7話 僕たちの失敗 ハーフエルフを狩る者たち18

  なぜ冒険者たちが耳派の企てに気が付いたか?

  冒険者ギルドスウィートバウム支部の職員にモーリン・アッテなという女がいる。

  彼女は『鷹の目』の魔法を使い、上空100mに自身の視点を移し、自身を起点として半径500mを上空から見渡せる。

  冒頭にも出てきたモーリンだが彼女はこの支部内で単なる職員に留まらず、担当地区で起きるあらゆる問題を把握しており、今回の耳派襲撃も当然予期し自らが主導となって警備を取り仕切っていた。

  流石に全来場者の動きを監視することはできないが、ハーフエルフを中心に監視をすれば一挙手一投足とまでは言わないが不審な動きがあるものはわかる

  そのため潜伏しているテロリストの目星をつけることができた。

  「既にほかの仲間も無力化した。だまってついてきてもらおう」

  プルシェニカの背後で銃をつきつける冒険者は静かだが刺すような声色で告げた。

  _____どうして、計画がバレたの?

  身動きが出来ないまま冷や汗を流すプルシェニカだが、彼女には何故自分たちの行動が露見したのかなど知る由もない。

  状況は呑み込めないが、どうやら他の仲間も同じように背後から銃をつきつけられているらしい。

  「3秒やる。両腕を頭の上に組んで、ひざまづけ」

  冒険者の男はどうやら精鋭で、背後に感じる緊張感はまるで獲物を前にした毒蜘蛛のようで一切の隙を感じさせなかった。

  _____こんな、こんなことで終わりなの?

  プルシェニカは恐怖と悔しさで歯を鳴らしながらゆっくりとひざまづく。

  周囲の来客者たちも異常に気が付いたのかどよめく声が聞こえはじめる。

  しかし、大部分の者はステージ上のディレルオスカーに注視しプルシェニカら耳派の様子には気が付いていない。

  「それでは、老人がいつまでも長々話すものではありませんね。皆さま、是非第2回冒険者激励祭をお楽しみください」

  プルシェニカが両膝をついたと同時にディレルオスカーの訓示は終わり、盛大な拍手とともに花火が打ちあがった。

  1発、2発、3発と続いてゆく。

  その音を聞きながらプルシェニカは自分たちの敗北を思い知った。

  だが、例え反動勢力の中であろうと勇者はいる。

  「プルシェニカ! 伏せろ!」

  ユーディであった。

  ユーディは無謀な反撃を試みた。

  体を回転させ、突きつけられた銃を奪えないか試みようとしたのである。

  しかしそれはあまりにも無謀であった。

  「_____うっ」

  ほとんどユーディが叫ぶと同時に、背後の冒険者はユーディの身体を動けぬよう腕を回して固め、肩に銃口を押し付け身体を串刺しにするように銃弾を放った。

  こうすれば貫通した弾丸が他の者に食い込む事無く、ユーディの内臓だけを完全に破壊できる。

  周囲の者が遂に騒ぎ始めた時、ユーディの死は確定した。

  「プルシェニカ…………にげ…………」

  その時プルシェニカはユーディの最期を目撃した。

  彼は今際のきわに何かを口ずさんだ。

  一瞬彼の着ているコートが膨らんだかと思うと次にプルシェニカが瞬きをした時には白い光と共にユーディの肉体が赤くはじけ飛んだ。

  この広場でユーディの革命は終わった。

  ◆

  突然の爆発で会場は一瞬で混乱状態に陥った。

  何しろ多くの来客者は何もわからぬまま史上類を見ない自爆テロに巻き込まれたのだ。

  これは必ずしも耳派が意図した通りのものではないが、大衆を狙った史上初の自爆攻撃として今でも誤った認識で歴史書に書かれることがある。

  ともかく、祭りの場は大混乱である。

  既にディレルオスカーをはじめ高名な者は警備部隊に守られて安全な場所へ移動しているが、警備担当のモーリンもこの事態は想定しておらず、状況把握に時間を要している。

  来客の中で長く冒険者をやっている者は事態の把握の為にむやみに動いたりはしないが、多くは駆け出し冒険者やそもそも冒険者ですらない。

  自分に累が及ばないよう逃げ場を探して他の物をなぎ倒してでもこの場を離れようとしている者すらいる。

  「落ち着いてください! どうか落ち着いて! 事態を収拾しています! どうか慌てないで!」

  舞台上からペリュミンが来客者に向けて叫ぶが効果はない。

  群衆はすでに秩序をなくして、混乱が収まるまでには相当の時間を要するだろう。

  しかしこれはプルシェニカにとってはチャンスであった。

