相撲部熊DKズル◯け奮闘記

  みんなから「ドリちん」っていわれた。

  「ドリちん」がどういう状態を指すのか、最初ぴんとこなかった。ただ、馬鹿にされているのはその場の雰囲気でわかった。

  「おい、ここにもいたぞ!」

  「相撲部第二号だ!」

  「どれどれ? 見せてみれ!」

  どうやらおれの他にもお仲間はいたようで「いっちゃんと同じドリちん」と、露天風呂の端で騒がれている。誰だろうと集団を見れば、同じ相撲部のバーニーズマウンテンドッグである[[rb:山城二実也 > やましろふみや]]のことだった。

  フミヤの股間についているブツは色を除けばおれのと瓜二つだ。日頃の稽古で目にする機会こそ多かったものの、相撲部だとほとんどみんな一律同じなので、なんてことのない、いわば普通の形だった。それが今、2クラス合同の修学旅行の場では「ドリちん」と激しく嘲笑されている。

  さすがに我が部の大将をイジれる気骨のあるやつはいないようだったけど。ってことは、おれとフミヤはナメられてるんだな……。まあ、あいつはお山の大将というやつで、確かに相撲部の中では一番重量感があったっけなあ……。

  それはさておき、いったん自分の常識にリセットをかける必要がありそうだ。こうも馬鹿にされるようでは、自分たちのそれは一般的でないと考えた方がいい。

  他のやつらのものに目を向けてみると、見えてくるものがあった。

  高校二年の秋ともなれば、身体とともに性器も成長し終えているのが通常らしい。よくバナナにたとえられたりするが、ぶらーんと大きく垂れ下がっている様はまさにふさわしいたとえだと思った。

  他にも、大きさこそおれら相撲部組と大差はないものの、剥けかけているやつも少数ながらいる。

  みんないったい、いつの間に。

  見比べるとおれとフミヤのそこだけ、まるで小学生のまま時が止まっている。

  ヒグマとバーニーズマウンテンドッグ。立派な体躯が取り柄なだけに、相対的にちんまり見える。それを抜きにしても、普通はもうちょっと立派に育つものなのか。改めてだけど高校二年って成人一歩手前だもんなぁ……。

  じゃあこれはいったい……? ということになる。

  自分の常識、間違っていたみたいだ。

  お湯の中、でっぷり肥えた腹肉に押しつぶされてちんまり佇んでいる息子に目を落とし、ようやく自力で答えに辿り着く。

  なるほど、わかったぞ。おれとフミヤの、この形のことを「ドリちん」と呼ぶんだ。ちょうどとんがりコーン――いや、ちょっと盛った。たけのこの里みたいに短くて、先っちょがドリルみたいに窄まってる形のを……。

  「ドリちん」というのは、たぶん言葉の意味そのままで「ドリルちんちん」の略称だ。ドリちんは男として恥ずべきものの象徴とみなされるらしい。

  おれは修学旅行の風呂で絶大なるショックを受けた。相撲部内での常識は世間での非常識。雄として劣っており、知らぬ間に取り残されている現実を突きつけられた。悔しいがしかし、学ばせてもらったという方がいいのかもしれない。

  抜け駆けしてフミヤと、他相撲部員たちにも差をつけてやろうと決意を固めたのも修学旅行中で、帰ってから“調査”に励んだ。

  一日も早く恥ずかしい男から脱却すること。それがおれの確固たる目標として定まった。

  ドリちん改善策調査(おれ調べ)による概要は以下のとおりだ。

  ・重度の包茎でも手を使って剥くことができれば性機能としては問題なし。

  ・皮の余りは遺伝的・個体的要因が多いものの、自慰のやり方によって包皮が伸びることもある。

  ・太っている人、特に熊種族は皮下脂肪の多さの関係上、埋没が避けられずに短小包茎になりがち。

  ・亀頭の成長と発達にはある程度の刺激に慣れ、剥きならす必要がある。

  ・全く剥けなかったり、どうしてもコンプレックスなら手術という手がある。

  ・脱包茎への近道はとにかく皮剥きっぱなしで過ごして剥き癖つければOK。若いうちが有利。(SNSの一意見)

  問題なしと知り安堵する一面、ぎくりとすることまで、情報は検索ワードを変えれば変えるだけ無限に出てくる。やっぱりおれみたいな130キロ超えデブはドリちんになる運命かと諦めかけたときには、希望の星も瞬いてくれた。

  ベッドで横になってスマホをいじりながら、気づけばウンウン唸っていた。ちんちんは思っていた以上に奥が深い。

  (……勃ってきた)

  短時間の間に性的な言葉を一気に浴びたせいもあって、ガッチリに勃ってしまい、スウェットを精いっぱい押し上げていた。

  今日はその気でなかったのが、まるでなにかに導かれるようにパンツを脱ぎ下ろしてしまう。ぴょこんと飛び出る息子は当然、1ミリも剥けないで微妙に大きくなっただけの硬化ドリルだ。勃起すれば肥大化したちんちんによって皮が反動で剥けるらしいのだけど、おれのは全くその気配がない。仮に念力を使えたとしても無理そうだ。

  ことわっておくが、完全に剥けないわけじゃないぞ。手動タイプなだけだ。……あと、まだヒリヒリもする。

  痛みも併せて乗り越えなければならない。喉が鳴る。しかし、覚悟は決まっていた。

  身を起こして胡座をかいた状態。ものは試しでとりあえず一歩目を踏み出す。

  人差し指と親指で輪っかをつくり、ぶっくらと張り上がった亀頭部にそっと巻きつけてみる。ピリッと痛まないようにお祈りをしながら、ゆっくりと輪っかを下げる。僅かに力を込めて根元の方へずらしていくと、萎んだ皺くちゃの先の口が徐々に開いていき、初々しいにもほどがあるピンク色が顔を覗かせる。分厚い皮のくせにやたらと窮屈で、いつ裂けてもおかしくはない。恐怖心を打ち倒し、包皮を剥いていく。不快な臭いと共に、シッコやらの出てくる割れ目が露わになると、そのまま数十秒たっぷりかけて皮をずり下ろしていく。

  自分のものながら、剥けていく様に目を釘付けにされ、心臓がドクンドクンと跳ね上がってくる。普段見慣れない亀頭は目に毒なほど色鮮やかで、剥けば形も一層ヤラシくなり、皮の中で熟成させちまった湿り気と粘度が剥けるにつれて無数の糸を引く。改めてじっくり観察するとなかなかに卑猥だ……。ちんちんというより、見てはいけない生殖のための器官を見ているようでドキドキする……。これほどに危うい刺激を放つのなら、皮の中にしまっておく方がいいかもしれない。

  途中引っかかりそうになりながらも、

  (む、剥けた……!)

  痛むことなく、一応、頭をすべて出しきれた。すべてというのは、亀頭の段差になっているところ(カリというのか?)までで、すっぽりに覆っていた皮はその段差部分にうっ血しそうに痛々しく巻きついている。

  普段から厚い皮に守られているおかげで、すこし空気に触れただけでぴくっと反応してしまう。

  剥けきった状態はすーすーして気持ちはいい……けど、いつ痛むかわからないのは心理的な負荷が重すぎる。

  指で一突きしただけでバルーンのように破裂してしまいそうなぐらい、真っ赤に腫れあがっているその様を見て、

  (剥けている人は常にこの状態を維持しているのか……)

  おれの挑戦はとんでもなく無謀で恐ろしいことだと感じた。包茎手術など考えただけで血の気が引いて貧血を起こしちまう。手術だけはあり得ないと悟った瞬間だった。

  無事に剥けきったはいいものの、元に戻せないのはマズイとの忠告をふと思い出す。なんでも皮の締め付けがキツくて本当にうっ血してしまうとか。

  戻らないとなると、一生このまま捲った状態を維持しなければならない。すなわち、パンツも穿けず、歩行すらままならないことを意味する。それを考えるとさすがに恐怖心が増してきた。

  落ち着けるためにいったん、ふうと大きく息を吐く。それでもちんちんは萎え知らずで、というか単に外気に敏感すぎてなかなか萎んでくれなかった。

  さすがに今日で一気にズル剥けは現実的でないため、段階を踏む必要がある。

  今日はこのくらいにしておくとして、勃起しっぱなしなのはなんとかしないといけない。

  痛みを覚悟の上、

  「ふんっ……!」

  試しに勃起状態のまま皮を被せてみたら、これが案外すんなり、元どおりすっぽりに被ってくれた。

  いける。おれ、いける!

  安心は沸々とした喜びへ変わっていく。叫びたい気持ちを抑え、心の中で大きくガッツポーズをキメた。

  念のためもう一度指で輪っかをつくり、同じ手順を繰り返すと、さっきより滑らかに剥けた感触があった。それに、フルに勃った状態でももう前みたいに痛まない。

  これなら、おれにだって目指せるっ!

  かくして、おれ――[[rb:守山樹生 > もりやまいつき]]のズル剥け奮闘記がここに始まったのだった。

  喫緊の改善点といえば、とにもかくにも刺激慣れすることだった。

  入浴時に、皮をほんのすこしだけ捲って、おしっこの付いた先端部だけちょちょっと洗い流していただけだったので、もっと中身を出して外の世界に慣らす必要があった。世の中には必ず段階というものがあり、慣れるには試行回数をひたすらに増やせばいい、というのがおれの見立てだ。

  シッコひとつするにしても、そのままするのと、ちょっと剥いてするのとでは段違いだ。お手洗いの度、意識的に皮を剥くようにし、空気にさらす頻度を増やしていった。

  その中で、剥いてすればシッコがあらぬ方向に飛び散らないという副次的なメリットにも気づくことができた。もっとも、カリにかかるまで剥きすぎると、戻すときに尿や亀頭の生臭いにおいが手につく可能性が高くなることも学習した。

  風呂では亀頭を全部露出させてお湯に浸けるのを日課とした。毎日剥き剥きと繰り返していれば、皮は弛んできて、亀頭への引っかかりと締め付けは徐々におさまっていった。

  今までが過保護すぎただけに、ちんちんはメキメキと強くなっていく。その実感と成長の喜びが糧となった。多少剥き慣れてきたってだけで、相変わらずのドリちん具合ではあったけどな……。

  すんなり事が運ぶばかりではなく、何度か不慮の事故――お湯の刺激で湯船の中に射精してしまったこともあった……。どうせ最後に入るおれが掃除担当だし、まあそこは目を瞑ってほしいところだ。

  オナニーのやり方だって変えた。

  元々は、すっぽりに被った亀頭をぎゅっぎゅっと絞るようなやり方だった。イきそうになる直前で皮を摘み、その中にびゅくびゅく射精するという、ネットで異端扱いされる典型例だ。

  ただ、この独自のやり方はおれには合っていた。体質なのかわからないけど、精液の量が多かったから、安全な皮の中に一時的に溜めておけるのは一応理にかなっていた。あとはまあ、おれの逸物は竿が極端に短い分、亀頭はしっかり目に張ってて太く、単純に握り心地がいいからだ。

  そうやって、皮の中に射精を繰り返してちんちんを水風船みたく膨らませていたからきっと皮が伸び伸びになってしまったのだ。包皮の口だけが一向に狭いままにな……。知ったときには手遅れだったけどさ。

