治験バイトで騙されて狐TFして搾精されるやつ(サンプル)

  「それではこちらでお待ちください。中に着替えもありますので」

  短い機械音とともに、目の前の扉が横にスライドして道を開ける。首から下げたカードキーでロックを解除した白衣の男が、僕を促すように腕を部屋のほうへ差し出した。部屋の電気は既についていて、僕はおとなしく中へと歩み入る。

  廊下と同じく清潔感に満たされたその部屋は、アパートのワンルームのような手狭さの中に控えめな家具の量と質素な印象を抱かせた。白いシーツがセットされたシンプルなベッドと、ごちゃごちゃと何かが収納されている大きな棚。そしてその隣、男の言っていた着替えの置かれた小さめの机以外、この部屋には何もなかった。強いて他に挙げるなら、壁に用途のわからない金具がちらほらと設置されていることくらいだろうか。

  背後で扉が閉まり、再度ロックを施したことを知らせる音が小さく鳴った。ぴったりと隙間なく閉まった扉は完全に機械で制御されているようで、軽く力を加えてみても廊下の景色を再度拝むことはできなかった。文字通り、誰か職員が来るのを待つしかないのだろう。緊張していた身体をほぐしながら深呼吸をすると、なんだか少し甘い匂いがした。

  僕は着替えを手に取って、衣服を脱ぎながらここまでのことを思い返す。きっかけは、たまたま近所で見かけた求人の広告。飾り気の一切ない、必要な情報だけが羅列された文字だけのその広告がやけに目を引いたのを覚えている。目を通してみれば薬の治験のような内容に興味も出てきて、記載された番号へ連絡することにさほど迷いはしなかった。

  そうして当日僕を迎えたのは一台のバンだった。窓には布がかぶせてあって、中の様子は伺えない。職員であろう運転手の男曰く、機密保持だかなんだかが理由で向かう場所を知ることができないらしく、ではこれは外を見えなくするためのものかと認識が改まる。

  その後男はいくつかの書類を差し出して、それら項目に同意の署名を求めた。受け取ったその内容は膨大で、びっしりと埋め尽くされた文字の洪水は集中力を保たせるのが難しいほどの量。書類をめくっていく速度がどんどん落ちていくのが自分でもわかる。じっとこちらを見て待つ運転手の視線も気まずくて、焦りで内容がろくに頭に入らなくなっていく。目が滑るのを耐えながら最終的にサインをしたものの、同意書すべてを理解できたかと言われると、僕は自信がなかった。

  そのまま発車した車で揺られること数十分。娯楽や暇つぶしの何もない車内は正直かなり暇だった。感じる揺れで今どの辺りにいるのか想像したり、何回角を曲がったか数えてみたり。退屈をごまかすために工夫を試みてみるものの、五分経つ頃にはどれも飽き。結局僕は耐えかねて、車が山中の目的地に到着するまで眠ってしまった。

  だからここは、その求人を出していたどこかの製薬会社だか研究施設ということになるのだろう。休憩室みたいなこの部屋も、その施設のうちの一室。部屋ごとにオートロック機能が備わっているところに技術と規模の大きさを感じる。

  回想もそこそこに僕は淡々と着替えを終えた。置いてあったのはバスローブのような羽織れるタイプのゆとりあるもの。机の上に添えられたメモで自前の衣服はすべて脱ぐよう指示されていたため下着まで脱ぐかは少し迷ったが、後から人の目の前で脱ぐのも抵抗があったから、結局これの他には何も身に着けなかった。けれどそれ故に柔らかな生地の質感が非常に快適。僕が今まで来ていた服は、机の端に畳んでおいた。

  「ふぁ……ん……」

  唐突に、大きなあくびがこぼれた。着替え終わった頃から若干の眠気が襲ってきて、僕はベッドに腰かける。車の中で中途半端に眠ったせいで、脳はまだ休息を求めているんだろうか。重くなってきた瞼を開いているのがつらくなってくる。

  応対するはずの人はまだ来ない。いったいどれくらい待てばいいんだろう。もしまだ時間がかかるというなら、少し仮眠をとることくらいは許してはもらえるだろうか。眠気を耐えるための策よりも、眠るための言い訳ばかりが思い浮かぶ。

  そういえばこの部屋には、時間を見るための道具が置いていない。スマートフォンは回収され、窓もないため日の傾きも確認できず、ここに着いてからどれだけ経ったのかもわからない。扉の向こうにも人の気配は特になく、限界が近づいてきた僕はベッドの上で横になる。

