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狼でもあなたが好き

  ここは、獣人と人間が共生する国・カルアット王国。

  約1000年前の大戦の後、獣人の国・カルニシア帝国と人間の国・シュルテンアット王国が合併したのだ。最初の頃はいがみ合ってばかりで国と言える状態ではなかった。しかしそこに現れた英雄、後の国王であるニコラス・カルアットの手腕によって今の彼らがある。

  その子孫が今も国王として、この国のトップにいる。

  今日はその国王陛下の戴冠式だ。

  「ロイ・カルアット殿下のお目見えです。」

  大きな喝采に包まれる。登壇されたのはロイ・カルアット国王陛下。高身長のいわゆるイケメン。性格は知らないけど。獣人の血が濃いらしく本来の見た目は狼らしい。

  本来ってどういうことかって?獣人族は獣の姿と人間の姿とを交互に出せる。普段は獣でも、人の姿の方が良い時は人の姿に。

  あ!すっかり自己紹介を忘れていた!

  私はアルストロ・メリア・シュカットラ。一応、隣国・キニシュカットラ王国の王子だ。

  え?王子だったのって?失礼だな〜これでも王子だよ。まあ色々あって今はドレス着てるけど、これには深い訳がって…

  あと、私の一家は人間だよ。

  今日は、隣国であるカルアットの戴冠式に呼ばれたんだ。唯一未婚の三男だからこういうのに行かされる。今日は珍しくお母様とお父様も一緒。いつもは私を放ったらかしの癖に。

  「ほら、メリア。ちゃんと姿勢よくなさい。」

  「はーい」

  「もうあなたも20歳なのよ?結婚だって考える年頃です。もう遅いと言っても過言ではありません。しっかりと責任感を持ちなさい。」

  「はいはい。」

  「もう…この子ったら…。」

  「おい、祝祭に来てまでその話はやめなさい。」

  「そ、そうよね…すみません…。」

  お父様が隣国からの貴賓ということで、皆さんの前で挨拶をし、その後も滞ることなく戴冠式は終わった。

  式が終わったら「ハイ、解散」とはいかない。お披露目パーティーがあるのだ。それが一番苦手。でも出ない訳にはいかないから、少し挨拶周りをしたらバルコニーにでも出ていよう。

  「メリア!ロイ国王陛下がお呼びですよ。」

  「なぜ私なんかを?」

  「メリア、陛下が呼んでらっしゃるの。いいからご挨拶を。」

  「はい…分かりました。」

  これがあるから嫌なんだよなぁ〜!!!

  スタスタと陛下のおられる玉座の前ヘ進んだ。

  それからスカートを両手で持ち上げ、少し腰を下げる。

  「この度はご戴冠おめでとうございます、ロイ・カルアット国王陛下。お初にお目にかかります。私は、キニシュカットラ王国第三王女・メリアと申します。」

  「遠くから足をお運び下さりありがとうございます、メリア王女。楽しんで頂けておりますでしょうか?」

  「えぇ、とても。陛下もお疲れだと存じます、私はこれで…」

  棒読み過ぎたかなと気にしつつ、サッサと切り上げてしまおうと、会話もそこそこに前から去ろうとしたとき。

  「フハハ!気に入った!貴殿を第一王妃として迎え入れたい。どうであろうか、キニシュカットラ国王!」

  「…ロイ陛下?こ、これ以上にない喜びです。陛下のお気に召すままに…」

  「はぁああああああ!!??!?!?」

  何をいきなり言い出すかと思ったら妃だぁあ!?

  頭イカれてるのか。何も気に入られることしてないし!お父様もお父様だ!何を勝手に決めてんだ!私の気持ちも考えろ!

  とは口に出せず…はぁ!?っていう声だけが会場に響き渡り、その場の空気は凍りついた。

  側にいた宰相があたふたと声をあげる。

  「陛下!何をいきなり言い出すのですか!?縁談が決まりそうだったではありませんか!相手国にはどう言うおつもりですか?というか、この会場にいらっしゃっています!」

  「それがどうした?私がこの姫と決めたのだ。誰か反論できるか?いや、無理だよな。この世界の王は私だ。」

  「へ、陛下!!!」

  そう…この国はただの隣国ではない。

  このカルアット王国こそがこの世界の支配者なのだ。ほとんどの国は属国に近い。歴代の王の配慮で国として存在しているが、ロイ陛下の機嫌を損ねていつ消されるか皆怯えている。

  結局私たちはロイ陛下の言いなりということだ。

  いきなり決まった縁談。不安とかの次元じゃない。

  私は男だ!まあ確かに…人間の中でも珍しく男でも子が産めるのだけども…

  しかも私のせいで機嫌を損ねたら私の首だけでなく、私の家も国も危ない。滅亡の危機だ。

  そんな重いものを背負って嫁がなければならないなんて…

  数日後、我が国のシンボルとも言える花が満開になった日に迎えの馬車が来た。まるで私を明るく送り出すかのように。

  ついにあの狼陛下に嫁ぎに行くんだ…

  「陛下に粗相してはダメよ?」

  「わかってます。」

  「たまには手紙を出して?」

  「はい。」

  ギュッ

  素っ気なく返していると、突然抱きしめられた。

  「おっ、母様!?」

  「子を見送るのは3回目でも、慣れないものです。あなたは一番手がかかって、それはそれは大変でした。それでも大事な愛息子です。」

  「お母様…」

  「しっかりね?自分を守れるのは自分です。肝に銘じなさい。」

  「はい…!」

  「辛くなったらいつでも帰ってきなさい。あなたの家はここなのだから。」

  「…はい!」

  ーー

  「私たちの子は…上の子以外旅立ってしまいましたね。」

  「ああ。」

  「早いものですねぇ。」

  「…。」

  「あら?まさか…」

  「皆まで言うな。私だって親だ。」

  「ふふふ…こんなにも静かなのね、この城は。」

  ーー

  涙が溢れた。今まで厳しく育てられた覚えしかなかった。でも、母はこんなにも私のことを思ってくれていたのだ。あんなに出たくてしょうがなかったこの家を今日出る。こんなにも寂しいものなのだな。

  何より最後、あの日以来初めて息子と言ってくれた。あの母が。

  馬車に揺られること2時間。カルアット王国の首都が見えてきた。

  手のひら大の姿見を見て、おかしなところはないか見直す。

  父に頼み込んで、ついてきてくれた侍従が一人。幼馴染のように幼いころから一緒で、私の唯一の理解者。

  「サイモン。」

  「なんでしょう?」

  「あなたが来てくれて良かった。」

  「あなたについていくと、あの日心に誓いました。離れるわけありません。」

  「心強いな、サイモンは。」

  またしばらく馬車に乗っていると見えた。この国の城、今日から私の家になる。

  「キニシュカットラ王国第三王女、メリア・シュカットラ王女のご到着です。」

  「よく来たな、メリア。」

  「この度は、私メリア・シュカットラをお招きいただいたこと、大変光栄に思います。」

  そう挨拶すると、陛下は黙った。お辞儀をしていて私には彼の表情を見ることはできない。

  足音がコツコツと近づいてくる。何か粗相をしてしまったのだろうか。怯えていると、私の顎に手をかけヒョイと上げさせられた。

  「そういう堅苦しい挨拶はいらぬと前に言ったぞ。」

  「そ、その…」

  「まあいい。今夜、私の部屋に来い。…この意味くらいは分かるだろう?」

  「なっ…!?」

  「ふっ…」

  鼻で笑うと身に着けていたマントを翻し、そのまま書斎へと引っ込んでしまった。

  さっきのってやっぱりそういう…やだあああああ!

