7話 「あんたの仲間をあんたが殺すのよ」 ハーフエルフを狩る者たち15

  プルシェニカはタオ・メイメイと同じ時期に孤児院に預けられ、タオ・メイメイと共に幼少期を過ごした。

  勝気でお転婆なタオ・メイメイに比べて内向的で優しい心をもった子供であった。

  年齢はメイメイよりもひとつ上だがハーフエルフにとって1年の差などないに等しい。しかしながらそのためプルシェニカはメイメイより1年早く孤児院を出なければならなかった。

  18歳まで引き取り手が現れなかった孤児は人手を欲している企業に__多くは工場や土木作業員など賃金が安く人の入れ替わりが多い仕事に労働力として引き渡される。

  孤児たちの多くは18歳を前に養子になる事を望んでいたが、やはりここでもハーフエルフは他の種族より不利であった。

  メイメイもプルシェニカも他の子供たちが養子として新たな家庭へ引き取られていくのを指をくわえて見ているしかできなかった。

  (しかもプルシェニカに一度訪れたチャンスはメイメイが結果的にぶち壊してしまった)

  しかし、ある日プルシェニカにチャンスが訪れる。

  その男は引退した冒険者で、養子を欲しがっていた。

  孤児院の面談で男は言った。__「過去の冒険で利き手に傷を負い、片手が不自由になってしまった。ここから先、結婚し子を成す事も難しいのでせめて養子が欲しい」__と。

  その冒険者の男は既に老い始めていたが、資産もあり子供を育てる資格はあるように見られていた。

  今では考えられない杜撰さだが、当時の連邦では養子を迎えるのは殆ど信用取引のようなものであり、現代のように例えば配偶者のいる者でなければいけないなどといった条件はなかった。

  プルシェニカは喜んだ。なにしろあと少しで孤児院を出なければならないのだ。養子になれば、きっと自分の部屋が与えられ、外に遊びに出るのも自由だし、誕生日には自分の為のプレゼントだって貰える。

  そんなプルシェニカを見てメイメイは寂しい気持ちが勝ってしまい拗ねてしまう事もあったが、それでもプルシェニカが出ていく最後の日にはお互い抱擁し頬にキスを交わしあった。

  メイメイは新しくプレゼントされた綺麗な服を着て養父と手をつないで去っていくプルシェニカをずっと窓から見送った。

  プルシェニカも何度も振り向き、涙を流してメイメイとの別れを惜しんでいたという。

  しかしプルシェニカの地獄はここから始まった。

  彼女を引き取った養父は資産はあったが、それ以上の借金を抱えておりプルシェニカを引き取ってすぐにプルシェニカを売ってしまった。

  売った先は変態が集まり子供に奉仕を強いる非合法の客船で、そこでプルシェニカは想像を絶する虐待と家畜のような生活を長年強いられた。

  プルシェニカが冒険者に失望し憎悪を抱くのはこの経験があったからこそで、仕方がない事と言える。

  最終的にその非合法客船は十大魔術師の生き残りである『戦災のフレデリカ』単身の襲撃によりゴミ虫のように蹴散らされ、結果的にプルシェニカは解放された。

  しかしその事からプルシェニカは当時のバルティゴ連邦と戦う者たちの存在を知り、反冒険者運動に身を投じる事になる。

  今、タオ・メイメイの前にいるのは残虐な復讐者と化したプルシェニカである。

  ◆

  「その女を殺せば助けてあげるって言ってるのよ」

  プルシェニカはメイメイの髪を掴んで顔を逸らせぬようにすると凄んで見せた。

  メイメイはかつて見た事のないプルシェニカの残酷な視線に言葉を失った。

  そこにはあの優しかったプルシェニカの面影はない。

  「プル……シェニカ……」

  メイメイは縋るような目でプルシェニカを見た。

  しかしプルシェニカは言葉を返すかわりにマナを集中させ更にメイメイに苦痛を与える。

  「イヤアアアアアアアア!! 痛い______いたいいいいいいいいいいいい!!」

  メイメイに絡みついた茨はいっそう少女の身体を締め付け、下着を切り裂いて小さな尻に新しい傷をつけた。

  「良いことを教えてあげる。あなたが死を選んでもその女は結局殺すわ。簡単な話でしょ? どうしたら良いか子供でもわかるわ」

  このように責められて保身を考えない人物などいるだろうか?

  もしいたとしたらそれは一種の狂人であり、しかもメイメイはまだ小さな子供なのだ。

  彼女の精神はとっくに限界を迎えていた。

  「お願い_____やめて__________もう許して!!__________もう許してよ!!」

  しかし遂にメイメイの心が折れかけると同時に仕置き部屋に入ってくる者たちがいた。

  ヘルゼルペイタやユーディ、セルゲイらである。

  「プルシェニカ。遊んでいる時間はないようです」

  ヘルゼルペイタはプルシェニカに言った。

  「なによ。まさか解放してやれなんて言うんじゃないでしょうね」

  「そうではありません。一刻も早くこの場を離れるべきです」

  ヘルゼルペイタらはプルシェニカがイチとメイメイを拷問している間に今後どうするかを話し合っていた。

  当初の計画では冒険者ギルドの激励会を襲撃した後、速やかにその場を離れ最終的に合流できるものは一度この孤児院跡に落ち合う計画であった。

  しかし、イチの襲撃を受けてその計画を変更せざるを得なくなった。

  ヘルゼルペイタらは当然、ほかの冒険者がイチ達を救出するために再度ここに攻め入る可能性を考えている。

  そうであればもうこのアジトは捨てる他ない。

  「それじゃあ、合流場所はどうするのよ」

  プルシェニカは一旦メイメイとイチの事を隅に置いた。

  「今のところ、ふたつの案がある。君の意見を聞きたい」

  ヘルゼルペイタはそのプランを説明した。

  ひとつはユーディの案。襲撃後、個々に散らばりインダスバウムに潜伏する。その後時期を合わせ運び屋カウフマン(※1)を頼り、旧魔王領まで秘密裡に移動する。

  もうひとつはセルゲイの案で、襲撃後、成功失敗に関わらず各自旧魔王領を目指す。その後、合流はせず各地散った先で耳派の運動を続ける。

  他の耳派のメンバーはユーディの案を支持していたが、セルゲイが言った「耳派として活動するのに必ずしも皆が一か所にいる必要はない」との言葉にはヘルゼルペイタは多少の納得を感じていた。

