9話 右手乗っ取りセルフ口淫 バルティゴ鉄道乗っ取り事件 6
イチは車掌に連れられて一等貨物車に連れて行かれた。
それまでにも一等車の乗客たちの視線を痛いほど浴びてすっかりと心が萎えてしまっている。
イチは手錠をかけられたまま鉄格子に囲まれた檻に入れられてしまった。
一等貨物車は高級品や手紙、重要な魔道具などを運ぶための車両でたとい列車強盗の襲撃にあったとしても優先的に貨物を守れるよう、先頭の機関車両の直前に編成されている。
これは、いざとなったら一等車から先の連結部を切り離し乗客と貨物を守るための工夫だった。
「しばらくそこで辛抱しているんだ。次の駅に着くまでに対策を考えておく」
そう言う車掌だが、この状況を作り出したのは彼にも責任がある。それを考えるとこの対応は酷い。
「おいおい! 私をひとりにするつもりか?」
「仕方ないだろう。見張りに割く人員はないんだ。手錠をかけているんだから右腕のそいつも好き勝手できんだろ」
「しかし……」
イチは右腕のテオドールを気にしたが、テオドールは先ほどと打って変わって大人しい。
しかしだからと言ってテオドールが無害になったと判断したのは車掌の早計であろう。
「後で様子を見に来てやるから、少し辛抱していなさい」
車掌はそう言い残すとイチを置き去りにして行ってしまった。
「へへへ。やっと二人きりになれたな」
テオドールはこのタイミングを待っていたのだろう。生理的嫌悪感を催すような笑い声を出した。
「しかし、お前もこのままどこにも行けないぞ。これが狙い通りなのか?」
「なに、手導権はこっちが握ってるんだ。どうにでもなるさ」
そう言うとテオドールは一度イチのコートのポケットに潜り込み、次に頭を出した瞬間には小さな鍵を手にしていた。
「おまえ!?」
「へへへ、お前の右手の正確さは俺が保証してやる。こんなに上手く行くなんて思ってなかったぜ」
テオドールは無暗やたらに暴れていたのではなく、どさくさに紛れて車掌から手錠の鍵を盗んでいたのだ。
イチの右手の正確さに上乗せされたテオドールには楽な芸当だったのだろう。
「し、しかし、牢の鍵がないんじゃ結局同じことじゃないか」
事実、テオドールが盗み取ったのは手錠の鍵だけで牢から出られない事に変わりはない。
だがテオドールの思惑は別のところにあるようであった。
「どのみち、次の駅で降ろされるんだ。それまでにお前を屈服させてやる」
「屈服だと?」
「まずはキスからはじめようか。たっぷり濃厚にな」
そう言うとイチの右腕に乗り移ったテオドールはイチの口元めがけて突っ込んできた。
「くっ____やめろッ!」
イチは右腕の暴走を止めようと左手で払いのけようとするが無駄な抵抗である。右手のテオドールは左手の制止をものともせずイチの唇に接触し、その柔らかな門をこじ開けようと力を籠める。
「むぐッ___! んむうううううううう!! ん″ん″ん″ん″ん″ん″ん″ん″ん″ッッッッッッ!!!」
イチはテオドールの侵入を防ごうと必死に顎に力を籠め抵抗した。イチの咬合力は強靭で、無理やり開こうとしても相当の苦労を要する。
「強情を張るな。抵抗するなら苦しくなるぜ」
テオドールはイチの口が開かないと見ると、鼻に手を伸ばして呼吸を封じる。
このままでは酸素を得る為には口を開くしかない。
しかし、それはテオドールの口腔への侵入を許すのと同意義であった。
「むっ……………んっ………………………………………………はっ、______おごっ!」
限界まで呼吸を我慢したイチ。しかし限界に達し口を開いた瞬間に右腕に乗り移ったテオドールの上半身そのものが口の中にその身体を潜り込ませた。
「おご______うぶ_________ごえっ_________!」
