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【R-18】熊獣人は恋愛童貞【体格差/破瓜/溺愛】

  ベルバドム王国、またの名を獣の縄張り。その名のとおり人口の九割が身体に獣の特徴を持った種族――獣人である。

  肥沃の大地を有し、発展した鍛冶技術により国民の生活は豊かではあるが、治安の良い国ではない。肉食種同士の暴力事件、草食種による詐欺、若年層による窃盗が日夜横行している。

  それ等の犯罪行為を取り締まるのが国家警備隊であった。

  「あの女、気に入らねぇ」

  巨躯を小さな椅子に預け悪態をつく男が一人。国家警備隊一等兵、熊獣人のディラン・バンクス。無造作に伸びた黒髪から覗く鋭い目は、記憶の中の女を睨んでいる。

  「どの女だよ」

  警備隊の詰所でカードゲームに興じる同僚の一人が問う。

  「王女に引っ付いている人間の女だよ。俺を見ても怖気づかねぇなんて肝が据わってやがる」

  「あぁ、王女の家庭教師……。ほっとけよ。俺等みたいな一介の警備兵と王女の取り巻きが関わり合うことなんてそうないんだから」

  同僚の言う家庭教師の女とは、他国の貴族に降嫁されることが決まった王女につけられた語学教師のこと。

  同僚の言うとおり下っ端の自分達と王族から招かれた者が顔を会わせる機会なんてないに等しい。それでもディランは素直に納得することが出来ない。

  先日、ディランが所属する隊で私事で王都に降りた王女の警護に当たった。といっても王女から遠く離れた場所から周辺に危険がないかを見回っていたに過ぎないのだが。

  その際に王女と家庭教師の女が終始談笑しているのが見えた。

  王族に対し忠義心はないが、己が仕えている相手に対して人間が馴れ馴れしくするのは気分が悪い。

  ディランは近衛兵でも王女直属の騎士でもないし、王城務めの騎士に成り上がりたいとも思っていないが、側近に交ざって人間の女が王女の傍にいることが純粋に不快であった。

  話はこれで終わらない。それから幾日か経過したある日のこと。その女と顔を付き合わせた。

  年に一度王城で行われる国家軍事会議に参加したディランは、長い軍議の合間の休憩時間に手洗いに立った。人気のない廊下に差し掛かると前からその女がやって来ていた。

  誰もいない通路に心地の良い靴音が響く。

  ディランに気がついた女はさり気ない微笑みで会釈をしながら横を通り過ぎて行った。

  「待てよ」

  ハッとした時にはもう遅い。声を掛けるつもりなんてなかったのにどうしてか呼び止めてしまった。

  「何か?」

  乱暴な呼び止めにも関わらず振り返り温和な声音で返事をした女に対し、ディランは無礼にも身体を半分だけ振り返らせる。そして、感情をそのまま言葉にした。

  「どうして人間が此処にいる」

  「僭越ながら国王陛下よりご招待いただきました。人間が御国にいるのは不都合でしたか?」

  自分が王女の家庭教師だと言わなかったことには少し驚いた。

  その立場を盾にすれば忽ち一介の兵士など牢に放り込めてしまうだろうに。否、感心するにはまだ早い。ディランを刺激しない為に黙っているだけで王女に報告すれば良いだけの話だ。

