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[chapter:とある男の独白]
アイドル。
それは誰かに夢を与える職業。
華やかに見えるその世界は、裏では汚い大人の争いや過酷な蹴落とし合いの上で成り立っている。
それでも皆のために笑顔を振り撒く尊き存在。だからこそ誰かを魅了するのだろう。
『本日は、最近売り出し中の新人アイドルの[[rb:原 > はら]][[rb:田 > だ]][[rb:清 > きよ]][[rb:美 > み]]ちゃんに密着取材しました!』
『原田清美です。よろしくお願いします』
去年、19歳でデビューした女性アイドル、原田清美。先月には成人を迎え、深夜の収録にも参加できるようになった彼女はより活躍の幅が広がるだろう。
今時珍しい“清純派アイドル”として売っている彼女は、未だ若くデビューから一年以上経過しているにも関わらず初々しく振る舞っている。
テレビ越しにでも、彼女がカメラに向ける笑顔はとても眩しく美しい。『清美』という名に相応しい清き心を持った素晴らしいアイドルだ。
しかし……
僕ときたら未だに社会の底辺に燻るゴミみたいな存在だ。誰にも期待されず、誰からも相手にしてもらえない。だからこそ、アイドルというキラキラとした世界が尊くて、羨ましくて仕方がない。
ああ……この若くて希望のあるアイドルの人生に、この僕が組み込められればいいのに、なんて思ってしまう。
どうせ叶わない願いだとわかっていても、僕の儚い夢を叶えてくれないかと、僕はいつも清美ちゃんの写真集を枕元に置きながら静かに眠る。
いつものように、襲いくる虚無感と虚脱感から逃げるように、僕は微睡の暗闇へとその意識をあずけた……
『それでいいのかぁ?』
誰だお前? 僕を呼ぶのは誰だ?
『なあに。俺様は人の心の中にちょいと踏み込む事ができるのさ』
迷惑なやつだな。僕の幸せへ入り込まないでくれよ。
『ひどい言い草だなぁ。俺様はお前にいい話を持ってきたって言うのによぉ』
いい話? お前、新手の詐欺師か?
『まあ話半分に聞いてくれや。お前、この“あいどる”ってやつが好きなんだろ?』
そうだけど……それがどうしたんだよ?
『そいつが眠る時だけだがな、このあいどるってやつの近くに、お前がずっとずーっと居られるって言ったら……どうする?』
は?
『俺様はそういう力を持ってるのさ。ま、逆に言えばそれだけなんだけどな。それに、お前が強く望めば、俺様以上の力を得られるかもしれねえぞ?』
意味がわからねえ……どうしてこんな僕にお前みたいな奴が来たのかもわかんないし、お前の能力で清美ちゃんに近づけたとしても、結局何も変わらないじゃないか。無駄な期待を煽るのはやめてくれ。僕はもう諦めてるんだ。
『本当か? お前はずっとあの子に近づきたい、あの子の心に入り込みたい、そう思ってたんだろ?』
それは、そうだけど……今はそんな事をしたら犯罪者だ。僕なんかのちっぽけな願いのために犯罪を犯すくらいなら、何もしない方が……
『ふぅん、それがお前の恐れなんだな?』
恐れじゃない……それが人間としてのルールなんだ。社会からはみ出した人間は、淘汰される運命なんだよ。
『なら気にする事ねえな。お前はこれから人間じゃなくなるんだからよ。つまり人間社会のルールなんてもう適用しなくなる。素晴らしいだろ?』
はぁ? 人間じゃ……なくなる……?
『俺様が力を発揮するには、お前のような強い欲望を持った人間のカラダを借りる必要があるんだよ』
僕の、カラダ……?
『お前の欲望はビンビンに伝わってきた。俺様にその身を委ねればお前のその欲望は全て叶えられるぜ?』
僕の……欲望……
『試しに、俺様の力をちょっと貸してやるよ。それで、どうするか考えるんだな』
ちょっ……うわっ、僕の中に何かが……
何か黒いものが……入ってくる……!
「うわっ!」
ボクは全身を妙な熱さに包まれながら目を覚ました。ボクの中へ、腐ったドブのような真っ黒でイヤなものが流れてきた感覚が、夢の中の出来事のはずなのに実際にあったもののように感じた。
「頭が痛い……フラフラする……」
脳みそをシェイクされるような感覚に倒れそうになる。一体ボクの身になにが起きたんだ……?
程なくしてボクは、この体の違和感に気がつく事となる……
[newpage]
[chapter:虚像と現実]
『今日はゲストにアイドルの原田清美さんをお呼びしております』
『よろしくお願いします』
テレビの中でコメンテーターとアイドルが和気藹々とした会話を繰り広げている。それか台本に書かれたお芝居である事はなんとなく気付いてはいるが、暇つぶしには最適だ。本当でも嘘でも、誰かに夢を与える仕事には間違いはないからな。
『貴様も皆に夢と希望を与える役目にあるじゃろ、信太郎』
あれのどこに夢と希望を与える要素があるんだよ!