テオドールはその全身でイチの口腔内を味わう。
それは彼にとって至高の快感だった。
イチの僅かにヌラヌラとした吸付くような唇、少しざらつきのある舌、トルトルとした頬の肉壁、固さはあるが弾力も感じる歯茎、口蓋、そして敏感な神経が集中した喉奥まで。
じゅぷじゅぷ、じゅぷじゅぷと身体を出し入れし喉奥を味わうたびにイチの体の中が反射的に出したえづき汁が流れ出て、テオドールは裸の上半身でその熱い粘液を堪能した。
もし彼に下半身があったなら恐らくその行為だけで限界を超えただろう。
「おいおい、もっと丁寧に舌を絡ませろよ。恋人にやるみたいによお」
テオドールはイチの口の中で下劣な声を出した。
イチは頬を震わせ鼓膜に届く奇妙な声に自分の気が狂ったのかと思いかけた。
「えぼっ! えぉっ、ろぉおぉぉぉ、ぶっ、ぶむっ、むっ、むっ、む、おぇおっ、うぇぇえっ」
イチは口の中で泳ぎ回るテオドールの感覚を嫌でも感じた。
それは虫唾が走るほどの最悪な不快感であった。
テオドールの神が、油をまとった皮膚が、微妙な身体の凹凸が、口の中をいやらしく這いまわるのだ。
特に髪の毛の触感は最悪で、唾液と胃液でぬめりつつもわしゃわしゃとした髪の繊維が酷く不浄に口の中を擦るのだ。
しかもその吐き気を催す肉の塊が喉奥を何度も責め立て、酷い窒息感と苦痛を引き起こす。
自分の右手が自分の口からじゅぷじゅぷと唾液の泡を溢れさせながら出し入れされるのを好きにさせておくしかない最悪は、もしイチが気力の支えを失えばその場で失禁し失神していただろう。
そしてそのおぞましい行為はテオドールが満足するまで繰り返された。
「うぼっっっ______えぇえええええええええ」
ついにテオドールがイチの口から抜け出したその瞬間にイチは堪らず透明な粘液の塊を吐き出した。
「へへへ、なかなか濃厚なファーストキスだったなあ」
ドロドロとした涎と流れ出る涙で顔面をぐちゃぐちゃにしたイチに向けて凌辱的なにやけ面を向けた。
流石のイチも吐き気と咳が止まらず何か言い返したくとも「げほ」「げぇっ」という汚い音しか出てこない。
そしてテオドールはイチの心を完全に折ろうと最低の宣言をする。
「よおし、ぬめりはもう十分だ。そろそろ初夜といこうか」
「な、これ以上、何を……」
「還らせてもらうんだよ。お前の赤ん坊部屋によお」
そのテオドールの言葉に流石のイチも青ざめた。
これからテオドールのやろうとしている事の意味を理解したらしい。
「じょ、冗談だろ? や、やめてくれ」
「冗談に思うか?」
言うや否や右手のテオドールはイチのショートパンツに手をかけ一気に脱がした。
黄色の下着の中は汗の為かムワっとした生々しい臭いが充満している。
「頼む、やめてくれ。こんな、ほんとうにやめてくれ。見逃してやる。次の駅で必ず解放するから、お願いだ」
イチは己の右手が自分の股間から腹の奥深くに突き刺さるおぞましい光景が脳裏に浮かび、たまらずテオドールに懇願した。
必死だった。
「いつもお前さんが夜やってることと大してかわらねえよ。少しばかり激しいかもだがな」
「いやだ! やめろ! やめろおおおおおおおおお!」
テオドールがショーツの中に潜り込もうとしたその瞬間だった。
列車が衝撃音と共に大きく揺れた。
イチは右手にテオドールを宿したままバランスを崩し、下着を露出したまま檻の中で転倒し頭をぶつけた。
「痛っつ______な、なんだ」
「くそ、なんだいいところで!」
この時、イチとテオドールは自分たちが乗っているセダッセン号にただならぬ事態が起きている事など知る由もない。
そして、ここからイチとテオドールが生き残るための奇妙な運命共同体になろうとはこの時お互いに思いもしていなかったのである。