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【FANBOXサンプル】前編:人を寄せ付けない名家のお嬢様が養子になったケモっ子くんにずぶずぶ依存していくお話

  懐かしい夢を見た。まだ私が五つの時、まだ生きていた頃の父、そして母と私の三人で桜を見に行った夢…初めて見る景色に私は年相応にはしゃぎ、それを父と母は紅茶を片手に微笑ましげに見つめていた。そんな、幸せな家族にはありふれた思い出の記憶。あの頃に戻りたい、戻りたいなと何度思ったことだろうか。

  そのわずか一年後に父は訪問先の国で事故に遭い亡くなった。報せを聞いた母は泣き崩れ、私は母のそばでただ呆然と立ち尽くし涙を流していた。

  …いつもいつも腹が立つ。桜の夢を見た時は必ずこの記憶まで掘り返されるのだ。どうして良い気持ちで目を覚まさせてくれないのだろう、夢の中くらいはいいじゃないか。

  やり場のない気持ちで悶々としていると、不意に視界が遠のく。悲しみに暮れる母と幼い私が段々と離れていってしまう。

  「待って…」

  無駄だと分っていても何度も何度も手を伸ばしてしまう。まるで母親とはぐれた子供みたいに「お父様、お母様」と涙を流しながら必死に抗おうとする。

  二人の姿が豆粒ほどに小さくなっていったところで、意識がプツンと途切れた。

  

  ……

  …………

  重い瞼を開けるとそこは見覚えのある天井。

  そして薬品や布切れの独特な匂い…ここは、

  「また医務室、か。最悪…」

  寝汗で湿った布団から身体を起こし、周囲を見渡す。仕切り用のカーテンからは淡いオレンジ色の光が差し込んでおり、周りに人の気配は無い。養護経論の人も出払っているのだろうか。

  最後に覚えているのは午後の講義の直前…そこからパタリと記憶が飛んでいるとなると、今はもう放課後だろうか?ならさっさと帰らなければ。

  貴重な学びの時間をまた無駄にしたという自分へのイラつきを抑えつつ、医務室を後にしよう歩を進める。本当なら担任か養護教論を探して帰宅することを報告するべきなのだろうが、もうそのやり取りも何度目だ。居ないとなるとさっさと帰ったんだと分かってくれるはず。

  そう自分の中で結論づけ扉を開けるため手を掛けようとすると、ガラガラと先に扉が開かれた。

  少し驚きつつも扉の外に目を向けると、見覚えのある女子生徒が立っていた。

  「あっ、カトリーナさん。良かった…目が覚めたんだね。今体調は大丈夫そう?」

  心配そうに私を見つめてくる女の子は…名前はなんといったっけ。あんまり覚えていないけれど、こうして何かあるたびに声を掛けてくる人。たいして面識は無いはずなんだけどな。媚を売りたいのか、それとも単におせっかいなのか。

  「別に、ちょっとふらついただけなのに大袈裟。もう帰るからそこどいてくれない?」

  「そう言って何回も倒れてるじゃん。心配になっちゃうよ。せめて家まで送って…」

  「しつこい。大丈夫だから私に構わないで。」

  強引に彼女を押しのけて医務室を後にする。後ろから「じゃあせめて、気を付けて帰ってね!また明日!!」と聞こえたが聞こえてないふりをし歩を進める。

  しかし…彼女の言う通り最近体調不良が目立つ。でも病気というわけじゃないと思う。心当たりが一つだけあるからだ。

  あれからもう10年間くらい経つだろうか。父が亡くなってまもなく私はカトリーナ家を継ぐ跡取り候補となった。

  候補と言っても他に兄妹はおらず、私自身に家主となる素質があるかどうかで決まる。

  カトリーナ家は私の曽祖父の代から力をつけ始め、父が家主となるころには政界にも強いパイプを持つほどの名家へと変化していった。

  私が父の跡を継ぐことが出来れば今後もカトリーナ家は安泰、それが叶わなければ…別に何かあるわけじゃない、ただのどこにでもある家庭に戻るだけだ。しかし…曽祖父達が、父が紡いでいった力を、この家を守りたい…その一心で私は片時も努力を惜しまなかった。

  学校でも友人を作らず、遊ぶこともなく、ただひたすらに頑張った。

  …恐らくそれが祟ったのだ。このところまとまった休息を取っていない、食事も必要最低限…そしてなんの息抜きもせずにやってきたことが仇となったのだろう。ここ最近倒れることは一度や二度じゃ済まなかった。