『悪鬼は罪なき人間の夢や希望といったものを食い物にする輩……それを祓う力のある貴様には相応しい役目だと思うがなぁ』
確かに悪鬼から人間を救えるのは俺だけかもしれないけど……二回あいつとして戦って思ったのは、やはり俺なんかじゃ役者不足って事と、単純にあの格好で戦うのは恥ずかしいって事だ。魂もあいつと混ざってるから立ち振る舞いも完全に違ってるし。
カッコいい獣人とかならともかく、太った狸親父だし……
『仕方ないじゃろう! 儂が狸の神なのじゃから! これでも昔は様々な商人を豊かにしてきたのじゃぞ!』
そういやお前信楽焼の狸だったな……そうやって色々な店の前に立ってたりしたのか?
『まあな。儂は津々浦々の商いを成功に導いてきた経験がある。多少、気味悪がられもしたが、それ以上に感謝されておったぞ』
昔は神様としてブイブイ言わせてたって言ってたもんな……今は出涸らし状態だけど。
『仕方ない。栄枯盛衰、ものはいつか廃れるもの。それは神でも例外ではあるまいよ。むしろ、概念的な存在は有機的な存在よりはるかに脆弱なものじゃ』
神様っていうなれば、人間の恐怖や信仰の心から生まれたようなもんだし、もし皆がそれを『いない』と思ってしまえば、そいつはいないと同じようなもんだしな。
(あれ? このクラスに里崎なんてやついたか?)
(お前はここにいちゃいけない存在なんだよ!)
……大昔の嫌な記憶を思い出しちまった。あのクズ二人の顔はできればもう頭にも浮かべたくないんだがな。小学五年生の一年間だけだったが、あの地獄は忘れられない。さっさと記憶から消したいのに、俺の頭にしがみついて離れてくれないんだ。
『どうした、信太郎。具合が悪いのなら休んだ方がいいぞ』
大丈夫だよ。大きなお世話だ、お節介な神サマ。
俺は華やかでうるさいテレビの電源を消すと、気晴らしに外へ出る事にした。
[newpage]
[chapter:シガラキングVS颯鼬]
『今週の『スパークラーズ』見たか!? 最近の技術ほんとすごいよな!』
いきなり橘からこんなメッセージが届いた。あいつは特撮のヒーローものが好きで、よく自分が見たヒーロー番組の話をしてくるのだ。
まったく、いい歳してヒーローとか言ってる暇があるなら仕事を真面目にやれよな。
まあ、いい歳してヒーローをやってる俺が言えた立場じゃないが……
『むっ、悪鬼の気配がしておる。戦いに備えよ信太郎!』
はぁ、またか……最近悪鬼が増えてるとは言ってたがマジでそうなんだな。っていうか、絹田市にばっか来てねえか? 全国で大量発生してるせいでそう感じるだけなのか?
『悪鬼はどこにでも現れうるが、特にここへ惹きつけられておるのじゃ。昔からこの絹田の地が悪鬼を封じる場としての役割を担っておった所以だろう。ここには未だ封印されたままの悪鬼がいくつもおるからのう』
俺が今まで戦った悪鬼たちは跡形もなく浄化できたが、中には封印する事しかできなかった奴もいるって感じか……もし万が一、封印が解ける事でもあればかなり厄介な事になるかもな……
『まあそれは起こらんじゃろ。儂らの神としての力が強まれば、緩んだ封印も締まっていくだろうしの』
「だといいけどな……」
俺はシガラキの指示通りに悪鬼のいるであろう場所を探す。しばらく走り回って、ようやく悪さをしている悪鬼に遭遇した。
「ケケケー! 刻むのサイコー! 全部全部ぜーんぶ切り裂いてやるぜー!」
両手に半透明の鎌を持った獣人の悪鬼だ。所構わず鎌を振り回して物や人を傷付けている。くそっ、また大々的にやりやがって!
「いや! どうして私ばっか! もう限界よぉ!」
「落ち着いて! そんな事より早く逃げよう!」
近くには悪鬼の攻撃に巻き込まれて蹲っている女性とそれをなだめる男性がいる。他の奴は皆逃げてるのに、何をやってんだあいつらは!
