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エターナル・ヒーローショー【FANBOX試し読み】

  [chapter:サンプル]

  「ここか……」

  高校生、緑山俚葉(みどりやま リョウ)がチラシ片手に足を踏み入れたのは、まだ始まってもいないヒーローショーの会場だった。

  彼は現在二年生。来年には大学受験、ひいては就職が控えている歳だ。彼は後々やってくるであろう一人暮らしのための貯金、社会に出る時に備えての勉強などを兼ねてアルバイトをする事を考えていた。

  ひとまず、手頃な求人雑誌を手に取り、短期間かつそこそこの収入のある仕事先を探した結果、このヒーローショーの求人を見つけ応募したのだった。

  その結果彼はヒーローの“中の人”に採用され、今に至る。

  初めて経験する未知に胸の内を高鳴らせつつも彼はその手で門を叩く。

  「やあ、応募のあった方だね?」

  小さなプレハブからドアを開けて現れたのはごく普通の青年だった。シャツにジーンズという簡素な服装をしている彼は、リョウの姿を見るなりにこやかに笑いながら自己紹介を始めた。

  「僕は黒野総士(くろの そうし)。このショーの運営を任されている者さ」

  「緑山リョウです! 今日からよろしくお願いします!」

  リョウは深々と頭を下げて挨拶をする。それを見たソウシは「いいよいいよそんなに畏まらなくて」と柔らかな笑みを浮かべてリョウの下がった頭を上げさせる。

  こうしてリョウの初めてのアルバイトは始まった。

  「キミは『ネイチャーグリーン』を演じてもらう。これがキミに着てもらうスーツね」

  ソウシは更衣室にリョウを案内すると彼が着る予定のヒーロースーツを見せる。ラバースーツのような薄地の簡素なものだったが、リョウはまあ地方のオリジナルヒーローのショーならこんなものだろうとひとり納得しスーツを手に取る。

  「着てみるかい?」

  「えっ、えぇと……」

  中央に葉っぱを模したマークが描かれた緑色のスーツを再度確認するリョウ。表面は原色のグリーンが蛍光灯に反射してピカピカと光っている。安物のスーツにしては妙に光沢のあるそれを見ていると、何故だかリョウは今すぐにでも着ている服を脱ぎ捨ててこのスーツを身に着けたいと思ってしまう。

  (いや……どうして俺はこれを着たいと思ったんだろう……別にお金のためにここに来ただけの筈だし)

  改めて自分の本来の目的を思い返したリョウは持っていたヒーロースーツをロッカーに戻すと「それよりも、本番まで段取りを確認しておきたいんですが……」と話題を逸らすためにソウシに話しかける。

  「ああ、そうだね。じゃあ今日はスケジュールの確認とリハーサルかな」

  「分かりました。よろしくお願いします」

  こうしてリョウのヒーロー生活が始まった。

  まずは最低限の演技やアクションをこなすための練習が行われた。ショーに登場するヒーロー、『エレメントファイブ』のメンバーは全部で五人。リョウは自然を操る心優しきヒーロー『ネイチャーグリーン』役だった。

  「今日からよろしくね、みんな」

  エレメントファイブのリーダー『バーニングレッド』役の赤原師郎(あかはら しろう)。

  彼は劇団に所属している役者の卵でいつか本物のヒーロー番組に出たいと思っており、今回のバイトも今後の勉強のためだった。

  「さっさと始めようぜ」

  『アクアブルー』役、青上大樹(あおうえ だいき)。

  元陸上選手の彼は学校卒業後フリーターとして働いていたが、自身の身体能力を活かした仕事がしたくてこのヒーローショーに参加した。

  「最高のショーにしましょうね!」

  『ガイアイエロー』役、黄村優芽(きむら ゆめ)。このメンバーの紅一点。

  子供が好きな彼女は、学校教師になるべく大学に通っている。その中で一度やってみたかった『司会のお姉さん』役を志望していたそうだが、ソウシの女性メンバーが欲しいという要望からヒーローのアクターに採用されたのだった。

