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マンティコア化先生とモンスター化学校~暴虐のマンティコア~
大学卒業して、憧れの学校教師になれたけど……。授業を妨害する悪ガキ、高圧的な先輩教師、クレーム入れる保護者……。もう嫌んなってきた。転職しようかな。
今夜も鏡の中のやつれた自分に向かってため息一つ。
あれ? 何か顔が丸くなったような。
きゃあああ! 顔中に毛が生えて、鼻がでっかくなって、ヒゲが出てきた。何なのよ、これー?
服がビリビリやぶけて、なかやまきんに君みたいにムキムキになり、腹筋が6つに分かれた。どうなってんの?
背中から黒いコウモリみたいな翼が、尻の付け根からはザリガニのような感じの尾が出てくる。
自分の顔は大きな野獣、ライオンの顔になってしまった。髪は雄のタテガミに変わっているし、鼻水出てるし、牙とよだれで気持ち悪い……。脇を嗅いでみたら、クッサー!! 卵が腐ったような臭いがする。臭いのに何で何度も嗅ぐの? もうやだー!
あー、急にムラムラしてきた。こんな狭いアパートを飛び出して、広い世界に出たい。あと何か破壊したい!
犯罪者になったらダメよ、[[rb:亜子 > あこ]]。徳川歴代将軍の名前を言ってから、落ち着こう。家康、秀忠、家光、家綱、綱吉、家宣、家継、吉宗、よしよし落ち着いてきた。
とりあえず、ドアから出て屋根の上に乗って一吠えしたら落ち着くはず、だよね?
[newpage]
ドアを開けて、家を出ようとしたら、頭がぶつかる。
イッター! 私が大きくなっているから、いつもどおりに出たらダメよね。あー、イライラする。
ドアを思いっきりバーンと閉めたら、ドアの表面がひしゃげてしまった。まるで2tトラックに衝突した跡みたい。これ直さないと、大家さんに叱られるー。
壁をつかんで屋上に上がる。赤い満月が光って、気持ちいい風が吹いている。頭が冷えてきたな。
「どうして、こんな姿になったの……」
ザリガニの尾をつまんで、ため息一つ。この尻尾をよく見れば、先端が注射針みたいに鋭くなっている。これで誰か刺せば、死んじゃうかな。
「試したいなぁ。ハッ!」
いつの間にか、脳の半分に、魔獣の針を誰かに刺したいという願望が湧きだしている。ダメよ、ダメダメ。絶対にダメなんだから。頭を激しく横に振って、その願望を振り払う。
「お酒最高、お酒最高、イエーイ!」
自分の鼻に酔っ払いの悪臭が入ってくる。普段は嫌いな臭いなのに、今は何故か好きで憧れてしまう。
「アノ男ダ!」
野生の私が翼を開いて、酔っ払いのサラリーマン目がけて滑空していく。やっ、やめて!
私は酔っ払いのサラリーマンの背後に立って、何度も匂いを嗅ぐ。うーん、いい香り~。オレもお酒飲みたくなってきたー。
「ん? うわぁ、バケモノ!!」
振り向きざまにそれはないでしょう。と思ったが、誰だって、2m近いゴリマッチョな獣人を見たら驚くか。オレはむやみに後追いしない。
「いたっ!」
駆け出したサラリーマンが、明らかに不良の中年男性とぶつかってしまう。ヤンキー男は舌打ちして、サラリーマンを睨む。
「す、すみません」
「すみませんで済んだら、警察はいらねぇよなぁ!?」
ヤンキーは拳をポキポキ鳴らして、頭を左右に揺らしている。おい、これはヤバイんと違うか。
「お、お許しを」
「俺が許さねぇ!」
「暴力反対っ!」
オレはとっさにヤンキーの拳を右手の平で止めたつもりだった。ところが、一瞬にしてヤンキーの体は宙に浮き、電信柱に激突していた。ヤンキーの頭が半分、電柱にめり込んでいる。
「ひっ、ひぃぃ、お助けー!」
サラリーマンは現場から逃走する。ヤンキーは死んだように微動だにしない。
「こ、こ、この力は……」
オレは世界一最凶なモンスターになってしまったのだ。めっちゃヤバイ、ヤンキー死んでないよな?
