【T&B】ガキLOVE乙女

  パソコンでメールを開いて、虎徹は感嘆のため息を付いた。

  「今日もすげぇなぁ……」

  起動したメールの新着は千通を超えていた。スクロールしてもスクロールしても、見渡す限り新着メール。前回メールソフトを閉じるときに全部既読にしたにも関わらず、一週間もたっていないのに、サーバが心配になるほど、メールは送られてくる。今、虎徹が見ている間にも、数件受信したのだろう。まだ一件も目を通していないのに、メールは続々と増えている。

  「パンパねぇなぁ……」

  呟きながら、虎徹はこのメールが全てはがきや手紙で着ていたらと想像してしまい、嬉しいような恐ろしいような気がして、ぶるりと体を震わせた。

  このメールソフトに送られてくるメールは全てタイガー&バーナビーがパーソナリティを務めるラジオの視聴者からの投稿だった。ラジオスタッフが一度目を通したものを、タイガー&バーナビーのパソコンメールにも転送してくれていた。スタッフが安全と判断したものだけが転送されるのだが、それでも量は多く、自分たちが普段使っているメールアドレスの方に転送されると業務に支障があるため、別アカウントで別のメールソフトを使っているので、時間があるときに、一気に目を通している。時折、自分たちがいいなと思ったものをスタッフに頼み込んで、差し替えてもらっていることもある。

  「虎徹さん、目ぼしいメールありましたか?」

  「まだ一件も読んでねぇよ」

  バーナビーが尋ねながら、虎徹の見ているパソコンを覗き込んでくるので、虎徹は相棒が見やすいように体を少し横にずらした。

  「今週もたくさん来ていますね」

  バーナビーもメールの新着を見て、虎徹と異口同音の感想を漏らす。

  「これでは選ぶのに時間が掛ってしまいますね」

  「だな」

  「今週は事件などで忙しくて目を通している時間がありませんでしたからね……」

  「あぁ。なんだっけ? ひったくりに、銀行強盗、ハイジャックに痴漢だっけ?」

  「それと、万引きと窃盗もありましたね……二部ヒーローとはいえ、一部のヒーローの手伝いもありましたから、今週は本当に大変でしたね」

  「ホント。おじさんだから体がつれぇ……」

  「大丈夫です、若い僕でも少し体調不良です。虎徹さんは十分に若いと思いますよ、体が」

  「はいはいっと。時間がねぇから、今日はスタッフさんが選んだもんにしこうぜ」

  虎徹がパソコンから目を離して、バーナビーを見上げる。

  「そうですね。残念ながらもうすぐ収録が始まってしまいますから目を通している時間がなさそうです。今回は僕たちが選んだものではなく、スタッフさんが選んだものを使わせてもらいましょう。そろそろ時間ですね。行きますよ、虎徹さん」

  「はいよ。ちょっと待っててくいれよ、バニーちゃん」

  バーナビーに促され、虎徹はメールソフトを落とし、パソコンをシャットダウンさせながら立ち上がる。

  「しっかし、時代は変わったよなぁ」

  パソコンが終了処理をされている画面を見ながら、虎徹はふと思い出したように呟き、バーナビーが訝しげに虎徹を見る。

  視線に気が付いたのか、虎徹はバーナビーに苦笑いを返した。

  「いや、俺……というか、俺たちが新人の頃、認知度を上げるためにラジオのパーソナリティをしたことがあったんだわ。まぁ、新人ヒーローが一度は通る道ってやつ? 今思うと乗せられたって思うけどさ、当時のプロデューサさんに『突然現れてヒーローだって言っても信用されないだろ? だから、ラジオでしっかり自分はヒーローだってアピールしろ』って言われてさ。俺、必死にアピールしたんだけど……」

  言葉尻が徐々に小さくなってく虎徹に、バーナビーは何となく事情を察したが何も言わずにいた。

  下手につつけば、藪から蛇ではないが、虎徹の心の傷を抉ることになりかねない。

  「まぁ、初めの頃は結構な量の手紙が来てたんだけどさ。だんだん目に見えるくらい少なくなっちゃって、最後には悪意とか中傷ばっかで、俺結構凹んでさ。けどそんな手紙な中にいつも手紙をくれる常連さんがいてくれてな。いつだって温かいメッセージくれたから、すっごく励まされた」

  虎徹がバーナビーに笑いかける。

  「あの頃は、手紙だったどさ、今はメールじゃん? 手紙には手書きの優しさってやつがあってさ、今はそれがあんまり感じられなくて、ちょっと寂しいなぁって……」

  パソコンのモニタをポンポンと叩き、虎徹は目を細める。

  「今も俺の活躍見ててくれるかなぁ、餓鬼LOVE乙女さんと、夫婦栗馬鹿さん……」

  大事そうに口にするのは、ラジオネームらしき名前。

  ラジオネームなので、脈略も何もなくてもおかしくはなかったが、バーナビーはある法則に気が付いた。

  「虎徹さん……」

  「ん? 何、バニー?」

  「夫婦って、他に読み方ありますか?」

  何らかの意図をもって聞いてくるバーナビーに、虎徹は疑問を持ちながらも「夫婦は夫婦だろ?」と答えた後、ふと「夫婦漫才」という言葉が浮かんだ。

  「えっと、メオト?」

  あまり使わない言葉故に、疑問という形になってしまった虎徹の答えに、バーナビーは微笑んだ。

  「今でも貴方を見守っていてくれます、絶対に」

  バーナビーは確信をもって、虎徹に断言した。

  「へ? なんで? だって、もう十年以上前のことだぜ? 今頃別のヒーローのファンになっちゃってるかもしれないじゃん」

  虎徹の答えに、バーナビーは少しばかりムッとしてしまう。

  「貴方は奥さんの愛を疑ったことがあるんですか?」

  「へ?」

  バーナビーの問いに、ハトが豆鉄砲をくらったかのような表情を浮かべた後、何を言われたのか理解した虎徹が怒りの露わにした。

  「んなわけあるかっ! 友恵ちゃんと俺は神様の前で永遠を誓い合ってんだよ」

  怒る虎徹を前に、バーナビーがふっと笑う。

  「なら、餓鬼LOVE乙女さんのことも、メオトグリバカさんのことも信じてあげてください。ほら、時間になりましたよ。行きますよ、おじさん」

  バーナビーは強引に話題を切り上げてしまう。

  「え? ちょ、ちょっと待てよ」

  怒りを削がれ、納得できないものがあるにはあるが、とっとと先に行ってしまうバーナビーにおいて行かれるのは困る。

  「待てよ、一緒に行こうぜ、バニーちゃん」

  慌てて後ろから追いかけてくる虎徹の気配にバーナビーは微笑む。

  そして、その相棒を愛した女性に思いをはせる。

  餓鬼ラブ乙女=GAKIRABU OTOME→KABURAGI TOMOE

  夫婦栗馬鹿=MEOTO GURIBAKA→TOMOE KABURAGI

  一人のヒーローを愛した女性を。

  End.