  ともかくオナニーするときだって、意図的に剥いてするように変えてみた。終始剥きっぱなしで扱いても射精までいけるようになった。

  余談だけど、被せたままで扱き続け、果てる瞬間に合わせてズルリと勢いよく剥きあげると結構気持ちいいオナニーができる。本当は亀頭だけ刺激するのが増大という面においては最適らしいが、すぐにイってしまうので結局そのやり方に落ち着いてしまった。

  トイレにお風呂に、オナニー。ちんちんが出る場面で積極的に鍛えていった。日々手応えがあった。いいループに入れたと思った。

  亀頭を直接触るのだって、ある程度は大丈夫だ。皮の中に指を突っ込んで食べさせるのもなんのその。あんまりクニクニいじるとすぐに出ちまうのはここだけの内緒ってことで……。

  ドリちん改善計画は順調に進んでいく。ズル剥けには程遠いものの、二週間弱で圧倒的に進歩したのだから希望は見える。

  ある日の稽古終わり。

  友でありライバルでもあるフミヤとシャワーが一緒になるタイミングがあった。

  相撲部専用の風呂場は小さめの浴槽一つに、シャワーが四基設置されている。

  季節は秋の終盤とはいえ、稽古後は常に汗だくになる。汗をかいた状態で、しかも下校時間が遅くなるので、好んで風呂を沸かすやつなどいなかった。浴槽の使用については、前の顧問が予算云々で憂いていた経緯もあり、今の顧問もあまり使いたがらせない。そんなわけで、基本はシャワーだけで手早く済ませている。

  浴室内はフミヤが先にシャワーを浴びている他は誰もいなかった。

  「いっちゃんか。お疲れさん」

  「おう」

  フミヤの体格はおれよりも一回り小さい。とはいっても、おれが学年最大級なだけでフミヤも身長175センチを超えており、体重だって余裕の三桁台だ。

  貫禄のある体型ではありながらも、バーニーズらしく大きく垂れた耳と、丸い眉の印象そのままの物腰柔らかい性格でとても人懐っこい。実際、フミヤとは体験入部で出会った日からすぐに打ち解けることができた。おれのことを「いっちゃん」と呼んだのもフミヤが初で、あのクセ強大将のことも唯一「ちゃん付け」で呼ぶ。

  これは完全に余談だが、フミヤには「イツキ」というおれと同名の弟がいるらしい。自分の中で区別するためのちゃん付けらしいが、なぜおれのほうが「ちゃん」なのかはわからない。

  「今度の合同稽古までにあと2キロつけたいな」

  独り言のようにフミヤがつぶやくのに、「うん」と曖昧な返事しかできなかった。

  合同稽古も体重管理も大事であることに変わりはない。ただ、この頃は部活のことよりも男のシンボルについて興味の比重を持っていかれていたので、どうしてもそっちのけになるのも仕方がなかった。

  「フミヤ。あのさ」

  「ん?」

  「全然関係ないこと訊いていいか?」

  「いっちゃんがそんなふうにいうなんて珍しいな」

  フミヤとはいわゆるシモの話をしたことがなかった。だから切り出すのに勇気と前置きが必要だった。勇気を出してでも、聞いておきたかったのかもしれない。

  「修学旅行の風呂で、おれら『ドリちん』っていわれたやつ。あれ、どう思った」

  声はシャワーの音に掻き消されて小さかった。フミヤにはしっかり聞こえていたようで、すこし驚いた顔をされた。

  「あーあったね、そんなこと。いっちゃん気にしてんの」

  「ま、まあな」

  フミヤがそのときどう思ったか知りたかったのに、逆に気にしていることを見抜かれてしまった。おれはフミヤの前だと正直者になるらしい。

  「おれは別になんでもいいかな」

  フミヤは頭を洗いながらけろっと答えた。

  「そうか」

  平静にいいながら、内心では驚いていた。勝ち気で負けず嫌いのはずのフミヤが、あまりにあっさりと土俵を降りてしまったのだ。

  「小学生みたいじゃない? おれらだって身体小さいやつのこと、チビだ、ガリだっていえるけど、そんなのわざわざいわないじゃん。ヒロちゃんのことはビビってノーコメントだったしさ。卑怯だよ、あいつら。……ヒロちゃんはちょっとでかいかもだけど。おれ納得いかないな」

  しかし口ぶりはいつもより尖ってて、饒舌だった。ドリちんをイジられたことに怒っているよりかは、あいつらのガキっぽいやり方に対して怒っているようだった。

  「確かに」

  そのとおりだ。激しく同意すると同時に、フミヤを出し抜いてやろうという当初の想いが消えかけていくのを感じた。

  「ちんこのことは別に気にしてないけど、そこだけ気になったかな」

  この件でフミヤと勝負するのは、それこそガキっぽい。一方的な勝負をふっかけるなど、スポーツマンシップに反する。あいつらと同列になってしまう。

  加えてフミヤは、はなからそこで勝負する気などないらしい。フミヤの実直な性格から察するに、たぶん、努力や実力ではいかにもしがたい分野(正当な評価がされない分野ともいえる)では勝負の価値がないと判断したのだろうとも推測がついた。

  聞けてよかった――聞いておいてよかった。

  ドリちんから脱却し、ズル剥けを目指すことは、今は話さないことにした。聞かれたら正直に答えようとは思うけど、これは自分の、おれだけの勝負にしようと思う。

  一人で闘って、一人で満足するしかない。でもきっとそれで正解だ。

  おれは心身ともにさっぱりした状態で家に帰れた。

  昨日、抜かずに寝落ちしてしまったのが原因なのか、明日提出の課題に取り組んでいる最中ひどくムラついていた。右手でペンは持っていても、左手は常にパンツの中に突っ込んでいる。意味もなく無心に揉みしだいているから、ものすごく効率が悪かった。

  ぱっと思い浮かんだ策は二種類。

  一つ目、気分転換に一発抜いてから再スタートを切る。

  二つ目、今日に見切りをつけて明日の早朝に追い込みをかける。

  うーん。どちらも冴えないアイディアだった。冷静に考えると、両者とも相応のリスクを孕んでいることに気づく。

  まず一つ目。これは抜いた後そのまま再起不能に陥ってしまう可能性が非常に高い。ただでさえ得意な寝落ちが、オナニー後の快感でさらに後押しされるのは実体験からも学習済みだ。

  二つ目はそもそも起床できない未来が目に見えている。通算の勝率は二割を下回っているのだ。信じるに値しない。

  さて。どうする、おれ。どうすれば助かる? どうやってこの状況を打開する?

  考えてる最中も左手は股間にあり。

  モニモニモニ、クニクニクニ……。

  だめだ、気持ちいい。止まらない。無限に触れてしまう。

  ん?

  無限に触れる? 止まらない? だったら――。

  ふと、頭の中でピンポンと、早押しクイズのボタン音が鳴った。

  触ってしまうのなら、触れないようにすればいい!

  さっそくおれは思いついたばかりの第三のアイディアを実行に移した。

  「っつぅぅぅ〜! 動けねーっ!」

  トランクスの生地が亀頭に触れている間じゅう、目覚ましよりも遥かに強力な刺激が送られ続けてくる。指とは違い、布は摩擦力が段違いだ。動けないとなれば、目の前の課題に全力集中するのみだった。

  動くと擦れる。擦れるとやばい。マッチみたいに火がつきそうだ。

  だがこうして家でじっとしている間の微々たる刺激にも耐えられなければ、外なんてもってのほかだ。そう、これは本修行に備えた元修行でもある。

  へへへ……千里の道も一歩からとは、このことをいうんだぜ。

  剥き癖修行に比べると、これっぽっちの課題など取るに足らないものだった。

  一度集中モードに入ってしまえば、結局日付が変わる前に終えられた。やればできるおれ、イツキだぜ。

  皮はうまい具合にカリに引っかかっていたおかげか、途中で被さることもなく、今日はとことん調子がよかった。

  こうして小さな成功体験が積み上がり、自信に繋がってゆく。今のおれなら明日一日剥きっぱなしで学校にも行けそうな気すらしていた。本当に、そのくらい強気で勝ち気だった。

  そのせいで横になっても眠気は一向に訪れなかった。目を瞑ってもなぜか視界がパチパチと明るく弾け、自然に目が開いてしまう。そうしている間にも下腹部がズキズキと疼きだし、ちんちんの付け根とケツの穴がキュッと締まる。腹の奥の方で熱を発し続け、頭の方まで血が昇ってくるといよいよ寝付けない。

  「んっしょ……っと」

  身体を起こして勉強机の明かりをつける。椅子に座り、下半身を全部露出させていた。ほとんど無意識で、淫魔に取り憑かれているかのような、とても滑らかな動作だった。

  勃ちきっても二桁センチに届かない粗末なそれを手で包み込む。熱い。身体の中でそこだけ風邪を引いているみたいに、異様な熱を肉球に伝えてくる。

  ゆっくりと皮を剥いてみる。剥き出しになったそこを再び手のひらで優しく包む。

  「んんっ、ああぁ……ふーッ……」

  中身はもっと熱かった。外壁がなくなって、より一層熱源に近づいた。

  皮が戻らないように根元を左手で支え、右手は亀頭に触れて、最初は優しく擦る。段階的に強く擦っていく。

  ただひたすらに気持ちが良かった。幾度となく繰り返してきた自慰によっても快楽を受容する感覚は衰えることなく、その日の気分によって快感が研ぎ澄まされていくのは今日も同じだった。

  「はあっ……! ふぐああっ……!?」

  刺激を跳ね返そうとしているのか、ちんちんは内からムクムクと膨らんでいく。表面に血が滲むくらいに真っ赤に、限界まで怒張したところで、割れ目から粘り気のある汁が滲んできて、やがてとぷっと溢れ出る。

  おれは……いや、おれのちんちんはいったい何に興奮しているんだ。こんなに熱く、硬くなって、煽るような汁まで大量に分泌させて、何をさせる気なんだ……。

  本当はわかっている。おれの身体は今、猛烈に射精を求めている。昨日と今日、たった二日分かもしれないが、体外に放出してしまいたい。そうしないと頭がおかしくなりそうだ。

  強烈な射精欲におれは取り憑かれている。理解できてもなお手淫の主導権は取り戻せなかった。手が勝手に動いちまう。人差し指と親指はそれぞれが謀ったかのように、亀頭全体へと粘液を塗りたくっていく。

  亀頭を覆った先走り汁を、今度はちんちんを絞るように皮を被せていくことで先っちょの余り皮に集めてみる。おっかなびっくり、両指で皮を摘んで引っ張ってみると、透明なプールができあがった。すげえ……こんなに溢れかえる量はなかなか出せないぞ。おれは自分の息子が秘めているポテンシャルにひどく興奮と感動を覚えた。大きさには恵まれなかったが、汁の量なら負けそうにない。ちんちんも応えるように液の分泌を続けた。

  一旦、包皮にプールした大量の粘液を解放する。ローションを代替できてしまう恐ろしい量のヌメヌメをちんちん全体に広げ、またゆっくり剥きあげる。

  (うおっ、これは……使えるかもっ!)

