第2話 エピローグ スウィートバウム連続下着泥棒事件(完)

  その後の事も語らなければなるまいが、どこから語るべきか筆者としても迷いはする。

  まずは何故冒険者達の応援があれほど早く駆け付けたか説明せねばなるまいだろう。

  結論から言えば、ブルーセラーノ邸に駆け付けた女冒険者達はイチの救援の為に駆け付けたわけではない。

  彼女らは連続下着泥棒事件の原因であるブルーセラーノを捕まえに来ただけであった。

  何故そうなったのか。これはシーナがタオ・メイメイにこのように語っている。

  「あのですね。私はその、情報を漏らさないように頑張ったんですよ。けどですね。他の冒険者のみなさんがですね、何か知ってるんだろ? って詰め寄って来ましてですね、いえ、私も頑張ったんですけど、その、状況的に白状せざるを得なかったと言いますか…。ま、まあ結果的に私が口をすべらせたおかげでイチさん達も助かったようなもんなんで、シーナは悪くないですよねぇ………?」

  つまり、シーナはイチの指示通りに某支部で増援を呼ぶために待っていたが、イチやエルビアニカの仲間であるシーナが意味もなく某支部をうろついているのを見た他の冒険者達が、シーナが何か連続下着泥棒事件の情報を握っているに違いないと思い皆で取り囲んで尋問してしまったのだ。

  そして今まさにイチ達がブルーセラーノ邸を襲撃していると知った女冒険者達は武器を手に取り一斉に押し掛けたのである。無論、賞金をイチ達に独占されないために。

  何しろ、最初は現代で言えば安い車を買えるほどの額でしかなかった賞金は、今では中級の普通車が買えるほどの賞金額になっていた。

  そして、その賞金を独り占めしようと最初から計画していた女がひとり。リャン・ハックマンである。

  ◆

  さて、そのリャン・ハックマンであるが彼女はぼろ雑巾のようになり死にかけたブルーセラーノを某支部に連れ帰り、モーリン・アッテナにつきつけ「賞金」とだけ言って投げ渡した。

  モーリン・アッテナがどこかへ酒を飲みに消えるリャンの背中を見て、果てしなく長い溜息を吐いたのを同僚のアルバート・フェンネルという男が日記に記録していた。

  [アルバート・フェンネル。既婚32歳。最近毛髪が後退している]

  このリャン・ハックマンの非常識に、流石に某支部の女冒険者達は猛抗議に猛抗議を重ねた。

  無論、リャン・ハックマン本人に抗議できる某支部の女冒険者はイチの他にいないので、その苦情はアルバート・フェンネルとモーリン・アッテナに寄せられた。

  アルバートもモーリンもかつてリャンと共に冒険に出た事があり、リャンと対等に話せたので結果として集まった賞金はリャンに独り占めされることなく、以下のような判断となった。

  ・集められたかけ金は、返金を申請した者に8割を返金する。

  ・残った2割は某支部で審議した後に、事件解決の功労者に分配する。

  ・1カ月以内に返金申請されなかったかけ金は某支部の運営費に充てる。

  これについてアルバートは最初、かけ金の全額返金を主張したがモーリン・アッテナがそれに異を唱え意見を押し通した。

  モーリンは傷つきボロボロになったイチ達を知っているので、彼女たちの苦労が水の泡になるのを不憫に思ったのであろう。

  結果、他の冒険者達の非難を受けながらも某支部はイチ達にある程度まとまった報奨金を渡すことになったのである。

  イチ達の前に、ブルーセラーノらがどうなったかを先に記述する。

  ◆

  ブルーセラーノであるが、「婦女の下着を不正に集め、盗品と知りながら売ろうとした罪」で起訴され裁判にかけられた。結果、有罪。

  懲役10年の刑を宣告された。

  しかしながらブルーセラーノは己の財産を削り、現代では普通車が買えるだけの保釈金を支払い矯正施設に送り込まれるのを防いだ。

  以後、ブルーセラーノは下着売買のビジネスの事は一切口に出さなかったという。彼にしても今回の事件は汚点になったのだろう。

  ウィンフィールドは流石に鋭敏であり、女冒険者達が雪崩れ込むと同時に混乱に乗じて邸宅から逃れた。

  ベーガは女冒険者達に踏みつけられ長く気を失っていたが、意識を取り戻すと他の女冒険者達をなぎ倒して外に逃れた。

  ベーガは生涯女冒険者に恨みを抱いて生きたらしい。

  オークション参加者達はこの件に関して無関係を決め込んだ。

  冒険者ギルドの中でも彼らを起訴する者は現れなかったのでそのままそれぞれの家に帰って行ったが、二度とブルーセラーノとは取引をしなかったらしい。

  ◆

  イチ達ルーナハイムの冒険者についてである。

  まず、イチは数日間はろくに動けぬほどに傷つき、ミュルガルデは己の治癒魔法を駆使して彼女の回復を助けた。

  (余談ながら回復後、しばらく経った後にきちんとヘルメェスに下着の着用感を伝えた)

  エルビアニカも顔にいくつも痣を作ったが、これもミュルガルデの治癒魔法に助けられて顔に痕を残す事無く回復した。

  タオ・メイメイは比較的軽傷で済んだので、いつも通り冒険者稼業を続けた。

  シーナはカエル人のワーコルと仲良くなり、時折彼と食事に行ってはお小遣いを貰う仲になったらしい。因みにシーナの裸婦画は今世紀に残されていない。はじめから描かれて無かったのか、歴史の中で消失したのかは誰にもわからない。

  ミュルガルデはイチとエルビアニカの治療に精を尽くした。

  イチもエルビアニカもミュルガルデの看護のおかげで傷跡を残す事無く回復したので改めてミュルガルデへの信頼と感謝が深まったはずだ。

  イルハは己の未熟さを痛感し、冒険者ギルドの依頼を積極的に受けて己を鍛え直すことを決めた。

  ヘルヒャンは戦いの中、女冒険者達に踏みつけられ調子が悪くなってしまったイチのカーペイト15式魔導回転式拳銃、タオ・メイメイのバレア2魔導ショットガンを無償で修理してやった。

  イチが起き上がり歩けるようになったタイミングで7人は行きつけの酒場で小さな祝賀会を開くのだがその様子は特に記録されていない。

  ただし、きっと彼女らにとって楽しく充実した時間になっただろう事は間違いない。

  【スウィートバウム連続下着泥棒事件・完】