ヤンキーに近づき、耳を立てて心音を聞く。ドクンドクン、あぁ生きてる、良かったぜぇ。これで殺人犯にならずに済んだ。
誰も見ていないことを確認してから、犯行現場から一目散に逃げ去った。
[newpage]
チュンチュンチュン
「おっはよー!」
「おはよ!」
外が騒がしくなってきた。夜が明けたみたいだ。
私は寝ぼけなまこをこすりながら、起き上がる。あれ? 自分のシャツがちぎれて、切れ端と化している。
いやっ! 私ったら、何も着てないじゃない!
ドアの方を見れば、鉄球がぶつかったようにひしゃげている。
そして、自分の周辺に金色の毛が落ちている……。
昨日、私がモンスターになったのは、夢じゃなかったのだ!?
ネットで調べたら、ライオンの体、コウモリの翼、サソリの尻尾を持つモンスターはマンティコアと言うらしい。
何故、私はそんなモンスターになってしまったのか。再び変身してしまうのか。
不安を抱えながら、いつも通り授業を行う。今日は、問題児が多い3年D組の授業がある。大きなため息が出てくる。
[newpage]
「えー。これにより、オスマン帝国が参戦し――」
オスマン帝国を黒板に書くと、“オスマンていこく”と“マンティコア”の響きが似ていることに気づく。同時に、昨夜のことを思い出す。生徒に暴力はダメ、戦争は絶対ダメと言ってる私が、争いごとを暴力で解決したなんて、誰にもバレたくない。
「先生! [[rb:里佐土 > りさど]]がスマホいじってまーす!」
生徒の告発で、私の視線は黒板から里佐土に移る。彼は顔をバッと上げて、軽く舌打ちする。
[[rb:里佐土 > りさど]][[rb:万太郎 > まんたろう]]は野球部で、プロ注目のピッチャーだ。彼は先生によって態度を変えるそうで、私の授業では寝るか内職(他の授業の課題をこなす)をしているかの二択だ。
「里佐土君、ちょっと荷物検査するわよ」
「どーぞ、どーぞ、[[rb:満地 > まんち]]先生」
彼は[[rb:飄々 > ひょうひょう]]とした態度で、反り返る。
教科書の下、机の中、制服のポケットの中、カバンの中、どこを探してもスマホは出てこない。
「せんせー、早く授業やって下さいよー。[[rb:紀米良 > きめら]]の見間違いですってー」
彼はヘラヘラしながら、私の腰をソフトタッチしてくる。悔しいが、ここは引き下がるしかない。
「紛らわしい行為はしないようにね」
「はーい」
彼は左手で鼻をほじりながら、右手を挙げる。どこまで舐め腐った奴だろう。
昨夜の私なら彼をぶん殴っていたかもしれない。承太郎のようにオラオララッシュしてから、床に叩きつけてヤムチャのポーズにしたいわ。
[newpage]
<ここから三人称になります>
「ちょっと、トイレ行ってきまーす」
里佐土は挙手してトイレへ向かう。彼は廊下やトイレに誰もいないのを確認すると、一番奥の個室に入る。
「ふぅー。回すか」
彼はパンツの中から、生温かいスマホを取り出す。教師にバレないよう、1日に1回以上はトイレに行って、スマホゲームにいそしんでいるのだ。
「チッ。カスばっかかよ」
彼は声をひそめて、今日のガチャのメンツに舌打ちする。既存のメンバーを強化して、定期イベント戦に向かう。
定期イベントの相手はマンティコアだ。かなり防御力が高いため、フレンドのパーティーと協力して倒さなければならない。
「うわっ、空飛んできた。えっ、毒針? キモっ、チートすぎんだろ」
彼はマンティコアの規格外の強さに文句を言う。現実でも、マンティコア化教師がドアの前に立っていると知らずに……。
マンティコアの前では、トイレの簡易な鍵は無意味だ。ドアの蝶番が外れ、鍵がひしゃげて、狂暴な獅子顔が里佐土の目の前に現れる。
「何やってんだ、てめー!?」