  剥ける時のスムーズさが増している。調子に乗ったおれは指と皮を使って敏感な亀頭にも塗り広げていく。

  今まであまり剥いてこなかったせいか、汁に頼らずとも十分な滑らかさを持っているのだが、さらに拍車が掛かって指で摘むのすら困難な具合になってしまった。情けなくもちゅこちゅこと亀頭をいじくって、指にまとわりついた糸引きを楽しむおれと、おれじゃない誰か。

  強くシゴいてイってしまいたいのに、焦らしは一向に続く。続けているのは他ならぬおれなんだが……この状況はなかなか興奮する。

  三本指できゅっと潰すように力を加えると、

  「んんっ……!」

  漏れる声を必死に押し殺して、切ないこそばゆさを体外へ逃す。快感の逃げ道を確保しつつ、しかし更なる快感を追い求める矛盾さで手は意思に逆らい続けた。ちんちんは嫌がるようにピクッピクッと連続反応を起こし、へその方に反り返るように(といってもへそには全然届かん……)暴れまわる。

  オカズは必要なかった。ただ背もたれに身を預け、贅肉を盛大に揺らしながら手を小刻みに動かしている誰かがいた……。

  (ンだよ今日、やばいって……な、んで……こんなにっ、ああああぁもう……イく、かも……)

  感度はいつもに比して特盛だった。そしてこういうときは後悔するくらいに精液を飛び散らせてしまうことも知っていた。安全策をとって、カリ首に巻きついた皮を戻そうとしたその瞬間に、

  「はッ……うあ、あっ、あああぁぁ……んッ……だめ、だっ、いっ……!!」

  タイミング悪く絶頂は訪れる。

  「くうううううっ!!!」

  久しくやっていなかった従来の方法を手はしっかり覚えていて、とるべき緊急行動を行なっていた。つまり、皮の中に思う存分吐き出した。

  「うあああああっ、ぐあっ……あああっしゃせえ、止まんなっ……!?」

  ……はずが、勢いが強すぎて、指の隙間から熱々の液が滴り落ちていく!?

  弁が壊れたちんちんは制御不能。ストップだという制止を無視し、金玉はありったけの精を惜しみなく送り出す。

  精液を皮の中に溜め込んだちんちんは巨根だと[[rb:嘯 > うそぶ]]けるほど膨らんで、醜くも歪な見た目がさらに射精欲を増幅させた。当然、射精はまだおさまらずに内圧が強まる一方だった。

  いよいよ指で蓋をし続けるのも限界になって、

  「んやあっ、まずいっ……!?」

  大容量の包皮をもってしても受けとめきれず、はち切れるように皮からこぼしてしまった。

  慌てて左手で受け、生温い液体の感触を感じとる。

  (うわあ、手がベトベトに……)

  その瞬間、もういいや、と諦めた。オナニーはいつだって惨めで情けない。

  「うはあああぁぁぁ…………やっ、ちまっ、たぁー…………」

  しかし脱力するにはまだ早い。左手と、皮のタンクに溜めきった液の処理が残っている。

  いったい、今回の射精量はどのくらいだろうか。後処理の面倒さよりも単純な興味が勝り、右手の栓を緩めてみることにした。

  白く濃度の高い液体が包皮から流れ出てくる。エロ漫画なら「ごぽっ」とか「どぷぅ」というヤラシイ擬音が付けられるに違いない。大量の精液は体外に出された瞬間からむせ返りそうになるほどに青臭く、鼻腔を鋭く突き、くらくらとした背徳感すら覚えさせる。

  「うおっとと! すげー量だ……!」

  片手だけでは到底受けきれない量に胸の高まりは治まらない。部分的には自尊心によるものでもあった。おびただしい量の精液によって、立派な大人になれた錯覚が湧き上がって誇らしさすら生まれてくる。通常では考えられないが、賢者タイムをすっ飛ばして、だ。

  ちんちんも金玉も大きくはないのに、どこに溜まっていたんだろうな?

  両手から溢れるくらい出たのは初めてのことだった。たったの二日で最高記録を更新できるなら、もっと禁欲すれば記録の塗り替えは容易いかもしれない。ちんちんは一旦萎えても興奮がおさまらなかった。

  そんな感じでリラックスモードに入るどころか、抜いた直後のくせに謎に昂っていて、結局三回もシコった挙句、部屋のティッシュを使い切ってしまった。

  翌朝になっても、昨夜の栄光を忘れられずにいた。つまり、気持ちにスイッチが入っていた。おれはいける。剥きっぱなしでも、きっといける。

  そうとなれば、一度試してみる他ないように思えてくるからふしぎなものだ。途中で無理になればさっと戻せばいい。

  おれは家を出る前に、トイレで皮を捲って、そのままパンツもズボンも穿いてみた。

  (い゛っでえええええ〜っ! なっ、なんだよぅ、これ!? 歩けるのかっ!?)

  痛みの程度は当然といえば当然だが、安静にしているより擦れる頻度が爆上がりな分、激痛の一言に尽きる。

  マッチは擦らなければ着火しない。それは昨夜までのことだ。今日はガシガシ擦れるのだからすぐに火が着く。全方位から針に刺されたみたいにちんちんが痛む! 熱い! 腫れる!

  生物的な本能が(やばい!)と警告を出している。

  亀頭を安全な包皮シェルターの中に押し入れてやりたくなったが、しかし遅かれ早かれこうなる運命ではあるんだよな、とおれはすんでのところで踏みとどまった。ここで辞めてしまっては一生ドリちんのままだという反射的な不安も手伝った。

  既に冷や汗の量が尋常じゃない。顔だって青白いに違いない。泣けるなら泣きたい。それでもなんとか剥けた状態を保って家を出ることができた。

  歩くたびに腰が引けて、自分でも何がしたいのかわからないくらい滑稽な歩き方をしている。足を痛めた怪我人のふりをすることで雄としての尊厳を守ろうとしたけど、たぶんバレてるだろうな……。

  ちんちんの皮ひとつで朝から安っぽい芝居を打つハメになるなど、なんとも情けないことか。しかしそれも、ドリちんの屈辱を思い出せばなんとか乗り切れた。

  這いずるように、死ぬ気で教室に辿り着いた。

  「いっちゃんおはー」

  「おはよ……ちょっ、トイレ」

  「おしっこ我慢してたのかよ」

  「ん。そんなとこ……っ」

  同じクラスの鷲獣人であるユウジが嗤ってくる。勘違いされているが今は惨めでいい。席に鞄を投げるように置き、トイレへと急ぐ。

  小便器はほぼ占有されていたが、幸いにも個室は空いていた。なりふり構わずに一目散へと駆け込んだ。

  「今のいっちゃんじゃね?」

  「おーい、いっちゃんかー?」

  「イツキー」

  名前を呼ばれてビクッとなるが、安易に応じてはならない。

  ごめん。今はちょっとそれどころじゃない。そのまま黙っていると、奴らは帰っていったようだった。

  ひとまず安心。息を殺しながら、擦れないよう慎重にズボンを脱ぎ下ろす。

  パンツの中を見るのが怖いと感じたのは今日が初めてだ。パンツの中で皮が剥けた状態なんて、よくそんな急所をむき出しにできるもんだ……。

  パンツを脱ぐまでもなく、明白な緊急事態が一つあった。

  悪い予感のとおり、亀頭がトランクスに貼り付いてしまっている。ちょうど強力接着剤が指どうしを粘着させたみたいに、ぴったりと。すぐに直感した。これはまずい、とても。

  絶望的な状況ではあるが、しかし一方でこれ以上無理に擦れないという好ましい側面も考えられた。このまま放置しておくのがいいのだろうか。

  剥がすとき死ぬほど痛むのは目に見えている。でも……亀頭の状態を確認しないまま今日一日を過ごすことの方がおれには怖い。家に帰ったときに細胞が死んでたり、出血したり、それこそ二度と剥がせないまでに貼り付いていたら目も当てられない。

  体育の授業はないが、放課後になれば……そうだよ、まわしを巻くときにパンツを脱がなければならねーじゃんか!

  とりあえず現状確認のため、パンツのゴムをぐいっと引っ張り中を覗き見る。

  反転して真っ赤に腫れ上がった包皮が痛々しく目に映るほか、見立てのとおり亀頭は生地とべったり。その惨状を見て気づく。恐怖と緊張で極度に縮こまっているのにもかかわらず、皮が戻らなかったのはこのおかげだったんだ……。モサ毛とパンツを巻き込まなかっただけマシなように思えた。

  冷静な分析もほどほどに、早いこと癒着を剥がさなければ。ホームルームに間に合わないぞ。

  おれはフンと息を吐いて意を決した。

  左手でちんちんの根本を摘んで固定し、右手でトランクスをゆっくりと剥がそうとした瞬間――

  「ぃギいっ……!?!?」

  声に、出た……。これ無理だ。人生で一番痛かった……。

  おれはこの世のすべての理不尽を憎んだ。なんでこんな目にあってまでズル剥けを目指さなければならないんだ。勝手に剥けていくやつとの差はなんだんだ。おれがいったい何したっていうんだ!?

  まあ何もしてないからこうなってるんだけどよぅ……。

  しかしどうしようか、本当に。恥を忍んででもフミヤに対処法聞いときゃよかった。フミヤのちんちんが剥いたときにどれぐらい耐えれるかは知らないけど。

  今できることはないかと、頭を働かせていたら、ふと思い出していた。

  あーこれ、あれだ。肉球切ったときに絆創膏を剥がすのとすこし似てる。おれのちんちんは糊みたいな粘膜になってて、だから死ぬほど痛いんだ。

  絆創膏を一気に剥がすのはもちろん痛む。ゆっくり剥がせばいい。それは今やった。でもだめだった。じゃああと、何してたっけ、と考えたときに、湯船の中だと糊がとれやすいことを思い出せた。そうだ。結局はお風呂が解決するんだ。

  しかしここはトイレで当然お湯などは出ない。なす術なしかっていうと……そうでもないんだよなぁ、こ・れ・がっ!

  そこで出てくるのが、おばあちゃんの知恵。オールマイティな“唾つけとけば治るよ”だ。おばあちゃん、ありがとう。おれ、覚えてたよ。

  汚いのとみっともないのを我慢して、おれは赤ちゃんみたいに右手をしゃぶって、いっぱいいっぱいに唾液を染み込ませた。

  痛みに唾液が沁みないのは経験則上わかっていた。いくらか安心して、貼り付いているトランクスの上から唾液を潤沢に塗り広げていく。

  擦れすぎないように慎重に……!

  「うぁ、あっ……んぁっ、あひいいいいんっ……!」

  死にかけた魚が水で生き返るように。乾燥してひび割れた土地に雨が降るように。ちんちんも同様に生命の潤いを取り戻していく。……気色の悪い声と引き換えにだけどな。

  唾液パワーは強力だった。カピカピに膠着していたのが、いとも容易くぬるっと解放され始める。そのままパンツを引き剥がせばクリアだ。そこが最終関門だっ!

