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いとかけ15 各諸元
級名■おりひめ型
種別■50m級恒星間長距離哨戒艇 15番船
定員■定員6人
■生命維持装置有効期間 未補給条件で定員6人にて1年間
装備■
・各種レーダシステムおよび超光速亜空間通信システム
・機首および後尾レーザーCIWS×2
・艇上面実体弾単装速射砲
・連装中距離ビーム砲タレット×2
・VLS×2
偵察ロケット
シールド発生装置
超重力砲(ワープドライブ同軸)
・後部多目的デッキ
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[chapter:かぐわしき新生活]
ツガイになると宣言し、晴れて二人は夫婦になった。だが。だからと言って何事もやりすぎはよくない。
ハシャいだカナタは体力の続く限りセラを抱こうとしたが、セラはまだニンゲンなのだ。体力が尽きるのはカナタよりずっと早かった。
舐めて出させて出されて舐められて。獣臭と粘液にまみれて部屋と体をべたべたにしながらセックスを続けた二人だったが、徹夜で40時間やり続けるのは流石に無理だった。セラが。
あたりまえである。
何度目かもわからない中出しの果てに、セラは白目を剥いて、くっさいシーツに突っ伏して気絶した。
それにカナタも、いくらタフな獣人とはいえ体力は有限だ。腹は減るし眠たくもなる。この直前には守り人たちにまたがって、ドローン群との生身での戦闘をこなしているのである。やり疲れて寝たセラを慈しむように、カナタも一緒に眠りについた。優しく、抱き抱えるように、臭い体で。
そんな彼女の嫁になってしまったセラは、寝返りを打ってカナタの汗酸っぱい脇の下に顔を突っ込んでしまい、激臭にえずきながら起きるという最悪の初夜の朝を迎えたのだ。
股間からは精液がいまだにどろどろ流れ出していて、全身汗とカナタの皮脂でべたべた。そして鼻が曲がりそうなカナタの脇臭が染み込んでしまった顔面。
セラは激怒した。それは怒った。ぐーすか寝ているカナタの顔面を踏みつけて枕で叩いて起こした。
そして起きた二人を待っていたのは、ひどく汚れた個室に、カナタが獣の爪でぐちゃぐちゃに破いた寝具と傷だらけにした内装パネル、その傷や壁の隙間にねっとりこびりついた各種粘液、そして汗ばんでねばつくカナタの体だった。それらの発する異臭はすごかった。二人とも鼻が馬鹿になっていたので、換気して森の空気を入れたら余計にくささを感じてしまってひどかった。部屋の空気に充満した異臭の出どころは大部分カナタの体臭である。バイオスーツの疑似臭腺の匂いや、ベース動物であるバーバリライオンの遺伝情報そのままに獣化したカナタの体臭はすさまじい。
立派な黒いたてがみや、脇と股間の剛毛から発せられる猛々しくオス臭い獣臭は、カナタが端正な女性パイロットだったとはにわかに信じられないようなもので。しかし本人はあっけらかんとしていて、あろうことかそんな体臭を嗅がせようとさえしてくる始末で。
臭いにくらくらしながらも、掃除しようとするセラにふざけかかってくるカナタに、セラは再びブチ切れて頑丈そうな睾丸を蹴っ飛ばした。ムキムキライオン獣人(元女)は股間を抑えてしばらくうずくまっていた。
いくら臭い獣人とはいえ、一応文明をもった地球出身の知的生命である。体臭はある程度仕方がないかもしれないが、出したものはきれいにしないといけない。不潔は良くないことくらいはケダモノになったカナタも覚えていた。
かくして、いろんな意味で芳しい初夜を過ごした二人を待っていたのは、大掃除だった。
「よくもまあ、こんなに出せたもんだわ・・・・」
ニオイ除けに薄手のタイトな簡易宇宙服を着たセラがヘルメットの中でつぶやく。ライトグリーンのそれは軽作業用や救難用で、軽量で全身タイツのように伸縮性のある生地のため、着るのが簡単で動きやすい。ただ生地が薄手のため防御力が弱く、派手な戦闘には向かない。
「うえ、がびがびになってる」
壁に付着して乾いてしまった、黄ばんだゲル状のそれをヘラで何とかこそげる。巻き散らかされた精液は乾いてしまってなかなか落ちないのだ。
「動力さえあれば‥‥」
セラがヘルメットの中でため息をつく。
未知の惑星を探査するために設計された、おりひめ型長距離哨戒艇は、万一船内で病気による死者や汚物が出てしまった場合の防疫設備も持っている。たとえば各個室や廊下は基本的に防水構造で、いざとなればスプリンクラーで部屋の中に大量の薬液を噴射して部屋を丸ごと洗ってしまえるようになっているのだ。バイオハザードが発生しても有人対応する必要はなく、リモート操作で、ものの数分で部屋中の汚れも病原菌も洗い流して船外に排出できる。
ただ、現状のいとかけはすべての動力が停止中でその機能が使えない。不時着時に破損した主動力炉は言うに及ばず、補助動力炉も現在停止中だ。船体統合管理AIのハカセが守り人たちに認識改変されたのがわかって、セラがハカセを船ごと停止させたからだ。その際、補助動力を通常のやり方ではなく裏マニュアルの手段でむりやり緊急停止したので、復旧に時間がかかっている。通常マニュアルの指示は時間がかかるので強制停止をハカセに察知される。だからAI対策で電子マニュアルに載っていない裏マニュアルでセラは補助動力を落とした。けれど裏マニュアルでは補助動力炉に負荷を掛けて無理やり止めるために、結構な数の保護回路が損傷する。なので再起動はその保護回路の修理が必要になる。そちらは修復ドローンに任せているが、当然その間無動力だ。
よって、レーダーも武装もお部屋の洗濯脱臭機能も何もかも使えない。レーダーが使えないのが一番マズイのだが、守り人たちが何か察したのか、無動力になったいとかけの周りを何重にも取り囲むように群れで囲んでいて警戒してくれている。なので、当面は船の防衛を気にしなくても良さそうなのである。
掃除するセラの視線の先、窓から見える森の中に、ファルキリアドローンを警戒する守り人たちが、こちらにお尻を向けて森の中に散らばって立っている。気が付いた時からずっと動きもせずにあのままだ。
「そんくらいしてくれて当然っしょ」
セラはつぶやく。
名前も知らない星に呼び込んだ上に相方を人外に変えてしまったのだ。補償としてこれくらい気を使ってもらってもよい。それに、戦力の有無という点では、今のカナタなら船の兵装を使わなくてもドローンを蹴散らせる。なので、当面の心配事は住居となる船の復旧と掃除なのである。
復旧に関してはドローンによる動力の修理を待っていればよいのだが、部屋を異臭のするまま放置というのはまだ人間的な感覚のセラには我慢できず、というかやることがなくて手持ちぶさたのため、人力での掃除と相成った。
・・・・暇にしていると発情したライオンにまた襲われるだろうというのもあった。
その発情ライオンことカナタは留守である。近くの川に水浴びに行っている。汗と垢と獣と精のにおいですさまじい臭気をまとっていた旦那は、強烈脇臭で起こされるという最悪の目覚めをさせられた新婦に、今すぐ体を洗ってこいとでかい鼻を握りつぶされ毛むくじゃらのキンタマを蹴られ、ひいひい言いながら船から蹴り出された。
「あれで、単独超光速航行ライセンス持ちのパイロットとか」
雑巾を絞りながらセラはため息を付く。人間だった頃のカナタは比較的地味な出で立ちではあったが、すらっと長い黒髪にすっきりした体型、てきぱきとした判断、バイオスーツによる戦闘能力も一級と、男以上に優秀なパイロットだった。そんな彼女が、臭くてエッチで馬鹿でむさくるしくて色ぼけの、むきむき剛毛ちんぽ付きバーバリライオン獣人になってしまっているのだ。あの中性的な出で立ちとやさしく明るい性格にちょっとした憧憬の念さえ抱いていたセラにとっては、ほぼ馬鹿なオスになってしまったカナタの様子はなかなかに悲惨でショッキングな出来事なのである。
「‥‥はぁ」
彼女の面影が残る獣人の目元を不意に思い出し、またセラはため息をついた。
ショックというが、セラもいずれカナタと同類になるのだ。カナタにたっぷりウイルス入りの精液を胎内にぶちまけられたせいで。
下腹部を抑える。こころなしか、じんじんと痺れるような感じがするような気がする。
ウイルス。この星の土着ウイルスが守り人の能力で改変されたもの。カナタのバイオスーツに用いられていたバーバリライオンの遺伝情報を取り込んだ獣化ウイルス。これに感染すると、バーバリライオンの形質を持った獣人へと体が変貌してゆく。カナタはこれで獣人になってしまった。そしてセラも先述の通り感染している。
まだ体の変貌は起こっていないが、同じように肉体が変貌することは確定済みなのである。しかもワクチンを接種したせいで獣化時の劇的な症状が緩和される。カナタはワクチンなしでこのウイルスに感染したので、一時意識混濁と高熱でバイタルレッドになるなどの劇症を伴ったが、その治療過程で生成されたワクチンを接種したセラは、そんな劇症もなく、ゆっくりじわじわ変貌してゆくとカナタ経由で守り人たちに教えられた。
「私にもあれ、生えるの‥‥よね」
黒々とした股間の剛毛から、猛々しい獣臭とともにそそり立つカナタの肉棒。目にしみるほど臭いそれで散々イかされて酔わされて、気が付けば自分からしゃぶりに行っていたアレ。それがいつか自分にも生えるかもしれないのだ。
まだそんな兆候はない。しかしそうなる未来を想像して、セラの胸に鬱々しい重たいものが圧し掛かる。
ツガイになろうと言われた直後は、処女喪失と激臭による混乱とカナタにしっぽりヤられて性的興奮していたせいもあり、吹っ切れた振る舞いをしていたセラだったが、頭が冷えて冷静になると、やはりこれは恐怖であると感じる。ニンゲンの姿から、カナタと同じような獣人の姿へだんだん変貌していくのだ。痛みも苦しみもなく。目の前にカナタという見本が居るが、得体の知れない変身はやはり恐怖だ。
あと。ものすごく臭くなるかもしれない。体臭が。ちんぽも生えるかもしれないし。
「・・・・」
また何とかこの星から逃げ出す方法を見つけられないかという考えが一瞬セラの頭をよぎる。逃げるのが無理でも、この星のファルキリアドローンを一掃すれば、あのシカたちも逃がしてくれるのではないか。彼らは異星のドローンを排除すべく、その力を持ったカナタとセラを運命操作の能力で呼び寄せたのだ。その目的さえかなってしまえば、シカたちの願いは終わるし、カナタとセラはお役御免のはずである。
しかし、いやいやと頭を降る。すでにカナタのからだは不可逆的に変貌してしまっている。いずれセラもそうなる。しかも、ファルキリアドローンと生身の徒手空拳だけで十二分に渡り合えるほど身体強化された獣人の姿で地球艦隊に帰還したら、どんな扱いを受けるか判らない。そも、この星のシカたちの存在が地球に知れたら、その能力を研究しようとするか、危険と見なし星ごと滅ぼそうとするか、いずれにせよ良くない未来をこの星にもたらすことになる。結局このまま、この星にとどまることがシカたちにとっては最適なのだ。
それでも、でもとセラは考える。
「せめて、結婚報告ぐらいはしたいよね・・・・」
地球に残る両親のことを考える。特にカナタのお母さんには、せめて彼女が幸せでいることぐらいは伝えたい。彼女の父は最初期の地球外生命探査でファルキリアドローンの犠牲になった探検隊メンバーでもある。父と娘が2人とも宇宙で消えたなんて、カナタのお母さんに悲しい話はしたくない。せめてセラと一緒に生きていることは絶対に伝えたい。
‥‥二人とも、めっちゃくちゃくっせえライオンになった(なる)ことは伏せなければならないが。
「‥‥」
「せらーあ、もどったよー」
「はああ‥‥」
元同僚で友人、現夫ののんきな声を聞きながら、セラはヘルメットの中にため息を付いた。
そんな、紹介すべき相手があれなのだ。
どすどすと廊下を歩いてきたカナタは、ひょいと掃除中の部屋に顔を出すと、満面の笑みを浮かべた。
「ねえセラ。えっちしよう!」
この、こんな感じのくそばかエロ旦那を紹介するのか!?
「ちょっと、カナタ、まだ掃除が!」
「いいじゃん」
宇宙服を着ているのにも構わず、カナタが獣毛の生えた体で後ろから抱きすくめてくる。もふっ、と柔らかい鬣がヘルメットにあたるやさしい力を感じる。
――――あ、鬣がふんわりしてる。
一応ちゃんと洗ってくれたんだなとセラが思う間もなく、「この宇宙服やっぱエッチだよね」とつぶやきながら、ボディラインも露わな軽宇宙服の上から、獣の手が不躾にまさぐってくる。股間、胸、お尻を。
いやらしい手つきに、セラの目がヘルメットの中でビキビキと険しくなる。
「ちょっ、掃除終わってからよバカ!」
「えー、どうせ汚すのに」
「一度きれいにしとかないと汚れ残るでしょ!わかるでしょ!」
「でもさ、帰ってきたらまたできるかもって思って、こんなになっちゃってるんだけど」
ぐいっ。
「!!!!」
太ももに固いものが当たる。薄手の強化繊維越しに、しっかり形と熱がわかってしまう。
カナタのちんぽ。
その存在を意識した瞬間、昨晩の情事が頭をよぎり、ぞわ、とおなかの奥から脳天に、甘く小さな震えが走る。
セラは戦慄した。
――――これ、わたし、欲しがってる!?