「くそっ、仕方ない。シガラキ変身!」
『シガラキラクーンパワー・チャージ!』
早く変身しねえと、手遅れになっちまうかも知れねえ。今は六割くらいシガラキングになってる。筋肉質の大柄な狸獣人になっていく過程に対してはまだまだ慣れない。いつもの俺と違いすぎて、動きを慣らすのにはまだまだかかりそうだ。人格はシガラキと混ざって別者になるからあまり関係ねえけど。
褌や装備が俺に着けられると、ようやく魂の融合が進み始めた。こうなってくると、嫌々ながら融合するのを受け入れているからかスムーズだ。しかも今は非常事態だし。
うむ、神として、そしてヒーローの自覚が満ちてきた。今ならどんな悪鬼でも祓える気がする。さて、本日も行くとするかの。
「シガラキング、ただいま見参!」
儂は勢いよく空を駆けると、逃げ遅れた二人の人間の前に立ち、奴の鎌の衝撃を全て受けた。毛が少し切れたが、全く支障にはならん程度だ。
「お主ら、無事か」
「は、はい……」
「いいから逃げるんじゃ!」
「ありがとうございます! 逃げよう清美!」
儂は人間が安全な場所へ去ったのを確認すると、再び悪鬼に向き直った。赤茶色の毛をした獣人型の悪鬼が下卑た笑い顔を浮かべながら鎌を振り回している。
「なんだ? 今度はお前が遊んでくれんのか?」
「ふん、遊び相手としては少々役不足やも知れぬがの?」
「言うじゃねえか! この[[rb:颯 > はやて]][[rb:鼬 > いたち]]様の鎌の錆にしてやるぜー!」
悪鬼は鎌をいくつも生み出すと儂に向かって飛ばしてきた。どうやらこの鎌は光に紛れて透明に見える鎌らしいが、神眼と邪気を読み取る力のある儂には到底及ばぬ。正面の鎌は編笠で防ぎ、背後から首根っこ目掛けて襲い来る鎌は編笠を投げる事で弾き返した。
「おっと、このオイラに刃物で攻撃するとは、舐められたモンだな!」
編笠の刃を手刀で防ぐ悪鬼は、飛ばす鎌を増やしてくる。しかし数だけ増えても儂の敵ではない。通い帳に『護』の字を書き防壁の言霊を作り出して正面の鎌を防ぐ。そして残りの鎌は佗怒斬の斬撃にて全て切り払った。
「ぐぐ……オイラの鎌攻撃を全て撃ち落とすとは……」
「これで終わりか? 次はこちらから行くぞ」
佗怒斬から放たれた光が大きな衝撃波となって悪鬼の体を掠めた。仕留め損ねたが、あやつの戦意は大幅に削げただろう。実際、神力の強さに毛をそばだてて動けずにいる。
「ああ……」
「どうした? 先程までの威勢が嘘のようじゃのう」
すっかり戦意を喪失したのかへっぴり腰になっている。この程度の神力で萎縮する邪気ならば此奴は大した悪鬼ではないらしいの。
「お、お助けぇ!」
「逃すわけないじゃろ!」
逃げようとする悪鬼を捕まえると、儂はすぐさま“浄化”の準備にかかった。
――……。
「うあぁ……もうやめてぇ……」
「まだ二十分も経っとらんぞ! 大人しく儂の珍宝を受け入れよ!」
「あぁぁ! やだぁ! オイラのケツが……んああん!!」
初めは抵抗していたこやつも尻の中に儂の珍宝を突っ込んだ瞬間、泣きながら謝りだした。悪事をはたらいた分、しっかりその身で償ってもらわんとのう。まあ、儂が聖液を出せばそれで終わりじゃが。
「おおっ、そろそろ出すぞ! 覚悟はよいな!」
「お願いだから、やめて……オイラ、消えたくっ……」
「んぐぅ!」
「ギャアアアアアア!」
儂が聖液を撃ち放った途端、奴は金切り声を上げて苦しみだした。儂の神力が強すぎたのか奴の邪気はあっという間に溶けてなくなった。うむ、これで今回も解決かの。
悪鬼の姿はたちまち元の人間のものに戻ると、そのまま意識を失い倒れた。さて、此奴を保護してやらなくてはな。
「すまぬ、この者を病院に送りたいのじゃが、ちと手伝ってくれんかの?」
「あ、はっ、はい……」
