嫌われ者の狼獣人"達"が俺の恋人になるまでの話 ①

  高校生の頃は、大学生活に憧れていた。

  サークルに入って彼女を作り、仲間同士でテスト勉強をして、酒を飲んで彼女を作って、童貞を卒業して、将来のお嫁さん候補を見つける⋯。

  妄想を膨らませながら入学したわけだが、俺の期待は2人の人間⋯⋯いや、獣人によって大きくぶち壊される事になる。

  出会ったばかりの頃は少し怖くて、避けてしまう時もあった。

  それでも、いつの日か狼達と心を通わせるようになり、今は俺と共に暮らし、笑いあって毎日を過ごしている。

  感動で涙を流す物語でも、爆笑で腹がよじれる物語でもないけど、何処にでもあるただの惚気話を聞いて欲しい。

  【嫌われ者の狼獣人"達"が俺の恋人になるまでの話】

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  子供の頃から内気な性格の俺は、今まで友人と呼べる奴も数える程しかいなかった。部活にも入らず、唯一の趣味といったら筋トレぐらいだ。その筋トレも、強くなれば誰かに頼ってもらえるのではと思い始めたものだが、結果は虚しく人間関係は何も変わらなかった。

  平凡な顔立ちに面白みもない性格、こんな奴を好いてくれる稀有な奴なんて、相当変わった変人だと思う。

  俺自身もそう理解しているから、大学生デビューを起点にどうにか自分を変えようと覚悟を決めてきた。

  「⋯⋯⋯よし、行くか」

  初めての大学に初めての出会い。緊張するが初日に話せる友人を作れるかどうかが重要だ。俺の計画を少しだけ教えておくと、まずは入学式で隣になった奴に優しく話しかけようと思う。

  (高校はどこですか⋯好きな食べ物は何ですか⋯)

  まぁこの辺りが定番だろう。ハズレは無いって感じだ。そこから気軽に話せるようになって、そいつと一緒にサークル勧誘を見て回ったり、履修登録をするんだ。できれば人間の女の子がいいな、うん。

  獣人の女子も嫌いという訳では無いが、小さい頃に散々虐められた記憶があるため、自分からは近付かないようにしている。

  俺が生まれるずっと昔は、互いの種族間で争いがあったらしいが、今の時代は人間と獣人は対等で協力し合いながら生きている。俺の周りにいた奴は皆凶暴すぎて疑わしいが。

  「⋯⋯⋯やっと着いた⋯」

  勉強も運動も並程度にはできるが、そんな俺にも弱点はある。それは極度の方向音痴だということ。小さい頃は街の不良グループがたむろする裏通りに進んでしまい、大急ぎで帰ったものだ。登校初日も想定の3倍時間が掛かってしまった。

  俺の通う大学は都内に構えているが、偏差値は高くもなく低くもなく、至って平凡な大学だ。 校舎は比較的最近建てられ、綺麗なところが魅力だろうか。

  入学式の会場につくと、入学祝いの胸につけるブローチを渡された。美しい花の飾りだが、あいにくその方面の知識は明るくない。

  「学籍番号⋯⋯wlh10013ですね。こちらへどうぞ」

  初めて自分の学籍番号を聞いた。上級生であろう男に案内され、自分の席に座る。周りをチラチラと見てみると、既に隣同士で仲良く話していたり、俺のように大人しく座っている獣人がいたり、十人十色だ。

  (お、俺も誰かと⋯⋯)

  両隣にはまだ人がいない。後ろや前には人がいるが、既に違う人と話している。

  (うぅ⋯⋯む、無理だ⋯⋯)

  少し時間が経ち、殆どの生徒が席に座り間もなく入学式が始まる⋯⋯のだが、何故か俺の両隣の2席だけ空いている。高校時代に避けられていた時期を思い出すが、大学に入っていきなり同じような体験をするなんて⋯⋯。

