嫌われ者の狼獣人"達"が俺の恋人になるまでの話②

  どうも⋯⋯久しぶり。覚えてるかな、俺、如月健介です。

  この前はありがとう、俺の自分語りに付き合ってくれて。

  ⋯⋯今日も付き合ってくれるのか?

  優しいな⋯俺ん家の狼共は全然話を聞いてくれないんだ。

  昨日だって俺の体は1つしかないのに⋯⋯いや、やめよう。

  どこまで話したっけな⋯⋯そうそう、入学式か。まだ俺達が友達でも無かった時期、でも大切な思い出だ。

  それじゃあ今日は⋯⋯学外活動の話でもしようかな。

  大学に入って初めてのイベント。多分、俺達が本当の"友達"になったのはこの時だと思う⋯⋯ほら、アイツらも頷いてる。

  ちょっとだけ長くなるけど⋯⋯あ、犬太郎がお茶を持ってきてくれた。どうぞ、これでも飲みながら⋯。

  感動で涙を流す物語でも、爆笑で腹がよじれる物語でもないけど、何処にでもあるただの惚気話を聞いて欲しい。

  【嫌われ者の狼獣人"達"が俺の恋人になるまでの話②】

  ━━━━━━━━━⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯

  ⋯⋯友達とはどのような存在だろうか。

  例えば、共に笑い合い、悩みを相談し合える関係?

  それとも、遠慮せずに何でも打ち明けられる間柄?

  『違う、俺がやったんじゃない⋯そうだよな、寺島⋯?』

  たった1人の俺の友達。俺、お前に嫌な事したのか?

  謝るから、教えてくれよ。

  『如月が修学旅行費盗んだんだってよ⋯⋯』

  『マジ⋯⋯?集金係が何やってんだよ⋯⋯、旅行行けねーじゃん』

  何も見えない暗い道を、ひたすらもがき、走り続ける。

  もう少しで、たった1人の"俺"の親友に追い付いて、助けてくれる。俺は盗んでない、お前ならきっと分かってくれる。

  『ごめん!お前からパクった金、もう使っちまったわ!』

  ⋯⋯友達だから、黙っててくれよ?

  

  寺島は、大金が入った封筒を握り締めながら俺を突き飛ばし、笑いながら闇の向こう側へ消えていった。その背中を俺は、周囲の罵詈雑言を浴びながら見届ける事しか出来なかった。

  なぁ、俺達は、友達だったんじゃないのか⋯⋯?

  何度も何度も、脳裏に刻みこまれるように、今日も同じ夢を見る。時間が経っても忘れられない、辛く悲しい記憶。

  ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯━━━━━━━━━━

  俺が通う大学は、5月の下旬頃、学部ごとに別れて行う学外活動がある。去年は⋯⋯文学部はキャンプ、経営学部は登山というように、毎年、ランダムに開催地が振り分けられる。

  俺や双子狼が所属する学部は経済学部であり、今年は開園したばかりの遊園地に行くらしい。1泊2日で、隣接したホテルでの宿泊付きだ。ほぼ旅行なのだが、学生同士の友好関係を深めるための学園長の計らいらしい。

  「兄ちゃん、3人グループらしいぜ」

  「あぁ⋯幸い、俺達はもう決まっているな」

  大学の講義終了後、何故か俺を挟んで会話をしている2人の獣人。入学式での1件以来、俺達3人で行動する事が多くなった。というより、俺はこの2人以外とまともに会話をした事が無い。

  「あの、それって俺も入ってる⋯⋯?」

  「は?当たり前だろ?」

  狼獣人らしい強面ながらも、マズルを緩め常にニコニコしているのは、双子の弟、如月犬次郎である。ノリが良く細マッチョ風なスタイルを見ると、嫌悪されがちな肉食獣人という前提ありきで、大勢の女性から人気を集めても可笑しくない好青年だ。現状、俺か犬太郎と話している姿以外見た事がないが。

  「⋯⋯健介さん、俺達の他に先約がいたのか⋯?」

  「いやいや、いないけど⋯」

  仏頂面を浮かべながら問いかけてくる狼は、双子の兄の如月犬太郎だ。弟とは正反対の堅物、弟よりも体格は少し大きく、ラグビーをやらせたら非常に似合いそうな容姿だ。常に笑顔の弟とは違い、まさに"キリッ"としているイケ狼だ。

  ⋯⋯彼を見ていると、所々ブラコン臭を感じるのは内緒だ。以前、共に昼食をとっていた時、小テストの結果に項垂れる弟を無意識に撫でていたし、口元に付いた食べカスを自前のハンカチで拭っていた。本人に自覚はないらしい。

  そんな2人に囲まれている大学生活は、既に1ヶ月程度経過していた。俺自身、話し相手ができた事は嬉しいのだが、1つ問題がある。

  「またアイツら絡んでるよ⋯⋯あの人可哀想⋯」

  「いや、寧ろ人間の方の如月が、双子を手懐けてんじゃないか?」

  極端に俺達を避けた席から、ボソボソと話し声が聞こえる。俺は昔から陰口を叩かれてきた。そのせいか、他人の内緒話は異様に聞こえてしまうのだ。つまり、同級生が噂している話も当然知っている。問題とは、その噂話の事である。

  まず1つ目、"虐められている"説。遠目から見れば、不良に囲まれて金を毟られる哀れな学生に見えないこともない。

  実際は弟狼が小声で『今日の定食、唐揚げが良いな⋯』と囁いてきたり、兄狼が『今日の定食は唐揚げだろうか⋯』と囁いてきたりするだけだ。どうやら双子はその日の口の気分まで一致するらしい。ちなみにその日の定食は魚だった。

  2つ目は、"俺が双子狼を侍らせている"説である。

  そんな訳ないだろ⋯と言いたくなるが、正直思い当たる節がない訳では無い。この双子、見た目は厳ついが人懐っこい側面も目立つのだ。

  例えば、以前俺が財布を忘れた時、犬太郎がジュースを奢ってくれた事があった。その時は普通に感謝を述べたつもりだったのだが、礼を言われたのが嬉しかったのか、耳をパタパタさせながら追加で更にジュースを3本渡された。

  まだある。俺が階段で躓きそうになった時、犬次郎が助けてくれた事があった。流石獣人と言うべき反射神経で、倒れそうな俺を受け止めてくれたのだ。この時も普通に感謝を述べたつもりだったのだが、ご褒美が欲しいと強請るように尻尾を振るものだから、頭や顎を撫でまくってやったのだ。いいもふもふだった。

  何も知らない人がこの場面だけを見たら、親分と舎弟の関係性に見えるのも納得はできる。

  『なぁ、俺達ってどういう距離感なの?』

  『ん?⋯⋯友達で良いんじゃねぇか?』

  俺も双子も、人付き合いに苦労してきた部類だ。場の空気を読む事には長けているが、友人と話す経験が圧倒的に不足している。双子の本心がどうかは分からないが、正直俺は今の彼等との関係性が分からない。

  自然と友達になるよりは、友達である"理由"が存在する方がマシだと俺は思う。俺がいる方が大学生活が円滑に回るから、課題を見せてくれる仲間が欲しいから。何でもいい。

  だって怖いだろう?

