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[chapter:サンプル]
「これなんだろう?」
龍神祭――とある地方では元旦である一月一日に国の安泰を願ってその村にまつわる龍神をお祈りする祭りがあった。そこでは村――時が流れた今は街となったその地の外れにあるお堂。その奥に“ご神体”を祀ってその前で祈祷を捧げる。それがその街の習わしである。
そんなお堂の中で、ある一人の少年が頭に疑問符を浮かべながら突っ立っていた。
彼の名前は東龍文(あずま たつふみ)。今年五年生になったばかりの少年である。
今年、龍神祭に行くこととなった龍文は、準備が始まる前のお堂でひとり“ご神体”を見つめていた。
◆
「あけましておめでとう!」
「おめでとうございます!」
龍文は両親に新年の挨拶をしつつ、ポチ袋に入ったお年玉を貰い大はしゃぎだった。おせちを食べ、雑煮を食べ、父とゲームをして遊ぶ。そんな一日を過ごしているうちに、外はすっかり夜になった。
「よし、そろそろ出かけるか」
「楽しみだねお父さん」
「楽しんでおいでー」
父の手を繋ぎながら龍文は龍神祭へと向かった。彼にとってはこの祭りなどただ楽しい事がある程度のものでしかなく、夏休みやクリスマスのように一瞬のイベントとしか認識していなかった。
よもや、彼がなんとなく起こした行動がとんでもない事態を招く事になるなどこの時は彼は愚か父ですらも予想していなかった――
「着いたぞ、龍文」
「うわぁ〜でっかいねぇ」
龍神祭の会場であるお堂の前へと立った龍文は間延びした声をあげながら上を向く。目の前には予想以上に大きな建物。子供ながらに本能的な畏ろしさを感じたのか無意識に父の影に隠れてしまう。
周りには無数の人人人。狭い会場に鮨詰め状態になっているそこら一帯は熱気で蒸気さえ上ってくる始末だ。それも龍文が怯える要因のひとつになったのだろう。
「大丈夫か? 龍文」
「うん……」
そうは言ったもののやはり怖さが勝った。そのせいか、膀胱に尿が溜まっていく感覚が早まっていく気さえしている。もじもじと太腿を擦り合わせてトイレのサインを促す龍文。そのサインを父は見逃さなかった。
「トイレに行きたいのか?」
「うん……」
「トイレならあのお堂の右の奥を真っ直ぐいったとこだ。一人で行けるか?」
「うん……」
「そうか。それでこそ男だ、じゃ行ってこい!」
父親の声を合図に龍文はトイレへと向かう。人混みをかき分けて必死にお堂へと向かいその奥のトイレを目指す。
結果として、無事にトイレに辿り着き、用を足すに至った。が、しかしそこからが彼らにとって誤算だった。
「戻らなきゃ、お祭りが始まっちゃう」
慌ててトイレを後にして父の下へ向かう龍文。しかし彼が向かったのはお堂の前の父親がいる広場ではなかった。彼が向かったのはお堂。しかも準備が始まる前の、ご神体の保管室だったのだ。
彼は決して方向音痴ではない。パニックで道に迷う事もない。ではなぜそんな道の迷い方をしたのだろうか。それは一種の神隠しとも取れるのかもしれない。神が、龍文を、呼んだのだ。
神の言葉は人を無意識にそこへと誘う。まるで初めからそこがわかっているかのようにスイスイとお堂の中を歩き回る龍文。そして、いつしかお堂の奥の、ご神体の前へと辿り着いていた。
「これなんだろう? っていうか、ここどこ?」
我に帰った龍文は、不安げな顔で辺りを見渡した。それはそうだろう。広場に戻る筈がいつの間にかお堂の中にいたのだから。しかも畳が二、三枚敷かれただけのとても狭い部屋。
奥にちょこんと木造の祭壇と一枚の布が置かれているだけの空間に知らず知らずのうちに立っていた龍文の心境は如何ほどだっただろうか。
「これ……本当に何なの?」
ふと祭壇に祀られている物に気を取られる。そこには一枚の白い布がぽつんと榊の間に置かれているだけだ。しかし龍文はこの布がやけに気になった。見た事も知った事もないこの物体が。
「龍神様は、一枚の褌を自らを締め鍛え上げるものとして着用していたと言われています。故に龍神様が着用した褌をご神体として祀っているのです」
「龍文はどこに行ったんだ? そろそろ祈祷が始まるぞ?」
その頃、龍文の父が心配している事など龍文は知らなかった。道に迷ったのではと心配に駆られる父。彼は龍文を探しにトイレへ向かっていた。
「何か……ヘンなの」
その頃、龍文は下を向いてそう呟いていた。畳には脱ぎ捨てられたズボンとブリーフが。では今の龍文の下半身はどうなっているのだろうか?