  投獄でも鞭打ちでも構わない。とにかく人間が気に食わないから痛い目を見せてやる。

  「あぁ、人間臭くて不愉快だ。さっさと国に帰りな。此処はてめぇみたいな家畜がいて良い場所じゃねぇんだよ」

  これでもうでかい顔では歩けないだろう。これからも見掛けるようならこうして追い出してやる。

  長い前髪の中でにたりと笑うディラン。反撃を食らう。

  「肉食種の獣人の方は、人肉を食されるのですか?」

  「……あ?」

  女は親指に綺麗な顎を乗せて興味深そうにディランを見詰める。

  ディランは数回の瞬きをしたあと「食うわけねぇだろう。馬鹿が」と小さな声で返す。

  女は肩を揺らして笑った。

  「そうですよね。そんな訳ありませんよね。雑食の人間の肉なんて臭くて食べられたものではありませんから」

  濃艶に輝く眼光と邪悪な笑み。そして、危うい発言にディランの全身が粟立つ。

  意趣返しに成功して満足そうな女は「先を急ぎますので」と言って消えた。

  「き……気色の悪い女だな!」

  人間の女にコケにされたと受け取ったディランは、むかむかする胸を鷲掴む。

  心臓が激しく波を打ち顔に熱が集まり額に汗が滲む。

  これまで感じたことのない身体の異常を憤怒から来るものだと決めつけて手洗いに向かった。

  「巡回の時間だ。行くぞ」

  一人の声掛けに皆が支度を始める。

  ディランも被り慣れた軍帽を頭に乗せて皆と共に王都に繰り出す。

  決まった場所を循環し、怪しい者には職務質問を行い、秩序を乱す荒くれ者は容赦なく捕縛する。

  いつもと同じ仕事。いつもと同じ景色。対峙する相手も骨のない奴等ばかりで欠伸が出る。

  己の仕事に不満はないが遣り甲斐もない。プライベートでもそうだ。趣味もなく暇潰しに酒と女を買うだけの日々。我ながらつまらない人生だと思う。

  自嘲気味に鼻から息を吐き出し巡回を続ける。

  真っ赤な陽射しが目に刺さる頃に詰所に戻ると上官から城の警備隊本部に書類を届けに行くように命令が下った。

  これから同僚達と店で飲む予定だったが、上官の命令には逆らえない。早く用を済ませて合流するとしよう。

  さっそく登城したディランは、警備隊本部の執務室もいる者に書類を渡して先を急ぐ。

  「それでは、良い返事を期待しているよ」

  やけに機嫌の良さそうな知らぬ男の声に振り返る。

  王城自慢の百合園に出られる渡り廊下の真ん中で去り行く男の背中に頭を下げ続ける女のがいた。その姿には見覚えがある。

  王女の家庭教師、まだいるのか。

  女が振り返る。ディランの姿を瞳に映すと薄い笑みを浮かべた。

  「いつまで此処にいるつもりだ」

  「王女殿下が降嫁なれるまでです」

  ディランは女と距離を詰め腰を折り綺麗な顔を至近距離で覗き込む。

  威嚇するように地を這うような声音で問う。

  「それはいつだ?」

  「王室が公表していないことは解りかねます」

  ディランの狂暴な犬歯を前にしても女は笑みを崩さない。それどころかディランの長い前髪の隙間から僅かに覗く翡翠の瞳をじっと見詰め返す。

  二人がいるのは口付けの距離。けれど二人の間に流れる空気は殺伐としている。

  「よりにもよって人間なんかを家庭教師に選ぶなんざ王女も物好き――!?」

  スパーン! 小気味好い打音がその場に響き渡った。

  何が起こったのか瞬時に理解出来なかったディランは、切れ長の目をまんまるにして瞬きを繰り返す。

  ディランの口元には女の綺麗な手が触れている。女はディランの口を叩き封じたのだった。

  「口を慎みなさい。王族への侮辱は極刑ですよ」

  なんだ……この匂い。

  零距離で嗅ぎ取った陽だまりのような優しい匂いは、瞬く間に脳髄を犯し脊髄を伝って全身に行き渡る。

  初めて知った香しい匂いに破裂寸前まで心臓が走る。額に浮き出る太い血管が弾ける前にその手から離れたディランは、女の体温が残る口元を掌で押さえながら叫ぶ。

  「さ、触るんじゃねえ! 人間の臭いが移るだろうが……っ」

  酷く狼狽えるディランを女は、じめついた眼差しで睨む。

  言い返して来るかと思ったが、女は何も言わずディランの横を過ぎて行こうとする。

  咄嗟にその手を掴んで引き留めてしまう。

  「何か? 人間の臭いが移るのはお嫌なのでは?」

  ディラン自身も行動の動機が分からない。それにこの小さな手を放すのが惜しいとも思う感情についても理解不能だった。

  だから、それについては触れず違う話を持ち出す。

  「さっきの男は誰だ」

  「外務大臣のご子息の方のようです」

  「どういう関係だ」

  「今初めてお会いしたのでなんの関係性もありません」

  「何を話していた」

  「答える義理はありません」

  「あぁ?」

  ディランが鋭利な犬歯を見せつけてもやはり女は気圧されない。

  呆れたとばかりに溜息をついた女は、ぱっとディランの手を振り払い靴音を鳴らしながら先を行く。

  「他者から情報を得たいのならもう少し人との接し方を学ばれた方が良いですよ。それと、身体を洗う際は脇や足、耳を重点的に洗うのが良いかと。失礼致します」

  最後に挑発的な笑みを見せてからしゃんと背筋を伸ばしてその場を後にする。

  残されたでディランは女の体温が残る掌を見詰めた。

  「……俺が臭ぇって言いてえのか!?」

  身体を洗う場所を指南するという遠回しな嫌味にディランは日に焼けた顔を真っ赤に染めて憤る。

  同僚達が待つ飲み屋には行かずに帰宅し、早々に風呂に入り入念に身体を洗った。

  これでも風呂には毎日入っているんだ。臭かったのは仕事終わりだったからで別に不潔にしている訳じゃない。俺は兵士だ。汗をかくのは当たり前だし、多少臭うのは仕方ないだろうが!

  全身を泡だらけにしながら心の中でたらたらと言い訳をする。

  その夜は久しぶりに酒を身体には入れず寝る直前まで瞑想に耽り過ごした。

  †††

  翌朝。率直に言って昨夜の瞑想は失敗に終わった。

  脳裏に焼き付いた女の顔と匂いが忘れられず精神を落ち着かせるどころか真面に寝ることもままならず大きな隈を作って詰所に登庁する。

  顔色の悪さを心配されたり嘲笑されたりしながらも、またいつもと変わらない一日が始まった。否、その日からディランに新しい日課が追加された。

  仕事終わりに城に出向き王女の家庭教師を監視するようになった。

  獣人特有の高性能の鼻を使い女の匂いを辿り姿を捉える。

  その日は城内を散歩しながら王女と異国の言葉で談笑していた。授業中なのだろう。王女が言葉に詰まるとこちらの言葉で指南する。

  ディランは物陰に隠れながらただ女を見詰め、その声音を鼓膜に焼き付ける。

  こうしてディランの新しい日課。ストーキングが始まった。

  当然、毎日女に会える訳ではない。一介の警備兵では入れない場所にいる場合や、互いの仕事の都合で何日も会えない日もある。

  俺は一体何をしているんだ。

  今日もまた女の死角に隠れながら自問する。

  女に執着しているのは認めよう。でも理由が分からなかった。

  声を掛けるのも、その瞳に映ることも何故か怖くて出来ないのだ。

  女の姿を目にするだけで心臓が締め付けられて呼吸も真面に出来なくなる。

  なんだこれ……なんなんだよ!