  自分の何もかもを曝け出した相手が急に敵になる事を想像してほしい。散々な目にあうのは分かりきっている。

  だから、最初から相手の目的が分かっていれば、信頼という不確定な要素抜きで付き合える。多くの人には理解できない考えかもしれないが、少なくとも俺は、その方が傷つかないで済むのだ。

  この双子だって、何か俺といる理由があるのかもしれない。

  「今日の授業は終わり!兄ちゃん、とっとと帰ろうぜ」

  「腕を引っ張るな⋯⋯健介さん、帰り道、途中まで同じだろう。一緒に帰らないか?」

  「うん、いいよ」

  疑いたくは無いが、気を張ってしまう自分がいる。

  友人が欲しい。この感情だけは間違いない。

  でも、また同じような事が起きれば、俺は正常な精神を保てる自信が無い。親切に接してくれる相手であれば尚更⋯。

  ━━━━━━━━━━━━━━━━━

  

  5月の夕空は、18時になってもまだ明るい。狼達の要望で、できるだけ人気の少ない所を歩いていく。話題は勿論、学外活動についてだ。

  大学1年生にもなって遊園地なんて⋯と最初は思っていたが、いざ調べてみるとかなり人気の場所らしい。規模も大きく、開園してから2か月程で、来客者数も留まるところを知らないらしい。

  でも、俺がひっくり返るほど驚いたのはそこじゃない。どうやら俺が通う大学と、提携している2つの大学の3校で、その日の遊園地を貸切にしてしまうらしい。

  経済学部以外も常識の範囲を超えている金の出費があり、どこからそんな金が出ているのか全く分からない。学費は一般的なはずだが⋯。

  「遊園地⋯⋯何年ぶりだろ」

  「オレ達なんか行った試しねぇぜ?」

  確か、中学の卒業時期に一度家族と行った記憶がある。絶叫系は苦手では無いが、お化け屋敷にはだいぶ参ったような気がする。尻尾を降って喜んでいる犬次郎とは対称的に、犬太郎は神妙な顔をしてスマホの画面を見つめている。

  「なんだよ〜、エッチな動画でも探してんのか??」

  「む⋯⋯いや、何でもない⋯⋯健介さん、これから予定はあるか?」

  「え?いや、無いけど」

  「そうか⋯⋯犬次郎、チャンスじゃないか?前にお前が言ってた事」

  犬次郎は一瞬、訳が分からないという顔をした。彼は戸惑ったり想定していなかった事態になると、眉を少し下げ、普段は自然にはみ出ている舌が口内に収納されるのだ。

  「う〜ん⋯?」

  「ほら、これだこれ」

  犬太郎君は妙なジェスチャーをし始めた。重ねて訳が分からなかったが、弟狼には伝わったようだ。

  「あー、なるほどな⋯⋯でも⋯⋯う〜ん⋯」

  スッキリした顔をした後、今度は腕を組み唸り始めてしまった。俺が理解できないところで葛藤している弟とは対称的に、兄はクスクスと笑っている。

  「⋯⋯冷蔵庫の中、空っぽじゃねぇよな?」

  「俺が昨日買い足しておいた。"アレ"を作るんだろ?」

  「⋯⋯さっきから何の話してるの?」

  「あー、その⋯⋯健介よぉ、腹減ってるか?」

  悩みに悩み抜いた末、といった顔だ。さらに訳が分からないが、一応時間はある。でも、こういうのってあれなんだろ?まずは何をするか言ってもらわないと、ろくでもない事に誘われたり⋯。

  「もし減ってたらよ、ちょっと家来ねぇか?晩飯、食ってけよ」

  「え、晩飯?」

  何を言われるのかと思いきや、ただの夕食の誘いだった。ふと思ったが、彼らは実家から離れているため2人暮らしな訳だが、食事はどちらが作るのだろうか。会話の流れからして、まさか⋯。

  「犬次郎君、料理できるの?」

  「おうよ、大得意だぜ!」

  「おぉ、マジか⋯犬太郎君が料理してるのかと⋯」

  「⋯⋯健介さん、少し前に渡したクッキーがあるだろう?」

  クッキー⋯⋯一週間程前、一限の授業の直前にいきなり渡されたアレか。包みがやけに凝っていたので、高級品かと思い受け取るのを躊躇ったが、犬次郎に唸られて無理やり食わせられたのだ。

  すると、市販の品とは思えない程の美味さで、パクパクと幾つも口にしてしまった。何処に売っているのかを聞いても、ドヤ顔を見せただけで教えてくれなかった事を覚えている。ついでに言うと、狼の顔の形をしていた。

  「⋯⋯え、あれって手作り!?」

  「あぁ、その通りだ。張り切っていたぞ、鼻歌まで歌いながら」

  「おい、兄ちゃん、普通そういう事本人の前で言うか⋯?」

  とんでもないギャップを見た気がする。この顔で⋯と言っては失礼だが、エプロンをつけて鼻歌を歌いながらクッキーを焼いているのか。それは何かもう⋯⋯。

  「⋯⋯めっちゃカッコイイな」

  「⋯⋯は、かっ、カッコ??」

  「うん、マジで尊敬する」

  だってそうだろう?俺なんて全くと言っていい程料理ができないのに、犬次郎はあんなに美味しいクッキーを、恐らく俺のために作ってくれたのだ。

  「お前も、そういう事本人の前で言うか⋯⋯?」

  「⋯⋯⋯尻尾」

  「⋯⋯!!⋯⋯⋯早く行こうぜ!」

  尻尾を揺らしながら走っていく犬次郎の背中を見て、少しだけ笑ってしまった。隣の兄狼の顔も柔らかく、出会って1ヶ月あまりで、この狼達に対する恐怖が無くなりつつあった。

  ━━━━━━━━━━━━━━━━

  「うわ、意外と⋯⋯綺麗な部分と汚い部分がある⋯」

  大学から徒歩25分程度の場所に、彼等の家はあった。学生の身分なのでそこまで大きな住処では無いと思っていたのだが、予想に反してかなりでかい。一軒家だ。ていうか普通は賃貸アパートとかじゃないのか?

  「俺は自分のものは片付けている。散らかっているのは全て犬次郎の荷物だ」

  「へいへい、今すぐどかしますよ〜⋯⋯掃除が好きならオレのもやってくれりゃいいのに」

  広い家の中には当然広い部屋がある訳で、リビングには大きなテレビやソファが置いてあった。床にはあちらこちらに脱ぎ捨てられた服や下着が落ちており、隣では兄狼がため息を吐いていた。

  「健介さんは座っているといい。今、お茶を出す」

  「オレは⋯⋯えっと⋯⋯?」

  「健介さんに晩飯を作るんだろう⋯⋯なんだ、緊張か?」

  「んな事言ってもよぉ⋯⋯まだ先かと思ってたから、最近作ってねぇし⋯⋯」

  壁には家事分担カレンダーが貼っており、洗濯、風呂掃除、料理、掃除当番など、綺麗な文字で書かれていた。料理の欄は全て犬次郎になっている。

  「あの、別に俺、嫌いな食べ物ないから⋯」

  「いや、ちげーんだよな⋯⋯作った事はあるし大丈夫か⋯⋯1回練習しときたかったけどな⋯」

  犬次郎はブツブツと呟きながら冷蔵庫を空けて、食材を取り出していく。影に隠れてよく見えないが、あのクッキーを作れるのならきっと美味しい料理が出されると思う。

  「健介さん、麦茶とコーラとミルクティー⋯⋯あと、ポカリスエットがある。飲みたいものはあるか?」

  「じゃあ、ミルクティーお願いしてもいい?」

  「分かった」

  犬次郎が飲み物を取りに冷蔵庫へ向かう。随分と大きな冷蔵庫だ。他人の家を分析するのはどうかと思うが、本当に大きいのだ。何となくのイメージだが、犬太郎が麦茶とミルクティー、犬次郎がコーラとスポドリってとこかな。

  ⋯⋯しかし色々な物が散らかっている。流行りのCDにお菓子の袋、プリンの容器に⋯⋯なんだ、この袋。

  別に他人の物を盗み見る趣味は無いが、無意識に中を覗いてしまった。そこには複数枚のDVDが入っており、その表紙には⋯。

  (⋯⋯やば、これ、AVだ⋯⋯しかも、結構激しめな⋯)

  それは、巨漢の狼獣人と人間が誘惑的な表情を浮かべながら、抱き合っている表紙だった。その下のDVDも気になり覗いてみると、人と獣人だけの物だけではなく、人と人、獣人と獣人、雄と雌、雄と雄などさまざまなジャンルがあった。

  (⋯⋯⋯見なかったことにしよう)

  種族が混じりあった現代、同性間の恋愛など何も珍しくは無くなった。その分個人の性癖の幅も拡大していくのだが、俺の周りには男を好きになれる奴はいなかった。そもそも友達が少ないのだが。