  「私はユーディの案に賛成よ。団結し、連携する事に私たちの運動の意義はあるはずよ」

  プルシェニカは迷わなかった。

  セルゲイの案ではないが、たといひとりになったとしても反冒険者の活動を続けハーフエルフの独立国家樹立を目指す覚悟はあるが、連携する事で生まれるエネルギーを信じたのだろう。

  「そうか。わかった。ユーディの案で行きましょう」

  ヘルゼルペイタは頷いた。

  セルゲイの案は、襲撃が必ずしも成功するとは限らないという観点から立てられている。

  それは冷静な観点だが、いま必要なのは襲撃をなんとしてでも成功させる熱量だと感じていた。

  後ろ向きな案を選んで全員の士気を下げたくはない。

  「それじゃあ決まりだな。時間がない。さっさとそいつらを処理しちまえ」

  ユーディは腕を組んだまま頷き言った。

  イチとメイメイを無駄に生かしておく理由はない。

  ところがプルシェニカは首をふった。

  「いやよ。冒険者なんかになって、もっともっと苦しめてやらなきゃ気が済まないのよ」

  「プルシェニカ」

  ヘルゼルペイタは窘めるような目でプルシェニカを見た。

  わがままで全員を危険に晒すなど許されない。

  「_____わかってるわよ」

  プルシェニカは肩をすくめた。

  どのみち最初からプルシェニカはイチを殺すつもりだった。

  方法が変わるだけで結果は変わらない

  「だけど、最期くらいは私だけに任せてくれないかしら? これでも友達だったんですもの」

  「いけません」

  しかしヘルゼルペイタはこの場にプルシェニカだけを残すことを否定した。

  心のどこかにプルシェニカが手心を加える可能性を捨てきれないでいたのだろう。

  「私が手心を加えるとでも思っているの?」

  プルシェニカはヘルゼルペイタに詰め寄った。

  ヘルゼルペイタはプルシェニカと短い付き合いであるが、彼女が友達思いの情に厚い性格だということは知っているつもりであった。

  プルシェニカはしばらくヘルゼルペイタを睨んでいたが、やがて肩をすくめてみせた。

  「わかったわ。けど、ユーディとセルゲイがいる必要はないでしょう? 友達のよしみがあるもの。せめて男の目は少ないほうがいいわ」

  プルシェニカはユーディがアリスの身体を弄んだのを知っている。

  薄っすらと友情が残っていたのか、ユーディがメイメイの憐れな姿を見て劣情を催す事を良くは思わなかったのだろう。

  「ユーディ、セルゲイ。下がれ」

  ヘルゼルペイタはユーディとセルゲイを下がらせた。

  薄暗い仕置き部屋にはプルシェニカ、ヘルゼルペイタ、そして傷ついたイチとタオ・メイメイ。

  「これでいいんですね。プルシェニカ」

  ヘルゼルペイタはじっとプルシェニカの青灰色の瞳をみた。

  そのすべてを見透かしたようなヘルゼルペイタの目にプルシェニカは一瞬、俯いた。

  「ありがとう。ヘルゼルペイタ」

  プルシェニカは顔を上げるとイチとメイメイの足元に種を投げて撒いた。

  そしてマナを集中させるとその種は芽吹き、イチとタオ・メイメイの足に根を張り急速に成長して細く針金のような蔓を巻き付けた。

  「キリサキソウの種を仕込んだをわ。あと2,30分もすれば、ふたりとも生きたまま輪切りね」

  プルシェニカに死の宣告を受け、メイメイの顔は引きつった。

  キリサキソウとはこれも旧魔王領に生息している植物で、針金かピアノ線のように細い蔦を持つ植物だ。主に大型動物の足に絡みつき寄生する。そして長い時間をかけて犠牲者の身体をその硬く鋭い蔦でゆっくり長い時間をかけて切り裂き、遂に斃れた死骸に新たな種を植える。

  メイメイは自分とイチの身体がゆっくり切り裂かれていく恐怖に深い絶望を感じた。

  しかしメイメイは、どこかで既に自身の死を受け入れていたのかも知れない。

  「お願いプルシェニカ。イチは、私を助けにきただけなの。だからお願い、イチだけでも見逃して……」

  そのメイメイの言葉にプルシェニカは顔をゆがめた。

  「あんたって娘は_____」

  その言葉は途中で失われ、彼女が何を言おうとしたかはわからない。

  友人だった者の最期の言葉がそれとは、プルシェニカもやるせないのだろう。

  「最後の時間を精々その子と楽しみなさい」

  プルシェニカは孤児院時代にふたりが別れたようにメイメイの頬に口づけをすると「待って、お願い」と叫ぶメイメイを後に仕置き部屋の扉を閉めるのであった。

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  (※1)運び屋カウフマン

  彼はインダスバウムを根城に活動する鳥人族の男で、報酬を用意すれば物品から人物まで合法非合法問わずあらゆるものを運ぶ。

  カウフマンは報酬目当てではあるが耳派に協力的で適任だった。