  玉座の間から私のこれから住む部屋へと案内された。

  「ま、何かわからないことがあったらいつでも言ってくれよ。」

  「ありがとうございます。」

  「俺は王室騎士団第一大隊隊長、レオン・ハーバートだ。お前の護衛はこっちの…」

  「ジェイムズ・カーターです。よろしく。」

  「こちらこそ、よろしくお願いします。」

  「交代制なので扉での警備は別のものが立っていることもしばしば。責任者は私ですので、どこかへお出かけなさいます時は、私を通してください。その時の護衛は私が。」

  「えぇ、わかりました。」

  「んじゃ、俺たちはそろそろ出るぞ。」

  「はい。夕飯時になりましたら、またお声掛けします。それまでゆっくりお休みください。」

  「ありがとう…えと…」

  「ジェイムズ、と気軽にお呼びください。それから敬語はお辞めください。」

  「わかった。ありがとう、ジェイムズ。」

  会釈を一つすると彼らは部屋を出た。

  トントントン

  「アル様、よろしいですか?」

  「サイモン!あぁ、入って。」

  「失礼します。アル様、お疲れではないですか?」

  「そうだな…さすがに疲れた。だってこんな堅っ苦しいんだよ。」

  「そうですね、アル様にはこれからもある程度おとなしく、妃にふさわしいレディになれるように日々練習していただきます。」

  「えっ…」

  「と、言いたいところですが…。妃って、男ですよね?アル様…」

  「そうなんだよな…あはは」

  「困りましたね…」

  二人して顔を見合わせてしまった。

  まあ、ある程度は妃?としての学びは必要だな…

  そのことに気がとられ、すっかり部屋に来るよう言われていたことを忘れていた。

  サイモンの手を借りながらカツラ取り、緩いスラックスへと着替えた。

  夕飯を食べ、なぜかサイモンにニヤつかれながらお風呂をすました。

  その後寝る支度が整ってすぐ、レオンが部屋に来て初めて思い出した。慌てて着替えた。

  「遅いぞ。」

  「失礼いたしました。」

  「まあ良い。こっちへ来い。」

  「はい…」

  少し声が震えてしまった。

  また鼻で笑う声がした。

  「そう身を固くするな。優しくしてやる。どうせハジメテなんだろ?」

  そこでカッチーンときてしまった。

  パァーンッ

  気づいたときには私は陛下の頬を叩いていた。

  キッと彼をにらみ、

  「馬鹿にしないで。誰があんたなんかの言いなりになるか!私はあんたの正室になるつもりないし。何が『優しくしてやる』だ。あんたとすることなんか無いっての!自分が陛下だからって女が全員あんたに惚れると思ったら大間違いだ!!!!!」

  と、口にしていた。

  早口にまくし立てて少ししてから自分のしたことに気づいた。背筋が凍った。

  これは殺される…私の人生短かったな…

  「ふっ…ふはははは!やはり面白い。気に入った。まさかはたかれるとは思わなかったぞ。ははははは!」

  「へ?」

  「お前が俺無しでは生きられないようにしてやろう。」

  「は?ならないから。」

  「そう言っていられるのも今のうちだぞ?レオン!」

  「はい。」

  「この女、いや……丁重に扱えよ?俺のお気に入りだからな。」

  「御意」

  「もういい、部屋に戻せ。」

  「はっ!」

  そういうとレオンは私を部屋まで送り届けた。

  「お前度胸あるな笑」

  「え?」

  「陛下に手をあげた女は姫さんが初めてだよ笑さすがにヒヤッとした笑」

  「その…お見苦しいところを失礼しました…。」

  「敬語とか気にするな。さっきのような砕けた感じのでいいぞ。気軽にレオンって呼んでくれて構わん。」

  「わかった。レオン、陛下のお気に入りって危ない…?」

  「いや、俺が配属されてからお気に入りだと言われた奴らは、陛下はもちろん皆にも大事にされていたと思うぞ。まあその中に女がいなかったから何とも言えないけどな。」

  「そう…」

  「ほら、部屋に着いたぞ。」

  「ありがとう。おやすみなさい。」

  「おう、ゆっくり休みな。」

  はあ…なんとか済んだけど…

  サイモンには事細かに報告すると、腹を抱えて笑っていた。

  うん。なんとなく分かってた…。

  翌朝

  「陛下が朝食を共にしたいとのことです。」

  「え…」

  「急いでいただけますか?」

  「かしこまりました…」

  朝から背筋が凍る…。

  ジェイムズが預かった伝言で急いで陛下のいらっしゃる部屋へ向かった。書斎でも、昨日伺った寝室でもない。

  バルコニーだ。

  「遅いぞメリア。」

  「失礼致しました。ごきげんよう、陛下。」

  「さぁ、早く座れ。腹が減って仕方ないのだ。」

  何も味がしない。緊張しすぎて。

  会話もない。なんで陛下は私を呼んだんだろう。

  この国は王の多妻が認められている。

  正室は王位即位後5年以内に迎えるのがしきたりで、決め方はそれぞれ。

  ある王は恋愛、ある王は政略、ある王は気分、ある王は妃同士を内容は知らないが競わせたらしい。

  この目の前の男はどうだろうか。

  一応、第一王妃として迎えられてはいるが、本人の気分次第でいつでも二、三と優先度は下がる。

  「部屋は…気に入ったか?」

  「へ?あ、はい…。素敵なお部屋を与えてくださり光栄です。」

  「そうか。」

  それだけかい!!会話が続かない…!

  まあいいけど…

  「その…昨日は悪かったな。来たばかりで疲れただろう。」

  「い、いえ…お気遣いありがとうございます。私も昨日は大変失礼なことを…なんとお詫び申し上げたらよいか…。」

  「いや、気にするな。」

  後ろがざわついた。

  よく耳を澄ますと『陛下が謝られた…!』『な、何事だ…!?』と言われている。

  どんだけいつも悪いやつなんだよ。

  「一つ…お聞きしたいことがあるのですが…よろしいですか?」

  「なんだ?」

  「なぜ、私を第一王妃としてお選びになられたのか不思議でならないのです。あの日に初めてお会いしたのに。」

  「そうだな…気分だ。」

  この男ぉぉおおお!

  聞かなきゃよかった!後悔してももう遅いけど!