儂は近くにいた人間に協力を仰ぐと、悪鬼に取り憑かれていた人間を病院に届けた。あやつも目覚める頃にはあの事はすっかり忘れているだろう。儂がそう細工をしておるからな。
「さてと……」
そこで儂は元の姿に戻ろうとしたのだが……ある者が儂に声をかけてきたのだ。それは先程聞いたばかりの声であった。
「少しいいですか」
「またお主か。もう悪鬼は浄化したぞ、安心せい」
あの時怯えていた女と共にいた男だ。何用かと尋ねてみると、儂の手を借りたいと言ってきた。儂は神としてできる限りは人の願いを聞いてやりたい思いから、それに応える事にした。
「ふむ、あの女子はあいどる、というものをしておるのじゃな」
「はい。しかし、清美はある日を境に悪夢を見るようになって……」
悪夢か。それは厄介じゃな。
「それが、毎日らしいんです。しかも、同じ夢を」
「同じ?」
「彼女によれば、何か得体の知れない物に悪戯をされている、みたいなんです」
それは、只事ではないな。
その得体の知れぬ者は、おそらくは悪鬼のような気がするのう。
「変な事を囁かれたり、顔を舐められたり、息を吹きかけられたりするそうで……それを繰り返すうちに彼女、すっかりやつれてしまって、今は体調を崩す事も増えてきているので、俺も心配で……」
間違いない。これは悪鬼の仕業じゃな。しかも他人の夢の中に介入する力を持つ者……
となれば、儂の……元の枝我楽器の夢に入り込む力が役に立ちそうじゃな。
「よかろう、儂も困っておる人間を見過ごせないのでな。お主の頼みを聞こうではないか」
「ありがとうございます! 俺、去年から新人の清美と一緒にいるから、どうしても助けてやりたくて……!」
「よいよい、頭を上げよ。何も心配は要らぬ。このシガラキングが全て解決してみせようではないか! ぐわっはははは!」
[newpage]
[chapter:アイドル・原田清美]
「ここか……」
『大層な建物に住んでおるの。さすがはあいどるというやつか』
本当は違う所みたいだけどな。今回は悪鬼という名のストーカー野郎から身を隠すためにここにいるってあいつのマネージャーが言ってた。まあ俺本人じゃなくてあの狸ヒーロー越しにだけど。
にしても、あの原田清美のボディーガードみたいな事をするとは思わなかったな。世の中何があるかわからないものだ。
今売り出し中のアイドル様が偶然ロケの撮影にやってきてて、そこで悪鬼に襲われてるなんて、偶然にしても出来過ぎだろ。いや、あいつも悪鬼に目をつけられてたから、それで惹きつかれて来たのか……?
それだとしたら、マジで奇妙な話だな……
『それにしてもトーキョーとは実に華やかなところじゃの。シガもいいところじゃが、実に新鮮じゃったわい』
俺よりもずっとトーキョーを満喫してた神サマが何か言ってるが、あいつらには俺達じゃなくてシガラキングとして会わなきゃダメなんだ。さっさと変身しよう。
「シガラキ変身!」
シガラキングとなった儂は清美殿の住んでいる部屋へと静かに向かう。この姿で誰かに見られればなかなか厄介じゃからの……
「あ、来てくれましたか、シガラキングさん!」
「ああ。儂としても人間に危害を及ぼす悪鬼は許しておけんのでな」
マネージャー殿に案内されるがまま儂は清美殿の待つ部屋へと移動する。
そこにはうら若き可憐な少女がおった。確かにその身はやつれていて、よく眠れていないのか目に隈があるようじゃった。実に痛々しい姿じゃのう……可哀想に。
「清美、紹介するね。この方がシガラキングさん。最近現れている化け物を倒すヒーローをやってるんだって」
「……」
「どうも。この儂がシガラキン……」
清美殿に挨拶をしようと床に座した瞬間、清美殿は高い声を張り上げながら叫びだした。
「キモ! 何この狸オヤジ!? しかもほとんど何も着てないじゃん! アンタ変態!?」
「は……」
なんじゃ、実に不躾な娘じゃの。最近の女子は皆こんなものなのか?
