5話 石化されてゆくイチ スウィートバウム少女石化事件15

  イチがバジリールに敗北したその直後である。

  遠い闇の淵から徐々に意識を取り戻したイチは二人の男の話し声を聞いていた。

  

  「なるほど。素晴らしい素材だ。生傷も少なく、筋肉と脂肪のバランスも良い」

  「このね、胸のちょうど良い大きさが素晴らしいんですよ。大きさがありつつ、我が強くない」

  「確かに。尻も小ぶりで良い。まだまだ成熟していない形の良さだ」

  「青い瞳と滑らかな金髪も素晴らしいですが、これは多少勿体ない気もしますね」

  「頭も残すか?」

  「いえ、それでは石像にする意味が薄れます」

  「違いない。さて、どう仕上げる?」

  「そうですね。…………おっと。お嬢様がお目覚めになったようです」

  イチの目に光が戻ると、そこは工房とも拷問部屋とも表現できる小さな空間であった。

  イチはその中央に下着姿のまま両手首に枷をはめられ天井から滑車のついた鎖で吊られていた。

  裸足のまま四角い石の台座に乗せられており、そのせいで視線が背丈以上に高くなっている事に気がつく。

  正面には軍鶏の仮面をつけたバジリール、その先に赤いベルベットのソファに腰掛け赤いワインを味わうパーカスの姿があった。

  「パーカス、貴様!」

  「おやおや。貴様とは随分な言葉ですな」

  「あの石像を作らせたのはお前らだな。なぜ卑劣な事をする!」

  「罰ですよ。それと、ビジネスを少々」

  「罰だと……?」

  イチは無駄とわかっていても手首を拘束する枷が外れないかと揺らした。

  しかし木製の枷はびくともせず、鎖を揺らしジャラジャラと非情な音を響かせた。

  「みんな、私のような憐れな男に甘い言葉で擦り寄り、その腹の中では小銭を毟り取る事ばかり」

  そのパーカスの言葉にイチはなぜかフェーンに思いを寄せていたギーミッツの姿がよぎった。

  「そんな理屈、許されるか」

  「世直しですよ。男の好意を利用し、くだらない事に金を浪費する娘など不愉快だ」

  「だからって」

  若い娘を石化し尊厳を奪うなど許されるはずはない。

  確かにフェーンもジョキューも男の好意を利用し、その心を裏切っていたのは罪であると言えるかもしれない。

  しかし、

  「騙されるほうが悪いとでも?」

  その言葉にイチは一瞬反論を飲み込んだ。

  イチの人生経験では目の前の歪んだ金持ちの理屈を砕くような言葉はまだ生まれていない。

  なるほど、パーカスの言葉にも共感すべきところはあるのかもしれない。

  しかしこれはやりすぎでしかない。

  彼は自分の歪んだ欲望を満たすために他人の罪を利用しているのだ。

  だがイチにはそれを言葉にできるほど舌が育っていない。

  「卑怯な奴」

  「卑怯?」

  「金を見せびらかして、女を誘い込んで、しかも自分は手を出さないで、卑怯以外の事があるか」

  「ふふふ。なるほど。勇ましい事です」

  イチの言葉は単純だがどの時代の価値観においても間違っていない物の見方である。

  それはパーカスが何の反論もできない事からそうであろう。

  しかし、状況は最悪であった。

  イチの生殺与奪は既にパーカスに握られており、たといイチが正しくパーカスの哲学を打ち砕いたとしても何も救いにはならない。

  「話は終わったようだな。さて、どう仕上げる?」

  黙って二人の言葉の応酬を聞いていたバジリールは、彼も己の歪んだ欲望を少しでも早く解放したかったのだろう。

  パーカスはワインを少し口に含むと、

  「彼女の勇ましさは実に輝かしい。故に、服従の姿が一番見る者の心を揺さぶるでしょう」

  「心得た」

  バジリールはトカゲの舌を出し口元を歪めるとイチの膝に手を伸ばした。

  「やめろ! 触るな! ________っおぐぅ!」

  せめてもの抵抗と言わんばかりにイチはバジリールを蹴り飛ばそうと脚を振ったが、バジリールはイチの鳩尾に痛烈な拳を叩き込み抵抗の力を奪った。

  「好きなだけ抵抗しろ。どうせ少ししたら何もできなくなる」

  「ふざけ________うわっ!」

  バジリールが魔法を口ずさむと滑車はマナで制御できるのかカラカラと回転し、イチを吊り下げていた鎖が伸びてイチは一瞬バランスを崩した。