  イライラしながら朝食を済ませ、部屋に戻った。

  この日からサイモンの話し方や姿勢、常套句などのレッスンが始まった。

  昼食後、また陛下に呼び出された。

  「ご機嫌麗しゅう…」

  「メリア、喜べ。お前のお披露目式が来月行われることになった。」

  「は!?」

  「まだ正室としてのお披露目ではないがな。ダンスがある。恥のないように。それだけだ。下がれ。」

  「は………い。」

  ダンス…ダンスかぁ…あんまり得意じゃないんだよな…

  するとそれを察したのか

  「お前、踊れないのか?」

  「ギクッ」

  「はぁ…仕方がない、講師をつける。ミッチリ練習しろ。」

  最悪だ。

  ーー

  ダンス講師のレッスンが始まった。

  まず姿勢、それから足の運び、音楽にのせたり…

  ただ一つ、問題点が

  「ノンノン!もっとこう!」

  距離が近いのだ…わざわざ触る必要のないところまで触られているような…

  気持ち…わるい…

  「ノン!こう!!!」

  ひえ…

  嫌だ…でも言えない…。

  ここに来たばかりの、しかも一応女にはそんな発言権は無い。

  「アル様?もうしばらくしますと、先生いらっしゃいますよ?」

  「そ、そうだな…行かねば…」

  「どこか具合が悪いのですか?」

  「いや、大丈夫だ!心配かけてすまない。」

  少し広めのお部屋の中で、先生と二人きり。

  もちろんジェイムズやレオンなど護衛はいるが、部屋の外で待機なのだ。

  この日は質が悪かった。

  「きゃっ…」

  「誘ってるのかい、姫?」

  「ちょっと…やめてください…!今叫べば、護衛が入ってきますわ…!」

  「叫べば、この醜態がバレて陛下のお咎めがあっても?」

  「え…?」

  「私はここの専任講師、君みたいな新人とは歴が違うのだよ。どっちの言葉を信じるかな?」

  「そ、んな…」

  最初は触るだけ…それがどんどんエスカレートした。

  残り一週間と少し…耐えれば…。

  うっ…

  「メリア様!?」

  「っ……」

  「どうなされたのですか!?メリア様!」

  「ごめん…なさい…。少ししたら……大丈夫だから。」

  「お顔の色が悪いです!今日のレッスンはお休みしましょう?もうすぐお披露目式です。無理はいけない。」

  「でも…」

  「どうした?」

  え…陛下!?

  「おい、メリア。」

  「…はい。」

  「どうした?」

  「……大丈夫、です。」

  「ジェイムズ!」

  「ハッ!」

  「連れて行く。お前は講師に伝えろ。」

  「御意!」

  「うわ、わ!」

  「暴れるな。」

  「いけません!陛下!おろしてください!」

  「暴れたら落ちるぞ。」

  「ですが…!」

  「ここ最近、様子がおかしいらしいな。」

  「え?」

  「ジェイムズから聞いた。体調が悪いのか?」

  「えっと…」

  「まあいい。とりあえず休め。肝心な当日に主役がいないと意味がないだろう。」

  「…は、い……っ…」

  涙が止まらなかった…

  なぜか、見透かされてるような…。

  私のことなんて気まぐれで呼んだだけで、どうでもいい存在なんだと思ってた。

  「話くらい…聞いてやらなくもない…。」

  「その…信じてください…ますか?」

  「まあ…ものによるが…。」

  講師の先生にされてきたことを打ち明けた。

  すると少し考えた素振りをして

  「わかった。話してくれてありがとう。辛かったな。」

  不器用に頭を撫でると、すぐに部屋から出てしまった。

  サイモンは横で胸を撫で下ろしたのがわかった。

  「申し訳ございません…アル様…なんと申し上げたらいいのか…!」

  「なんでサイモンが謝る?何も悪いことはしていないだろ?」

  「私が気づいていれば…もっと早く…。」

  「気にしないで。なんだかんだサイモンは優しいから。気にするなと言っても気にしてしまうよな。ありがとう、味方でいてくれて。それだけで十分だよ。」

  翌日には講師の先生はクビになっていた。

  私を信じてくれたのか…

  部屋を出るときも、今までの陛下が嘘みたいに優しかった。

  なぜだ?

  式当日

  大勢の貴族が、私を一目見ようと訪れた。

  「アル様!準備はよろしいですか?」

  「ああ、大丈夫だよ。」

  「では、行きましょう!そして陛下を真っ赤にして差し上げましょう!」

  「ふふ、そうだな笑」

  今日のために誂えたドレスは、淡いピンクの生地に、派手すぎないレース地を重ねたもので、肩が出たものだった。

  ウエストにかけてくびれをつくっていて、その下は膨らみすぎず、膨らまなさすぎない…とても自然な流れを作っている。

  ジュエリーも大きすぎず、品のあるものを用意してくれた。

  そのうちのティアラは陛下が贈ってくださったものだ。

  とても…素敵だ…。本人には絶対言ってやらないが。

  「陛下!姫様の準備が整いました。」

  「あぁ…。」

  「お待たせして、申し訳ありません。粗相のないよう努めます。」

  「…。」

  「陛下?」

  「なんでもない、行くぞ。皆待ちわびている。」

  「はい。」

  陛下に手を引かれ、玉座の椅子の前へ移動した。

  「この度は、ご足労いただき感謝する。こちらが、妃のメリア・シュカットラだ。」

  「お初にお目にかかります。メリア・シュカットラでございます。」

  最敬礼のお辞儀をする。

  「今日は大いに楽しんでくれ。」

  この挨拶を皮切りに、料理や飲み物、演奏が始まった。

  様々な家の代表者が私の前に来て、挨拶をする。

  一つ一つ返していく。

  しばらくすると、

  パンパンッ

  と陛下が手を鳴らすと、曲が急に変わった。

  するとみんな思い思いにダンスへと移っていった。

  みんなダンスが上手で羨ましいな…。

  ある程度はできるようになったけれど、さすがに一ヶ月じゃたかが知れてる。

  「おい、メリア。」

  「はい?」

  おいって何だよ、おいって!