  最後まで気を抜かないように、慎重に慎重を重ねて、

  「あっ、ぐあああっ……」

  ゆっくり、ゆっくり、

  「っ……くふぅぅぅ〜っ……!」

  かつてない痛みに耐えながら、

  「うっ、あっ、ああっ……もぉちょい、ひゃんっ、あっ、いっいける、イけるよぉ……」

  そして最後の癒着を、

  「いよっしゃああああああああ!!」

  ――剥がした。

  その後は想像に難くないと思うが、ドリちんに戻しておいた。戦略的撤退というやつだ。

  すっぽり100%! ああなんて落ち着くんだろう! やっぱりこれこそおれのホームポジションだ。守られているって素晴らしい。

  皮の重要性を再認識し感謝すると共に、無理をしないことが一番だと身をもって学んだ。命あってこそのズル剥けだ。

  惨めな結果にはなってしまったが、もうすこし慣らしながらやっていこうと、おれは教室に戻った。

  「いっちゃん? 汗すごいけど」

  ホームルーム開始にはまだ時間があって、後ろの席のユウジが話しかけてくる。

  「デブは汗かきなんだよ」

  「いや、それは知ってるって」

  ユウジはトイレが長かったことについて、訝しんだ顔をしている。弁解しようか悩んだが、「賞味期限の切れた食いもんでも食って腹下したか」とナイスな勘違いをしてくれたので、乗っからせてもらった。

  ちなみにユウジはおれのドリちんいじりには参加していなかった。というのも、ユウジのような鳥種族の獣人はおれらみたいな哺乳類とは違って、ちんちんがついていないからだ。

  修学旅行の合同入浴のとき、耳をそばだてていただけなのでよくわからんが、ユウジはカクノウシキ?ソウハイシュツコウ?らしい。

  見た目はまん……スリットのような割れ目があって、その中からにょきっと出てくる、というような話をしていた。結局、連中の耳目を集めたのはユウジのちんちんだった。おれら相撲部組のお粗末で見応えのないものより、ギミックのある方がウケるようだった。おもちゃかよっ!

  おれもユウジみたいなタイプのちんちんだったらよかったのにな。男のくだらない見栄の競争から離脱しているユウジが羨ましく思えた。

  「可哀想ないっちゃんに今日の出題。これは賞味期限まだまだあるから安心してな」

  ユウジはおれの特技である“利きお菓子”にたいそうハマっている。おれは毎朝お菓子を目隠しした状態でもらって、百発百中でぴたりといい当てる。入学したての頃、自己紹介で披露した特技はみんなから注目されてお菓子を募るのにたいそう役立ったが――次第に飽きられ……もらいすぎて呆れられたが近いか――ユウジだけは今も出題を続けてくれている。

  難なく今朝の出題分も正解する。

  「いっちゃんってばすげーよ。お腹壊してても変わんないんだな」

  「へっへん。おれの舌と鼻は世界一だからな」

  「ワインソムリエとかできるんじゃないか」

  「えっ、ワインはわかんないけど……」

  「そりゃそうだろ、まだ未成年なんだから」

  雑談に興じる傍ら、嘘をついた後ろめたさとユウジを羨ましがるあまり、話がなおざり気味になっていた。ユウジにはおれの気苦労が理解されないんだろうなあとも。

  それとも鳥種族には鳥種族特有の悩みがあったりするんだろうか。立ちションしにくそうとか、そのくらいしか想像できないけれど。

  フミヤに悩みを打ち明けたときのように、他人のシモ事情についてばかり思考を割いてしまっていた。

  昨夜の栄光から一転して惨めな滑り出しで始まり、一日を通して気分は上がらなかった。放課後、稽古の時間になれば並大抵のことは切り替えられるはずが、心を覆うもやは消えないままだった。

  そんなおれは後輩たちのまわし締めの補助に入っていたときも、それぞれの股間部を横目にチェックしてしまっていた。

  小中高と相撲を続けてきて、イレギュラーなやつは見たことがなかった。要するに、大きさ形に差はあれどほとんど誤差だった。平等な世界だったので、かつて一度も気にしたことなどなかった。

  しかし一度でも気にし始めてしまうと、抑えが効かなくなってくる。厄介なことに一時的な劣等感などではなく、本格的にコンプレックスを発症してしまったのだと思う。

  「しっかり持っとけよー」

  「あーい!」

  今まわしを締めてやっているのは一年の[[rb:白風友紀人 > しらかぜゆきと]]――サモエドの小柄力士だ。小柄といっても、相撲部基準での小柄なので、体重的には一般の男子よりも重く、肉付きも良い。

  シラカゼは持ち前の童顔と愛嬌の良さで部内外問わずにとてもかわいがられている。むさ苦しい相撲部における唯一のマスコット的存在でもある。

  「イツキ先輩! アリガトーっす!」

  高校生にもなった男からはおおよそ聞くことができない、舌っ足らずで愛らしい声のシラカゼ。相撲部なのに男臭くない身体的特徴もあってのことか、一定数のファンを獲得している。

  おれだってシラカゼのことは気に入っている。シャワーが一緒になったときには背中の流し合いなんかもするし、休みの日にシラカゼの家に遊びに行くぐらいには仲がいい。

  そのかわいい後輩にすら負けているというのは、やはり雄として屈辱だった。

  おれはずっと、みんなを同じ仲間だと思い込んで都合の悪い事実から目を逸らし続けていただけなのかもしれない。負の思考が負の感情を呼び寄せ、自己嫌悪に陥りそうだった。

  ところが、いざ稽古が始まってしまえば身は引き締まった。まあ、そうせざるを得ないのが実際のところだな。

  集中力を欠いて生半可な気持ちでぶつかり合っていれば必ず隙が生まれる。怪我もする。おれはいつも以上に柔軟で体をほぐしておいた。その甲斐あってか、満足のいく四股を踏むことができた。

  足腰を鍛える基礎稽古が終われば、次は交代で実戦形式の「申し合い稽古」を重ねていく。「申し合い」とは簡単にいうと、指名制の勝ち抜け戦だ。れっきとした稽古とはいえ、練習でもあるので何回でも挑むことができる。

  そしてこの申し合い稽古は大将から指名をもらうことで始まる。

  「イツキ!」

  (くると思ったぜ)

  指名してきたのは、[[rb:大虎広貴 > おおとらひろき]]。名前のとおり見事にデカい虎だ。同期でもあり、我らが相撲部のキャプテンを務める。

  ヒロキとおれはほぼ同体格――巨体であんこ型な力士だ。戦法はまるで異なるが、実力も拮抗している。

  指名を受けたおれは土俵に上がり、子どもっぽくニッとした笑みを浮かべている大型肉食獣と見合う。

  ヒロキを一言で表すなら「やんちゃな戦闘民族」だ。要するにクセ強。おれとフミヤが正統派なストレート勝負で仕掛けるタイプなのに対し、ヒロキは動きを読ませないトリッキー型にあたる。特定の型がないともいえる。

  俺の動きを読んでみろ。楽しませてみろ。戦闘狂の虎とぶつかっているとき、全身からメッセージを感じることがある。おれより数センチ数キロ身軽なだけで、そんな動きとれるか!? とよく翻弄されるが、熊と虎の種族差みたいなもので、ヒロキの俊敏さにはシラカゼの小柄さをもってしても敵わない。

  ヒロキのやつ、今日はどう楽しむつもりだ。いつだってエキサイティングなヒロキとのぶつかり合いは心臓を心地よく拍動させる。

  目を見つめたまま土俵に拳をつけ――立合い開始。

  ヒロキが弾丸の如く飛んでくる。おれは歯軋りしそうなくらいに食いしばり、全力で迎え撃つ。僅かにずり下がってしまったが、なんとか当たり負けはしなかった。

  「のこったのこった!」

  フミヤの柔らかくも快活な声がよく響く。

  そこからすぐに千手観音を連想させる連続張り手が炸裂した。こちらも狙いを合わせて応戦するが、相手の勢いが上回る。

  (今日は案外正攻法の気分なのか?)

  やがて上半身が密着し、互いにまわしを引き合ってがっぷり四つ。

  やはり真正面か。これもヒロキの常套手段だ。膠着状態にもっていき、持ち前の技巧でケリをつけるのが狙いだろうと踏むが、次にヒロキの繰り出す手を深読みせず、とにかく踏ん張りに踏ん張って、一刻も早く押し出すことを優先に、次なる動きを頭の中で構築していく。

  ヒロキを「投げ手」で倒すのは得策とはいえない。まるで液体の猫のように力をかわしてくるので、自滅の元となる。寄り切りにもっていこうものなら、ヒロキはあの手この手でピンチを我がものにする。何度それで下されてきたことか。

  だったら短期決戦が吉! ヒロキの策略にハマらないためにはやはりそれしかない。

  「ふんっ」

  思わず声に変換されてしまうほどに全身の力は溢れた。しかし腕力がまわしを通じて伝わらなければ、絞り出した力も意味をなさない。

  (厄介なネコちゃんだぜ……!)

  おれには専門外の応用物理学的なアレで、ものの見事に受け流してくる。まわしは掴めていれど思うように力が伝わらず、翻弄され気味なのはこちらだった。

  なるほどな……。真正面から力勝負で仕掛けてくると思わせておいて、最後は得意とする領域にそれとな〜く持ち込ませる。最大の武器であるしなやかさでこちらの力を封じ、消耗を狙う。みんなが大将と当たりたがらない理由……それがまさに今の状況の全てだ。

  しかも厄介なことに、こいつは部内でおれに次いで重い。巨体を自由自在にしならせるだけの筋力も体力もピカイチで隙がない。おれに有利な要素といえば、僅か数キロの体重差と、ここ一発の踏ん張り力ぐらいだ。当たり前だが、その最大火力を発揮できる突破口は滅多に与えられない。与えられたところで、反動の隙を突かれてしまう。

  上手い。もはや武術の領域だ。ヒロキには生まれ持ったセンスがある。

  戦況は変わらず、まわしを取ったままお互い動かない。仕掛けるタイミングがわからなくなった。ヒロキはこの膠着状態すらも楽しんでいる。いや、ヒロキにとっては場の停滞でないのか。だからそんな不適な笑みを浮かべる余裕があるのだ。相手の精神的余裕さが余計におれを焦らせる。

  体力の底が見えてきたおれはもうなりふり構ってられず、とにかく暴れに暴れた。出せる手は出せる時に何でも出してみた。なんとも泥臭いが、追い詰められたおれに残されたのは悪あがきだけだった。

  申し合い稽古は本日一発目にして、過去トップ3にも入るような長丁場となった。

  結果的にはヒロキの黒星。おれの突き出しが運良くクリティカルヒットして、ヒロキは後方にバランスを崩した。

  (なんっじゃこれ! ヒロキのやつ、メチャクチャやってくれんな……。くう、疲れるぜー……)

  湧き上がる歓声の中、勘弁してくれよと思いながら、

  「ハイハイハイハイハイっ!!」

  誰よりも尻尾をはためかせてアピールの激しいシラカゼを選んでやった。

  息つく暇もなく、そのまま二試合目に。

  相手は経験年数の浅い後輩で、こちらも消耗しているとはいえ、そこは本気のぶつかり合い。

  先ほどまでのはしゃぎようとは打って変わり、シラカゼは闘志を目に宿し、誠心誠意組み合った。

  「どーっ!?」

  シラカゼは初速こそピカイチだが、迫力には欠ける。おれとだと体格差が激しいから、そこは仕方ないんだけどな。

  「わわわっ!」

  シラカゼには悪いが、ヒロキの後だとすんなり投げ手が決まる。それでも夏頃よりは圧倒的な粘りを見せているのだから、この調子で励んでくれたらいい。

  「イツキ先輩、やっぱチョー重てーっす! チート級!」

  シラカゼはペロッと舌を出した。

  「体重は必須じゃないぞ。シラカゼの戦い方だとかえっていいところが薄れる」

  「ホントっす?」

  「ああ。もうちょい筋力は必要だけど、脂肪はそんなにかな。それかいっそおまえも突き抜けて重たくなるかだな。三桁の世界に来てみるか?」

  「わはっ、なにそれ! オモハラっすかー!?」

  シラカゼの咄嗟の返答に、道場の空気が適度に緩和される。

  シラカゼは緊張と弛緩のバランスが上手い。さすが愛嬌の塊だ。それもシラカゼの色だから、なんとか実戦に活かせないだろうかとおれは思う。体格差をひっくり返せるような何か……。俊敏さだけに頼らない別のオンオフ……。

