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その3 セカイイジール(終)

  [chapter:登場人物紹介]

  ・トンデモ博士

  豚獣人の博士。50歳の中年男性。

  本名、ドロモト・トウゾウ。

  妙な発明を日夜続けている変人。

  実は男にしか興味がないらしい。

  こっそりと発明品を悪用して性欲を貪っているとか。

  ・ユウ

  犬獣人の小学生。好奇心旺盛な性格。

  博士の発明品「オオキクナール」によって一時的に淫乱な親父になったが本人はそのことを覚えていない。

  ・ジン

  猫獣人の小学生。成績優秀でクラスではトップの成績。

  博士の発明によりゲイの中年親父になった未来の自分の姿を体験した。

  ・タク

  兎獣人の小学生。弱気で臆病な性格。

  [newpage]

  [chapter:セカイイジール]

  「と、トンデモないものを発明してしまった……これを学会に発表すれば、きっとワシは……!」

  その日、ユウ・ジン・タクの三人はいつものように博士のラボを訪れていた。怪しげに笑い続ける博士を怪訝に思いながら。

  「ふっふっふ、ぶっひひ……」

  「ねえ博士、ちょっと気持ち悪いんだけど……」

  「おお、すまんな。発明品が会心の出来だったのがうれしくてな。ぶほほ……」

  子供達に引かれてもまだ含み笑いを隠せないでいる博士。彼の笑い声だけがラボに響く中、その微妙な空気を断ち切るかのようにタクが訊いた。

  「あの、それってどんな発明なんですか?」

  「おお、よくぞ訊いてくれた。では、特別に君達に見せてやろうかの」

  「見せたかったくせに」とジンは一瞬思ったが言わなかった。意気揚々とその機械を取り出した博士は、いつもよりさらにやかましい声を張り上げる。

  「これぞっ、ワシの最高傑作! 『セカイイジール』じゃあ!!」

  その見た目は最近流行りの『便利ケータイ』や『ハイテクゲーム機』に似ていた。大きな液晶画面に、いくつかのボタン。このボタンを動作するのかはまだわからない。

  「これはこの世界そのものを設定しなおして改変する機械じゃ」

  「マジ!? じゃあゲームや漫画の世界みたいにもできるのかな!?」

  「当然じゃ。どんな世界に改変しようとも機械さえあれば元に戻せるしの。ワシらの思うように変え放題というわけじゃ」

  ……もはや物理法則やら諸々を無視している発明だが、天才科学者の彼にとってはそれができてしまうのだ。さすがに今回のようなケースは奇跡といっていいものだが。

  「さて、まずはデモンストレーションじゃな。お前ら、どんな世界でどんな役になりたいか選ぶがよいぞ」

  そう言うと博士は『セカイイジール』の電源を立ち上げる。液晶が光ると『世界変更画面』という文字といくつかのメニューが映し出された。

  「ここに新しい『セカイ』の内容と、その『セカイ』で君達がなる『立場』を選ぶんじゃ。例えば、『ファンタジーセカイ』の『勇者』とか、の?」

  「うわー、すごーい! じゃあゲームの世界にしてみるね! 僕は戦士!」

  「じゃあ俺は魔法使い!」

  「僕は、僧侶にしようかな」

  「では、改変するぞっ。念の為『安全レベル』は最低の1にしとくからの」

  博士は彼らが決めた設定そのままにセカイイジールに改変を命令する。すると周りの空間がぐにゃりと歪んだ――

  ――ここは改変されたファンタジーのセカイ。

  「勇者ユウ・ジン・タクよ。貴様らは人類を脅かす魔王を倒し、世界に平和を取り戻す使命を与えられし者だ。期待しておるぞ!」

  『トンデモ王』の命により戦士ユウ、魔法使いジン、僧侶タクの旅がはじまった。

  「モンスターなんて僕の剣でなぎ倒してやる!」

  「俺の魔法でみんなをサポートするぜ!」

  「傷ついたら僕が治してあげるね」

  三人は勇者の力でモンスターや魔王の手先を次々と倒していく。

  そしてあっという間に魔王の出城に辿り着いた。

  「フハハハ! 勇者よ、貴様らの旅もここまでよ!」

  「負けるもんか! 星のみんなのために、絶対に平和を取り戻してみせる!」

  「ユウ、タク! 俺が守ってやるからお前らは安心して戦ってくれ!」

  「僕には祈る事しかできないけど、それでも皆を守りたいって気持ちは一緒だよ!」

  激闘の末、彼らはセカイに平和を取り戻したのだった……。

  「皆の者ご苦労だった。それでは世界を戻すぞ」

  「すっごく楽しかった!」

  「ゲームじゃない、本物だぜ! しかも俺らすげえ強かったよな!」

  「ちょっと怖かったけど……みんなと一緒に平和を取り戻せてよかった!」

  元の世界で、勇者としての日々を語り合う三人。今日はこれで何のトラブルもなく平和な一日が過ぎると思われた。

  「……」

  しかし、タクが機械を操作した事により、世界は取り返しのつかない事態になる。

  (もっと別の世界も見てみたいな……)