  「うん、頑張ろう」

  『ストームブラック』役、黒木刀矢(くろき とうや)。元会社員で、メンバーの中では最年長である。

  彼はここ数年働いていた会社が倒産し再就職のための収入が必要だった。そこで短期かつ高収入の仕事というこのヒーローショーに目をつけたのだった。

  「じゃあ、今日は台本チェックと基本的なアクションからいってみようか」

  「分かりました!」

  動きやすい服装に着替えたメンバーは、渡された台本の読み合わせとアクションの練習を始めた。

  「『この燃え上がる情熱があるかぎり、このバーニングレッドはどんな悪にも屈しはしない!』」

  「はっ、たぁっ!」

  その中でも頭角を現したのは俳優志望のシロウと元スポーツ選手のダイキだった。それぞれ己の経験を活かして未経験の他のメンバーの補助も行う。

  「もっとお腹に声を出して、ヒーローになりきった感じで声を出すといいよ」

  「分かりました!

  『そこまでよ、ダークコマンダー!』」

  「いきなり無理に動こうとすると体を壊す可能性があるからな。まずはゆっくり自分の動きを確認してみよう」

  「こんな感じですか?」

  こうして五人の練習の日々は続いた。初めは足並み揃わぬ時もあったが、一週間、一ヶ月と同じ時間を共にする事で、彼らには確かな絆が生まれていた。

  「『今日も世界の平和は守られた! さあ、これからも戦い続けよう!』……っと」

  「オーケー! みんなよく頑張ったね!」

  そして前日のリハーサルも終わりを迎え、とうとうショーの本番が近づいていた。お互い顔を見合わせこれまでの練習の日々を噛み締める。

  皆が解散したその日の夜、リョウは観客の子供達の喜ぶ顔を思い浮かべていた。

  初めはなんとなくで始めたバイトだったが、ここまで充実した時間は久しぶりだと思った。何より明日のショーでこれまでの練習の成果を皆に見せられるという事が嬉しかった。

  明日はきっと良いショーになるだろう。何故だかリョウの中にはそんな根拠のない自信があった。ネイチャーグリーンになった自分を思い浮かべながらリョウは眠りにつく。

  そんな日は二度とやってこないという事も知らずに――

  ◆

  「おはようございます!」

  「リョウくん、今日はとうとう本番だね。僕も皆がヒーローになった姿を早く見届けたいよ」

  そしてヒーローショー当日。リョウは朝早くから会場に向かいソウシと挨拶を交わす。ソウシはいつもと変わらぬ笑顔を浮かべながらリョウの手を握った。

  「じゃあ、そろそろスーツに着替えてもらおうかな。スーツは更衣室のロッカーにかけてあるよ」

  「分かりました。あれ、そういえば……」

  ふとリョウは辺りを見渡す。今日が本番ならば他の四人もとっくに会場へ来ていてもおかしくないはずだ。それなのに、彼らの姿がどこにも見当たらないのだ。それどころか音や気配すらも感じられない。

  「みんなはまだ来てないんですか?」

  「いや、もう来てるよ。多分、今は準備中なんじゃないかなぁ」

  「そうですか……」

  一体何の準備をしているのだろうと疑問には思ったが、本番までにスーツの着心地を確かめなくてはならないとリョウは足早に更衣室へ向かう。

  リョウはドアノブを握ると更衣室の扉を開ける。

  「ん……?」

  リョウは、その時違和感を覚えた。

  扉を開ける感覚。握ったドアノブの感触。それはいつも行っている普遍的な動作のはずだ。それなのに、リョウはこのドアを引く時の感触にいやな重みがあるように感じた。

  何か――開けてはいけない箱の蓋を開けているかのような嫌な予感。リョウはどうしてこんな気持ちになっているのだろうと考えるも、ショーのための準備を始めなくてはならないとすぐに思い直しその更衣室の扉を開いた。

  「えっと……『緑山』。これだな」

  更衣室の、いくつも置いてあるロッカーの中から自分の名札が書いてあるロッカーを探し出すとそのロッカーを開けた。中には光沢のある緑色のスーツ――ネイチャーグリーンの衣装一色が入っている。

  服を脱いだリョウはヒーロースーツを身に着けていく。しかし思った以上にサイズが小さく設定されており下着を穿いたままではスーツが体を上手く通らない。

  「仕方ないな……」

  リョウはそこに誰もいない事を何度も確認すると、穿いていた下着を脱ぎ捨て全裸の状態でスーツに体を通していく。先程までやけに窮屈に思えたスーツは、まるでリョウの肉体にフィットするかのようにすんなりと入った。