「こら清美! これからお前を助けてくれるんだから、そんな言い方は……」
「コイツに何ができんの!? このキモいコスプレ男に夢の中のストーカーなんかどうこうできるわけないじゃん!」
「清美!」
どうやら、テレビで見る彼女とは大きな齟齬が見られるようじゃの……他人にありのままの姿を見せろとは言わんが、なかなかに差があるのう、この女子は。
しかしマネージャー殿には自分を偽らずのびのびと話せておる様子じゃ……此奴も己の汚い部分は見せずに努力しておるようだし、この程度の無礼は水に流そう。それに……
「まあいいわ。で、アンタに何ができるわけ?」
口は悪くとも、魂は実に清廉潔白なようじゃしの。言葉は誤魔化せても、魂は儂には誤魔化せぬ。
「まず前提として話しておくが、お主の夢の中で悪さをしておるのは、悪鬼という人ならざる者じゃ」
「は? アッキー?」
「人に憑依したり傷つけたりと、いたずらに様々な危害を与える悪しき存在じゃ。儂はそやつらを祓うためにシガの絹田という場所で戦っておる」
「フーン……ウソくさ」
「嘘じゃないんだって! 実際、あの変な動物から助けてくれてたろ?」
見かねたマネージャー殿は、あの日悪鬼と戦い倒した事を清美殿に教えてくれていた。まあ、あやつが知っておるのは鎌の攻撃から此奴らを庇ったところまでだと思うがな。
「あ、あれアンタだったんだ。よく見てなかったから分からなかった。
でも、それならアタシの夢の中でストーカーしてるクソ野郎も祓ってくれそうね」
態度は大きいものの何とか納得してくれたようだ。これで心置きなく悪鬼を祓えるというものだ。
「じゃ、アタシは寝るから。アイツが出たらしっかり守りなさいよ! 失敗したらクビだから!」
「任せておけ。儂に不可能などない」
「頼みましたよ、シガラキングさん」
清美殿が寝る間は一人の方がいいと儂とマネージャー殿を追い出した。まあ年頃の女子じゃものなあと儂は一人納得する。
「マネージャー殿。彼女はいつもどのように苦しんでおるのじゃ?」
「初めは穏やかに眠っているんですが、しばらくすると叫び出すんです。『やめて』、『どっか行って』と……」
「なるほどのう……ではその時は悪鬼が彼女の夢の中にいるという事か」
「頼みますシガラキングさん。活動自体は短い期間でしたが、ようやく結果が出そうなんです。俺は、マネージャーとして清美がやってきた努力を無駄にはさせたくない……!」
マネージャー殿は一人涙を溢していた。彼と彼女の人生にも色々山や谷があったのだろう。それを脅かそうとする悪鬼は許してはおけん。
「いやあああ!」
「清美!」
清美殿の叫び声! 悪鬼がやってきたか!?
マネージャー殿が先んじて彼女の部屋へと向かっていく。儂はひとまず清美殿の様子を見て動く事とするか。
「大変です! もう来ました!」
「ああっ、また……もうやめて! 私が何したって言うの!!」
清美殿は眠りながら苦しんでおる。矢張り今宵も夢の中に来たようじゃ。この様子じゃと恐らく毎日来ておるのか……とんでもない悪鬼もいたもんだな。
「さて……」
儂は清美殿の体に手を当て、眠るように目を瞑る。全神経を集中させて、彼女の夢の中に入り込む。シガラキングの体で枝我楽器の力を使うのは初めてじゃが、奴も儂の一部じゃ。恐らく問題なく使えるはず……
[newpage]
[chapter:夢の中での戦い]
「むっ!」
気がつくと儂は乳白色の空間に漂っておった。どうやら成功したようじゃの。ここが彼女の夢の中か。
夢の中はだだっ広く普通ならば探すのも至難のものじゃ。しかし儂には悪鬼の邪気を感知する力がある。奴が此処におるならば、邪気もおのずと流れてくるはずなのじゃ。
儂の中の神力を研ぎ澄ませて邪気の出処を探す。僅かながら、清らかな空気の中に澱んだ空気が混じり込んでおる。恐らくこれが悪鬼の気。これを頼りに歩いていくとしよう。
「来ないでこの変態!」
「へへへ、言っただろ? ここは君の夢の中でボクにはそこに入り込む力がある。ボクが来た以上は、君の夢はボクに支配されるしかないんだよ」
(へへ、やっぱり可愛いな清美ちゃん……ちょっとイメージと違ったけど、それを思わせないオーラがある。彼女は天性のアイドルってコトだね!)
「白くて柔らかい肌……画面の中の君も素敵だったけど、やっぱり実物はいいねぇ……」
(ここにいる限り、君はずーっとずーっとボクのもの。今日もゆっくり可愛がってあげるからねぇ……!)
「くっ、このっ!」
「おっと、おイタはダメだよ。そもそも今この夢はボクの支配下だ。人間の君じゃあボクは倒せない。諦めてボクを受け入れるんだね!」
「誰がアンタなんか! それに今日は助っ人呼んできてんだから!」
「はぁ? 助っ人?」
「シガラキングっていうヘンなオッサン! あいつがアンタを倒すんだから!」
「他力本願もいいとこだね。そんなオッサンになびくなんて、ガッカリだな。
どうせ自分じゃ何もできないから他人に頼ったんだろ?」
「っ……」
(あははっ、そうだよな。人気者にはボク達ファンの気持ちなんてわからないよな。
散々ファンに寄生して媚び売ってるくせに、都合の悪いファンのことはキモい野郎どもだと思ってんだ。ボク達がどんな気持ちで推してたかも知らずにさぁ!!)
「……違う」
「は?」
「確かにアタシは色々とみんなに頼ってきたし、一人じゃ何もできなかった。それは認めるわ。
でも肝心な事は絶対に人に頼ったりしない! アタシの夢はアタシで叶えたいから!