  結局、この日も女の後を付けただけで終わってしまった。

  言語化出来ない感情と行動の動機。もどかしくて苛立ちが募りもう女に会いに行くのを辞める決断をする。

  自分がどうしたいのか分からない。女との関係に進展があった訳でもない。

  時間の無駄だ。もう忘れる。いつもの抑揚のない生活に戻るだけだ。

  そう決めたディランにある仕事が割り当てられる。王室主催の舞踏会の警備の仕事、それも王城内部の警備だ。

  本来、王城内部の警備は近衛兵の仕事だが、多数の病欠が出て人員が不足した為に代理でディランが選ばれた。

  城内の仕事だからといって何かを期待してはいけない。

  そう心を落ち着かせて着慣れない深紅の近衛兵服を身に纏い、いつもは垂らしている前髪を後ろに撫で付ける。

  煌びやかな夜の城、舞踏ホールから離れた通路の一つをディランが封鎖する。

  此処より先は招待客の立ち入りが禁止されており、ディランは交代の時間までその場から動けない。

  「?」

  遠くからせわしない靴音が聞こえて来る。軽い音からして向かって来るのは女。

  きっとこの巨躯と不愛想な顔を見て腰を抜かすか逃げ出すのだろう。

  慣れたものだが気分の良いものではない。溜息が零れるのは致し方ない。

  さぁ、どんな奴が来る。待ち構えて数秒後、王女の家庭教師の女がやって来て面を食らう。

  女は頻りに背後を気にしているようでまだディランには気が付いていない。

  「!」

  二人の距離が大分縮まってから女はディランに気が付き立ち止まる。

  向こうから「ローラ様、ローラ様」と男が女の名前を呼んでいる。

  珍しく焦った様子で背後とディランを交互を見たのち、苦渋の決断とばかりに通路の窓を開けて飛び越えて行こうとする。

  「お、おい! 何してっ」

  「貴方の職務を邪魔するわけにはいきませんから」

  「ローラ様! ……どちらに行かれたんだ?」

  近付いて来る男の声に女の肩が大きく跳ねる。

  男から逃げて来たことを察したディランは、窓台に乗った軽い身体を抱き上げた。

  「!?」

  「静かにしていろ」

  自分が立っていた廊下の角に女を下ろし隠してやり向かって来る男を待つ。

  やって来た男はひ弱そうな羊獣人の若い男だった。ディランを見た瞬間に顔を引きつらせて足を止めるが、無理やり笑顔を作って問うた。

  「や、やぁ、お疲れ様……。こっちに青色のドレスの女性が来なかったかな?」

  横で隠れている女のドレスの色と一致する。

  いつもの隙のない清楚なドレスとは違い夜会用のドレスはデコルテが露出していて蠱惑的。

  こんな無防備な装いで大勢の雄の前に出るなんて食ってくれと言っているようなものだろうが。

  また意味の分からない焦燥を抱いたディランは、顔に影を落とし鋭い睥睨を男にぶつける。

  「いいえ、こちらには誰も」

  「そ、そうか! 邪魔をしてすまなかったね!」

  せかせかと去って行く男の背中には見覚えがあった。

  そうだ。あの時、女と一緒にいた外務大臣のぼんくら息子だ。

  女はなんの関係もないと言っていたが、こうしてまた接点を持っているということは何かしらの関係性を築いている? 否、女の方が逃げて来たのが答えだろう。

  「匿ってくださりありがとうございます。助かりました……」

  女は酷く疲れた顔でディランに礼を述べる。

  改めて女の姿を直視したディランは硬直して目が離せない。

  「あの方のファーストダンスに選ばれて困っていたんです。断っても追い掛けて来るから舞踏会から逃亡を測ろうとした次第です」

  この国では、男性がファーストダンスを誘う相手は基本決まっており、配偶者や婚約者。または意中の相手となる。

  外国出身の女にその文化が適用されるものではないが、女がファーストダンスを受けようものなら愚直なぼんくらは舞い上がって余計に距離を詰めて来る筈だ。

  それが目に見えているから女は頑なに拒否をした。

  他国の王女の家庭教師という大儀ある仕事をしに来ているのに、よりにもよって外務大臣の息子と噂にでもなってみろ。諜報活動、国家転覆の嫌疑を掛けられる恐れもある。奴を避けたいと思うのは当然だ。

  「お仕事の邪魔をして申し訳ありません。もう行きます。本当にありがとうございました」

  深く頭を下げて別れの挨拶をする女にディランの口が勝手に動く。

  「ドレス……にっ……似合っている」

  自分の発言を有耶無耶にする為にディランは咄嗟に小言を言う。

  「み、見て呉で寄って来る男には注意しろ。王室主催の夜会だろうと下卑た男はいからな。だ、だから愛想を振り撒くのも大概にしておけよ。そ……それと夜は冷えるから何か羽織れ。脆弱な人間の女はすぐ体調を崩すんだろう?」