  そうだ。アレがあるじゃないか。小兵力士の常套手段たる「ねこだまし」なんかは一つの手だ。習得したら面白い試合が見れるかもしれない。

  最近だと相手の体重を利用し返す技巧を身につけつつあるから、組み合わせと習熟度合い次第では化けるぞ。

  ヒロキとぶつからせたら今のシラカゼは何を武器として選ぶだろう。いやらしく人を追い込むヒロキとのぶつかり合いだ。自然と正攻法以外の能力が鍛えられるんで、手札から選ぶ力を通り越して新たに見つける可能性だってある。どうもそのあたりのヒントは大将が握っているように思えてならない。今度ヒロキに伝えてシラカゼと当たらせよう。

  そんなふうに、シラカゼが来てからというもの、後輩や同期の観察を深めるようになった。本人たちが気づいていないクセや、逆に使えそうな手など、積極的に見出すようになっていた。

  時に提案し、挑戦してもらい、また改善する。そうやって、おれたちの部は集合体として強くなる。

  こと相撲に関しては、おれ自身が一強になる気はないので、観察を通したサポートが自分の使命のようにも感じている。

  圧倒的な重さと力で捩じ伏せるだけが相撲の全てではない。十人十色の戦い方があって然るべきだし、おれもその方が好きだ。シラカゼのように体格でハンデを背負ってる者もいるけど、それでもみんな挫けずに自分なりの色を見つけようとしてくれている。

  おれたち二年生は見てきたから知っている。体験入部の初日に真っ先に門を叩きに来たシラカゼが、誰よりも努力する姿勢を。不利を不利だと諦めずに、自分なりに強くなろうとしているシラカゼの与えてくれる影響が計り知れないことも。

  部として強くなるきっかけをくれたシラカゼに、おれは感謝していた。

  「イツキ先輩。シャワー入らないの?」

  まわし一丁にジャージを羽織り、せっせと今日の活動日誌をまとめているおれに、シラカゼが声をかけてきた。ナチュラルにタメ語で話されているが、今日に始まったことではない。別に今さら上下関係にこだわったところでなぁ……。もう引き返せないというか、シラカゼのペースに乗せられているのを良しとしてしまっている。おれ、そんなんだから体格の割にナメられんのかな?

  「後で入るよ」

  「後でって、何分後っす?」

  同じくまわしジャージ姿のサモエドは純粋無垢な顔で訊ねてくる。

  「十分ってとこだ」

  テキトーな返事に「ほんとかなあ」と、シラカゼは日誌を覗き込んできて、

  「あー! それ、おいらのこと書いてるっすね!? なになに、ねこだまし? おいらがオオトラ先輩と当たるの? ねこだまし練習して先輩に喰らわせてみるの?」

  ワーワーと邪魔を入れてくる。

  「稽古見てて思いついただけだよ。この辺りはまた大将と相談する」

  「そーなの! なんか楽しみだなぁ! イツキ先輩ってやっぱりすごい! ねーねー、もっと教えてよ」

  「……喋ってるともっと長くなるぞ。おれのことは気にせずに先入っててくれ」

  「えぇー! 最近イツキ先輩とシャワー一緒じゃなくて寂しいのに!」

  「なんだよ。一緒に入りたいのか?」

  「うん!」

  うんって……。小学生か。シンプル元気のいい返事におれは苦笑いを浮かべるしかなかった。

  シャワーねぇ……。正直いうとおれ、気分的に裸を見られたくないっていうか……。

  「久しぶりに背中の流し合いしましょーよ! ね、ねっ?」

  「フミヤ今入ってるだろ? やってもらえよ」

  「ヤマシロ先輩はもう上がってくるよ。イツキ先輩と入りたいなぁ!」

  「なんで今日はそこまで一緒に入りたがるんだ?」

  たまたまシャワーのタイミングが一緒になることはあれど、こうして尻尾までブンブン振りながら誘ってくるのは初だ。ねこだまし戦術がそんなに響いたのだろうか。……もしかしたら、おれにしかいえない相談ごとでもあるのかな。訝しむおれに、シラカゼは耳元で囁く。

  「――イツキ先輩。今日まわし締めるとき、おいらのチンチンガン見してたよね?」

  悪魔的な小声に、おれの丸耳は瞬時にビクッと尖った。

  全身の血がヒヤッと冷める感覚……。言い訳無用と心が制止をかけるが、

  「…………たまたま目に映っただけだ」

  咄嗟にそう返していた。悪あがきは一応やっておくものだ。

  「うそうそ! メッチャ見てましたっ! おいら、チョー恥ずかしかったぁ!」

  シラカゼはイタズラっぽい笑みを浮かべ、わざとらしく両手で顔を覆った。

  「いいや、それはないな。仮に恥ずかしいとしたら、いつもフルチンで動き回ってるのはどう説明するつもりだ?」

  「ああ〜! やっぱり見てるんすね!! おいらのこと! そんな目で!」

  「おまえなぁ……先輩をハメるの良くないぞ?」

  元はといえばガン見したおれが悪いんだけど……そこはいわないでおこう。

  「えへ〜っ。おいらもイツキ先輩の、見せてもらおっかなー?」

  よりにもよって狙いはそれか。人にやったことって自分に返ってくるものなんだな。おれは頭を抱えたくなった。

  「……見たことあるだろ?」

  「そうだっけ? 忘れちゃったっす!」

  サモエドの少年はまたわざとらしく舌を出し、そんな調子でふんふんと鼻を鳴らし始めた。

  「と・も・か・くっ! せっかくだし一緒に入りましょ! 約束です! って、ああ〜! 掃除し忘れてるところ思い出した! イツキ先輩が日誌終わるまでに、おいらやってくるよー!」

  シラカゼは行動までもがすばしっこい。白々しい演技まで打たれて、無理やり確定させられてしまった。

  うううっ、まずい。まずくはないがまずい。……待て。それってやっぱり、まずいってことか。落ち着け、おれ。ああー……神様仏様女神様。三十分だけでいいからちんちんでかくしてくんねーかな……くんねーよなぁ。

  何が悲しくて負け戦を戦わないといけないんだろう。それも先輩としての――男の威厳がかかった勝負を……。

  いやいやっ。でも今日のシラカゼみたいに果敢に挑むのが真の漢ってやつなんじゃないのか! あああぁぁ、でも……っ、恥ずかしいなぁ。

  「いっちゃん、シラカゼ、お先! また明日な」

  「お疲れ様っした!」

  フミヤと後輩らが道場を後にすると、おれたち二人だけになってしまった。

  シラカゼは見送り終わるなり「おっ風呂! おっ風呂!」と機嫌よく尻尾をはためかせた。

  お風呂だと……?

  「待て待て。シラカゼおまえ、まさか風呂沸かしたのか」

  「うん、沸かしたよ。体も冷えてきちゃったかなーと。ちゃんと洗っておいたし、ねーいいでしょ?」

  さっきシラカゼがいってた掃除し忘れてるとこって、あの浴槽のことか……!

  唖然として言葉が出ないおれに、シラカゼは困り眉の上目遣いになっていう。

  「お、おいらマズいことしちゃった……? おいら干されちゃうっす……?」

  思わず顧問と大将の顔が浮かんだが、シラカゼのうるうるした瞳に見つめられちまうと、

  「いや……。んー、まぁ別にいいんだけどな……」

  謎の意地で強がってしまった。

  「ほんとに?」

  「ヒロキもそのあたりは無関心だ。いわないと大丈夫だとは思う」

  顧問はどのみち今日は不在だ。勝手に浴槽を使用する点はそれほど深刻ではなく、どちらかといえばおれの羞恥心による問題が大きいだけで。浴槽の使用について、念のため前の顧問から聞いた内容は伝えておく。

  「つまりつまり! おいらたちだけの秘密ですね!」

  「まあ、そうだな」

  「おいらのこと、ゼッタイ売らないでね?」

  「そんなことするか」

  「やったぁ! イツキ先輩のそういうところ、大好きっす!」

  シラカゼはぱあっと目を輝かせた。この切り替えの上手さ……やっぱりこいつ、デキる策士かもしれない。ってか、おれさ……いいように操られてる……よな?

  そんなわけで、まんまと丸め込まれたおれは一つ下の後輩と裸の付き合いをすることになった。

  「あっ! お風呂で前隠すのはマナー違反っすよ!?」

  掛け湯を済ませ、こちらを振り返ったシラカゼは股間のブツをぷるぷると揺らして文句をいってきた。

  「勝手にお湯を張るのもどうかと思うが?」

  「うぐうっ! そ、それはずるいっす、いわない約束っす!」

  「ふっ、ふははっ。さっきから急に強気になったり弱気になったりで忙しいな!」

  「もうっ! おいらのチンチン見るだけ見ておいてガードするなんて! そんなのだめっす、ビョードーにいきましょう!」

  「あっ! おいっ!?」

  油断したところを突かれ、タオルを引っぺがされてしまった!

  「へへーん。タオルは風呂上がりまで没収っ! ……って、往生際悪いなぁ?」

  咄嗟のことに驚きながらも、おれは守るべきところをしっかり覆い隠していた。ふう、手がデカくて助かったぜ。

  「返せよっ!」

  「うん、いいよ。でも条件付きね」

  条件?

  「簡単なことっす。その手をどかしてくれたら返すよ」

  シラカゼは得意げな顔で先輩たるおれをイジメてくる。これ、逆の立場だったら大問題だよな? 部内における性的イジメ問題だっつっておれが社会的に抹殺されるところを、一つ年下のこいつがやったところで誰も咎めたりしない。ああ、後輩ってのはこんなに恐ろしい存在だったかな……。

  「そこまでして見たいのか」

  「うん」

  素直に頷くシラカゼに理由を尋ねてみると、

  「……だっておいら、イツキ先輩のこと、もっと知りたいもん」

  耳を大きく倒して、声は小さくぼそっといった。僅かに頬を染め、同時にまた上目遣いを駆使して情に訴えかけてくる。

  「……な、なんでおれなんだよ……?」

  「意地悪っ。いわなくても、ホントはわかってるくせに」

  「え?」

  言葉選びといい目つきといい、シラカゼはあらゆるところであざとさを遺憾無く発揮してくる。たぶんそれも、けっこう意図的にだ。甘えてきている。おれを操ろうとしている。わかってるのに……おれは弱いっ!

