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ブラックハット・ホワイトキャット

  「ん?」

  彼は[[rb:木 > き]][[rb:谷 > だに]][[rb:光 > こう]][[rb:太 > た]][[rb:郎 > ろう]]という動物が好きな所を除けばどこにでもいる普通の男子高校生である。

  そんな彼が見つけたものは、家のリビングのテーブルにぽつりと置いてあった帽子だった。

  黒くて大きな、頭が三角形に尖った魔法使いが被っているような帽子。それが机に、しかも自分の家にぽつりと置いてあったのだから当然光太郎は不思議に思った。

  「なんだこの帽子?」

  一瞬両親が買ったのか? とも思ったが、自分の親にこのようなコスプレグッズじみた帽子を買う趣味はないはずだと思い直した。では、これは一体誰のものでどこから来たのだろうと考えるも、いつまで経っても答えは出て来ない。

  「ハロウィンなんかとっくに終わってるのに、誰のイタズラだよ全く」

  とりあえず机に置きっぱなしにしているわけにもいかないと、その帽子を手に取る光太郎。よく見れば、その帽子の真ん中には肉球の形をした刺繍がされており、どこか可愛らしい印象も見受けられた。しかし余計にこれがどうして自分の家にあったのだろうと光太郎は思うのだった。

  「とりあえずどっかに片付けとこう」

  と、光太郎は家のクローゼットにでもそれを閉まってしまおうと帽子を持って行こうとしたのだが……

  (……それにしても、この帽子よくできてるな)

  その時、ふと光太郎はこう思った。

  『この帽子を被ってみたい』と。

  手触りもシルクのように心地よく、そこらの安物の帽子よりも遥かに出来のよいそれに、不思議と惹かれるものを感じてしまう。よくないと思っているのにも関わらず、『被りたい』、という欲望がそれを上回って、常識に基づいた理性を上書きしていく。

  「……少しくらいなら」

  少しだけ、一度だけ。そんな歯止めのきかない欲望が光太郎の頭の中を埋め尽くしていく。少し被ってまた脱げばいいだろう、そんな安易な考えを巡らせて、己の欲望を満たす免罪符を作り出す。そして、光太郎は欲望の赴くままその帽子を頭に被ってみるのだった。

  「お、ぴったりじゃん」

  その帽子はまるで光太郎のために誂えられたかよようにぴったりだった。その様子を確認するために姿見の前へ一旦向き直ってみる。そこには真っ黒な帽子を被った普通の高校生の姿があった。

  (にしても、こうやってみると本当に魔法使いっぽく見えるな)

  それでも、それ以外は普通の服と普通の容姿の男子であるため、やや物足りなさも感じられた。その姿に光太郎は『何かが違う』と思うようになる。

  一瞬どうしてそんなことを? と思ったが、彼の『願い』を聞き入れた『魔法の帽子』によって、その思考は中断させられてしまう。

  「……ん?」

  光太郎は、姿見に映る帽子の肉球の刺繍が一瞬ピカッと光ったように感じた。そしてそれは勘違いでなく、『魔法の帽子』が持ち主を選んだ合図であり、そして『最初の魔法』が発動した証拠だった。

  「うわっ!」

  帽子が二度眩い光を放ったと思うと、今度は光太郎の全身を包み込むような強い光が発せられる。文字通り、光太郎は白い光に包まれ一瞬ここがどこだかも分からなくなってしまう。

  「んっ……」

  しばらくして放たれていた光が収束していき、光太郎の眩んでいた目もようやく開くようになる。ふと前を見ると、そこにはいつもの自分の姿が映っていた。

  (一体なにが起きたんだ?)

  と、不思議に思うも、それはごく僅かの時間のみだった。すぐさま発動した『魔法』の効果が現れだす。そしてその効果は、光太郎の体に起きていた。

  「……えっ?」

  一瞬、光太郎は何が起きたのか理解できなかった。自分の体に、少しずつ白い毛が生え始めていたからだ。動物のような、ふわふわとした柔らかい毛が。

  (なんだこれ……毛?)