  スーツの上から白のグローブとブーツを着けると最後に顔を隠すためのマスクを探す。が、しかし……

  「あれ、そういえばマスクとかないのかな……?」

  しかしロッカーの中を見ても、更衣室の辺りを探してもそんなものはひとつとして見当たらない。

  「おっかしいな……さすがに素顔のままショーに出るわけにはいかないし……」

  途方に暮れているリョウの前に、ひとつの人影が現れる。それはリョウがよく見慣れた人物だった。

  「そんなもの必要ないよ」

  「あれ、ソウシさん……どうしたんですか?」

  そこにはいつものようににこやかに笑う黒野総士の姿があった。しかしいつもと異なるその雰囲気にリョウは訝しむ。普段の柔らかな笑顔のはずなのに、その笑みには裏があるように思えるのだ。

  「そのスーツももう脱ぐ必要はないんだよ。もう君は人間じゃなくなるんだから」

  「え……それって、どういう」

  ソウシはその微笑みを浮かべたまま、手に持っていたものをリョウに突きつける。

  リョウがその疑問を言い終わる前に、ソウシの右手の『杖』が漆黒の光を放った。

  「あっ!?」

  その光は暗闇のように昏いはずなのにどの光よりも眩しく感じられた。その光にリョウは思わず目を逸らし防御の体勢を取る。

  「何だこれっ……おうんっ!!?」

  リョウは突然起こった事態に困惑するも、それを忘れさせてしまうように何の前触れもなくリョウの腹が風船のように膨らみだした。

  それどころか、その膨らんだ風船腹を基点としてリョウの全身に豊満な肉がついていく。それは筋肉などではなく全て脂肪。しかも弾力のある柔らかなものだった。

  「おアッ、ガッ、これッどうなッて」

  バキ、ゴキと骨が軋む音と共にリョウの体格が膨らんだ肉に合わせて少しずつ大きくなる。腕も脚もついた肉と脂肪により太くなっていき、背丈も男性の平均的なものを遥かに超える巨漢となっていく。

  力士のようになってしまったリョウの体にさらなる変化が起こる。唸るような声をあげたリョウの口が大きく裂けると一気に前へと突き出していく。鼻が大きくなり動物のように黒ずむと、口内の歯が発達し牙となる。

  「君は僕の……いや、私の玩具だ」

  少しずつ変わっていきながらもまだ大きくなっていくリョウの姿を見ながらソウシはひとりほくそ笑む。

  ソウシの持っていた杖が再び黒い光を放つと、ソウシの服は霧散し、露わとなった肌から黒々とした毛が生えていく。それはヒトのものとは異なる艶やかで柔らかな獣毛。夜の闇のような漆黒の体毛が、ソウシのありとあらゆる箇所に生い茂る。

  「グ、オオォ……」

  リョウと同様に彼の口が裂けて突き出すと、それは獣のマズルとなる。毛が顔に到達する頃には横にあったはずの耳はいつの間にか頭の上へ移動していた。

  刈り込んでいた短髪が急激に伸びていくと、首を覆い隠すほどの長い髪となる。これは雄獅子の象徴である鬣だ。

  「あっ、あっ……」

  いつの間にか頭上へと移動してしまった三角の耳がピコピコと動く。顔はマズルを携える獣のものとなり、抜け落ちた髪の代わりに薄茶色の毛が余す事なく生えている。おそらくスーツの下の体もその毛で覆われてしまっているのだろう。

  先程までリョウがいた場所に目元に黒い隈のような模様をした顔の獣が立っていた。その顔は急激な変化によってかなり老け込んでしまっているようだ。

  「うあぁ……」

  獣のチョコレートのような色をしたその瞳はうつろに濁っている。口元はだらしなく開きそこから一筋の涎がつうと垂れる。心はここにあらずといった様子だった。

  「あぁ……? あっ!?」

  向こう側を覗いていた彼の瞳が光を取り戻す。気がついた時にはリョウは、ネイチャーグリーンのスーツを着た巨大な狸人間になっていた。

  「良い姿になったな。さすがは私の『宿敵』であり『玩具』となる存在だ」

  すっかり黒毛の獅子となったソウシは、自らの体に力を込める。するとほっそりとした身体に急激に筋肉がついていき、一瞬にして筋骨隆々の肉体となった。筋肉だけでなく、股座の逸物と睾丸も相応の立派なものと化していた。