  「こう見えてもおいら、イツキ先輩のこと、一番尊敬してる。おいらのことよく見てくれてるけど、それはおいらだって同じ。いっつも見てるから……イツキ先輩のこと。おいらもね、イツキ先輩みたいにかっこよくなりたいんだよ」

  おれだったら絶対に面と向かっていえない言葉を、シラカゼは眼を見据えてまっすぐにぶつけてきた。でまかせでないことはつぶらな瞳が証明していた。おれは当然、一歩も動けなければ言葉も返せなかった。シラカゼの馬鹿正直さ加減に、怯んでしまったのだ。

  丸出しでそんなこというなよ。

  くそー……思いっきり勘違いしてた……。確かにシラカゼは、二年の中だとおれにだけベッタリと甘えてくる。唯一下の名前で呼んでくるのもそうだ。ただそれは、正直ナメられているが故とばかり思い込んでいた。おれには身体の大きさぐらいしか取り柄がないと思っていたから……。

  「だからさ……イツキ先輩の大事なところ、見せてほしいな……いいでしょ?」

  理論が飛躍している気がしないでもないが、後輩のお願いに応えられるなら、恥もコンプレックスも乗り越えられる気がしてくるのが自分でも怖い。好意をちゃんと受け取ってやれていなかった申し訳なさのようなものも感じながら、だんだんとシラカゼのことが愛おしく見えてくる。

  「…………見たって別におもしろくないぞ」

  「ううん。それはおいらが決めることだから」

  「…………見応えもないぞ?」

  「おいらはイツキ先輩のだから見たいの」

  「…………ど、ドン引きするぐらい……小さくてもか?」

  「だったら! 余計に見てみたいっす!」

  ふすっと鼻息を吐いたシラカゼの背では、毛量たっぷりの尻尾がわさわさ揺れている。おれのちょこんとした丸尻尾はこんな大胆な動きはしない。

  聞くところによると、犬獣人の尻尾は主の感情に嘘はつかないそうだ。シラカゼは本当に、おれのアソコを見たがっている。おれのことをもっと知りたいと全身でアピールしている。

  (なんだろうな、この感じ)

  どうにも言葉で形容しがたい感情が湧く。激しく他人から求められるのは経験としてなく、照れ臭さで全身が疼いてしまう。たとえそれが「ちんちん見せて」だとしても。

  見せるのは恥ずかしいが……じゃあシラカゼはどうなんだろう。いや、シラカゼに限らずうちの部はみんなフルオープンじゃないか。

  おれだって前まではそうだった。前にできたことが、どうして今できないんだ。変わったのはおれの意識だけで、他は何もかもが不変だ。そう、とっくの前にちんちんなんて見られているのだ。

  そう考えてみると、短小包茎が自身最大のコンプレックスになったとしても、全然耐えられる気がする。シラカゼに見せる程度では大した傷にはならない。なんなら、同じ相撲部で同じ短小包茎同士、仲間を作るチャンスですらある。

  覚悟の決まったおれはシラカゼと同じか、それ以上に大胆な行動に出た。

  「わかった。そこまでいうんなら、ほれ……」

  おれは秘部から手をどけ、潔く尻尾の付け根で手を組んだ。

  「かわいい……イツキ先輩のチンチン、すごくかわいいよ!」

  「かっ、かわいいとかいうな! おまえもほとんど変わらないんだからな……!」

  「へぇー! イツキ先輩ぐらい身体大きな熊さんでも、ここは子どもと変わんないんだ!」

  グサッ! 鋭い言葉のナイフがプライドをずたずたに引き裂くっ……!

  「……っ、寒いから縮んでるだけだ。てかうちの部はみんなそうだろ!」

  掛け湯から時間が経つほどに、再び体は冷え始めてしまい、息子のコンディションは控えめにいって最悪だった。ほとんど全てが肉の中に埋もれてしまい、身と呼べる部分がない。シラカゼのに目を向けると、一応みかん一切れほどのサイズを保っている……。立派なドリちんだ。おれのはもはやドリルですらなくなっているよ……。

  「じゃあ早く温めてあげましょう!」

  温めたところで粗末なものは粗末なだけだ。見栄を張って余計なことをいっちまったと後悔しながら、シラカゼに続いてシャワーを浴びる。

  身体を洗っておおかた土を落とした後、シラカゼが張った湯船に浸かった。

  「うわぁ、さすがに狭いっ……!」

  浴槽のサイズは相撲部員二人だとさすがに小さすぎてお湯が溢れ返る。体育座りで向かい合い、相手の股間のスペースへ組み合うように足を入れるしかない。

  「元々、一人用の設計なんだろうな」

  シラカゼとの距離がやたら近い。全身が水に浸ったサモエドは普段の75%ほどの大きさに見えるのがなんだか新鮮だ。

  「それでも! なんか、こういう狭さも悪くないっす! イツキ先輩と近いもん」

  シラカゼはおれの目を見てにっこり笑いかけた。男の割にとてもかわいい顔をしている――改めてそう思った。

  (かわいい、か……)

  目を見つめづらくなって、不意に視線がだんだん下の方に向いていってしまう。

  おれたちの股ぐらでは、この前の修学旅行で見た同学年のやつらとは比べ物にならないほど小さくて未熟なちんちんが佇んでいる。かつて見てきた相撲選手たちのソレとなんら変わらない。

  (シラカゼがフミヤより“ある”ってことは、おれが最下位なのか……?)

  なんでおれのは育たないんだろうな? 恥を乗り越えたとはいえ、はあああぁぁ……やっぱりショックがでかい。

  「……イツキ先輩、またおいらのチンチン見てるな?」

  気づくシラカゼに、いっそのこと全部を素直に認めてみようかという気になってくる。コンプレックスを曝け出すのは屈辱的だ。けれども、それ以上に悔しい気持ちがあるのは、弱さを隠そうとする自分がいるからだった。本当に恥ずかしいのは、性徴についてコンプレックスがあることではなく、こうして後輩の前でいじけていることなんじゃないか。

  だったら。

  「シラカゼ。これ、男同士の秘密な? 実はおれな……」

  そうしておれはこの頃の悩みを打ち明けることにした。

  修学旅行でドリちんと揶揄われたこと、大きくならない悩み。そして、今朝チャレンジした剥けちん修行。つまるところ、短小包茎へのコンプレックスだ。

  「なるほどなるほど。イツキ先輩は恥ずかしくない男になりたいと」

  シラカゼは馬鹿にするでもなく聞いてくれた。

  「イツキ先輩は恥ずかしくなんかないよ。身体でっかくて相撲強いし、優しいし、よく見てくれてるもん。かわいいチンチンでバランス取ってもらった方がいいんじゃないかと、おいらそう思った次第であります!」

  ほんと……憎めないやつ。おれは少し意地悪をしたくなった。シラカゼに気づかれないよう、右足を急所へそっと忍ばせ……、

  「きゃんっ!」

  指を器用に動かして、金玉袋を挟んでやった。

  「だはは! そっちこそ、随分とかわいい声だな!」

  「ひどいよーっ!」

  ちょっと怒った顔もかわいい。

  「うりゃうりゃあ! おれが怒らないからって、最近緩んでるんじゃないのか? 先輩に向かってかわいいとは何事だぁ?」

  そのままおれはシラカゼに電気あんまを食らわせてやった。

  「わっ、ちょっ……! あっはははははっ! だ、だめえっ、力が、でない……よっ!」

  ここらで一旦先輩としての威厳を見せるという大義名分のもと、シラカゼの股間に刺激を与えてやる。こっちばっかり恥ずかしいのは不公平だし。

  ……まあ、あんまりふざけた挙句、勃起でもさせちゃ可哀想だからこの辺にしといてやるけどな。

  「イツキ先輩っ! おいら程度のチンチンにヤキモチ妬いてちゃダメだからね! もっと上を目指さないと!」

  膨れっ面が治らないシラカゼは生意気にも人差し指を立てた。

  「う、うっす……」

  図星を突かれた瞬間、昔先輩の前で返事をしていたときみたいな、間の抜けた声が出た。

  ……シラカゼの言うとおりなんだよな。言葉を選ばなければ底辺の争いでしかない。

  「上を目指すってわけでもないんだけどさ」

  この機会にひとつ、確かめておきたいことがあった。

  「シラカゼ。ちょいとお願い。……見せてほしいところがある」

  言葉をあえて濁すおれに、

  「へ? 何っす?」

  首を傾げるシラカゼ。その純粋な顔が眩しくて、俯いたまま逃げるようにいった。

  「その……皮剥いたとこ、一回見せて……」

  そして訪れる一瞬の静寂。

  引かれたか、と思ってシラカゼを見やる。シラカゼは口元を綻ばせて、

  「ふーん。イツキ先輩って相当エッチなんだ?」

  とゆっくりいった。

  「いや、エッチなわけじゃないけど……。比較のために……な」

  「後輩にチンチンの皮剥かせるのは立派なセクハラっ!」

  「んむっ……!」

  シラカゼは親指をおれの鼻にむんずと突きつけてきた。

  「しょうがないな。先輩命令ならいいけど、イツキ先輩も一緒にやってほしいな」

  「恥ずかしいのか?」

  「そりゃあ恥ずかしいよ!? 剥いたとこなんて滅多に人に見せないし」

  「よし、わかった。じゃあもう比べ合いってことで」

  「案外乗り気? 見たがり屋さんだなあ」

  「おまえもだろっ」

  言葉ではのらりくらりかわしつつも、尻尾が振れてるっつの。

  「てへへ。まあね」

  狭苦しい湯船の中でシラカゼは腰を上げた。

  毛量の凄まじいサモエドの全身からは無数の滝のようにお湯が流れ落ちる。ちょうど目線の高さでは、先端の尖った皮を伝って湯船に滴る。温まってぶらーんと垂れ下がる睾丸は意外に重量感たっぷりで、こちらは既に成熟済みだ。

  なんだかすごい展開にしてしまった。そう思いながら、おれも続いて立ち上がった。

  「おおっ、イツキ先輩の方が太め? でもこうして見てもおいらの方がちょびっと大きいね」

  本来の大きさを取り戻した我が息子だけど、ちょっとばかり亀頭が太いぐらいで、皮の余りを入れてもシラカゼの方が大きいか。……若干な? 若干若干。

  「イツキ先輩のチンチン、だいぶに埋もれてたんだね。タマタマと一体化してたもん」

  「おれに似て寒がりでシャイなんだよ」

  不意に勃起してしまうか心配だったが、緊張が上回っていたおかげか、体内における血の巡りはまだ穏やかな方だった。

  「それじゃあそろそろ……同時にいくか」

  「えへへ。なんかいけないことしてるみたい」

  ちんちん同士がひっついてしまいそうな距離感で互いに見せ合った後、いよいよフォルムチェンジを披露する段階になった。

  粗末なせいで、握って皮をずり下げる選択肢がないおれたちは二本の指でちんちんを摘んだ。

  「イツキ先輩のってホントにちゃんと剥けるの?」

  「あ、当たり前だっ。今日捲った状態で学校来たんだぞ? そういうシラカゼこそ、剥くと痛むんじゃないのか?」

  シラカゼのちんちんは見るからに先がすぼんでおり、柔らかそうな皮が糊で閉じられているみたいだった。

  おれか? まあ……シラカゼと変わらないから心配されたんだろうけど……。

  「おいら平気だよ! 見て見て」

  シラカゼは摘んだ皮を手前に引っ張り、中身を露出させた。恥ずかしいといっていたのでもっとゆっくり剥くものかと構えていたが、ぺろっと一瞬で剥きあげ、もったいぶらずにサーモンピンクの亀頭をさらけ出した。

  「……っ!」

  初々しい色に目を奪われ、遅れて心臓がその動きを活性化させ始める。

  白一色から赤系のグラデーションをつけ、著しく変化を遂げたシラカゼのちんちんはおれの皮被りよりも太く、立派に見えた。

  シラカゼの亀頭は少し形が違っていて、シルエットが全体的に丸っこい。一方のおれはカリ首にいくにつれて膨らんでいく台形のような形だ。

  よく見れば包皮の感じも全然違う。シラカゼのはおれよりも薄くて、荒々しいゴツさを感じさせない。それでいて皮が長い分、カリに引っかかった時にリングができているのはおれと同じ。良くも悪くも使い込んでおらず、誰がどこから見ても童貞のちんちんだ。人のことはいえないけど、本人に似た未熟な印象を受ける。

  初めてじっくり見たが、こんなに差があるとは。

  人に見せてもらう亀頭は自分のそれよりも随分とエッチな魅力があると、おれは思い知った。

  「ほら! イツキ先輩も!」

  戻らないように摘んだ皮をキープしながらシラカゼが催促する。

  「おっし……!」

  羞恥心を飲み込み、皮を被った亀頭を優しく剥いていく。もうさすがに痛んだりはしないが、一応な……?