  「なぁ兄ちゃん。オレ達の席、この辺だってよ」

  「ん⋯⋯あぁ、見つけた⋯⋯⋯?」

  野太い声が2つ聞こえた。俯きながら入学式の開始を待っていた俺は、いつの間にか近づいていた2つの影の存在に気付かなかった。

  「なぁ、人間さんよ⋯⋯席、間違えてねぇか?」

  見上げるとそこには、2人の狼獣人。

  顔の形や身長は非常に似通っていて、見分けがつかない⋯⋯と思ったが、よく見ると筋肉量と毛皮の色が少し違う。

  ガタイが良くて固い雰囲気を纏う狼は濃い灰色の毛皮、もう一方の狼は細マッチョと言うべきだろうか、女子にモテそうな軽い雰囲気と、片方と比べて薄い灰色の毛皮。

  顔立ちは殆ど変わらなく、どちらも愛嬌があるとは言い難い。種族は多分ハイイロオオカミ⋯⋯知らんけど。

  「⋯⋯!?⋯⋯い、いえ、間違えてませんけど⋯」

  「⋯?兄ちゃん、席の番号教えてくれ。オレは10012」

  「俺は10014⋯⋯俺達の間に1人いるようだな」

  狼狽える俺を他所に会話を進める2人だが、周りから注目されている事に気付いているのだろうか。

  「マジで?⋯⋯人間さん、名前教えてくれねぇか??」

  「あ、えっと、如月健介⋯です⋯」

  「健介⋯⋯けん⋯じろう、すけ、たろう⋯⋯うお、すげぇ!なぁ、兄ちゃん!」

  「あぁ、珍しいな」

  「あ、あの⋯⋯何の話⋯?」

  壇上に立つ教員の目が刺さってるんだって、マジで。賑やかな大学生活を夢見たけど、こんな展開を望んでたんじゃないよ。

  「あ、オレ達双子なんだけどな、俺の名前が如月犬次郎で、兄ちゃんの名前が如月犬太郎なんだよ!」

  「は、はぁ⋯⋯」

  「俺達の名前は似ているからな。苗字も珍しい、出席番号もずっと隣同士だったんだが⋯⋯間に人がいるのは初めてだ」

  「えっと⋯⋯良ければ席、ずれましょうか⋯?」

  これ以上注目の的になるのはごめんだ。

  「いや、いい。犬次郎、座るぞ」

  「へいへい⋯⋯仲良くしようぜぇ、⋯⋯人間さんよ」

  俺の両隣にどっしりと座る獣人⋯ガタイが良い方が兄で、軽めな性格の方が弟らしい。式の途中で学長が長話をしている最中、兄の方は大人しくしていたが弟の方はクンクンと俺の匂いを嗅いでいる。全く集中できないんだが。

  「⋯⋯これから輝かしい学生生活が始まります。健康に過ごしてください⋯それでは、私の話を終わりにします」

  長い学長の話が終わり、これから各クラスに別れてレクリエーションが行われるようだ。学籍番号で組分けされるようだが、勿論⋯隣の双子狼も同じクラスになる。

  「なぁ兄ちゃん、こいつの匂いおかしくね~?」

  「あまり失礼な事をするな⋯⋯だが、確かに⋯」

  (食われる⋯⋯⋯)

  今のご時世、獣人と獣を混合させたような発言はご法度だが、それでも言わせて欲しい。獲物を前にした野獣のような目で俺を見てくるのだ。その様相はさながら猟犬である。

  「あ、あの⋯⋯オリエンテーションあるから、移動しないと⋯⋯」

  俺と双子狼以外の生徒達は、既に指定の教室に行ってしまった。まるで関わりたくないというように、そそくさと逃げていったのだ。

  「そんじゃあ一緒に行こうぜぇ?⋯⋯まさか、断ったりしねぇよな?」

  「離れろ犬次郎⋯すまん、迷惑を掛けた。ほら、行くぞ」

  「痛ってぇ!?おい、耳引っ張んなよなぁ!!」

  牙をチラつかせながら肩を組んでくる弟狼を諌める兄狼。相変わらず顔は怖いが、一応常識人のようだ。頭を下げた兄狼は弟を連れてスタスタと去ってしまった。

  (⋯⋯⋯何なんだよ⋯⋯あ、俺も行かないと⋯)