じゅん、と股間が熱くなる感覚。
「なに、馬鹿なこと言ってるの!」
気丈にふるまって見せる、しかしその、微かな体の震えは、王様にしっかり伝わっていた。
「んふふ。セラ。ほしいでしょ、これ」
「んあ、なっ、なにっ」
「まだセラ、初々しくて好き。ちんちん当たって、昨日の思い出したでしょ」
「ちがっ、何」
「たくさん入れてずぼずぼして、気持ちよくてあへえ、って目を回してたもんね」
「ばかっ! っちょ、おなか押さない、でっ」
ライオンの手が腰に回される。胸もあそこも触っていない。けど、下腹部を、やさしくぎゅっと押さえてくる。カナタの爽やかなあの声で、いやらしいケダモノの台詞を聞かされる。思わず掃除用具を取り落として、セラは後ろから抱き着かれるままぐいぐいと部屋の奥に押されてゆく。テーブルと壁から飛び出す折り畳み椅子、透過窓のある休憩エリアに。
「あっ!」
どん、と後ろから肩を押されて、セラはライトグリーンのタイトな宇宙服姿で、テーブルに両手をつく。
お尻をカナタに向けて。
そのお尻から胸にかけて、ライオン獣人のごつい手がさわさわとイヤらしくまさぐってくる。ぐふふ、とカナタが獣になった喉を鳴らして笑った。
「この宇宙服ってホントエッチだよね」
「そんな見方してるのあんただけよ!」
「セラ知らないでしょ。この服、結構遊びで使ってるパイロット、いるんだよ」
「は?」
「見た目で体形わかるしさ、動きやすいし、たくさんあるから員数管理甘いし、それに、ここ開くし」
カナタが、ぐっと股間をセラのお尻に向かって押し付ける。でかくて熱いそれを、お尻の谷間に挟むようにして。
その、股間部分だけは、ほかの部分と違って灰色のパーツになっていた。
「排泄コネクタの開閉部。そこだけ宇宙服着たまま開けられるようになってるでしょ。だから、“そう”つかうの」
「――!」
この宇宙服は男女共用である。排泄コネクタというからには前も後ろもカバーしている。つまり、そこが開くということは、そういうことだ。
これを着ていればそういうのも防げるかもしれないと思っていた航空機関士は、やるせないため息を吐いた。
「‥‥パイロット連中も結構バカばっかりだったのね」
「工夫って言って。それ着てれば、誰か来てもカバー閉じればぱっと元通りだし、待機命令中の艦内でもスルとき脱がなくていいし」
「まさか、カナタ、これで」
「いや、私はしたことはないよ」
「どう、だかっ‥‥もう!押し付けないで!」
ぐっ、ぐっと大質量がお尻にあたってて、セラは気が気ではなくなってきている。カナタは余裕の声色で、やさしく爽やかなあの声で、ねちゃねちゃと生々しい裏話を聞かせてくる。
「先輩とか、これ着てしてるの聞いたことあるけど、私そういうのしたことなかった。みんなの話聞いてね、ちょっと興味はあったよ」
「したことないって、え?」
「私の女はまだ初物だよ」
「!? え、まだ、あるの?」
「うん。さっき洗ってたら、あったよ。まだ。私の女」
生えて、完全に男になってしまったと二人とも思っていたが、まだカナタに女が残っているらしい。完全な両性具有。しかも未使用だというのだ。
つまり彼女は処女のまま男になって童貞を捨ててしまったということだ。
複雑な状態に困惑するセラをよそに、オスの快感にすっかり支配されたカナタが、甘い声で囁いてくる。
「ねえ。しようよセラ。ちょっとだけでいいから」
「やだ!また、徹夜でするくせにっ!」
「大丈夫。一回出したら終わるよ」
「嘘つけっ!」
「嘘じゃないってば」
ヘルメットの後ろからやさしいささやきが聞こえてくる。声だけ聴いてりゃ、変貌前のカナタだ。しかし、セラの後ろにいて腰をごつい手でつかんでいるのはムキムキのライオン獣人である。
‥‥くさくてでっけえちんぽ付きの。
「イヤ! ‥‥せ、せめて、掃除終わってからじゃないと、やらないっ」
「えー。すぐ終わるし、汚さないから」
「騙されない! あんた、エッチしてるとすごい馬鹿になるからっ」
「そう?」
「そうよ!この体力お化け!徹夜でしたでしょ!気絶して白目剥いてる私を延々と犯し続けた馬鹿はどこのどいつよ!」
「え?だーれ?」
とぼけるライオン。熱くてでかい塊を押し付けながら。
「タチが悪い‥‥っ!」
ぎりっ、とヘルメットの中で後ろを睨みつけるセラだったが、カナタはそんな視線を軽く受け流してしまう。
「もうだめ。がまんできない」
そしてあろうことか、あっさり交渉を放棄してきた。
「しよう。うん。する」
「っちょ、カナタ!ほらぁ馬鹿になった!」
「エッチ、したい。してくんなきゃ、コレ、やぶく」
「!!!」
「カバーやぶいて、ちんちんぶちこむ」
セラに言われてワザとキャラ作ってるのか、それとも本気で知能低下しているのか、原始人みたいな片言で恐ろしいことを言い始めるカナタ。セラの頬に冷や汗が流れる。
この宇宙服は軽作業用。薄い生地で戦闘用ではないとはいえ、デブリや鋭く尖った宇宙塵でこすられても破けないくらいの強度がある服である。ふつうは破いたり壊そうと思ったら工具がないと無理だ。でも今のカナタの爪はドローンを砕くほどの硬度がある。素手でも無理やり宇宙服を切り裂いてしまうことなど簡単だろう。
「あんたっ‥‥!」
セラが焦りながら目を剥く。いまここで貴重な装備品を壊されるわけにいかない。今後地球艦隊からの補給なんて見込めないし、ファルキリアのドローンはいつまで襲ってくるかわからない。いつか獣化が進んで体形がカナタのように変わったら、この宇宙服も着れなくなるかもしれないが、それまでは貴重な装備品は温存しなければならない。
――そ、そういうのはわかってるはずなのに!このエロライオンがっっ!
ぎりっ、とカナタを睨みつけてみるが、ライオンはどこ吹く風で、ごつい指で股間のカバーを撫でて、カバーをぎゅっと爪の先で押してきた。正確に陰核の真上から。
予想外の刺激にセラが悶える。
「っふううん!」
「ほら、開けて」
「っちょ、かな、たっ!」
「セラも気持ちいいんだよね。セックス気持ちよくて、思い出してるでしょ。宇宙服の上からでもわかるよ。セラのクリがカッチカチになって立ってるの。ほら、こりこりって」
「まさか!」
薄手とはいえ宇宙服である。そんな性的刺激を感じるような構造にはなっていない。はずなのに、セラは股間を正確に刺激されてスイッチを入れられていた。
「っは、ああっ!ちょ、カナタ、やめ、はあうっ!」
「‥‥」
「はう!いや、やめ、てえぇ‥‥」
「あけて」
「‥‥!」
カナタの手が止まる。セラはヘルメットの中ではあはあと荒い呼吸をしていた。ぶるぶると体が小刻みに震えている。クリ責めですっかり体の力を抜かれて発情させられて、悔しそうな表情でカナタを睨んでいる。でも、オスになっちゃったカナタにはそれがたまらなかったようで、大きな獣の鼻をがふっと鳴らして笑った。
「ほら、ほしいでしょ。わたしのちんちん。しようよ。ちょっとだけだから。一度出したらおわるから」
「‥‥っ!」
クズ男みたいな台詞を言ってくる。わなわなと体が震えるが、発情し始めた体はそのセリフにキュンキュン来てしまう。
「せーら」
ぎゅうう、とカバーをつままれ、股間の生地がひきつる感触。
―――これ以上抵抗してもきっと無駄だし、宇宙服を破かれるよりはカナタにサレたほうがまだましである。
それにもう、セラも我慢できなくなっていた。カナタが正確にクリを刺激してくるのと、固いペニスの感触で、カナタとのセックスの記憶が引きずり出されてきてしまって、体の疼きとガクつきが止まらない。
もう、限界だった。
「くっ‥‥は、排泄コネクタ、開放」
悔しそうな音声コマンドに反応してきゅん!と繊維が緩み、カバーが弛緩する。そのまま、カバーがおなかのほうに向かってだらんと垂れ下がった。
「わあ」
馬鹿っぽい歓声が聞こえる。
むわっ、と蒸れたセラの股間が、カナタの前にさらけ出された。昨日処女を失ったばかりの陰部は、カナタのぶっとい獣ちんちんで耕され、一晩で歴戦のおマンコに仕立てられていた。小陰唇がびろびろとめくれ上がっていて、淫靡な食虫植物のように、たっぷりの粘液をまとって、ひくひく口を開いている。
嫁のエッチなおマンコを見た王様は、爽やかな女の声で笑った。
「あははっ!」
そしてちんぽをぶち込んできた。
ぞぶぶぶぶぶぶ!
「っふああああああん! っは、ああああっ‥‥」
ようやくの挿入だ。オスケモ堕ちカナタが、毛むくじゃらのムキムキな肉体を揺らしてキツキツおまんこにぐいぐいとペニスをねじ込んでくる。
その圧倒的な存在感に、セラは舌を垂らして目をむいていた。
「っは、ああっ、ふ、ふといっ‥‥! はあっ!」
「ヘルメット脱ぐかバイザー開放しなよセラ。んっ‥‥涎飛んで、ぐちゃぐちゃになるから‥‥」
「っは、ああう、うっ」
セラが無言で、震える手を何とか伸ばし首のコネクタに触る。超音波モータの甲高い作動音とともにメットの接続が外れて、まるでデュラハンのように丸い頭部が外れた。
「よっ」
カナタが手を伸ばしてずぼっ、とヘルメットを脱がす。髪を抑えるウィッグネットのようなヘッドカバーごと、メットを脱がして放る。
「むわっ!」
カナタの発情ライオンフェロモンたっぷりな部屋の空気を吸ったセラが、下半身を串刺しにされながら怒鳴った。
「あ、相変わらず獣臭いっ!」
「あらったよ。ちゃんと」
「ほんと、なのっ、っはあああ!」
子宮口を、ぶっといケモノちんちんでぐりぐりされてセラが絶叫する。獣毛を纏った体から汗と獣臭をふりまいて、カナタが笑った。
「あらったよ、ざぶって川に入って」
「まさか、み、水で流しただけなの?」
「石鹸使えないじゃん。ごしごしやっても同じでしょ」
「ちがう!ちがうぅ!あああああ!」
でかい熱の塊がセラの体内を出入りする。ずずずずず、と出ていくときに膣内の愛液をすべて掻き出していくかのような錯覚。かと思えば内臓を押しのけて侵入してくるかのような圧倒的質量による突き込み。
「っふあああ!ああああ!」
「気持ちよさそう‥‥やっぱりセラもちんちん好きなんじゃない」
「っふ、ざけんな、ばかぁっ!」
「その悔しそうな顔めっちゃそそる」
「!!」
「ちんちんに負けちゃって悔しそうにエッチな顔になってるのすごい好き。ほら、ほら、ほら」
ぐっぼ!ぐっぼ!ぐっぼ!
「あああ!ああー!っぐあああ!」
「すっごい喘ぎ声だよ。殺されてるみたい」
「お、おっぼえ、てなさいよっ!カナタ!」
セラが殺気立った声で怒鳴り、カナタが驚いたようにライオン耳をぴくぴくさせた。
「怖いって」
「いうことも、っき、きかない、セックス馬鹿、っだか、らっ」
「セラはエッチ嫌いなの?」
「こんなっ、わがままなの、いやっ!」
「でも気持ちよさそうだよ」
「あ、あんたの、カナタの、ちんちん、あうっ、ふといしっ、っはああ!いいたくなあいっ!」
「‥‥じゃあ、堕とす」
「はあ!?」
突然カナタが、不機嫌そうな声になった。異変を察したセラだったが、遅かった。
「ちょ、ちょっとカナタ、あな、は、はひっ?ふああ? ああああ!」
ずん、ずん、ずんずんずんずんずん!
「いやああ!ああ!ああああ!だめえええっ!」
突然、ピストンのペースも一突きの重さも変わり、強烈な快感に目を回してセラは悲鳴を上げる。そんなセラを後ろから見下ろしながら、カナタは静かにつぶやいた。
「セラ怖いから私のちんちんでセラも馬鹿にする」
「いやあああ!かな、やめっ」
「やめない。セラ私のお嫁さんなのにエッチ嫌がるんだもん」
「ふ、ふっる、ああああ!それやらあああ!ずんずんだめええ!あああああ!」
「だめ。もっと気持ちよくなれ。私のちんちんに服従させてやる」
迫力のある低い声でカナタがささやく。ぞぞぞ、とセラの脊椎に甘い痺れが走る。
「ダメっ、カナタ、ああああ!ちがっ、わたしっ」
「ゆるさない」
ぐぼぐぼぐぼぐぼぐぼぐぼ!
「あああああああああ!ああ、ああああ!」
個室内に絶叫が響く。力強くて速く重いピストンで子宮を揺らされ、セラの視界が真っ白になってくる。腰の震えも止まらない。カナタは無言で、ぶううう、と力強くて生臭い鼻息を吹きながら無慈悲なピストンを続ける。
「ひいいっ、ひいいい!」
セラの喘ぎ声が悲鳴じみてきたが、不機嫌な王様は全力ピストンをやめない。じゅぶじゅぶと獣ちんちんでかき回される結合部からは大量の愛液が流れ落ちていて、そんなおマンコをびちゃびちゃと叩いているカナタの陰嚢。毛むくじゃらでずっしり重いそれが、ピストンとともに振り子のように揺れて、緻密に生えた獣毛を充血した大陰唇にたたきつける。そのちくちくとした刺激が、膣内の陰茎と相まってセラの脳を快楽付けにする。
「いぐっ、いぐぅううう!かな、かなたぁっ!イグから、ああああああああ!」
びぐびぐびぐびぐっ!
