6話「三匹の贖罪:米山みちるの場合」

  前回までのあらすじ

  闇バイトで知り合い、東京の赤坂で宝石店強盗を働いた菊田貴(きくた たかし)、米山(よねやま)みちる、呉茂夫(くれ しげお)。3人は警察の追跡から逃れるうちに、「卯道(うどう)遺伝子研究所」という施設にたどり着く。卯道遺伝子研究所では、所長の卯道辰夫(うどう たつお)と助手の林藤禎子(りんどう さだこ)が人間から動物に変身する技術を開発していた。卯道は3人に、強盗の時効が成立するまでの10年間、自身が開発した「オーダーメイド変身薬」で動物の姿で過ごすことを提案する。3人は卯道の提案を呑む。

  最初に変身したのは菊田だった。菊田はダルメシアンに変身し、研究所を出た。研究所を出た菊田は、警察犬の養成所に迷い込み、警察犬「ロバート」として調教される。警視庁の刑事、国松時貞(くにまつ ときさだ)とコンビを組んだロバートは、次々と事件を解決し、自らに闇バイトを指示した暴力団幹部「バトラー」を逮捕した。

  一方、熊に変身した呉は、山中の別荘に住み着き、別荘の持ち主を殺めてしまう。人間に危害を加え続けた呉に、ヒグマに変身した卯道は警告した。

  そして、みちるは虎に変身し、途中で出会った虎の群れのリーダー、セルゲイと旅をしていた。

  ...「赤坂闇バイト強盗事件」から相当の年数が過ぎた。500万円の売上金と2億相当の宝石が盗まれた強盗事件は、世間からの注目を浴びた。しかし、犯人は一向に見つからず、世間も次の話題を追い求め、次第に忘れ去られた。事件はほぼ迷宮入りになった。そして、強盗事件の時効である10年が経過した。

  卯道と禎子は、ロバートこと菊田貴に接触し、500万円の売上金と2億円の受け取りを提案する。しかし、菊田は受け取りを拒否し、人間の姿に戻るのも拒絶した。それらは、彼なりの「贖罪」だった。

  今回は、虎に変身した米山みちるの場合を見てみよう。

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  「米山みちるの場合」

  とある山奥。一匹の虎が森を駆けていく。虎は数匹の兎を加えている。やがて、一匹の虎は洞窟に到着する。到着するや否や、洞窟から数匹の虎が顔を出す。大人の虎もいれば、子の虎もいる。

  「帰ってきたぞ!」虎は声をかける。虎の正体はセルゲイだった。

  一方、みちるは洞窟の中で夢を見ていた。自分がまだ、人間だった時。そして、卯道という男が作った薬で、人間の姿を捨て、虎の姿に変わっていく様子を。

  黄色の毛と黒縞の毛が生えた腕や脚は太く、筋肉質なものになる。足裏を見ると、肉球が形成され、足が厚くなる。指同士が太くなり密着し、爪は鋭いものに変わる。手のひらにも肉球が形成され、肉食獣のものに変わっていく。

  胸や腹部には白い毛、背中やその他には黄色い毛が生え始める。そして、白い毛と黄色い毛には、黒いストライプの毛で覆われる。細かったみちるの身体は、筋肉質なものに変化する。両足、いや、後ろ足の踵が上がり、二足歩行が困難になる。

  首周りには、白い毛と黒い縞がふさふさと覆い、文字通りの毛皮のコートになる。

  そして顔の変身が始まった。耳は頭頂部に移動し、三角形から半円形になる。半円形になった耳は、外側は黒い毛で覆われ、内側は白い毛で覆われる。長い髪の毛は地面に落下するか、体内に収れんされる。頭頂部は首と同じく、黄色と黒縞の毛で覆いつくされる。