  光太郎が怪訝に思う間もその白い毛は彼の体に容赦なく生え続け、人の肌を覆い隠していく。

  「うわああっ!?」

  手足を覆い尽くすほど生え揃った所で、光太郎はようやく事態の重大さに気が付き狼狽の叫びを下げる。しかしその時には既に手遅れであり、その変化を止める事は最早不可能となっていた。

  そのまま毛は光太郎の全身にあっという間に生え揃っていき、とうとう光太郎の全身は余す事なく動物の白い毛に埋め尽くされてしまったのだった。

  「ど、どうして……こんな事に……」

  自分の身に起きてしまった異常な事態に光太郎は愕然とする。目の前には毛むくじゃらの自分自身ご映っていて、それが現実であると否が応にも解らされてしまう。

  「こんな体嫌だ……うっ!?」

  どうする事もできずに立ち尽くしていた光太郎は、突然自分の下半身に痛みと異なる疼きを感じ小さく声を上げる。ふと目を向けたそこにはもっこりと膨らんでいるズボンがあった。勃起しだしていたのだ。ズボンの中の己の肉棒が。

  「どうしてこんな時に……うぐっ!」

  不意に起こった現象に困惑するも、光太郎の『魔法』による変化はさらに進行する。

  「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!」

  ゴキゴキと骨が変形する嫌な音と共に光太郎の肉体は本格的な変化を始めていた。

  手始めに手足の指が短くなり爪が伸び鋭くなる。手のひらにはピンク色の肉球が浮き上がっていく。

  そして踵が変形し常に爪先立ちになったような状態になると、顔が前へと突き出し始めた。

  「あ゛っ、や゛め゛っ、う゛に゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛ぁ……!」

  残っていた髪は少しずつ抜けていき、はらはらと床に力なく落ちていく。

  鼻の先が綺麗なピンク色に染まるとハート形に見える小さなものになり、アンテナのようなひげが顔に生え、耳は頭上に移動して可愛らしい三角形のものになる――小さなマズルとなった口から発せられたその声は、猫のものによく似ていた。

  かっと見開かれた目の中には、アクアマリンをそのまま填め込んだかのような澄んだ青色の瞳があり、その中央には一筋の虹彩が通っている。

  「ね……猫になっちまった……俺が……」

  彼が我に帰ったその時には、姿見に映る自分自身の姿は完全に変わり果てていた。木谷光太郎は、黒いとんがり帽子を被った、純白の毛をした猫人間になっていた。

  「嘘だ! こんなコト起こるはずが……!」

  初めは身に起きた状況が理解できず途方に暮れているだけだったが、ふと頭にある黒い帽子の存在に気がつく。

  「そうだ! この帽子が……」

  光太郎はこれが原因だと判断して慌てて被っていた帽子を脱ごうと猫のようになった手で帽子に手をかける。しかし……

  「あれっ!?」

  脱げないのだ。いくら力を入れても強い力でくっついたかのように帽子は頭から離れてはくれず、無駄な時間だけが一刻と過ぎていく。

  「どうしてだ! 外れねえ!」

  悪戦苦闘する光太郎だったが、次の変化が彼に容赦なく訪れる。

  「うっ……!」

  勃起しつづけていた彼の肉棒がさらにその怒張を激しくしだす。ズボンに張っていたテントが次第にくっきりと大きくなっていき、それに伴い光太郎の性欲も増大していく。

  「やっ、やべぇ……チンコがっ……!」

  パンパンに膨れ上がってズボンとパンツの中でぶらついている棍棒のような肉棒は、夥しい量の先走りを容赦なく垂れ流していた。中では二倍以上に膨れ上がったモンスターのような暴れ馬が光太郎の可愛らしい容姿とは裏腹に脈動している。それに伴い睾丸も大量の精子を製造しているようだった。

  「あああっ! くそっ、出ちまう!