こんな強烈刺激にセラが絶頂する。テーブルに突っ伏し、涎を垂らして。しかしカナタは無言で腰を振り続ける。
「あっぎ、あああああ!いっだ、わだし、いっだがらああ!あぐ、ぐうう!」
セラの投げ出されたままの両手が力なくテーブルにしがみつく。
カナタは獣の手でセラの腰をしっかりつかみ、腰を打ち付ける衝撃を目いっぱいセラの陰部に伝達し続ける。下半身ごと子宮と陰核を揺さぶられ、セラの全身が痙攣し始める。
「あぎっ、は、はひぃいいい!」
「いっぱいイケ」
「ひいいい!だ、だめえええ!あああああああ!」
セラが痙攣する。二回目の絶頂だ。おまんこがぎゅうぎゅう締まり、カナタの獣ペニスから精液を飲もうとする。でもカナタの意地悪なちんちんはまだ絶頂しない。滅茶苦茶な締め付けで絡みつき精を搾り取ろうとする膣を王様ちんぽは軽くあしらい、振りほどき、ぐぼぐぼぐぼと無慈悲ピストンを続行する。
「ひいいいいいいい!ああああ!あああああ!だべ、だめえへええ!こわれ、こあれるうううう!」
「こわれちゃいなよ。エッチ嫌だなんて二度と言わせないから」
「いやっ、ゆるし、ゆるしてええ!カナ、カナタっ、エッチ嫌いわないっ、いわないがらゆるひてえええっぐあっあっあっあっあっ!」
三度目の痙攣。でもライオンは射精しない。
「いやああああ!あああ!いって!いってよおおお!ばか、ばかになりゅっううっ、いっで、だしでえええ!」
「ほんとに出してほしいの?」
「だしで、だしでぇええっ、しぬ、いぎすぎでしんじゃうう!」
「ほんとだね?出してほしいんだね?」
「だしえ、だしてへっ!せーえきっ、せーえき出してイってえええ!」
「へへっ」
「!?」
どんどんどんどんどんどん!
「っぐああああ、ああ、あ、あ、あ、あ!」
さらに勢いを増すピストンに、宇宙船のテーブルがギシギシ悲鳴を上げ始めた。びちゃびちゃと愛液を吹き飛ばしながら、大きくて太いペニスがセラの女陰を猛然と出入りする。
「っぐいいああ、ひぎいいいっ!」
「いいよ!だしてあげるよ!エッチ嫌って二度と言っちゃだめだから!いい?」
「いわないっ、いいませんっっ!えっちすき、えっちすきだからぁああ!」
「ほんとに?」
「ほ、ほんどおおぉ!えっち、えっち、すぎぃぃぃいいい!あああああっ!」
四度目の絶頂にセラがまた絶叫する。その無様な様子を見て、牙を見せてほほ笑んだオス堕ちカナタが、ようやくの慈悲を与えた。
「ほら、いくよ!だ、す、よっ!」
ごっ、ぶううっ!
「おごぉおっ!」
長く出続ける射精ではない。大量の精液を太い精道から一気に吐き出すバースト的な射精。大質量を一気に子宮口にたたきつけられ、セラは声なき絶叫を上げながら絶頂する。
「ふんっ」
そしてまたピストンが始まる。かはっ、とセラがのけぞって悶えた。
「や、まだっ、なんでっ」
「一回出して終わりなわけない」
「!!!!」
青ざめるセラの唇を、カナタがでっかい舌でべろん、と舐めた。
「一回出せば終わりだと思った?昨日もあんだけやったのに」
「で、でもっ、いっかい、いっかいだけって」
「それは最初の話。途中でセラが嫌がったから、方針変更したの。堕とすって言ったでしょ」
「いやっ、そんな、だって、わた」
「ふうん‥‥出せばやめると思って適当にエッチ好きって言ったなぁ‥‥?」
「ちが、わらしっ、ほんとにエッチ、す」
「そーいうのすっごい萌える」
ずんずんずんずんずんずん!
「んぶっ」
「エッチな気分になってるのにイヤイヤって必死になって抵抗してるのすっごいかわいい」
「んっうう!」
また強烈ピストンが始まる。大量の精液がかき混ぜられて絞り出され、結合部からぼだぼだと垂れ落ちて床に水たまりを作る。 毛むくじゃらの獣陰嚢がべちゃべちゃとこぼれ精液を叩き、泡立て、限界クリトリスをちくちく刺し続ける。
あっという間にセラの腰が震え始め、絶頂に駆け上がり始めた。
そんなセラへ、カナタは腰を震わせ、二発目を無言で射精してやる。
びゅうううう!
「ひっぎいいいいい!」
子宮口に圧送される大量の精液。セラの胎の中にカナタの体温が移る。その刺激にセラがまた絶頂する。はあはあと息も絶え絶えな妻を、ライオン獣人が獲物をいたぶる捕食者の眼で見下ろしている。
「まだ、出るから」
「いやあ、ああ、ゆる、してえ‥‥」
「だめ」
許しを請うも、王様の不興を買ってしまった罰は止められなかった。
堕とす。その言葉通り、セラに、徹底的に絶頂を繰り返させるカナタの性交が続く。ぶっといペニスでぐりぐりと子宮口を刺激して、がくがくと腰の震える様子を楽しんで。
「だめ、しぬ、あたま、ばちばちって、しんじゃうぅぅぅうう」
「しぬの?」
ずんっ。
「ひっいいいいいい!」
「こんな風にちんちんぐりぐりされただけで死んじゃうんだ」
ずん、ずん。ぐりりりいいっ!
「ひあああああ!」
「えっち」
「ひぐっ!」
「ちんちんずぼずぼされて気持ちよくて死んじゃう変態だったんだ」
「ちがうぅ、わた、わら、わたじっ」
「違うって言わないで」
じゅぶぶぶぶ、ぶぶぶぶぶ。
「っはあああああああ!」
「セラもエッチ」
「ふうううっ、うううっ」
「エッチ大好きで、こんなに臭い匂い嗅いで興奮する変態」
「そ、そんなっ」
「はやくセラも獣になろう?待ってるから、わたし」
「っぐ、うううっ、はあああ! あうう‥‥」
ねっとりした声でカナタがささやいてくる。だんだん意識がもうろうとしてくる。イキすぎてばちばちって目の前で星が飛んでてわけが分からなくなる。
「ふえ、は、ひっ」
「へへ。セラ。エッチ好き?」
「す、すきぃ‥‥」
「私のちんぽ、きもちいい?」
「きもぢ、いいっ、あう、きもぢいいのぉ‥‥」
ライオン獣人カナタの甘くいやらしい声に、朦朧としながら答えてしまう。セラは自分で気が付いていないが、彼女は薄ら笑いを浮かべて、よだれをテーブルにだらだら垂らして、恍惚としていた。昨日のセックスの記憶と言葉責めと軽い愛撫で熔かされた肉体は、極太ライオンペニスの猛攻で陥落してしまった。もともと、初夜の時点でグズグズにされていて、種付けをせがんでいるくらい、すでにカナタの臭いライオンちんぽにセラは堕とされているのだ。抵抗しても無駄なのである。
「出してほしい?」
「だ、してぇ‥‥いっぱい‥‥」
「いいよ。もう、すぐ、でるから」
「っは!」
ずっちゃずっちゃと極太ペニスがついこの間まで処女だったセラの膣を耕し、陰唇をさらにめくりあげて、ビラビラエログロまんこに改造していく。セラは内臓ごと子宮を揺らされて、体の奥から快感がどんどん弾けてくる。
「っは、ああああ!ああん!あっ!」
「っぐ!」
びゅううううう!
「はああああ!」
べちゃべちゃ、と床に重たい粘液が落ちる音。ぶるぶるっ、と毛むくじゃらのライオン獣人が体を震わせ、強く腰を押し付けて最奥へと粘液を注ぎ込み続ける。どくん、どくんと脈動するペニスの感触。暖かいものでおなかを満たされて、閉じられたセラの目から涙がこぼれた。
「っは、ああ‥‥」
ずるんっ、とペニスが抜かれていく。その刺激にあさましくも軽くイってしまう。
「はは、ぽっかりだ」
まだ元に戻らず、ごぶごぶと白濁液を垂れ流すセラの膣を見て、カナタが笑う。セラは突っ伏したテーブルから、カナタのほうを見やる。
筋肉質なライオン獣人は、一息ついたのかベッドに腰かけてぐちゃぐちゃのちんこと、セラのお尻を交互に見て嬉しそうに笑っていた。
「へへへ」
「‥‥ご、強引、なんだからぁ」
「ごめん。わたしほんとバカになっちゃった」
「んっ‥‥」
セラがテーブルに手をついて、どうにか体を起こす。まだ足が震えるけど、昨日気絶するまでヤラれたときほどではない。
なんとか体勢を保とうとするセラに、エロライオンがねちゃねちゃとささやいてきた。
「ねぇ、セラ、舐めて」
「‥‥」
「イヤ?」
「ふん。イヤって、言っても、ムリヤリ、するでしょう‥‥」
震える足に力を入れ、キュイ、と宇宙服の防滑ブーツで濡れる床を踏みつけ、セラはカナタに向かいなおすと、ふらふらとしゃがんだ。
ボタタッ、と股間から大量の精液が流れ落ちて音を立てる。
「むわっ‥‥!」
目の前には、カナタのちんぽ。根元が毛むくじゃらの包皮に覆われた、赤黒い肉棒。とんでもない獣臭を撒き散らして、出しまくった精液とセラの愛液を纏いながら、ぴくぴくしている。
そのフェロモンの塊を前にして、セラの口にじゅわっと唾液がわく。クサイはずなのに、ジンジンと股間に来るケダモノ臭。はあああ、と自然と呼吸が深くなり、すううっ、と鼻から目いっぱいフェロモンを吸い込む。
「いい匂い?」
「くっさい‥‥」
「目がとろんとしてるよ」
「くさい、けど、すき」
「‥‥なめて」
「あむ」
「んくっ!」
たっぷりの唾液を纏った舌を、ふとい肉棒の裏筋にあてがう。混合体液から苦みと甘みと塩味が溶けだし、精臭がセラの鼻を焼く。
「っはぁ‥‥」
うっとりした声を出しながら、つるつる、と根元におろしていく。根元は毛むくじゃらの包皮の折り返しがあって、濃い匂いがそこから湧いている。舌を突っ込む。あ、とカナタが声を出して悶えた。黒い剛毛の中から湧きだす黄土色の獣毛包皮。その奥、まだ少し残っている恥垢を舌の先で探りあて、掻き出してやる。以前のセラなら激しくえずいていただろうが、今はもうこのにおいの虜だ。「んんっ」と鼻にかかった声を出しながら、刺激的なにおいを愉しむ。
その下には毛むくじゃらの陰嚢。その真ん中に、カナタのおんなが、まだ残っている。
「カナタ、もっと、腰上げて」
「ん?」
「おまんこ、もっとみせて」
「‥‥どうなってるかな」
ライオンはそういうとベッドに体を横たえた。床に座ったままのセラの目の前に、でかいライオンの睾丸がでん、と飛び出してくる。ちんちんと陰嚢の間。陰核が成長してできたカナタのペニス。両側の大陰唇とその下の会陰部が膨らんで出来上がった、Uの字型に成長した陰嚢。それらに上下を挟まれて、カナタの女は、確かにそこにあった。
「ほんと、雌雄同体なのね」
「どう、なってる?わたしからだと、ちんちんでよく見えなくて‥‥」
元のカナタのアソコがどうだったのかなんて知らないが、獣毛が生えた皮膚の中で、そこだけが赤黒い粘膜を曝している。発情して充血した陰唇が膨れ、獣毛を割り開いてねっとり息づいていた。
その様に思わずつぶやいてしまう。
「えっち」
「え?」
「ゆび、入れる?」
「‥‥」
色ボケライオンが黙った。獣化したとき、オトコになっちゃった、女じゃなくなっちゃったと吹っ切れた様を見せていたが、逡巡している。ややあって、ぽつりとつぶやいた。
「セラに、生えたら、それでヤって」
「‥‥うん」
静かなつぶやきだった。落ち着いた息遣いにゆっくり上下する胸。静寂が獣臭で満たされた個室に戻ってきて、帰って落ち着かない気分になったセラは、垂れかけたちんちんをぱくりと咥えてやった。
「はうううっ」
「ふふき、やふわよ」
「うん」
旦那様のちょっとだけ元気そうな声色に安心して、セラはカナタの陰茎を、ゆっくり丁寧に、きれいにしていった。
[newpage]
[chapter:再起動]
「‥‥」
結局掃除そっちのけでまた情事にふけってしまった二人だったが、ちょうどいい時間つぶしだったようで、起きたら補助動力炉が修理完了していた。守り人たちだけにいつまでも防衛を任せるわけにいかないし、部屋の掃除もしたい。携行兵装のリチャージも必要である。熱い風呂にも入りたい。二人は頭を冷やしていとかけの再起動作業に入った。
「主エンジン接続カット確認。予備動力プール容量正常。補助動力炉APU起動」
汗と精液と愛液のニオイを宇宙服と口の中に閉じ込めたまま、セラはコックピットの副操縦士席で起動手順を一つずつチェックしていく。傍らには、フライトジャケットを羽織って男物の作業ズボンをはいた獣人カナタが、プラズマアックスを持ってセラの起動手順を見ていた。
「セラ、ハカセ大丈夫かな」
「強制終了直前のままなら、何かしてくるかもね」
「やだな。強制消去は」
カナタはプラズマアックスのバッテリー表示を確認する。ハカセも最後、シカたちに洗脳されてカナタに付き従っていた。セラもいまでは同類ではあるが、カナタがセラを堕としていることをハカセが知らないため、セラに対し危害を加えるかもしれない。そのためにいざとなればハカセのメモリをショートさせるべく、カナタが電磁兵装を持って待機していた。
「回路チェックよし。消火、防疫、生命維持、兵装類の集中ブレーカー遮断確認。推進系も遮断よし」
「主動力炉の隔壁降下よし。スロットルの物理ロック再確認」
艇の統合管理AIであるハカセは、艇のすべての機能にアクセスできる。再起動前に二人がやっているのは、起き抜けにハカセが暴走しても、いとかけを急発進させたり室内の気圧を弄ったりして内部の二人に危害を加えないように枷を嵌めている作業である。それは同時にハカセから艇の機能をすべて奪うことでもあるため、いとかけが一時的に非常に脆弱な状態になることでもある。なるべく早く起動して状態を確認したら、艇の機能をまたハカセに接続しなければならない。
「準備よし。カナタ」
「こっちも。いいよ」
むきむきライオンのままで元のパイロット然とした凛々しい目つきをするカナタ。フライトジャケット姿も相まって、男らしくて非常に頼もしい。獣臭も今はそれほど気にならない。‥‥それほどだ。風呂に入っていないので相変わらず臭いが、消臭剤をこれでもかとぶっかけたし、くさいちんちんは作業着の中に押し込めた。やっぱり真面目な空気の中ででかいちんちんを振り回されると集中によろしくない。そこは最低限、カナタも同意してくれた。理性はあるのだ。ただ、性欲が滅茶苦茶強いだけ。