  少し間を置いてから、オリエンテーションの予定時刻に間に合うように教室に向かう。そんな俺の周りには、普段通りというべきかやはり誰も居なかった。とても悲しい。

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  「うわ、何だあれ⋯⋯同じ顔が2つ、しかも怖ぇ〜」

  「聞こえるぞ⋯⋯でも確かに。なぁ、お前もそう思うだろ?」

  「⋯⋯そ、そうかな⋯」

  初めて会う同級生が、初めて見る同級生の狼の陰口を言っている。教室に着いた俺は適当な席に座ったのだが、如何にも性格が悪そうな男が話しかけてきた。

  「お前、さっき絡まれてたろ?あんま関わんない方がいいぜ、ああいう奴」

  「⋯⋯⋯うん」

  気分が悪い。俺はどちらかと言うと陰口を叩かれてきた側の人間だ。だが、何よりも気に食わないのが、不愉快な発言にただ同意するだけの俺の⋯⋯。

  正直、俺も少し怖い。だが、本人に聞こえる声量で言うべきではないだろ。

  「⋯⋯⋯おい、テメェ⋯⋯」

  「ん⋯⋯う、うぉぉ!!何だよ!?」

  「オレ達に用でもあんのか??あぁん?」

  ⋯⋯うん、この場合は、言われる側にも少し責任があるんじゃないか?初対面の相手に悪口を言う奴は好きじゃないが、初対面の相手にガンを飛ばす奴もあまり好きじゃない。やっぱり関わらない方向性で⋯。

  「⋯⋯⋯犬次郎、戻ってこい」

  「⋯⋯⋯へいへい」

  殴り掛かりそうな勢いだったが、兄が諫めれば弟は大人しく戻ってくる。上下関係が明白っぽいな。

  「怖ぇ〜⋯⋯やっぱ近寄んない方がいいな、アイツらには」

  ⋯⋯⋯お前にも近付きたくはないけど。

  担任制の大学だったため、担当教員から今後の学校行事の流れや履修登録の注意点、ゼミやサークルの事について説明された。その後、それぞれが自己紹介を行う事になった。

  事前に内容は考えてきたが、出番が近づくとやはり緊張してしまう。俺の直前、双子狼の弟の番になった。

  「⋯如月犬次郎、隣の兄ちゃんとは双子。どーぞよろしく」

  陰口を叩かれた時の機嫌が直っていないのだろうか、明らかに面倒臭そうな態度を示しながら、棒読みで自己紹介が終わった。兄狼のため息が聞こえるが、当然というべきか、他の学生にも印象は良くない。

  (そんな態度だから嫌われるのでは⋯⋯)

  本心は心の中だけに留めておいて、満を持して俺の出番が回ってきた。言いたい事を整理し、勢いよく席を立つ。

  「お、俺は如月健介です!趣味は筋トレで、好きな食べ物は⋯⋯オムライスです⋯⋯!友達作れたら嬉しいです!よろしくお願いします!」

  一応、考えてきた内容は全部言えた。周りの反応が気になるが、どうも皆の頭の上にクエスチョンが浮かんでいるようだ。

  「⋯⋯すっげぇ早口だったな⋯⋯好きな食べ物って⋯⋯」

  「なんて言ってるか全然分かんなかった⋯⋯」

  小さな拍手が響く中で、いつもと同じ癖が出てしまった事に気が付いた。昔からいつもそうなのだ。何かの本番や皆から注目される場面になると、異常に早口になり、なんて言っているのか分からなくなる。

  (やっちまった⋯⋯)

  無事に最初の1歩を踏み外した俺は、項垂れながら席に座る。ズッコケ具合なら弟狼といい勝負だ。

  次は兄狼の番だ。今までの印象だと弟狼とは違って常識的な感性は持ってそうだが⋯⋯。

  「如月犬太郎です。狼が嫌われている事は知っていますが、何かされない限り俺達から何かする事はありません」

  兄狼は表情を変えないまま、淡々と話し始めた。声色は一定で、まるでロボットのようだ。

  「できる限り、他の人と同じように接してくれたら嬉しいです⋯⋯これからよろしくお願いします」

  先程俺に話しかけてきた口調とはまるで別人のようだ。周りの人間もみなぽかんとしてしまっているが、漂う妙な空気を全く気にしていないように席に座ってしまった。

  「⋯⋯⋯兄ちゃん、いいのかよ」

  「⋯⋯構わん、これが最善だ」

  次々と自己紹介が進む中、真後ろの双子が呟いた会話を俺は聞き逃さなかった。最初から拒絶される事が分かっているのか、牽制の意味も込めているのかもしれない。

  (狼獣人ってのも大変だな⋯⋯まぁ俺には関係ないけど)

  担任の説明が終わり、今日の予定は全て終了した。あとは家に帰るだけなのだが、せっかくの大学初日。友人を作って誰かと校舎を見て回りたい。

  (誰かに話しかけたいな⋯⋯あれ、なんで皆離れてく?)

