自身も好きになった男たちをこんな風にしたくはないが、一度たりとも上手く行ったことなどないはずだ。

  もう、自分は呪われ人なのだと諦めるしか無かったのだ。

  それでも、一縷の望みを抱いて、この診療所に来たのだろう。

  ……きっとそれは、解決することなどないのに。

  少なくとも、医療の力で何とかなるようなものではないのだ。

  だが、そんな残酷なことを俺の口からは伝えることは出来なかった。

  「先生、僕はどうすれば……」

  「とりあえず、定期的にうちに通って来い。今は様子を見てみるしかないな。……俺の方でもいろいろと調べてみよう」

  「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」

  気休めにそんなことを言うことしか出来なかったというのに、猪川は再び目に涙を溜めて、俺の手を強く握った。

  すがる相手はあなたしかいないのです、とでもいうように。

  その表情にはかすかに希望の色が見えさえした。

  そうなのだ。

  きっと今、この猪人が頼れる相手は、俺しかいないのだろう。

  肝心の俺は、解決には何の力も持たないというのに。

  

  「なあ、お前そんな状態で、暮らしていけてるのか?」

  俺はごまかすように、関係のない事を口にする。

  「それは大丈夫です。樺山の奥さんから慰謝料もいただきましたし、他の男達も死ぬ間際に僕のたくさんのお金を残してくれたから……」

  聞かされたその金額は、オフィスビルが一棟買えるほどの額だった。

  きっと猪川に溺れた男たちは、その快楽に魅せられて、全てを捧げていったのだろう。

  俺はふと、性交後に雌に喰われる、カマキリの雄の事を思い出した。

  「……そうか、それならひとまず安心だな。これから長丁場になるが何とか頑張ろう」

  

  自分の無力感を噛み殺しながら、俺は平静を装って、そう伝えることしか出来なかった。

  そうして、その日の診察は終わったのだ。

  ☆

  診察を終え外に出ると、日は完全に暮れていて、僕は周りのビル明かりに明るく照らされていた。

  「よかった。いい先生に出会えて……」

  誰も分かってくれなかった僕の事を、理解してくれる先生がいたんだ。

  その事実に、僕の心は軽くなる。

  あの先生なら、きっと僕の身体を治してくれるに違いない。

  そうすれば、僕もまっとうな人間として生きていくことが出来る。

  ……誰かを好きになって、その人とずっと寄り添って生きていけるんだ。

  そんなことを考えながら表通りに出ると、目の前を幸せそうな男2人が通り過ぎていく。

  2人で笑い合いながら、同じ方向を向いて歩いているその男たち。

  きっとこれから2人だけの巣に戻っていくのだろう。

  今まではそんな姿を見せつけられると、ただつらく悲しい気持ちだけが湧きあがってきたのに、その時は違った。

  ……僕だっていつか、そんな日が訪れるんだ。

  優しい年上の人と笑いあって暮らしていける日々が。

  ……いっぱい甘えて、その人に尽くして、僕は生きていくんだ。

  少しだけ温かくなった胸に手を当てると、僕は足取り軽く、その場を後にする。

  それがただの幻想でしかないという事を、その時の僕は知らなかったから。