  と内心怒っていると、いつの間にか目の前に来て

  「一曲、踊っていただけますか?」

  「…え?」

  「ほら、どうすんだよ。」

  「よろしく、お願いします…。」

  差し出された手を握り、前に進み出る。

  みんなは、私たちが通ろうとするとダンスをやめ道をあけた、それから囲うように円になった。

  陛下と向き合って、互いに一つお辞儀をすると、腰をキュッと持たれた。

  一瞬固くなってしまったが、すぐにほぐれた。

  陛下に持たれるのは…嫌じゃなかった…。

  エスコートもさすがだ。とても踊りやすく、苦手なはずなのになぜか少し楽しかった。

  踊り終わる頃には少し名残惜しいとさえ思えた。

  周りから拍手をされ、照れくさかった。

  椅子へ戻ると

  「悪くなかった…」

  と呟くように一言。

  「ふふっ…」

  「なっ、何がおかしい。」

  「いえ、別に…。」

  なぜか愛おしく感じた。

  そのまま流れでバルコニーへ出た。

  外は人が少ないから肩の力が抜ける。空気もどこか吸いやすく感じる。

  「その…先日の件はすまなかった。」

  「え?」

  「早く気づいてやるべきだった。」

  きっとあのダンスの先生のことを言ってるんだろうな。

  「いえ。すぐに対応してくださったではないですか。」

  「うむ…」

  「何かお飲みになりますか?」

  「いや…、そうだな。何か持って参ろう。そこに掛けていろ。」

  「ありがとうございます。」

  ふぅ…ちょっと一息。

  ドレスにシワができるだけ寄らないように座ると、心地良い風が吹いた。

  「お嬢さん。」

  「…。」

  「もし、お嬢さん…?」

  「あ!私ですか?」

  「えぇ。お一人ですか?」

  「いえ、今連れが。」

  さっきのダンスを見ていなかったらしい。見ていたら私が陛下の連れだとわかるはずだ。

  「その間少しお話しませんか?」

  「え、えぇと…」

  「おい。そこを離れろ不届者。」

  「おっと、もう来たの?」

  「『来たの』…?」

  「俺の妃だ。」

  「ふぅ~!お熱いですな〜!」

  「からかうな、ルイス。」

  なんと、昔のご学友なのだと。

  そりゃ私がどこの誰か分かってても話しかけるな…

  そんなこんなでお二人メインの会話を頷き多めにしばらくしたあと、陛下お付の執事さんがそろそろ閉会だと伝えに来た。

  お開きになり、夕飯をろくに食べられないままドレスを脱ぎ部屋着に着替える。もちろんスラックスだ。

  「おかえりなさいませ、ロイ様。」

  「ただいま、サイモン。」

  「先ほどのパーティーでのお食事を少しお裾分けしていただきました。ロイ様のお好きなものを揃えております。お召し上がり下さい。」

  「さすが分かってるな!お腹ペッコペコなんだ!」

  「ふふっ、変わりませんねぇ。」

  「良いだろ…!サイモンの前でくらい!」

  「えぇ。良いですよ。」

  あれこれ話しながら食べると、良い時間になった。

  風呂に入り、シルクの寝間着に着替えてすぐに布団に潜った。

  体が疲れている。ドレスや慣れないダンス、たくさんの人がいるという気疲れ。ぐっすり眠れそうだ。

  翌日、どういう風の吹き回しか、陛下にお茶を誘われた。本当にどういう風の吹き回し?