  と、いうよりも本能的に群衆に紛れて弾けるように駆けだした。

  駆けだした先でプルシェニカは見た。

  先んじて逃げようと走っていた耳派の仲間のひとりが黒い装束の冒険者に組み伏せられ、地面に挟まれたまま頭を撃ち抜かれた瞬間を。

  だがプルシェニカには悲しむ時間は与えられていない。

  「プルシェニカ! こっちです!」

  呼ぶ声はヘルゼルペイタだった。

  彼は既に広場から離れた場所で馬車を見つけ持ち主から奪っていた。

  「ヘルゼルペイタ!」

  考えている暇はなかった。

  プルシェニカはわき目も振らず馬車に乗り込んだ。

  もはや計画の事など頭にない。

  ただ一刻も早くこの場を去りたかった。

  「ヘルゼルペイタ! ユーディが、みんなが…………死んじゃった! みんな……!」

  「話は後です! 今は逃げます!!」

  ヘルゼルペイタは鞭を入れた。

  馬車などろくに動かした事はないが、とにかくこの場から離れなければ。

  生きてさえいれば革命もやり直せるし、それ以外の人生だってあるのだ。

  そしてヘルゼルペイタにとって幸運だったことがいくつかある。

  ひとつめは見様見真似で入れた鞭で馬はほとんど脊髄反射的に走り始めた事である。

  ふたつめは馬は二頭の飛脚馬で、逃走には十分な速力を確保できることだ。

  しかし致命的な不幸がひとつあった。

  「ヘルゼルペイタ!! いやあああああああ!!」

  馬車が十数メートル走ったところでヘルゼルペイタは額から血の飛沫を吹きその革命を終わらせた。

  ヘルゼルペイタとプルシェニカふたりを乗せた馬車の二十メートルほど後ろに、銃を構えたイチがいたのが彼にとっての最大の不幸だった。

  ◆

  タオ・メイメイを救出したイチたちは計画通り馬車屋を探した。

  イルハの予想した通り、やはりその馬車屋は悪質な馬車屋でイチ達をまったく的外れな場所に連れて行こうとしたが、イチとイルハはそれを察知し逆に馬車を奪ってしまった。

  そこまではよかった。

  馬車屋の馬は粗雑に扱われていたせいか途中で身体を悪くし途中で走らなくなってしまったのである。

  流石に無理やり走らせるわけにもいかないので仕方なくイチ達は徒歩でスウィートバウムを目指した。

  途中で善良な馬車屋に拾われたのは幸運だったが、それでもスウィートバウムの冒険者ギルドに向かって報告している時間はなく、途中でイルハを降ろしてギルドへの報告へ向かわせ、自分は馬車で激励会の会場へ直行した。

  激励祭の会場に近づいた時、何かが爆発する音を聞いた。

  神経を戦闘の為に研ぎ澄ませ、急いで馬車から降りると逃げ出そうとしているヘルゼルペイタが馬車を強奪したのを見てカーペイト15式を構え狙撃の構えをとったのである。

  _____メイメイ、悪く思うなよ。

  ヘルゼルペイタを射殺したイチは、間髪入れずプルシェニカを狙撃しようとした。

  両手で銃把を握りこみ、肩の力を抜いて照星をプルシェニカの銀髪に向けた。

  引き金を絞ればプルシェニカの後頭部は破壊され、全てが終わるはずだった。

  しかし、

  _____くっ…………目が……………………。

  突如イチは視界のゆがみを感じ、膝からバランスを崩した。

  体力の限界が訪れたのだろう。

  無理もない。

  なにしろ拷問で酷く体力を消耗したままろくに食事も睡眠もとらずに動き続けたのだ。

  むしろ今までまともに立っていたのが不思議と言わざるを得ない。

  「イチさん! 大丈夫ですか!?」

  グラリと揺れて倒れそうなイチの肩をパターソが受け止めた。パターソとイチは浅いが面識がある。

  「大丈夫だ、立たせてくれ、あいつを追わにゃあ…………」

  「無茶ですよイチさん! そんな状態で!」

  パターソの目から見てもイチはすぐにでも休ませる必要があるとわかる。目はどこか虚ろで、呼吸も乱れ顔色も青い。

  そんな身体で何をしようと言うのか。

  「ダメだ…………あいつを止めなければ…………メイメイが…………」

  イチはパターソの腕に抱かれながら譫言でメイメイの名を呼びながらやがて気を失った。

  何故だかイチにはプルシェニカとメイメイが残酷な形で再会してしまう気がしてならなかったのだろう。

  その後イチはしばらく後に目を覚ましプルシェニカを追うのだが、既に歴史の歯車はタオ・メイメイとプルシェニカをあの場所で決着させようと動き出していたのである。