  柔らかい枕の感覚が心地よくて、起きているための気力が急激に奪われていった。瞼はもう閉じている。誰かが部屋に戻ってきたら、きっと起こしてくれるだろう。楽観的な思考が睡魔の背中を押す。それに抗うための理由は弱く、僕はゆっくりと意識を沈めていく。完全に眠りに落ちるまで、時間はかからなかった。

  

  「ん……」

  近くでカタカタと聞こえる物音に、僕はゆっくり目を覚ました。薄く目を開け、見慣れない天井が目に入り、自分が今いる場所をぼんやりと思い出す。

  音のする方向へ顔を向けると、そこにいたのは先ほどの白衣の男性だった。眠っている間に戻っていたようだ。どこからか持ってきたオフィスチェアに腰かけて、パソコンに何かを入力している。ここからでは距離が遠くて詳細は分からないが、表計算ソフトの類に見えた。

  まだ少し眠い目をこすりながら身体を起こす。首元にわずかに重みを感じ、触れると何かが着けられているような感触がある。革のような素材と金具……これは、首輪?

  「おや、もう目を覚ましましたか」

  僕が目を覚ましたことに気が付いたようだ。こちらを見て声をかけてくる男は困惑と驚きの混ざったような表情を浮かべている。パタリ、ノートパソコンが閉じる音を立て、男は椅子から立ち上がった。

  「想定よりだいぶ早かったですね。まだ変化が始まったばかりというのに」

  僕はベッドの上で少し後ずさる。なぜだか男の雰囲気に、さっき会った時にはなかった不気味さを感じたから。しかし狭いベッドの上では背がすぐに壁に着いてしまって、その時手に何か紐みたいなものが触れた。手で辿ればその一端は僕の首輪に繋がっているようだ。軽く引っ張ると、一瞬だけ首が苦しくなる。となると、もう一端はと振り返る。思ったよりも長さのあったその先は案の定というべきか、壁の金具に留められていた。

  「……説明、してください」

  僕は恐る恐る言葉を選んだ。状況が読めず、警戒を露わに男をじっと見つめながら。不安で手が震えているのを気づかれまいと、こぶしを握ることで誤魔化した。

  「先ほどあなたが眠っていた間に、事前に説明していた試薬を投与させていただきました。その首輪は保険みたいなものです。薬の効果を知ったら多分……逃げようとするでしょうから」

  男は口の端を持ち上げて、やんわりと笑みを作った。”気づいていないんですか”、そう呟いて僕の足元を指さしながら。

  彼の言った意味を確かめようとして、僕はローブの裾あたりをそっと指先でつまんだ。固唾を飲み込んで、そのまま腕をゆっくり上へずらしていく。一息にめくるのは簡単なことだったはずなのに、なんとなく見てはいけないような気がして。重大な何かを暴いてしまうような緊張感に、手が思うように動かない。

  「まどろっこしいですねぇ」

  あきれたようなため息が、僕を我に返らせた。男を見ると椅子をこちらに向け、再びそこに座っている。僕はローブを両手で掴みなおし、少しだけたくし上げた。

  「ぇ、あ……?」

  即座に視界へ入るのは、見慣れた僕の左の素足。そして、見慣れないものがもうひとつ。そこにあるはずの僕の右足は、いつも見ていた姿ではなかった。太ももから先は小さく縮んで形が変わり、全体が黄金色の毛で覆われて。短くなった指先には尖った爪が生えていて、足首から先だけは、毛色が焦げ茶になっている。自分の目を疑って、手でこすってもう一度見ても、現実は変わらない。どう見ても、僕の片足は動物になっていた。

  「それが薬の効果ですよ。一応、別種族の遺伝子情報を用いた細胞組織の改変技術については軽く記してはおいたんですけど……まぁ、これで察しろっていうのは無理がありますか」

  男は紙を手に持って、僕に見えるようにひらひらと見せびらかした。ぎっしりと文字の詰まった書類はたぶん、さっき僕が読んだ同意書の一部だ。書いてある内容が専門的過ぎて、あいまいに読み飛ばした辺りのことを言っているんだろう。そんなもの、あの状況で初見の僕に読み取れるわけがない。

  「元に、戻してっ!」

  騙されたと知ってもたげてきた怒りと、身体が人間でなくなる恐怖とがないまぜになって、僕は怯えたように声を荒げた。足は今なおだんだんと変化してしまっていて、一度意識してしまったが故か、身体の内側を直接触られているような奇妙な感覚がじわじわと広がっていく。