だからアンタもアタシの夢にズカズカ入ってくるのはやめて! アタシがファンに寄生してるって言うけど、アンタだってアタシに勝手な幻想に寄生してるだけじゃん!」
「は? そんな事……」
「アタシには人生があるの! 叶えたい夢だって! だからアタシの邪魔をするアンタの事なんて、こっちから願い下げ! 勝手に幻滅でもしてりゃいいじゃない!」
(は? 今度は逆ギレかよ。
はーあ、マジで幻滅したわ。つーかこの女以上にボクにしたわ。
こんなヤツの事を推してたなんて、死にたくなるほど恥ずかしい。こんな自分を、黒歴史を消したいわ。
ま、でもこの力なら……思う存分嫌がらせできるんだよなぁ!?)
「……クソが」
「は……?」
「そうやって他人にすがってるくせに、何でも自分でできるみたいな口利いてんじゃねぇ!
ボクをバカにした事、身をもって味あわせてやる……! テメェのカラダを触って舐めて、邪気まみれのクセェ息吹きかけて、全身病気まみれにしてぶっ殺してやんよ!
テメェが死ぬまで夢の中で一生付き纏ってやる……覚悟しな、原田清美ィ!」
ここにいたか!
そしてやはり悪鬼の仕業じゃった!
かなり一触即発の状況下におるが、ここは奴を止めないとまずいじゃろうな。
彼女と密着しておる以上、佗怒斬や編笠は使わん方がよいか。
「言霊・具現!」
通い帳に『突風』の文字を綴り悪鬼目掛けて投げつけると、奴のみを狙った一直線の風が吹く。
「うおっ!?」
吹き飛ばされた悪鬼はどうにか着地したようだが、それでよい。儂からすればこの者から清美殿を引き離せればそれで良いのだから。
「なんだテメェは! ボクの楽しい夢の中に入ってくんじゃねェ!」
「いや、これアタシの夢だから! アンタんじゃないから!」
「これ、いちいち騒ぐでない。儂が引き離した意味がなくなるじゃろ」
悪鬼に立ち向かう心意気は認めるが、この悪鬼の怨念は相当のもののようじゃし、あまりこれ以上刺激するのも悪手じゃな……さすれば!
「た、助かったよ。あ……ありがと」
「感謝の言葉はしかと受け取っておくが、今は逃げろ! 此奴は儂が相手をする!」
「わ、分かった! サンキュ!」
ふう。素直に行ってくれてよかったわい。これで心置きなくあやつと戦えるというものだ!
「儂はシガラキング。この日ノ本を護る、偉大なる神の名じゃ!」
「ちっ、こんな変な名前の神がいるかよ!」
奴は勢いよく此方へ突進してくる。ここは防壁で守ってもよいが、使える『言霊』はあと二回……もしものために取っておきたい。だからここは!
「なっ……」
儂は編笠を盾にし悪鬼の真上へ飛び上がる。この図体で高く飛翔できるとは思うまい。一瞬だが奴に虚を突けたはずだ。
「[[rb:落 > らっ]][[rb:君 > くん]][[rb:脚 > きゃく]]!」
「ぐえっ!」
儂の蹴りが奴の首目掛けて直撃した。しなやかな肉体をした川獺の悪鬼のようじゃが、その体を活かしきれていないようじゃの。
「ああぁぁぁ! 痛でえええぇ! 痛いよおおぉ!!」
「ぬぅ……」
終いには痛みに堪えきれず泣き叫ぶ始末。これでは儂が虐めておるみたいで少し心が痛むな……
しかし、若き者の未来を奪おうとした悪鬼に儂は一切の容赦はせぬ!
早速、浄化を行うとしよ……
「ぬ!?」
「よくもやってくれたなぁ……! でもテメェから近づいてくれてラッキーだったぜ!」
此奴、咄嗟に儂の足首を……!
儂は勢いよく足を引かれたものの、もう片方の足で踏ん張り堪える。しかしその隙に奴が儂にしがみつき、そのまま己の顔を儂の顔へと近づけはじめ……
「ハァァァ……!」
「ぐっ……!」
臭い息を吹きかけられた。その怨念と邪気が濃縮された息は儂の目や鼻を刺激し、一瞬機能を停止させてしまう。儂としたことが、ぬかった……!
「さあ、反撃はここからだ!」
すると奴はその肉体を一気に膨れ上がらせていく。ぐんぐんと勢いよく大きくなった奴の身体は、儂の数百倍もの大きさとなっていた。
「なっ……巨大化じゃと!?」
「ふひゃはははは! この体格差ならお前なんて豆粒以下だぜっ! さっさとこの手に潰されちまいな!」
「くうっ!」
悪鬼はその大きな手を儂目掛けて振りかざす。儂は咄嗟に避けたものの、この大きさでは避けられるものも避けきれん。
にしても……先程と邪気の質量は変わりないはずなのに、どうしてこんなにもその肉体を増強できたのか、見当もつかぬ……
「ギャッハハハハ! さっきまでイキってた野郎が慌てふためく姿を見んのは楽しいなぁ!
