オオカミの村

  [chapter:『オオカミの村』 佳孟]

  

  

  とおいとおい昔のこと。けわしい山のふもとにオオカミたちの住んでいる村があった。

  村のオオカミたちは、みんなヤギや羊、ウサギやニワトリを飼い太らせる為に

  畑仕事をしたり狩りに出かけたりして暮らしていた。

  くらしむきは楽ではなかったが、生き物を襲うことも盗みもしたことは無かった。

  

  

  ある日のこと、村から何里も離れた人間の住む町でこんなうわさがたちはじめた。

  「オオカミたちが、わしらの町のヤギたちを群れで襲ったそうだ。」

  「殺したヤギを一匹残らず自分達の村に持ち帰って食ってしまったそうだ。」

  「やっぱり、オオカミたちはほおっておけねぇ。いつかわしらを襲ってくるかもしれねぇ。

  やられる前にわしらでやっちまうべきだ」

  人間達は、村の集まりをひらき、話し合っているうちに、よく知らない村に住む

  オオカミたちの事をなじり、倒してしまえと言い始めた。

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  オオカミの暮らす村では、いつもと同じように畑仕事や水汲みにせいだしていた。

  そんな時、村の境の柵の近くでいきなり一発の銃声が響いた。

  オオカミたちが音の先に目をやると、1匹のオオカミが倒れていた。

  

  

  女のオオカミ、子どもと老いたオオカミたちはみんな家に隠れこんだ。

  若い男のオオカミたちが倒れたオオカミのそばに駆け寄ってみると、そのオオカミは

  既に息をひきとっていた。

  

  

  オオカミたちはしげみの向こうで人間たちが鉄砲を持って隠れているのに気が付き、

  若いオオカミたちは一斉にうなり声をあげ始めた。

  その中でも勇敢な1匹のオオカミが隠れていた人間に近づき、一番近くにいた

  大きな人間の太い腕に鋭い牙で噛み付いた。

  その人間は必死に振りほどこうとするが、オオカミは放そうとしなかった。

  しかし、とうとう放り投げられて、そのオオカミは鉄砲で足を撃たれた。

  

  

  他のオオカミたちも人間に襲い掛かったが、みんな傷だらけになって村に

  引き返そうとした。

  けれども、人間達は逃げるオオカミ達の後ろから鉄砲を撃ち続けた。

  1匹倒れ、2匹目が倒れ、10匹ばかりいたオオカミのうち、村に帰りついたオオカミ

  はたったの2匹だけだった。

  

  村の娘達と子ども達、老人達は一斉に尋ねた。

  「うちの夫はどうしたの」

  「とうちゃんはどうしたの」

  「わしの息子はどうなったんじゃ」

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  村のオオカミたちがこぞって村の境辺りにやってきた。

  既に人間達は去った後で、何匹ものオオカミ達が地面に倒れていた。

  家族の者が近寄ってみると、息をしているオオカミは1匹もいなかった。

  オオカミ達は夜更けまで泣き続けた。その遠吠えは夜空に響き渡った。

  

  

  悲しみの遠吠えを聞きながら人間達はこう言いあった。

  「わしらのヤギを殺した報いだ。思い知ったか。」

  「おらは、若造に腕をかみつかれたぞ。オオカミは野蛮な奴等だ。」

  「いいかげんに泣き止めてほしいね。これじゃ子どもが寝付けないじゃないか。」

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  村のオオカミ達は、死んだオオカミ達の墓を息絶えたその場所にたてた。

  弔いの式が行われたとき、あるオオカミがこう言った。

  「俺達が一体何をしたっていうんだ。人間達に鉄砲で撃たれるような事は

  一度だってした覚えはないのに。」

  口々に人間への憎しみが吐き出され、村をあげて戦おうという気持ちが高ぶってきた。

  

  