  「すまんな。急に呼んで。」

  「いえ、お気になさらず。」

  少し会話をした後、すぐに公務へ行かれてしまった。何だったんだ。モヤモヤしながらもクッキーと紅茶でそれを流した。

  それからお茶に誘われることが週に3回もあるのだ。

  そして…ちょっと心境が変化した。

  「ふっ…そうか、猫が。」

  「えぇ、茂みに隠れるものですから、追うのが大変でございました。」

  「退屈していないようでよかった。放っておく時間が長いからな。」

  「いえ、そんな…」

  「寂しくないのか?」

  ちょっとからかうような笑みを浮かべそう聞く。

  「寂しくない…と言ったら嘘になります。」

  特に深い意味はないけど率直に答えた。

  「そ、そうか…できるだけ公務を切り上げるようにしよう。」

  「お願いします。」

  驚いた顔をされたあと、そう答えられた。

  「では、中へ戻ろう。」

  「えぇ。」

  サッと私の横へ来て、手を差し伸べてくださる。

  少し前なら考えられない。

  「ありがとうございます。」

  そのまま部屋までエスコートして下さる。本当の夫婦になったようだ。

  部屋の前まで来て、踵を返そうとする陛下を引き止めた。

  「陛下に、お伝えせねばならぬことがあります。もうお気づきかもしれませんが、私の口からお話させて下さい。」

  「…わかった。では、今夜時間を作ろう。良いか?」

  「ありがとうございます。」

  私の秘密を知っておられるかもしれないけど、それでもちゃんと自分で伝えたい。

  「サイモン、夜陛下がいらしたら席を外してもらえる?」

  「えぇ、もちろんでございます。」

  夜

  ドアを叩く音がした。

  いよいよ来た。この時が。

  「あ、れ?レオン?」

  「お嬢さん、お迎えにあがりました。」

  「お迎え?」

  「陛下の部屋へ。」

  レオンは私を見ても驚いた素振りも無く、陛下の寝室まで案内してくれた。

  「失礼いたします。」

  「レオンか、ということはメリアも一緒だな。」

  「はい。」

  「失礼します。陛下。」

  「入れ。レオンは下がっていろ。」

  「はっ…。」

  「メリアはそこへかけろ。」

  雑な指示でソファーに腰をおろした。

  既に用意されたティーポットと湯気が立っているカップ。きっとこの香りはハーブティーだ。

  「…あ、の。」

  「好きなタイミングで話せ。ひとまず茶でも啜れ。」

  促されるまま一口。スッキリとした香りの中に優しさを感じる。

  「陛下。私は、いや、僕は男です。真の名はアルストロ・メリア・シュカットラでございます。」

  ーー

  「元気な男の子がお産まれになりました!」

  「おめでとうございます!」

  僕は口々にそう祝福されて生まれたらしい。

  2人目の男児。シュカットラ家は1人目以来、女児が続いたため、後継がお兄様のみだった。それをずっと危惧していた一族にとって希望だった。

  幼少期はもちろん『アル』と親しい間の人には呼ばれていた。

  それが変わったのは忘れもしない5歳の頃。

  帝国お抱えの占い師が私がこの家にいると災いをもたらすと予言したのだ。ふざけているのか、男としている限りという条件があった。

  しかしよく当たるため信じざるを得なかった。

  そして女の子として育てられるようになった。

  学校へ行くにも女学校へ通った。周りの女の子には申し訳なかったが、そうするしかなかった。

  性別を偽って生活する理由はそれだけにはとどまらなかった。

  13歳の春、突然下着が赤く染まった。

  医者に見せるとまさかの月のものだった。

  もちろん男の子としてのモノは付いている。それなのに子を成す臓物も持ち合わせていたのだ。

  どこまでも男として生きることを神から認められなかった。

  しかしたまにはズボンを履きたい。楽だから。男として出歩きたい。ときどきその格好で街へ出たり、誰も訪問客が来ない日はドレスを強要されなかった。

  本名はアルストロ・メリア・シュカットラだが、女子っぽくするためにメリアのみを取って名乗っていた。

  つまり、私は男である。加えて女のように子を成せる体である。

  ーー

  「…という次第でございます。」

  「…。」

  な、何か言ってくれ…。

  「薄々気づいてはいたぞ。」

  「はぇ…?」

  「だから面白いと思って娶った。だがまさか子を成せるとは。つくづく面白い。」

  「えーっと…?」

  「どんな姿でも俺はお前を愛す。それで充分ではないか?」

  「……っ、はい…!」

  「男だろうが子を産めるだろうが、別に良い。私が狼であることはおかしいか?」

  「いえ!」

  「そうだろ?普通の人間とは違う。おそろいだな。」

  そう言って少し笑った彼はとても輝いていてかっこよかった。

  「陛下…わ、私も……お、お慕いしております…」

  これをメインで言いに来た。やっと。自分の口から伝えられた。

  「っ!?」

  「…ふっ。くふふ…!」

  「何を笑っている。」

  「陛下の驚いた顔を初めて見ました。ふふっ」

  「驚くではないか。」

  「驚いて下さったんですね笑」

  「あぁ。その…私も愛している。」

  「陛下…っ」

  突然抱きしめられた。

  「何も思っていなければそもそも妃にしない。茶にも呼ばん。」

  「はい…。」

  「その、本当の姿を見せても良いか?」

  「本当…の?」

  「あぁ。いや、見てもらいたい。」

  そう言うと部屋の衝立の奥に隠れた。

  衣擦れの音が終わると、少しのうめき声。何かあったのかとハラハラしていると、真っ白な毛並みの美しい狼が出てきた。

  「か、かわいい…!」

  「か…!?」

  「あ、狼さんでも人語が話せるのですね。」

  「あぁ。」

  「近づいても…?」

  「怖く…ないのか?」

  「怖がるところなんてありませんよ。撫でさせてください。」

  「うむ…」

  近づくとその場でしゃがんでくれた。硬いのかと思ったら、案外柔らかくとても肌触りが良かった。

  思わずギュッと抱きしめて、顔を埋めた。最高だ…

  「その、あまり、あの…」

  しどろもどろになる陛下が可愛かった。

  あー愛おしい。不器用さも優しさもすべて。

  「そのまま襲うぞ。」

  「えぇ。最初からそのつもりです。」

  「知らぬぞ。」

  「はい。」

  その日は狼のように食われるかと思ったのに、甘やかされまくった。グズグズのとろとろにされた。

  「へ、か…んっ」

  「『陛下』ではない。ロイだ。」

  「ロイ、様…?」

  「ロイだ。」

  「ロ……ロイ…?」

  「あぁ。」

  そう呼んだ時の、あの何とも言えない笑みを忘れることはできないだろう。

  何度達したか分からない。しかし、最後まではされなかった。

  疲れたのか気づいたら寝落ちていた。

  「陛下…?」

  「アル、まだ寝ていて良いぞ?」

  「ありが、と…ざ……ます……。」

  「ふっ…」

  温かい湯船に浸かっている感覚はあれど、何かできるほど体力は残っていなかったためされるがままに過ごした。

  「おやすみ、アル。」

  最後にこれだけが聞こえたが、返すことはできなかった。

  目が覚めると、陛下の腕の中に私はいた。驚いて逃げ出そうと試みたが体が言う事を聞かなかったため諦めた。

  「目が覚めたか?」

  「おはようございます、陛下。」

  「『陛下』ではない。何と呼べと言った?」

  「おはようございます……ロイ。」

  「あぁ、おはよう。」

  朝だというのにどうやったらそんなぺっかぺかの笑顔になれるんだ…?

  「朝食は運んでもらった。起き上がれるか?」

  「ん、あ、はい…。なんとか。」

  なんか、世話をしてもらっていて居た堪れない…。

  食べやすいサンドイッチに野菜のポタージュだったから助かった。

  「ありがとうございます…。」

  「あぁ。」

  そのまま着替えられて、公務へ行くと私に告げる。

  思い、通じ合ったんだよね?と不安になるくらいあっさりだ。

  と思った瞬間、扉を開ける手を止めてこちらへずんずんと歩んできた。

  顎をすくうと、そのままキスされて

  「行ってくる。」

  「い、い、いってらっしゃい、ませ…!」

  ま、まさか、キスされるなんて…

  しばらく呆然としていると、サイモンが入ってきた。

  「お召し物を替えましょう。」

  とは言っても部屋着に替えただけで、きっちりした格好ではない。

  「サイモン、その、思いが…通じました…」

  最後の方はどんどん声が小さくなった。やはり恥ずかしい。

  でもサイモンはそんなこと気にせずに、「おめでとうございます。」と微笑んでくれた。

  この部屋で過ごして良いと許可を頂いているが、なんだか緊張してしまって全く気が休まらないため、ちょっと無理して自室へ。

  ただここで驚きの事実が。

  いつの間にやら陛下、じゃなかった、ロイの部屋の隣に自室が移されていた。どうやら正妃の部屋らしい。

  「こちらでごゆっくりとお過ごしください。お茶をお淹れしましょうか?」

  「うん。お願い。」

  その日は何もなく、本を呼んだり、お昼寝したりとのんびり過ごした。夕飯はロイと一緒に摂れることになった。

  それから数日して正式に結婚が決まった。その時、すべての縁談を完全に切った。私1人で充分だと仰ったのだ。

  無理やり老いぼれから充てがわれていた貴族の娘たちだと言っていたが、貴族が黙っているのだろうか…

  「結婚式は盛大に行う。王室としての威厳を保つためにな。男であることを公表するか?」

  「いえ、必要性を感じないので、限られた人以外には女で通します。幸いにも声変わりしてませんし。」

  「わかった。式の衣装はドレスを手配しよう。」

  「ありがとうございます。」

  「それから宴だが、国中の有力な貴族を大勢呼ぶ。なんとなくで構わないが、把握しておいてくれ。」

  「はい。」

  それからサイモンと協力して貴族の情報をかき集めたが、全員の顔まで知ることは難しかった。名前を伺ってすぐにどこのどういう方かを思い出せるようにはした。

  ドレスの試着やら、ダンスの練習やら、やることはたくさんだ。

  当日のアクセサリーなどはすべて担当に任せた。

  そして当日。

  「あなたは、その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」

  「誓います。」

  少し恥ずかしさが勝ったが、誓いのキスまで皆の前で行い、なんとか式を終えた。

  これで正式な夫婦となる。

  「ご成婚、おめでとうございます。」

  順番に挨拶へ来る貴族たちから言われるたびに言葉とこの国のしきたりである花を渡す。かすみ草を使った小さなブーケだ。

  花言葉になぞらえた慣習だ。

  「遅くまでお疲れ様です。」

  一足先に部屋へ戻り、寝支度を整えた私はようやく帰ってきた夫に労う言葉を掛けた。

  「アルもな。よくこの短期間で貴族たちの名前を覚えたな。」

  「それくらいしかできませんから。」

  「さすがだ。湯を浴びてくる。……待っておれよ?」

  耳元で最後呟いていったセリフに赤くなる。

  「は、はい…。」

  いわゆる初夜ってやつだ。そのために後ろを洗い、ほぐし、仕込んでおいたのだ。

  緊張で頭が爆発しそう。

  「待たせたな。」

  「あ、いえ…」

  「ん?緊張してるのか?」

  「……はい。」

  「ふっ…そう固くなるな。安心しろ、優しく抱いてやる。」

  「うっ…あ、はい。」

  余計恥ずかしくなった。

  うろうろしていた私にゆっくり近づき、彼は私を抱きしめた。

  「大丈夫だ。な?」

  背中をトントンと一定のリズムで刻む。

  「落ち着いたな。キス、していいか?」

  コクコクと頷くしかできなかった。

  優しく触れるだけのキスを繰り返す。キスからも伝わってくる落ち着けという気持ち。だんだん余裕が出てくると、唇を舐められた。

  「んっ!」

  「口、開けろ…。」

  言われるがまま開けると、肉厚な舌が入ってきた。そのまま口の中を舐めあげられる。口内に唾が溜まる。飲み込む暇もない。

  「ん……ふっ、あ…っ…」

  口の端から漏れる吐息が、声となって部屋に響く。

  「鼻で息するんだよ。前にも教えただろ?」

  顔を離した彼が、親指で私の口の端に溢れ垂れていた唾を掬う。

  ガウンを脱がせていく彼にされるがまま、下着姿になる。これは侍女が用意したそれ用だ。恥ずかしいと訴えたが、着る以外の選択肢を与えられなかった。

  「……また、お前…」

  顔を覆う彼にビックリした。よくなかった…か?