  俺が近付こうすると、皆そそくさと逃げてしまう。自己紹介は少しミスったが、避けられるような事はしてないはずだ。

  「あの、ちょっと⋯」

  「あ、ごめん、如月君⋯⋯また今度ね!!」

  クラスメイトの1人が俺の目線より少し高い所を見ながらそう叫ぶ。その時、俺の背後に大きな影がある事に気が付いた。

  「⋯⋯少しいいか」

  「⋯⋯⋯えっと⋯⋯」

  確かめるまでもなく、例の双子狼だ。俺より20cmぐらい背が高いんじゃないか?一応俺、タッパは175ぐらいあるんだが。

  「わりぃけどよ、ちょっと付き合えや。どうせ暇だろ??」

  さっき、ほんの少しでも同情した事を後悔する。こいつら、普通に接して欲しいとか言ってたくせに、早速俺を巻き込んでるじゃないか。

  「少し頼みたい事があるんだ⋯⋯聞いてくれるか?」

  兄狼が困ったような口調で頭を下げてきた。出会ったばかりの俺に何を要求するのか、その姿はやけに深刻そうだ。

  「えー⋯⋯な、なに?」

  「話を聞いてくれるのか⋯⋯ありがとう」

  「人間さんよぉ、履修の手引きってやつ読んだか?」

  「履修の手引き⋯⋯うん、読んだけど」

  「なら、オレ達が受ける必修科目は知ってるよな?」

  入学予定者には、事前に履修の手引きという冊子が配送されている。その冊子を見て事前に必修科目などを把握し、教科書や道具を揃えるのだ。

  「そこで頼みなんだが、お金を渡すから俺達の分の教科書を買ってきて貰えないか?」

  俺達の大学は通信販売はなく、教科書類は学内での購入になる。学生証とお金さえあれば誰でも購入できるものだが⋯。

  「⋯⋯あの、なんで俺が⋯?」

  所謂パシリというやつだろうか。こういうのは最初に断っておかないと後々まで引きずる事になる。でも、パシリを要求してくる奴が頭を下げてまで頼み込むか?

  「オレ達、入学式が始まる前に教科書を買いに行ったんだけどよ⋯そこの店員が怯えきっちまってな」

  「⋯⋯⋯あ、売って貰えなかったんだ⋯」

  コクンと頷く双子狼。さらに兄狼が話を続ける。

  「⋯⋯大事になって、入学式に遅れてしまったんだ。俺達の教科書は俺達が買いに行くのが筋なんだが⋯また騒動を起こしたくないんだ」

  なるほど、だから代理である俺に頼んでるのか。それならパシリじゃないし引き受けてもいいけど⋯。

  (⋯⋯教科書を買おうとしただけで怖がられるのかよ⋯)

  兎などを初めとする草食や、比較的温和な性格を有している種族は人間達と上手く共存できているが、目の前の狼や虎などの肉食は馴染めない奴が多いイメージだ。今まで獣人の境遇なんて気にしてこなかったが、街中ですれ違う肉食獣人の一人一人が色々と苦労しているのかもしれない。

  「分かった。ちょうど俺も教科書買おうと思ってたからさ、ついでに買ってくるよ」

  「⋯⋯⋯いいのか?」

  「うん。お金も渡してくれるし、全然オッケー⋯⋯?」

  気付いたら、目の前の双子狼は無表情のまま口を開けていた。何かに驚いたような、鳩が豆鉄砲とはこういう事を言うのだろう。

  「なぁ、兄ちゃん⋯⋯こいつ、やっぱ珍しくね??」

  「あぁ⋯⋯お金を渡しておくぞ、お釣りは手間賃として貰ってくれ」

  「べ、別にいいのに⋯⋯」

  真正面から褒められたり礼を言われるとむず痒いな。

  「じゃあ、行ってくるから此処で待ってて」

  双子狼に見送られ、俺は急いで教科書を買いに走った。状況が特殊とはいえ、久々に頼りにされて少し浮かれていたのかもしれない。

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  購買には少しだけ列ができていたが、あまり時間を掛けずにすぐに買えた。狼達が待っている教室に戻ると、そこには双子の姿はなく、上級生であろう人間達が複数人いた。