  せっかく固めた髪を指で搔き乱し唸るディランに女は照れくさそうに笑った。

  「お気遣いいただきありがとうございます。兵士様もお顔が見えていてとても素敵ですよ。次、登城なさる際は是非お顔を見せてくださいね」

  女はディランに頭を下げたのち来た道を戻った。

  舞踏会は真夜中まで続いた。あと一時間もあれば陽が上る頃になって漸くお開きになる。

  ディランの職務も終わりいつもの警備兵服に着替えてから城の裏手から外に出る。鎮まり返った城を見上げた。

  一目で良いからもう一度今夜の彼女に会いたい。素直に身体が動いた。

  二階の舞踏ホールから出られるバルコニーが見える位置まで走る。軽く息を乱しながら頭上を見上げるとドレスを着た女達――王城勤めの使用人達が集まって談笑をしている。

  その中に彼女がいた。

  こちらに気がつく気配はない。こっちを見ろ、こっちを見ろ。胸の中で何度も唱えた。

  その刹那、風向きが変わり彼女の髪が攫われる。風を泳ぐ髪を手で押さえた次の瞬間、ディランと視線が絡み合う。

  「――」

  ディランの目に薄い涙の幕が浮き上がる。

  彼女は慈愛に満ちた笑みをディランに向けながら肩に羽織ったストールを密やかに見せつける。

  あなたの言う通りにした。と言われたディランの顔に赤が広がる。

  彼女は使用人達と共に室内に入った。

  残されたディランは熱を持った顔を片手で覆い隠しながら帰路につく。

  くそっ……惚れてやがる……。

  見下していた筈の相手に懸想していることに気がついた。

  そして、これまでの言動を盛大に後悔するのは、自宅に着いてからだった。

  †††

  王家主催の舞踏から二週間が経過したが、ディランは彼女に会いに行けていない。

  「また酷ぇ隈だな」

  同僚と会話をする気力もない。

  今さらながらディランは彼女に働いた無礼の数々を後悔している。

  情けなさと羞恥心から自責の念に駆られ真面に眠ることが出来ず、日に日に目の下の隈が濃くしていった。

  また顔を見せてと言ってくれた彼女に甘えて謝罪に行けば良いものを自分の情けない顔を見せに行く勇気がない。

  「好きな女でも出来たのかよ」

  「へー、どんな女だ」

  自席の左右から同僚がにやついた顔でこちらを覗き込む。ディランが虚空を睨み殺気を巻き散らすと二人は顔を逸らした。

  か弱く愛らしい人間の女の存在をおいそれと他の男に教えてなるものか。沈黙を貫く。

  待てよ……。こうしている間にあのぼんくら息子に言い寄られているんじゃないか? 奴だけではない。彼女に惚れている野郎が他にいたって可笑しくない。

  もたもたしていたら奪われる。

  焦燥に駆られ立ち上がったディランに同僚達は大袈裟に驚く。しかし、すぐに着席したディランを怪訝そうに再び覗き込む。

  兵士の身で職務を放り出して女に会いに行くことは出来ない為、滾る衝動を押し殺して仕事に当たる。

  王都の巡回に出ると町人の会話が聞こえて来る。

  「第一王女様の輿入れが来月に決まったそうね」

  「まあ! もうそんな時期なのね」

  「明るくてお転婆だった王女様が結婚だなんて……」

  「親でもないのに寂しいわ~」

  感度良好の獣の耳が重要情報を掴んだ。

  王女の輿入れが来月。つまり、王女の家庭教師の彼女の仕事も終わる。彼女が自国に帰ってしまう。

  これ以上はもたついてはいられない。

  登城する為だけに大したことのない報告書を作って警備隊本部に提出に向かう。

  その帰りに彼女のにおいを探す。しかし、嗅ぎ取ることが出来ず近くにいた使用人の女に問う。

  「おい、王女殿下の家庭教師殿は何処にいる?」

  「ロッ……ローラ様ですか? ローラ様は本日を以て王女殿下の家庭教師をお辞めになりお国へお帰りになられたそうですが……」

  救いのない現実にディランの肉体が灰となって消え掛けるが、なんとか気持ちを立て直す。

  「足はなんだ!? 転移魔法か!?」

  「い、いえ、おそらくは航路かと」

  「何時の船だ?」

  「そこまでは……。ただ、正午過ぎには王城を出発しております」

  そうなると既に船が出ている可能性の方が高い。それでもディランは港に向かった。

  詰所の馬に跨り全速力で駆ける。

  港と水平線を視界に捉える。遠い海上の空では稲妻が走っているのが見えた。

  港に到着し、繋船柱にロープを掛けている船員に問う。

  「今日出た船は何隻だ?」

  「午前中に三隻。午後からは全て欠航だ。航路ででかい嵐が起きているんだ」

  「そうか……。人を探しているんだが何処に行けばいい?」

  「待機所かうちで営業している宿に行ってみろ。でも今はどっちも人でごった返している。見つかるといいな」

  ローラが正午過ぎに城を出たのなら此処で足止めを食らっている筈だ。

  「世話を掛けたな」

  馬を港の厩舎に預けて待機所に行ってみる。狭い待機所は確かに人で溢れていて目が回りそうだ。でも、此処にローラはいないと獣の鼻が言っている。

  次に宿に向かった。広いエントランでも大勢の人が休んでいる。

  奥に進み神経を尖らせてローラの姿を探す。

  既に部屋を借りてしまっている可能性もある為、暫く此処で待機してみることにする。

  海が見える窓辺の椅子に腰掛けた。

  「――」

  突如として香った大好きな匂いに伏せていた顔を上げる。

  「巡回中ですか?」

  外套を羽織ったローラがそこに立っている。

  城にいた時とは違い目立たない装いをしている。それもまた愛らしい。

  「お久しぶりですね。お元気でしたか?」

  「あ……あぁ」

  隣に腰掛けたローラにディランの背筋が伸びる。

  「先日の舞踏会ではありがとうございました。あの後は事なきを得ました」

  「……そうかよ」

  馬鹿、馬鹿、馬鹿! 何そっけなくしてんだよ! 今までの態度を謝るんだろうが!

  緊張のあまりうまく話せず心の中で自己を叱責する。

  だが、ローラの方は相変わらず優しい面持ちで語る。

  「最後に会えて良かった。こちらでの仕事が終わったので祖国に帰ります。お世話になりました」

  「……っ」

  面と向かって別れの挨拶をされて漸くディランの覚悟が決まる。

  「きょ、今日はこれまでの非礼を詫びたくてあんたを探しに来た……。悪かった。お……俺はどうも素直になるのが苦手で……」

  「ええ、分かっていますよ。人見知りをしていただけですものね」

  「……人見知り?」

  ディランの目が点になる。

  「結構いらっしゃるんですよ。人と話すのが苦手で変に不愛想になってしまったり、意図せず不機嫌な態度を取ってしまう方が」

  人見知り? 俺が人見知り?