  「あ、の…」

  「煽るなよ…あまり。」

  「煽って…な、」

  そのままかぶりつくように唇を奪われた。

  全身くまなく撫でられ、キスし、時々じゅっと吸われた。

  「ひっ…!」

  お腹辺りを撫でられてビックリした。奥の、奥の胎がひくつく。

  「解すぞ?」

  焦れったく入り口ーーいや普段は出口だが…ーーをクルクルとなぞる。

  脚をもじもじとすると、グッと体が入ってきて閉じられなくなった。う…恥ずかしい…

  ツプッと入ってくる感じがして、ビクッと体が揺れる。

  「ん?お前自分でやったのか?」

  「し、した、ほうが……いいのかと…おもって」

  「クッ…面白いなお前は。遠慮なく入れさせてもらうぞ。」

  いきなり指が3本に増えた。

  ぐちゅぐちゅと卑猥な音がなぜか頭に響く。やめっ…て…

  「いあっ!ま、って…!」

  「ここか。これは『イヤ』ではなく、『気持ちいい』だ。いいか?」

  今までも…気持ちよかった…けど、それとは比にならない快感がビリビリと体を駆け巡る。

  「き、も……ちいぃ…」

  「フッ…」

  もう良いだろうと、ロイもローブを脱ぎ再び覆いかぶさる。

  「入れるぞ。」

  急に緊張してきて、つい力が入ってしまった。

  「キツッ…おま、力抜け。」

  「わ、かんない、わかん…なっ」

  「あークソ。」

  すると、私の手を握りキスを一つした。それから何度も、深いのと軽いのを繰り返す。ちょっとずつ入ってくる感じはするが、力まなくなったのかスルッと入ったように思う。

  「よくやったな。」

  おでこにキスをする。ロイはどうやらキスが好きらしい。

  少しすると、ゆるゆると動き始めた。ロイの律動に合わせて声が止まらない。

  「ロ…イ、んっ……はっ…」

  「アル…アル、どうだ…?」

  「きも…ちぃ…ロイっ、だ、ぇ…止まっ…んっ」

  「ん?どうした?」

  「なんか、くゆ……んっ、ん、ゃっ、…あぁ!」

  体の痙攣が止まらない。何だコレ…。

  「上手に果てたな。」

  はてる…?この間と違う…

  なんか、頭もボーッと…して

  「すまんが、もう少し付き合え。」

  「えっ、も、むり!」

  また腰を掴み動き出したロイには、静止の声は届かなかった。

  それから2度果てさせられ、やっと…

  「……っ!ふ…ぅ…」

  「な、おぁか、熱い…」

  「付き合ってくれてありがとうな。」

  またキスの雨が始まった。なんか、落ち着く…

  「そろそろ、目覚めると思うぞ。」

  そんな声が聞こえて、私は目を覚ました。

  キョロキョロと見渡すと、隣にいるはずのロイが居ない。

  「ロ、ロ…ィ」

  「ん、起きたか。はよう。」

  「おは、んっん…おはようございます…。」

  「すっかり声が涸れてしまったな。まあ水を飲め。」

  甲斐甲斐しく世話を焼いてくれることに正直ビックリした。

  「ありがと…ございます…」

  「腹は減っていないか?」

  「ちょっと空きました。」

  「そうか。では持ってこさせよう。」

  またおでこにキスをした。本当に好きなんだな、キスが…。でも、昨日のことを思い出すからちょっとやめてほしいかもしれない。

  「もう、大丈夫です。」

  と言っているの、ロイが手ずから私に食べさせる。こんなに面倒見が良いなんて想定外だったな…。子どもができてもきっと…って何考えてるんだ!?そ、んな、まだ別に…

  「顔が赤いぞ?やはりどこか痛むのか?」

  「だだ、大丈夫です!」

  「ふむ…まあいい。もう少し横になっておれ。」

  「どちらへ…?」

  「少し書斎へ。なに、すぐ戻って来る。」

  サッと着替え向かわれてしまった。

  ちょっと寂しいって思ったのが筒抜けで恥ずかしい。

  まあいいや、何もすることなくて退屈だけど、この怠さがあるから動けないし。

  「失礼します。」

  ノックと共にサイモンが入ってきた。

  「お召し物をお持ちしました。」

  えっ、もしかして今…

  「あれ、お気づきではなかったんですか…?」

  急いで着替えた。

  「ありがとう。」

  「いえ。」

  また横になった。本当は自室へ帰りたいが、もうその体力はない。気づいたら夢の中へいた。

  「…!…る!アル…!」

  「はっ!」

  「大丈夫か?魘されていたぞ?」

  「だ、大丈夫、です…。」

  恐ろしい夢だった。ロイは強いから。周りの兵士達も強いから大丈夫…。大丈夫。

  「とりあえず、茶でもするか?」

  「え?」

  「その、昼にしては遅いし。だが、何か胃に入れたほうが良い。」

  「ふふ、そうですね。」

  サイモンと陛下の侍女フィオーネが準備して下さった。

  バルコニーへ出ると、風が心地よかった。

  素敵なアフタヌーンティーが準備されていた。

  「食べやすいです。」

  「良かった。」

  他愛もない言葉を交わし、なんだか夫婦をしている感じがする。

  「少し冷えてきたな。中へ入ろうか。」

  「はい。今日はお誘い下さってありがとうございます。」

  「いや、良いんだ。」

  「あの…!」

  「なんだ?」

  「もふもふ…したいです…。」

  「フフ…あはは!良いぞ。」

  すぐに仕事へ戻れるよう、執務室へ招いてくれた。

  柔らかな毛を撫でる。気持ちいい…。気持ちも落ち着く。

  彼を少し目を細めた。

  「どうですか…?」

  「悪くない…。」

  しばらく撫でたあと、あくびが一つ出た。

  「もう寝ろ。」

  「え?」

  「…だから、もう一度寝ろと言ってるんだ。」

  「え、あ、はい…!」

  なぜか追い立てられた。ちょっとシュンとしていると、ジェイムズが

  「あれは、きっとお体を心配してのことかと思いますよ。」

  と教えてくれた。

  まだまだ彼のことを知らないらしい。

  もう一度寝たお陰か体もすっかり動くようになったため、少し勉強をすることにした。サイモンにそう伝えて自室に本やペンなどを用意してもらった。

  そのまま気づいたら夕飯まで勉強していて驚いた。

  夕飯は先に食べておくよう言われたため、自室に持ってきてもらって部屋で食べた。寂しいと思ったのはもちろん内緒。

  「サイモン、そろそろ寝る。」

  「かしこまりました。」

  部屋の灯りを消し、ベッド横のランプのみ付けておいた。

  いつの間にか眠っていた。

  朝起きると、ランプが消されていて不思議に思ったが、きっとサイモンだろうと気にもとめなかった。

  数日が経ったある晩、眠っていたが薄っすら意識が浮上したとき、誰かがベッドの余白に腰掛けたのがわかった。

  「共に食事ができない日が続いてすまん。ゆっくり眠ってくれ。」

  と聞こえ、頭を優しく撫でられた。

  まさかのロイだった。そう言い終えると、付けっぱなしだったランプを消して部屋を出ていった。

  彼が消してくれていたのか、と謎が解けてスッキリした。