獣臭い息が里佐土にかかる。彼は顔をしかめて、ティッシュで鼻を押さえる。
「何だよ、その着ぐるみは? け、警察に通報してやる!」
「これが着ぐるみに見えるか?」
マンティコアは里佐土の後ろの壁を拳で一突きする。すると、壁に穴が開いて、コンクリートの破片がポロポロと床に散らばる
「なっ、なっ、何なんだよー?」
里佐土はマンティコアの怪力を目の当たりにして、おしっこを漏らしている。
「授業中に携帯を使用する人間よ。今すぐ教師に正直に話しなさい」
マンティコアは牙をむき出して言う、その顔は獲物を見て興奮する猛獣のようだ。里佐土は震えながら聞き返す。
「もし言わなかったら……?」
「このドアノブのようになる」
マンティコアは床上のドアノブを拾い、格闘家のリンゴのように握りつぶした。丸いドアノブが細長いバナナのような形状になった。その馬鹿力で人間が握られたらどうなるか、想像するだけで里佐土の顔はロウソクのように真っ白になった。
「わ、わ、わかったよー。言えばいいんだろ、言えば!」
「それでよろしい」
マンティコアは窓から飛んでいった。後に残された里佐土は壊れたドアや壁を見ながら、ほっぺたをつねる。
「これ、現実?」
彼は便座からずり落ちて、あお向けに倒れた。
[newpage]
<満地先生の一人称に戻ります>
里佐土がトイレの中でスマホをいじっていることを匂いで察知した私は、屋上へ上がってマンティコアに変身していた。怒るだけだったのに、トイレを破壊してしまうなんて……。
「学校で変身するなんて、バレたらどうすんのよ、バカバカ」
自分の頭を叩きながら、人に戻っていく。アームレスリング優勝者も驚きの太い腕から、元のきゃしゃな腕に戻る。素早くスーツに着替えて、人間として何食わぬ顔で職場へ戻る。次も空き時間がある。紅茶でも飲んで落ち着こう。
私が紅茶を飲みながらきゃわいい子猫の動画を見ていると、先輩の[[rb:相須 > あいす]]先生が声をかけてくる。
「いやぁ、満地先生、驚きましたね。あの里佐土がスマホいじっていたことを[[rb:火魔 > ひま]]先生に告白して、とても怒られていますよ」
火魔先生は野球部の監督で、常にサングラスをつけている。授業中は険しい顔で任侠のオーラを出しているので、生徒の誰も彼に逆らおうとしない。職員室では結構気さくな人なんだけどね。
「この前の授業で、生徒からスマホさわっていると指摘ありましたよ。その時もさわっていたんでしょうね」
「ええ。これで1ヶ月スマホ没収ですよ。今の子はスマホ無しだと気が狂うんじゃないですか」
気が狂えばいい、あんな奴。少しはおとなしくなるだろう。
「そうですね。まぁ、自業自得ですけどね」
「たしかに。そうだ、満地先生、今夜は空いてますか?」
相須先生が薄気味悪い笑みを浮かべて、私に尋ねてくる。最近、この中年オヤジ先生は、私を誘惑してきてうっとうしい。
「すみません。今夜は大学時代の親友とカラオケに行く予定が入っていまして……」
「そうですか。では、仕方ないですね」
相須先生はハンカチで額の汗をぬぐいながら、自分の席へ戻る。彼の細い目は、確実に私の胸元を見ていた。うわぁ、嫌らしい。絶対にあの人と飲みに行きたくないわ。
[newpage]
相須先生の誘いを断るため、大学時代の友人とカラオケに行くという嘘をついた。実際はヒトカラだ。
「うーん。何歌おう」
とりあえず、最近のヒットソングを歌おうか。曲の検索欄に文字を入力する。
まんてぃこあっと。えっ? 勝手にマンティコアを入れちゃってる。
LOST OLD RAIL DRAGONの「マンティコアー幻影ー」って、あるんかーい! どんな曲か聴いてみよう。