  「健介さん、どうしたんだ?」

  「あ、いや、何でもない!ミルクティーありがとう⋯!」

  間一髪だった⋯。というか、どちらの趣味なのだろうか?双子だから性癖も似てる⋯⋯何を考えてんだ俺は。

  内心バレていないかドキドキしながら、犬太郎と当たり障りのない会話を続けた。好きな映画やハマったゲーム、好きなタイプについての話題は若干困ったが、とりあえず「思いやりがある人がいい」と答えておいた。

  「⋯⋯あれ、この匂い⋯」

  先程から玉ねぎや肉が焼ける香ばしい香りが漂ってきていたが、今度はケチャップの香りが部屋に広がっている。これはもしかしなくても⋯。

  「犬次郎君、オムライス作ってくれてるの?」

  キッチンでフライパンを扱う彼に話しかけたら、ただ一言、「おうよ」とだけ返してくれた。自惚れかもしれないが、俺が入学式のオリエンテーションで言ったことを覚えていてくれたのだろうか。

  (⋯⋯⋯俺、犬次郎君の好きな食べ物知らないなぁ⋯)

  彼は俺の好きな食べ物を覚えていてくれて、犬太郎は俺を家に招待してくれて、逆に俺は、彼等に何かしてあげただろうか?何かをしないと、また前みたいに離れていってしまうんじゃないか⋯。

  「⋯⋯犬太郎君、今度、2人に何か奢るね。今日のお礼に」

  「⋯⋯?⋯⋯⋯あぁ、楽しみにしている」

  時間は既に19時を回った。テーブルの上に出てきたのは、特大サイズのオムライスが2つと、少し控えめな量のオムライスが1つ。俺の為にサイズを調整してくれたらしい。向かい側の席に弟が座り、俺の隣には兄が静かに腰を下ろした。

  「まぁ、自信はあるからよ。食ってみてくれや」

  「うん、めっちゃ美味そう⋯いただきます!」

  ケチャップライスの上に乗っかる卵には、狼の顔のマークが描かれている。彼等の卵には描かれていないので、これも俺の為に描いてくれたのだろう。ていうか絵、上手いな。

  「⋯⋯⋯うん、美味しいよ!」

  「そ、そうかよ⋯⋯あ、毛とかは入ってねぇからな?手袋もしたしエプロンも付けたし⋯⋯」

  「全然気にしないよ!本当に美味い⋯!」

  大袈裟な訳ではなく、本当に美味いのだ。玉ねぎは炒めすぎずに良い食感だし、ウィンナーも沢山入っていて食べ応えがある。グリンピースやコーン、人参も入っている。我が家のオムライスは、冷凍のミックスベジタブルを使っていたのだが、食感や味に新鮮味を感じる。

  「⋯⋯⋯」

  犬次郎は、俺を気にしないで自分のオムライスを食べている⋯ように見せかけて、チラチラとこちらの顔を伺っている。やっぱり分かりやすいなこの狼。

  「⋯⋯⋯尻尾」

  「⋯⋯兄ちゃん、いいよ指摘しなくて⋯⋯でも、良かった」

  犬次郎君は満足そうな笑顔を見せながら、自分のオムライスを口にし始めた。大きな口に次々と入っていく様子は、大盛りのオムライスでもまだ足りないのではと疑う勢いだ。

  

  (⋯⋯そういえば、寺島の家でもご馳走になった事あるなぁ⋯)

  友人⋯かは分からないが、彼等と過ごす時間は、俺がずっと求めていたものだった。でも、どうしても思い浮かんでしまう。親友だったあいつとの思い出が、一緒に、頭の中に。

  「⋯ご馳走様!犬次郎君、本当に料理上手いんだな⋯」

  「また作ってやるよ⋯⋯だから、また家来いよ」

  「⋯⋯⋯うん、ありがとう」

  自分が嫌になる。友達と言われても、家に招待されても、晩飯をご馳走になっても、自分はまだ⋯⋯、

  彼等の事を、心から信じきれない。

  ━━━━━━━━━━━━━━━

  待ちに待った⋯のかは分からないが、遊園地に行く日がやってきた。前日に双子狼から、必死に準備したであろう大荷物の写真をLINEで送られてきた時は頭を抱えた。1泊2日なんだが⋯。

  現地集合という事で、まずは隣接されたホテルに入る事になっている。遊園地から徒歩3分辺りで、豪華とまでは行かないが、完成されたばかりの綺麗な内装だ。

  (⋯⋯見た事ない人も沢山いる⋯)

  今日、この遊園地を利用する大学生は俺達だけでは無い。俺が通う大学と提携している2つの大学が、共に入園料を出し合っている。利用している大学は3つ、金額も3分割とはいえ、それでもかなりの大金になるだろうが。

  「⋯⋯⋯健介さん、ここに居たか」

  「犬太郎君、おはよう⋯⋯犬次郎君は、随分眠そうだね⋯」

  「ん⋯⋯おはよ、健介⋯⋯⋯」

  俺のアドバイスを受けいれ、縮小化されたバッグを持ってやってきたのは、いつも通りのキリッとした顔をした兄と、目の下にクマができて普段以上に凶悪化した弟だ。彼等が歩いてきた道は、モーセの逸話のように人間や草食獣人が道を空けている。

  「もう部屋に入れるみたいだよ。早く荷物を置こう」

  「ん⋯⋯眠い⋯⋯」

  「お前は全く⋯⋯すまないな、健介さん。こいつ、楽しみすぎて眠れなかったんだ」

  「へぇ⋯⋯」

  実家の隣で飼われてた犬も、楽しい事があると夜遅くまでわんわん吠えてたな。似たようなものかもしれない。

  エレベーターに乗り、自分達に当てられた部屋に着く。3人部屋とあってそこそこ広いが、何故かベッドは2つしかない。どの部屋も同じなのだろうか⋯⋯男女グループとかイけない事が起きるんじゃないか?

  「うぉ、何だこのベッド!?⋯⋯ふかふか過ぎる!?⋯⋯割には小さい⋯⋯」

  「おい⋯⋯もう開園しているぞ。『エクストリームホイールノヴァ』に乗るんじゃないのか?」

  「そうだ⋯⋯!『エクストリームホイールノヴァ』に乗るんだ⋯!」

  呼び名が長すぎるので、今後は『EWN』と省略するが、HPで調べたところ、日本で1番の回転数を誇る絶叫ジェットコースターらしい。俺自身、絶叫系は得意だが彼等は大丈夫なのか?いきなりEWNは厳しいと思うんだが。

  (まぁ、乗ってみなきゃ分からないか⋯⋯)

  部屋を飛び出した犬次郎を追って、俺達もフロントまで戻る。荷物は財布と学生証、入園許可バングルだけだ。昼食も各自好きなように取れば良いらしいし、大学が準備する企画にしては自由度が高すぎる。

  はしゃぐ犬次郎を若干呆れた目で見つめながら、ホテルのドアを出る。

  その瞬間、何かがぞわりと俺の背筋を伝った。

  今、偶然、隣を通りすがった男、唐突過ぎて直前まで気付かなかった、いや、もしかしたら気のせいかもしれない。

  (⋯⋯⋯まさか、いるわけないよな。だって、誰にも話してないし、そんな偶然⋯⋯)

  「⋯⋯健介さん。どうした?」

  「⋯⋯⋯あ、いや、何でもない⋯⋯」

  「⋯⋯?」

  背筋を伝う冷や汗を感じながら、咄嗟に取り繕う。大丈夫、もしそうだったとしても、出会わなければいいだけだ。大丈夫。

  「⋯⋯⋯早く行こう、置いてかれるよ」

  「⋯⋯⋯⋯あぁ」

  ━━━━━━━━━━━━━━━

  出遅れた事もあり、長時間並ぶだろうと覚悟していたアトラクション。しかし、俺の不安は一瞬にして消え去る事になる。

  最初は勿論『EWN』。遊園地の目玉に真っ先に乗ろうと考えていたのだが。

  「⋯⋯⋯先にどうぞ!」

  「いや、ほんとに、前行ってください!」

  『3時間待ち』と書かれた札が立っていた。俺達3人、全然待つ気でいたのだが、何も言わずとも前の人達が俺達に前を譲ってくるのだ。お陰でぐんぐんと前に進み、結局、待ち時間は30分ぐらいで済んだ。