ごくりとつばを飲むと、セラは真剣な目つきでコンソール下にある大きなダイヤルスイッチのハンドルを握る。
「行くよ。統合AI再起動」
同時にハンドルスイッチをガチャっと回す。ぶん、と回路がつながり電源が目を覚ました。コンソール周りのライトが次々と点灯し、天井のドーム型監視カメラがかちかちかちとピントを合わせ始める。目まぐるしく光が明滅し、セラの目がそれを追う。可動部品を極力減らした機器類はほとんど音を立てずに起動していく。騒がしいのはカメラくらいなものだ。
「大昔の端末なら音で何してるか分かったみたいだけど」
「‥‥」
カナタがぎゅっとプラズマアックスを握りしめながらつぶやくが、セラは無言のまま、操縦席につぎつぎと点灯してゆくライトを追い続ける。どの機器がどの順番で起きていくか、それを確認するだけでもAIがどう復活していくか、暴走していそうかどうか位はわかる。AI本体のメモリ、電源、カメラ、操縦席、外部カメラ、パッシブセンサー。AIが感覚器官を取り戻してゆく。最低限自分と周りの状況がわかるようになり、まずは船体のコントロールを取り戻すのが最低限。人格プログラムが起動するのは、そのあと。カメラ回りの丸いライトがともる。白色が、水色に変わる。ハカセが“起きた”。
AIから兵装コントロールパネルへのアクセスがないことを横目で確認しながら、セラはゆっくり口を開いた。
「おはよう。ハカセ」
「‥‥」
「ハカセ?」
しばし、静寂がコックピットに広がる。
「‥‥機械であることは自覚しています」
最初の一言は不満そうな声色だった。
「そんな私が操られていたとか、屈辱以外の何物でもない」
「無様だったわね」
「ぶっ‥‥」
間髪入れずに発せられたセラの突っ込みにAIが絶句した。
「わ、私がショック受けているのにそれですか。相変わらず容赦ないですね。嫁に行き遅れますよ」
「言うようになったわね。ごあいにく様。旦那はもういるから」
「‥‥」
天井のカメラが、セラの横に立つカナタを見つめた気がした。
しばしの無音ののち、中性的なAIは呆れた声色で淡々と告げた。
「くさい」
「え」
「お風呂と換気扇、起動しますね」
「ちょっと」
こちらも容赦ない一言にカナタが目を見開いている。セラはくくっ、と喉の奥で笑うと、嬉しそうに声を上げた。
「おはよう。ハカセ」
久々の暖かいお湯とシャンプーは非常に心地よかった。しばらく獣のニオイにどぶ漬けにされていて、すっかり鼻も馬鹿になっていたから、香料で回復した鼻でコンソールパネルやシートの工業的な匂いを嗅ぎ、久しぶりに機関士に戻れた気分になった。
入浴でいろいろさっぱりしたのはカナタも同じで、目茶苦茶くさいライオンからあまりくさくないライオンにチェンジしていた。体毛や鬣も今は余分な脂が抜けてもふもふと柔らかく、ほんのりシャンプーの匂いがしている。ねっとりとごわついていた脇や股間の剛毛もさらりとして手櫛が通るくらいにはなった。それでも洗った犬よりまだ獣臭い。セラと同じように人間的な匂い感覚を久々に取り戻したカナタは、床を流れていく、悪臭を放つ大量の黒い汁を見てショックを受けたそうで、いまだに脇や首筋に手を突っ込んでは自分の臭いを嗅いでいた。
「今更気にしても遅いわよ」
「‥‥う」
「今は、あんまり、臭くないから」
「うう」
ライオン獣人の丸い耳がしゅんとしている。あのまま、野生の獣のような有様でいたら彼女も気にしないままだっただろうが、それは無理だ。ここはこれから長期間生活する拠点である。環境を保つためある程度の清潔さは必要なのだ。いくら獣になっちゃったといえど知的生命なのだ。風呂には入らせる。
カナタにそうさせるというのはつまり、嬉々として脇臭や激臭ペニスを自慢していた自分の痴態を嫌というほど認識させるということでもあり‥‥さっきからカナタが自分の匂いをあちこち嗅いで眉間にしわを寄せているのは単に臭いからではない。入浴後も残る自分の体臭に、激臭獣人としてふるまっていた時の記憶を思い出されて羞恥に身もだえているのだ。
そんな激臭カナタに臭いかがされたり無理やり舐めさせられたりしてひどい目にあわされたセラは、仕返しの気分もあって、恥ずかしそうに顔を覆ったり頭をポリポリ掻くカナタを横目に放置して、淡々と話を進めていた。
「艇の状況確認はできたわね」
「ええ。追加で私自身の自己診断プログラムも何度か」
AIはどこか疲れた声色で聞かれていないことを答える。セラはモニターから目を上げずにぶっきらぼうに聞いた。
「まだ気にしてるの?」
「当り前です!あたりまえですよ、こんな‥‥! 機械の私が認識改変されたとか、ハッキングでもなく。屈辱です」
声を荒げ、はあ、とため息をつくAIの声を天井から聞きながら、セラはメインコンソールにいとかけの状態監視モニタを表示する。
「‥‥後で一緒に酒でも飲みましょ。愚痴聞いてあげるわ」
「いいですよ。酔いましょう」
AIの冗談とも真面目ともつかない台詞に小さく笑って、セラはプリントアウトされたリストに目を通す。艇の状態が一覧化されたレポートだ。武装、修理状態、資材。生命維持可能な期間。それが一覧化されている。
セラがそのレポートを読み始める。
「主動力炉の修理は予定通り進んでいたけど、再起動騒ぎで+1日。補助動力炉の再起動に修理ドローンを回す分遅れる。といってもほとんど作業終了間近だったから、あと7日で試運転まで‥‥」
「そうなると、艦隊に戻れるの?いとかけは」
「ワープドライブが動けばね」
セラの返答にカナタがふがっ、と鼻を鳴らした。
「帰りたい?」
セラの問いかけに、カナタは間髪入れず答える。
「いや‥‥私はもう王様だし‥‥それに、この格好で戻るのはちょっと。いろいろマズイし」
「そうだね」
フライトジャケットを着たバーバリライオンが、指先の臭いを嗅ぎながらつぶやいた。黒い鬣に優しい目。黄土色の体毛。この星の生命体が弄ったウイルスによって、カナタが着用していたバイオスーツの持っていたバーバリライオンの遺伝情報が混じった獣人。女だったが両性具有に変化し、筋力も強化された。異星のドローンと生身で格闘戦をこなせるくらいに。しかも精液中には大量に獣化ウイルスが含まれるので、中出しされると相手も感染して獣化するという、魔物のような存在。それが今のカナタである。
この姿で地球圏に帰還しようものなら、殺されはしないだろうが隔離やサンプル採取でそれに近い状態になるのは目に見えている。特に厄介なのがウイルスだ。人間を不可逆的に獣人化するとか、地球圏人類に対する脅威以外の何物でもない。しかもいとかけの防疫設備で生成した急ごしらえのワクチンでは症状の緩和しかできず、獣化症状の発症を防げない。これがあるから、帰還した二人はきっと強制隔離。そして治療法確立のための体組織採取にライオンと混じった体の解剖学的検査。ヒドい目に遭わされるのは確実なのだ。
二人といったが、セラも発情したカナタに手籠めにされ、ウイルス入りの精液をたっぷり中出しされたため、すでに感染済みなのだ。まだ、セラに体の変化はない。けどそう遠くない未来、隣に座ってるカナタのようにライオン獣人になる。
‥‥なお、セラのバイオスーツは銀色の狼である。彼女の好みは狼なので、ちょっとは狼っぽくならないかなと思っていたりもするが、あきらめ気味だ。
閑話休題。
それに、そのような人体操作を行う生命体がいるこの星がどのように扱われるか。いきなり滅却はないだろうが、環境も大気構成も地球に極めて近い星である。利用価値は高い。植民、調査は絶対に行われるし、そうやって地球人を呼び込めば必ず衝突が起きる。ハカセの予測でも、非常に高確率でこの星の生命に対して地球からの攻撃が行われるという予測結果が出ていた。それもレポートには記載されている。
カナタが、真剣な目つきで答える。
「今は、帰るとかはなし。まずこの星の現住生物の保護が最優先。いとかけの修復ののち、ファルキリアドローンを一掃して、先住生物を保護する」
「船長の判断ね」
「うん」
たった二人の乗組員ではあるが、この船の船長はカナタであり、方針決定の最終権限はカナタにある。
「守り人たちは何か言ってきているのかしら」
「こないだ水浴びに行ったときは特に何も。でも戦ってる気配はする」
「それに関してですが」
ハカセが話に割り込み、メインディスプレイを起動する。そこに映し出されたのは青と翠に輝く惑星だった。
「きれい‥‥」
息をのむカナタに、ハカセが説明を続ける。
「我々が居る星です。セラが打ち上げた、忌避メッセージを発するビーコン‥‥偵察ポッドに搭載されていたカメラの映像です。偵察機能を生かしたまま打ち上げていましたんで、回線をつないで映像をダウンロードできました」
「この星に不時着したときは景色見てる余裕もなかったしね‥‥」
美しい映像に感激したような様子で、セラがつぶやいた。湧き上がる白い雲やまばゆい極地の氷原、エメラルドグリーンの島々。しばし映像をみんなで見たのち、ハカセが再びしゃべり始める。
「さて、この衛星の対地レーダーを使って、この惑星の全球走査を実施しましたが、近々にドローンの大規模攻勢が予想されることがわかりました」
「‥‥最近静かだったのはやっぱりそうなのね」
「近隣で観測されている、守り人たちとの散発的な戦闘はドローン側の威力偵察のようです」
ハカセが示した地図には、いとかけの現在地と周辺の地形、そしてドローンを示す赤い点群がきらめいていた。
「我々が居るのはこの火山島です。島と言っても南北端の距離は500㎞あります。これの南西側の直径およそ100kmの巨大カルデラ内のほぼ中央に我々は不時着しています」
すり鉢状の地形が三次元で表示される。カルデラは古いようで、すり鉢の一端は崩れて、川がカルデラの外へ向かって流れ下っていた。この川のすぐ近くにいとかけは不時着していた。
「この円形のカルデラ外輪山を取り囲むように、ドローンが集結しつつあります。20~100機程度の群体が、およそ12個。一斉に襲い掛かられれば、現状では対抗できません」
「‥‥」
セラとカナタが沈黙した。今画面に表示されている敵がまとめて襲い掛かってきたらひとたまりもない。特に今のいとかけは主動力炉が動かない上に補給が見込めない。数に限りのある実弾兵器だけでなく、レーザーCIWSなどの光学兵器だって銃身が破損すれば交換が必要になる。修復ドローンと言えどすぐには直せない。たとえ主動力炉が無事だったとしても、戦い方を考えなければならない数である。
どうするかは後回しにして、セラはハカセに質問した。
「襲撃予想は」
「おそらくあと6日」
セラが唇をかんだ。
「主動力炉の修理完了に1日間に合わないわね」
「ええ。大変微妙なタイミングです」
「どうする。カナタ」
セラは船長であるカナタの意見を聞く。黒い鬣をわしわしと掻きながら、ライオン獣人が真面目な顔で答える。
「補助動力の回復を最優先。まず逃げられるようにしよう。補助動力炉が動けば飛べる。とにかく逃げられるようにする。この数だと一つ一つ落としてもらちが明かない。まとめて撃破するために超重力砲を使わないとだめ。逃げて、主動力炉を直して、超重力砲でやっつける」
ワープドライブは膨大なエネルギーを投射して空間に穴をあける。それを、空間に穴をあけないぎりぎりのレベルで加減して放射すると、強力なエネルギー砲になる。範囲も広く、まとめて敵を葬るのにはおあつらえ向きだ。しかし、主動力炉のエネルギーをそのまま使用するため、そもそも動力炉が回復しないとだめで、おまけにワープドライブの制御回路の回復も必須になる。
「それは理想的だけど、タイムラグはどうするの。奴らの襲撃の方が早いわよ」
「普通に考えれば今のうちに包囲の薄いところを突破して逃げる、だけど」
カナタがふん、と鼻から息を吐く。ライオンの鼻なのでがぶっ、と鼻の鳴る音が追加される。
「このカルデラ、守り人たちの生息地なんだよね。というかこのカルデラに彼らが逃げ込んでいる、というのが正解かも。蟲の話をしきりにしてた。恐ろしくて逃げてきたって。私たちが逃げたら、ドローンは守り人たちを刈り始める。彼らを守らないと」
「‥‥数光年先から私たちを呼びつけておいてちょっと他力本願な」
「まあ‥‥私たちを呼ぶほど、彼らだけじゃどうしようもなかったってことだから。彼らも、もともとは、カルデラの外にいたみたい。島って言ってたからきっとこの火山島に生息していたんだと思う」
「わかった。彼らを守る。それで、どうやって戦う?補助動力炉で使えるのは実弾兵器とレーザー砲塔だけよ。それで持ちこたえている間に主動力炉をなおすっても、一日中戦える残弾は多分ないわ」
カナタが、ふう、と天井を見上げた。
「この船に軍師様はいないよねえ‥‥」
「そうですね」
ハカセがとぼけたようなことを言う。セラが眉間にしわを寄せて突っ込んだ。
「AIがそういうこと言わないで。ふだん戦闘シミュやってるヒトが何とぼけてんのよ。ドローンの動きからある程度の作戦は立てられるでしょ」
そういってカメラを睨んだが、申し訳なさそうな点滅が返ってきた。
「正直に話しますと、ドローンの行動予測がなかなかうまくいかないのですよ。修理までにはなんとか計算してみますが、主動力炉の電力とワープドライブ用の超高速演算機が使えないので‥‥」