龍文はなんと龍神のご神体である褌を締めていたのだ。神が本当にいるとするならば必ず天罰が下るであろう不埒な行為。それを龍文は当然のように行なった。“普段穿いたどころか見た事もない褌”を、“当たり前のように穿いていた”のだ。
「おい、こんなところにいたのか!」
「お父さん!」
その瞬間、何処からともなく心配して探しに来た父が現れた。まるで漫画のように都合良く。
父はまじまじと龍文を見ると「なにズボン脱いでるんだ! さっさと穿きなさい!」と当然のように言った。龍文も「ごめんなさい」とズボンを穿き直して脱いだ下着を手に持ち帰った。
それから龍神祭は滞りなく行われ、龍文は父に少し説教された後二人で仲良く家へと向かった。これがこの龍神祭の出来事であった。
龍文は、褌を自らの股間に締めたまま、布団に入り眠りについたのだった。
◆
一月二日、朝七時。
気だるげな声で龍文は目を覚ました。穴だらけになり糸を引いた新品のパジャマを体にひっつかせてヨロヨロと部屋を出る。
「おはよう、お父さん」
「おう起きたか」
「ご飯食べちゃいなさい」
そう言うと龍文はパジャマを破り捨てて椅子に座る。節くれた指で箸を取ると腕に盛られた白米をがっつきはじめた。
「おいおい、そんなに急がなくてもご飯は逃げないぞ」
「そうよ。龍文のために用意したんだから」
そう両親が明るく笑う。褌一丁の青年が大きな茶碗に盛られた白米だけを貪る光景を、彼らは普通の日常として噛み締める。
「ごちそうさま」
「一粒残さず食べたわね。これで我が家も安泰だわ」
「ちょっと出掛けてくる」
「ああ、暗くなる前には戻ってこいよ」
そういうと褌姿のまま龍文は外を出た。龍文の姿は、やや筋肉質の青年となっている。背は170を超え、日に焼けた肌や短く伸びた髭が男らしさを強調させる。今の彼は少し老けた高校生といった容姿だ。
「ふぅ……」
朝八時。
目的の場所に到着した龍文は畳の上にどっかりと座り込む。そこは昨日迷い込んだお堂の奥であった。
「何でここに来たかったのか、分からないけど……でもここが落ち着くんだ……」
そう呟くと褌越しにその大きくなった手で股座を摩り始める。龍文はちんちんを触れば気持ちよくなれるという知識はつい最近覚えたばかりで、それを見様見真似に行った。しかし……
「んっ、なんかヘン……でも、あれ?」
確かに気持ちよくはなるのだが、褌が我慢汁で少し濡れるだけでそれ以上気持ちよくならないのだ。龍文の自覚が乏しいからなのか、それとも、何か見えない栓で蓋をされているのか……躍起になって股間を摩り続ける龍文だったが、結局その答えは見出せずに十時になる。結局その日はお堂を後にし自分の家へと帰るのであった。
「ただいま」
「おう、おかえり」
不完全燃焼のまま家へ戻った龍文の前に、明るい表情の父が立っていた。しかし何か様子がおかしい。それは今の龍文にも分かる。何故なら、彼は衣服を身につけていないからだ。下着すらもない、素っ裸の状態の父がそこにいた。
「お父さん、何してるの!?」
「龍文、父さん今からシコるからな。俺が射精するところをちゃんと見てるんだぞ?」
変質者じみた科白を自分の息子に向ける父。それはまるで子供に教えるかのようで、龍文はただただ困惑するしかなかった。しかし龍文の褌は実の父の裸体に反応し膨らんでいたのだが。
「あっ、あっ、いいっ!」
右手を勢いよく上下させて勃起状態になった逸物を摩る父。龍文もそれを見て同じように褌の上から逸物を揉みしだく。龍文の頭の中に気持ちいという事、そして自慰の方法がしっかりと刻み込まれる。お互い、透明な先走りがグチュグチュと音を立てて射精を促す。
「くっ……イクッ!」
「い……イク……ッ」
掛け声と共に父の逸物が爆発し精液が発射された。同時に龍文も絶頂を迎えた――のだが、射精までには至らず、またしても龍文は不完全燃焼で終わってしまう。
「あぁ、気持ちよかった……龍文も気持ちよかったか?」
「うん……気持ちよかった」
十五時。龍文は冷蔵庫から瓶に入った酒を取り出すと、そのまま胃に流し込んだ。口から酒が漏れ床に溢しても構わずに。
酒がぼうぼうに伸びた髭から滴り落ちる。龍文は口を日に焼けた大きな手で拭うと満足したのか太鼓のような丸々とした腹を摩った。
「なんだかポカポカしてきたな」
そう言ってまた褌の上から逸物を揉む。酒が入って熱った身体が悩ましくて何度も何度も逸物を刺激した。しかし幾重と自慰を続けても射精はしなかった。睾丸の中にはしっかりと精液が作られ続けているにも関わらず。
「あれ……僕って、こんなんだっけ?」
ふと鏡を見ると、そこには髭面の中年男が映っている。髭だけでなく体毛も濃く、腹はぽっこりと出ており、褌一丁で露出した素肌は日に焼け褐色になっている。
成人をすっ飛ばして熟年の男性といった見た目となってしまった龍文は、その姿を確認してさすがに違和感を覚えた。冬休み前までは元気に学校に通っていたのに、昨日はお年玉を貰って喜んでいたはずなのに、今や父親より老け上がっている。しかし……
「まぁ、いいか」
覚えた違和感はふと霧のように散ってしまい、何事もないよう振る舞いはじめた。あまりにも異常すぎる光景だったが今の彼はどうみても四十歳を超えた中年の男性でしかない。だから違和感を覚える事もない。
「龍文、そろそろ寝なさい」
二十一時。父に促され龍文はパジャマ(昔着ていたものはサイズが合わないので父のものを貸してもらった)を着るとそのまま自分の寝室に向かった。しかし、彼の頭の中は褌の中に封じられた自らのモノを擦る事でいっぱいだった。今も不完全燃焼のままギンギンに勃起した逸物が先走りを垂れ流している。とうに全盛期は超えたはずの肉体は未だ肉欲を求めて火照り続け、じりじりと龍文の精神を焼いていく。
「んあぁ……んっ、おうぅ……!」
低い唸り声をあげながら寝返りをうつ。逸物の暴走は未だ治まらず夢現の中で龍文を苛み続ける。
(おじさん……誰?)