  「⋯⋯⋯これは、なんて言うか⋯⋯」

  「⋯⋯⋯複雑だが、幸運だと思う事にしよう」

  天然の優先チケットだ。前にいた者の気持ちも分からない訳ではない。俺は慣れたが、背後に感じる強烈な威圧感、いざ振り向くと同じ顔をした2人の狼獣人。初見であれば卒倒する人もいるかもしれない。

  「⋯⋯⋯⋯凄かった⋯⋯」

  「⋯⋯もう一回は乗りたくねぇな⋯⋯」

  『EWN』の感想は、これで十分だろう。強いてあげるとすれば、脅威の12回転で犬太郎が発狂、後ろの席に犬次郎がいたはずだが、終始無言だった事ぐらいだ。

  尻尾は垂れ下がり、あんなに元気だった耳も萎えている。今回は彼らに同意だ。やり過ぎたのだ、EWNは。

  「他にもコースターあるけど⋯⋯行く?」

  「やめとく⋯⋯『ホラー・ヴィレッジ』に行こうぜ!」

  EWNに続き、高い評価を得ているお化け屋敷、ホラー・ヴィレッジ。日本的な不気味な雰囲気と、海外ドラマによくあるゾンビ系ホラーが融合した新感覚のアトラクションだそうだ。

  ちなみに、俺はホラーが苦手だ。

  「う⋯⋯お⋯⋯あ⋯⋯呪っ⋯⋯て⋯⋯ひい!?」

  「ウボオオオオオオオオオオオオ!!!⋯⋯⋯ぎゃああああ!!!」

  否、ホラーが苦手だった。彼等と共に中に入るまでは。

  暗闇の中、仕掛け人は全力で相手を驚かそうとする。それが仕事だ、何も悪い事はしていない。だが、今回は相手が悪かった。

  「⋯⋯⋯なんだ?」

  「うおおお!!首動いたって今!なぁ!!見たろ!?」

  人間を驚かすプロである彼等だが、それ以上に恐ろしい生き物と出会った時の訓練はしていないようだ。公共の場に来る肉食獣人はほぼいない。増しては開園したばかりの遊園地。暗闇の中、突然目の前に現れる狼男。最初は恐ろしい雰囲気に怯えていた俺だったが、へっぴり腰で逃げていく幽霊達を見たら、恐怖なんて一瞬で吹き飛んだ。

  「あ、おい!逃げんなよ!!!」

  「すまない、ぶつかった⋯⋯む、もういない⋯」

  双子狼にとっての天職を見つけたかもしれない。ていうか、犬太郎動じなさすぎだろ。就職活動の時期までこの関係を続ける事ができたら、エントリーを提案してみようか。

  天然優先チケットのお陰で、随分と楽に遊園地を回れる。

  昼食の時間も含め、午後の3時頃にはほぼ全てのアトラクションに乗れてしまった。

  「オレ、ちょっとトイレ!」

  「俺も行こう。健介さん、少し待っていてくれ」

  「うん、そこのベンチにいるね」

  誰かと出掛けて、遊んで、感想を言い合う。高校の頃には叶わなかったが、もしかして今、叶ってるんじゃないか?

  今度、俺から夕食に誘ってみよう。自分では大した料理は作れないから、何処か肉食獣人を嫌がらない店を見つけて、それから⋯。

  「お前の護衛はどうしたよ?」

  「⋯⋯⋯⋯え?」

  聞き覚えのある声。見覚えのある顔。飄々とした態度。

  「⋯⋯⋯⋯寺島」

  

  「覚えていてくれて嬉しいねぇ。久しぶり、元気だったか?」

  ━━━━━━━━━━━━━━━

  「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯お、連れが来たぜ、じゃあな」

  「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

  「待たせた、健介さん⋯⋯おい、大丈夫か⋯⋯?」

  「健介⋯⋯?」

  頭の中がグラグラする。掌が汗ばみ、呼吸が早くなる。目の前に同じ顔が並んで、何かを話している。視界が狭まって、涙で滲みながら少しづつ、俺の意識を奪っていく。

  「⋯⋯⋯!健介!!」

  「⋯⋯⋯とにかく、ホテルに運ぼう」

  彼等の心配そうな顔を最後に、俺の世界は途絶えた。

  ━━━━━━━━⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯

  『見てみろよ、この写真』

  『⋯⋯⋯なに、これ』

  『知り合いに編集が強い奴がいてな?ほら、俺って人気者だから』

  『⋯⋯⋯⋯』

  俺が女性を襲っている写真。俺が全裸で踊っている写真。俺が公共の場で罪を犯している写真。全て加工された写真だ。

  生憎、素材には不足していないようだ。だって、小さい頃からの友人だったから。俺達の思い出の数だけ、ネタも残ってる。

  『俺の言葉とお前の言葉、皆はどっちを信じるかな⋯⋯分かるだろ?お前は黙ってればいいんだから⋯⋯』

  ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯━━━━━━━━

  (⋯⋯⋯夢⋯⋯また、夢だ)

  俺の賃貸アパートのベッドとは比べ物にならない程、柔らかい質感の中で目が覚めた。隣の置き台には水が入った容器とタオルが置いてあり、魘される俺の汗を拭ってくれていたのが分かる。

  (犬太郎君達は⋯⋯?)

  部屋の鍵を持って彼等を探しに行く。晩御飯を食べているのか、外に散歩に出ているのか分からないが、せっかくの楽しい時間を奪ってしまった事を謝らなければ。

  (なんでだろ⋯⋯こっちにいる⋯?)

  あても何も無いのだが、勝手に足が動く。得体の知れない何かが、俺がその場所に行くべきだと言っているかのように。

  辿り着いたのは、ホテルの明かりが殆ど届かない裏の林の奥。足音を立てないように歩いて行くと、そこには犬太郎と犬次郎⋯⋯そして、寺島がいた。

  「⋯⋯⋯⋯だからさ、あいつと関わんない方がいいって」

  「⋯⋯今の話、何か証拠はあるのか?」

  話し声が聞こえる。俺の存在は認知されていないようだ。だからこそ、彼等の本音を聞く事ができる⋯⋯怖い⋯⋯離れたい、けど、離れたら俺は一生、今の俺のままだ。

  「俺は如月を小学生の頃から知ってる。昔から変だったんだよ。高校時代なんか、皆の修学旅行費を盗んだんだぜ?」

  「⋯⋯⋯分からない奴だな。俺は『証拠があるのか』と聞いているんだ」

  寺島が証拠を出さない理由は、俺と交した契約によるものだろう。寺島が金を盗んだ事を言いふらさない代わりに、俺の写真をクラスやネットにバラまかない。高校卒業の時点では、お互いが約束を守っていたはずだ。

  「⋯⋯仕方ない、本当は見せたくないんだけど⋯⋯」

  申し訳なさそうなフリをしながら、寺島は2人に写真を見せている。きっとあの時の編集された写真だ。

  

  「これは⋯⋯」

  「これが証拠だよ⋯⋯君達も、いつ事件に巻き込まれるか分からないよ。如月とは離れた方がいいと思う⋯」

  俺の大学生活は、これで終わりを迎えるのだろう。2人が言い振らせば、高校時代のように俺の噂は広まり、皆が俺を避けて、罵って、誰も信じられなくなる。

  「⋯⋯⋯兄ちゃん、そろそろ喋ってもいいかよ?」

  「あぁ⋯⋯下手な事はするなよ。迷惑がかかる」

  「わーってますよ⋯⋯」

  その瞬間、犬次郎君が俺が隠れている場所をチラッと見た気がした。気の所為かもしれないが、確かに目が合った気がしたのだ。

  「あのよぉ⋯⋯本当に不幸だったよな⋯⋯」

  「ううん、そんな事無いよ。彼にも良いところはあるんだ。それでも」

  「ちげーって⋯⋯」

  「⋯⋯⋯は?」

  「お前みたいな嫌な奴と関わっちまった、健介が不幸でしょうがねぇって言ってんだよ⋯⋯分かんねぇかな」

  俺は、犬次郎君が何を言ったのか一瞬分からなかった。だって、皆の人気者の寺島は、いつも中心で、信頼されてて、多くの友人がいて⋯。

  「臭ぇんだよ、お前。ホテル出る時もすれ違ったろ?」

  「⋯⋯お前は、他の人間と違わず、俺達に敵意や恐怖の感情を向けた⋯⋯と思っていたんだが、やはり違ったようだな」

  2人は、相手が抱いている感情を匂いで知る事ができる。苦労が多いと言っていたが、その話をされた時、正直なところ、少しだけ羨ましいと思った。相手の感情を知る事ができるなんて、得しかないじゃないかと。ならば、彼等が嗅いだのは、自分に対しての敵意ではなく、寺島が抱く俺に対しての嫌悪。

