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『ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~』 1回表 浜甲野球部の復活!?

  [chapter:プレイボール]

  灼熱のマウンド上に俺は立っている。

  「よっしゃあ、来い!」

  相手バッターの腕がググっと長くなった。元の長さの1.5倍ぐらいだろうか。この1死満塁の場面で、特殊能力を発動してきた。

  俺はキャッチャーのサインにうなずき、インコースへストレートを投げる。長い腕が窮屈になって、バットが空を切る。

  「ストライク!」

  2球目も、もちろんインスト。

  「ストライク、ツー!」

  「クソッ! 普通の腕に戻す」

  バッターは腕の長さを戻してきたが、ストライク1球しか残されていない。俺は悠々とチェンジアップを投げる。

  「ああっ!」

  バットを速く振りすぎて空振り三振。俺は特殊能力の無い一般人だが、特殊能力者を抑えると超気持ちイイ! 最高!

  これだから、野球はやめられない。

  [newpage]

  1回表 浜甲野球部復活!?

  [chapter:1球目 チーターは持久力がない]

  俺は教室の窓から海をながめている。春風が運ぶ潮の香りは、故郷の湘南を思い出させてくれる。やっぱ、海の近くじゃないと落ち着かねぇなぁ。

  「カァカァカァー!」

  ゲッ。カラスの口ばしを生やした男が電柱の上に乗って、電線のカラスと一緒に鳴いてやがる。こんな光景は湘南になかったぞ……。

  ここは、兵庫県[[rb:西宮 > にしのみや]]市の南端にある私立[[rb:浜甲 > はまこう]]学園だ。甲子園球場の近所にある高校だが、なぜか野球部がない。それが、俺の進学先の決め手となった。

  「部活、どこにするぅ?」

  「うーん、[[rb:山科 > やましな]]さんがおるバスケかな」

  バラエティ番組でよく聞く関西弁が、俺の席の周りで花開いている。部活は何にしようか。ずっと野球一筋だったから、全く思いつかないぞ。

  体育会系なら、サッカーやバスケがいいか。しかし、他者と競うのは、ものすごく疲れるから、もうこりごりだ。ゆるい文化系がいいかも。

  「あのぉ、[[rb:水宮 > みずみや]]君やんね?」

  後ろから声をかけられたので振り返る。目がクリッとしたショートボブの女子だ。

  「そうだけど、君は誰?」

  「えっと、あたし、[[rb:津灯 > つとう]][[rb:麻里 > まり]]です。水宮君に、そのぉ、相談が……」

  もじもじしている彼女はかわいい。俺は部活で悩んでいたが、女の子とアオハルするのもアリか。

  って、おいおいおい、冷静に考えてみれば、初対面の男に相談って何なんだよ。しかも、何で俺の名前を知ってるんだ? 入学式終わりで教室に来て、自己紹介タイムがまだなのに。

  固まった謎は、彼女の次の一言で解きほぐされる。

  「野球部に入って下さーい!」

  可愛い女性に部活の勧誘をされる。とても萌えるシチュなのに、全く萌えない。

  なぜなら、俺の選択肢にない野球部に誘ってきたからだ。

  「ハッ? 野球部? 野球部はないはずじゃ……」

  「あたしが作ったの」

  彼女は胸を張って答える。

  「悪いけど、俺は野球部に入らないよ」

  俺はそっけなく答えて、自分の席に戻ろうとする。だが、彼女が俺の左腕をつかんで離さない。

  「待って。もったいないやん。小学生で全国大会出て、中学生で神奈川県ベスト4まで進んだピッチャーやのに、どうして野球部入らんの?」

  「野球は中学までで終わりにしたんだ。無能力の俺なんかより、ああいう特殊能力者を誘えよ!」

  俺はドラミングしてるゴリラ化男子をあごで差す。

  「ううん。水宮君じゃないと、絶対アカン」

  「何で、そこまで俺にこだわるんだよ」

  「水宮君は気づいていないだけで、とても凄い才能があるんよ! それを出さずに終わるなんて、もったいないて」

  オヤジが彼女と似たようなこと言ってたっけ。努力を続ける才能があれば、特殊能力者を越える名選手になれるって。そんなのは夢物語だ。

  「俺が、君の思う凄いピッチャーだとしよう。だが、どんな凄いピッチャーでも、そこそこ守れる8人の選手がいなきゃ、勝てないんだ。ここ20年野球部がない浜甲に、そんな奴がいるか? いないだろう」

  「いい選手は、あたしが見つけるから! 8人そろえたら入ってくれる?」

  「早くしないと、みんな何かしらの部活に入るぞ」

  「じゃあ、1週間! 1週間で8人ね」

  彼女は人差し指をピンと立てて食い下がる。1日1人強だと、条件を満たすかもしれない。それならば――。

  「いや、明後日の1時限目までに8人だ。それ以上は待たねぇ」

  実質2日で8人。元々は野球部がない浜甲に、わざわざ出来たてほやほやの野球部に入る奴なんていやしない。

  厳しい条件を出されても、彼女は桜満開の笑顔を見せる。

  「ありがとう! 水宮君ゲットしたいから、あと8人頑張るね」

  「うーん、頑張らなくてもいいんだけど……」

  部員獲得でサウナばりに燃える彼女と対照的に、俺の心はドライアイス級に冷え切っている。

  [newpage]

  ホームルーム終了後、津灯は俺の手を引っ張って、どこかへ連れていく。

  「おいおいおい! 俺はまだ野球部員じゃねぇぞ」

  「ごめんね、水宮君。私1人で勧誘するの怖いから、隣にいてほしいと思って」

  意外にも彼女の握力は強く、一度も止まることが出来ない。階段を下りて、下駄箱の所に来てしまった。

  「記念すべき1人目は、足が速い子がええよね。俊足の1番打者で、相手ピッチャーを困らせる。これ鉄板!」

  「そんな奴、どこから手に入れる気だ?」

  「もちろん、陸上部から!」

  彼女はグラウンドのトラックで練習している陸上部員を指差す。

  [newpage]

  彼女はストレッチ中の陸上部員に声をかける。

  「この陸上部で一番速い人って、誰か知っとる?」

  その陸上部員は黒いネコ耳をピンと立てて、ヒゲをいじりながら答える。

  「そりゃおめぇ[[rb:千井田 > ちいだ]]先輩に決まってるで。千井田先輩は去年の国体の100メートルで2位や。調子ええ時は男子より速いからな。次のオリンピックに出られる逸材って、ウワサされとるで」

  聞いていないことまでベラベラしゃべる。しかも、お笑い芸人ばりの早口だ。

  「ありがとう。その千井田先輩はどこ?」

  「あそこでバランスボール乗っとるよ。入部希望かいな?」

  「ううん。千井田先輩を野球部に勧誘しに来たの」

  近くにいた数人が「何ぃ!?」と、眉間にしわを寄せて叫ぶ。津灯は臆することなく、つかつかと千井田さんの所へ歩く。

  「千井田さん、100メートル走してみませんか? あたしが勝ったら千井田さんは野球部、千井田さんが勝ったらあたしが陸上部ってことで」

  千井田さんはひざの血をなめてから、津灯をにらみつける。その眼光はサバンナでも通用しそうなほど鋭い。モデルのようにスラリとした足に、カッターナイフみたいに尖ったネイル、女番長といった雰囲気だ。

  「ええやん、ええやん。そういう無謀な勝負しかけてくる子、嫌いちゃうよ。先に言うとくけど、あたいは常に全力やから、あんたに勝ち目ないよ。野球部復活は今年もムリや。取り消したいんなら、今やで」

  この方もよくしゃべるし、早口だ。もしかして、陸上部員はマシンガントークが得意なのか?

  「取り消しません。絶対にあたしが勝つから」

  彼女はVサインをかかげて、陸上部員の怒りを沸騰させた。

  100メートル勝負にあたって、津灯は体操服に着替えに行く。彼女を待つ間、俺は陸上部員の冷たい視線にさらされる。

  「あんた、さっきの女の彼氏か?」

  千井田さんがスパイクの手入れをしながら聞いてくる。相変わらず、目が[[rb:殺し屋 > ひっとまん]]みたいで怖い。

  「いいえ。ムリヤリ付き合わされてるだけです」

  「せやんな。あたいを見てもビビらんから、めっちゃ根性すわっとるやん。あっ、ハチ」

  千井田さんはミツバチを両手で捕まえる。ミツバチを見つけてから、両手で重ね合わせるまで、あっと言う間も無かったと思う。恐るべき動体視力と行動力だ。

  「お待たせしましたー」

  津灯がのほほんとした顔で帰って来る。すると、何かにつまずいて千井田さんの前に倒れる。ドジっ子か! 陸上部員の冷たい視線を気にすることなく、照れて舌を出している。俺は彼女にあきれ顔を見せて耳打ちする。

  「もし君が千井田先輩に負けたら、野球部自体が無くなるぞ。ホントにそれでいいのか?」

  「大丈夫、大丈夫、あたしに任せといて」

  彼女は平気の平左で、俺の忠告を軽く受け流す。こちらとしては、彼女が負けてくれた方がありがたいので、もう何も言わねぇ。

  「ヨシ、位置について」

  合図を出すのはネコ耳君だ。津灯は立ったまま、千井田さんは本番差ながらのクラウチングスタートで並ぶ。それにしても、清楚系とヤンキー系という対照的な2人だ。

  「よーい、ドン!」

  両者ほぼ互角のスタート。だが、数秒経てば、千井田さんが頭一つ飛び出る。

  「さすが全国ランナー! 格が違う、速い、カッコいい!」

  ネコ耳君がつばを飛ばして実況する。千井田さんは犬歯を出して、余裕の笑みを見せる。

  だが、半分過ぎたところで、千井田さんが失速する。津灯が追いついてきた。

  「ミャウ!」

  千井田さんの全身に動物の毛が生えて、トラ猫のような姿になった。スパイクのつま先から爪が飛び出す。彼女の足が再び加速する。津灯は粘る。一体、どっちが勝つんだ!?

