一分一秒でも時間を稼ぐ。

  ーほんの僅かでも長く、あなたといっしょにいたいから。

  「今日めっちゃ疲れたし、ちょっと休んできません?」

  帰路につく足をぴたりと止め、廣岡は植田に提案する。

  「…俺もう宿舎帰りたいねんけど…」

  とっとと部屋に戻って、一刻も早く眠りにつきたい植田は、あからさまに嫌そうな顔をしている。

  「ええやないですか、すこしクールダウンさせてからの方がカラダにもええですよ」

  いかにもらしいことを言って、廣岡は植田を惑わせる。

  「そうかなあ…」

  心の中では未だ早く部屋に戻りたい気持ちに変わりはないのに、口をついて出た言葉は否定ではなかった。

  「そーです、そーです」

  「お前、テキトーやろ」

  いつの間にか、近くにあったベンチに腰掛けていた廣岡の横に、ちょこんと植田も座って、たわいもない話をすこしだけ続けた。

  ・

  ・

  ・

  「あーもー座ったら動けん!帰んのちょっと休んでからにしましょうよ」

  相変わらず廣岡は植田を巻き込んで、まっすぐに家へ帰ることをしないでいる。

  「お前、またそれ?じいさんやんか」

  何度も付き合わされる植田は、いい加減呆れている。

  「歳ッスかねーめっちゃ疲れるー」

  「腹立つわー」

  そう言いながらも、植田は廣岡を置いて、さっさと帰っていくこともしなかった。

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  ・

  ・

  「むっちゃ喉渇いたわー。海さん、なに飲みます?」

  自販機の前で廣岡は植田に問いかける。

  「いや、俺はいらんよ」

  特に欲していない植田はあっさりと断る。

  「俺といっしょでええですね?」

  植田の返事を無視して、廣岡はボタンを二度押した。

  「…ひとのはなし聞けや…」

  「これ貸しなんで、今度返して下さいね」

  同じ色をした細長い缶の一つを、廣岡は植田へ向かって放り投げた。

  「おかしいやろ…ほら、大志、すぐバス来るで?」

  片手で缶をキャッチした植田は、通りの向こうから、バスがこちらへ近付いてきているのを確認する。

  「ええです、俺、海さんに送ってもらうんで」

  急ぐ様子をまったく見せず、廣岡は、プシュッと缶の口を勢いよく開ける。

  「バス乗りーや」

  マイペースにぐびぐびと喉を潤す廣岡を、脱力しながら植田は見ている。

  「これで貸し借りナシってことで」

  「俺だけ損してない?」

  勝手にジュースを奢られ、そのお礼に送って行けというのだから、誰もが疑問に思っても仕方がない。

  「だって、海さんも俺といっしょに帰りたかったでしょ?」

  どこまで自己中心的なのかこいつは。

  自分の気持ちをどんどん勝手に決めつけられていく。

  「海さん"も"ってなに」

  すこしムッとしながら、植田は答える。

  そんな植田の気持ちを知ってか知らずか、廣岡はすらすらとさわやかに続ける。

  「俺はいっしょに帰りたかったッスよ?」

  そう言われて、嫌になるどころか、なんとなくうれしく感じている自分に、植田は気が付きたくなかった。

  「…やったら最初っからそう言ったらええやろ…」

  浮かれそうになるところをグッと堪えて、視線を下に落として、植田はぼそぼそと答える。

  そんな植田を見て廣岡は、にやりと口角を上げて得意気に訴える。

  「そこは察してくれんと〜そういうとこッスよ?海さん?」

  植田の顔を覗き込むようにして、廣岡は上目遣いで植田と目を合わせる。

  「腹立つわ…」

  楽し気に弾む会話の横を、バスはゆっくりと通り過ぎていった。

  - end -