  「お前、健介の事嫌いだろ⋯なのに、口からはベラベラ嘘ついて、吐き気がすんだよ」

  「な⋯⋯そんな訳無いだろ?」

  「嘘は通じない。俺達は分かるんだ⋯」

  「⋯⋯⋯はっ、嘘を付いている、それこそ証拠はあるのかよ?『俺達は分かる』なんて、妄言にしか聞こえないぞ?」

  「⋯⋯お前、健介と知り合って何年だよ?」

  「⋯⋯9年」

  「9年も近くにいて、なんで分かんねぇんだ?」

  何を、犬次郎君は俺の何を分かっているんだ?

  「健介はなぁ⋯⋯メチャクチャ良い奴なんだよ」

  「⋯⋯⋯え?」

  (⋯⋯⋯え?)

  「オレ達は、会ってまだ1ヶ月ぐらいだけどよ、凄ぇんだぞ、アイツ⋯⋯」

  「⋯⋯俺達と話してくれる。俺達と食事をしてくれる。俺達と共に歩いてくれる⋯⋯俺達にとってどれ程嬉しい事か、お前に分かるか?」

  「⋯⋯⋯⋯」

  (犬太郎君⋯⋯そんな、俺、そんな事⋯⋯)

  「肉食獣人ってのは、隣にいるだけで迷惑が掛かっちまう。本人にその気が無くても⋯⋯オレ達が居なくなれば、健介はきっとダチができる。そんだけ良い奴なんだよ」

  (⋯⋯⋯迷惑なんて、思った事⋯)

  「⋯⋯⋯⋯」

  「健介さんの盗みについて話した時、そして健介さんの写真を見せてきた時、不快な匂いが一層強くなった⋯⋯お前だろう、金を盗んだのは?」

  「⋯⋯⋯お前ら、本当面倒臭いよ」

  「⋯⋯その写真、写真が入っているデータ⋯⋯全て寄越せ。そして、一番大事な事⋯⋯健介さんには、二度と近付くな。そうしたら、今日の出来事は黙っておいてやる」

  犬次郎が恐ろしい低音で唸り、今にも飛び掛かろうとしている。それを犬太郎は諌め、言葉で寺島を説得しようとするが、寺島は何処吹く風で、さらに余裕そうな笑みを見せた。

  「あのさ、俺が盗んだ証拠も無いし、今のこの状況をきちんと理解してる?」

  「⋯⋯なんだと?」

  「だからさ、今から俺が適当に怪我して、ホテルに戻った時に『狼の獣人に襲われた』って言えばどうなる?」

  (⋯⋯⋯!!)

  彼等がどれ程優しい獣人かは、俺しか知らない。周囲からの評判は良い寺島の言う事と、彼等の言葉なら、大勢の人間は寺島の言葉を信じるだろう。それだけ、肉食獣人、それも狼は理解されづらいのだ。停学や、下手したら退学処分される事だって有り得る。

  「如月のやつも、友達が俺しかいないくせに、妙に正義感があって⋯⋯昔から嫌いだった。お前らと一緒に纏めて消えてくれないかな」

  「⋯⋯兄ちゃん、こいつマジでムカつく⋯⋯!!」

  「⋯⋯⋯言いふらしてもいい、せめて写真だけは俺にくれないか⋯⋯健介さんは、盗んでないんだろう?」

  「いやいや、返さないよ。君らみたいに、俺の事を疑う奴がいたら面倒だし、適当に怪我でもしてホテルに戻るよ。それじゃあね」

  わざとらしく、双子の間を通り抜けていく寺島。何処まで腐ってるんだ。

  犬太郎達は、黙って寺島の背中を見ているだけだ。当然だ、説得も無理、力づくも不可能、彼等にできる事は何も無い。

  (⋯⋯⋯いや、何を言ってんだよ、俺は)

  彼等にできる事は無い、じゃないだろ。俺の為に写真を取り返そうとしてくれて、自分達の境遇が悪くなる事を覚悟した上でもまだ俺の味方でいてくれた。

  今なら断言出来る。上から物を言える立場でもないし、寧ろこちらから頼みたい。改めて、"俺"から言わせて欲しい。

  (君達の、友達になりたい)

  「⋯⋯⋯待てよ」

  「⋯⋯あれ、如月?もしかして話聞いてた?」

  「寺島⋯⋯俺の⋯⋯俺の友達を巻き込むな」

  「おいおい⋯⋯出てきちまったのかよ」

  寺島の懐には俺の写真がある。複製されている可能性が高いから、写真を奪い取ったところで意味は無いかもしれない。

  でも、彼等は助けられる。俺が寺島と喧嘩して、犬太郎達は無関係だと言えば、少なくとも処分は俺が優先される。俺が、俺が守るんだ。

  「⋯⋯おい、近付くな。写真を広めるぞ」

  「普段の筋トレ、こんな所で役に立つなんてな⋯」

  「⋯⋯いいのか?広めたら、お前の大学生活は終わり!一生一人ぼっちだ!」

  「違うよ。大切な友達ができたんだ」

  寺島はオドオドと後ずさっている。彼は俺と比べて筋肉質では無いし、喧嘩なんてした事無いのかもしれない。でも、俺は知ってるんだよ。殴られる痛みも、罵倒される痛みも、全部。

  「⋯⋯⋯や、やめ⋯⋯!!」

  拳を振り上げて、思い切り相手の頬に叩き込もうとする。

  「⋯⋯⋯やめろ、健介さん」

  ふさふさとした大きな手が、俺の腕を掴んだ。

  「⋯⋯⋯!犬太郎君、なんで⋯⋯大丈夫、俺が殴れば」

  「いやいや、いーんだって、健介さん。アイツが吠えたって何も出来ねぇからよ」

  「⋯⋯いや、でも⋯」

  「さっきの言葉、訂正するわ⋯⋯えっと⋯⋯寺島?」

  「⋯⋯どういう事だ?」

  「お前もある意味不幸だったな。オレと兄ちゃんに喧嘩ふっかけちまうんだから」

  「⋯⋯⋯?」

  「消えていいぞ⋯⋯健介さん、信じてくれ。本当に大丈夫なんだ⋯⋯」

  「⋯⋯⋯⋯犬太郎君が言うなら、そうするけど⋯⋯」

  「寺島だったか⋯⋯警告はしたからな」

  寺島は大急ぎで立ち上がり、哀れなほど必死に走り、ホテルに戻って行った。だが、このままでは彼等の冤罪が広まってしまう。何が大丈夫なのか分からない。

  「健介さん、これを見てくれ」

  「⋯⋯⋯!これって、録音⋯?」

  スマホを取り出した犬太郎は、録音アプリから流れる先程の言い争いを聞かせてくれる。俺が登場する場面までは無かったが。

  「これを皆に聞かせるって事⋯?でも、言い方は悪いけど犬太郎君達の言うことより、皆は寺島の言葉を信じると思う⋯⋯」

  「だろうな。俺達も自分の立場は分かっているつもりだ。だから、俺達の父親を通して対処してもらう」

  「父親⋯⋯?」

  俺は不安を抱きながらも、双子狼と共にホテルに戻って行った。既に寺島が嘘を広めているかと思っていたが、中の学生は何も知らないというように普通に過ごしていたし、俺達が幾ら目立つといっても、普段と同じ様子で、俺が予想していた展開にはならなかった。