  あと、撫でられてなんだかむず痒い。

  それから1週間が経ってやっとロイと過ごせる日ができた。

  「すまない。やっと片付いた。」

  「…。」

  「どうした?」

  「………しかった…。」

  「なんだ?」

  「寂しかった…!!」

  「なっ…」

  言うつもりなかったが、気づいたら口から飛び出していた。

  「そ、そうか…」

  ゆっくり近づき、どちらからともなく抱きしめ合った。

  本当はこんなはずじゃなかったのに。今まで会えなかったのとちょっとしたストレスが溜まった。

  「すまなかった。本当に。」

  「女の人に抱きつかれてた…。」

  「それは不意打ちで対処できなかった。すまん。」

  「腕に巻きついてた…。」

  「それもすまん。蔑ろにはできんのだ。ただ俺の妻は…夫は?アルだけだ。」

  「ん…許します。だからもっともっと満たして!」

  朝まで結局共にベッドで過ごした。宰相に仕事を調節してもらい、昼過ぎまで一緒に過ごすことができた。

  たった1週間会えないだけで、女性と歩いていただけでここまで心が揺り動かされると、それだけ彼をいつの間にか好きになっていたんだなと思った。

  いや、これはなんとなくだが「愛」なのかもしれない。

  「アル、どうだ?満たされたか?」

  「満たされました…。」

  「なんだ?何かまだあるのか?」

  「もふもふしたいです…。」

  「好きだな、それ。」

  もっふもふな彼の腹毛に顔を埋めると、なんだか普段よりロイの匂いを強く感じる。

  グリグリしていると、彼の尾が私の体に沿うように包むようにしてくれた。

  「その……」

  「ん?」

  「ロイ、愛しています。」

  「ふっ…私もだ。愛している。」

  ーー

  今日はみなが待ちに待った王子のお披露目だ。

  広場に向かって作られたバルコニーには椅子が並び、様々な飾りが施され、その広場は国民がきれいな花や飾りによってすっかりお祝い一色になっている。

  今日はアーロンの機嫌もすこぶる良い。

  「アル様、お時間でございます。」

  「あぁ、今行く。さぁ行こうか、アーロン」

  「あっあっ!」

  「アル、行くぞ。」

  「ロイ、迎えに来てくれたの?」

  「ああそうだ。これから大事な息子のお披露目だからな、最初に様子を。それからアル、お前にも会いに来た。最近会えていなかった…準備のせいで公務が立て込んでいたからな。」

  「ふふっ、嬉しい。ありがとう。」

  「ほら、時間だ。さっさと行くぞ。」

  「はい。」

  バルコニーへ一歩出ると、多くの民が集まっていた。

  「両陛下おめでとうございます!!!」

  「王国万歳!」「アーロン王子万歳!!」

  たくさんの祝福の言葉をもらった。

  皆の顔は輝きに満ち溢れている。王子の誕生はきっと多くの民を安堵させただろう。

  しばらく皆に手を振り王子を見せた後、私達は椅子に腰掛け、アーロンは乳母車に。

  横でアーロンをあやしながら、式が順調に進んでいくのを見守る。

  突然目の前に全身を黒い服で包んだ人物が現れた。まるで本で読んだ東洋のニンジャのような姿だ。

  「その命、もらった!!!」

  顔までは見えないものの、その身が纏うオーラのようなものに圧倒された。

  ア、アーロンをアーロンだけでも守らないと…!

  乳母車を体で覆うように背を向ける。

  グサッ

  肉を刺した音が近くで聞こえる…が、痛く……ない!?

  急いで振り返るとそこには…

  「私の妻と子を…狙うなど、1000年早い…!!!」

  ドサッ…

  「……ロイッ!!!」

  あの日の夢と同じ光景が広がっていた。

  私を庇ったロイはその場に倒れ、タイルを真っ赤に染める。

  「え、衛兵!衛兵!!!」

  舌打ちを一つすると、そのまま犯人は消えた。

  「ロイ…ロイ!!」

  「心配するな…こ、の程度かすり傷だ…ッ…。」

  「喋らなくていい!それ以上喋ると…血が…」

  刺し傷から溢れ出る血を私は必死に止めようと手で抑えた。自分の手が、ドレスが、汚れるなんて気にもとめずにひたすら抑え続けた。

  ロイは私の頬に震えながらも手をのばすと撫でた。

  「手が…汚れてしまうぞ…」

  「いい!そんなこと……どうでもいい…!」

  「フッ…おま、えらしい…な…」

  そう言うと彼の手は力なく地に落ちた。

  「ロイ?ロイ…!!!」

  そこから先の記憶は無い。

  気づくとベッドに横たわっていた。

  「……ッ!!!ロイ!ロイ!!!」

  「アル様!目が覚めましたか!今医者を…」

  「サイモン!ロ、ロイは!?」

  「…まだ、お目覚めではありません……。」

  「そ、そんな…なんてこと…」

  涙が次々に頬を伝う。悪いことばかりが頭をよぎる。

  もし、もし彼に何かあったら…私は生きてなんていけない…いけるはずがない。

  今すぐにでもロイの元へ駆け込みたかったが、目眩がひどくそれは叶わなかった。

  目が覚めたことを聞きつけたレオンとジェイムズが部屋に入ってくると

  「申し訳ございませんでした…!」

  と何度も頭を下げた。私は何も言えず、ただ頷いただけだった。

  それから2〜3日は無気力で、何も手につかなかったが、こんな私をロイには見せたくなくて、以降は私のできる精一杯の公務をこなした。

  その合間合間に子育てとロイのお見舞いへ。

  皆に心配をかけぬように、できる限り笑顔で。あんな騒動があって国民は不安でしか無いだろう。それを感じさせないためにも王室の威厳を保つため様々な場所へ顔を出した。

  「あの…アル様…」

  「どうした?サイモン。」

  もうすぐ、あの日から3週間が経とうとしていた。

  一向に目を覚ます気配のないロイ。いつ、いつになったらあなたに会えるの?そんな焦りやなんやらが募り始めた。

  「そろそろ…お休みを取られたほうが、よろしいかと…」

  「え?でも、まだ仕事があるのに…」

  「最近、お鏡でご自分を見られましたか?」

  「いや…」

  「失礼を承知で言いますが…痩せすぎておられます。そろそろお休みをしっかり取られたほうが、お国のためにもなるかと…」

  「そ、そんなに…酷い…?」

  そう聞くと、サイモンはぎこちなくだが首を縦に振る。

  確かに、ここ最近はあまり良く眠れない。アーロンの乳のために最低限の食事は取るが、それ以上に食べようとしても喉を通らない。

  笑ったのは…最後に笑ったのはいつだったか。アーロンが笑ったのはいつだったか。そんなことまで思い出せない…。

  「そうだな…少し休もう。」

  そう言うと、サイモンの顔は明るくなった。

  それから引き継ぎをするため2日ほど公務をしたあと、3日間の休暇をもらった。

  今まではどうやって過ごしていたのだろう。ここまで退屈だっただろうか?それくらい何もやることがなく、正直困ってしまった。

  他国に嫁がれていたお義姉様と二人でお茶会をして…子育てのことで盛り上がって…あとは?