  ソウシは再び持っていた杖を掲げると、頭上に光を放つ。ソウシの体に降り注いだ光は今のソウシに相応しい衣装を繕っていく。

  「ソウシさん!? あなたは一体……

  どうして俺をこんな姿に!」

  黒と金の衣装に身を包んだソウシはマントを靡かせながら困惑するリョウの下へと徐に歩いていく。その指でリョウの顎を持ち上げると怪しげな声で囁いた。

  「私は“大総統”ダークネスレオ。貴様達“ヒーロー”の敵となる者だ」

  その言葉にリョウはさらなる混乱に陥る。まさかまだヒーローショーの続きをしているわけではないのだろうかと一瞬思うも、変わってしまった自分やソウシの姿を見てやはりこれはショーではない現実なのだと再確認する。

  「私は昔はただのつまらない人間だった。友人も恋人もいない無機質な人生を送ってきた。しかし、この杖が私の願いを叶えてくれた。ずっと好きだったヒーロー番組の世界を、これから私は作るのだ」

  「だからどういうっ……んんっ!?」

  理解の及ばない動機を自分勝手に聞かされたリョウはダークネスレオと化したソウシに困惑と怒りをぶつけようとしたが、疑問を紡ごうとした口はダークネスレオのマズルによって強制的に塞がれてしまう。

  「んっ……ふっ、むぅっ、くちゅっ……」

  「んんっ、んんーーーーっ!」

  肩を抱かれ口内を獅子の舌で蹂躙させられたリョウは彼の体を振り解こうとしたが、何故か全くといって動く事ができなかった。それどころか、スーツの中の逸物が、勃起を始めている……

  「ぐっ……一体何を」

  「緑山俚葉。貴様はこれから『ラクーングリーン』として永遠のヒーローショーと私と続けるのだ。身も心も私好みのヒーローとなり、私と戦い、私にこの身を捧げ続ける。それだけの存在となってもらう……」

  ダークネスレオがその言葉を言い終わるや否やリョウの視界が真っ暗に輝く。脳の中ををチカチカとしたフラッシュで焚かれているような感覚に陥ると、急に全身が熱くなりはじめる。

  「んっ……体が、おかしいっ……!?」

  「この杖は私の理想を叶えてくれる。この杖の放つ光を浴びた者は、私の思い浮かべた通りに改変される。この私でさえも例外なくな」

  大総統ダークネスレオ。世界の支配を企まんとする彼は、元は黒野総士という名の普通の人間だった。しかしある時黒の杖を拾ったその日から彼の人生は一変した。

  杖の力で全てが思い通りにいくようになった彼は己の欲望を満たさんとある事を思いつくに至った。

  自分を愛してくれるヒーローを作り出す事を。

  そして、そのヒーローの宿敵に自らがなる事を。

  「体があつい……やっ、やばっ……」

  今、リョウの全身には焼け付くような妙な感覚が走っている。その感覚は全て性欲だ。本人は自覚していなかったが、今の彼は全身が性感帯のようなものなのだ。少しでも体が何か触れたりしようものなら、どうなるか分かったものではない。

  「アッ!?」

  更衣室に素っ頓狂なリョウの声があがった。理由はひとつ。彼のスーツの中に収められていた“金玉袋”が一気に膨れ上がったからだ。

  彼の睾丸はパンパンに膨れ上がりスーツがはち切れんばかりに押し上げている。キンタマの肥大化によりリョウの性欲はさらに上昇した。既に玉に包まれた彼の肉棒はガチガチに勃起して我慢汁でスーツを汚してしまっている。

  「やはり狸ならば“ソコ”は大きくないとな」

  快感に悶えるリョウをよそにダークネスレオは彼の陰部を指差し笑う。

  悔しさから目の前の黒獅子を睨みつけるも次々と襲い来る快感によりその目は一瞬で緩んでしまう。

  「あうぅ……」

  「そろそろ貴様の相手をするのも飽きた。せめて最期くらいは無様に私を愉しませろ」

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