  「ゴール!」

  ほぼ同時にゴールイン。結果は、まさかの写真判定になった。スマホで一部始終を動画撮影していた部員が、ゴール直前で止める。

  「ああっ!」

  「そんなぁ……」

  何と、津灯の足が、千井田さんの足より先にゴールラインを割っていた。千井田さんの敗北、野球部入り決定だ……。

  「久しぶりにチーター化してまで走ったのに、ううう」

  彼女は黒い鼻をヒクヒクさせて、目の下のアイラインに沿って涙を流す。さっきまでの殺気立った感じが消えて、愛玩動物のようになっていた。

  「さっき、ユアムーブで去年の先輩のレースを見ましたよ。前半はトップなのに、後半で失速してましたね。はっきり言わせてもらうと、100メートル走でトップ選手なるんはムリです」

  津灯が追い打ちをかけるように言う。千井田さんはうつむいて何も言い返さない。

  「でも、野球は打席から一塁まで30メートル以下、千井田先輩の俊足ぶりが発揮できます! その足で、メジャーの盗塁王にだってなれます!」

  「メジャーって、アメリカの?」

  「はい! 美味しいお肉がたくさん食べられますよ!」

  千井田さんは尻尾を立てて、津灯の顔をじっと見る。津灯の無邪気な笑顔は、チーターを飼いならすのに充分だった。

  「そんなら、あたい野球部入るやん。よろしくな、えっーと」

  「津灯麻里です。これからもよろしくお願いいたします、千井田先輩!」

  俺は「マジか……」と天を仰ぐ。

  陸上部員はキツネにつままれた顔で、2人のやり取りを見ていた。ただ1人、ネコ耳君だけが涙をぬぐい、鼻水をすすって拍手している。感動要素あったっけ?

  「なーんか、いつもより足が重かったやん」

  彼女がスパイクを脱げば、津灯がさっと駆け寄る。

  「あたしがスパイク磨いときます! 獣化の全力疾走でお疲れでしょうから」

  「そう? 助かるやん、ありがとう」

  津灯がスパイクの中に手を入れ、さっと何か取った。一瞬だったが、何か銀色に光った気がする。もしかして、千井田さんのスパイクに鉄製の中敷きでも忍ばせたのだろうか? それで、いつもよりタイムが落ちてしまったのか?

  野球部復活のために手段を惜しまない津灯麻里。こいつ、本当に2日で8人集めてくるかもしれない……。

  (水宮入部まであと7人)

  

  注:この世界では、女性のプロ野球選手やメジャーリーガーが誕生している設定です。女性の高校野球参加も許可されています。

  [newpage]

  [chapter:2球目 IQ156は半端じゃない]

  俺の前をチーター獣人と野球少女が歩いている。さっきの100メートル走対決の熱気と違い、学校の廊下は寝ているように静まり返っている。

  「ホンマのチーターはおとなしいのが多いんやって。うちの母さん、ばあちゃんもそうなんやん。高校でキャラ作りしよ思うて、ヤンキーっぽくしてたやん」

  「へぇー、そうなんですか。めっちゃ勉強なりますね」

  千井田さんは去勢されたネコみたいにおとなしくなった。そのせいか、ちょっとだけ可愛さが上がっている。とは言え、津灯には勝てない。野球が絡んでなかったら、絶対に俺が好きなキュート属性の若手女優顔なのに……。

  「おっ、着いた。ここに浜甲で一番賢い生徒がおるよ」

  彼女が指さしたのはコンピュータ室だ。パソコン関係の部活なら、頭が良い人に期待できる。

  「何で頭ええ人を勧誘しに来たん?」

  「野球では、[[rb:キャッチャー > 捕手]]と言って、チームの守備陣形を変えたり、ピッチャーの投げる球を指示したりするポジションがあるんです。そういう所は、賢い子が守らんとね、水宮君?」

  彼女が流れ星のウインクをしてくる。俺は「まぁな」とテキトーな返事をしておく。キャッチャーに関しては、覚えることが多いので、経験者が望ましいと思うがな。

  「それじゃ、失礼しまーす」

  俺達がドアを開けても、部員の誰も反応しない。彼らはパソコンに複雑怪奇な文字を打ち込んでいる。これがプログラミングってやつか?

  「[[rb:東代 > とうだい]]様、ここの動作が重いんですけど……」

  丸メガネの男が手を挙げて言う。

  「オー、十段目のコード指定がミスってますね。正しいコードをインプットします」

  東代と呼ばれた男が数回キーボードを叩けば、丸メガネ君の顔が晴れ上がる。丸メガネ君は「ありがとうございます」と、仏様を拝むように、手をすり合わせて感謝していた。

  「あなたが東代君ね」

  「イエス、マイネームです。何の御用ですか?」

  東代は灰色のほうき髪と左の[[rb:片眼鏡 > モノクル]]で、科学者風の見た目だ。ネイティブっぽい英語の発音が、少し耳ざわりだな。

  「ベースボールを一緒にプレイしない?」

  東代はモノクルを何度も上下に動かして考え込む。

  「ウェル、私はアメリカンライフに飽きて、ジャパンにやって来ました。ジャパンの作品に出てくる“アオハル”を体感するためです。このパソコン研究会はインタレスティング(面白い)と思いますが、コーコーヤキューはそれ以上なのですか?」

  「ベリィベリィインタレスティングよ。口で言ってもわからないと思うから、一緒にボールパークに来てくれる?」

  津灯もまぁまぁ英語の発音いいよな。千井田さんは口を〇の形にして、IQの高い(?)会話を聞き入っている。

  「ソーリィ。あなたが私をエンジョイさせてもらえるか、1つテストしてもらってもいいでしょうか?」

  「OKよ。何をすればいい?」

  「チェスで私を任したら、ボールパークへ行きましょう」

  「ええね。やろう」

  かくして、津灯と東代のチェス対決が決まった。

  「グッド。皆さん、待っててください」

  東代が席を立つと、他の部員全員が起立して手を振り始める。

  「東代様、お疲れ様です!」

  部員に「様」づけで呼ばれるとは、かなりの大物だ。さぞかし凄い実績を積まれたのだろう。

  [newpage]

  コンピュータ準備室の中で、チェス対決し始めた。俺と千井田さんはチェスのルールを全くい知らないので、何か駒が動いてるなぐらいしか分からない。

  「馬の駒、美味しそうやん」

  「ハハ……」

  おとなしいと言えど、やはりチーターは肉食獣だ。チーター顔の千井田さんはよだれを体操着の袖で拭いて、2人の勝負を見入った。

  「東代君はカレッジ時代にベースボールをプレイしてたよね?」

  不意に津灯が質問する。

  「イエス! 州大会でプレイしてました」

  「ちょっと待てやん。カレッジってことは、東代君て大学出てるん?」

  千井田さんがアメリカのアニメキャラのような驚きチーター顔で尋ねる。

  「イエス。サンバード大学を首席でグラッデュエイト(卒業)しました、スリーイヤーズ前に」

  「マジか。15歳で大学卒業?」

  東代は首を激しく横に振る。

  「ノー、トゥウェルブです」

  「トゥウェルブは12だから、今は15歳やん! スゴッ! むっちゃ天才やん!」

  千井田さんは尻尾をビュンビュン振って、東代に興味津々だ。俺は若干引き気味だ。なんか、こういう天才オーラ出してる人は苦手だ。

  「東代君はIQ156で、先月に日本が発射した木星探査機の製造にも関わっとるもんね」

  「オーウ。シークレットにしてたことも知られてましたか」

  「野球部復活させるために、ちゃんと調べてるもの。はい、チェックメイト」

  喋りながら、着実に東代の駒を追い詰めていたようだ。東代は頭をかきむしって打開策を考えていたが、ガックリと頭を下げる。

  「ユーウィン(あなたの勝ち)……」

  「すっごい、津灯ちゃん!」

  「えぇ、マジか……」

  ズルをしてたとは言えチーター娘に匹敵する俊足だし、チェスでIQ156に勝つし、この子は思ってたより恐ろしい。

  「これで、野球部入りね!」

  「ソーリィ。ボールパークには行きますが、まだコーコーヤキューするとは言ってませんよ。私にはバッドな思い出があるので……」

  東代はアメリカ時代の思い出を語り始めた。

  [newpage]

  (セリフは日本語ですが、実際は英語で喋っています)

  東代はアメリカのサンバ―ド大学で工学研究を続けるかたわら、野球部に所属していた。10歳ぐらい離れた人と対等に渡り合えるほど、野球知識が豊富で、キャッチャーとしてチームを引っ張ってきた。大学卒業後も特例で公式大会に出場していた。

  去年の夏、州大会出場をかけた試合で、大ピンチを迎える。1点リードで迎えた9回裏、2死2・3塁の場面。東代はピッチャーのグレンゲルのストレートの球威が落ちているのを感じ、スプリット(フォークより浅く握り、速く落ちる)を要求した。しかし、グレンゲルは首を横に振り、ストレートになった。