アンタを倒したら、次はアイツを完膚なきまでに犯し尽くしてぶっ壊してやる!
そして最後にボクをバカにしたこの世界のクソ人間どもに復讐してやるんだ!
ボクを怒らせたらどうなるか、思い知らせてやるよォ! フヒャハハハハハァ!」
……どうやらこの“悪意”は悪鬼によるものだけではないようだな。宿主の人間の鬱屈とした怨念が悪鬼の邪気と混ざり、この悍ましいまでの人格を生み出してしまったようじゃの。
なんと哀れで悲しき存在じゃ。
しかし、宿主のこの言葉に真なる悪意は見られぬ。ただ自暴自棄になり、悪鬼の囁きの赴くまま振り回されているだけだ。
とすれば、矢張り許せぬのは奴を利用する悪鬼ただ一人!
「復讐では己が心は絶対に満たされぬ! いくら後悔しようが人を恨もうが、そのような事で為した行いは必ず呪いとなり返ってくる!
お主も、もうそんな怨念に満ちた事はやめるのじゃ!」
「うるせぇクソダヌキ! テメェにボクの何がわかる!
学校でいじめられて、親にも見放されて、安心できるとこなんてどこにもないボクは!
もう、こうするしかねぇんだよおおおおおおっ!」
奴の動きが早まった……このままでは直撃してしまう!
幸い言霊はまだ二回使える。防壁を展開して防御すれば容易に防げるが……ひとつ気になる事がある。
奴の邪気だ。
このような大きな腕が振り下ろされたのなら、儂の身体に相応の邪気が降りかかるはず……それなのに、この『腕』にはその邪気が微塵も感じられんのじゃ。
まるで、小さな邪気で作った『はりぼて』を見ているような、そのような感覚がする。
さすれば、この奴の巨大化した『体』は……
「はぁ……はぁ……
ひゃはは、どうだ。ぺちゃんこにしてやったぜ。これでボクは……」
……矢張りな。
この悪鬼の巨大化した肉体は邪気で作り出された『偽物の肉体』じゃ。
実際に振り下ろされた奴の腕は儂の肉体をすり抜け、儂は傷一つ負ってはいない。
奴はなりたてでまだ己の力に気づいてはいないようじゃの。
恐らく此奴の能力は、『夢を操る力』じゃな。他人の夢の中に入り込み、夢の世界を自身の邪気で歪め自由に作り変えてしまう……そういう力を奴は使えるのじゃろう。
この身体も、その力により巨大化したと儂に“見せかけた”だけ……いや、あやつもそう思い込んでいるのだろう。
「アハハハ! ボクは無敵の力を手に入れたんだ!
ボクはこの力で世界を征服してやる!
これでボクをバカにする奴はもういなくなるんだぁ!」
今の此奴は、これが夢なのかそうでないのかの区別もついておらん。そのような奴に『夢』を操る力は到底使えまいて。
「多少痛いだろうが、許せ」
儂はこの笑い続ける哀れな夢想者に向かって佗怒斬の刃を抜く。手加減はするが……相応の痛みは受けてもらうぞ。
「[[rb:斬撃光線 > ビームスラッシュ]]!」
「ぐええええっ!?」
儂の佗怒斬が最低限にまで力を弱めた光の斬撃を放つ。斬撃の直撃を受けた悪鬼は叫びながら遠方へと吹き飛んでいった。
「なんで、どうして……この力は無敵のはずじゃ……」
「無敵の力などない。己が力を過信したお主の負けじゃ」
此奴にもう反撃する力は残っておらんだろう。改めて浄化に取り掛かろうぞ。
儂は奴が纏っていた薄布を剥ぐとすぐに奴の裸体が露わとなった。黒くさらさらとした毛並みの奥に、小さな逸物が揺れている。
儂も褌を脱ぎ捨てるとその珍宝を晒した。それを神力を使ってすぐさま大きくしていく。
「やっ、やめろヘンタイ野郎!
ボクはホモなんかじゃねえ!」
それを見て奴は慄いたようだが、悪鬼には一切の容赦はせん。まあ、犯すのは優しくしてやろう。
「やめ……ひいいっ!!」
儂はぽっかりと空いた悪鬼の穴に珍宝を挿し入れた。暴れる悪鬼の身体を我が肉体でしかと拘束すると、儂はそのまま奴の体を強引に犯し始めた。
「ぎゃああああっ!」
「ふむ……少々きついが、此奴の柔軟な身体が儂の珍宝を善い具合に咥えこんでおる……」
悪鬼のぬめる肉襞は、奴のいやらしき悪辣さの現れ……儂の珍宝でこの邪な肉体を成敗してやろう!
