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[chapter:サンプル]
◆
――現実世界。
彼女は一人、機器を被りながらゲームの世界に没頭していた。だからこそ、気づくことはなかったのだ。
接続していたケーブルが、今にも抜けそうなことに。
彼女はゲームの中で楽しくお喋りしているものの、見ているのは架空の視界のみ。目の前のケーブルは見えてすらいない。そして――
ケーブルは、緩やかに接続部から抜けていった。
彼女が持っているVR機器は、トラブル対策のなされていない一世代前のものであった。家系的な意味で最新機種を買うことができなかったのだ。
そしてそれが彼女を襲う不幸となろうとは、彼女も想像しなかったことだろう。
「あっ!?」
突然、声を上げたと思った大河は、急に糸が切れたかのように倒れこんだ。起動されていたゲームはぷつりと切れ、テレビの画面は、どこまでも続く暗黒を映し出していた。
ゲームは強制終了され、普通なら彼女は強制的にログアウトするはずだ。だが解放された彼女が意識を取り戻すことはなかった。なぜなら――
◆
「うーん……」
そこは、ファンタジーの世界でも現実でもない世界。電子の粒が無数に流れる空間。そこに大河は漂っていた。『ダーク』としてのアバターの姿で。
大河の意識はない。今は眠っているのかうつらうつらと寝言のようなものを呟くだけだった。
しかしそんな大河の肉体に変化が起こり始めた。
ググ……と華奢な少女の姿が膨らんでいく。それは、少女を少女と呼べなくするほどの変化であった。いや、女性でも子供でもなくなるのだが。
腕や脚は空気を入れたかのように膨らみ、柔らかな肉が彼女の体を埋め尽くす。そして、脂肪の中にもたっぷりと強靭な筋肉も溜め込まれてゆく。
腹筋はボコリボコリとシックスパックを形成してから、溢れ出る脂肪によってすぐさまボヨンと太鼓腹と化してしまった。
下半身すらも、尻からかけてその全てがまるで空気入れによって風船が膨らむかのように脂肪と筋肉で覆われていった。背丈はゆうに2メートルを超えるであろう巨大さになっていた。
そして、雄大さと貫禄さをも持ち合わせてすらいた。
相撲取りのような体型と化してしまった大河だったが、彼女を更なる変化が襲う。
全身の角質が生え変わるようにポロポロとこぼれ落ちて、代わりと言わんばかりに深緑色に輝く艶やかな鱗で覆われていった。
可愛らしかった耳がずぶずぶと、ひとりでに体内へ消えていき、ヒレのようなものがその位置に新たに生えていた。
小さな口も、その体に似合うよう、長く大きく立派に伸びていく。鼻は大きく立派になり洞窟のような鼻の穴が目立ってしまっている。口を開けると全てを噛み砕いてしまいそうなほど鋭い牙がいくつも並んでいる。その姿は、まさしく龍そのものであった。
アバターを作成するときに決めたポニーテールがそのままふさふさとした髪質に変化していく。栗色だった髪の毛はいつも月の光を反射していそうなほどに淡く輝く銀色の髪になった。キューティクルは失われ、ぼさぼさの、まるで老人のような髪へと変化してしまった。口には顎髭が蓄えられまるで何年も生きてきたかのような貫禄を見せる。
スカートを破いて、長く太く立派な尻尾が生えると、彼女――いや、彼の変化はひとまず完了した。
何故か、彼は龍人となっていた。
◆
ダーク:「ん・・・あれ、あたし、寝ちゃってた・・・?」
大河は目を覚ます。そこは見慣れない小屋だった。
ボロボロのサンドバッグに食卓テーブル、それに大量の瓢箪が置いてある小さな木製の小屋。そこで彼はただ一人座っていた。
ダーク:「あれっ・・・なんであたしだけしかいないの? みんなは? 魔法使いさんは?」
キョロキョロと辺りを見回すが誰もいない。何故自分だけがここにいるのだろうと疑問に思うが、答えは返ってはこなかった。
ダーク:「うーん・・・全然体動かしてないのに、なんかダルくない・・・? っていうか疲れ感じないでしょこの世界」
ふと、自分の手を確認してみる。そこには、緑色の鱗に覆われたふくよかな腕があった。あれ? と大河は思った。
ダーク:「これ・・・どういうこと?」
全身をくまなく見ようと首を下に向ける。そこには、いつもの武器が装備された、龍人の、しかも男の体があった。
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