  一日で良かったかもしれないと後悔し始めた。

  休暇の半分が終わろうとしていたとき、外が騒がしくなった。

  すると珍しく足音が廊下に響き、私の部屋の近くで止まったかと思ったら、ドアを叩く音がした。

  「はい。」

  「アル様!国王陛下が…!」

  「えっ!」

  急いで向かうと、やっと、やっと目を覚ました彼がいた。

  「ロイ…!ロイ!!!」

  「アル…すまなかったな。」

  「良かっ、たっ…、目が覚め…て。」

  「ありがとう。」

  少しするとまた目を閉じてしまった。

  涙が止まらず、しばらくロイのベッドの側で泣きじゃくった。

  アーロンに乳をあげるために一度部屋へ戻った。

  できるだけ自分の手で育てたい。そう皆には伝えている。乳母もいるが、公務や視察のときに預けるのみとすることにしている。

  「アーロン…お父様は目を覚まされましたよ。」

  優しく頭を撫でた。言葉が分かるのか、そう伝えると少しニッコリした。

  それからまた目を覚ましたロイは、調査が現時点でどこまで進んでいるのか、自分の容態を確認してすぐに回復へ努めた。

  「ロイ、無理はしないで。」

  「わかっている。」

  「まずは柔らかいものから食べないと、体に悪い。分かるだろ?」

  「あぁ。」

  落ちた筋肉を気にして動こうとするが、まずは段階を踏まねば。

  固形の食事を取れるようになってからだ。

  何段階にも分けて固形物に戻していった。

  それ以降は医者も驚くほどメキメキ回復していった。彼の強い要望で筋力トレーニングを始めた。

  思うように体を動かせず、ストレスが溜まっているのだろう…。代わってあげられるなら代わってやりたい。私はどうなってもいいからロイだけは…

  「ロイ、今日はもう休もう?」

  「いや……あ、と、少しっ…」

  顔色も悪く息を切らしているのに、お構い無しだ。

  「ロイ!」

  「うるさい!」

  「っ…そ、そんな事言われる筋合いはない!ここで無理したって体を壊したら、意味が…っない、だろ…!!」

  「すまん…声を張り上げてしまった。」

  ポカポカと胸を叩くと、それごと包むように私を抱きしめた。

  お互いに焦りがにじみ出ているのだろう。

  ロイは回復に向けて。私は一向に捕まらない犯人に対して。

  ーー

  「陛下!メリア王妃!見つかりました!!!」

  「そうかっ!!」

  「よくやりました…!」

  事件から4カ月も経っていた。

  捕まった周辺で聞き込みをし、情報をかき集めた数日後、厳重に拘束されたまま謁見の間へ通された。

  「どこの者だ?」

  「…。」

  「もう捕らえられてるんだ。観念しろ。」

  「…何も話すことはない。」

  「そうか。ならば次の手段だ。」

  ある女性が謁見の間に通された。

  「なっ!卑怯ではないか…?」

  「卑怯?突然我が子を襲ったのは卑怯と言わんのか?」

  「くっ…」

  彼女は彼を匿っていた人だ。妹なのか恋人なのかは不明だけれど、生活を共にしていたのが家に入るとすぐにわかった。

  それから彼は全てを吐いた。

  「俺は隣の小国で育った。名はラロ。そいつは妹だ。唯一の血を分けた兄妹だ。小国は貧乏で生活ができない。なんとかここに逃れたが、ここでの生活も変わらなかった。貧しいままで、生活がままならなかった。そんなとき、ある人に出会った。俺の恩師だ。体術から剣術まで教えて下さった。しかし、突然いなくなった。なぜか分からん。今も見つからないままだ。あの日、酒場で聞いたんだ。今度王子のお披露目がある。そこで王子をあわよくば王を殺れば金が貰えると。だから行動に移したまでだ。」

  「そうか。おい、レオン。」

  「はっ…。」

  「手合わせしろ。」

  「は?」

  「縄を解け。」

  「いやいや、ちょ、え?」

  「縄を解けば俺はまたお前を狙うぞ。金が欲しい。」

  「お兄ちゃん!もうやめて!!」

  「何を言うんだ、マルティーナ。」

  「もう、そういう生活止めよう!」

  「だからってどうやって…」

  「ごちゃごちゃうるさい。これは王命だ。サッサと解け。そしてレオン、手合わせしろ。」

  「はいはいーっと。」

  担いで外の訓練場へ連れていき、縄を解く。彼の持っていた武器を渡すと彼は王の命を狙いには来なかった。

  「さーて、やりますか!いいよ、いつでもおいで。」

  「…っ。」

  レオンの飄々とした態度が気に食わなかったのか、歯を食いしばったのが遠くからでもわかった。

  結論から言うとレオンが余裕で勝った。が、手練なことは誰が見ても明白だった。

  「よし、お前は今日から王属騎士団の見習いだ。」

  「は…?」

  「金が欲しいんだろう?王属なら見習いでも給料が出る。家を与えられ、賄いも出る。何よりお前の腕がほしい。磨けばこの国は最強だ。どうだ?悪くないだろう?」

  そういうことか、とやっと理解した。

  たしかに、お金が欲しいだけで狙ってきたのだったら、それ以上に良い条件を出せばきっと食いつく。腕が立つことを強調されて嬉しくない者はいない。何より彼は守りたい者がいる。

  「…いいのか?また命を狙うぞ。」

  「そうだな。その時考える。」

  「はぁーあ。ここの王様は大丈夫なのか?」

  「ふっ…それは不敬罪に値するぞ?」

  「フンッ、罰するならしろ。捕まった時点で覚悟は出来ている。」

  「可愛くねぇーな〜。」

  レオンはそう言うと頭を撫でた。歳の離れた兄弟を見ているようだ。

  結局彼は、ラロは騎士団見習いとして城の敷地にある見習い寮に住むことになった。もちろん、マルティーナも一緒に。

  マルティーナには城の侍女としての仕事を与えた。こうすることで生活ができるだろうと。

  今回は罰を与えなかった。これが良いのか悪いのか正直わからない。本来ならば死刑でもおかしくなかった。しかし、ロイはそうしなかった。なぜと問うと、「深い意味は無い。」としか答えない。

  「ラロ、腰を落とせ。そうだ。よし。」

  「くっそ……はぁ、はぁ、はぁ…」

  「もう1本いくぞ。」

  レオンとも、なんだか本物の兄弟のようだった。

  ラロがこの国の英雄になるのはまた別の話…。

  「アーロン、こちらはラロだよ。」

  一度は命を狙おうとした相手に、抱っこさせるのは皆は絶対に反対するかもしれない。でも、私はだからこそ見せたかった。抱かせたかった。奪おうとした命の尊さを知ってもらうために。

  「…っ……ぅ…、申し訳、ありません…でした。」

  「良いんだよ。ね?」

  「あ、りがと…うっ…ございます…」

  「あーぁ、んーん!…キャハ!」

  抱っこしてもらってご機嫌なアーロンを前に号泣するラロを見ていると、対比がすごすぎて思わず笑ってしまった。

  それからはより一層、剣術も体術もそして読み書きも力を入れ始めた。

  ーー

  「本当に、あの時はどうなることかと思ったよ。」

  「だが、今はこうして笑い話となってるだろう。」

  「いや、それは、今こうして生きているから言えるんだよ?」

  「俺は死なん。お前たちを置いてはな。」

  「……でも、いつかは死ぬよ。」

  「そうだな。だが、約束しよう。お前が死んでから俺は逝く。」

  「うん…」

  悲しくなって抱きつくと、頭を撫でる。

  「急になんだ。」

  「んーん。」

  「年々甘えただな。」

  それ以上は何も言わず、ロイはつむじに一つキスをした。そう言うロイも、年々柔らかくなってるよ。なんて死んでも言わないけど。

  そのままグリグリしていると

  「ラロ、アーロンとセルジュを明日の昼まで乳母に預けろ。」

  「御意。」

  「え!?」

  「なんだ、違うのか?」

  「いい歳してって思わない…?」

  「思うわけがないだろう。そういう俺も『いい歳した』って奴だ。」

  「ふふっ…うん。」

  ロイと、そして子どもたちと共に過ごしたい。

  天に召されるその日まで。

  まあ、今日もこの国は平和ってことだ。うん。

  愛する狼陛下のおかげでね。

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