  《この日から数週間後、とある大学の1年生が退学処分を受けたと、犬太郎が教えてくれた。何故知っているのか、何をしたのか、問い詰めても彼等は首を振るだけで、何も教えてくれなかった。真実を知るのは、もう少し後の話である》

  ━━━━━━━━━━━━━━━

  「⋯⋯⋯安心してくれ、悪いようにはならない」

  「そうそう、そんな顔すんなって⋯⋯ほら、水飲むか?」

  今後の展開に不安を覚える俺に対して、犬太郎達は随分と余裕そうだ。下手をすれば停学処分など言い渡されるかもしれないのに。

  (何か、確信があるような口振りなんだよな⋯⋯大学の人達も何も聞いてないみたいだし⋯⋯)

  そうだ、俺は犬太郎と犬次郎を信じてる。もし俺の不安が当たったとしても、彼等が酷い目にあえば味方になるし、絶対に裏切らないと断言できる。

  「なーんか今日は疲れちまったな⋯⋯とっとと寝るか?」

  「そうだね⋯⋯あ、その前に⋯」

  「⋯⋯?何だよ?」

  「あの⋯⋯2人とも、俺を庇ってくれてありがとう。俺、お金なんて盗んでないし、あの写真みたいに変な事もしてないからさ⋯⋯」

  「あぁ、最初から分かっていたさ」

  「オレ達の鼻、舐めんじゃねえぞ!!」

  「そ、そうだった⋯⋯でも、嬉しかったよ」

  面と向かって礼を言うのは少し照れくさいけど、思った事は口に出すようにしよう。俺を信じてくれた2人への敬意だ。

  「健介、オレ達の事『友達』って言ってくれたもんな」

  「健介さんが俺達を嫌っていないというのは分かっていた。勿論、匂いを抜きにしてだ。だが、『友人』かどうか、少し違かった⋯⋯以前、一瞬だけ嗅いだ匂いは別だが」

  「⋯⋯そうだね、寺島と変な事になってから、友人を作るのも、考えるのも怖くなったんだ。でも、今は違うよ」

  分かってる。こういうのは、自然になっていくもので、宣言した瞬間に何かが変わる訳じゃない。俺の個人的なけじめだ。

  (⋯⋯⋯⋯よし)

  「⋯⋯2人とも、もし良かったら、俺と"友達"に⋯!」

  言い切ろうとした瞬間、2人の肉球が俺の口を塞いだ。

  彼等は何も言わず、嬉しそうにいつもの笑顔を浮かべた。

  ずっと昔から仲良しだったような、そんな不思議な気持ちに包まれた。

  「消灯の時間だが⋯⋯ベッドはどうする?」

  「俺はソファで寝るよ。2つしか無いし、犬太郎も犬次郎も、大きいから2人は厳しいでしょ?」

  今日は疲労が溜まっているから、できればベッドで寝たいのだが、2人の体格は俺より断然いい。ソファでは狭くて寝られないだろう。

  「遠慮すんなって!兄ちゃん、オレ、健介と寝るからベッド使っていいぞ!」

  「む⋯⋯そうか、分かった⋯⋯⋯犬次郎、分かってるな?」

  「大丈夫⋯⋯いざとなれば、兄ちゃんがぶん殴ってくれな」

  何やら物騒な話をしているが、要するに俺は犬次郎と眠る事になったらしい。確かに、狼獣人2人が同じベッドに詰め込まれたら狭いだろうが、獣人と人間なら幾らかマシだ。

  「電気を消すぞ⋯⋯⋯お休み」

  「兄ちゃん、お休み」

  パチンっという音の瞬間、部屋は暗くなりほぼ見えなくなった。俺は既に毛布にくるまっているが、犬次郎は何やらモゾモゾしている。動きが止まったと思いきや、勢いよく俺の毛布の中に潜り込んできた。

  「ちょっ⋯⋯な、何してんの?」

  「ん〜·⋯⋯?いや、オレの自慢の毛皮を堪能させてやろうと思ってよ⋯⋯ほら、試しに抱きついてみ?」

  よく見てみると、彼は下着1枚になり、上着は全て脱いでいるようだった。

  「普段、パジャマとか着ないの?」

  「着ねぇな⋯⋯つーか、街中も本当は裸で歩きたいぐらいだぜ⋯⋯あっついし」

  毛皮ってそんなに暑いのか⋯⋯犬は舌を出して体温を調整していると聞くが、獣人も似たようなものなのだろうか。思えば、授業中も舌を出している事は多かった。犬次郎だけは。

  (抱きつくって⋯⋯獣人はこれぐらいのスキンシップ、普通なのか?)

  「ほら、何してんだよ!早く早く!」

  「う、うん⋯」

  掛け布団で十分なのだが、ひとまず彼の言う通りにしてみる。体を寄せると、犬次郎は手を広げて迎え入れる体勢を取っている。

  「⋯⋯⋯うわ、もふもふだ⋯⋯」

  「だろ⋯⋯?掃除は苦手だけど、ブラッシングはちゃんとしてるんだぜ⋯⋯」

  「うん⋯⋯凄い⋯⋯ごめ、ちょっと眠いかも⋯⋯」

  「⋯⋯あぁ、ゆっくり寝ろよ⋯今日ぐらいは、何も考えずにな」

  大きな手で背中を摩ってくれる犬次郎の声は、優しく、胸に沁みるような安心感を宿していた。俺は徐々に瞼が重くなり、深い睡眠につくまで5分とかからなかった。

  ━━━━━━━━━━━━━━━

  ━━━━━━━┈┈┈┈┈┈┈┈

  (もう寝ちまったか⋯⋯色々あったもんなぁ⋯⋯)

  健介の肌はスベスベで、触ればすぐに傷つけちまいそうで、それでも躊躇うことなくオレの腕の中に来てくれた。

  オレは優しい奴が好きだ。頑張ってる奴を見るのも好きだ。健介がずっと、心の中で何かと戦ってた事は分かってる。それを乗り越えて、オレ達の事を"友達"と呼んでくれた事も。

  オレと兄ちゃんに優しい奴は、オレからも優しくしてやりたいし、守ってやりたくなる。それが、"友達"って奴だとオレは思う。

  (思うんだけど⋯⋯参ったな⋯⋯やっぱこの匂い⋯)

  入学式で嗅いだあの匂い。オレと兄ちゃんを発情期に近い状態にした媚香。この匂いの正体を、オレ達は今の今まで知らなかった。

  『犬次郎⋯⋯分かってるとは思うが、理性を強く持て』

  健介が風呂に入ってる間、少しだけ兄ちゃんと2人きりになる時間があった。オレも兄ちゃんも気付いてる。健介から、入学式の日に嗅いだあの匂いがする。しかも、部屋に戻ってからずっとだ。

  (⋯⋯これが、健介の"友愛"の匂いだとしたら⋯⋯)

  その感情を、オレと兄ちゃんは歪に受け止めている。健介からの純粋な友愛の感情は、オレ達を通せば、性欲に溺れた獣の、雄欲の種子に成り下がる。

  ここ暫くは、自分が狼獣人である事実を憎んだ事は無かったが、今日、久々にそう感じた。大切な友人に発情するなんて、まさに獣そのものじゃねえか。

  (⋯⋯うぅ⋯⋯耐えろ⋯⋯)

  腕の中で眠る健介は、モゾモゾと動いている。太ましい血管を浮き立たせながら、オレの肉棒は既に硬直しているが、上手く腰を引いているおかげでバレていないようだ。そもそも、健介の友達になる以上、匂い程度で発情する訳にはいかない。嫌われちまったら最悪だし、兄ちゃんにも申し訳ない。

  

  (⋯⋯⋯あー⋯⋯これ、頭ん中グワングワンしてくるな⋯⋯)

  兄ちゃんは既に就寝したのか、馴染みの寝息が聞こえる。オレに背を向けているから、オレの不審な挙動には気付かないだろうが、万が一にでもイっちまった時には一発で分かる。鼻の精度は兄ちゃんの方が良いからな。

  (⋯⋯⋯!!)

