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[chapter:サンプル]
「今日からここで働くことになった森野君だ」
「よろしくな若いの!」
「は、はい……」
「大丈夫、すぐ慣れるさ!」
俺の名前は森野夕也(もりの ゆうや)。高校を卒業したばかりだった俺は、その日から、獣人達が働く建設会社に住み込みで働くこととなった。
俺は高校を卒業した後は合格した大学に入学し晴れて大学生になるはずだった。だけど――
「ただいまー……あれ?」
その日は俺が卒業式を終えて家へと帰ってきたところだった。最後の学校へ行くために家族と食事をして、いってきますと家を出るまでは、いつもと何も変わらない生活を送っていたはずだったのに。
家には父も母も、誰もいない――どころか、いつも使っていた家族や俺の家具まですべてがなくなってもぬけの空になっていた。
俺は、捨てられたのだ。今まで愛されていたと思い込んでいた両親の二人に。
親父とお袋は俺に言わずに莫大な借金をしていたらしい。そして理由は分からないがとうとう借金が返せず逃げ出したのだろう。そして、俺は邪魔だったのか、借金取りからの囮にしたかったのか、それは分からないけれど、結論から言えば俺は両親にとってその程度の存在だったということだ。
「坊主、そう気を落とすな。借金を返せばお前は晴れて自由の身だ。まあ、何年かかるかはわからんがな」
「はあ……」
そして今に至るというわけだ。
俺は獣人だらけのこの場所で何年も暮らしていかなければならないのだ。正直むさ苦しいし周りからは加齢臭と獣臭の混ざった異様な臭いがしてくるしで今すぐにでも家に帰りたい気分だった。もう帰る家などないのだが。
働いた分の八割程度は両親の借金返済に充てがわれる。残りの二割は俺の自由だそうだ。幸い食事はあちらが賄ってくれるそうなので食い扶持には困ることはないだろう。内心複雑だが。
「俺は奥間隆三(おくま りゅうぞう)だ。これからよろしくな」
熊の獣人である隆三さんが俺の手を握ってきた。がっちりとした手の中には肉球の感触もあった。見た目から四〜五十代といった感じだろうか。近づくと中年獣人特有の臭いが漂ってきて不快感を覚えたが、鼻を摘むわけにもいかず、俺はただ苦笑いするしかなかった。
◆
「ぜえ、ぜえっ……!」
「オイ、大丈夫か? 水でも飲んで一旦休め」
はじめは過酷だった。大きな材木を運んだり、コンクリートの破片を片付けたりと力仕事が多く、つい最近まで高校に通っていた俺にはハードってレベルじゃなかった。
しかも真昼間の炎天下の中の作業だ。その上怪我しないように作業着を着るのでその暑さはさらに上がる。最初の一ヶ月は気を集中していないといつ失神してしまうか分からない状況が日常だった。
「よーし、メシにすっぞ!」
「待ってました!」
夕食はガッツリとした肉や揚げ物が毎日のように出た。ご飯も当たり前のように大盛りにされるし、ラーメンやカレーが出た時もあった。当然ながら仕事で死にそうになっていた俺はほとんどそれらを口につけることはなかった。普段ならば喜んで食べるメニューなはずなのに、この時はついていけない自分の体を恨みたかった。
幸いサラダも置いてあったのでそれを中心に食べてなんとか凌いでいた。
他のおっさん達には「若いモンは食べねぇと大きくなれんぞ」と笑われるが、食えるもんなら食ってるさと心の中で吐き捨てた。
食事はまだよかった。一番嫌な時間は寝る時だ。
「おっ、パンパンだな……溜まってんじゃねえか……」
「もう我慢ならん……早く挿れてくれよぉ」
「あっ……ああっ、ぐっ……んっ!」
事もあろうか、このおっさん達は俺のいる前で憚りもせず体をこねくり合わせているのだ。
別に俺は同性愛者に偏見を持っているわけではないが、場所を考えてくれと心底思った。それが日常になっているのか他の奴らも気にせず淫行に興じたり大いびきで寝ていたりとやりたい放題だ。ストッパーなんて一人もいないから地獄のような有様だ。
「んっ、ああっ、もうダメ、出るっ!」
中には甲高い声を出して周りのセックスをオカズにオナニーしている奴までいる。ちなみにそいつは一度もセックスしたところを見た事がない。この職場にもそういう奴はいるんだなと俺は思った。
「へへ、いつまで恥ずかしがってんだ。早く馴染めよ」
「そうは言ってもよぉ……あっ」
そんな事を囁かれながらされるがまま掘られている奴もいた。まあそんな十人十色な乱交模様が毎夜繰り広げられるのだ。ただでさえ疲れた俺の体に多大なストレスとなっているのは言うまでもなかった。
最悪なことに寝る場所はこの部屋しかない。獣人の加齢臭と精液のむせかえる臭いは俺の精神を少しずつ蝕んでいった。
一度リーダーの小島藤雄(虎獣人)さんに抗議したが、「宿舎は狭いからあそこしか寝る場所ねぇぞ。どうしてもってんなら、廊下か勝手で寝るしかねーな」と言われるだけだった。だから俺はなけなしの収入でたまに格安ホテルやネットカフェに泊まってそのストレスを紛らわせていた。
そんなこんなで半月が過ぎた。
俺もこの環境にすっかり慣れ、作業中に倒れることはなくなった。
「おう夕也、すっかり板についてきたな」
「はいっス」
力仕事が続いたせいか筋肉もつき、体格も以前より一回り大きくなっていた。
最初は172/55だったのが今や178/73である。今まで成長が止まっていたのかと思うくらいこの半月で成長したな……と心の中で呟いた。