  狼狽し硬直するディランを前にローラは肩を揺らして笑う。

  「ずっとシャイで可愛らしい人だなと思っておりました」

  酷い言葉で傷つけようとした熊獣人の大男に対して寛大過ぎではないだろうか。

  それも可愛いなどと好意的な感情を持ち合わせていただなんて、ディランは感動のあまり膝から崩れ落ちそうだった。

  窓ガラスに雨粒が静かに当たり始めた。

  「朝方に掛けては豪雨になるそうなのでお帰りになった方が良いです。会いに来てくださってありがとうございました」

  軽く頭を下げて最後の挨拶を告げられたディランは、矜持を脱ぎ捨てて素直に縋る。

  「次はいつ会える?」

  「どうでしょうか。私は仕事以外ではなかなか国外には出られませんので。また此方で家庭教師の依頼があればお会い出来るかもしれませんね」

  「最悪はもう会えないってことか」

  「そうですね私達が運命の相手でなければ二度と会えないでしょう」

  冗談交じりの「運命の相手」という言葉にディランの気持ちが加速する。

  「なら、俺が会いに行く」

  ローラの目を丸くなる。

  「あんたがもう此処に戻って来られないからそれしかないだろう」

  「私に会いに来てどうなさるのですか? 私達は会って間もなくて友人ですらないのに」

  「ほっ……惚れちまったから会いに行きたいだ!」

  やけに大きな声が出てしまい周囲の人々を振り向かせてしまうが、一瞬の静寂は忽ち騒めきに呑み込まれた。

  反応のないローラを盗み見る。途端に無邪気に笑った。

  「はははっ、なんて可愛い人なの」

  「???」

  ディランの思考が停止している間にローラは手帳とペンを取り出して何かを書き残しそのページを破ってディランに渡す。

  「期待せずに待ってます」

  そこに宿の従業員がやって来てローラに部屋の準備が整った旨が知らされた。

  「では、またいつか」

  ローラは従業員と共に奥の通路に消えた。

  残された紙切れには住所が書かれている。おそらくはローラの自宅の住所だろう。

  今すぐ後を追うことを決めた。

  †††

  結論から言ってあの日ローラを追うことは叶わなかった。

  辞表の提出、仕事の引継ぎ、自宅の引き払い、渡航の手続きなど、やることが多過ぎて今日此処に来るまでに半年も掛ってしまった。

  「此処か」

  ボロボロになってしまった紙切れを手に辿り付いたのは貴族の邸宅だった。

  ローラのやつ貴族令嬢だったのか。それもそうか。でなれば王族の家庭教師になれる訳がない。

  ドアノッカーを数回叩くと若い執事が扉を開けた。

  「ヒッ!? じゅ、獣人!?」

  一頻り狼狽した執事が扉を閉めようとした為、大きな足を滑り込ませて締め出しを阻止する。

  「け、け、警備隊を~!」

  「何を騒いでいるの? ……あら? そちらの方はもしかして」

  扉の向こうから品のある老齢の女性の声が聞こえた。すぐに扉は開かれ貴婦人が姿を現した。

  「やっぱり。あなた、ローラが言っていた熊の兵士さんね?」

  「……どうも」

  貴婦人はディランの姿を見て満面の笑みを見せる。どことなくローラの笑い方に似ている気がした。

  庭のガーデンテーブルまで案内されて此処でローラを待てと指示を受ける。

  使用人から出された飲み慣れない紅茶をちびちび飲みながらローラが来るのを静かに待つ。

  そして、その時が来た。

  「先生さようなら~」

  「先生また明日ね!」

  ガーテンテーブルの位置から見える本邸の離れから出て来たのは数人の子供達とディランが待ち侘びていた人。

  子供達の気配が遠退いたところでディランは立ち上がる。その人が振り返り目を見張る。それから満面の笑みを見せてくれたから堪らず駆け出した。

  「ローラ!」

  突進する勢いで距離を詰めるが良識ある距離を空けて立ち止まる。

  「本当に来るなんて思いませんでした。お元気でしたか?」

  そのまま抱き上げてしまいたい衝動に駆られながら首を横に振る。

  「あんたがいないから元気じゃなかった」

  「まあ」

  久し振りに見る無邪気な笑みにときめく胸を片手で握り締める。

  「そう言えば自己紹介がまだでしたね。改めましてローラ・ウィンベルと申します」

  「ディラン・バンクスだ」

  それから二人はガーデンテーブルの前に座り互いのことについて語り合う。

  ローラは平民でこの邸宅の主――公爵夫人に雇われて領地の子供達に勉学を教えている。他国の王女の語学教師になったのは公爵夫人から紹介された仕事だったからだ。

  流行り病で両親を亡くし、今は一人で家を借りて暮らしている。

  ディランは孤児で子供の頃は下働きで食い繋いでいたが、ある程度身体が出来上がった年齢で警備隊に入った。警備隊を選んだのは金払いが良いと聞いたからで純粋な憧れがあった訳ではない。

  人にものを教える立派な仕事をしているローラに対し矮小な動機で働いていた自分を比較するディランは、なんだか肩身が狭くて上目がちにローラを見詰めた。

  ディランの心情を読み取ったローラは前向きな言葉を贈る。

  「動機がなんであれ職務を立派に勤めていたことには変わりません。それにあなたが警備兵だったから私はあなたと出会えました」

  「好きだあ!!」

  女性にこんなに良くして貰った経験のないディランはもうローラの虜である。

  あれだけの無礼を優しく包み込んで許してくれる女性はきっとこの先現れない。既にディランの中心はローラで構成されてしまった。ローラを逃してはならない。ディランは形振り構わず率直に自身の希望を伝える。

  「俺がこっちで仕事を始めたら結婚してくれないか」

  真っ直ぐな求婚にローラは困ったように笑う。

  いくらなんでも気が早い。なんと返事をするか迷っている間に夫人が自ら茶菓子を持って来た。

  「あらあら、それなら私が仕事を紹介しましょう。大工仕事なんてどう? 領内で礼拝堂を建てるところなの。お給料良いわよ~」

  「宜しくお願いします」

  さっそく仕事を見つけてしまったディランにローラは慌てて「もう少し時間をください!」とお願いをした。

  †††

  ローラの祖国にやって来たディランの生活は順風満帆という訳はなかった。

  獣人差別を受けるのは日常茶飯事。大工仕事も簡単な力作業なら苦ではないが、手先の器用さを求められるとまるで役に立たない。

  仕事に追われローラに会えない日が続くと流石に気分が落ちる。

  求婚の返事も貰えていない。気持ちばかりが急いて上手く休めず疲れが取れなくて目の下に隈が浮かぶ。

  また夜がやって来た。各自大工職人達が帰宅する中、ディランも仕事道具を片付けて立ち上がる。

  「ディラン様。お疲れさまです」

  「!」

  ローラがディランの仕事場に顔を出した。

  久し振りに見るローラは何処かいつもより柔らかな印象がある。

  それはきっとコルセットのないワンピースを着用し、化粧をしていないからだろう。

  無防備なローラの姿にときめきよりも肝が消えたディランは急いで駆け寄った。

  「ばっ! そんな薄着でこんな時間に女が一人で出歩くな!」

  「ごめんなさい。どうしてディラン様にお会いしたくて」

  「!」

  ディランの頬に赤味が差す。

  そんなことを言われたら叱り辛い。寧ろ嬉しくて許してしまう。

  「何か用か?」

  「今からお時間ありますか? 私の自宅にご招待したくて」

  ディランの時が止まる。その間に様々な可能性を考えた。外では話せない困り事の相談か。単純に食事の誘いか。それとも何か渡したいものがあるとか。

  「……他に誰かを誘っているのか?」

  「いえ、誰も。ディラン様だけを招待したいのです」

  瞬間、邪悪な興奮が全身を駆け巡り首筋の血管が膨れ浮き上がる。

  「やめておけ。俺は密室で惚れた女と二人きりになって性欲を我慢出来るような男じゃない。あんたにキスをするし、それ以上のことだってする。あんたにだけは嫌われたくないから誘惑しないでくれ」