  オレの毛皮が気持ち良いのか、健介は寝たまま顔を胸に擦り付けてきた。触られるくらい大したことないのだが、状況が状況なだけに、今は話が違う。筋肉の張りや凹凸に息がかかり、無意識に勃起した乳首に髪の毛が掠れる度に、オレの劣情は少しづつ大きくなっていく。せっかく寝ているのに、起こしたくはない⋯⋯ないんだけどよ⋯。

  (⋯⋯⋯あぅ⋯⋯あ⋯⋯♡クソ、クソ、無理だろこんなん⋯⋯やっぱソファに⋯⋯♡)

  思わず左手が股間に伸びる。今すぐ扱きたいが、ここで出したら健介にかかっちまうし、兄ちゃんに叱られる。我慢汁は既にドクドクと出まくって、下着はもう下着とは呼べない状態、さらには暴発寸前といわん程に肉筒が脈打っている。

  「⋯⋯⋯ちょっと⋯⋯なぁ、犬次郎⋯⋯」

  「⋯⋯!馬鹿、声落とせ、声!」

  眠っていた健介が、いきなり目を覚ました。流石に布団の中で動きすぎた。オレの不自然な体勢も冷や汗も全て見られてしまう。

  「あれ、起きちまった⋯⋯?」

  「そりゃあ、あんなに動いてたら誰でも起きるって⋯⋯?」

  やべぇ、ちんぽに手が当たった。

  「⋯⋯な、なんで勃ってるの?」

  「ぐぅ⋯⋯不可抗力というか⋯⋯わりぃ⋯⋯」

  「⋯⋯そういえば、獣人は一日に何回も抜かないと、ムラついて眠れないんだっけ?」

  興味津々といった様子で、オレの肉棒を指先で突いてくる。

  先端を中心とした強い刺激に自然と声が漏れ、慌てて声を抑える。

  「ちょ、健介⋯⋯あんま触んなって⋯⋯♡」

  「ここも気になってたんだけど⋯⋯なんで胸とか腹はもふもふなのに、乳首の周りだけちょっと毛が薄いんだ?」

  好き放題に亀頭を弄られた後、今度は毛皮の中に埋もれている起立した乳首の先端を、人差し指で無遠慮に引っ叩き、掻き回す。

  (あ、あぁ⋯⋯オレ、兄ちゃん以外の奴に、大事なとこ触られちまってる⋯⋯♡♡)

  「⋯⋯犬次郎が好きなAVと、同じような事してあげるよ」

  「はっ、同じようなって⋯⋯てか、なんでオレが見てるAV知って⋯⋯?」

  健介は布団を捲り、オレの下着を脱がしていく。抵抗もできたが、何故か積極的な健介の様子に呆気を取られて、理性が追い付かなかった。盛りのついた雌のように腰をゆっくりと前後に動かしてしまう。

  「うぉ⋯⋯俺のよりデカい⋯⋯ていうかズルムケじゃん、羨ましい」

  「あ⋯⋯♡あんま、そこで喋んなって⋯⋯息、息が先っぽに当たる⋯⋯♡」

  驚いた事に、オレが好きなシチュエーションと全く同じだ。歴代で最もオカズにしたAVは、修学旅行中、皆が寝ている中で、仲良しの獣人と人間が布団に潜りエロい事をする⋯⋯というやつなんだが、まさか健介も見た事あるのか?

  「声、出したら気付かれるんじゃないの?」

  「ガゥ⋯⋯⋯クルル⋯⋯」

  幾ら手でマズルを塞いでも、喉から出る唸りは止まらない。一生懸命声を抑えてる途中にも、健介はオレの肉棒に息を吹きかけたり、先端を弄ったりしている。

  (⋯⋯⋯だ、ダメだ⋯腰が⋯⋯動いちまう⋯♡)

  もっと触って欲しい。汁に濡れた肉棒を擦られたと思ったら、腹筋の割れ目や、淡く色づいた乳首を指先で優しくなぞられる。あんあんと声が漏れてしまうが、健介の愛撫は止まらない。

  「⋯⋯めっちゃ汁出てるけど、ベッド汚したら怒られるかな⋯⋯場所変える?」

  「ん⋯⋯あ、あぁ⋯⋯変える⋯⋯?」

  完全に主導権を握られたオレは、健介の言いなりになるしかなかった。

  (なんか変だけど⋯⋯まぁ、健介からやってくれんなら、良いよな、兄ちゃん⋯⋯)

  健介はオレにベッドから降りるように促すと、先に風呂場に向かっていった。全裸のまま、限界まで勃起した肉棒を揺らしながら後を追って行く。勿論、兄ちゃんを起こさないようにゆっくりと、この先に待つ快楽に密かに期待しながら。

  「⋯⋯明るい所で見ると、すっごい身体だな⋯⋯獣人だから筋肉が付きやすいのか、たくさん筋トレした結果なのか⋯」

  風呂場の中で腕を上げるように指示をされ、腋を見せつけるようなポーズをとる。前には全身が映るサイズの鏡があり、オレの情けない姿が隠しようもなく晒されている。

  身体のゴツさなら兄ちゃんの方が優れているのだが、人間目線だとオレでも十分な体格なのだろう。

  「⋯⋯お、おい、見るだけなのかよ⋯⋯」

  もう何回か擦られれば、すぐにでも吹き出してしまいそうだ。健介はオレの限界を把握しているのか、わざとその場所には触れずに、腹や耳などを摩ってくる。

  「あっ⋯⋯ギャウ、ガルルゥ⋯⋯!!♡あう、あう、クゥーン⋯⋯♡♡」

  耳の中をほじくられ、手の肉球を好きなだけ揉まれ、優しく毛皮を撫でられる。健介も興奮しているのか、股間には固く勃起した雄茎が浮かんでいる。

  (健介も勃ってる⋯⋯つーか、こいつ、オレで興奮できんのか⋯?)

  嬉しい。尻尾が揺れる。隠そうとしても全裸だから無理だ。

  「うぉ、我慢汁出しすぎ⋯⋯水溜まりできてる」

  健介の足が、ピチャピチャとオレの汁溜りを踏みつける。獣人の先走りは粘っこいから、足と床の間で糸が引いてしまっている。

  「とりあえず、一発抜いておこうか⋯⋯玉が破裂しそうなぐらい腫れてる。ていうか、もう上がっちゃってるね?」

  「グルルゥ⋯⋯アウッ⋯⋯クルル⋯⋯⋯♡♡」

  耳の中を弄っていた指が、オレの金玉に向かう。既に大量生産された精子が、あと少しで放出される。一度でも揉まれれば、オレの肉棒は情けなく白濁液を吹き出すだろう。

  (はやく!!はやく、イかせてくれ⋯⋯♡)

  「分かったって⋯⋯亀頭を少し触っただけで⋯」

  「⋯⋯!!あ、あぁぁ⋯⋯!!で、出ちまう、出ちまうよぉ⋯⋯♡♡⋯⋯⋯!!♡♡♡」

  最大限、口から出る喘ぎを抑え、鏡に映る目の前のオレに向かい、思いっきり射精した。

  「⋯⋯♡うぅ⋯⋯け、健介⋯⋯お前、結構、積極的⋯⋯」

  「すっげえ臭い⋯⋯獣人の精液って、臭いも濃いのか⋯」

  風呂場にむわりと広がる雄臭は、敏感なイヌ科の鼻にとっては更なる発情のトリガーに成り代わる。気付けば健介もパンツ1枚になっていて、ヒクヒクと肉茎を波打たせている。

  (んぉ⋯⋯健介のちんぽ⋯⋯舐めてぇ、美味そう⋯⋯♡)

  

  大きく張られたテントに釘付けになっていると、健介はオレの頬を手のひらでわしゃわしゃと撫でてきた。愛犬とじゃれつくような、心地よい感触。

  「ぅぅ⋯⋯キューン⋯⋯アゥ、アゥン⋯⋯⋯♡」

  恥も外聞も無く尻尾を振り回すオレの態度に満足したのか、健介はオレの頭を上から押し付け、自身の下着の目の前に持っていく。濡れた鼻先と染みた我慢汁の距離がゼロになり、脳味噌が淫汁の作用で快楽に包まれていく。