  ……少し、休んだほうがいいのだろうか。このままいっても何にもならない気がする。それに周囲の人間から変に注目も集めたくない。さっきの子だってどれだけ嫌味な態度を取っても変わらず声を掛けてくる。それほどまでに今の私は見ていられないのだろう。

  明日は休もう、自分を納得させられる理由もある。これ以上身体を壊すわけにはいかないから。

  そんなことを考えながらツカツカと歩いていると、見覚えのある建造物が目に入った。デカい塀に囲まれた家、私の住むカトリーナ家だ。今住んでいるのは私と母、それと数人のセキュリティーと使用人だけ。

  無駄にデカい正門の隅にある扉を開け敷地に入ると視界いっぱいに広がる花、花、花…お手入れがされた花壇、そして庭園の中央には大きな噴水。これらは私が生まれた頃に出来たらしい。誕生祝いに勢いでとか言ってたっけ…

  ふとガレージに目を向けるといつも停められている母の車が無い。母さま、出かけているのだろうか?今朝は何も言っていなかったけれど。まぁフラッと出かけるのはいつものことか…いちいち気にかけていたら埒が明かない。

  ガレージを通り過ぎ玄関の前まで着くと、私の到着を待っていたかのように玄関扉が開かれた。その先には数人のメイドとメイド長、エシャロットの姿があった。

  「アリシア様、おかえりなさいませ。本日も一日お疲れ様でした。」

  「ただいま。」

  そっけない返事を返し、鞄や脱いだ靴をメイド達に押し付ける。いつも以上に雑な態度にメイド達は困惑しているようだか、あまり気にしないことにする。

  「少し疲れたから先に寝る。母様には余計なことは言わないでね。」

  「かしこまりました。」

  「…あと、ガレージの車が無かったんだけど。何か聞いてない?」

  「そのことで奥さまから言付けを預かっております。少し帰りが遅くなるから先に夕食を済ませておいて…とのことです。あと、出来れば帰るまで起きていて欲しいとも」

  ??…用事で帰りが遅くなるのはたまにあるけど、起きていてほしいとはどういうことだろう?

  「他には何か聞いてない?」

  「いえ、それ以上は何も…お出掛けになる前のご様子から、少なくともお仕事関係では無いように思えました。」

  「…そう。」

  エシャロットとのやり取りを終え、私は重い足取りで自室へと向かった。

  「…ふぅ、今日はもうこれくらいでいいかな。」

  気づけば時刻は0時を回る直前。明日休む分の勉強を終わらせて、側に置いてある熱が抜けきったコーヒーカップに手を伸ばし口をつける。なんともいえないぬるさと苦みに顔が引き攣る。今度から熱い内に飲み干そう。

  それにしても…もう深夜だというのに母さまは未だ帰ってきていない。外出する際にはセキュリティーの人が付いているとはいえ流石に遅すぎる。何かあったのだろうか。

  そういえば…あの日もこんな感じで、母さまと二人でお父さまの帰りを待っていたっけ。

  なんとも言いようのない焦りと不安が胸の中で蠢く。大丈夫、あんなことは滅多に起きないと無理矢理自分を納得させ、再度コーヒーカップへと手を伸ばそうとすると、

  「…あっ」

  正門の扉が開かれ、見知った車が一台敷地へと入ってきた。

  

  先程までの不安は消え去り、はやる足取りで玄関へと向かう。

  「ただいま〜、あ!アリシア、待っててくれたのね。良かった〜貴女のことだからもう寝ちゃってるのかと思ってた。」

  「…おかえりなさい。こんな夜遅くまでご苦労さま。いったいどこまで行ってたの?眠るに眠れなかったんだけど」

  「あら、ママが恋しくて?」

  「分かってるでしょ…不安にさせないで」

  私がそう言うと、少しの間沈黙が訪れる。こんなこと言うつもり無かったのに、目の前の陽気な母を見て自然と涙が溢れそうになる。その様子に気がついたのか、母さまは少し申し訳無さそうに私のことを抱きしめた。

  「ごめんなさいね、もうこんなに遅く帰ってきたりしないから」

  何年ぶりかに感じる母の体温。恥ずかしがりながらも抱き返そうと母の後ろに手を回そうとすると、母さまの腰下辺りで何かがひょこひょこと動いているのに気がついた。

  「えっ…?」

  瞬きをし、それが私の見間違いでないことを確認する。それが何かを確認しようと母さまの後ろに目をやると…

  「み…」

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