  情けなくて泣きそうだ。格好をつけて断りたかったのに本音を曝け出してしまった。

  ローラから顔を背けて返事を待つ。どんな反応が返って来るかと思ったら特に変わらない様子で頷いて見せた。

  「分かりました。では、見せたいものがあるので玄関先で待っていてくれますか?」

  「見せたいもの?」

  まあ玄関先なら……。中に入らなければ。密室にならなければ大丈夫だ。そもそもこんな夜更けに一人で帰す訳にもいかない。

  「分かった」

  ローラの歩く早さに合わせて舗装された道を行く。

  今日あった出来事を互いに話しあっているうちに大通りに面した集合住宅の前に到着した。ローラの自宅は一階だった。

  ディランの背中に汗が伝う。

  扉の奥に消えたローラはすぐにディランの許に戻り一枚の書類を手渡した。

  ディランの喉から声にならない叫び声が上がる。書類には結婚宣言書と記載がある。

  「――!?」

  「私の名前は記入済みですが、ディラン様はどうされますか?」

  結婚宣言書に双方の名前を記入し教会に提出することで正式に夫婦となれる。

  そんなのサインするに決まっている。でもまさかローラが此処まで用意しているとは夢にも思っていなかった。

  動揺で動けなくなっているディランにローラは艶のある笑みを見せながら家の扉を少しだけ開く。

  「サインして行きますか?」

  太い喉が上下した。

  そうか。良いんだな。俺を受け入れいれる覚悟はもう決まっているんだな。

  血管が受け出た太い腕を細い腰に巻き付けて動揺に揺れる丸い瞳を見降ろす。

  「あぁ、すぐに」

  ローラの顔から余裕が剥がれる。正直、ディランなら断ると高を括っていた。

  でも、もう引き返せない。ローラは腹を括り扉を大きく開けた。

  小ぶりのテーブルまでディランを案内してペンを持たせる。

  ディランはローラの腰を抱いたままさっさと署名を終わらせた。

  ぴったりと身体を合わせ薄い腹に腰を押し付ける。そこは既に膨らんで熱を持っていた。

  緊張に固まるローラの後頭部を優しく掴んで上を向かせる。

  ぐっと顔の距離を詰めて長い睫毛が下ろされるのを待つ。

  瞳がそっと隠されたのを合図に二人の唇が重なった。

  一度の口付けはそれで終わる。でもすぐに二度、三度、唇を重ねる度に口付けは深く淫靡になっていく。

  「っ……ん」

  僅かに漏れた甘い鳴き声に魔羅が一層上を向く。

  愛らしい唇を分厚い舌でこじ開けて狭い口腔を隅々まで荒す。

  「~~っ」

  ローラは初めての口付けに懸命に応えるが、ディランとの身長差に疲れて完全に身体を預ける。

  くたくたになったローラを窓際の寝台に運び降ろす。そこでディランは思い出した。自分が今不潔であることを。

  「今から最悪な頼むをする……。風呂を貸してくれないか?」

  以前、ローラに臭うと指摘されてから体臭が気になって仕方ない。故に仕事終わりの身体でローラに触れるたくなかった。

  「は……はい、勿論!」

  呆気に取られながらも少し安堵したローラは、笑顔でそれを承諾し浴室に案内する。

  ディランが身を清めている間にローラは今日という日の為に用意しておいた薄手のネグリジェに着替えた。

  ディランに好意を伝えられてからというものローラはディランのことを思い出さない日はなかった。

  白状してしまえばローラもディランに惚れていた。ただ、ディランの勢いに気圧されて素直になるタイミングを見失っていただけで求婚は大歓迎であった。

  特に最近は、自分と一緒になる為に一生懸命なディランの姿に胸を打たれた。

  これ以上は勿体ぶれない。自分も早くディランと一緒になりたい。

  こうして大胆にもディランの誘惑に成功し今に至る。処女のくせに生意気な行動だと嘲笑する。でももう引き返せない。否、ディランに純潔を散らして欲しいのだ。

  でも、やはり少し怖い。あの巨体を今夜受け入れることが出来るだろうか。自分の腹を触ってディランの魔羅の大きさを想像する。

  その時、ディランが浴室から出て来た。腰にタオルを巻いた姿にローラの身体が飛び上がる。

  筋骨隆々の肉体美は目に毒だ。大きくて上質な胸筋はローラの乳房よりも大きく、張り出た強肩と引き締まった腰は艶麗。さらに拭き取っていない水滴が筋肉の谷を滑り落ちる光景には鼻の奥が痛む。