  それはほんのわずかな好奇心だった。

  他にはどんな世界があるんだろう? そう考えたタクは、三人に内緒でこっそりと『セカイイジール』を操作していた。

  本来これは取り扱い方を熟知している博士しか使ってはいけないものだったのだが、なまじゲームのような見た目のシンプルな機械だったために、小学生のタクでも容易に操作できてしまった。それが悲劇を生むとも知らずに。

  「何これ? 『父親』『母親』『子供』……? もし僕達にこの役を設定したらどうなるんだろう?」

  ジンはすいすいと液晶をフリックしながら思い描いた世界を設定していく。

  ……とその時、不審な動きをしていたタクを、ユウが声をかけた。それが間違いであった。

  「ねえ、何してんの?」

  「わっ!」

  ユウの声に驚いたタクはセカイイジールを落としてしまう。その時、まだ設定していなかった『危険レベル』が設定され、さらに誤作動によって世界の改変が始まってしまった。

  「うわあぁ! 何だこれっ!? 世界が……」

  世界が歪み、改変される。

  タクはその中で、自分の身体が大きく膨らんでいくのを感じた……。

  改変されたセカイ。

  「ママ、お腹減ったよ」

  「ご飯作ってー」

  「ハイハイ、今作りますからのー」

  そこは魔法や発達した科学技術などは存在しない、平和でのどかなセカイだった。

  豚獣人の主婦(夫)、トウゾウは息子達に急かされてせっせと朝食を作っていた。

  なんの能力も持たない専業主婦(夫)である彼には、当然ながら不思議な発明品を作る力などない。できる事は料理、洗濯、掃除くらいだ。

  「ユウ、ご飯食べたら遊びに行こうな!」

  「そうだねジン!」

  兎獣人の長男ユウと豚獣人の次男ジン、二人はタクとトウゾウの可愛い子供達だ。

  「おっ、起きたかあなた。ご飯もうすぐできるからな」

  「おう、いつもありがとな」

  遅れてやってきたのは父親のタクだ。白毛の兎獣人で、歳はトウゾウと同じ50過ぎの中年だ。最近は腹が出てきたのが悩みの種らしい。

  「愛してるよ、トウゾウ」

  「ワシもじゃよ、タク」

  朝のキスをして目覚めを迎える二人。息子達の冷ややかな視線などお熱い二人には関係なかった。

  「「行ってきまーす!」」

  「気をつけるんじゃぞー」

  遊びに行く息子達を見送ったトウゾウは、いそいそと寝室へと向かう。そこには愛すべき夫が服を脱いで待っているからだ。

  「待たせたの」

  「いいから服脱げ。俺のコレでアンアン言わせてやるからさ」

  熟年ながらおしどり夫婦(夫)の二人は、子供達のいぬ間に毎日のように交尾していた。

  あくまで子作りのためではない、性を貪り合うためのものだ。

  コンドームつきのタクのチンポがトウゾウのアナルに何度も出し入れされ、ゴムの擦れるけたたましい音が響き渡る。

  「ぬおおっ、そんなに激しくしたら破けちゃうっ! また赤ちゃんできちゃうよぉ!」

  「そんときゃそんときだ。兎獣人の性欲なめんじゃねえぞ。告白してきたのはお前からなんだから、俺を愛し続けるのはお前の役目なんだよ。俺も一生お前と添い続けるからよぉ。だから安心してイキまくっちまえ!」

  乱暴だが、確かな愛の告白を叫び続けるタク。その度に二人は何度もイッた。お互いに何発も射精し、金玉がカラになるまでベッドの上で盛り続けた。

  「ふぅ……」

  「タク……愛しとるぞ」

  「俺もだ、トウゾウ」

  タクの豊満な身体に抱かれていたトウゾウは、何か大切なものを忘れているような、そんな気がした。

  何か取り返しのつかない事態が起きていて、もうどうする事もできない状況に陥っている。そんな嫌な予感が過ぎる。

  しかし、自分を抱く夫の体温に包まれていると、その不安もなくなっていった。

  こうしてトウゾウは『オスしかいないセカイ』の“母親”として、新たな人生を歩み始めた。

  「……なあ、トウゾウ」

  「なんじゃ?」

  「俺、夢を見たんだ。ガキの俺が、科学者になってるお前と、色々な実験をするんだ。お前は変な発明ばっかして、俺らはそれに振り回されるんだぜ? な、変な夢だろ?」

  「ぶひひ、確かにそれは変な夢じゃの。しかし夢は夢、この『現実』は、何よりかけがえのない日々……そうじゃろう?」

  「そうだな」

  こうして、セカイは改変されたまま戻る事はなかった。

  何故ならもう『セカイイジール』はこの世界に存在していないからだ。

  製作者であったドロモト・トウゾウは科学者ではないただの一般獣人として改変され、当事者の子供達の記憶も一人残らず改竄されてしまった。

  故にその機械はこのセカイに生まれてすらおらず、セカイを戻す事も一生不可能になってしまった。

  これで彼らの奇妙な話は終わりである。

  ドロモト・トウゾウの発明は、セカイに大きな影響を与えたまま闇に消える事となった。

  しかしこの改変されたセカイでも、いつかまた、別の誰かによって新たな『セカイイジール』が生まれるかもしれない。

  彼らが元のセカイに帰れるのは、果たしていつになるのだろうか?

  それでも今は、ひとときの心地よい白昼夢(ゆめ)を、ずっとずっと見続けるのだろう。

  完

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