  グレンゲルのストレートは高めに浮いてはじき返され、センターの頭上を越えるサヨナラヒットになってしまった……。

  試合後、ロッカールームで、東代がグレンゲルを問いただす。

  「グレンゲルさん。あなたのストレートの球威は7回辺りから落ちていました。あの場面はスプリットを多投し、カウントを有利にしてから、ボールゾーンのストレートで三振に取ろうと思っていたんですよ。何故、あなたはストレートにしたんですか?」

  「俺様のストレートなら、あのヘボを抑えられると思ったんだ。暴投(キャッチャーが捕れないほど、大きく外れた投球)のリスクがあるスプリットより、ストレートの方がいいだろ!」

  「私のキャッチングを信用してなかったなんですか?」

  「ああ、信用できっかよ! てめぇみたいな魚臭いジャップのキャッチャーは特によぉ!」

  ロッカールームの空気が凍り付いた。東代は冷静な表情のまま、グレンゲルに言い聞かす。

  「あなたが差別主義者と分かり、誠に残念です。もっと柔軟な思考のできる方と思っていたのに……。これでは、あなたと一緒にベースボールを楽しむことは出来ませんね……」

  「あんだとぉ!」

  グレンゲルは東代につかみかかり、他のチームメイトがそれを止めようとする。ロッカールームは大乱闘になった。

  その後、グレンゲルはサンバード大学の理事長である父に、東代のあることないことを吹き込んだ。それが、グレンゲル理事長の怒りにふれ、東代はサンバード大学院の除籍と研究支援を打ち切られてしまった。

  ***

  「ええ……。そんなことが……」

  「まぁ、私の態度がディスライクだったんでしょうね。ここ日本なら、そういうことはないと信じてハイスクールライフを始めてみました。ここハマコーはロボット研究がトップクラスですからね」

  「どうしたら、野球部に入ってもらえるん?」

  「ウェル、私をエキサイティングさせるピッチャーがいれば入りたいですね」

  津灯が俺の顔をじっと見てきた。俺は絶対に投げたくないので、首を横に振る。

  「じゃあ、あたしが投げるから、それで興奮したら入ってくれる?」

  「オフコース! 約束は絶対に守ります」

  津灯が東代に対して投げることになった。俺達は浜甲学園の野球場へ向かう。

  [newpage]

  浜甲学園の野球場は全く手入れがされておらず、雑草が伸び放題、壊れた道具や機械などが捨てられていた。ただ、ピッチャーマウンドからバッターボックスの間だけ草が生えていない。

  「ここだけ草を刈り取ったの。水宮君が投げやすいように」

  「どうも、おおきに」

  俺はわざとらしい関西弁で感謝を伝える。津灯はベンチから野球用具を引っ張り出して、表面がデコボコの金属バットを取り出す。

  「はい、これ持って」

  「お、おう……」

  金属バットに赤い塗料が付いているが、これ人間の血じゃないよな……? 俺は左のバッターボックスに入った。

  東代がキャッチャーマスクを付け、津灯がマウンドに上がる。千井田さんは草むらで、スフィンクスみたいなポーズで俺達を見ている。未だにチーター姿だから、サバンナのしげみに隠れて、獲物を見定めている肉食獣に見えてしまう。

  「千井田さん、ボールをゴロ、こっちに転がしてくださーい」

  彼女は三塁付近にいる千井田さんにボールを投げる。千井田さんはボールを口でキャッチしたため、体操着でボールを拭いた。

  「キャッチャーからじゃなくて、[[rb:サード > 三塁手]]からの送球でいいのか?」

  「うん。ショートゴロをファーストへ送球するイメージで投げるから」

  彼女の本職がショートと判明した。女性は肩が強い印象はないが、彼女はどうなんだろう。

  「お待たせやん。いくでー」

  千井田さんがボーリング投げで、ボールを転がす。津灯は腰を落としてボールをグローブに収めてから、上体を起こして、空気を切るようサイド(横)から素早く投げる。

  「うわっ!」

  「ホワット!?」

  予想以上のスピードボールが来たので、思わず叫んでしまった。東代も目を丸くしている。

  「ホワイ? 男性並みのスピードがありました。ミステリアスです!」

  「あたしピッチャーやったことないから、スピードガンで計ってもうたことないんやけど、85マイルぐらい出とった?」

  彼女の送球は150キロぐらい出てたかもしれない。東代はキャッチャーミットを取って、拍手し始める。

  「エクセレント! とてもフェイバリット(お気に入り)ですね、ここのベースボール」

  「じゃあ、野球部に入ってくれる?」

  東代は「オフコース!」と、親指を立てて答える。千井田さんは拍手、津灯はマウンド上でバンザイしている。

  俺は気分がベリーバッドなので、野球場のフェンスを遠い目で見ている。一組の男女と視線が合う。カップルは俺に気づくと、そそくさと校舎へ走って行った。

  あー、俺も野球じゃなくって、あいつらみてぇな“アオハル”してぇー。

  (水宮入部まであと6人)

  [newpage]

  [chapter:3球目 ブザービーターが見られない]

  3人目の入部者・東代はパソ研に戻ったので、俺ら3人は体育館へ向かう。

  「あっ、千井田さんが久しぶりにチーターになっとる」

  「かわいー!」

  チーター顔の千井田さんは、廊下ですれ違う人に声をかけられて人気者(アニマル?)だ。中には彼女のあご下を触ってくる女子がいた。

  「ああー、毛の触り心地イイー、尊い!」

  「ゴロゴロ。あたい、もうチーターでええやん……」

  「何か猫みたいだな……」

  俺がボソッとつぶやくと、千井田さんが歯ぐきむき出しで、威嚇(いかく)の表情を見せてきた。

  「誰が飼いならされた猫や!?」

  「そこまで言ってないけど、ごめんなさい。チーターはサバンナの猛獣です」

  千井田さんににらまれた俺を見て、津灯は微笑んでいる。あれ、そう言えば、次は誰を勧誘しに行くんだ?

  「お次は誰をゲットするつもりだ?」

  「今度は野球経験のあるスターを獲りに行くよ」

  「ひょっとして、バスケ部の[[rb:山科 > やましな]]先輩と違うん?」

  「あったりー。千井田さんは山科先輩としゃべったことあります?」

  急に千井田さんは足を止めて、目覚まし時計みたいに激しく震え始める。歯をカタカタ鳴らして顔が青い。

  「うわー、思い出すだけで寒気するやん。人のことを子猫ちゃん呼ばわりして、無駄にキラキラ光って、カー、気持ち悪ぅ!」

  何となく、少女漫画のイケメンキャラが思い浮かんだ。

  [newpage]

  体育館の扉を開けば、男子バスケ部員が声を上げて練習している。ボールを受け取れば、数人の敵をかわして、ダンクシュートを決めた部員がいる。その部員の顔は、男性ダンスボーカルグループにいそうな爽やかな顔立ちだ。さらに、他の部員より頭一つ出た長身で、細マッチョという恵体ぶり。俺に5㎝ぐらい身長を分けてほしい。

  彼は出入り口の俺たちに気づくと、さっきの練習より猛ダッシュで近寄って来る。瞳をハートの形にして、千井田さんと津灯を見る。

  「おっ! この前の子猫ちゃんじゃないかぁ! 友達のうさちゃんも連れて来たんやね」

  「うっ! 何で、あたいと分かったんやん。チーターになった姿、あんたに見せてへんのに……」

  「女性の仕草と香りを覚えていれば、誰か分かるよ。ついに、僕のファンクラブに入る気になったんやね?」

  「誰が入るかぁ!」

  千井田さんの引っかき攻撃が炸裂! チーター爪で顔が血まみれになっても、イケメン特有のキラキラを保ち続ける。この人、強すぎる……。ウサちゃんと呼ばれた津灯は落ち着き払って、いつものように勧誘する。

  「あのぉ、山科先輩! 再び野球やりませんか?」

  山科さんはムスッとした顔で首を横に振る。

  「やだね。一昨年の4月ならともかく、全日本の合宿に呼ばれた僕がバスケ辞めて、野球やるなんてありえへん。そんなことやったら、僕のファンが悲しんじゃうよ」

  山科さんがあごでしゃくった先に、チアリーディング姿の女子3人がいる。彼女達のユニフォームの胸には、時久LOVEと赤い刺しゅうがほどこされている。

  「逆に、君がバスケ部においでや。僕と一緒に全国行こ?」

  「ごめんなさい。あたしは野球一筋なんで」

  山科さんの甘い誘惑をはねのける。彼はうすら笑いを浮かべながら、バスケのボールを人差し指で回し始める。

  「ならば、僕の野球部入りか、君の山科ファンクラブ入りを決める勝負をしよう。フリースロー対決、先に外したら負けってのはどうかな?」

  津灯は「いいですよ」と、山科さんのボールを奪い取る。山科さんの瞳は炎の模様になり、津灯の目と火花をバチバチにかわす。

  [newpage]

  バスケ部の練習終了後、津灯と山科さんのフリースロー対決の火ぶたが切って落とされた。実況は俺、解説は山科ファンクラブ3名でお送りする。なお、千井田さんは山科アレルギーによる体調不良のため、先に帰ってしまった。

  「[[rb:延手 > のぶて]]先輩、山科先輩はフリースロー得意なんですか?」

  ひょろ長の延手さんはペンライトを振りながら答えてくれる。

  「得意中の得意よ。どこから投げても入れるから、まさにカッコ良さの化身やわ」

  「野球で外野を守っておられたから、肩に自信があるわね」

  ティッシュのように白い肌の[[rb:雪下 > ゆきした]]さんがボソッとつぶやく。

  「あの程度のフリースローやったら、永遠に入れ続けるって。あの子、津灯さんだっけ? 津灯さんは山科ファンクラブの一員になったも同然よ」

  アンパン顔の[[rb:千針 > せんばり]]さんは手帳を開くと、英語の筆記体に似た達筆で何かを書く。“津”や“研”、“訓”などが読めたので、ファンクラブ新メンバーの特訓だろうか。

