ドラゴニック

  人もまばらな田舎町。

  帰省者以外では見知った顔ばかりのそこ、若者たちは振り袖姿で、初もうでに向かったりしている。

  そんな若者たちに、影を落とすものが一つ、いや、一体。

  「…えっ?」

  でかい、あまりにもでかい何か、真っ赤な姿をし、角を生やし、牙をのぞかせる口を持つ。

  翼も生えているそれは、誰がどう見ても分かる存在であった。

  「これって、ドラゴン?」

  「すごいなー、何かの撮影かな?」

  ざわざわする若者たち、だがそれは、撮影用とか宣伝用の張りぼてではなかった。

  まばたきをし、口からはダラダラ涎をたらし、きょろきょろと辺りをうかがっているのである。

  そして、誰もが耳を押さえるほどの咆哮を上げ、人々へと襲い掛かるのであった。

  そのたくましい腕で女性を鷲摑みにしてしまうと、そのまま口へと放り込み、ごくりと音を立てて飲み干してしまう。

  一瞬の出来事に、誰もが悲鳴を上げる余裕なく、逃げ出そうとするのであった。

  そんな人々に、ドラゴンは襲い掛かっていく。

  車をぺしゃんこに踏みつぶし、吐く炎は建物をあっという間に火だるまに変えていく。

  そして、逃げる人間を次々と捕らえて、その口内へと放り込むのであった。

  そうやって田舎町の一角は、燃え盛る炎の音を除いて、静かとなっていた。

  ドラゴンはそれらを眺め、そして翼をはためかせて、空を飛んでいく。

  新たな獲物を求めて。

  [newpage]

  ドラゴンが現れたらどうなるのか、それは大混乱である。

  その体長はビルよりも大きく、その重量はトラックよりもはるかに重い。

  そんなのを発見し、一応は警察やら自衛隊やらが向かったのだが、そんなのと勝負になるはずもなく、壊滅させられるのだった。

  そして生き残ったそれらもまた、ドラゴンの腹の中へと収まった。

  戦力が無くなれば、次は逃げ遅れた人々が犠牲となる。

  建物を破壊し、人々を発見するや否や、続々と飲み込んでいくのだ。

  「いやっ、いや~!」

  振り袖姿の女性が一人、おしっこを漏らしながらドラゴンに丸呑みされていく。

  ごくっと音を立てて腹へと収まり、悲鳴は消えていった。

  女子供を、男性を、いろいろな人間を飲み込んでいくドラゴン、なすすべはない。

  そうしてぽっこりと腹を膨らませ、ドラゴンはどこかへと飛び去るのであった。

  田舎町3つを焦土にし、数千の被害を出して。

  [newpage]

  ドラゴンが田舎町を襲っている、帰省している多くの人を巻き添えにして。

  ただ破壊と殺戮を楽しんでいる、かと思いきやそうでもなく、なぜか人間ばかりを襲うのであった。

  有識者会議が行われても、ドラゴンの生態なんて知るはずもなく、会議は平行線の一途をたどる。

  幸いにも都市部にはやってこなかったため、ドラゴンの脅威は人々に爪痕を残して、やがて静かになっていくのであった。

  時折、SNSにドラゴンの画像が上がることもあったが、その撮影者もドラゴンのお腹に収まることとなり、ますます事件は詳細不明となっていく。

  そもそもドラゴンはいたのだろうか、と。

  ドラゴンの目撃情報こそあれども、実体がないのである、なので、都心の人々からしたら、何が何だかさっぱりなのだ。

  なぜドラゴンは都心に来なかったのか、それは不明であった。

  ただ、おかげで犠牲者数は数千で済んだ、ともいえる。

  もしも都心にやってきたら、都心は破壊しつくされ、より多くの犠牲が出ていたことだろう。

  そういう意味では、ドラゴンの動向は、幸いであったと言える。

  [newpage]