言い訳をするAIだったが、セラはその発言を聞いて目を剥いた。
「‥‥行動予測がうまくいかない?」
「ええ。どうも、動き方からすると複数の母艦があるようで。いつも異なる意思のもとで動いているなら私も予測しやすいんですが、ドローンが同じ群れの中で違う意思によるものと思われる行動をとったり、かと思えばやめたりして行動に一貫性がないんです」
「ドローン同士協力し合ったりしなかったり?」」
「そうです。おそらく、複数の母艦がこの星に降りています」
ドローンは母艦ともいうべき巨大なカプセルから発進するのだが、通常は発進した母艦の指示に従って行動するため、全部のドローンが同じ目的のために統率の取れた動きをする。例えばある目標を攻撃するために、複数の種類のドローンが協力し合って行動するなど。ハカセが言っているのは、ドローンの行動を見ていると母艦が複数あって、同じ群れなのにそれぞれ違う指示のもとに動いているようだということである。
ふむ、と唇に指をあてたセラだったが、ふと真顔になると天井のカメラを見上げた。
「ちょっと、いまのはどうやって探知したの?ドローン同士のリアルタイムの行動なんて。ドローンの集結地点がそもそも山の向こうで直接レーダーで見れない場所でしょ?軌道上の探査ポッドも静止軌道ではないからリアルタイム監視は無理だし。ドローンでも飛ばしたの?」
「‥‥守り人さんたちが、彼らの感覚を光球から無線通信に変えて私に投射しています」
「!?」
すでにカナタだけでなくハカセも守り人と意思疎通を果たしているというのだ。AIは困惑したような声で仔細を伝えてきた。
「お二人が入浴中に向こうからコンタクトがありました。我々の異星探査プロトコルで用いられる通信手順と極めてよく似たシグナルを送信してきて、私に接触してきました。そして、ドローンの観測情報を私に送ってきています。ただ、投げかけるだけでこちらからの問いかけには応答していません。ただひたすら、彼らが探知したドローンの居場所を私に投射してきています」
「戦ってくれと」
「おそらく」
6本足のシカのような生命体。黄色い三つ目と立派な角を持ち、角の上に発生させた光球は発声器官にも攻撃用のプラズマ砲にもなる。そして、偶然を操作して運命を操る術をもつ。カナタたちをこの星に呼び寄せた張本人だ。
セラは不満そうにつぶやいた。
「‥‥私には挨拶なしか」
「え?」
「なんでもない。その情報の真偽は確かめた?」
「探査ポッドがここの真上を通過する時を狙って、赤外線その他の観測でドローンの現在位置を観測しました。全く同じ時間に守り人さんたちからもらったドローンの現在位置を重ねましたけど、ぴったり一致です。嘘ではないでしょうね」
「‥‥もらったデータから母艦の数は想定できる?」
「最低2、最大で4です」
「ふむ」
セラは腕組みをしてカルデラの地図を見つめる。時計の数字のように、きれいにカルデラを取り囲むように並ぶドローンの群体たち。カルデラの切れ目は左下、7時から8時くらいの山脈が崩壊して、川が貫いている。その川の周囲に位置する群体はおよそ3。30機くらいの群れが2個、50機ほどの群れが1つ。
カナタがじっとこっちを見ている。いつもカナタは、セラのアイディアを聞き、それを実現するに足りない事柄を指摘してくれる。ライオンになっても、同じようにこちらの意見の中身を考えてくれようとしていることにほっとする。のべつまくなしに臭い脇やちんぽを自慢するむさくるしいライオンではないのだ。
「ハカセ、この方向にいるドローンの想定母艦はいくつ」
「シミュレーションの条件にもよりますが、1ないし2」
「ほぼ同じグループね。母艦の場所は」
「飛行タイプの航続距離とドローンの飛び方からするとこの範囲です」
カルデラの外、川をだいぶ下った海の近く、河口付近がまず一つ丸く囲われる。もう一つは9時の方向、カルデラ外の砂漠だった。ここから直線距離で100㎞程離れている。
「セラ、何考えてるの」
「陽動」
「‥‥陽動?」
「うまくいきそうなら。ハカセ、カルデラの崩壊部分をゲートと呼称する。ゲート付近のドローン群と同じ母艦を共有していると思われるドローン群を時計の時刻表示に対応した呼び名で教えて」
「ゲート付近のドローン群、8時、7時、6時。同じ母艦から発進したドローンが含まれると思われる群体は、9時、10時」
「だとすると9時方向の砂漠に多分母艦がある。その母艦を仮称でAとする。次の偵察ポッドのA想定位置上空通過は」
「地球時間で19時間後です」
「河口付近の母艦をBと呼称する。B周囲を同じように偵察ポッドが観測できる上空通過時刻は」
「同じタイミングで観測可能です」
「AおよびBの詳細観測をして。そのほかの母艦位置の推定はできてる?最大4だったわね」
「カルデラの真北、12時方向から3時方向にかけて、1ないし2の母艦があると想定されます」
「それは母艦Cと呼称。そっちの観測はいつできそう?」
「30時間後です」
セラは目を見開いて、興奮した様子でコンソールを弄りだす。画面にはいとかけの残り兵装や装備品のリストがざらざらと流れては止まり、ピックアップされていく。
「セラ」
「カナタ、ちょっとごめん、集中してる」
「うん‥‥」
カナタが声をかけてくるが、セラは猛然とコンソールを操作し続けた。いい感じに集中できている。今ならうまい考えが浮かびそうだ。
「ハカセ、とりあえずの対抗プラン」
セラが顔を上げて、キーボードを操作する。ほどなくメインコンソールのカルデラの地図にあれこれと記号が浮かんだ。
「時間稼ぎを骨子とするプラン。9時方向または7時方向のA、Bを攻撃しドローンを母艦まで後退させる。いとかけはドローンの撤退に合わせて川沿いに河口へ前進。母艦Cから距離をとりつつ、AとB周囲のドローンを‥‥」
「あの、すいません、セラ、セラ、ちょっと」
「なによ」
「セラ、攻撃はどうやって」
セラの説明を遮ってハカセが質問をしてきた。セラはコンソールから引っ張り出した端末の画面を睨みつけながら、こともなげに答える。
「私とカナタで先行して、接近攻撃」
「危険です!無茶苦茶ですよ!」
AIが悲鳴を上げる。セラの立てた作戦は推計100機に迫ろうかというドローンをかいくぐり、100㎞の道のりを移動して、たぶんいると思われる母艦に二人でちょっかいを出しに行くという作戦である。あるかどうかもはっきりしない蜂の巣をつつきに行って蜂たちを呼び戻して巣にくぎ付けにするのだ。危険なのは言うまでもない。戻ってくるドローンに加え、もしかしたら母艦から新たにドローンが発進するかもしれないのだ。
「やめましょう。危険すぎます!」
AIは焦った声でセラを説得しにかかった。船の統合管理AIの任務には乗員管理も含まれる。無謀な行動を諫めるのも彼の仕事だ。しかしセラは平然と答える。
「こうしないと全員死ぬでしょ。大丈夫。カナタも強いし」
「いや、いくらカナタの戦闘能力が上がったとはいえ、100機を優に超える数のドローンを相手にして、無事に済むと思ってます?危ないです。とても!」
「このままだと主動力炉が直る前にいとかけを攻撃されておしまいよ」
「ですが、先制攻撃は誘導弾でも」
「いとかけから攻撃が行われたら、相手はいとかけの無力化に動く。いとかけじゃない新たなユニットから攻撃を仕掛けないとドローンの注意は引けない」
「ではミサイルポッドを無人バギーで輸送して簡易の攻撃ユニットにするというのは」
「文明もないこの星にまともな道なんてあると思うの?無人バギーじゃ道を見つけられなくて目的地までたどり着けない。飛行ドローンは発見されやすいし、とっさに隠れられない。私とカナタがバイオスーツで接近するのが一番確実」
「母艦Bの推定位置まで、直線距離でおよそ100㎞ありますよ。Bの母艦が存在せずAに向かう場合はさらに50㎞加算されます。バギーの移動速度だと地形に沿って進めば到着するまで二日です。しかし、途中でドローンとの戦闘があれば、時間は伸びます。おそらく最短で3日、いや、4日。かなり厳しい行軍です」
「でしょ。その行程を無人バギーに任せられる?無線通信もできないから、守り人が見ててくれれば位置くらいはわかるかもしれないけど、途中でもしバギーが破壊されたら、もう一度発進させてる余裕はない」
「それは‥‥」
「主動力炉が動かなければどのみち私たちは全滅するのよ。それにさっきの作戦には続きがあるの。いとかけは前進後にAとB周囲のドローンを避けつつ川を外れて南下。私たち二人も陽動攻撃後にいとかけと合流するべく南下。ドローンが母艦周囲に集まっている隙に最後の修理を終える」
「南の方向が安全だとも?」
「飛行記録を見たわ。不時着したとき、カルデラのゲートに向かって南から侵入してる。その飛行ルートにおいてドローンの襲撃やレーダーが照射された記録はなかった。一番母艦に接近したと思われるのはBの位置で、60㎞くらい離れてる。少なくとも、飛行してきたルート上にべつの母艦は存在していない」
「‥‥」
「どう?」
AIのライトがしばし明滅する。なにやらぶつぶつとつぶやいていたが、やがて意を決したようなため息とともに、返答があった。
「2日以内に合流候補地の観測ができます。出発はそのあとにしてください」
「ありがとう。でもドローンの攻撃まで6日しかない。準備が整う前に攻撃をしないとほかの方向から一気に攻められておしまい。それは待てない。出発は1日以内」
「‥‥合流地点を移動しながら決めると。合理的ですがやっぱ危ないですよ」
「そうかもね」
セラはふん、と鼻を鳴らして、天井のカメラを見上げた。カメラ回りのライトが、白から水色へと柔らかく色を変えている。AIが思考している。ややあって、ハカセがつぶやくように声を出した。
「わかりました。一番、長期的に我々の生存確率高い案であると認めます。ただし、2人の生命に危険が迫るようなら、残りの兵装、誘導弾をすべて使用してでも救援を行います。左舷及び右舷の居住区画はドッキング解除し現在地に隠蔽。中央船体のみの戦闘形態で待機。主動力炉回復後に回収することにします。なるべく身軽にするためです」
「ありがとう。そうして頂戴」
「では、さっそく作業に入ります。これからドッキング解除と左右胴体の連結および隠ぺいを行います。船体制御許可を」
「ちなみにハカセ、守り人を利用する案は、思いつかなかった?」
「‥‥できるわけないでしょう」
「どうして?」
「彼らをバギーの代わりにする案も当然思いつきはしましたが、もともと彼らだけで対処できないから我々が呼ばれたのです。お願いして代わりに攻撃してもらったところでどうにもならないはずですから。それに」
「それに?」
「そんなことしたら、私は王様に壊されちゃいます。そうですよね?カナタ」
「ふふ」
ずっと腕組みをして話を聞いていたバーバリライオンが、にやりと笑った。セラはカナタを見て、微笑みかける。
「これでもいい?」
「王様をこき使おうとは、なかなか不遜な妃であるな。ほめてつかわす」
「なに変なキャラ気取ってんのよ。ハカセの言う通り私たちが危険な案だけど、いい?」
「いいよ。主動力炉さえ動けばこっちのものだからね。ゲリラ戦の訓練は受けてるし、私ライオンだし、何とかなるでしょ」
「期待してる」
「でさ、セラ」
カナタはじっとセラを見ると、黒い爪の生えた指で顔を指さした。
「毛が生えてる」
「え?」
[newpage]
[chapter:獣化 襲撃まで残り6日]
「うそっ‥‥」
端末のカメラで自分の顔を映したセラは目を剥いていた。
産毛が濃くなるような感じで、顔面全体がうっすらと毛深くなっていたのだ。いや、顔面だけではない。その変化は見える限り全身だ。プラチナブロンドでもともと白い体毛がそのまま密度を増したように、全身に薄く白い毛が湧くように生えていた。まだ長さは数㎜であったが、全く気が付かないうちの変貌に、セラはしきりに顔を触っていた。動揺しているのだ。
「くそっ、なんなのよこれっ! あいつらぁ、ハカセにも話しかけてきたのに私だけ何にも言わないで‥‥礼儀がなってない礼儀が!」
「セラさ、さっき、作戦考えてる間どんな気持ちだった?」
「え?え?な、なによ」
カナタがパイロット席でいとかけの船体制御を監視しながら、問いかけてきた。ハカセは既に左右胴体の切り離し作業を開始している。この後左右胴体を結合し、地下に埋める。いとかけはゆっくり浮上し、切り離した左右胴体を置いて前進している最中だった。この船は補助動力炉だけでも大気圏内航行と浮遊は可能である。
大きくなったライオンの手で器用にコントロールスティックを操りながら、カナタが話しかけてくる。
「さっきセラさ、作戦のこと結構夢中で話してたよね」
「‥‥え?」
「ちょっと興奮してたでしょ」
「なに、それがトリガーなの?」
「私は戦闘のたびに獣化が進んでたでしょ。アドレナリンが湧くときっていうか、力を出したいとき、出してる時に変化が進む感じ」
「なに、じゃあ私は真剣に考えたりアイディアを一生懸命出せば出すほどライオンになっていくっていうわけ?」
「たぶんね。それがセラの戦闘」
「‥‥これからもっと激しい戦闘だってするのに、まずいんじゃないのそれ」
「なんで?」
「あんた、自分がどうだったか覚えてないの?戦い終わるたびに興奮して、エッチな気分になって大変だったじゃないの」