  呆けている間に目の前までディランが迫った。寝台に腰掛けるローラの前に両膝を突いて細い指に自身の指を絡めた。

  「ちゃ、ちゃん乾かさないと……」

  「新しい匂いがするな。俺に見せる為に用意したのか?」

  「っ」

  凄まじい鼻だ。ネグリジェの匂いを嗅いだだけで購入目的まで言い当てた。

  「……はい」

  素直な唇にディランは優しく口付ける。

  「似合っている」

  「!」

  色っぽい唇が胸元のリボンの端を挟んで解く。

  肩から外れたネグリジェの襟を直そうとするが、両手の指に絡まった熱い指が許さない。

  もう一度唇に口付けを貰う。それから首筋、肩、鎖骨、乳房へと降りて行った。

  羞恥心と少しの肌寒さに肌が粟立ち峰の頂きがネグリジェの生地を押し上げた。

  少しでも身体を動かしたら双峰が晒される。

  どうせ隅々まで曝け出すことになるのに躊躇うなんて無意味。そう分かっていても一歩が踏み出せない。

  「アッ――」

  熱い舌がべったりと乳房の上を這い華奢な身体が跳ねた。その衝撃で峰の頂きが顔を出す。

  ディランの熱い視線を感じて赤い蕾はさらに張り詰める。

  たっぷり唾液を含んだ舌が無遠慮に蕾を襲う。舌の表面で圧し潰しながらずりずり舐め回されると胎の奥が切なくて堪らない気分にさせられる。

  乱れる呼吸と鳴き声を我慢する為に呼吸を止める。でもディランの愛撫は止まらない。

  緊張と酸欠に疲弊するローラの身体が簡単に倒される。

  慎重にネグリジェを降ろすディランの手にローラは待ったを掛けた。

  「待っ――」

  円滑に事が進めば良いと思って下着は身に着けていなかった。今さら恥ずかしくて先に報告しようとしたのだが、既にネグリジェの襟は膝まで下りてしまった。

  「~~っ」

  「協力的で助かる」

  少し意地の悪い笑みで礼を言われたローラは強い酷い羞恥心とときめきに全身を赤く染める。

  大きな両手が縊れた腰を撫で回す。口付けをせがまれるが恥ずかしくて顔を背けてしまった。

  「ローラ」

  「ご……ごめんなさい」

  低い声音に導かれて口付けを受け入れる。

  濃厚で淫靡な口付け。狭い口腔が男の舌でいっぱいになる。苦しくて怖くて幸せだった。

  口付け一つで身も心も支配される感覚。それを嬉しいと思う自分が下品に思える。

  「ンッ!?」

  双峰の蕾の根本を摘ままれて腰が跳ねる。指の間で転がされる強い刺激に驚いて太い手首を掴むが愛撫は止まらない。

  「――、――、――」

  「まだ少し触っただけだ。落ち着けよ」

  情けなく身体を震わせるローラにディランは笑う。

  「一応聞く。俺が最初の男か?」

  ローラは何度も頷く。

  汗ばむ額に口付けたディランはローラの耳元で「光栄だな」と囁き恰好をつける。

  内心では狂喜している。その証拠に痛いぐらいに勃起した魔羅からは、先走りの汁が溢れてタオルを汚している。

  雌孔を貫く支度は万端だが、惚れた女の為にはまだまだ奉仕が足りない。

  「優しくする」

  「はいっ」

  もう一度、淫らで深い口付けを交わす。その間にディランは愛情を込めて無垢な身体を撫で回し愛撫する。

  股座にはすぐには触れない。肩を撫で、背中を撫で、腹を撫で、臍を擽り、骨盤を掴む。

  「!」

  骨盤を掴まれた瞬間、言い知れない危機感を抱きディランの肩を押し解けようとするが岩のように動かない。

  ディランの程良く薄い唇が三日月を描く。

  「うっ……うぅっ……んぅ」

  骨盤と尻を重点的に可愛がられると胎の痙攣が止まらなくなる。

  急速に股座が潤い陰裂を伝い窄まりが濡れる。

  膝をぴたりと閉じて内腿を擦り合わせるローラの反応から頃合いであること知ったディランは、美味そうな内腿に指を柔く突き立てる。

  互いの唾液で濡れた唇に銀色の橋が掛かる。

  「少しで良い。足を開け」

  溢れた唾液を飲み込んだローラは従順に膝に隙間を作った。

  すかさず熱い掌が内腿に入り込み太い指が陰裂に触れる。

  「こんなに歓迎してくれると思わなかった」

  「~~やぁぁっ」

  重みのある男の指が濡れそぼる陰裂を行き来しながら、さりげなく小さな蜜口を押す。

  「――っなに!?」

  指先で小さな陰核を持ち上げられた途端、細い腰が浮き上がる。

  落雷に打たれたと錯覚するような鋭利な快楽に驚き逃げ腰になる身体をディランは片手一つで支配する。

  胸元に掌を乗せただけでローラの身動きを封じた。

  「~~~あぁっ、あ、あ、あっ……っ、やっ、でぃらん、様……っ」

  「いくまで続けるぞ」

  口付けを続けながら陰核の愛撫が続く。捏ねられ、擽られ、摘ままれ、圧し潰され、擦られる。

  「――、――、――」

  身体に快楽が蓄積する。もう我慢出来ない。ローラは脚をばたつかせてディランから逃れようとするがそれは許されない。

  じゅっと音を立ててローラの舌を吸い上げ、それと同時に陰核を指の間で強く擦る。

  「んぐっ~~~~~~~~! っ~~~~~~~~! っ~~~~~~~~……~~~、~~……っ……っ」

  快楽が爆ぜた。目の前が白んで呼吸が止まる。全身の痙攣が止まらず胎がきゅんと鳴いて辛い。

  でも、満たされた。引いていく波の心地良さを感じながら瞼を閉じる。

  このまま眠れたらさぞ気持ちが良いに違いない。ほっと息を吐き出した刹那、濡れそぼった蜜口に指が突き立てられる。

  「いっ――、たぁ……いっ……」

  正真正銘初物の蜜壺だ。いくら濡れていようが堅いのは当然。痛みが伴うのも致し方ない。

  「悪いな、少し耐えてくれ」

  「いあっ――!」

  ディランは意外にも躊躇いなく骨張った太い中指を蜜壺の奥まで差し込んだ。

  ひりついたような鋭い痛みに顔を歪め奥歯を噛み締めるローラだったが、不思議なことに指先が触れた奥には痛みがない。

  ディランは興奮で熱くなる息を芯を持ち続ける赤い蕾に掛ける。

  大口を開けて乳房諸共乳頭をしゃぶり甘噛みをして嬲る。

  「あっ――あ、あ、んっ、……っディ……、ディラン、さま? アッ! っ~~……っ……っ」

  最奥を小突かれ一等甘い鳴き声が上った。

  ディランは丸くて可愛い耳を柔くかじりながら隘路を解すのに集中する。

  「っ、っ、っ~~くっ……ぅ……ンッ!」

  痛みと快楽を行き来した末、隘路はディランの指に甘えるまで解れた。

  すっかりふやけてしまった指を隘路から引き抜く。纏わりつく蜜を食い入るように眺めてからローラに見せつけながら舐め取った。

  もう、我慢出来ねぇ。

  ディランは腰に巻いているタオルを解き天井に指す自慢の魔羅を取り出す。

  「ヒッ」

  書物に描かれた図でしか見たことがなかったそれにローラは慄く。

  形状は概ね図で見た通りだが、迫力がまるで違う。大きさも、雁首の出幅も、鈴口の割れ目の長さも、色も、浮き出る血管の脈動も、睾丸の存在感も。何もかもが規格外だ。男を知らないローラでもそれだけは分かる。