  人もいなくなったとある地方、とある山岳地帯。

  そこにドラゴンの姿はあった。

  ドラゴンはじっとしていて動かない、ただ時折、お腹を撫でるくらいである。

  「(え、私たち、どうなって…?)」

  お腹の中には数千の人間の、人間だった姿があった。

  お腹の中では、人間たちは消化吸収されることもなく、ただただ真っ白な液体に浸されていた。

  悪臭漂うそこにて、人々は続々と、体を白い液体に包まれて、変わっていくのであった。

  「(え、私、卵にされちゃうの?)」

  白い液体が体中に付着して塊となり、そしてそれに体が覆われていく。

  その恐怖と言ったら一言で表せるものではなく、徹底的にもがくものの、それも無駄であった。

  そうやって人が皆、卵となるころに、ドラゴンは山岳地帯にて、手をついて力むのである。

  すると、ぽこん、ぽこんっと、産卵が始まったのであった。

  産卵は一度、二度ではなく幾度かに分けられて行われ、そうして卵の山が形成されていく。

  それら卵は色とりどりであった、どれもかつての振袖などの衣装の柄模様が、卵の柄模様となっていたのである。

  そうやって何日もかけて、ドラゴンは産卵を終えると、その横で眠りにつくのであった。

  いくつもの卵は、寒空に産みたてゆえに、熱気を放っていた。

  [newpage]

  ドラゴン騒ぎから実に3か月、ドラゴンの実態こそ衛星カメラで分かってはいるものの、どうすることもできない政府。

  近くによることもできず、ただただ遠目で見ることしかできないでいた。

  一定まで近づくと、ドラゴンに襲われてしまうからである。

  ドラゴンは火を吹き怒り心頭であった、それこそ繁殖期のメスの動物のように。

  そうやって追い返される人々は、ただただ見守るばかり。

  超望遠カメラにてドラゴンを観察していた研究者は、あることに気が付く。

  「卵、割れてるぞ…」

  そう、たくさんの卵の一部が、割れだしたのである。

  色とりどりの卵を割って、顔を出してくるのは、色とりどりの赤ちゃんドラゴンたち。

  いずれも人間大のサイズであり、かわいらしくもある、だが目をぎょろぎょろさせるあたりは、恐怖であった。

  そうやって卵はいくつも割れて、ドラゴンは生まれてくる。

  新たに生まれたドラゴンを、長い舌で舐めてあやすドラゴン、その姿は子と母親にしか見えない。

  生まれてくるドラゴンもいれば、生まれてこないドラゴンもいた、紺色だとか迷彩柄の卵とかは、生まれることなく、そのままであった。

  すると、生まれたドラゴンは、割れない卵を自らの手で一部を割ると、その黄身を食べだしたのである。

  ぺちゃり、にちゃりと音を立てながらも卵を食べる子供たち。

  そして、それらに向けて自らの胸を差し出すと、ぎゅっと握りしめるドラゴン。

  すると、ミルクがシャワーのように吹き出し、赤ちゃんドラゴンたちに降りかかるのであった。

  栄養たっぷりのドラゴンミルク、ドラゴンの卵を摂取し、赤ちゃんたちはすくすくと育っていく。

  そして、それらが丸くなって寝静まるころ、親のドラゴンも寝息を立てて、寝てしまうのだった。

  [newpage]

  赤ちゃんドラゴンはみな、かつて人間だったものである。

  ドラゴンに丸呑みされ、卵にされて、そして産卵された後、生まれてきたのだ。

  人間だったころの記憶も姿もなく、あるのはただ、ドラゴンとしての本能だけである。

  ドラゴンたちはさらに3か月をかけてすくすくと育っていくと、じゃれあいの中で戦うすべを身に着けて、そして飛び出すさらに半年後には、あちらこちらへと散らばっていく。

  巣立ちをし、そしてまた被害が拡大していくのである。

  新たに生まれたドラゴンもまた、親のドラゴンのように人間を丸呑みして、卵にして産卵ができるのだ。

  そうしていよいよ都心にもドラゴンが現れ、人々はパニック状態に。

  ゲームのようにドラゴンを倒すすべなんてなく、次々飲み込まれては卵になっていく。

  これらの卵もまた、1年後には立派なドラゴンとなって生育するだろう。

  そうして世界中に飛び立ち、新たな被害を拡大させていくのだ。

  そうやって世界中がドラゴンの楽園になるまで。