  「先に入れてもいいですかぁ?」

  「どうぞ、どうぞ。レディファーストやからね」

  ペイントエリアギリギリに彼女は立ち、ソフトボールを上から投げる要領で、バスケのボールを放った。見事にそのボールはゴールネットに入る。

  「ナイススロー! じゃ、今度は僕が」

  山科さんは津灯にアイドル並みのフラッシュウインクを送る。彼はボールを高々と持ち上げて、軽くジャンプして投げる。これもゴールネット内に入った。

  「2人とも落ち着いてるなぁ」

  「山科君なら当然やって。あの人は数々のプレッシャーに勝ってきたんやから。30回ぐらいで決着つくって」

  千針さんが鼻息荒く力説する。俺も津灯が負けて、野球部勧誘タイムが終わればいいと思っていた。

  しかし、千針さんや俺の思惑と裏腹に、フリースロー対決は100回越えのロングバトルになったのだ。

  [newpage]

  津灯と山科さんのフリースロー対決は、1時間越えの大熱戦になった。ここで、山科さんは3回目の休憩を取る。

  「あと10回にしよう。体育館が使用できるのが7時半までやからね」

  彼はスポーツドリンクを飲みながら、ファンクラブに歩み寄る。彼は千針さんにそっと耳打ちする。

  「ということやから、よろしくねー」

  千針さんは黙ってうなずき、手帳に走り書きしてちぎり、他の2人にこそこそ渡した。きっと、セコイ手を使うつもりだろう。

  「じゃ、いきますねー」

  津灯がボールを構えると、延手さんが両手をロープ状に伸ばす。その伸びた手が、津灯の腰をこちょこちょする。

  津灯は笑顔を浮かべてボールを投げる。こしょばい妨害に屈せず、またもゴールネットに入った。

  延手さんの次は、雪下さんが妨害者になった。彼女は口から冷気を出して、津灯の背中に氷のリンクを作る。しかし、津灯は足が震えても、ボールを投げる手は今までどおりだ。津灯の投げたボールは、磁石で引き寄せられたように、まっすぐ入っていく。

  「まったく、あんたら頼りないったら、ありゃしないって! あたしが手本見せたるって!」

  千針さんは拳をポキポキ鳴らして、津灯の後方30メートルの位置につく。津灯が投球モーションに入るやいなや、闘牛のごとく突進する。その間に、彼女の顔中に無数の針が浮き出た。

  「どりゃあああああああ!」

  千針さんのあまたの針が津灯の背中に刺さっていく。津灯は顔をゆがて体が傾いたが、右手だけはこれまでと寸分たがわぬ動作で、ボールを投げる。またもやフリースローを外さなかった。

  「なっ、何なん、あいつ、僕の誘惑の瞳をかわし、ファンクラブの猛攻に耐えきるなんて……。人間じゃない、宇宙人か何かだ」

  山科さんの顔は真っ青で、ボールを持つ手が小刻みに震えている。あっ、これは、ダメな感じがする……。

  「あたしは人間ですよ。選択肢が野球しかなかった、ただの野球どアホウです」

  「選択肢か……」

  山科先輩に何か思うところがあるようだ。彼は深く息を吸ってから、ボールを構えた。が、次の瞬間、とんでもないことが起こる。

  ゴールポストの下に、四足歩行のチーターが2頭も現れた。2頭のチーターは山科さんがボールを放す直前、口をガッと開いた。

  「「ガオオオ!」」

  「ひっ、ひぃ!」

  山科さんの動揺はボールに伝わり、ゴールネットのリングにぶち当たって入らなかった。

  「こ、これって、まさか……」

  「山科さんの敗北やね」

  「そんなんありえへんって」

  山科ファンクラブの女子は一斉に口を開く。延手さんは伸びた手をだらんと後ろへ置き、雪下さんは頭を抱え、千針さんは近くのボールに針を刺して八つ当たりしている。俺はあまりにもしょうもない幕切れに、心のこもっていない笑い声を出している。

  「千井田さん、ありがと!」

  「津灯ちゃんも中々やるやん。あんたの集中力は世界一やん!」

  「何なん、これ……」

  千井田さんより一回り小さいチーター君が首を傾げている。

  「[[rb:渡 > わたる]]、協力ありがとやん」

  「もう! 姉ちゃんの頼みちゃうかったら、人前で全裸のチーターになるなんてゼッタイ嫌やからな!」

  「後で、たこ焼き買(こ)うたるから」

  「10個ぐらい買ってやぁ」

  家に帰ったはずの千井田さんが四つ足のチーターになって、弟を連れて戻ってくるなんて、こんなん予想できるかよ……。

  「やっぱ、俺はまだまだやな……。あの時と一緒や……」

  「あの時?」

  山科さんの昔話が始まった。

  [newpage]

  [[rb:山科 > やましな]][[rb:時久 > ときひさ]]は、幼少期から野球とバスケ両方で活躍するスーパースターだった。野球では強肩強打のセンターとして活躍し、小5の時に全国大会に出場。バスケでは3ポイントシュートの名手として活躍し、小6の時に全国大会に出場。中学では、彼のために野球とバスケの試合日程が調整されるほどだった。

  しかし、高校の部活では二刀流が厳しい。彼は野球で[[rb:赤穂 > あこう]][[rb:士学館 > しがくかん]]のセレクション(入学前の試験)を受けることになった。走塁テストと守備テストに合格し、ラストにピッチャーとの実戦形式の対決になった。

  「そらがしからヒットを打てば合格で候」

  ちょんまげ姿のピッチャー・[[rb:大石 > おおいし]][[rb:蔵臣 > くらおみ]]がマウンドに登る。後にドラフト指名を受けるピッチャーとあって、150キロを超えるストレートを投げてきた。

  1球目はバットを振るも、振り遅れる。

  「ストライク!」

  2球目は少し速くバットを振ったが――。

  「くっ、あああ!」

  「ファール!」

  真後ろのファールになり、早くも追い込まれた。ボールの重さが手に伝わり、ビリビリと痛んでバットを強く握れない。このまま三振で終わってしまうのか?

  だが、大石投手はコントロールを乱し、3球連続でボール球となる。フルカウントになったところで、山科は大石に尋ねた。

  「あのぉ、四球だったら合格ですか?」

  「無論、そちの勝ちで候」

  山科は大石の重い球を打つのは難しいと考え、次の投球がボール球になることを望んだ。

  6球目。大石のストレートが自分の体に当たりそうになる。これはボールか、いや、よけないと、自分の体が危ない。彼がのけぞれば、ボールが途中で曲がった。ストレートとほぼ同じ速さで曲がる高速スライダーだった。

  「ストラック! バッターアウト!」

  インコースギリギリに入る見事なスライダーだった。山科は赤穂士学館のセレクションに不合格になってしまった。

  「フォアボールになるかもしれんという淡い期待にすがるとは、誠に愚かで候。もしバットを振っていれば、合格だったと言うのに……」

  「えっ、そうなんですか?」

  「やはり、野球とバスケの狭間で悩めし中途半端な男には、野球道を究めしそれがしのボールは、荷が重すぎたで候」

  大石にハッキリと中途半端と言われたことで、山科の気持ちはバスケに傾いた。

  その後、山科は浜甲学園のバスケ部に入部し、1年秋からレギュラーをつかんだ。2年夏は県大会決勝で敗退したが、対戦した[[rb:良徳 > りょうとく]]学園の監督の推薦で、全日本代表の合宿に参加できた。

  順調に未来のバスケのスター選手の道を歩んできたが、フリースロー対決で津灯に敗北し、再び野球に戻ることになってしまった……。

  [newpage]

  昔話を語り終わった山科さんは床にヒザをついて、瞳が消えて白目になった。体も真っ白になったように見える。

  「ほんじゃ、明日から野球場来てやん、山科先輩!」

  「や、約束は守るよ……」

  意気消沈の山科さんは池のコイのように口をパクパクしている。

  「えっと、今日は、水宮君、千井田さん、東代君、山科さんの4人ゲットで、あと5人か。明日も頑張ろ!」

  「あたいも協力するやん。超豪華メンバー集めたろ」

  「水宮君、明日もよろしくね」

  「えっ? ああ、うん、ガンバロ」

  俺はものすごく石像になりたい気分だ。高校では野球をしないと決めていたのに、津灯やチーター娘やイングリッシュマンによって、野球部に飲み込まれそうだ。

  明日は山科ファンクラブを見習って、俺も妨害行為をしよう。1人で頑張ってる母さんのために、絶対に野球部入部を阻止してみせる! 絶対にだ!

  (水宮入部まであと5人)

  [newpage]

  [chapter:4球目 鬼のパンツが破けない]

  今日は、高校生活や部活について、色んな説明を聞いた。クラスメイトは新しい生活に顔を輝かせているが、俺だけはどんよりくもり顔だ。今日も野球部員集めに付き合わされる。とてもユーウツだ。

  終礼が終わり、荷物をまとめていると、千井田さんが教室に入ってきた。俺の机に千円札をバーンと激しく置いて言う。

  「水宮! あたいら弁当買うの忘れとったやん。悪いけど、食堂で買うてきてくれへん? お釣りはもろうていいから」

  まだ野球部員じゃない俺がパシリをするのは、かなり不当な扱いだ。とは言え、千井田さんを怒らせると怖いから、素直に引き受けよう。

  「いいですよ。ところで、千井田さんは昨日、夜更かししましたか?