  兄ちゃんとは違うちんぽ、大きさも臭いも違うが、これが健介のちんぽだと思うと、涎が止まらなくなった。

  「フェラされるの久しぶりだけど⋯⋯牙に当たらないようにしてね」

  「あ、あぁ⋯⋯分かった、いいぜ⋯⋯♡」

  後頭部を掴まれ、姿を現した人間ちんぽにマズルを押し付けられる。熟れた臭気を纏った肉棒は、汁のせいで全体的に湿っている。裏筋をペロリと舐めると鈴口から汁が吐き出され、舐めても舐めてもキリがない。

  頭を前後に動かして根元まで奉仕すると、健介は快感に悶えたような声を漏らして腰を動かす。狼特有の長いマズルのおかげで、主人の意向には添えたようだ。

  「⋯⋯もういいよ、ありがとう⋯それじゃ、後ろ向いてね」

  「あ、オレ、飲みたい⋯⋯健介の⋯⋯」

  「いいから、ほら」

  健介の指示通りに、鏡に手を付き尻を突き出す。快楽に溺れた淫狼の顔が鏡に映り、目を背けたくなるが、突如として現れる巨大な快感により、気にする余裕は無くなる。

  「あ⋯⋯♡オレ、掘られるのか⋯⋯?♡」

  「いつもお兄さんとヤってるんでしょ?俺のは犬太郎のより小さいから、痛くはないよ」

  淡々と話す健介の手付きは、まるで複数回の経験があるようにスムーズにオレのケツを慣らしていった。

  「あ、お"ぉ"♡♡指、は⋯⋯い"っ⋯⋯♡♡」

  皺濡れの玉袋は限界まで竿に近付き、絶え間なく白濁混じりの先汁を漏らし続けている。だが、絶頂の快感よりも前立腺をコツコツと叩かれる刺激が強すぎて、瞳孔は上を向き白目になりかける。

  両足を広げられて大きく開かれた肛門は、既にちんぽの1、2本は入るぐらいまで拡張され、今か今かと雄肉が挿入されるのを待ち侘びている。

  「怪我したら危ないもんね⋯⋯もっと解さなきゃ」

  「お"ぉ"♡♡♡指ッッッッ♡♡ケツ、捲れ"る"♡♡」

  執拗く擦られる前立腺の刺激は脳味噌まで到達し、運動機能を低下させ、太腿がガクガクと震える。足裏の肉球も水溜まりとなった我慢汁により湿って、凝縮された雄臭が鼻に届く。

  「⋯⋯うん、もういけるね⋯⋯使い込んでるけど、兄貴とはどれぐらいシてるの?」

  「⋯⋯⋯し、週3⋯⋯♡」

  最近は課題が忙しく、兄ちゃんとじゃれる事も少なかった。

  「じゃあ、そろそろかな⋯」

  ケツの割れ目に熱く硬い棒のような感触が伝わる。大きく傘を張った亀頭はまもなくオレの穴に触れ、容赦なく前立腺を押し潰してくるのだろう。訪れる快感に備え、足の指にギュッと力を入れ、精一杯入れやすいように腰を落とす。

  (あぁ⋯⋯健介、オレ⋯⋯)

  ━━━━━━━━━━━━━━━

  ━━━━━━┈┈┈┈┈┈┈┈┈

  「⋯⋯⋯健介さん、起きてくれ」

  「⋯⋯ん⋯⋯犬太郎?おはよう⋯⋯どうしたの?」

  「⋯⋯とにかく、離れた方がいい」

  「⋯⋯⋯?」

  確か俺は、犬次郎に誘われて、もふもふを堪能しながら眠ったはずだ。事実、今も腕の中にいて、少し暑いが変わらない触り心地が⋯⋯あれ?

  (⋯⋯なんか、腹と太腿の辺りに⋯?)

  違和感を感じ手で確かめてみると、粘ついて、べっとりとした白い液体が大量に付着した。犬太郎は頭を手で抑え、大きく溜息をついている。

  「⋯⋯健介さん、獣人⋯それも肉食は性欲が強い⋯⋯だから、その⋯⋯犬次郎は我慢できなかったようだ⋯」

  「う〜ん⋯⋯⋯健介ダメだ⋯⋯まだ、早⋯⋯」

  呑気に寝言を喋る犬次郎は、ピクピクと震えていた。

  掛け布団をめくると、健介の肉棒は直立していて、現在進行形で先端から精液が漏れ出していた。パンツなど余裕で貫通して、下に敷いてあるベッドにも染みてしまっている。

  「鼻は効かせていたんだが⋯⋯すまん、一歩間に合わなかった。早く洗ってきた方がいい、他の獣人にマーキングと勘違いされる」

  「⋯⋯⋯えっと、夢精って事だよな⋯⋯黙ってた方がいい?」

  「どうせこいつも匂いで気付く⋯⋯そうだな⋯⋯犬次郎はこういう時、相手に気を使われると逆に元気が無くなる。できれば笑ってやって欲しい」

  「了解⋯⋯⋯でも、寝心地は良かったよ」

  「それも言ってやってくれ。喜ぶと思う」

  未だ気持ちよさそうな表情を浮かべる犬次郎をよそに、俺と犬太郎は今後のベッドの処理をどうしようか話し合った。

  「⋯⋯わぅ、健介⋯⋯夢⋯⋯ていうか、パンツ⋯!?」

  「お、おはよう⋯⋯犬次郎のおかげでよく眠れたよ!」

  「⋯⋯⋯!!わ、わりぃ、オレ、わざとじゃ⋯⋯」

  シャワーで精液を洗い流した後、10分程あとに犬次郎が起きた。匂いで全てを察したらしく、涙目になりながら謝ってくる彼を宥めるのに時間がかかったが、大丈夫だと頭を撫でたら少し落ち着いてくれた。

  「うぅ⋯⋯オレ、体洗ってくる⋯⋯」

  友達に射精を見られるのは相当恥ずかしいだろう。俺と顔を合わせると、異常なほど顔が赤かった。毛皮越しでも分かるほどに。でも、不思議と嫌悪感は湧かない。仮に他の男に精液を浴びせられた日には、暴言は言わずとも今後そいつには近付かないだろう。

  「⋯⋯健介さん、俺達は肉食獣人だ。凶暴で、不躾で、世間の嫌われ者⋯⋯分かっていると思うが、俺達といるだけで、健介さんも友人を作る機会が減る事になる」

  「⋯⋯⋯うん」

  「だが⋯⋯それでも良かったら、弟の側にいてやって欲しい。あいつは、間違いなく健介さんを気に入っている」

  「⋯⋯⋯犬太郎、変な事考えてる?」

  「いや、弟の将来について少しな⋯⋯あいつには随分と苦労をかけたから、幸せになって欲しいんだ」

  「⋯⋯⋯」

  呟く犬太郎の顔は、なんとなく寂しそうで、それでも優しく笑っていた。最初に見た時、無表情で堅物だと思っていた。今は少し違う。彼は人を思いやる優しさを持っていて、それを見せるのが下手くそな暖かい獣人だ。

  (⋯⋯⋯⋯だからこそ分かる。きっと犬太郎は⋯⋯)

  「待たせたな、健介⋯⋯兄ちゃん、オレのパンツは⋯」

  「乾かしておいてやったぞ。ほら」

  「サンキュ!もうチェックアウトの時間だよな!?」

  「あぁ⋯⋯健介さん、準備はいいか?」

  俺は軽く頷くと、纏めた荷物を持ち、部屋全体を再度見渡した。扉を閉めて鍵を返せば宿泊は終わりだ。

  今日は各人で帰るだけだし、俺自身、この後やることも無い。

  「あのさ、2人とも⋯⋯」

  双子狼は俺の方へ振り返り、耳をこちらに向けて次の言葉を待つ。寸分違わない同じ動作で笑ってしまいそうになるが、俺はずっと抱えていた感謝の気持ちも込めてこう言った。

  「帰り、一緒にご飯食べて帰ろうか⋯俺の奢りで!」

  ホテルの廊下には、3人分の笑い声が響いていた。

  忘れ物は、もう何も無い。

  【嫌われ者の狼獣人"達"が俺の恋人になるまでの話②】終