春と言えど、日差しがとても眩しい。
気温もようやく上がってきて、絶好の試合日和となった。
約半年振りに敵地に足を踏み入れた男は、キョロキョロとあたりを見渡し、探し人を見つけると、たっ、と一気に駆け寄った。
「海さんっ、久しぶりッス!」
聞き覚えのある声に気が付いて、植田は振り返り、その声の主が廣岡であったことを確認した。
「あっ、大志…」
久々に見た視線の先の男は、また少し大きくなっていたように見えた。
そのことを伝えようと、植田が口を開く前に、廣岡が楽しそうに喋り出した。
「一軍に居てたんッスね!」
相変わらず無邪気に思ったままを話す。
植田は一呼吸置いて応える。
「おまえ…その失礼極まりない発言、ええ加減にせえよ…」
まったく…、とこちらは呆れているのに、そんなことお構いなし、といった風に相手は変わらずニコニコしている。
「なに?すごい機嫌ええやん。順調?」
「や!ぜんっぜん結果出ないッス!」
眉を八の字にして、ケラケラと明るく答える。
「…そんな小首傾げながら張り切って言うことやないやろ…」
植田はもうひとつため息をついた。
「コーチ、めっちゃ怖いんスよぉ〜」
「しっかり怒られてその根性叩き直してもらった方がええわ」
「ヒドいっすわ、海さん〜」
あんまりや〜、と言いながら廣岡は更に眉を下げる。
しかし植田は、廣岡がこれまできつい練習に耐えてきたことは知っていた。
「でも、おまえ、文句も言わずやってたんやろ?すごいやん」
兄が弟を褒めるように声をかける。
すると、廣岡は一瞬驚いたような顔をして、その後、目尻を下げた。
「ふふ〜」
照れるように喜んで、次に廣岡はしっかりと植田の目を見た。
「なんやねん」
「俺の記事、読んでるんスねぇ〜」
見透かされた気がして、植田は一気に恥ずかしくなってしまった。
「う、うるさいな!たまたまや!!!」
聞いてるのか聞いていないのか、廣岡はずっとにやにやしている。
「へへ〜」
体温が上がっていく自分を落ち着けながら、植田は、どことなく廣岡がいつもと違うような気がしていた。
「めっちゃ嬉しい〜」
余韻を楽しむようにずっとフワフワしている。
まるで恋でもしているかのように。
「…おまえなんかおかしない?」
「だって海さんに会いたかったんスもん」
思いもよらなかった言葉が突然、植田に直球で襲いかかる。
「は⁈」
落ち着いてきた体温がまた上がってしまう。
「おまえやっぱりヘンやで。しごかれすぎやろ」
「ヘンやないですよ!俺、前から海さんのこと好きッスもん!」
「アホ!大声で喚くな!!!」
周りにいた人間が何事かとちらちらと二人を見る。
もう絶対あとでいらんこと聞かれる…そう想像して、植田は頭を抱えた。
そんな植田を見て、廣岡はさみしそうに小声で尋ねる。
「海さんは俺に会えて嬉しなかったんですか?」
長身の体はちいさく萎んでしまい、いつも感じる圧倒感はすっかり影を潜めている。
こうなってしまっては、元に戻してやれるのは自分しかいない。
(やれやれ…)
植田は見上げて、廣岡と目を合わせると、子どもを宥めるように、優しく声をかける。
「嬉しかったよ…?」
その言葉を聞くと、廣岡の表情がパッと明るくなり、いつものように少し意地悪く笑って植田に指摘した。
「海さん、顔めっちゃ赤いッスよ?」
「うるさい!誰のせいや!!!」
ニヤニヤし続ける廣岡をぽかぽかと殴りながら、植田は、絶対こいつに情けをかけるまいと心にまた誓っていた。
- end -