  彼女の目の下には隈が出来ている。顔も少したるんでいてお疲れモードだ。

  「せやねん。昨日、録りだめしたドラマ見てたら、深夜3時ぐらいまで起きとったやん」

  「あー、そうなんですか。体調に気を付けて下さいよ」

  「うん。ほな、また後でやん」

  彼女が鼻歌を歌いながら去っていく。去年は下級生に色々とお願いできたが、今は上級生のお願いに応えなければならない立場の逆転。

  こればっかりは、どの部活に入っても同じだから、一息吐いてから食堂へ向かう。

  [newpage]

  食堂はたくさんの生徒でごった返している。俺は2人の女性を気づかい、ヘルシー弁当の列に並んだ。

  「コラ―、水宮! この割引券使えへんやん! めっちゃ恥かいたやん」

  般若顔のチーターが牙をむき出して走ってくる。

  「割引券て、一体何のことですか?」

  「とぼけんな! さっき、あたいのクラスに来て、食堂の新学期キャンペーンの割引券あげます言うたやん」

  「えっ? 千井田さんがこっちに来たんですよ?:

  話が食い違って平行線だ。ドッペルゲンガーでも出ないかぎり、今日の俺は千井田さんに会いに行ってない。

  「ホワット? 2人ともミス・ツトーはどうしたんですか?」

  フランクフルトを持った東代が、俺達の話に割って入る。

  「津灯ちゃん? 今日は1回も見かけてへんけど」

  「それはストレンジ(奇妙)。私は、お2人がミス・ツトーと一緒にゲートから出たのをルッキングしました」

  [newpage]

  三者三様に意見が食い違っている。俺の脳みそは火山爆発を起こしそうだ。

  俺達は食堂を出て、中庭のベンチに腰かけて話を整理した。

  「俺は“千井田さん”に金を渡されて、千井田さんは“俺”に割引券をもらい、東代は津灯と“俺たち”が正門から出るのを目撃したってことだよな」

  「この学校にあたいに似た“あたい”がいるってこと? こわっ!」

  「ドントウォーリー。パハップス(多分)、誰かが2人にトランスフォーム(変身)して、バッドなことをスタートしています」

  他人に化ける超能力者は結構いるが、声色を真似られる人は限られてくる。犯人は絞り込めそうだ。

  「千井田さんが見た“俺”は、どんな顔だった?」

  「うーん、ちょっと細くて、目がつりがちやったと思う。“あたい”の方は?」

  俺はどちらかと言えば、少したれ目で瞳が大きいから、完全に違う。

  「目の下に隈が出来てました。少しふっくらしていたような」

  「ウェル、ジャパンのキツネとタヌキですね」

  東代は指をパチンと鳴らして、ノートにキツネとタヌキを描く。東代画伯のタヌキはクマ、キツネはイヌに見えるが、たれ目とつり目の描き分けができているだけマシか。俺なんかが描いたら、福笑いの顔になっちまうからな。

  「あれ? このコンビはどっかで見たような……。あっ、せやせや。去年、あたいを勧誘してきた[[rb:改善組 > かいぜんぐみ]]やん!」

  「改善組?」

  何か暴力団のグループ名みたいだな。

  「2年、今は3年生か。とにかくアホみたいにデカい番長がおって、その子分にキツネ男とタヌキ女がおるやん。そいつらが津灯ちゃんをさらったやん」

  「何でさらったんだろ」

  「きっと、新しい子分にするためやん。去年のあたいも子分にされかけて、死にもの狂いで逃げてきたもん」

  「どんな活動をしているグループでしょうか?」

  「いじめっ子をこらしめたり、授業中にスマホいじってた奴をボコって先生に自首するよう仕向けたり、暴力的やけどええグループやん」

  「なら、ノンプロブレムでは?」

  「東代君。日本の高校野球は、暴力行為が発覚すると活動停止になるから、問題大アリなんだよ」

  「早く助けに行かんと。あんな奴らの仲間になったら、野球部復活はムリやん」

  千井田さんは再びチーター化して走り始める。俺と東代は彼女の後ろをついて行く。早く彼女を助けに行こう。

  ちょっと待てよ。もし津灯が改善組に入れば、俺が野球部に入らなくてもいいのか。いや、助けに行かないと、千井田さんや東代に色々言われるから、これでいいのか。問題は、どうやって、津灯を助けつつ、助け出せなかった風に見せかけたらいいか。

  ああ、普通に野球部勧誘してる方が楽だったぜ。

  [newpage]

  改善組と津灯は、海岸沿いの公園でたむろしていた。[[rb:東屋 > あずまや]]の下で、相撲力士みたいに長身で腹が出た男と、ガリガリキツネ男と、ポッチャリタヌキ女の3人が、津灯を取り囲んでいる。

  「ちょっと、あんたら! あたいらの津灯ちゃん、返せ!」

  千井田さんは荒い息づかいで叫ぶ。ここまでチーター化して飛ばしてきたから、バテバテである。公園近くになると、俺達の早足より遅かったからな。

  「何やネコちゃんか。ネコちゃんにはマタタビあげるね」

  タヌキ女がマタタビを放り投げる。

  「そんなものにあたいが釣られるとでも、うっ、ふにゃあん」

  まさに即落ち2コマだ。千井田さんはマタタビに顔をうずめて、赤ちゃんみたいな笑顔を見せる。

  「それ、実は、うちの親父のくつ下なんやけど、そんないい臭いなんかなぁ」

  「くっ、くつ下? く、く、くさぁ!」

  マタタビが黄ばんだくつ下に変わり、千井田さんは白目を向いて気絶する。さすがはタヌキの化け術だ。

  「お前ら2人はワシが相手や」

  「サイエンスを極めた私が、ジャパニーズフォックスのイリュージョンに負けません」

  

  東代はモノクルを光らせて、キツネ男と対峙する。

  「あんた、IQ高そうやな。じゃ、ワシの幻術見せるんは、違う奴にするか」

  キツネが葉っぱをまき散らす。目くらましかと思いきや、地響きが起こる。

  「ワンワンワンワン!」

  公園のあちらこちらから、犬たちが駆けてくる。犬軍団は東代に群がり、押し倒して、体中をペロペロなめ始める。

  「ハハハ。あんたが骨つき肉に見えるよ、犬に幻術かけたんや」

  東代は犬に埋もれて戦闘不能、これで残るは俺1人だ。

  「さぁ、あんたを倒してシメとするか」

  「なぁ、キツネさん。俺と手を組んで、あの先輩が津灯に勝てるようしてくれないか?」

  「へっ? あんた、ワシと戦わへんの? せっかく、[[rb:虎威 > こい]][[rb:狐爪 > こそう]]や[[rb:狐火 > こび]][[rb:乱舞 > らんぶ]]を練習してきたのに」

  キツネは眉をひそめて、人間の顔に戻っていく。その顔は、昨日、野球場の近くにいたカップルの男の方だった。

  「おそらく、津灯のことだから、あの先輩と野球部入部を賭けた勝負をするだろう。その時にジャマしてほしいんだ」

  「ハハハ。味方を裏切るなんて、あんた、ワシ以上にキツネやな」

  俺とキツネはどす黒い握手を交わす。

  [newpage]

  東屋のテーブルで、改善組のボスと津灯が向かい合う。殺ばつとしたものを想像していたが、意外にも2人はにこやかである。

  「つまり、野球部にパワーある奴がほしいってことか」

  「そう。[[rb:番馬 > ばんば]]さんなら、甲子園でもホームラン打てるよ」

  番馬は腕を組んで考え込む。彼の顔の輪かくは食パンのようで、中のパーツは歴史の教科書に出てくる武将、武田信玄に似ている。コワモテの彼を前にしても、津灯は明るい表情を保っている。

  「弱き野球部を救うのもアリか……」

  「ありがとう! じゃあ、入部用紙にサインを……」

  津灯がカバンからA4用紙を取り出そうとする。このままだと、番馬が野球部に加入してしまう。早く何とかしないと……。ここで、キツネが妖術で入部用紙を真っ黒な財布に変えた。

  「あっ、あれ?」

  「ああ! この女、番馬さんの財布盗ってるやんけぇ!」

  「ちっ、違う、あたしはやってません!」

  番馬と津灯が目を合わせている間、キツネは目にも止まらぬ速さで、番馬本人のカバンから財布を盗っていた。ルパン三世さながらの早業だ。

  「盗んだかどうかはカバンの中を見たらわかるか」

  番馬はカバンの中を確かめる。財布が無いことが分かると、彼は仁王立ちして、拳を固めてわなわなと震え始めた。彼の顔が見る見る内に真っ赤になる。

  「人の物を盗むなんて許せん! 成敗してくれる!」

  番馬の制服が裂け、神社の大木ばりに太い腕が現れる。体全体が赤くなり、頭から2本の角が生えて、赤鬼に似た姿へ変わる。

  赤鬼はテーブルを瓦割りの要領で真っ二つに割り、津灯をにらみつける。珍しく、津灯の顔が青ざめている。

  「番馬さん! そこまでやらんでも!」

  「黙れ!」

  番馬は止めに入ったキツネをラリアットで倒した。こいつ怖すぎる、ヤバイ!