  そのとき、生きて逃げ帰ってきたオオカミがこう言った。

  「俺が人間のところに行って確かめてくるよ。戦うのはその後にしてくれないか。

  わけもわからないのに争いを始めたんじゃ、おてんとさんに申し訳ない。

  それに、ここで死んだと思えば、何にも怖くねぇ。」

  それを聞いたオオカミが止めようとこう言った。

  「やめとけ、話したってわかる奴等じゃない。わざわざ殺されに行くようなもんだ。」

  「いや、俺はそれでもいい。」

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  若いオオカミはたった1匹で、しかも鉄砲どころか手には何も持たずに人間の住む町の

  入り口にやってきた。

  

  

  入り口近くに住んでいた人間の男が、近づいてくる1匹のオオカミを見て、町の長の

  ところまで知らせに走った。長は若そうな3人の男に鉄砲を抱えさせて町の入り口まで

  やってきた。

  

  

  町の長は低い声でこう言った。

  「わしらの町に、何をしにきた。仕返しでもしにきたのか。」

  若いオオカミは答えると同時にこう尋ねた。

  「それは違う。それよりも教えてくれ。どうして俺達の村にやってきて、仲間を鉄砲で

  撃ったりなんかしたんだ。」

  長は答えた。

  「それは、おまえたちがわしらのヤギを殺して食ったからだろう。町のものは

  みんなそう言っている。」

  

  

  若いオオカミは唖然とした、小さな村ゆえに村のオオカミ達のことならみんな知っている。

  村のだれひとりとして村の外のヤギを殺したことなど一度も無かったからだ。

  痩せた村人達の姿を見れば誰にでもわかることだった。

  

  

  「俺の村にはそんなことしたオオカミは1匹もいない。何かの間違いだ。」

  長は言った。

  「嘘をつくな。さっさと帰れ。帰らないなら撃つぞ。それともお前のはらわたを

  切り裂いて、食った証拠でも見せてくれるとでもいうのか。」

  若いオオカミはそれに対してこう言った。

  「俺の仲間は、あの時みんな死んだ。腹を切り裂くというなら、それでもいい。やってみろ。」

  長もこう言い返した。

  「そうまでいうか。ならば、さっそくお前をさばいて、ヤギの肉片でも見つかったら、

  お前らの村のオオカミを皆殺しにしてやる。」

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  そのときだった、オオカミの村と人間の町の境の山の上の方から、「待ちなされ」

  という声が聞こえた。

  見ると、ヤギ飼いのおじいさんが、草をいっぱい食べて丸々太った何匹ものヤギを

  つれて近づいてきた。

  「町のヤギは、柵の囲いの小さい隙間から次々と逃げ出したようじゃ。ヤギを管理

  しておったわしの責任で、わしは今まですっとヤギの糞を頼りに逃げたヤギのあと

  を探し続けておった。やっと今日のこと見つけところ、ヤギはうまい草をいっぱい

  食べてまるまる太っておった。おまえさんたち、町のものがヤギのえさを惜しんだ

  のが、逃げた全てのもとじゃ。」

  次第に集まり始めた町の人間たちは、ことのなりゆきに驚いた。自分が一度ならず口にした

  噂が元で何の罪も無いオオカミたちを殺すことになってしまったようなのだ。

  

  

  町の長は、持っていた鉄砲を投げ捨て、地面に額をつけてこう謝った。

  「すまねぇ。俺達のとんだ思い違いで、お前さんたちの仲間を殺してしまったようだ。

  手下の過ちは、全て俺の過ちだ。どうにでも、お前達の気のすむようにしてくれ。」

  若いオオカミは、人間の長の目が嘘を言っていない事を確かめるように何度も見直して

  確信し、こう答えた。

  「俺の村にいるやつらの前でも同じことを言ってくれるかい。そうして俺の村と

  あんたの町のやつらが、普段からお互いに行き来できるようにしてくれるのなら全てを許すよ。」

  

  

  こうして、オオカミ達が大きな犠牲をはらった事件は終わり、村のオオカミ達と町の人間達の

  交流は進んだ。

  

  

  根のない噂は慎むようになり、ヤギや家畜をうまく育てる方法も教えあうようになって、

  そのうち殺し合うことは一度も無かったということだ。

  

  

  

  めでたし、めでたし。