  「我々がこれまでに開発した薬は、実際にどの種族に変化するのかが投与されるまでわかりませんでした」

  焦る僕の様子に態度を変えることはなく、男は平然とした表情で淡々と話し始めた。徐に立ち上がると棚の戸を開け、そのまま小瓶をひとつ取り出す。ラベルを確認しているようで、男はそのまま説明を続ける。

  「例えばこれは"Felidae"……つまりネコ科です。お察しの通り、今までの薬を用いた際に想定される効果はずいぶんアバウトなものでした」

  男が小瓶を揺らすと、ちゃぷちゃぷと中の液体が音を立てた。軽い音とともに小刻みに振られる瓶の動きが妙に気になって視線を外せない。

  「ですので今、もっと種族を限定した薬を開発中なんですよ。今回投与したのはその試作品……って、聞いてます?」

  男が不意に何度か小瓶を両手で隠したり見せたり器用に弄び始め、僕はそれを目で追っていく。手の中から瓶が姿を見せるとうれしくなって、すぐまた隠される瞬間を見逃さないよう、じっと手元を見つめる。

  コトリ、瓶は机の上に置かれた。楽しかった時間が終わってしまい……それとともに一気に冷静さが戻ってきて、自分の置かれている状況を思い出した。

  今、僕は、何を考えていた。僕はたった今、あの瓶を”捕まえたい”と、そうはっきりと意識していた。瓶を奪って何かをする、なんていう理性的な理由じゃない。もっと単純な、本能的な衝動。僕は困惑に視線を落とす。

  もぞもぞと這うような掻痒感は今も身体中を巡っていて、変化の兆候は腹部や腕にも表れていた。襟元から見える胸の辺りは既に白い柔毛が覆っているし、袖から覗いている手首の先は、もう黒い毛が少しずつ生え始めている。こそばゆさで呼吸が短くなって、体温が上がるのを感じる。

  「思ったよりも侵食が早いみたいですが……まあいいでしょう。一度席を外しますね。少し用事がありますので」

  男の話は全く頭に入ってこなくって、僕は動揺に俯いたまま。扉の開閉する機械音がして、男が返事を待たずに部屋を出ていったことは脳の片隅でなんとなく理解した。

  ここから僕はどうするべきなのか、何も思いつかなかった。首輪を外して外へ逃げることも、少しは考えた。男が見ていないこの隙に手探りで首輪を外して、戻ってきたところで脱走すればあるいは。だけどそれをするにはもう手遅れだった。首輪を外そうとした僕の手は、せいぜい何度か金具を引っ掻いただけ。僕の手はもうほとんど変化してしまっていて、留め具を外すことすらできなかった。

  「ぅ……、はぁ……」

  壁に背を預ける姿勢が少しつらくなってきて、僕はベッドに身体を横たえた。もともとゆとりの多かったローブはどんどん緩くなっていて、正直脱ぎ棄ててしまいたかった。だけどそうしてしまったら、自分が人間であることを否定してしまうような気がして。それにこの布に覆われている限りは、人間性を失っていく自分の身体から目を背けていられるから。そうやって少しでも現実逃避をしていないと、不安につぶれてしまいそうだった。

  「……ぁ、ぅぐ」

  骨格が鈍い音を立てながら、肩やひじといった関節がその形を変えていく。鈍痛は耐えられないほどではないものの、抑えきれない恐怖心は頬を濡らす。むずがゆさに似た強い違和感とともに、尾てい骨あたりから何かが生えてくる感覚がして。見なくても尻尾が生えてきていることは容易に想像がついた。

  「ぃ、や……ぅ」

  鼻先がぐぐと前に伸び始めた。視界にはっきりと自分の鼻が映っている光景は、自分が自分でなくなっていく様子を否が応でも見せつけられているようで。目を背けたって何も変わらないのに、僕はその変化を直視することができなかった。

  しかし、目を閉じ身体の感覚に意識が向くと、誤魔化していた感覚が目を覚ましてしまう。気のせいだと考えないようにしていたはずなのに。さっきから徐々に強くなっている、おなかの奥でじんじんとくすぶる疼き。こんな状況だというのに、触ってほしいと主張して、刺激を求める下腹部の熱を。だから扉に気を向けるだけの余裕が、僕にはなかった。

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