  「罪人は女子どもでも容赦せぇへんでぇ……」

  赤鬼は高速パンチを繰り返して、不気味な笑みを浮かべる。

  「津灯! 逃げよう!」

  「で、でも、誤解を解かないと……」

  「そんなこと言ってる場合か!」

  俺は津灯の手を引っ張って、一緒に逃げた。あんな怪力の赤鬼に殴られたら、病院送りになってしまうだろう。俺は野球部の復活を阻止したいだけで、彼女に傷ついてほしいワケじゃない。

  俺達は公園の出口までたどり着く。彼女は息を切らして、左右どっちへ逃げようか迷っている。

  「悪い子はおらんかぁ!」

  後ろを向けば、もう数メートル後ろに赤鬼がいた。デブなのに意外と足速いぞ。赤鬼の拳が振り下ろされようとする。彼女の前に立って、守らないと!

  「水宮君、どいて!」

  彼女に言われるがまま、脇によけてしまった。臆病な自分に負けてしまった、何てサイテーな人間だ……。

  「成敗ッ!!」

  俺は目をつむって音だけを聞く。

  無音。静寂。閑静。

  目を開けば、赤鬼が股間を押さえてあおむけに倒れていた。えええ、一体、何が起こったんだ?

  「大丈夫ですか、番馬さん!」

  「番長、伸びてもうたぁ」

  キツネとタヌキが赤鬼に駆け寄る。番馬さんはプロレスラー体型の鬼から、おデブな人間に戻ってしまう。またもや津灯の勝ち……?

  「男の勲章に硬球ぶつけるなんて、めっちゃ申し訳ないことしたわ」

  彼女はゆっくりと立ち上がる。赤鬼の足の近くには硬球が転がっている。

  至近距離でボールを投げて相手を気絶させるとは、この子怖い……。もう地上最強キャラではないだろうか?

  「すまん、津灯! 俺のせいで、こんなことになって」

  俺は正直に謝ることにした。彼女は小首をかしげてキョトンとしている。

  「実は、番馬さんが野球部に入らないよう、キツネをけしかけたのは俺なんだ。本当にごめん」

  自分勝手な理由で、女子を危険な目にあわせたなんて、俺は最低な男だ。土下座をして必死に謝る。

  「そやったん。でも、そのおかげで、番馬さんの破壊力がわかって、あたしとしては良かったよ」

  彼女は天使の微笑みを見せる。その笑顔がまぶしくて、俺は直視できない。

  「おい、小僧。その話はホンマか?」

  背後から番馬さんの声が聞こえる。もう俺は逃げも隠れもしない。

  「はい。津灯は番馬さんの財布を盗んでません」

  「ウソやウソや! 仲間かばうために、ウソついとんのや」

  キツネは唾を飛ばして、俺達を指差す。番馬は俺とキツネの顔を交互に見る。

  「さっきテーブル上にあった財布は、入部用紙に戻ってるはずだ!」

  キツネの顔が青ざめて、人間の顔に戻る。番馬さんは急いで東屋に戻り始める。俺達も彼の後へ続く。逃げようとしたキツネ男は、タヌキ女に襟首を捕まえられている。

  俺の予想通り、割れたテーブル上に入部用紙があった。

  「悪人が身近におったとはなぁ、[[rb:白山 > しらやま]]」

  白山と呼ばれた男はタヌキに羽交い絞めされて、全身が震えている。

  「喝!」

  バチィ!

  番馬のビンタが白山に炸裂。たちまちにして、白山の左頬は、おたふく風邪にかかったように腫れあがった。

  「津灯さんよ、すまんかったな。野球部入るわ」

  「ありがとうございまーす! でも、野球部入ったら、暴力行為はやめて下さいね」

  「ムム。だが、入部前ならええやろ?」

  番馬が俺の顔をうかがう。えっ、まっ、まさか……。

  「素直に告白したとは言え、女子を罠にかけた罪は重いで」

  「あっ、ゆ、許して下さい。土下座でも、坊主でも、何でもするんで!」

  俺は再び土下座しようとしたが、何故か全く体が動かない。タヌキ女がクスクス笑っている。彼女の妖術で石像のように固められていたのだ!

  「喝!」

  バチィン!

  目の前が真っ暗に……。虫歯や口内炎が快感に思えるほどの激痛が襲う。左頬がハリセンボンのように膨れてきた……。

  「ハァー、えらい目におうたやん」

  「ジャパンのイリュージョンは奥が深いですねぇ。ホワット?」

  妖術から解放された2人は俺を見るなり、大爆笑した。

  「アハハハハハ! アン○ンマンやん!」

  「ハハハ、ソ、ソーリィ」

  新たな野球部員を増やしてしまったばかりでなく、ビンタされて笑い者になるとは、俺はマジで何やってんだろ……。

  (水宮入部まであと4人)

  [newpage]

  [chapter:5球目 君はロックを聴かない]

  野球グラウンド(ゴミ捨て場)に着くと、山科さんとファンクラブの皆さんが草刈りをやっていた。

  「君達、遅いやないかぁ! 先輩より早く来ないと」

  山科さんは鎌を持ち上げて怒る。

  「悪いなぁ。俺様が津灯と遊んでて遅なったわ」

  「ったく。えっ、番馬さん?」

  山科さんは番馬さんに気づくと、急に黙り込む。番馬さんは相手が泣くまで殴るのをやめないらしいから、そりゃ怖いよな。

  「先輩達、ありがとうございます。それじゃ、皆で草刈りしよ」

  「OK。クリーンなグラウンドをオープンしましょう」

  「それにしても、何でこんなに荒れてるのかな。キレイにしとけば、体育の授業で使えるのに」

  「昔、このグラウンドで野球したらケガ人が続出したらしいから、縁起悪いってことで、使われんくなったらしいやん。取り壊すのに費用かかるから、荒れ放題になったやん」

  このグラウンド、何か空気がどんよりしてるんだよなぁ。何か憑いてるのだろうか……。

  さて、グラウンドの草刈りが夕方までかかることを期待したが、番馬さんの怪力、津灯の俊敏さ、東代の除草機の開発により、わずか2時間で片付いてしまった。

  

  時刻は3時半。他の部活はまだまだ活発な頃だ。

  「ハァー、疲れたぁ。あたい、もう動けへん」

  「子猫ちゃんは、ほとんどサボってたやろ。少しは番馬さんを見習いたまえ」

  山科さんは、三塁ベースを枕にする千井田さんとしゃべっている。番馬さんと同学年なのに、「さん」づけするあたり、やっぱり怖がっているな。

  当の番馬さんはバットを刀みたいに振り下ろして、「殺す、殺す」と連呼している。近寄ったらダメなやつだ。

  「ミス・ツトー、少しパソコン研究会に行ってきます」

  東代が申し訳なさそうに頭を下げる。

  「うん、行ってらっしゃーい。今は3時34分、そろそろ、あたし達も探しに行こか」

  津灯が腕時計を見てからすっくと立ち上がる。

  「あたし達って、俺もか?」

  「うん。だって、さっき、何でもやるって言ってたやんね?」

  「ゲッ!」

  番馬さんにビンタを喰らいたくないと、必死で謝ったことが[[rb:仇 > あだ]]になってしまった……。

  「わかったよ、津灯。そんで、次はどこ探しに行くんだ? サッカー? 水泳?」

  「うーんとね。やっぱ、狙い目は1人で活動している部活かな。野球部入ってワイワイやろと言ったら、食いついてくると思うから」

  「そんな部活あるのか?」

  「あるで。軽音楽部が1人だけやったはず」

  山科さんが左右の瞳を♭(フラット)と#(シャープ)に変えて教えてくれる。軽音楽部の名前が出ると、ファンクラブの女子達が顔を寄せ合って何か話し始める。皆が浮かない表情なので、この部員もクセが強いのだろうか。

  「じゃあ、そこ行こっか、水宮君」

  俺は「おう」と答えて、彼女と一緒に歩き始める。最初は嫌だった野球部員集めも、何かまんざらでもない気がしてきた。

  [newpage]

  軽音楽部の部屋は、2年F組の教室だ。そこから、ハードロックな音楽が聴こえてくる。

  「失礼しまーす」

  ドアを開けた俺達が見たのは、ヴィジュアル系シンガーだった。

  ハリネズミのごとく無数の尖ったオレンジ髪、中央に黒い[[rb:五芒星 > ごぼうせい]]がある赤いバンダナ、紫の眉毛とアイシャドウ、黒い口紅という、悪夢に出てきそうなヴィジュアルだ。背は俺や津灯よりはるかに低いが、威圧感があった。さらに、電子ギターを演奏しつつ、ドラムを足で踏みならし、時折ハーモニカを吹くという離れ技もやってのける。

  俺達は思わず握手してしまう。

  「デヴィッド[[rb:真池 > まいけ]]の軽音楽部へようこそ! 今日からオレと一緒に、ロックな毎日を送ろうぜ!」

  「ごめんね。あたし達、あなたを野球部に誘いに来たの」

  「野球部だって? またデヴィッドはロンリーデイズか……」

  彼はため息を吐いて、西部劇のようにギターをかき鳴らす。会話に英語を挟むのは東代と同じだが、歌うように発音するところが異なる。

  「うー、やはり、デヴィッドのソウル・ミュージックにふれないと、ユーの気持ちは変わらないということか。今から聴かせてあげよう、なぜ軽音楽部がデヴィッド真池1人になったのかを。『Lonely Music Man』」