  「あの、すみません⋯⋯さっきまでここにいた狼獣人知りませんか?」

  「ん⋯?あぁ、狼が言ってたのはお前か。俺達が教室に入ったらすぐに出ていったぜ⋯⋯お前に伝言を残してな」

  伝言⋯⋯自主的に離れていったのか、追い出された感じはしないな。

  「なんか屋上前の階段で待ってるらしいぜ?」

  「屋上前⋯⋯分かりました、ありがとうございます」

  礼を言い教室を出る。多分この校舎の屋上だと思うけど⋯あまり待たせるのも悪い。急いで向かおう。

  「⋯⋯⋯お、来たぜ兄ちゃん」

  「勝手に場所を変えてすまないな」

  「いや、別にいいけど⋯⋯はい、教科書」

  流石に3人分の荷物は重かった。

  「⋯⋯⋯あの、離して欲しいな⋯⋯?」

  兄狼に教科書を渡した瞬間、反対の手で腕を掴まれた。

  「⋯⋯⋯犬次郎、匂うか?」

  すると弟狼が俺のうなじに鼻を近づけ、入学式の時より激しく匂いを確かめている。

  「うぉぉ!!?やめて、くすぐってぇ!!!」

  「⋯⋯⋯おい、人間さんよ。オレ達の事、どう思う?」

  「は、はぁ⋯⋯?」

  「⋯⋯お前からは匂いがしないんだ。俺達を遠ざけるような、不愉快な匂いが」

  「不愉快な匂い⋯?」

  うなじに鼻先を突っ込まれたまま、兄狼が話し始める。

  彼らの嗅覚は特殊な能力を持っているようで、細かくは理解できなかったが、ざっくり言うと相手が抱いている感情が匂いで分かるらしい。

  「⋯それは、大変だな⋯きっと俺には理解できないぐらい」

  「⋯⋯オレ達のこと、怖くないのか??」

  「いや、普通に顔とか怖いけど⋯⋯」

  「なっ⋯⋯この流れでそれ言うかよ!?」

  「でも、他の奴と別に変わんないよ」

  目の前の狼達とは比べ物にならないほど醜い人間や獣人を、俺は知っている。それに比べたらこの双子は自分達から問題は起こさず、寧ろ他人に気遣いができる良い奴だ。人付き合いが苦手な俺でも、もしかしたら仲良くなれるかもしれない⋯⋯なんて、俺が勝手に思ってるだけか。

  「⋯⋯⋯!?」

  「あれ、兄ちゃん、なんか甘い匂いが⋯⋯」

  「教科書、助かった。また話してくれたら嬉しい⋯⋯俺達は帰る。行くぞ、犬次郎」

  「あ、あぁ⋯⋯またな、健介!」

  「おう⋯⋯何だったんだ、アイツら⋯」

  毛皮に包まれていても分かるぐらい赤くなった双子の顔。大急ぎで階段を駆け下りる姿を見送ってから、完全に予定が狂った大学初日を終える事になった。

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  如月健介と別れた俺達は、周りの人間から不審な目を向けられながらも早足で自宅へ向かった。両親の元から離れ、2人で暮らし始めてまだ1週間だが、周りに家が少ない土地を選んだため非常に住みやすい。

  「⋯⋯なぁ、兄ちゃん、なんかオレ、めっちゃ勃起してんだけど発情期かな??」

  「いや、俺もだ⋯発情期にしては時期がいつもと違いすぎる」

  初めて彼と接した時は驚いた。今まで出会った人間から漏れなく発せられていた『不快』な匂いが全くしないのだ。

  俺達双子は、他人から向けられている感情を匂いとして嗅ぎとる事ができる。例えば、両親からは『愛情』、弟からは『信頼』、人間からは『嫌悪』⋯このような具合に、特異体質のせいで救われる事もあれば苦しめられる事もあった。

  「やっぱあいつの匂いか⋯?兄ちゃんは何を感じた?」

  「恐怖、緊張、同情⋯⋯あと1つ、分からない匂いが⋯」

  「だよな!俺も似たような感じ⋯最後に香った匂いだけは分かんねぇんだよな〜、今まで嗅いだ記憶もねぇ」

  感情の正体は分からないが、とにかく彼の匂いが俺達の性欲を呼び起こしたのは事実だ。

  強面の双子狼がスーツを膨らませながら歩いている光景は異常だが、理性が吹き飛ぶ程の発情では無い。人気の無い場所をできるだけ歩くようにして、何とか家まで着いた。

  靴を脱ぎ荷物を置いた後、犬次郎は俺の腕を引き自身のシングルベッドに押し倒す。

  「兄ちゃん、どうする?因みにオレは抜きたい」

  「⋯⋯俺は構わないが、スーツは掛けておけよ」

  物心ついた時から、俺達の味方は両親だけだった。最初から人間と仲良くなれるとは思えなかったし、草食は草食、肉食は肉食で仲間内になりやすい獣人だが、双子である俺達は上手く馴染めなかったのだ。同じような顔が2つ並んでいるのは、幼い子供にとって揶揄う対象になりやすかった。