  こんなコトしてる場合じゃないのに……!」

  それにより彼の股座はかあっと熱くなり、それだけしか考えられなくなってしまう。この状況をなんとかしたいと思っているのに、早く『出して』スッキリしたいとしか思えなくなってしまっている。

  「あうっ!」

  ビクン! と、巨大になった肉棒が大きく震えると、それは本人の意志を無視して我慢の限界を迎えてしまう。溢れかえった精子は集約し精液となると、一気に尿道を通っていく。その感覚に光太郎の頭の中は真っ白に塗り潰されるのだった……

  「うにゃああああああ!!」

  猫のような鳴き声を上げて光太郎は絶頂した。肉棒からはズボンを突き破って噴水のような精液が溢れた。

  びたびたびたという水音と共に白の水溜りを作り半ば強制的に行われた射精の快感に善がる光太郎。そんな彼の体がゆっくりと縮み始めた。

  背は小さくなり、手足もさらに短くなっていく。筋肉も失われて代わりに小山のようなぷにっとした胸板やぽっこりと膨らんだお腹が生まれた。

  ぶかぶかになった服は、精液塗れになったパンツやズボンごと脱げ落ち、全ての情欲を出し切り可愛らしい小さなちんちんになった肉棒が露わになった。

  しかしそれでも頭のとんがり帽子だけは頑なに外れなかった。

  「そんな……」

  改めて姿見を覗いた光太郎は己の変わり果てた姿を見て絶望する。

  小さな四肢と愛くるしい容姿を持つ猫の少年。それが今の木谷光太郎の姿だった。どう見てもその体つきは小学生またはそれ以下にしか見えず、元の男子高校生の人間の面影など全くといって感じられない。

  「俺、これからどうやって生きていけばいいんだ……」

  少年のような、澄んだソプラノの声で光太郎は呟く。この姿では誰も自分の事を光太郎だとは認識してはくれないであろう事は目に見えていた。

  途方に暮れる光太郎の頭の中で、謎の声が響き渡る。

  「えっ……」

  『魔法』を使えばいい――と。

  「魔法? 魔法って……うわっ!」

  その時、帽子が再び光を放つと、どこからともなく木で作られた大きな杖が出現した。先端には真っ赤な丸い宝石が埋め込まれている。

  「何だこれ……杖?」

  ふとその杖を小さな手で手に取ると、杖の宝石から虹色の光が迸る。それは光太郎の『魔力』によって反応したものだった。

  魔力を帯びた『虹色の光』は、ぶかぶかになった光太郎の服を今の彼に相応しいものへと作り変えていく。

  「服が!?」

  シュルシュルと服が細かな繊維に分解されたと思うと彼専用の衣装へと作り直され、それが再び光太郎の体に着せられる。

  「あうぅっ……やめてくれぇ……」

  服をひとりでに着せられていく感覚に快感を感じた光太郎は、再び小さなちんちんを勃たせてしまう。そしてその股間にも、ピッタリとした黒いスパッツが穿かされるのだった。

  [newpage]

  「これが……俺?」

  『着替え』が終わった光太郎は、その姿にただただ驚く事しかできずにいた。

  魔法使いの帽子によく似合う、黒いローブ。そして自分の小さな手には身に余るぶかぶかの手袋とブーツ。そして股間に張り付くゴム製のスパッツ。そのどれもが紫がかった黒色で統一されており、光太郎の白い毛とは対照的でなおかつその双方ともを映えさせるようなものであった。

  「これが……『魔法』、なのか?」

  あの時頭の中に過ぎった単語――『魔法』。猫の体になった事も、子供になった事も、服が変わった事も、全てはその魔法の効果なのだろうかと光太郎は考える。

  しかし彼は知らなかった。『魔法』に触れる事自体、人間にとっては『禁忌』である事を。

  「あ゛あ゛あ゛っ!」

  その瞬間、光太郎は頭を抱えて苦しみ出す。小さな口を大きく開いて、涙と涎を垂れ流す。今の光太郎の顔は見るに堪えないものとなっていた。

  (にゃああああぁ! 知らない『記憶』が流れ込んでくるぅぅぅ!!)