  誰も頼んでないのに、真池はギターを鳴らしながら歌い始める。その歌声は女性と聞き間違えるほど高かった。

  Lonely Music Man

  作詞・作曲・編曲:デヴィッド真池

  期待を胸に 軽音楽部に入る

  先輩の演奏(プレイ) 楽しくて心躍る

  しかし気になるよ 歌声やギターのテク

  オレが先輩に 手本を見せたなら

  Uh Lonely Music Man

  どれだけレベルアップ求めても

  先輩はついてこれやしない

  去っていく 音楽以外の道見つけて

  教室は オレ1人だけ

  I want a new member

  I seek stimulation

  I wander in loneliness

  You don't know the number of my tears……

  彼は歌い終わると、首を斜めにかたむけ、俺達を手招きする。いや、今は音楽やる気はないから、丁重にお断りしたい。

  津灯は一切かまうことなく、真池に近づいて野球部の良さを話し始める。

  「野球場は音楽で満たされていて、真池さんにピッタリやと思うよ」

  「応援ソングのことかい? デヴィッドは演奏を聴きたいんじゃない、弾きたいんだ」

  真池は一向にうなずこうとしない。彼はドラムセットに座って、一心不乱にドラムを叩き始める。

  「抜群のリズム感、激しく演奏してもバテない体力、是非とも野球部に入ってほしいのに」

  津灯が歯がゆい顔を見せる。野球部入部を賭けた音楽勝負をやるしかないだろう。

  真池はドラムに飽きたのか、キーボードで「Lonely Music Man」を弾き始める。ギター、ドラム、キーボード、どれを演奏してもプロ級である。

  「すげぇなぁ。これ録画して、ユアムーブにUPしたら、物凄く再生されるかも」

  

  俺のつぶやきを聞いた真池は、ピタッと演奏を止める。

  「たくさんUPしてるが、ベストは5000さ……」

  「へぇー、結構やるじゃん」

  「ノン! まだまだまだまだ足りない! デヴィッドはワールドクラスのロックスターになるんだ。そのためにゃ、もっと再生数伸ばさんと」

  彼はヘドバンしながらベースを弾き始める。地獄の業火に焼かれる人みたいな声を出し続ける。それはもうロックじゃなくてヘヴィメタでは?

  「たくさんの人に真池君のロックスターぶりを知ってもらえる方法があるよ」

  「ほう。それはどんな方法だい?」

  「野球部に入って活躍して、全国大会に出るの。そしたら、5万人の観客、1000万の視聴者にアピール出来るよ」

  夏の甲子園球場は常に満員だし、TVの視聴率も10%近くある。ユアムーブでちまちま動画をUPするより、効率はいいと思う。しかし、寄せ集めの野球部で全国大会出場できるほど、高校野球は甘くない。

  それを知らない真池は、食虫花に吸い寄せられる虫のように、話の花に乗ってしまった。

  「グッドじゃないか、高校野球! よっしゃ、野球場をデヴィッド真池のソロコンサート場に変えてやるぜ!」

  「うん! 真池君なら出来るよ!」

  真池はベースを弾きながら、口笛を吹いて上機嫌でクルクル回る。津灯は手拍子を取って笑っている。

  もしかして、俺が動画サイトにふれなかったら、入部してなかった? 俺は自分の頭を小突いて反省した。

  [newpage]

  野球グラウンドに戻れば、山科さんがピッチャーのボールを打ち込んでいる。ピッチャーは誰かと目をこらせば、チェーンやネジがむき出しの人型ロボットが、カクカクした動きでボールを投げていた。

  「なっ、何じゃありゃあ!」

  「オー。ミス・ツトーとミスター・ミズミヤ、お帰りなさい。このロボットは、私とパソコン研究会とロボットクラブが共同開発した“ピッチャー太郎01”です。50マイルから100マイルまでのストレートを投げられます」

  東代がにこやかな顔でさらっと言う。人型のピッチングマシンを作るという偉業をなしとげたというのに、こいつは……。

  「変化球は投げられへんの? カッターとかスプリットとか?」

  スライダー(横に変化)やフォーク(下に落ちる)と言わないあたり、津灯もアメリカンに通じている。

  「ソーリー! ワンナイトでは、そこまでプログラミングが出来ませんでした。変化球はカミングスーンということで」

  「いやいやいや! 昨日・今日で、こんなロボ作れる時点で凄いから、謝ることないって」

  東代は肩をすくめて首をゆっくり横に振って、電車をあと一歩で逃したかのようなため息を吐く。

  「ミスター・ミズミヤ。このロボットは、私がアメリカで研究していたヒューマン・ロボットをアレンジしただけなのです。あらゆるモーションのプログラムをデリート(消去)し、投げるモーションにスペシャライズド(特化)したモノです」

  東代は人間のように動くロボットを作りたかったということか。彼には不本意な成果でも、俺達にとっては大発明に思えるから、もっと誇ってもいいのにな。

  「これでピッチングマシン買う手間がはぶけたね。あとは3人見つけて、出来たらピッチャー経験ある子ほしいね」

  「そんな奴は浜甲にいないって」

  「ピッチャーはここにおるで!」

  グラウンドに柔道着の男が入ってきて叫ぶ。向こうから入部してくるなんて、計算外だぜ。

  (水宮入部まであと3人)

  [newpage]

  [chapter:6球目 日本の幽霊は足がない]

  柔道着の男は左腕をブルンブルン回して、やる気満々だ。俺より背が高くて筋肉質だから、いいボールを投げそうだ。

  「ワイは2年C組の[[rb:取塚 > とりつか]][[rb:礼央 > れお]]や。よろしくな」

  彼は俺や津灯をはじめ、順番に握手していく。あの番馬にもひるまず握手、腕相撲になっても互角だ。彼はドラマにいそうな脇役顔なのに、中々のやり手、とんでもない大物だ。

  「取塚さんは左ピッチャーなんですね。ちょっと、あたしに向かって投げてもらえますか?」

  「ええで。ワイは手加減せんから、気ぃつけぇや」

  取塚さんは大きく振りかぶり、足をゆったりと上げるモーションから、テイクバックに入った瞬間にクイックモーションになって投げる。

  ボールは津灯のミットにうなるように入る。俺や津灯より速い。これは本物のピッチャーだ。

  「すっ、すごい。水宮君と取塚さんの2人がいれば、甲子園行けるわ」

  「こんなピッチャーが、どうして柔道部に?」

  「野球部立ちあげたら良かったのに」

  「おとなしい奴やと思っとったのに、意外とやるやん」

  皆から褒められた取塚さんは頬を紅くして、首筋をポリポリかいている。すると、急に頭をかかえてうずくまる。心配して駆け寄ってみれば、手で払いのけられる。

  「あっ、あっち行け! この悪霊め!」

  「悪霊? 何言ってるんですか、先輩?」

  取塚さんの鼻の穴から、白い煙が出てくる。それは徐々に人型になり、坊主頭で太眉の野球少年の姿になる。

  「このワイを悪霊やとぉ? ワイはただ、甲子園行きとうて、色んな奴に憑いとるだけや」

  「け、煙がしゃべったあ!」

  「煙やない! 幽霊や、ユーレイ! あと一歩で甲子園行けるってトコで死んだから、成仏できへんのや」

  自称・幽霊は青筋を立てて起こる。皆は怖がって後ずさりしているが、東代だけは興味津々で、頭からヒザまで隈なく観察中だ。

  「アハーン。これは人のメモリーの残り香、アザーワード、“[[rb:残留 > ざんりゅう]][[rb:思念 > しねん]]”ですね」

  「はっ? [[rb:巌流 > がんりゅう]][[rb:真剣 > しんけん]]? まぁええわ。皆さん、ワイの悲しい過去を聞いてくれや」

  幽霊は目をしぼませて語り始める。

  [newpage]

  30年前の浜甲学園野球部は、[[rb:夕川 > ゆうかわ]][[rb:黎 > れい]]投手の活躍によって、県大会決勝まで進んだ。夕川投手の速球と落差の大きいスローカーブ(ななめに変化)は、強豪校の強打者を抑えまくっていた。

  決勝戦の朝、夕川はいつも通り10キロランニングに出る。自分が甲子園に手が届く位置まで来たので、かなり興奮していた。気合いのハチマキをつけて、頬をバシバシ叩く。

  「今日も頑張るぞー」

  彼は自宅から浜甲までの間を5往復する。道ゆく人が頑張ってな、応援しとると、声をかけてくれる。彼は明るく手を振って、走りを加速させる。

  交差点にさしかかった時、三輪車の子どもにトラックが突っ込むのが見えた。彼は「危ない!」と叫んで、子どもを歩道へ突き飛ばす。子どもは助かったが、彼の体は3メートル先の電柱に衝突して帰らぬ人となった。

  夕川なき浜甲学園は[[rb:良徳 > りょうとく]]学園に3―15の大敗で、甲子園出場を逃した。それ以降の浜甲は、初戦突破できるかできないかの弱小校に成り下がる。

  20年前に野球部員の飲酒や喫煙、集団いじめが発覚して廃部に。その後、野球部を復活させようとする者が何度か現れたが、部員が集まらなかったり、ケガ人が続出したりして失敗している。

  [newpage]