  「ううっ、うぐぅ、うぐぐぅ..」変化が進むにつれ、虎の鳴き声も混じっている。鼻筋は隆起し、茶色の毛で覆われる。鼻はピンク色に代わり、三角形からT字型になり、顎とともに前へ前へと突き出る。だらしなく開いた口の中では、鋭い牙が生える。鼻の下と口には白い毛と黒縞の毛が覆う。頬の辺りも膨らみ、まるでニンニクのようだ。頬の辺りには白い毛、それ以外には黄色い毛と黒縞の毛で覆われ、たてがみが形成される。鼻の周りには、白い毛がピーンと生えた。

  「ぐるる、ぐるる」声帯も虎と同じものになった。みちるは二本足で立つ虎から、前かがみになり、4つんばいになる。尻には黄色い毛と黒縞の尻尾がするすると生える。体格は人間の頃より、格段に大きくなった。

  それから、セルゲイと出会い、一緒に旅をした。セルゲイやほかの虎との出会いを通じ、狩りや虎としての生活を学んだ。そして、子供も産んだ。名は「コタロー」にした。漢字にすれば「虎太郎」に変換できる。すっかり、虎として順応した。

  ただ、最近、あの卯道とまた会えるかもしれないと何となく思うようになった。

  「みちるー!。兎を捕ってきたよ!」セルゲイが洞窟の中に入り、呼びかける。

  「ごめん、今行く!」ま、気のせいかもしれないけど

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  みちるが虎になってから10年。みちるはセルゲイに次ぐ虎のリーダー的存在になった。しかし、出会った時には7匹いた虎たちも、今ではみちる、セルゲイ、コタローを除くと、ボリスとナターリアの2匹だけだった。ボリスとナターリアはセルゲイが子供の頃からいた、古参とも言える虎だった。亡くなった虎の亡骸は、山の奥深くに隠した。