  「おおおおっ!!」

  窮屈な包皮口を押し除けて出てきた亀頭は、風呂場の湿った空気に触れただけで膨張気味になった。剥くだけで即フル勃ちしてしまうあの頃に比べれば耐性がついたもんだ。

  急所でもありコンプレックスでもあるそこへシラカゼが顔を近づける。羞恥心も慣れてしまえば大したことはなく、おれもシラカゼのものと見比べた。

  「イツキ先輩は脱ぐと太るタイプ……?」

  シラカゼの方がでかいかと思ったが、亀頭だけでいうとおれの白星だっ!

  「あんまり変わらないと思ってたけど、見比べてみるとけっこう違うな……って、シラカゼおまえ……!」

  心臓がドクンと強く打った。

  「……我慢するなんて、無理な話っ!」

  おれの目に狂いがなければ、シラカゼの手を離れたソレは何かを求めるように脈打ち始め、ムクムクとその体積を増していっている!

  見間違いかと思ったが、嘘でも冗談でもなかった。

  やがてビンビンに腫れあがり、ぐぐっと角度をつけたそれは、陽気で愛嬌たっぷりのシラカゼには到底不釣り合いな……そこにあってはならない雄の逸物へと変化を遂げてしまった。

  「勃っちゃった」

  亀頭を剥き出しにするだけならまだ可愛げがあったが、目の前のこれは既にそういう次元にはいない。完全な臨戦形態に威圧されたおれは背筋に冷たいものを感じ、ゴクリと喉が鳴った。

  それにしたって――

  「でっ……デカくねーか……?」

  包皮による抑えがなくなり、根本から先の割れ目までが外へ外へと最大限に膨らんでいるその様を見て、無意識のうちに呟いていた。デカいといえど、基準はあくまで最弱のおれなので、絶対的な大きさはともかく……。おれの勃起時よりも悠々と竿を伸ばしているその様は純粋に憧れてしまう。

  「でへへ。イツキ先輩に褒めてもらえるなんて嬉しいなぁ……」

  シラカゼは照れ笑って竿をぴくりとさせた。秘部のさらに中身を見せつける行為に興奮しているのかもしれない。

  勃起を隠そうともしない太々しいシラカゼにつられ、

  (やばい、おれも勃っちまう!)

  おれの息子も続こうと、血液が股間に集中し始める。

  ずっとかわいい弟分だと思い込んでいたおれが愚かなのだろうか。オナニーひとつ知らなそうなあどけない後輩が、逸物をこれでもかと立派に膨らませて見せびらかしている。

  (シラカゼ……シラカゼ……っ! おれはっ……!)

  純粋無垢に覆い隠された本能的な性が人間臭く、愛おしくもあり、汚れた一面を知ってしまって切ないようで……自分の感情を特定できぬまま、性なる欲望に抗い続けることは叶わなかった。

  「あー、おいらの見て勃っちゃったね?」

  意思とは関係なしに、シラカゼのそこと呼応していく……。

  「んっ……、み……見るな……っ!」

  敗北が確定する瞬間。おれはまた逃げるような真似をしてしまい、それが仇となり……、

  「ダメだって、隠しちゃ」

  「んやあぁッ!?」

  敏感すぎるにも程がある亀頭をシラカゼに握られてしまった!

  「かわいい声はどっちなんだろなー?」

  「触っ、んあああっ!」

  「へえ結構硬いね。おいらのも触っていいよ」

  「んくっ、ふうううぅぅ……!」

  やり返そうとするも、腰が引けて思うように手が出ない。触り合いなんて聞いていないッ!

  「あれ? やってこないなら……おいらいくけど」

  「ひぃんっ!」

  完全に主導権を明け渡してしまい、パンパンに膨らんだ亀頭が肉球で撫でられた。自己流とは刺激が違うやらしい手つきで、土俵上では考えもつかないほどいとも容易く追い詰められる。

  「いあああっ、や、やめッ、んっ! グリグリすん……うぐあああああ!?」

  おれの弱点を見つけるなり、執拗に攻め立ててくるシラカゼ。

  「もう痛くはないよね? 剥きっぱなしで今日来ちゃったもんね?」

  「そっ、そういう問題じゃ、あっ、なく……ってぇ! やめろっ、て……、ううっ……やめてくれぇ……」

  「イツキ先輩の、ガチガチになって喜んでるよ。もうヌメヌメだし。耐えられないとズル剥けは遠いんじゃないかな」

  「ふぁ……!」

  「チンチンにも稽古つけてあげなきゃ!」

  Sっぽい言葉選びがなんだか無性におれのスイッチを入れてくる。おれ……M属性あったのか……。

  お人好しなちんちんはシラカゼの雑な扱きにも粘液を滲み出して応える。おれは触り返すことすらままならないのに。

  昨日の夜あんなに出しまくったはずが、感度は衰えることなく背筋から脳を震盪させ、足がガタガタと震えだす。

  「もうイっちゃいそう? 一回皮戻す?」

  「やばい……」

  「イツキ先輩、答えになってないよ。どうするの?」

  シラカゼは小悪魔みたいにそういってまたいじめてくる。

  「あっ、もぉ、い、いっ、イきそぉ……! か、皮……戻してくれぇ……!!」

  耐性のないおれは情けない声で泣きながら、目から涙も出ていた。

  後輩の前で超高速射精を披露するより、早漏を認める方がまだマシだった。だらんと舌が出たおれは「もぉ無理……」と駄々をこねる子どものように首を振った。人にやられる亀頭オナニーはレベルが高すぎるって……。

  「ふふっ、イツキ先輩チョーかわいいね。わかった、じゃあ一回休憩ね!」

  シラカゼが皮を被せようと、カリにかかった我慢汁だらけの包皮を先端に向かって動かそうとしたそのとき、

  「んあっ、ちょっ……やばっ……! 待って待ってシラカゼ手離してやばいッ、やばい……ああっ、ん……、出る……出る出る出る出るっ!!」

  ケツの奥で生まれた快楽物質が瞬く間に身体中に浸透して、脳までを一気に焼く。ゾクゾクの激流がもう止められないステージにまで来ていた。かろうじて機能する理性が「射精してはいけない」と緊急の制御命令を出すが、全てが逆方向に飲まれていく。おれはイきたくなくても、身体は許してくれなかった。またしても“おれ”が分裂する。片方のおれは金玉が今後使用不可なったとしても今、この瞬間に全部をぶっ放せと許可を出した……。

  「えぇっ嘘!? ちょ、ちょっとぉ!」

  「んがあっ、んっ、だめっ……だ、あっ! で、出るの……あ……まだいくっ、止まん、ない……っ!」

  後輩に性感帯を握られた手の中、おれは限界を迎えてしまった。壊れるんじゃないかってぐらい、精を撃ち放った……。

  「わー!? ごごごごめんなさいっ! おいらそんなつもりじゃ……!」

  「い、いいから……手ぇ、離じで……」

  一刻も早くこの場から消え失せたい中、シラカゼの手に収まるちんちんはヒクヒクとまだ出したそうにおねだりしてやがる……。

  「だあああああぁぁぁぁぁ…………」

  やっちまった。またイっちまった……。

  弄られた挙句、図らずも後輩の身体にぶちまけたおれは、急激な疲労感に襲われ、その場で腰が砕けて湯船の底に尻をつけてしまった。そのはずみに包皮がくるんと元のあるべき状態に戻ったのを感じて、おせーよと思った。シラカゼは勃起を維持させたまま居心地悪そうに、おれの空撃ち(誤発射?)に終わった大量の白濁液を不思議そうに見つめていた。

  「こっ、こんなにいっぱい出るんだ……。イツキ先輩、いつぶりっすか?」

  いつぶり? なんのことか、理解するまでに時間を要したが無理もない。

  「き、昨日……?」

  自分で答えておきながら、そうだと気づく。おれ昨日三回も抜いたんだっけ。じゃあ、なんだこの惨状は。

  「やだ化け物……」

  シラカゼの蔑むような言い方に金玉がきゅんと縮むが、

  「お、おまえが調子乗るからだろ!」

  怒りを乗せたふうに返すと、

  「イツキ先輩がかわいいんだもん……」

  シラカゼはあざとさで乗り切ってこようとする。今日だけでけっこう耳にしたが、年上、それも男に向かって「かわいい」とはどういう意味なんだろう。おれはかわいいのか? 言葉責めされて嬉しいだけなのか? シラカゼは……本気でそう思っているのか? わからないおれはただ黙ってその言葉を一旦受け入れざるを得なかった。相撲で勝ててもこいつには敵わないんだと、クタクタにされた脳で悟ってしまった。

  それでもおれは負けっぱなしでいられる漢ではなかった。

  「おまえもかわいくなれよな」

  醜態を晒しても先輩としての意地が生き残っており、生来の回復力も手伝って、おれはシラカゼの剛直をギュッと握り返してやった。

  「んやぁ……あんっ!」

  「こらこら、逃げんじゃない」

  シラカゼの初々しい亀頭はすでに大量の我慢汁で、ローションを塗りたくったような滑らかさになっている。

  「出そうだったら我慢しなくていいんだぞ?」

  「ううっ、がまん……あっ、する……からぁ……」

  「いいや、我慢させない」

  おれの一歩先を行く生意気極まる後輩ちんちんを、執拗に攻め返してやった。

  「こんなにヌメヌメにして、やらしいやつめ」

  「んうっ……イツキ先輩よりかは、マシ……!」

  おれの弱点を弄るくせに自分だって既にイき狂いそうなほど我慢してんじゃねーか。我慢に耐えかねて怒張したシラカゼのそれを見ていると、おれの中に嗜虐心が生まれてくる。

  散々扱いてやった後、受けた仕打ちをそのまま返すように、陰茎の根元に指を絡め、

  「ひいっ……!」

  先端に向かって包皮の束を動かしてやる。

  スムーズに剥けた分、スムーズに皮が被る。シラカゼは当然、この程度では果てない。

  おれのは最初「行きは良い良い、帰りは怖い」だったのによ。さっき被せようとしてイっちまったのに! ううむ、やっぱり生意気だっ!

  「ほら、すっぽりだぜ」

  ずっと露出状態を保っていたところを急に皮の中へ押し込められたのに驚いてか、ちんちんは痙攣を起こし始めた。

  「ああっ」

  皮の先っぽに集められた透明汁は亀頭が完全に見えなくなった今もなお増産され続けており、尖った皮の先から今にも溢れ落ちそうだ。まるで包皮の中から助けを呼ぶように、あるいは刺激の強い外の世界に再び返り咲こうとびくんびくん暴れる様は控えめにいってやらしすぎる。おれは湯船の中で再びバキバキに勃起してしまっていた。

  さあて、こいつをどうしてやろうかな?