  「あ、あの……ちょっと、お、大き過ぎると思うので……その……――ひゃぁあっ!?」

  今夜は中止で。そう伝えたかったのだが、巨躯がローラの脚の間に滑り込んで来た。

  反り返る竿を手で制御して蜜口に照準を合わせる。

  ぐっと腰を前に出し蜜口を亀頭で塞ぐ。

  「っ~~痛い……痛いです。ディラン様、待ってください。お願いっ……待って」

  ディランは応えないままじわじわと腰を進める。

  「こんなにっ……大きいものを入れられたら、死んで、しまうかもしれませんっ」

  本気で怖気づいたローラの懇願。紳士のディランなら分かってくれる。やめてくれる。

  その考えは浅はかだった。腹を空かせた獣が獲物を前にして我慢が出来ないように、ディランも性欲を抑えることは最早出来ない。それについては最初に伝えてある。

  ローラの細い喉元に獰猛な牙が優しく突き立てられる。

  「――ひんぅ!?」

  食い破られると思い血の気が引いた瞬間、その身を貫いたのは魔羅の方だった。

  一切の容赦なく最奥まで届いた凶悪な魔羅に驚いてローラの眦からは涙が零れる。

  「痛いか?」

  「っ? っ? っ?」

  正直、何が起こったのか理解出来ていない。

  無垢で哀れな自分だけの女が堪らなく愛おしい。

  熱を持った頬を掌で撫でてやればローラはその掌に自ら顔を押し付けた。

  「ローラ」

  興奮の滲む声に名を呼ばれると胸がときめき隘路が締まる。

  どんなに怖くても、苦しくても、愛した男に求められると応えたいと思ってしまう。

  しかし、体力が足りなかった。ローラは少し身体を揺さぶられただけで疲弊してしまい双方果てに至る前に意識を手放してしまった。

  †††

  翌日、ディランに身体を支えられながら結婚宣言書を教会に提出し、無事に二人は夫婦となった。

  単身者用の部屋から家族向けの家を借りて二人の人生が始まった。

  結婚してからというもの身体を重ねない日はない。

  おかげでローラの雌孔はディランの魔羅の形を覚え、日に日に淫乱な身体に育っている。

  今夜もローラは巨体に組み敷かれ強烈な熱を全身で受け止める。

  「ッ~~、ッ~~、ッ~~」

  「声を出せ」

  背後から尻と鷲掴みにされながら雌孔で魔羅を咥える。

  最奥を小突かれ続けて終わらない甘い果てに身を震わせる。

  素直に声を上げて善がるのは気持ちが良い。心なし感度も上がるような気がする。でも、まだ初心なローラは鳴き慣れず嬌声を堪えてしまう。

  だから、ディランはローラが理性を飛ばせるように早めの律動で追い詰める。

  「――、――、やぁぁぁっ、や、や、やらぁ! や、やさひ、く……っ、やさしく、してぇっ」

  「十分優しくしているだろうが」

  少しでも強い快楽に襲われるとすぐに音を上げるローラには困ったものだが、それを捻じ伏せるのがディランの楽しみだったりもする。

  「! ……っ……っ……っ」

  美味そうな白い肩を唇で食むだけでローラの身体に緊張が帯びる。弱者故の本能なのだろう。

  「食い破ったりしないと言っているだろう」

  「は……いっ」

  そうはいっても怖いものは怖い。本能由来の反応を幾ら口で宥めても意味を成さない。

  ディランはローラを調教することにした。

  「アッ――! アッアッアッアッ~~~~~っ」

  「優しいだろう? このままイかせてやる」

  骨盤を強く掴み一定の律動で最奥を繰り返し突いてやる。

  小さな足先が苦しそうに丸まり、駄々を捏ねるように寝台を叩く。

  まだ絶頂に慣れていない身体には、激しくするよりも一定の律動で性感帯を犯してやる方が喜ぶことをディランは知っている。

  「締まってきたな。いくんだろ? なぁ?」

  「――いぐっ!?」

  骨盤を掴む手の指が肉に深く食い込みローラの身体が弛緩する。

  「う、う、うぅ、う、う~、ひんっ――、ぅああああっ、でぃ、ら、さまぁっ、――っ――っ――っ」

  ディランは上体を倒しローラの背中に重なる。

  耳元にべったりと唇を寄せて「いけよ」と呼び掛ければローラは何度も頷いた。

  「うんっ! い、い、いっ――い、くっ! いく、ぅ――、アッ――、~~~~~~~~~~~???」

  ローラが果てるのと同時にディランの牙がローラの肩を噛んだ。

  少し強めに。痕が残る程度に。柔肌を食らった。

  絶頂に達する度に噛みつき続ければ、いつかは噛みつかれただけで果てるようになるだろう。

  ディランは汚らわし野望を静かに遂行して行くことを決めた。

  何も知らないローラは一生懸命に愛しい夫の愛情を受け止める。

  「俺もいく。最後まで付き合えよ」

  「ぅんっ――! アッアッアッアッアッ~~~」

  今度は自分が果てる為に自分勝手な腰使いでローラを虐め抜く。

  凶暴な亀頭が子宮の形を変える。

  ローラは気が付かないうちに潮を吹いて寝台に大きな染みを作った。

  「や、やらぁっ、お、おぐっ、おくはだめぇっ! は、あ、あぁぁっ、い、く――、~~~っ~~~っ~~~っ、はぁ、はぁっ、ふぅぅ~っ、アッアッアッアッアァッ――、や、やさひ、くするって、いったのにぃっ」

  優しくないと泣き怒るローラが生意気で可愛くてディランはつい意地悪を言ってしまう。

  「俺だって優しくしてやりたいさ。でも、ローラが俺を誘惑するから腰が止まらい。どうしてくれるんだ?」

  「えっ? えっえっえっ???」

  意味が分からず困惑するローラの旋毛に口付けを落とす。

  必死にシーツを握る手を掬い上げ指を絡めて今度は愛を囁く。

  「可愛い。愛してる。もういく……っ。俺の子種、一滴残らず胎に蓄えろ。いいな?」

  「ンッ、ンッ、ンッ、ンッ! は、はいっ~~~~~~~~~~~~」

  前後不覚になって何がなんだか分からないが、とりあえず返事をしたローラ。再び肩を噛まれながら絶頂に昇り、続くようにディランも射精に至る。

  毎日吐き出しても枯れない精力の源は間違いなく種付けの相手がローラだからだ。

  小さな身体で懸命に受け入れてくれる健気さに胸が高鳴り、雄玉がせっせと子種が生成する。

  結合部から白濁が滲み出るのを感じてディランの唇が邪悪に孤を描く。

  「溢すなって言っただろう」

  「っ、っ、っご、ごえん、なさ――! ぁぁぁあっ! も、やぁぁ!」

  白い片脚を肩に担いだディランは抽送を再開し、蜜液と白濁で粟立つ結合部を凝視する。

  「俺が好きか? ローラ?」

  たんたんっ。肌をぶつけながらローラの愛を乞うが、過ぎる快楽にローラの呂律が回らない。だから、代わりに腕を伸ばし抱擁を求める。

  「ンッンッンッ~~~、アッアッアッンッ! でぃらぁっ――、~~っ~~っ~~っ」

  「っ……可愛い、好きだ。好き、好き、好きっ。ローラ」

  「~~~~~~~~~ッ!」

  二人は必死になって一つになろうと身を寄せ合う。

  ディランは思う。間違いなく今の自分は世界で一番の幸せ者だと。

  あとがき

  お世話になっております。pixivでは久しぶりの更新になってしまい申し訳ありません。

  久しぶりの短編だから張り切って執筆していたのですが、書いても書いても終わらなくて……。執筆初めて二十日ぐらいかかったような気がします(笑)

  FANBOXでは連載作品月三本ぐらいは上げているので、ご興味ありましたら遊びに来てください。

  後日、改めてお知らせを出そうと思うのですが、11/24のコミティア154にサークル参加予定です! TL短編小説を三本持って行く予定なので、皆様とお会い出来たら嬉しいです!

  それでは、最後までお付き合いいただきありがとうございました!

  銀鹿

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