  光太郎の脳に『魔法』の『記憶』が湯水のように止めどなく溢れてくる。元の記憶を全て洗い流してしまいそうな勢いで、数千、数万といった年月で培われてきた全ての魔法の知識や歴史が奔流のように光太郎の頭の中に容赦なく流れ込んでくる。

  『魔法』に触れた者は、もれなく『魔法』に対する全ての知識を流し込まれるのだ。『適性』がなかろうが、それに堪えられる『脳みそ』がなかろうが、誰一人として例外ではない。

  たとえ、精神が崩壊しようとも。

  「に゛ゃああああ、うぐうううっ!!」

  歯を食いしばって『魔法』の侵食に堪えようとする光太郎だったが、常人の彼にその悍ましいほどの質量の『記憶』は堪えられるはずもなく、光太郎の脳細胞は少しずつ破壊されていく。

  「あうう、ぐにゅう、あうあふ、ふるるる、あっ、あうっ」

  神経の行き場を失い手持ち無沙汰になった光太郎の肉体は勝手に振り回され、めちゃくちゃに腕や足を振ったり、不気味な踊りを踊ったりと異様な状態に陥っている。

  その彼の口からは声にならない声だけが発せられ続けていた。

  「俺、木谷光太郎、高校生の、16歳、帽子、魔法、猫、魔法使い、射精、変わった、どうすれば、魔法、俺、魔法、やめて、こわれる、なくなる、きえてく、俺が俺が俺が俺俺俺俺魔法魔法魔法魔法魔法」

  光太郎は壊れゆく脳を振り絞りどうにかしようとしているようだったが、今も流れ続ける膨大な『魔法』の記憶の前ではどうする事もできず、ただ只管に意味不明な単語を呟きながら身体を痙攣させるだけだった。

  「ああ……」

  自己を完膚なきまでに叩き潰された光太郎は、とうとう体を暴れさせるのをやめ、力なく立ち尽くす。

  彼の脳は破壊の痛みを和らげるために快楽物質を送るようになり、その副作用により光太郎の全身には快感が漲り出す。

  「あう、あ……あぁ?」

  もう言葉を発する事も難しくなってしまった光太郎。そんな彼が感じた事は、ただ『気持ちいい』という事だけ。

  本能に従うようにスパッツの膨らみ越しに肉棒を刺激する光太郎。過剰に分泌された快楽物質により飽和状態となった光太郎の快感は、その手淫によりすぐさま爆発した。

  「あうっ!」

  小さな肉棒から出たとは思えないほどの精液が飛び出し服や床を汚す。その快感により、残り滓ほどにまで小さく砕かれていた木谷光太郎という自意識のカケラは完全に捨て去られた。

  「…………」

  光太郎の脳に満たされた『魔法の記憶』が、壊し尽くされ『からっぽ』になった彼の代わりの『[[rb:人格 > たましい]]』を作っていく。魔法を振るうに相応しく、その愛くるしい容姿によく似合う、魔法使いの『[[rb:人格 > たましい]]』を。

  「ああ……ぼ……ぼくは……」

  『魔法』により新しく製造られた人格が彼の新たな自意識を作っていく。

  自分は、【現世】に舞い降りた【白猫】の【魔法使い】……

  世の中を自分の『魔法』で平和にしたい……

  そんな木谷光太郎だったものを基に作られた存在。彼の【名前】は……

  「ぼくは魔法使いの【リヒト】!

  困っている人のために【魔法世界】から来た魔法使いだ!」

  リヒト。それが彼の新たな名前であった。

  既に彼の中には自分が人間の高校生であった記憶はなかった。もう二度と思い出す事もないだろう。

  「あれ、ここどこだろう?」

  証拠に彼は自分の住んでいた家だったここすらも何処かは分からないようだった。まるで未知のものでも見たかのように辺りをキョロキョロと不思議そうに見回している。

  「まあいいや。それじゃあ早速人間の世界を旅して回ろうっと!」

  しばらくするとリヒトは自らの目的のために杖を掲げる。すると彼の姿は光と共にふと消えてしまった。きっとリヒトはこれから白猫の魔法使いとして自由気ままに生きていくのだろう。

  こうして、木谷光太郎は全く別の存在になってしまい、二度と元に戻る事もこの家へ帰ってくる事もなかった。

  これが『魔法』に安易に触れた人間の末路である。

  人間が決して関わってはいけない神秘と恐怖を孕んだもの。それが『魔法』なのだ――

  END

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