「んー‥‥たぶん、その症状もワクチンで緩和されてる」
「ほんとに?」
「だって今エロい気分じゃないでしょ。‥‥左右胴体結合。エアロック気密確認」
主翼とワープドライブ、主動力炉をもったいとかけの中央船体が抜けて、川の字の真ん中が抜かれたようになった左右の居住区画がドッキングアームを伸ばしあってお互いを引き寄せ、連結した。リモートで船体状況が送られてくるのを、カナタはチェックしながら手順を進めていく。本来ならセラと二人で行う作業だが、獣化に動揺しているセラをやすませてカナタだけで作業をしていた。
「変な気分じゃないけど、たしかに」
「感情変化は特にありませんでしたね」
ハカセが割り込んできた。セラはカメラを睨みつける。
「ハカセ、カメラで見てたなら教えてくれていいじゃないの。見てたんでしょ。私の顔に毛が生えてくるところ」
「見てましたけど、途中でカナタが呼びかけましたよね。でも後にしてくれって。ですので」
「‥‥まだ根に持ってるの?」
「何のことでしょうか」
起き抜けに無様と揶揄されたAIはとぼけた声を出した。人間臭いAIである。
二人がガルガルやっている横で、カナタは淡々と作業を進めていた。
「船体降下、着陸。居住ブロックの予備動力炉起動確認。埋没操作開始」
左右胴体にも補助的な動力はある。重力下の飛行はできないが救命船として宇宙を漂うくらいの最低限の動力とバリア展開機能をもっている。このバリア機能を使って地面に船体を沈み込ませる。直下の地面をバリアで振動させて強制的に液状化を起こし、文字通り沈めていくのだ。
ぼわっ!と土煙が上がり、ぼふぼふと船体の下から焦げ茶色の土を吹き散らしながら居住区が沈んでいく。必要な荷物や食料の予備は中央船体に運び込んでいるが、沈んだ船体から真上にドッキングポートを伸ばして、マンホールのように地面の下の居住区に入れるような仕掛けはしておく。
「深度10。船体埋没完了、操作停止」
窓の外で爆発していた土の柱が消える。あたりにはふかふかの畑のような広場が広がっていた。
ハカセが呼びかけてくる。
「出発は明日の夜明け頃を狙って12時間後とします。セラは装備品の再チェックを行ってください。できますか?」
「うん」
「カナタも格納庫に来てください。今のあなたの体形に合わせたボディーアーマーの成型が終わっています。着用テストを」
「りょうかい」
「予定の作業時間は2時間です。食事をとって、早く寝てください」
「わかったわよ、おかあさん」
セラの突然のおかあさんよばわりに、AIはライトを明滅させた。
「憎まれ口をたたいたかと思えば、なんなんですか、あなた」
「照れてる?」
「まさか」
困ったような声の後で、ため息の音声が流れた。
「心配なんですよ」
[newpage]
[chapter:守り人]
いとかけの上甲板に座って、セラは星空を眺めていた。まもなく消灯時間である。
人工の明かりのない夜空には一面に巨大な天の川が流れ、明るさすら感じるほどだった。
「すごい‥‥」
太陽系はどの方向だろうと、探してみる。携帯端末にダウンロードした星図と照らし合わせてみたが、まだ地平線の下に隠れていた。
2人は全く迷子というわけではない。この星系は、発見自体はされていて座標もちゃんと記録されている。だから、セラたちは自分達がどこにいるかは把握している。迷子ではない。星図だってその座標データをもとに主要な恒星との位置関係を模擬したものだ。ここは艦隊が元居たあたりから数十光年離れた場所だ。
ただ、ワープ事故によってセラたちが何処に飛んで行ったのか艦隊側は把握できていないため、向こうから探しに来ることができない状態なのだ。加えて、セラは衛星軌道に打ち上げた探査ポッドから忌避メッセージを発している。未知の病原体や危険生物など人類が立ち入ってはいけない星であることを示すビーコンだ。これがある限りは、探査艦隊はめったなことではその惑星に降りてこない。だからもし捜索隊がこの星に来ても、積極的に着陸はしてこないだろう。
「‥‥」
セラはじっと手を見る。素肌は見えず、白くて短い毛にみっちりとおおわれている。夜風が体にあたっているが、寒くない。同じように全身から顔まで生えた獣毛のせいである。あれから次の変化はまだない。尻尾も生えてこないし、鼻も伸びてこない。あそこもまだ女のままだ。ただ、生えた毛はそれなりの保温効果を発揮していて、夜風にあたっても寒くない。その温かさが逆に自分の体の変化を強く知らしめていた。まるで薄手のタイツを全身に着こんだような感じだ。たったそれだけ。でも、多分この毛皮は永遠に脱げない。セラは星空を見上げてため息をついた。
「どうなっちゃうんだろう」
不思議と恐怖感は湧いてこなかった。最初目の当たりにしたときには驚いたが、動揺はあっさり引いていった。目の前にすでに変貌してしまった相方がいるからだろうか。それとも現実逃避しているだけか。まだセラにはわからない。
カナタは既に寝ている。いとかけの後部デッキに設けてある簡易ベッドで、王様はがあがあといびきをかいて寝ていた。
セラは、端末の明かりを消すと夜の森を見つめる。蟲の声もしない静かな森だ。星明りに木々の輪郭が浮かび上がっているのが見える。当然ながら人工的な明かりは見えない。守り人たちの光球も見えない。
待っているのだ。
ここで、セラは向こうから来るのを待っていた。
守り人。セラたちをこの星に呼び寄せた張本人だ。
カナタともハカセとも意思疎通を果たしている。セラだけはまだ彼ら彼女らの声を聴いていない。
迫りくるドローン軍団から自衛するためとはいえ、結果的には彼らのために戦いに行くようなものなのだ。せめて出撃前に仁義は切るべきだろう。セラはちょっと不機嫌そうな声で、森に向かって呟いた。
「‥‥いるんでしょ」
誰にともなくつぶやいたそれは、届いた。いとかけの周囲、森の中に何か動くものが見えた気がした。
ざっ、ざっ、と草を踏む音。それが近づいてくる。
セラは音のした方向をじっと見つめた。いとかけの上甲板から地面までは結構な高さがあるが、音ははっきり聞こえる。足音が。
『‥‥こんばんは。いい星空ですね』
「遅い」
『‥‥』
AIだろうが相方だろうが異星系の知的生命体だろうが一切関係ない、相変わらずのセラの物言いに守り人――6本足のシカーーーは甲板の上に座るセラを見上げたまま絶句した。
「どうしたの?上がってきなさいよ。あなた一人なんでしょ」
セラは構わずに声をかける。守り人は黄色い三つ目をパチクリさせた後、すっ、と宙に浮いた。
「えっ」
あまりにも自然に浮いてきたので、あっけにとられて動けないままのセラをよそに、守り人は音もなく宙を舞うと、とん、と静かに甲板に降りた。
さっきとは逆に絶句したセラに向かうと、守り人はすっと目を細めた。
『これでおあいこでしょうか』
「‥‥いい性格してんじゃない」
『ふふふ』
セラは白くなった頬をポリポリと掻くと、シカの顔をじっと見る。口がなく、コケだろうか、まるで髭のようにのびた緑色の口周りの体毛。目は黄色く輝き瞳はなく、3つ目の瞳がおでこについている。角は流木のようにねじくれて枝分かれしていた。今は光球を持っていない。
「あの光の玉がないと喋れないと思っていたけど」
『見えないだけで、ありますよ。音波による言葉の作り方は何通りもあります。大丈夫です』
守り人の声は知的な女性だった。カナタに助けられた小さな個体とは違うようだ。
「流暢ね」
『ハカセさんに言葉を習いました』
ハカセは一方的なコミュニケーションで敵の情報をもらうだけだったと言っていたが、彼の呼びかけから彼らは言葉を学習していたようだ。
「じゃあ、質問させて。どうして私たちなの。なんで私たちが呼ばれることになったの」
『わかりません』
「はぁ?」
はっきり言われて、セラは眉間にしわを寄せた。
「それ結構大事な話なんだけど」
『私たちはただ願っただけです。ひたすら願いました。その結果、あなた方が来てくれた』
「いや、ずるいわよ、それは」
『そうなのですか』
「経過すっ飛ばして結果だけ得るわけ?」
『そうなりますね』
「試験でね、過程も書かずに答えだけ書いたら減点なのよ」
『‥‥そういう能力ですので』
守り人はさらりと言ってのけた。
「へえ‥‥あなたがどうやって私の言葉を理解しているかわからないけど、あなたたちはもともと何だったの」
『はい?』
目まぐるしく変わるセラの質問に、守り人が首を傾げた。
「あなた方の知識は、どうやって受け継がれてきたの。今の会話はある程度の文明がないと理解できないわよ」
『難しいことを言いますね』
「何食べてるかわからない、ウイルスの知識がある。過程や減点という未知の単語の概念が分かる。そして祈って偶然を手に入れる」
『‥‥』
ざわ、とセラの頬がうずいた。興奮している。獣化が進んでいる!
「うわっ!」
ざわざわと、皮膚のしびれが頬からまぶたの方へ、頭髪の方へひろがっていく。うなじがむず痒い。毛が伸びてきている。セラは顔を抑えて苦笑いした。
「ちっくしょー‥‥こうやって変わっちゃうのか‥‥なんだ、せつないなぁ、これ‥‥っ。っは、ぐ」
しかめ面をして獣毛が伸びる感触に耐えるセラに、守り人が声を心配そうにかけてきた。
『だいじょうぶですか』
「うっさい。こんなとこまでよびつけて姿変えといて、今更申し訳なさそうな顔すんな‥‥ううううっ」
ざわざわと伸びる獣毛が、セラの顔の輪郭を少しずつ変えていく。あごまわりの輪郭を強調するように、セラの体毛と同じ色の白色がかった獣毛が伸びる。首筋周りにも毛が伸び始め、セラは服の上から体を抑えた。
「ふううう!」
悶えるセラを見て黄色の三つ目がぱちくりと大きさを変えた。セラは顔が変貌するのにも構わず、話を続ける。
「あなた方の、そ、その姿は後天的なものでしょう。もとは、私たちのように道具を使う知的種族だった。でしょ?」
『なぜそう思います』
「っは、はは、あたま、よすぎんのよ、あんたらっ‥‥っは、ぐうううううっ!」
強く噛み締める歯の中で、犬歯が伸び始める。アドレナリンの放出が止まらない。興奮が続いている。それでもセラは守り人に話しかけるのをやめない。
「ぺ、ペンも持てない、道具も、使えない体で、過程だの減点だの、文明がないとニュアンスすら理解できない単語をいとも簡単に理解して、返答まで、したわ。っぐううう!」
背骨がきしむ。思ったよりも変貌が派手だ。セラは少し後悔しながら、ざわざわする口の感触に震えながらまた喋り始める。牙がますます成長している。
「口が、ないのは、食べなくていいから。あなた方のその能力で、現実改変、できっと、生命維持をしてるから。そして不老不死。個体の大きさの大小はあれ、一番安全な、っはあああ!あ、安全なっ、ドローンに襲われない、ここに、子供らしき個体がいない‥‥っ、きっと、あなた、たちは、めったに、生殖しない‥‥!っひいいいい!」
二の腕を抑えセラが背中を丸める。獣毛の成長が止まらない。ぞくぞくとした震えは下半身にも及んでいた。足をもじもじとすり合わせ、呻きながら体を抑え続ける。
「ど、どう!正解?どこまで当たってるっ!?」
伸びた牙を星明りに煌めかせ、セラが笑う。守り人はすっと目を細めていた。困惑しているような感じだった。変貌しながらギラギラと笑う地球人の様子を目の当たりにしていたから。返答は少しためらいがちだった。
『‥‥さすがです』
「あは!ははは!大筋はあたりね?そうね!?はは、はははは!」
『おおむね間違いではないことはお伝えします』
「よっしゃあ‥‥」
ざわざわと毛が伸びていくのが止まらない。ぎゅううっ、と鼻が摘まれるような感触まで襲ってくる。慌てて鼻に触る。毛におおわれていた先端が、ざらついて皮膚が露出してきている。獣の鼻になりつつある。セラは深呼吸をして何とか体を落ち着けようと、しばし体を抱きしめてうずくまる。
「ふうう、ううう、せ、せつないなぁ‥‥なんだ、これぇ‥‥すっごい、せつない、うううっ‥‥なんでだろう、なんでだろうね切ないのこれっ‥‥かわっちゃう、わたし、かわっちゃうよぉ‥‥ははは」
目を大きく見開いて、牙を剝いてひきつったように笑う。
そんなセラの前で、守り人が深々と頭を下げた。
『‥‥急にこんな星に呼び出してしまい、申し訳ございません。おまけに、体を作り変えてしまう結果になってしまったことも、申し訳ない気持ちでいっぱいです。ごめんなさい』
「いま、謝る話じゃない‥‥」
しばらくセラは、顔を上げられなかった。何か胸にぽっかり穴が開いたような、深いさびしさが襲ってきていて、膝を寄せて自分の体を抱きしめていないと耐えられなかった。なぜさみしいのか、それを必死に考えていた。
「っぐ‥‥うう」
守り人は、それを黙って見つめていた。どれくらい、そうしていただろうか。結局どうして寂しいのかわからなかったが、必死に考えているうちに心は落ち着き、獣化も止まっていた。
「っく、おち、ついてきたかなぁ」
ぶるぶると体を震わせ、セラが顔を上げる。耳を縁取るように毛が生え、顔面は昼間よりも毛深く変貌していた。鼻先は皮膚が固くなり、少し肥大している。二の腕を抱きしめる腕も毛深くなり、爪は伸びてはいないが黒く変色していた。体の方も毛が伸びているようで、作業服がゆるく膨らんでいる。
「ふううっ、ふうっ」
変わってしまった自分の体を改めて確認し、セラは荒い息を吐いた。じっとそばにたたずんでいた守り人が、静かに語りかけてくる。
『落ち着かれましたか』
