栄養ドリンクで猫TFして発情しちゃうやつ(サンプル)

  柔らかなベッドに身を預けたまま、俺はぼんやりと現実と夢の狭間を漂う。近くの道を通る車の音、つけっぱなしのテレビから聞こえるアナウンサーの声。心地の良い昼下がりの暖気に包まれて、日常に流れる音がゆりかごを揺らすように俺の意識を微睡みの中にいざなっていく。

  この眠気に身を任せ、もう半身くらいは夢の世界に浸りかけている時だった。俺の意識を唐突に呼び戻すように、ポケットから振動が発せられた。

  俺は上半身を起こし、まだ瞼の重い目をこすりながらポケットに手を突っ込む。取り出したスマートフォンの画面は明るく光って、登録名"悠牙"からの呼び出し中であることを主張していた。

  「……あー、もしもし」

  「はは、眠そうな声だな。お前、たった今まで寝てただろ」

  「……うるせ」

  電話をとって、開口一番に茶化された。寝起き声だとたった一言で言い当てられるのも、学生時代からの長い付き合い故か。昔から変わらない距離感に、いつも通りだなと笑みすらこぼれる。

  「でまあ本題は、そろそろそっち向かおうかなって連絡。部屋は散らかってねぇだろな」

  「あーーー。大丈夫……かな、たぶん」

  電話口で、いぶかしげな顔をしているのが目に浮かぶ。十中八九信じてなさそうだ。

  今日は午後、悠牙がうちに来る話になっていた。最近あんまり顔を合わせてないから久々に家に上がっていいか、なんて数日前に急に言われ、気が付けば話が固まっていたのだ。いまどき20過ぎて家で遊ぼうなんてあまり聞く話ではないが、久しぶりに会うこと自体はまんざらでもない。ないのだが……。

  「整頓が苦手なのは相変わらずみたいだな」

  案の定バレバレ、ぐうの音も出ない。

  実際、15時過ぎだというのに、目の前のテーブルに置かれた食器は昼食を摂った時のまま片付いていない。部屋の整理だって昨日寝る前に中途半端で投げ出したままだ。床には積みあがった本や衣服がいくつかのタワーを形成している。面倒くささに流されて、睡魔に負けてしまってこのざまだ。

  これまでに何度部屋が汚いとどやされたことか。実際のところ俺自身は別に何を言われても構わないのだけど、せっかく遊びに来たというのに露骨に不満そうにする顔を見れば、流石にしのびない気持ちにもなる。

  「翔の家まで……一時間くらいかな。それじゃ電車乗るから、また後で」

  それだけ言って、向こうが電話を切ったようだ。一時間か、できるだけ綺麗にはしておこう。

  何からするべきか、なんてぼんやりと考えて、テレビの方をちらと見る。うたた寝をする前は情報番組を見ていたはずが、いつの間にか通販番組が始まっていたようだ。「本能を呼び起こせ!滋養強壮効果で日々に活力を!」みたいな売り文句で栄養ドリンクを紹介している。悠牙なんかも案外、こういうものに興味があったりするんだろうか。あいつがこの類の商品を手に取っている姿は……あんまり想像できないな。俺はそもそもテレビ通販を利用したこともないし、縁のない世界に思える。

  時間限定の特別価格とやらを連呼していた通販番組を消し、時計を確認すると既にもう10分が過ぎていた。俺はあわてて立ち上がり、とりあえず机の上に置き去りにされていた皿を台所へ運ぶ。水道から流れる水は季節がらまだ微妙に冷たく、かじかむ手に眉をひそめながらこの後の予定をぼんやりと組み立て始めた。

  皿洗いを終えて濡れた手を大雑把に拭きとって、俺はなんとなしに郵便受けを見に向かった。ふたを開け、とりあえず入っているもの全てを取り出してみる。いつの間にか届いていた地域新聞に、近所のスーパーの特売広告……。これは一応冷蔵庫に貼っておくか。

  いくらかの郵便物の中には見慣れないものも入っていた。特段目を引いたのは、小さめの小瓶が二個同封されたチラシ。瓶には液体が入っていて、チラシに書かれたキャッチコピーの方は何故かなんとなく見覚えがある。満面の笑みを浮かべた猫のキャラクターが成分表のようなグラフを指差しているが、あいにくと一体どの成分がそれぞれどういった効能を持っているかはよくわからない。

  「あぁこれ、もしかしてさっきの」

  半分くらい目を通したところでようやくピンときた。このチラシ、たぶんさっきの通販番組で紹介していたドリンクの試供品だ。謎の既視感も腑に落ちる。

  中身が少し気になって、ビニールの外装を開いて小瓶を取り出してみた。容量で言えば100mlちょっとくらい。チラシにいたのと同じキャラクターが、製品名の書かれた看板を掲げているイラストが印象的な、わりとよくあるラベルだ。

  あとであいつがうちに来たら譲ってやるか。いらねぇよなんて言いながら、なんだかんだ受け取りそうだな。そんな風に少しだけ考えて、もう一度チラシを眺めてみる。色々書いてあるものの、結局のところエナドリの類であることに違いはないようだ。眠気の覚めきらないままこれから掃除をしようという身には正直ちょっと興味をそそられる。