  そんなある日

  「父さん、昨日狩りに出かけたらね、目の前に白い光が出たんだよ」コタローはセルゲイに語り掛ける

  「白い光?」セルゲイは訝しむ

  「うん、僕が動いたら光ったんだ」コタローは答える

  「まさか、人間の仕業じゃないかしら」みちるが答える

  「人間の仕業?」セルゲイとコタローは口をそろえる

  「うん、動物が動くと作動して写真を撮るのよ」

  「でも、肉とかは無かったよ」コタローは答える。

  「たとえ、肉や餌が無かったとしても、私たちがどこに住んでいるかを突き止められるわ」

  「人間に詳しいみちるの言うことだ。とにかく、これからしばらくは、あそこに近づくのを控えよう」セルゲイは皆の前で宣言した。

  数日後

  ボリスは獲物を探しに森を探索していた。そんなところ、目の前に鹿の死骸が置かれていた。

  「今日はついてるな」ボリスは思わず声を上げる。ボリスは口で鹿を引っ張ろうとすると

  「カシャ!」と白い光が点滅する

  「な、なんだ!?」ボリスは混乱し、逃げようとする。すると

  「パーン!」と銃声が鳴り響き、弾がボリスの背中に当たる。

  「グワァァァ!」ボリスが悲鳴が混じった雄たけびを上げる。

  「お父さん!ボリスの悲鳴がする!」最初に気づいたのはコタローだった。

  「まさか、この前の謎の光か!みちる、行くぞ!」セルゲイとみちるは駆けつける。

  「グゥゥゥ...」背中を撃たれたボリスは簡単に動けない。草むらから2人のハンターが出てくる

  「まさか、日本に野生の虎がいたとはね」女性のハンターが顔を出す。

  「これをマスコミに売るなり、地元の猟友会に売るなり、俺たちは有名になれるぜ。しかも、外来種だから殺しても誰も責めやしない」もう一人のハンターが答える

  「グワゥゥゥ...」ボリスがにらみつけるも無力だった。

  「ガルルルル!」セルゲイが駆けつけ、ハンターたちを威嚇する。ハンターは空砲を撃ち、セルゲイ達を威嚇する

  「まさか、他にも虎がいたとは!」ハンターは興奮している。

  「まとめてやっちまいな!」

  その時だった。背後から矢が飛び、女性のハンターが倒れる。もう一人のハンターも、矢で撃たれ、地面に倒れる。

  「ガルルゥ?(何が起こった?)」セルゲイは唐突な展開に驚きを隠せない。

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  一方、その頃

  「米山みちる、話がある」みちるの語り掛ける声がする。すると一匹の虎が茂みから出てくる。

  「米山みちる、私を覚えているか?」

  「まさか、卯道所長...」みちるは虎の正体が分かった。

  数時間前、卯道は虎の変身薬を飲んだ。腹部には白い毛と黒縞の毛、それ以外には黄色い毛と黒縞の毛で覆われる。太くなった腕や脚が黄色い毛と黒縞で覆われる。首周りには、マフラーのように白い毛がもさもさと生えそろう。手のひらは厚くなり、肉球が形成される。指がぶくぶくと太くなり、互いに密着する一方、爪は鋭いものになる。

  顔の変化も始まる。頬が白い毛と黒い縞で覆われ、たてがみが形成される。一方、それ以外は、黄色い毛と黒縞の毛で覆われる。鼻と顎が一体となり前へ前へと突き出る。鼻はピンク色になり、三角形からT字型に変化する。目の色も白黒から黄金になる。髪の毛は首と同じく、黄色い毛と黒縞に置き換わり、髪の毛は収れんされる。耳は、半円形になり、頭頂部に移動する。

  顔の変化が終わると、次第に前かがみになり、踵も曲がる。やがて大きくなった身体を支えるため手をつく。そして、臀部から黄色い毛と黒縞の尻尾がするすると伸びた。

  「もうあの事件から10年経った。約束通り、500万円の売上金と2億円相当の宝石を受け取る権利には君にはある。どうだ、受け取る気はあるか?」

  「もう10年経ったんですか...あっという間ですね」みちるは時の速さに驚きを隠せない

  「ちなみに、菊田君は受け取りを拒否した。残るは米山君と呉君だけじゃ」

  「私は...受け取りを拒否します」みちるは答える。

  「なぜじゃ?」

  「私は既に虎として長く生きています。今さら人間に戻るなんてできません」

  「虎として生きてきた時間が長いから人間には戻れないのか。売上金と宝石を失ってもか?」

  「私には、夫のセルゲイ、子供のコタロー、そして仲間がいます。これはお金では決して手に入れられません」

  「そうか。米山君も受け取りを拒否するか」

  「ただ、一つだけ条件があります。私たちを安全な場所に移してください。国外でも、動物園でも、サファリパークでも構いません。このままでは、いつか人間に見つかり、最悪駆除されるかもしれません」

  「うむ、探してみる。その時が来たらまた来る」

  みちるが卯道と話している一方、ボリスが撃たれた森では、一人の女性が虎に手当をしていた。禎子だった。禎子はボリスの足に包帯を巻いた。

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  しばらくして、セルゲイ、みちる、コタロー、ボリス、ナターリアはとある動物園に引き取られた。

  「まさかもう一度、動物園暮らしになるとはな」セルゲイはつぶやく

  「今度の動物園はしっかりしているんだろうね?」ナターリアは疑問に思っている

  「大丈夫よ。ここは飼育環境が整っているんだから」みちるは返す

  みちるたちがいる動物園は、自然公園と隣接しており、なるべく自然環境に近い形で飼育されていた。

  「ここなら、人間に撃たれることもないなぁ」ボリスはつぶやく

  そんな4匹を遠くから卯道と禎子が見守っている。

  「米山みちるにとっては500万円の売上金と2億円の宝石以上の価値があったんですね」禎子は問いかける。

  「ああ、彼女にとって、誰かから信頼されたこと、そして家庭を持てたのは喜ばしい出来事だったんだろう」卯道はそう返す。

  「後は、呉茂夫だけですね。あの人は受取人が自分だけと知ったら狂喜乱舞しますよ」

  「狂喜乱舞した後、何が待っているんだろうな」卯道は神妙な笑みを浮かべた

  次回に続く