(よい体になったな。しかしまだこれからだ)
中年の肉体のまま龍文は夢の中で人の影を見た。黒い靄に覆われたその姿を視認する事はできない。が、それとなく特徴は分かる。頭に生えた角、太く長い尻尾、それは人の形を倣っていたものの明らかに人ではない何かだった。
龍文はその影に優しく抱かれる。ゴツゴツとした肉の感触、じんわりと温かい体温。龍文は父親に抱かれる心地を味わった。近くに実の父親がいるにも関わらず。
(苦しいだろうが、少しばかりの辛抱だ。儂の身体として完全に熟成しきるまではな……)
(は、んっ……!)
影に自らの口を塞がれた龍文は、槍で刺し貫かれたような感覚の後その意識を手放した。股間の逸物は何度も何度も絶頂を味わったが、それでも射精に至る事は一度もなかった。
◆
一月三日の朝八時。
龍文は全身に汗が流れたびしょ濡れの体をゆるりと起こす。ふと前を見るとムッチリとした脂肪に覆われた太腿が視界に映る。豊かな脂肪に包まれ太鼓のような形になった腹をゆさゆさと揺すりながらその体を立たせる。
「なんか変な夢だったなぁ……」
そう言いながら窮屈なパジャマを脱ぎ捨て再び褌一丁になる。裸体を露わにした龍文の胸や腕や脚には翡翠のようなキラキラと光る何かが付着していた。
朝九時。
鏡の前でゴシゴシと歯を磨く。お気に入りの歯ブラシを子供用の歯磨き粉につけて勢いよくその白い歯を磨いていく。しかし……
「うわ、抜けちゃった」
白い泡と共にポロポロと白い歯が次々と洗面台に抜け落ちる。慌てて鏡を覗いたが、そこには先程と変わらない真っ白な歯が鎮座していた。やや前に伸びた口の中に大きく鋭い歯……いや、牙が。
「うーん、まあでも僕の歯、古くなってたもんなぁ……仕方ないよね」
そんな状況下でも龍文の反応はあっさりだった。鋭く伸びた爪でポリポリと頭をかきながら両親の待つリビングに入ると、そこには大盛りの米と酒が置かれていた。
「おはよう、龍文」
「おはよう」
両親と他愛のない話をしながら米と酒を流し込むように食べる。既に親よりも歳をとっていた龍文だったが、父も母も龍文も自分達をいつもの家族のように振る舞い過ごしていた。
「ふぅ……ちょっと食べすぎたかな」
龍文はまた御神体の祀られていた場所にいた。ここにいるとなぜか落ち着くという理由もあったが、なによりも誰にも見られずに自慰に浸りたいという考えがあった。
「今度こそ……っ」
筋肉と脂肪でみっちりと覆われたその巨体を揺らしながら褌越しに強引に揉み始める。袋の中ではビクビクと逸物が暴れ回り先走りを垂らしながらその時を今か今かと待ち構えていた。が、矢張りそれまでなのだ。いくら気持ちよくなっても絶頂に至ろうともその逸物から精子が吐き出される事は一度としてなく、龍文の頭の中は『射精したい』という考えで埋め尽くされていく。
「ダメだっ……どうして……?」
それでも躍起になりながら逸物を扱き続けて絶頂を経験する。龍文の幼い脳が雄の快楽を常識としてインプットしはじめた頃、彼の肉体が次なる変化を遂げていく。背がぐんぐんと伸びていき180を超える巨体となると、まばらに生えていた翡翠が全身を覆って埋め尽くした。
「ぐっ、くっ……んおっ!」
その後もまだ変化は続く。尾骶骨から生え出した肉の芽は体積を増しながら立派な肉の根に成長し、頭からは立派な二本の角が生え、ボサボサの髪の毛は腰まで届く長髪となった。
「あーあ……どうして射精できないんだろ……」
龍文ははぁ、と溜息を吐くととぼとぼと家路に戻る。既に日は暮れ刻は十七時を指していた。
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