  どうせ二本あるのだ。片方くらい、試しに飲んでみたって罰は当たらない。それに、あまり気に入らなければ悠牙に押し付けてやればいい。俺は衝動的にキャップを開け、一気にあおり飲み干した。味は一瞬苦みを感じたくらいで、よくあるやつって感じだった。

  ほどなくして、お腹の辺りがほんのり温かくなってきた。即効性の強さに漠然とした感心と不安を感じるものの、あまり時間もない現状からするとありがたい。これは当たりだったかもしれないなと思いながら、近くに放置されていた本の山に手を伸ばした。

  「……ん?袖になんか入ってるのか」

  不意に右の二の腕辺り、袖の中にくすぐったさのような、もぞもぞとした違和感を覚えた。例えるなら、糸くずか何かが紛れ込んでいるような。服の上から軽くはたいてみたが、こそばゆさは治まらない。

  ぱたぱたと繰り返すうち、妙な感覚は右腕全体に広がっていっているようにも感じてくる。微妙な不快感の正体が気になって、俺は袖をぐっとまくった。

  「……へ?」

  俺は自分の目を疑った。そこにあったのは黒い毛並み、ほぼ腕全体を覆う動物のような短い毛足。その範囲はむずがゆさと共に現在も徐々に広がっていて、その獣毛に触れたり軽くつまんで引っ張ったりしてみれば、確かに自分の腕から生えているらしい小さな痛みを感じる。

  得体のしれない現象に困惑を隠せないまま、手首から先もどんどん毛に包まれていく。手のひらには淡い色の肉球も存在していて、爪は引っ張られるように先端が尖っていった。

  「だ、誰かに連絡……!」

  指先が完全に毛に覆われきって、俺はようやく現状を飲み込み始めた。変化は右腕にとどまらず、肩まで登ってきているのが感覚でわかる。自分の身体に起きている異常にだんだん焦りが大きくなって、俺はあわててポケットからスマホを取り出した。

  「あっ……ぐ、ぅ……」

  まだ変化していない左手でぎこちなくロックを解除しようとした時、肩のあたりから鈍い痛みを感じた。骨が軋むような音に思わずスマホを投げ置いて、左の手で反対の肩を押さえつける。めきめきと不安になる音をたてながら不快感はどんどんと範囲を増していて、恐怖心から呼吸も心拍も荒くなる。

  獣毛が首筋まで上がってきて、何かが這うようなゾクゾクとした感触に襲われる。胸から下や反対の腕にも徐々に変化は進んでいて、俺はたまらずその場に座り込んで俯いた。

  その時、低く唸るような音が小さく聞こえた。視界の端、音の正体は床に落ちたままのスマートフォン。繰り返し振動するそれを拾い上げると、画面に表示されているのは"着信中"の文字。俺は発信者の名前を確認するや否や、"応答"ボタンをタップした。

  「あー、翔か?たぶんもう少ししたら着――」

  「たす、たすけて……!ゆうが、おれ、からだが……にんげんじゃ、なく……ぅ」

  友人の声に安堵の涙を浮かべる。話そうとする最中にも口の中では歯が変形していくのを感じ、鼻先は何か見えないものに引っ張られるように前へ伸びていく。喉ごと変化をしているのか、声を出しづらくて説明もできない。

  「う……ぁ、や、だ……」

  「……とりあえず落ち着いて待ってろ。なるべく急いで向かうから」

  返事をする間もなく電話は切れていた。スマホを持つ左手もいつの間にか変化していて、絶望感に再びスマホを取り落とす。

  電話口で助けを求めはしたものの、悠牙にこの姿を見られたくない。こんな、まるで獣みたいな……

  「ひぁっ、な、なに……これぇ」

  背中の下の方、お尻のあたりから強い違和感を覚えた。ぞわぞわと背筋を走るその感覚に、全身の力が抜けていく。何が起きているのか確かめたくて、違和感の根元に恐る恐る触れてみる。

  「んゃぁっ……!?」

  瞬間、電流が走ったみたいな強い感覚に襲われた。全身の毛が逆立って、身体がかーっと熱くなる。意を決し、もう一度そっと撫でるように触れれば、腰のあたりを同様の感覚――強い快感が迸る。

  「ひ、ぁ……これ、しっぽ……だ」

  窮屈な服の中、尾てい骨のさらに先には膨らみが伸びているのが触れてわかった。尻尾は下着と肌の狭い隙間を這うように体積を増していて、擦れる感触に淡い快感が止まらない。

  「ふぅ、く……っ、あぅ……!」

  身体の芯をくすぐるような刺激に耐えかねて、涙で視界がぼやけて見える。耳が上に伸びる感覚、足の骨格が変化する感覚すら、だんだんと快楽に呑まれていく。

  頭の中は気持ちよさと不安でぐちゃぐちゃになって、思考力が失われていく。両手を床につき、襲い来る感覚にただただ耐え忍ぶ。これが夢であればいいのに。そうぼんやりと願いながら、快感にまた小さく声を漏らした。

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