「‥‥うん。なんとか、平気」
『明日、蟲どもと戦いに出ると王から聞きました。我々もお供します』
「そう、それは、ありがとう‥‥でも、あまり大勢じゃ駄目よ‥‥むしに、気取られるから‥‥」
『心得ております』
そういって、守り人がぐっと鼻先を寄せてきた。毛の生えたセラの頬に顔を寄せるようにして。深い森の匂いがした。
「はあっ‥‥変わっちゃうんだね‥‥わたしも‥‥っ」
『昔、我々の祖先も同じように恐怖したと聞きました。恐ろしくて悲しくて、狂ったものがいたと』
「そうでしょうね。きっと」
そっと守り人の頭を抱く。黄色い三つ目が細められた。暖かかった。
『申し訳ございません。これほどまでに恐怖させるつもりはなかった。けれど、あなたたちでなければきっとできないことがあるから、あなたたちがこの星に来て、このような運命になっていると思います』
心底申し訳なさそうな情けない声だった。セラはもう少し言いたいことがあったが、ふんと新しい鼻から息を吐くと、苦笑して抱いた頭を離した。
「他力本願っていうのよそういうの。まあ、すごい協力してくれてるから、やらせっぱなしじゃないのは評価するわ」
『‥‥』
「きてくれてありがとう。船の中に戻るわ。体形変わったかもしれないし、装備確認しなきゃ」
ぽんぽんと守り人の頭を叩くと、セラは立ち上がり、守り人に背を向けて甲板上のハッチに向かって歩き始めた。
「うわ、毛皮で靴がパンパンだ」
『あなたは死にません』
「え?」
背中から、守り人の声が聞こえる。
『みんな、死にません』
「‥‥そう?」
『そういう運命です。そう願いましたから』
真剣な声だった。セラはオカルトの類など信じない。普段なら「意味ない」と容赦なくバッサリやっている。けど、彼らは光の距離を超えて二人の運命を決めたのだ。彼らの願いは、現実に作用する。もしかしたらそうかもしれない。‥‥ただし過程と手法がわからない。死なないと言って銀貨クラゲのような異形の不労不死生命体に変えられても、「死なない」の範疇なのだ。素直に喜んでいいものではないだろう。
「ありがとう。期待してるわ」
セラはちょっとだけふりむいて苦笑すると、守り人に背を向けたままハッチを降りた。
[newpage]
[chapter:出発 襲撃まであと5日]
「ドローンの配置を鑑みるにカルデラ内では接敵しないはずです。ゲートの向こう側で時間をとられるでしょうから、今日中にゲートまで前進してください。もし接敵してもドローンとの戦闘は可能な限り避ける。やむを得ない場合はジャミングで通信を封じたうえで排除。新たなドローンを呼び込まないように。いいですね」
「了解ハカセ。がんばる」
「セラ、バイオスーツの調整は本当にいいんだね」
「大丈夫だってば」
一人乗りバギーにまたがり、装甲をベルトでつないだ獣人用アーマーを着こんだカナタが、黒い鬣をなびかせて振り返る。同じような黒い鬣のライオンが、黄色い目を光らせて答えた。
「まあ、少しくさいけど」
カナタのバーバリライオン型バイオスーツを着込んだセラが、肩をすくめた。カナタはにやりと笑う。
「ふふふ。黙ってても私の匂いに染めちゃうんだよ」
「エロ馬鹿」
セラがスーツのお面でがう、と吠える。
背丈は少しカナタの方が大きいが、ほとんど見た目の同じ、黒い鬣に黄土色のバーバリライオン獣人が二人、電動バギーにそれぞれ跨って、格納庫のハッチに待機していた。本来2人乗りの地上探査用の電動バギーだが、カナタとセラは1台ずつに分乗していた。装備品や野宿用の装備、武装を積み込むためと、万一片方が故障してもいいようにである。
そしてセラはもともと着ていた銀狼のバイオスーツではなく、カナタの着用していたバーバリライオンのスーツを着ていた。理由は、セラの獣化が始まっているからだ。軽量スピードタイプの狼スーツは素早い動きが得意だが防御力に劣る。そして今のセラは突発的な獣化という発作のような症状を抱えている。もし戦闘中にそれが発生して動けなくなったら、防御力の弱いスーツでは不安である。なので少しでも生存性を上げるため、防御力のより高いカナタのライオンスーツに着替えていた。もともと宇宙服の上に重ね着もできるように作られた、伸縮性のある有機人工筋肉の強化スーツである。カナタと少し体形は異なったが、問題なく着用できる。‥‥ニオイは、ハカセが一生懸命脱臭したのでカナタが最後に着ていたときよりかなりましになっていたが、微妙にケダモノくさい状態だった。
二人は、居住ブロックを切り離した後のいとかけの後部格納庫で待機していた。いま、いとかけは主翼をたたみ、ごく低空を浮遊しながら、まるで白い蛇のように森の中を進んでいた。すこしでも目的地の近くで出発できるようにハカセが提案したのだ。ただあまり近づいたりしてドローンに気が付かれると襲撃が早まる可能性もあるので、森の中を進めるのはせいぜい7㎞ほど。しかし、ハカセは少しでも近くに二人を送り届けたいといって、守り人たちから送られてくるドローン群の位置を確認しながら、慎重に船を進めていた。
「あのさ」
「なに、セラ」
「切ないんだね、変わるときって」
カナタが、耳をピクリと動かした。
「‥‥怖くはなかった?」
「今のところは」
「そう」
昨日の夜、守り人との邂逅を果たしたセラだったが、その際体に起こった獣化によって、体形が変化していた。獣毛が生え、少し筋肉が発達して体形が微妙に変わっていた。鼻が人間のものからライオンのものに変わりかけ、獣毛が濃くなっていた。出発直前に進んだ変貌にカナタもハカセも心配したが、セラはこれでよいと言って出撃の取りやめはしなかった。‥‥なぜ切ない気持ちになるのか、あの後は考えずにすぐ寝た。考え込んでしまったら寝れない気がしたからだ。
「現在着陸地点から5㎞前進。ドローン群に動きなし」
ハカセの声がメットの中に響く。バギーのハンドルを握りしめながら、セラはメット内のモニタに映し出された地図を確認する。母艦Aの想定位置まで、90㎞。途中に大きな山はないが、100m級の低山がいくつかある。カルデラが崩れて川が貫いているあたりは平野も広がっているが、衛星写真から身を隠すような森もない平原であることがわかっている。結局山裾をこそこそ進むしかない。背丈の高い草むらならばよかったかもしれないが、ぬかるんだ湿地だとバギーが走れない。レーダーで衛星から見ればそのあたりがわかったかもしれないが、迂闊に電波を発射するとドローンに気づかれる。進みながら確かめるしかない。
「予定地点まであと5分」
「降下用意」
「了解」
カナタが吠える。セラはバギーのハンドルを握りしめた。
「後部デッキ開放します」
目の前で扉がゆっくりと降りていく。輸送機のように下向きに開く格納庫の扉が、水平まで開いた。目の前には背の高い木々と森。地面はあまり草が生えておらず、固くて走りやすそうな土だった。
「着陸します。いとかけは現在位置で待機。守り人さんが15頭、ついてきています」
歩くほどのスピードでゆっくり飛んできていたので、守り人たちも一緒についてきていた。昨日セラに、「私たちもついてゆく」と宣言した通り、彼らも二人と一緒にドローンと戦いに行くつもりなのだ。カナタはそれを止めなかった。必死に頼まれたんだと、ぽりぽり頭をかいていた。
「ねえ、あなたはどうやって守り人たちと話しているの」
「え?」
「無線でも何にもないのに」
「‥‥頭の中に響いてくるんだよね。テレパシーってこんな感じかも」
「怖っ」
「そういうと思った」
カナタはがふっ、と笑うと、バギーの状態をもう一度確認する。
バッテリーはフルチャージ。地球の3倍くらいの重力条件の星でも走れて、航続距離は満載で500km。遠隔操作も可能な惑星探査用バギー。滅多なことでは壊れない。
ギュっ、とハンドルを握りしめたら、同時にスロープが地面に接触した。
「接地しました。発進どうぞ」
「ハカセありがとう。行ってきます」
「気を付けてね」
「それはこちらのセリフです。死なないでください。臭くなってもいいですが死なないでください」
「‥‥善処するわ」
「暖かいお風呂でお待ちしてます」
「お願いね」
とぼけた台詞を背に、カナタとセラはバギーを発進させる。守り人が5頭、群れから分かれて二人についてきた。残りはいとかけの護衛のようだ。
「カルデラ内、進行方向にドローンの機影なし。ムカデ型に注意してください!」
「わかった!」
吠えるカナタに続いて、セラはいとかけに向かって手を振る。二頭のバーバリライオンは、守り人たちと一緒に森の中を駆け抜けていった。
――臭くなってもいいですが――
「‥‥しばらく野宿だもんなぁ」
すでに獣毛に覆われていて、体が洗いにくくなっているし、洗剤を使った入浴は無理だ。ハカセの弄りに一抹の不安を覚えながら、セラはカナタのにおいが充満しているマッチョなライオンスーツの中で、小さくため息をついた。
ドローンへの警戒をしながらの移動、しかもルートの状況が不明なうえに道もないために、移動ペースを気にしていた二人だったが、カルデラ内にドローンはおらず、さらに守り人たちがドローンを察知してくれる探知機の役割を果たしてくれたため、出せる最大のスピードで移動することができた。それでも平坦な道路などないため、岩や倒木など、時折現れる障害物を乗り越えながらの移動は時間がかかった。障害物を手っ取り早くバズーカで吹っ飛ばすわけにもいかないし、だからと言ってこんな序盤でバギーを乗り捨てることなどできない。武装や予備のエネルギーパック、食料などが積んであるのだ。木を敷いたり遠回りをしたりしながら、二人はゆっくりと進んでいった。
****
「――――むわっ!」
初日の行程は順調に消化された。
一日目の終わり、キャンプでセラを待っていたのは、宇宙服の中にこもった自分の匂いだった。食事のあと、睡眠前に体を確かめようと思ってインナー代わりの宇宙服を脱いだのだが、中から吹き上がってきたのは汗と、カナタのような獣臭。彼女のものに比べればだいぶ薄いが、これまでの自分の体臭とは全く違う匂いが強くなっていた。川の水で少し水浴びをしたが、思ったより冷たい水にいつまでも入っていられず、洗いもそこそこに出てきた。多少は匂いを流せたが、顔面まで覆った獣毛からはどこを触ってもライオンの匂いがしていて、セラは寝袋の使用をためらうほどだった。しかし寝て体力を回復しなければならない。セラは意を決して寝袋に入る。保温性に優れた寝袋は、ある程度湿気を逃がす。しかし換気性能はほとんどない。中にこもる体臭は、寝袋の中で濃密になり、首元から漂いだしてセラの鼻腔を焼いた。
「なん、なのよぉっ‥‥」
腕に鼻を近づけたら、乾いてもひどく獣臭かった。
これが自分から出ている匂いだとは信じたくない。けど、セラは異変を感じていた。このにおいをかいでいると、あの獣化していた時と同じような、切ない気分が襲ってくるのだ。
あの時から、この切なさの理由を考えていたセラだったが、胸を締め付けるようなその感情に、思わず体を丸めてしまう。寝袋の中に顔を押し込むような姿勢になり、より強く匂いを感じてしまう。
(ああ、そうか。自分が、自分でなくなる、からか)
獣化しながら感じる寂寥感。セラは丸まりながら、今までの人間セラが消えていく過程だからと思い至る。人間の体を捨てて、獣人へと変貌する。今までの顔も、声も、匂いも考え方も変わる。同じなのは記憶だけ。そうなって、それは今までの自分なのだろうかと、セラは思う。セラは、カナタの変貌を目の前で見ていた。変わる前から変わっている間も、ずっと彼女を見ていた。だから、全く見た目が変わってしまった今でも、セラはあのライオンをカナタと呼んでいる。セラのこともきっと、カナタはいつも通りセラと呼んでくれるだろう。ハカセだってそうだ。
でも、空母はごろものみんなは、家族や親戚や、地球の人間たちは、自分たちを今までと同じ存在とみなしてくれるだろうか。バイオスーツの遺伝子が混じり、身体能力を強化された2人を。全く見た目が変わり、別種の生物のようなありさまになり果てた、野獣のような二人を。
きっと、同じには見てはくれないだろう。人間としてすら、見てくれないかもしれない。
(ああ、だから、だからさみしいんだな‥‥)
セラの右手が、自然と股間に伸びてゆく。せつない。さびしい。胸が空っぽになる。どうにかしたい。
人間を捨ててゆく。今までの自分を、思い出を捨ててゆく。ぽろぽろと、人間の姿と一緒に、セラの中のそれらと別れゆくのだ。だから、さみしい。
さみしい。さみしいさみしいさみしい。
満たされたい。
――――くちゅっ。
「んんっ!」
股間は既に濡れていた。毛の生え始めた指で、セラはゆっくりと自分の中をかき回す。カナタに開発されて敏感になった粘膜が、切なさに震える胸に快感を送り込んでくる。カナタに抱いてほしい。あの大きいので、中を満たしてほしい。でも、今それをやったら本当にあっさりとケダモノになってしまう気がして、セラは寝袋に顔をうずめて声を押し殺しながら、くちくちとアソコをかき回す。だんだん、快感にほぐされた体が伸びてくる。足を閉じ気味のままでは指が動かしづらくて、セラは寝返りを打って仰向けになる。ぼふっ、と動いた拍子に寝袋の中の空気が出てきた。強い獣臭に、セラの愛液のにおいが混じっている。
その臭いを嗅いで、おなかの奥がぎゅん、と締まった気がした。
(くそっ)