  「ほう。小ぶりだが柔らかい良い尻だ。もっとも今だけだがな」

  バジリールはバランスを崩したイチの尻に左手を回して抑え込むと、右腕の膂力だけで彼女の右足を畳みマナを集中させた。

  「放せ! 放________うわああああああああああああ!!!」

  突然イチの右足首からふくらはぎにかけて激痛が走り、視線をやると右足首を中心にふくらはぎまでがビキビキと音を立ててじわりじわりと石になってゆくではないか。

  「どうだ。先ほどとは違う痛みだろう?」

  バジリールは楽しそうに笑いながらイチの左脚も同じように折り畳み石化の魔法を発動した。

  「足が、足が_______ぎゃああああああああああああ!!!」

  イチは絶叫した。

  その痛みは肉を一寸刻みにされるか、肉の一粒一粒をすり潰される痛みとも形容されるほどである。

  しかしより正確に表現するのであれば、肉の中に無理矢理石を詰め込まれるような最悪の痛みだった。

  「どうだね? 痛みは一瞬だが、まだ生身の肉はたんまりあるぞ」

  「うわあぁぁぁぁあ________やめ、やめてくれ………」

  イチは地獄の苦痛に涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら身体をよじって逃れようとした。

  しかし、灰色になった両脚はまるで、服従した無様な犬のように菱形に開脚されたまま動かせず、僅かに揺らす事さえできない。

  しかし生身の太腿から尻や背中はまだ感覚も残っていて、そのために苦痛から逃れようとブルブルと揺れ、その度にイチを吊っている鎖が音を立てた。

  「苦痛は激しく雷のようだが、神経が石化するので一瞬だ。気絶は出来んぞ。俺はこの魔法で大戦時、貴様ら西側の連中を捕らえて何人も石に変えてやった」

  「お、お願いだ____も、もう許して________」

  

  「姿勢が悪い。背筋を伸ばせ」

  「ひぎゃあああああああああああああああああ!!!」

  バジリールはイチの尻を平手で叩き、腹と背骨に力を込めて背筋を無理矢理伸ばさせると今度は彼女の背中から腹にかけてを石化した。

  イチは顔を真っ赤にし、首を垂れて涎を垂らしながら「カヒュ、カヒュ」と危険な息を吐いた。

  既に脚と背中、腹が石化しイチは両脚を開き無様に蹲踞した格好で石像に変えられつつある。

  「どうした? さっきまでの勇ましさはどこへ消えた?」

  「も____もう無理____嫌だ____」

  「その綺麗な脇も見やすくしたほうがいいな」

  「あぎゃああああああああああああああ!!!」

  バジリールはイチの両肘を持ち上げて彼女の脇がよく見えるようにすると肘から脇にかけて石化した。

  「腕は頭の後ろ。服従の意思を示せ」

  手枷を外し、無理矢理両手を組んだ形にして頭の後ろに回させると更に石化した。

  「うあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」

  イチは頭を振り乱し喉が裂けるような叫び声を上げた。

  既にイチの身体は顔面と胸、そして尻と股を残して大半が石化してしまっている。

  残った生身の部分がピクピクと痙攣し、先ほど出したはずの小水がショロショロと流れて下着を濡らした。

  確かにバジリールの言う通り石化の苦痛は一瞬だが、元々生身であった部分の感覚が一切なくなり、徐々に石化していく恐怖にイチの目から光が消えつつある。

  「表情はどうする? このままでいいか?」

  バジリールの問いにパーカスは一瞬言葉が遅れた。

  石化しもがき苦しむイチの姿に意識を奪われていたのだろう。

  パーカスは男性としての機能を失っていたので、彼は女性の苦しむ姿を見る事で己の欲望を発散させていたのである。

  「その表情も良いですが、やはり服従の姿勢にはもっと無様な、蕩け切った顔が良いでしょう」

  「いいだろう」

  バジリールも過去の大戦で下腹部を負傷し身体の一部を欠損していた。

  彼は傍の台から注射針を手に持つと中の薬液を確認し、イチの臍のあたりに注射した。

  イチは既に痛覚がおかしくなってしまっているのか刺された注射針に何の反応もせず「ヒュウヒュウ」と苦しげな吐息を漏らすだけだった。

  「まだまだ楽しませてもらうぞ」

  イチの受難はまだ終わらない。