眠ると夢の中にピンク色の兎が現れることが時々ある。
どピンク色の兎、始めて会った時はその色に「うわぁ、派手派手じゃん」と思ったが、今では相棒のように可愛く見える。否、もしかしたら相棒なのかもしれないと何度も思ったが、相棒よりも可愛い。見た目もだが、性格が可愛い。相棒がツンツンしていた頃から、兎は素直だった。
兎と初めて会った日のことはあまり覚えていない。
普通にTOPMAGに勤めていた頃で、普通に仕事して、普通に帰ってきて、普通に風呂に入って、普通に酒飲んで、普通に寝た、そんな夜。
夢の中で、ピンク色の兎は金色の光を纏って現れた。
「こんばんは、おじさん。いい夜ですね」
ちょこんと現れ、ぴょこんとお辞儀した。四足は地に着いた状態で、頭だけがぴょこんと上下に動いた。
「へ? あぁ……こんばんは」
そんな返しをしたら、兎はにこりと笑って「おじさんワイルドタイガーですよね?」と切り出してきた。
肯定した後は、もう兎の独壇場だ。ワイルドタイガーを褒めて褒めて褒めちぎった。
ワイルドタイガーが如何にみんなに希望を与えてくれるか、ワイルドタイガーがテレビに映るだけで元気になれる。ワイルドタイガーが物を壊す度にその賠償金を払ってあげたいと思っている。ワイルドタイガーは真っ直ぐに物事に当たるから、自分も見習って真っ直ぐに生きたい。
自分が如何にワイルドタイガーを好きで好きで溜まらないかと主張し続けていた。
朝を迎え、目覚めて、一体あの兎は何だったのかと思ったが、所詮夢の話。着替えて、簡単に作った朝食を食べる頃にはすっかり忘れ去っていた。
その数日後、バーナビー・ブルックスJr.と出会い、そして、また夢の中に兎は現れた。
「ごめんなさい」
再会した兎の一番初めの言葉は謝罪だった。
「おじさんのこと、嫌いじゃないです。寧ろ好きです。好きで好きで溜まらないんです。古臭いなんて、少し……いえ、かなり思っていますけど、おじさんのことは好きです。あの昔のKOHを真似たコスチュームなんか、おじさん着てほしくないんです。人は同じような服を着ることをコスプレっていうんでしたっけ? おじさんにコスプレなんて……してほしいけど、そんなの大勢の人に見せるようなものじゃありません。だから、古臭いというか……」
何が言いたいのか分からないうちに朝を迎え、目覚めの一番にポリポリと頭を掻いている間に、兎のことはさっぱりきれいに忘れてしまった。
その後、ヒーロー事業部撤退・会社移籍などが重なって、兎のことを思い出すことはなくなる、はずだった。
だが、兎はその後も度々現れた。
大抵はバーナビーと衝突したとき、まるで言い訳をするかのように現れて、結局言い訳ばかりで何が言いたいのか分からないまま、朝を迎えて夢から覚めるのがパターンだった。
兎は、ワイルドタイガー大好き、誤解されたくない、素直じゃなくてごめんなさいとずっと訴えていた。
なんとなく「相棒=兎」じゃないかと思っていたが、兎と相棒が完全に重なったのはジェイク戦の後だった。
其の頃から、夢の兎と相棒の言動が一致し始めた。夢の兎の方が、若干大げさな表現をすることが多かったけれど。
そして……マーベリック事件の時、夢の兎はずっと謝り続けていた。
「忘れてしまってごめんなさい」
「冤罪を信じてしまってごめんなさい」
「好きになってごめんなさい」
「相棒になってごめんなさい」
「僕を……嫌いにならないでください」
だから……闘うことができた。
ヒーロー引退後、バーナビーとの交流は少なくなった。
だが、兎は毎日のように夢に現れ、今いる場所やどんなことがあったか、どんなことを思ったか逐一報告してくれていた。それが実際に相棒のものだということは、時折くる相棒からのメールや手紙を見れば疑いようがなかった。
だから、再会する直前、相棒がシュテルンビルトにいることは知っていたが、まさかヒーローに舞い戻り、いの一番にお姫様抱っこをされるとは思っていなかった。
兎は良くも悪くも素直だった。
バーナビーが何かしらのサプライズをしようとしても、それをばらしてしまうくらい素直すぎた。
けれど、今日見た夢はよく分からなかった。
「貴方と家族になりたいんです。だから……」
それだけ言って、赤い身体を更に赤くして去って行った。
「だから……何?」
今日は休みだっていうのに、兎が変なことを言うのですっかり目が覚めてしまった。仕方がないので、起きて、朝も早いからどこかに出かけようかと思っていると誰かの来訪を告げるチャイムが鳴り響いた。
ピンポーン……
――それは、兎が言えなかったことの答え。
End.