「おら、もっと食え。若い奴は食って体を大きくしなきゃな」
「ウッス、いただきます!」
初めは殆ど食べられなかったメシも今や以前の二、三倍の量を食うようになった。体を動かすとハラが減るので、肉も魚も野菜も米もモリモリ食った。たまに出てくるラーメンは俺らにとってはご馳走だ。
これだけ食っても仕事が過酷なためか太らない。寧ろ筋肉がついて体はデカくなっていった。
そんな俺は鏡を見るのが好きになっていた。段々と鍛えられていく筋肉が、大きくなっていく体が、俺に謎の快感を与えていたのだ。もっとデカくなりたい。もっと強くなりたい。そんな感情が俺の中に渦巻くのを自覚していた。
それにしても、やけに毛深くなったような……
まるで、ただの人間であるはずの俺まで、獣人のおっさん達に近づいていくかのような……
「あっ、あっ……!」
「くっ……!」
そんな俺でもベッドルームの乱痴気騒ぎはいつまでも慣れなかった。なんというか、不快感は大分払拭されてはいたのだが、別の問題が発生していた。
彼らの行為を見ていると、ムラムラしてしまうのだ。
俺はゲイではないはずだし、こんな行為興味もないはずなのに、彼らの雰囲気に当てられたのかは知らないが、チンコがパンツの中で勃起してしまう。今すぐをチンコ出してシコってしまいたいが、俺まで彼らの仲間になってしまうようで、なかなかそれに踏み込めなかった。
でも、パンツの中では、キンタマがパンパンに張り詰めて、今にも溢れ出てしまいそうなほどにチンコは勃ち上がっている。我慢、しなきゃなんないのに……我慢、しなきゃ、がまん、ガマン…………!
(我慢できねぇ!)
俺はいつの間にかズボンを下ろしてチンコを握っていた。ゴツくなった手でチンコを摩ると、それだけでカウパーが沢山出て、俺の脳を焼いてしまうような快感で満たされる。オナニーするのもご無沙汰だったせいで、なおさらそう感じられるのだろうか。
そして長いオナニータイムの中、俺はついに……
「あっ、やばい、出るっ!」
俺は声を上げてザーメンを発射してしまった。幸いこういう人間はこの中ではよくいるためか、他の獣人達は俺に見向きもしていなかった。
それでも俺は羞恥に顔を真っ赤に染め上げていた。
(やっちまった……!)
その日俺は後悔の念に囚われながら眠りについた……
◆
それからさらに数ヶ月が経過した。
とうとう俺の身長は180の大台に向かっていた。体重はそろそろ90行きそうだ。
身体中に生えていた毛なんかさらに凄い。全身茶色の毛でいっぱいだ。まだよく見れば俺が人間だと視認できる、という程度にまで俺の姿は獣人そっくりになっていた。
爪も鋭くなったし、歯も固く鋭くなってきている。なんか、耳や口まで形が変わっている……ような気がするが、俺はただの人間だ。そんなはずはないと自分に言い聞かせた。
それにしても、ここに入ってから一年も経っていないにも関わらず、顔もなんか老けた気がするのは気のせいか? まるで、俺だけ時が二倍くらいの速さで進んでいるような――
「ゆーやっ!」
「隆三……さん」
隆三さんが俺に抱きついてくる。褌一丁でよく恥ずかしくないなと少し呆れてしまう。が、隆三さんは優しくて入りたての頃からよく俺の面倒を見てくれている。今では新しい父親のような感覚だ。
それにしても筋肉がパンパンに詰まっていていいカラダをしているな……隆三さんを見ているとついチンコが勃ちそうになってしまう。
「そうだ、お前にプレゼントがあるんだ」
「えっ、なになに?」
隆三さんはビニール袋を取り出すと、なにやら中を弄り始める。中に入っている物を取り出すと満面の笑みで空にそれを掲げた。
「ジャジャーン!」
それは真っ白な褌だった。彼が穿いているものと同じもののようであった。これが……俺へのプレゼント……なのか!?
「俺とお揃いだ! お前も褌が似合う体になってきたからな。トランクスやめてこれにしな! その方が絶対似合うぜ!」
屈託のない笑みで隆三さんが詰め寄ってくる。正直、褌なんて時代錯誤だし、雄臭いしで好みではなかった。でも、彼の頼みなのだから、断る選択肢などハナから存在していなかった。
俺は隆三さんに教えてもらいながら褌を穿いていく。穿き終えた真っ白な褌は茶色の毛によく映えた。
「おぉ、似合ってるじゃねぇか! これでお前も褌仲間だなっ!」
バン、と背中を叩かれた。最初は恥ずかしかったが、穿いてみると、意外と悪くない――そんな気がした。
そんなこんなで仕事に、食事に、といった現場での毎日が続いていった。いつしか俺はさらに身長は伸び、体重も増えていく。体毛も、どんどん生えていって、体つきも、人間離れしたものに変わっていくのだ。鏡を見ておかしいとは何度も思った。でも、少しずつ慣れていった。いや、しまった、と云った方が正しいのかもしれない。
ある朝、俺はいつものように顔を洗うために鏡を覗く。そこには――
「……あれ?」
そこには、褌一丁の熊獣人の姿があった。見た目は三十代後半、といった感じだろうか。どう見てもその姿は人間ではない。
全身に生える茶色の獣毛、頭頂にある丸い耳、黒くて小さい鼻、前に伸びるマズル、ギラギラとした獣の目に、口からはみ出る牙。
どこからどう見ても、そこに映っているのは、熊の獣人の親父だった。
そしてそれは、俺だった。
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