  「や、や……!」

  柔らかい余り皮を指で弾くと、シラカゼは竿を跳ねさせた。自分がされて気持ちいいことは人も同じく気持ちいいのだ。

  まずは手始めに剥きあげてやることにしよう。シラカゼの包茎を二本指で摘み付け根の方へ押していくと、薄桃色の包皮口がくぱっと剥けていき、サーモンピンクの割れ目が顔を覗かせる。威嚇のつもりか歓迎のつもりか、透明汁がじわりと滲む。皮も亀頭もよく見れば泡まみれでグショグショだ。

  「いっ……ん、ひゃ、ゆっくり……やだよぉっ……早くっ……ううっ!?」

  ゆっくりと焦らすように半分ほど剥きながら、再び露わになった急所を指の腹で優しくさする。

  「我慢したいのか、早くイきたいのかどっちだよ」

  「た、耐える……っ、けどお……! そこ、すっすごい、いやあああぁぁ」

  「これで我慢するはもう無理だろ。全部剥いちまうぞ」

  そのままめりっと包皮を下げ、丸っこい亀頭を外に引っ張り出してやる。うーん……おれより抵抗感なくつるんと剥けるなあ……。

  「うひゃあああんっ!」

  なんだか気に食わないので、ふっと息を吹きかけてしまった。小柄なサモエド力士の股ぐらに根ざすにはやや凶悪な真っ赤な肉棒は脈動を繰り返した後、どぷんっと我慢汁を分泌させ、湯船に垂らした。

  「うわあ、エロ……」

  もう我慢の限界一歩手前に違いないが、なかなかにしぶとく持久力のあるそれは音を上げ涙を流しながらも、一向に降参したがらない。健気で粘り強いところは持ち主譲りだ。おれはもう一回そいつを握り、クチュクチュと乱雑に揉み込んでやった。尻尾と玉がせり上がってイきそうになったら手を止め、また再開する。その繰り返しで確実に登りつめさせる。

  「やっ! ……あ、ああぁ……きもちいい……いつきせんぱい……、くううぅん、やめないでよぉ……」

  「イきたいか?」

  「う、うん……はやく、いっぱい……出したい……よ……」

  「自分の手でやってもいいんだぞ?」

  「はあっ、ふうっ……お、おいら……いつきせんぱいに、ヤられたい……っ」

  シラカゼは幼い子になってしまったみたいに蕩ける声で懇願してくる。本当に早く射精してしまいたいんだろう。先ほどまでといってることがまるで逆だ。色欲に蹂躙され、威勢の良さとか、見せかけの強がりが剥がれ落ちて、純粋な――等身大のシラカゼが姿を見せ始める。素直で甘えん坊でおれにべったりな、シラカゼの真髄とも呼ぶべき部分だ。

  「せんぱい……っ!」

  シラカゼの甘い嬌声が脳みそを直接震わせる。開けてはいけないおれの奥深くに睡る扉をこじ開けようとする不思議な音波で……。

  甘美な響きとは裏腹に、目の前では爆発寸前の陰茎からキラキラした雫が糸を引いて再び滴り落ちた。その瞬間――

  「っ……!」

  おれを狂わせるには十分すぎる要素の数々がぴたりと噛み合ってしまった。

  ……どうしちゃったんだろう、おれ。心臓が一回りも小さくなったみたいだ。それでいて血液を送り込む速度が異常に高い。働きすぎる胸が自分を痛めつける。ズキズキ疼く感じが止まらない。

  「し、シラカゼ……。じゃあ、こういうのは?」

  射精させられた分を単にやり返したかっただけなのに、なんでだろう? 今はもっともっと気持ちよくさせて、おれの手で最高の射精に導いてやりたい。シラカゼが愛おしくて堪らない。何か突飛な行動で溢れる気持ちの捌け口を作らないと、変になりそうだった。だから“こういう”ことも躊躇いなくできてしまう。先輩後輩の一線を超えた、絶対にいけないことも、今でなら……。

  「ひやっ……!?」

  口の中でしょっぱさと熱が攪拌される。初めて触れ合う粘膜同士が瞬く間に互いを受け容れ、溶け合うように一体化していく。

  「い゛ひゃああああっ、い……つき……せん、ぱい……! んあっ、汚いよ、そんなとこ、おっ!」

  汚いなんてとんでもない。シラカゼだから全然いいと思った。

  「うあああっ、いやら、だめ、だってぇ……!」

  シラカゼの高い喘ぎ声が遠くなっていく。歯を当てないように無我夢中になって陰茎を舐めあげては、口に含んだ状態で皮を戻して、舌を捩じ込むように内部へ侵入させる。とろとろと溢れ出てくるしょっぱい液で摩擦係数がゼロに近づくが、器用にまた剥き、ちゅうちゅうと吸ってやる。複雑な構造になっている亀頭の裏側を舌でなぞり、シラカゼを愛撫する。

  「やっ、しっぽ……!?」

  尻尾の付け根を押しつぶして刺激し、後ろも同時に攻めてやれば、

  「っ……! せんぱいだめ、もおっ、ああ……あ……ッ……!!」

  シラカゼの身体が震えだす。

  ――合図だ。最後まで導いてやるんだ。そのままおれは暴れるシラカゼを一心に抱きしめた。マズルがシラカゼの土手肉に押し潰されて息苦しいが、まだ耐えられる。口内では最後に一花咲かすように亀頭がぶくうっと膨らみ、舌の上へ熱い液体が注がれ――

  「いくっいくっ……ふ、ふああぁぁぁぁっ……! んっ、んんんんーっ!!」

  喉奥に精液が叩きつけられた。びゅうーっと、高性能な水鉄砲の勢いで何度も何度も放精して、口から逃げ出そうと暴れまわるのを必死で抑え込む。

  「ぶふぅっ……!?」

  最悪飲み下せばいいと高を括っていたが、凄まじい量とその濃度の高さに咽せちまった。

  「ゲホっゲホっ!! うえーっほ!!」

  絶頂を迎え(半ば無理やりではあるが)盛大に出し切ったシラカゼは、おれの哀れな姿を認めるなり、急いでちんちんを引き抜いた。

  「……! イツキ先輩!? 大丈夫!?」

  放心一歩手前、意識が白みそうな中、それでもおれは「だいじょうぶだ……」と強がってみせた。

  「は、鼻から……! 白いの出てるよ!?」

  「あ゛ー……そうだな……。おまえの濃いやつが……」

  「ごごごめんなさいっ! ホントに大丈夫?」

  「なんともないぜ、こんぐらい……」

  実際のところ死にそうだったが、まあ一応大丈夫ではあった。少なくとも、虚勢を張る元気が残っていたくらいには……。

  それに……、

  (くそー。しゃぶるばっかりでイき損ねちまったぜ……)

  早漏甚だしい我が息子がヒクヒクと独り悲しく主張を続けていたことだし。

  「これ、今から掃除すんのかよ……!」

  いろんな意味で夢見心地だったおれだが、残酷な現実が容赦なく襲いかかってくる。

  「やるしかないっす! ほらほら、タワシ持って! 擦るっ!」

  最終下校時間が迫る中、“正気”に戻ったおれたちは普段の片付けよりも要領良くテキパキと動く。日誌当番もこなした先輩にこの仕打ちかよ、とブー垂れそうになったが、結果は連帯責任。どっちもどっちなので、そこは大人の対応で黙っておいた。

  「鼻の奥からまだツンとした匂いがするぜ……」

  気まずくて互いの顔を見れない、言葉も一切交わせないようなお通夜モードにならなくて済んだのは、おれが鼻から垂らした白濁液のおかげでもあった。おれが無事だとわかるや否や、シラカゼは腹を抱えてヒイヒイ笑いだしたからだ。可愛げがなければこの手でとっちめていたに違いない。まったく、とんでもないやつだ。

  「おいらだって! イツキ先輩の出した分が毛に絡んでゴワゴワしてるよ。せめて風呂場の証拠だけでも跡形なく消さないと!」

  相変わらず口達者だが、浴槽を洗う手だけはしっかりと動かしている。

  「ってかイツキ先輩、すーぐイっちゃうしね」

  「うるさいな。おまえの手つきがヤラシイからだよ」

  「あ……! そうだ、ヤマシロ先輩から『いっちゃん』って呼ばれてるのって、それも関係あるっす? すぐにイっちゃうから『いっちゃん』なの?」

  「んなわけねーだろっ! なんでおれがフミヤにイかされた前提なんだよ!?」

  「にっひひ。さすがにないか!」

  理性が飛んで滅茶苦茶やってしまったものの、こうしていつもと同じような距離感を保っていられる現実におれは心底安心していた。

  「はあー……。でも正直なとこさ、おれ、やっぱり弱すぎるよなあ……」

  だからこんな弱音も打ち明けられるのかもな……。

  「オチンチン?」

  「……そうだ」

  「否定はしないかな」

  がっくし。もっと修行を積まなければならないと、遠い道のりに項垂れてしまう。

  「悩んでるイツキ先輩にこんなこというのもアレだけど、でも……おいら親近感湧いた」

  浴槽を擦る手を止めて、シラカゼはいった。

  「イツキ先輩みたいな強い人にも弱いとこがちゃあんとあって、思い悩んだり、克服のために色々やってるんだなぁって」

  「多かれ少なかれみんなそうだろ」

  「まあね」

  シラカゼは少し微笑みをたたえたまじめな顔で続けた。

  「……おいらね、相撲弱いけど、弱い分強くなれるから楽しいんだ。イツキ先輩だってまだまだ強くなれるよ。それって楽しみなことじゃない? おいらはそう思うな」

  前向きで屈託のない考え方に、毛並みが震える感じがした。どうしてこいつは子どもみたいに真っ直ぐでいられるんだろう。おれが忘れちまったものが、確実にシラカゼには残っている。

  「楽しみねぇ……」

  「そうそう! 何でも上達を楽しんでって、よくいうでしょ? チンチンもそうなんだよ! たぶんね、ふふん!」

  シラカゼが普段からそんなふうに考えて日々の稽古に精を出してくれているなら、先輩としてこれほど嬉しいことは実はそうそうないのかもしれない。

  「よっしゃわかった。おれも負けねーよ。まだまだ奮闘してやるぜ!」

  「その意気! 毎日剥いて慣らしてたら強くなるっ!」

  偉そうで実際強い後輩に、おれは笑って元気づけられていた。

  「いいこと思いついた! そうだよイツキ先輩、皮剥きっぱなしでおいらと勝負するのはどう!? おいらにとってハンデになるし、イツキ先輩はアソコも鍛えられてさ、うんうん……名案の予感!」

  「ちょっ待て待て待て。剥いた状態でまわし着用……ってことだよな? さすがにハンデ重すぎねーか!?」

  「弱気になってちゃダメっす! そこは頑張って乗り越えないと、いつまで経っても強くなれないぞ!」

  シラカゼがあらぬ方向から発破をかけてくる。一応……応援してくれてることの裏返しか。相撲に関してはおれを無力化する算段だろうけど、だったら余計に負けてられねーな。

  情けない姿を晒すのはもうこれ以上勘弁だぜ。

  「そこまでいうなら見てろよ。勝負だ!」

  焦がれるような劣等感……その正体はいつだって「恥ずかしくない男になりたい」という執念だった。シラカゼのおかげで、恥ずかしさの形は角が落ちた。呪いにも近かったその感情と、今、おれはイイ感じで向き合えている。そう思えた。

  おれのズル剥け奮闘記はまだしばらく続きそうだ。