「あうっ! んっ、ぐええっ! や、やめてくれぇ……こんなの嫌だぁ……」
「散々他人の夢の中で悪さをした罰じゃ。これが終われば全ての罪は悪鬼の消滅により清算され洗い流されるであろう。お主はまっさらになった心で、再び己を見つめ直すがよいっ!」
儂の突きは勢いを増してゆく。ぱんぱんと腰とけつがぶつかり合う音が夢の世界で響いている。悪鬼はぐすぐすと声を上げて泣き始め、最早言い返す気力さえもないようだった。
さあ、奴の肉の締め付けにより儂の金玉も聖液を出したがっているようじゃ。この悪鬼の邪悪なる夢を、この儂の神力で打ち砕いてみせよう!
「出すぞっ! 浄化されよっ、人の夢に入り込み穢そうとする不埒な悪鬼よ!」
「やめろっ、ああああああぁ!!」
渾身の突きよって儂は盛大にイき、悪鬼の中に神力が詰まった聖液を流し込んでいく。
「ぐああぁっ!
あと少しで……あと少しでこいつの心を真っ黒に染めてやれたのにいいいっ!」
同時に悪鬼もイッてしまったのか邪気の込められた臭い精液を吐き出した。それが単純な快楽によるものなのか、奴にとっての抵抗だったのかは分からなかった。
「鼬ならぬ獺の最後っ屁という事か。しかし、清美殿の夢には邪気は一滴たりとも残さぬ。浄化!」
儂の神力により精液は落ちる事なく蒸発した。これで奴の夢を操る力も消滅したはずだ。間もなく此奴と儂は夢の中から追い出されるだろう……
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[chapter:とある男のこれから]
「お名前を教えてください」
「[[rb:黒 > くろ]][[rb:須 > す]][[rb:奉 > まつる]]です」
その日、僕はとある仕事の面接に来ていた。
ある日、僕はずっと悪夢を見ていて、醒めない夢の中で囚われていた。
僕は学校でいじめられて引きこもりになり、いつしか自分の心を癒してくれるアイドルに縋るようになった。
そして僕はいつしかそのアイドルを自分のものにしたい、僕の思うがままぐちゃぐちゃにしてやりたい、そんな黒い感情に苛まれるようになっていた。
でも、僕が目が覚めたとある日から、その感情は一切消え去っていた。
そして、こんな僕ではだめだという心が僕の中に芽生え始めていたのだ。
テレビの中で頑張っているキラキラしたアイドルだって、陰で努力している。僕以上に大変な事を頑張っているはずなのに、僕はそのキラキラだけしか見ていなかったって、思い知らされたんだ。
だから……僕も頑張ってみようと思った。
あのアイドル――清美ちゃんみたいに、キラキラした自分になれるかもって……思ったんだ。
――数年後。
「原田清美です。応援よろしくお願いします!」
「清美ちゃん、ずっとあなたのファンでした!
僕は……あなたのおかげで変わる事ができました。清美ちゃんのキラキラがあったから、僕は……」
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[chapter:夢]
『今回も一件落着じゃな!』
でもいいのか? こんなに貰っちまって。
マネージャーさんが色をつけてくれたけど、いきなりこんな大金が入っても困るんだが。
『いい事ではないか。金は将来を生きるのに必要なものじゃぞ。それは商いの神でもあるワシがよおく知っておる』
そうだな……とりあえずまずは古くなったテレビでも買い替えるか。
と、俺はなんとなしにテレビを点ける。
そこにはあのお騒がせアイドルがファンに向かって手を振っているのが映っていた。
『このお嬢さんも、昔は色々と大変じゃったらしいのぉ。しかし己の夢のために努力したから今がある……貴様も多少は彼女を見習うといい』
うるせえな……それにあんまり他人の過去に踏み込むもんじゃないぞ。あいつにだって、知られたくない事は沢山あるんだから。
『そうじゃな。あのお嬢さんなら、きっとこれからもうまくやっていくじゃろうて』
そうだな。少し強気すぎなところが玉に瑕って感じだが、それも愛嬌かも知れねえな。
それにしても、夢……か。
俺には縁遠い言葉だな……
もう俺の夢は、とっくに終わっちまったんだから。
『なに、貴様もまだまだ若い。夢を叶えるには充分だ。それに、夢を叶えようとするのに歳など関係ないとワシは思っとるしの。
例え貴様がシガラキングのようなジイさんになっても、夢のために努力していれば、きっと叶うじゃろうて』
まーたこの神は適当な事を……
『ここで臨時ニュースです。絹田市近隣で火災が発生しました。規模はかなり激しく延焼やさらなる被害も……』
つづく
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