流れてきたのは、いかにもパンクな音楽だ。この毒で君を堕としたい、[[rb:逢魔 > おうま]](おうま)が[[rb:時 > どき]]の飛翔に憧れるなど、中二病全開の歌詞でげんなりする。このバンドには悪いけど、二度と聴きたくないかな。
[newpage]
2時間ほど歌った後、店を出たら、あの人と出会ってしまった。
「おや、満地先生じゃないですか? こんなところで会うとは、奇遇ですね」
車の窓から相須先生が顔をのぞかせる。彼の唇にはパンの切れ端がついている。おおかた、この近くのハンバーガー店で時間を潰してたんだろう。私の鼻がそう告げている。
「あっ、お疲れ様です」
「どうです? 私の車で自宅まで送りましょうか?」
「えっと、結構です」
「まぁまぁ、そう言わずに」
彼は強引に私の腕を引っ張って、車の中へ入れる。ちょっ、ちょっと、これはマズいんじゃ。
「さぁ、先生の家はどこですかー?」
彼は鼻の下を伸ばして、私をいやらしい目で見ていた。
こんなヘンタイ先生に、自分の住所を教えるワケに行かない。私は自宅と逆方向の場所を住所と偽った。トイレのある公園が見えたら、そこで止めてもらう。
「すみません。ここで降ろしてください」
「わかった。お疲れ様です、満地先生」
彼の笑みからドス黒いオーラが出ている。やはり、この人は信用できない。また誘ってくる気がする。
「お疲れ様でーす」
私は飛び込むようにトイレへ向かう。そこで全ての服を取っ払って、裸になって、筋肉隆々のマンティコアに変身した。
「う、うう、ウウウ、ウガァァァァァァ!!」
獣の咆哮を上げて、ドアを蹴破り、相須先生の車へ飛んでいく。オレの鼻の中に、あいつの加齢臭がだんだんと増えてくる。あと、足臭くねーか、あいつ。
えっ? オレは今から何しようとしてんだ? まっ、いいか。なるようになるさ。
[newpage]
<ここから三人称になります>
[[rb:相須 > あいす]][[rb:栗夢 > くりむ]]は車を運転しながら、ひとり言をつぶやいている。
「ハァー。少し警戒されちゃったかなー。前の学校ではボディタッチし過ぎてクビになっちゃったから、石橋に石橋を叩いたんだけどな」
彼は満地先生の顔を思い浮かべながら、あらゆるシチュエーションを想像し始める。一緒にカフェ、カラオケ、映画館、遊園地、動物園を巡っている。
「彼女が好きそうなアーティストを調べて、ライブに誘ってみようかな。あー、でも、非常勤だと1年かもしれないから、もっと近い時期――」
ドンッ!
車の上に何かが乗ったようだ。彼は車を止めて、サイドミラーを開けて顔を出して、車上をのぞいてみた。
そこには低くうなり続けるマンティコアが乗っていた。
「ヒッ、ヒイイイ、バ、バケモノー!?」
「てめぇ、オレにちょっ、じゃなくって、オレの妹を誘惑すんじゃねぇ!?」
「い、妹? 満地先生の兄ですか?」
「姉だ! 性別を間違うんじゃねぇ!」
「い、いや、どう見ても男、オス?」
そのマンティコアはボディビルダーもビックリの筋肉の鎧をまとっているので、胸のふくらみも鍛え上げた成果に見間違えるのも無理はない。
「いいか? 今後一切、妹に近づくな! 無理に誘ってきたら、八つ裂きにするからな」
「は、はいい、わかりましたぁ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
相須は目をつむって、壊れたCDのように何度も謝り続ける。いつの間にか、車上のへこみと悪臭を残して、マンティコアは消え去った。
「うわぁ、くっせぇ!」
彼の顔にはマンティコアの唾が付着して、河原の簡易トイレ級の悪臭が車内に満ちてしまった。
(続く)
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