  「というワケで、ワイは野球部を復活させようと、色んな奴に憑いて頑張ってきたんや」

  腕を組んだ幽霊の夕川さんが目を閉じて、うんうんうなずく。憑かれた取塚さんは額にしわを刻んで、明らかに嫌がっている。

  「夕川さんほどの熱意があったら、もっと前に野球部は復活してたのに」

  「ワイの灼熱の精神があっても、何か上手くいかんくてなぁ」

  「20年前に野球部が廃部になった後、理事長が野球部復活を夢見て、新しい野球グラウンドを作った。だが、その場所は立地が悪かった」

  どこからともなく、高い少年の声が聞こえてきた。グラウンドの出入り口を見ると、黒いカラスの口ばしが生えた怪しい男が数珠と水晶玉を持って、歩み寄ってくる。

  「何故なら、この場所は、戦時中に多くの命が失われた病院跡地やった。野球部の復活が上手くいかないのは、彼らの呪いなんや。さぁ、迷える霊よ、姿を現せぇ!」

  カラス男が水晶玉から光を放つと、おぞましい姿の幽霊たちが出現した。千井田さんがチーター化、番馬さんが赤鬼化して戦ったが、物理攻撃が一切効かない。

  「僕の誘惑の瞳なら、女性の幽霊を落とせるはず! ねぇ、君、おとなしく成仏しないか?」

  山科さんは女性の優麗に星が出るウインクをしたが、瞬く間に他の優麗に囲まれて精気を吸われてしまった。うわぁ……、かなりヤバいぞ、これ……。

  取塚さんと山科ファンクラブの方々はベンチの中に隠れる。東代はピッチャー太郎01をドライバーでいじっているが、絶対に間に合わない。

  「デヴィッドのハードロックなデスヴォイスでヘル(地獄)へ送ってあげよう! ヴォ―!」

  真池がかわき切った声を上げるも、たちまち精気を吸われて、体自体がカラッカラになってしまった……。合掌。

  「早く! 俺っちの後ろに隠れて!」

  俺達は慌ててカラス男の後ろへ走る。カラス男は何かの印を結ぶと、手が黒い翼に変わり、全身に羽毛が生えて、正真正銘の烏人間になった。

  「近所のカラスに聞いといて良かったわ。この高校の悪霊は、この地の神の力を借りる。んんん!」

  カラス男が念じると、水晶玉がタイになり、数珠が釣り竿に変わった。彼は笑顔を見せてあぐらをかく。

  「まぁ、みんな。宴会でもしようや」

  カラス男の声は低いおっさん声になっている。幽霊たちの前に酒や魚料理が並び、それを飲み食いし始めた。

  「ど、どうなってんの?」

  「パハップス(多分)、この地のエビス神のパワーを利用しているんでしょう。」

  幽霊に加えて、神様まで出てきた。何かとんでもないことになってきたな、妖怪大戦争か? 幽霊は腹が満たされたのか、次々と透明になって成仏していく。

  「凄い! 生の除霊シーン、始めて見た!」

  津灯は大興奮して、スマホで録画し始める。全ての幽霊が消えると、カラス男は元の口ばしスタイルに戻り、ヒザから落ちる。

  「うう……。さすがに、土地神の力借りるんはキツいわ……」

  「除霊ありがとう!」

  津灯がカラス男に笑顔を見せると、男は頬を染めて口ばしが開けっ放しになった。

  「あ、あの、俺っち、俺も、野球部に入ってもええですか?」

  急に凛々しい表情になり、低いイケボで喋り始める。わかりやすぎだろ、こいつ……。

  「野球部に入ってくれるん? ありがとう! 名前を教えてくれる?」

  「俺は1年A組の[[rb:烏丸 > からすま]][[rb:天飛 > てんと]]、妖怪や悪霊退治を行っている、しがない霊能力者であります」

  「あたしは津灯麻里。敬語じゃなくてタメでいいよ」

  烏丸も入部してしまった。よく見たら、始業式の日に電線で鳴いていたカラス男だわ。

  「烏丸君、こいつを成仏させてほしいんやけど」

  「何ぃ!? ワイは悪霊やないし、甲子園行くまでは絶対に成仏せぇへんぞ!」

  取塚さんと幽霊がいがみ合っている。

  「悪い妖気はないから、ムリに除霊できへんなぁ」

  「野球部入って、甲子園行きましょうよ」

  取塚さんは口をへの字にして入部を決意する。彼は氷のように冷え切った目で夕川さんを見る。

  「甲子園出たら成仏しろよ」

  「わかっとる。ワイの左腕で、野球部を甲子園連れてったるで」

  幽霊は取塚さんの体の中に入って、左腕を扇風機みたいに回す。ついに8人目だ、ヤバイよヤバいよ。

  山科さんと真池が治療のために保健室へ行き、山科ファンクラブの3人もついて行く。番馬さんは改善組の働きぶりを見るため、東代は幽霊騒動で壊れたピッチャー太郎を修理するため、グラウンドを去った。これで、グラウンド再整備のメンバーが減った。

  こうして、俺達は日が暮れるまで、荒れたグラウンドの整備を行った。当然、部員の勧誘は出来ない。俺は、野球部入部の波から逃げられそうだ。

  (水宮入部まであと1人)

  [newpage]

  [chapter:7球目 野球は9人いないと始められない]

  セミがけたたましく鳴く中、神奈川県の準決勝は、最終回の大事な局面を迎えていた。

  俺達の[[rb:湘南 > しょうなん]]キングフィッシャーズは、相手投手を攻め立てて、二死(ツーアウト)ながら満塁の大チャンスを作った。打席に立つのは3番の俺、今日は2本ともヒットを打ってて絶好調だ。

  「ルイ打てよー! ホームランじゃあ!」

  ベンチの親父がメガホンで応援する。言われなくとも、大きいのを狙うつもりだ。

  相手投手の[[rb:刈摩 > かるま]]は、俺の前の2人を四球(フォアボール)で歩かしている。ここはストライクを入れたいところ。初球を狙い打ってやる。

  「これで決める! アイアンボール!」

  相手が投げたボールが鉄球に変化する。ど真ん中にきたので打ったが、ボテボテのピッチャーゴロになってしまった。俺は全力で走るも、ファーストにボールが送られてゲームセット。

  

  俺の中学野球は終わってしまった。

  試合後、親父が俺を正座させて説教し始める。

  「何であんな超能力ボール打ったんだ? 超能力を使えるのがあと1回だったから、見逃せば良かっただろう?」

  「ごめん。初球から打たなきゃと思って」

  「バットを止める・投げる、わざとファールにするなど、色々な方法があんだろ? 俺が教えたことを忘れたのか?」

  親父は腕を組んだまま、ゴリラみたいに怖い顔をしている。

  「忘れてない。ちゃんと覚えてる」

  「いいや、嘘だ。お前は忘れてる。4回表にタイムリーくらった時も、ピンチでもあえてボールから入る教えを忘れてただろう?」

  「だったら、ちゃんと指示してくれよ!」

  「指示待ち人間がプロに行けるか! 俺の指導を覚えた上で、ちゃんと自分で考えろ!」

  親父がメガホンを地面に叩きつける。

  「んなのムリだよ!」

  「なにぃ!? 俺の言うことが聞けないのかぁ!」

  親父の右拳が俺の頬に、当たらなかった。とっさに母さんが俺の前に飛び出して、腹で受け止めたのだ。

  「もうやめて! ルイはあんたの道具やない!」

  普通の親なら、自分のあやまちに気づいて「やりすぎた」と言って、反省するはずだ。だが、クソ親父は違った。

  「うっせぇ! 俺の夢をジャマすんなぁ!!」

  母さんの腹に鋭い蹴りが入る。俺の目の前で、母さんがひざから崩れ落ちる。俺はあまりのショックに言葉を失う。これが夢なら早く覚めてくれ。真夏の夜の悪夢であってほしい。

  [newpage]

  目が覚めると、自分の部屋の机につっぷしていた。また、あの日の悪夢を見ていたようだ。あの日以来、親父と母さんは口を聞かなくなり、9月に離婚した。今年の4月から、俺は母さんの実家に引っ越して、今に至る。

  親父に強制的にやらされていた野球には二度と関わらないと、決めていた。俺が野球をやったら、母さんにクソ親父を思い出させてしまう。もう母さんを悲しませたくない。

  だが、その決意は、津灯との出会いをきっかけに揺らぎ始める。

  「ルイ、なんか女の子来とるで」

  母さんがノックしながら教えてくれる。女の子って、まさか津灯じゃないだろうな。

  ドアを開ければ、津灯と知らない女子が立っていた。

  「水宮君、9人そろったよ! これで、水宮君も野球部やね!」

  「私なんか野球ムリやってぇ。麻里ちゃんのアホ―」

  

  青縁の眼鏡をかけた女子が、津灯の肩を文庫本で叩く。

  「スーちゃんは速読のプロやから、きっと水宮君のストレート打てるよ」

  「んもう、麻里ちゃん大げさなこと言わんといて」

  2人はかなり仲良しのようだ。親友が近くにいない俺から見れば、とてもうらやましい。

  「まさか、2日で8人集めるとはなぁ。わかったよ。明日から野球部員として、あいつらをビシバシ指導してやるよ」

  「ホンマに? ありがと、水宮君。イケメーン!」

  「お手柔らかにお願いします」

  2人が頭を下げて帰って行くと、母さんがえびす顔で俺に声をかける。

  「とても面白そうな子やないの。こっちで友人出来て良かったね」

  「ああ。母さん、俺が野球やっても大丈夫か?」

  母さんの表情が一瞬くもったが、すぐに快晴の笑みに変わる。

  「ルイがやりたいんなら、やればええよ」

  「わかった。ありがとう、母さん」

  俺はそう言って、自室に戻る。押入れの奥からグローブやバットなどが入った段ボール箱を取り出す。クソ親父の命令じゃない、俺の意志で野球をやるんだ。

  チーター、天才、赤鬼番長、カラスなど、クセの強いキャラと一緒なら、きっと愉快な野球が出来るだろう。明日になるのが、とても楽しみだ。

  (1回表終了)

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