耳をすませば

  始発で会社へと向かい、終電で自宅へと戻る。劣悪な環境で働く私は心身ともに限界だった。

  もうすぐ電車が来る。今日は思い切って、線路に飛び込んでみようか…なんて考えていると足は自然と前へと動いていた。

  あとちょっとで、楽になれる…そんな私の手がグッと引かれた。

  電車はいつも通り到着する。死ねなかった…私を助けたであろう相手を睨みつける。

  すると相手は私以上に憤怒の表情を浮かべていた。

  「ちょっと!この電車の音は素晴らしいものなんですよ!自殺するにしても、この路線ではやめて下さい!」

  その相手は鉄道オタクだった。何だか、一気に気が抜ける。私、何やっているんだろう…

  そんな私に、鉄オタは電車の音を聞かせてくれた。規則的で、穏やかなその音。故郷を思い出す。

  「辛かったら、逃げていいんですよ。貴方の人生、今走っているレールからは不協和音しかしません」

  鉄オタの言葉に私は会社を辞める決意をした。それだけで心が軽くなった。