  勿論、恋人ができる機会も無く、性に興味を抱く時期も相談相手が弟しかいなかった。朝目覚めたら肉棒が膨らんでいる理由を知らず、弟に相談した結果、悪戯に弄られ白濁液を撒き散らしたのが俺の初射精。

  弟は俺より先に精通していたらしく、小学4年時には既に自慰をしていたらしい。

  「犬次郎、今日は書類を纏めたり履修の準備をしたり⋯⋯あまり激しくはできないぞ?」

  「え〜⋯⋯オレ、腹疼いてんだけどな⋯⋯しゃーない、フェラまでにしとくか」

  昔は両親が寝静まった後、夜な夜な2人で肉棒を扱きあったものだ。恋愛感情はお互い全くないが、元来性欲が強い獣人は何とかして欲を満たす手段を見出す。通常は彼女との愛瀬や友人とのじゃれあいだったりするのだが、俺達の場合は違った。

  最初は互いの肉棒を弄り合う事から始まり、我慢汁や精液を触り、舐め合う。そこから直接肉棒を吸い合い、濃厚な雄汁を啜り合う事もあった。

  交尾に至るまでは多くの時間を要した。最初は挿入に興味があった弟に攻めを譲ったが、その後何だかんだあって俺が攻めになっている。『兄ちゃんを犯すのは⋯⋯なんか違うな』と言っていた。

  俺自身はどちらでもいいのだが、弟の要望に従っている。なんたって俺の可愛い弟だ。できる限りの事はしてやりたい。

  「⋯⋯うはっ、兄ちゃん下着めっちゃ濡れてる⋯相当溜めてんだろ?」

  「引越し以来一度も抜いてないからな⋯⋯」

  四つん這いになり、弟が下着の上から俺の肉棒を愛撫する。昔は稚拙な慰めだったが、今となっては性感を正確に捉え、どうすれば俺を唸らせる事ができるかを熟知している。

  「我慢汁勿体ねぇ⋯⋯直接舐めていいか?」

  「"待て"なんてできた試しあるか?」

  「⋯⋯ない!」

  数日溜まっているせいか、普段より雁が張っている気がする。下着を脱がされ全裸になった俺は、誘惑するように赤黒い亀頭を鼻先に向ける。こうすると弟の余裕が無くなるのだ。

  「⋯⋯あはっ⋯⋯は⋯⋯前より雄クセェ⋯⋯」

  「もう目が潤んでるぞ⋯⋯ほら、裏スジから舐めろ」

  「おう⋯⋯うわ、ちゃんと洗ってるか?⋯⋯昔から頑張って剥いてたのに、結局仮性だもんな⋯⋯」

  潔癖症な方⋯だとは思うが、体質のせいか恥垢が溜まりやすいのだ。弟は嫌いじゃないようだが⋯⋯いくら兄弟とはいえ恥ずかしい。

  「⋯⋯黙って舐めろ」

  「へいへい⋯⋯」

  皮を剥き臭いを堪能した後、ヌルヌルの舌で竿を舐め始める。裏スジから雁、玉の裏まで余すとこ無く舐め尽くす。俺は弟のように上手く奉仕する事はできない。だが、一生懸命にちんぽをしゃぶる姿に徐々に金玉が上がってくる。

  「んっ⋯⋯んむっ⋯⋯⋯」

  「ぐっ⋯⋯待て、出そうだ⋯」

  「えっ、早くね⋯?⋯⋯兄ちゃん、早漏?」

  「ち、違う!!⋯⋯はずだ⋯⋯っ」

  上ってくる精液を感じながら、俺は喉奥へのピストンを早めた。弟の興奮も最大になり、手の肉球を濡らしながら必死に自身の肉棒を扱いている。

  「あっ、兄ちゃん⋯⋯汁やっべぇ⋯⋯!!早く出せよ、飲んでやるから⋯⋯♡俺もイくかも⋯⋯♡」

  「お前も早いな⋯⋯あ、でる、出るぞ⋯⋯!!」

  ドピュッドピュッドピュ⋯⋯ピュ⋯⋯

  勢いよく飛び出した子種が弟の喉に絡みつく。口から精液が溢れ俺より少し薄い体毛にも降り掛かる。苦しそうにしながらも、うっとりとした顔をしながら飲み込んでいく弟を愛しく思いながら絶頂の快楽に浸る。

  「⋯⋯⋯ん"っ⋯⋯出じずぎ⋯⋯う"まぐじゃべれねぇ⋯」

  「⋯⋯悪い、止まらなかった⋯⋯」

  「⋯⋯ん"ん"っ⋯はぁっ、美味かったぜ⋯♡兄ちゃん♡」

  淫猥な弟はわざと舌で口周りの精液を舐めとる素振りを見せ、先程のお返しとばかりに挑発する。再度肉棒が硬くなりかけるが、弟がまだ射精していない事に気付き足裏で軽く踏んでやる。

  「あ"あ"っ⋯⋯♡」

  「ははっ⋯⋯本当に可愛いな、犬次郎」

  俺とは違いズル剥けの肉棒は、奉仕しているだけで汁が溢れテカテカに濡れていた。俺よりも性欲が強い弟は、自慰の回数も俺より遥かに多い⋯にも関わらず、俺より敏感なのだ。

  後ろから前立腺を突いてやれば涙目になりながら潮を噴くが、実家では声を押し殺す必要があった為、半ば狂ったように痙攣する姿にまた欲情し、また犯す。

  「イっ、イっ、イっちまう⋯⋯♡兄ちゃん、踏むなよ⋯♡」

  「足コキも好きだろ⋯⋯ほら、イっちまえ!!」

  「あ"っ⋯⋯!!!♡⋯⋯⋯⋯あっ⋯⋯」

  今までは喘ぎ声を我慢していたが、俺達しかいない今は好きなだけ叫んでも気づかれない。それでも犬次郎は癖なのか、必死に声を抑えたまま精液を吐き出している。

  「⋯⋯⋯あぁ、気持ちよかった⋯⋯」

  「だろうな⋯⋯軽く白目剥いてたぞ」

  「マジ?⋯⋯いつもよりヤバかったんだよなぁ⋯」

  俺も本来ならここまで早漏では無いのだ。肉棒から伝わる快感がいつも以上に脳を痺れさせ、精液の量も多かった。2週間溜めた事も要因ではあると思うが、それにしてもだ。

  「なぁ、あいつ、良い奴だったな〜、オレ達の話聞いてくれたし!!」

  「そうだな⋯⋯次に会ったら話しかけてみよう。無視されないといいんだが⋯⋯」

  「兄ちゃん、自分から行くの苦手だろ〜?自己紹介の時も怖かったぜ?オレが言えたギリじゃないけど」

  「人間と仲良くなる事は諦めていたからな」

  「まぁオレもそうだけどさ〜、1人ぐらいはいても良いじゃん!学籍番号だってビビったし⋯⋯」

  「⋯⋯あまり、期待しすぎるのは良くないな。それよりシーツを片付けるぞ、ビチョビチョだ」

  これから先、俺達と友人になってくれる人間や獣人がいるかもしれない。弟は俺とは違い常に希望を抱えているが、現実主義の俺からしたら難しいかもしれない。せめて弟だけでも楽しい生活を送らせてやりたいが⋯。

  「⋯⋯兄ちゃん、まためんどい事考えてるだろ?」

  「⋯⋯いや、何でもない⋯⋯シャワー浴びるか」

  「お、洗いっこするか??」

  「しない⋯⋯先に入っていいぞ」

  「へいへい、お先失礼しますよ〜」

  俺は元々の性分で人付き合いが苦手だが、弟はそうでは無い。俺が隣にいるから周囲の人間や獣人が近付かない可能性は大いにある。

  自分を蔑ろにするつもりは無いが、大学内では少し距離を置いてみるのも良いかもしれない。

  「⋯⋯先ずは片付けか⋯」

  鼻歌を歌いつつシャワーを浴びる弟の声を聴きながら、予想通りの出来事と少しだけ予想外の出来事が起こった大学初日を終えるのだった。