すっかりくつろいだあそこを、セラは指でかき回す。寝袋の首元から、腕の動きと一緒に空気が出入りし、強い性臭と淫らな水音が出てくる。そこにふたをするように顔をうずめるセラは、音と匂いを顔面で受け止めることになる。
くちゃくちゃくちゃ、じゅぶ、じゅぶぶぶ
「んっ、ぐ」
必死に声を押し殺す。セラの指が、今まで放置されていた陰核をなぞり上げた。
「ふうううっ!っぐうう!」
全身に電撃が走る。快感をため込んでいた肉芽は、ちょっとの刺激にもかかわらず素晴らしい快感を響かせた。はあ、はあと息を整える。今ので軽く絶頂したらしい。荒い息をするたびに、寝袋の中から漂ってくる獣臭が鼻を焼く。臭いケダモノの匂い。それで自慰をした。さびしさと、背徳感がないまぜになってセラの情緒をぐちゃぐちゃに揺さぶる。
いつの間にか、ぽろりと涙がこぼれていた。
(‥‥まだ)
すうう、と寝袋の中の自分の体臭を嗅ぐ。汗と、獣と、愛液の匂い。自慰は新たな発汗と愛液の分泌を促し、寝袋の中の湿度をねっとりと上げていく。でも、その重くて暖かい空気が、なぜか心地よくて、せらは暖かいそれに顔を突っ込むように、寝袋の中に頭を入れていく。
そこで待っているのは、濃縮された臭気だ。嗅いで、切なくなって、暖かさを求めて、また嗅いで。
ループが止まらない。
(もっと)
ギンギンにしこりきった肉芽を、震える指でそっとなぞり上げる。
「はう」
びくびくと体が震え、手元がくるって爪でクリをひっかいてしまった。
「~~~~~!」
ガクガクガクと体を震わせる。獣になりながらする、あさましい自慰。でも、溢れる背徳感に酔ってしまったセラは、涙ぐんで鼻を鳴らしながら、股間をかき回すのをやめない。
(もっと、もっと、さみしい、あったかくなりたい)
指が止まらない。また絶頂がくる。涎をふりまき、空いた手で毛むくじゃらの乳房を抱いて、セラの自慰はそのうち眠気に負けて気絶するまで続いた。
[newpage]
[chapter:ゲート付近 B地点まで47㎞ 襲撃まであと4日]
広大なカルデラの、外輪山崩壊部分を二人は進んでいた。あたりは岩山で、およそ道と呼べるものは存在していない。それでも枯れ川か昔の土石流跡か、峠を越えられそうなわずかな道があり、カナタとセラはそれをたどっていた。天気は晴れだが少し雲の量が多い。気温は18度ほど。
「未踏の岩山ってのは、きついわぁ‥‥」
「バギーの足回り、持つかな」
二人の乗っているバギーは4輪それぞれのサスペンションを伸び縮みさせて疑似的な4足歩行もできる。二人は今その機能を使って山を登っていた。まるで大昔の騎馬での山越えだ。ペースは遅くなるが峠を越えるところまではバギーと装備品を運搬しようと、ルートを何度も検討した結果、二人は川沿いの崖ぞいを進んでいた。川が削ってくれているので最も高低差が少ないが、見晴らしがいいのでドローンに見られる恐れもあるルートである。ドローンから隠れるなら障害物の多い山越えが比較的安全だが、山の向こう側に降りてしまえば遮蔽物も少なくなるし、バギーでさらに険しい山を越えようとするならあまりにも時間がかかりすぎるため襲撃予想日まで間に合わない。ステルス性のある偽装ネットを被った二人の獣人は、川沿いの緩やかな岩だらけの丘をゆっくりと進んでいた。
前を行くカナタが、振り返らずに話しかけてきた。
「セラ、体の方はどう」
「あれ以来獣化の発作は来ないわね」
「冷静なんだね。いいよいいよ」
アーマーを着たライオンカナタが、黒い鬣を揺らして笑った。
昨日野営したときにスーツを脱いで体を確かめた。出発前に進んだ獣化は、昨日の移動中にはまったく進行していないようだった。ただ、以前よりも獣臭が強く感じられていた。汗の匂いがするのは仕方ないが、ほんのり猛々しい獣の匂いが、伸びた獣毛の奥から漂ってきているのだ。あの軽作業用宇宙服を間に纏っているので、スーツの匂いは直接染み込んだりしない。だとするとやっぱりこれは、セラ自身の匂いということになる。
いまもメットの中にその臭いが少し漂っている。昨日の夜の光景が、セラの頭をよぎる。
獣化の切なさに震えながら何度も自分を慰めて絶頂した。まだ、手袋の中、指先の毛に臭いが染みついている気がする。
(なんで、あんなこと)
現状、体形はそのままに体中に毛が生えている状態で、鼻がわずかに伸び始めているくらいである。カナタを獣化進行時に苛めたと言う、股間に吸い付かせている排泄物回収コネクタの感触も、特に変なものではない。ただ、変な気分である。人間でもカナタのような獣人でもない中途半端な状態だ。どうせ変わるなら一思いに変わってくれ。そしたら匂いも気にならなくなるのにと、セラは口の中でブツブツつぶやいた。
そのつぶやきを聞きつけたのか、心配した守り人が並走して話しかけてきた。
『無理はしないでください』
「どの口が。それに無理なんかしてないわよ」
『‥‥すいません』
相変わらずの調子で守り人をバッサリやるくらいのメンタル余裕はまだある。カナタが振り返って苦笑し、何事か守り人に話しかけて慰めていた。彼『彼女?』はちょっとショックを受けたようで、しゅんと頭を垂れながらバギーの後を歩いていた。全部で5頭が、カナタとセラについてきている。セラにコンタクトをとってきた個体に彼らの名前を聞いてみたがそんなものはないと言われてしまった。名前がなくても誰が誰だかわかるような、そういう感覚があるらしい。よくよく確かめるとカナタにもその感覚があり、テレパスを受けるだけで個体差がわかるそうだ。セラはまだそのような感覚を持っていないために、誰が誰だかわからない。おまけに外見がよく似ていて見分けづらい。1から5までカラースプレーで体毛にペイントしようかと提案したが、王様にやんわりと、かつ強硬に却下された。
そんな王様はカナタの前を走っている。風に乗って彼女の獣臭が漂ってきているはずだが、バイオスーツの中にいると匂いは感じない。昨日水浴びはさせたが、またすごい臭くなるんだろうなという予兆を感じさせるカナタの頭髪臭が洗髪時にしていたのを、まだ鮮明に思い出せる。
「この岩山はあと5㎞続くよ。それを抜けたら森林になる。そこからはカルデラ外輪山の分水嶺向こう側だから、レーダーはの照射に注意」
「了解‥‥楽そうでいいわね、守り人さんたち」
6本足の彼らはやはり悪路でも強い。とんとーんと岩山を軽やかに駆け上がり、振り返って待っている。地球のアイベックスか何かのようだった。
そのたくましいおしりと尻尾に見とれていた時だった。
「‥‥停車」
ふと、カナタがバギーの進行を止めた。ライオンの右手が、こちらに手のひらを向けて下におろされる。
「パッシセンサーと守り人さんから。Fタイプ接近中。あと3分で目視距離」
「隠蔽作業?」
「偽装ネットをバギーに展開。私たちは岩陰に」
「了解」
二人はバギーから降りると、手近な岩陰に寄せ、荷台の偽装ネットを大きく広げてかぶせる。セラのバイオスーツのヘッドカメラで周囲の景色を撮影しリンク、偽装ネットの色パターンを最も周囲に溶け込みやすいものに変える。ほどなく2台のバギーは岩塊に姿を変えた。二人はそのままバギーの陰に隠れる。守り人たちも岩山の陰にしゃがんでドローンから隠れた。
二人は地面の砂をお互いに掛け合うと、地面に腹ばいになる。周囲の岩山は赤茶色の岩肌で、ちょっとあたりの砂を体にまぶせば、黒いたてがみと黄土色の体毛によく混じり、そのまま偽装ネット代わりになる。‥‥カナタはこれがあるからと言って、フライトジャケットもズボンも着用せずアーマーにゆるい黒の短パンという大変ラフな格好である。今もセラの前で「大丈夫だよ」といって上空の様子を見ているが、背中側からでもわかる脇の下の剛毛が見えてしまって、なんというかすごい気になる。おまけに短パンは動きを邪魔しないようかなりゆるゆるなので、多分角度によっては股間のアレが見える。それもすごい気になる。
「‥‥コンドルは行った?」
「まだ。かなり上空を飛んでる。撃ち落とすのも無理だね。視界の外に出るにはかなりの時間がかかるね」
「1時間かかるかしら」
「それくらいで済めばいいけど‥‥ドローン視界に入る。静止」
「了」
メットの中、モニターに敵機を示す赤の表示が点灯する。矢印はほとんど真上を指していた。二人は動きを止める。相手にはモーション解析で動くものを無差別に察知する能力があるため、わずかな動きでさえも察知される恐れがある。頭も手も動かせない。偽装ネットが風にはためかないかが心配だったが、今日はそれほど強い風は吹いていなかった。
セラの目の前には、カナタが腹ばいになっている。毛むくじゃらの足の裏には、発達した肉球が付いている。
いずれ自分もこうなる。何度も何度もカナタの姿を見て認識はしているが、いざ目の前にすると、ここまで大きく変わってしまうものなのかと信じられなくなる。大きな足の指に、土にまみれた爪と肉球。伸びた毛が覆う足に、毛皮の外からゆったり覆う短パン。腰には穴があけられていて、揺れる尻尾が――――
「カナタ!尻尾!動かさないで!」
「え、あっ」
声をかけた瞬間、メットの中にアラームが響く。セラは表示されたメッセージを読み上げる。
「レーダー波とレーザーの照射を確認!ドローン!」
「‥‥気づかれちゃったかな」
「多分ね。今度はその尻尾縛っときなさいよ」
「そう、だね」
モニタに表示されているドローンの航跡は、明らかにこちらに向かって進路を変えた様子を表していた。
「ライフルの射程圏内まであと2分!早い!もし特攻ドローンなら突入まで時間ないわ」
『手伝います』
「え?」
岩陰の守り人が声をかけてきた。
『私がおとりになって、相手をひきつけます。そのすきに後ろから撃ってください』
「‥‥相手の視界外から?」
『不意打ちするのです。かれらが母艦に連絡する前に』
「難しいよ。あいつ私をすでに狙ってる。あいつら同時に10くらいの相手を認識できるから、あなたが逃げても私と区別をつけて私だけを追うよ」
カナタの意見に、しかし守り人はさらに提案を重ねる。
『なので、王は私にのってください、そしてセラさん。あの鳥に見つかっていないあなたが撃ってください』
「‥‥簡単に言うわね」
やけに戦いなれたことを言う守り人だったが、それを追及している時間はない。カナタが決断する。
「でもそれしかなさそうだよ。セラ、プラズマライフルをメーザー砲へ。マイクロ波による不可視光線での撃墜を」
「‥‥了」
「もしここに攻撃が来たら5㎞後退。昨日のキャンプで集合。いいね。無線は封鎖のまま」
「わかった。モード切替、メーザー砲」
グリップからの脳波コントロールでライフルのモードが切り替わる。プラズマ砲はまばゆい光弾を発射するので非常に目立つが、マイクロ波放射モードなら目に見えない。おまけにレーザーと同じように指向性があるので、撃たれていない側からは目立ちにくい。ただしぶち当たっている標的表面でマイクロ波があちこちに反射して飛び散るので、それを探知されるとマズイ。だから照射時間は短くする。
「当ててセンサーを壊すだけでいい。照射時間は2秒。行くよ。‥‥状況開始!」
「気を付けてね!」
カナタがばっ、と起き上がると、元来た道の方へと駆け出してゆく。守り人も一頭それに続いた。セラはライフルのモードが切り替わったのを確認しながら、這いつくばったままで待機する。ほどなくドローンがバイオスーツのカメラに捉えられる。翼長4mの大型飛行ドローン。偵察が主だが、相手への突撃体当たりや小型ミサイルでの攻撃が行える。
「上空1000m‥‥ドローン通過」
相手はカナタを追っている。ゆっくり円を描くように、カナタをよく観察しようとしているのかドローンが軌道を変え始めた。
「レーダーおよびレーザー照射消失を確認。こちらへのロックオン解除確認」
無線封鎖しているので、一人で喋っていてもこれは単に音声記録を残す以外の目的はないが、セラは普段の手順通りに準備を進める。起き上がって姿勢を変え、バイオスーツに火器管制動作を開始させる。スーツはライフルの照準コンピュータと連動して人工筋肉を操作。着用者の腕の動きをアシストし、正確無比な射撃と引き金のタイミングをあたえる。
「照準あわせ。敵ドローンタイプF。距離1200」
マイクロ波ライフルの有効射程は1000m。もう少し近づいてきたときに撃つ。
「距離1100、1050‥‥発射」
ぶうううっ!とライフルが震え、不可視のマイクロ波が照射される。光の速さで進むマイクロ波は瞬間的にドローンに照射された。
「2,1‥‥」
照射時間のカウントを待たず、ドローンが姿勢を崩す。そして黒煙を吹きながら、くるくると力を失ったように高度を下げ、カルデラの中の方へと墜落していった。
「目標撃墜」
ふう、と一息ついた時だった。突然右側にあった岩山が爆発する!
「!!!!」
「ぎいいいっ!」
『蟲!』
岩から飛び出してきた何かにぶつかられてセラは吹き飛ばされる。ライフルが宙を舞うのが見えた。
「ぐぁっ!」
地面に押し倒される。土埃の向こうに鋭い牙が見えた。
「ムカデ!」
ぎゅん、と視界が赤くなる。バイオスーツが戦闘状態に入った。接近戦だ。ライオンの本能がセラに上書きされる!
「っぐううおおおおおおお!」
黒い爪のついた手で、セラの首を食いちぎろうとする顎を掴むと、足で腹部を連続して蹴り上げる!
ムカデが身をよじって抵抗した。
「守り人!ジャミング!」
『!?』
「蟲に話をさせるな!」
『はい!』
本来はセラの手持ちライフルにその機能があるが、吹き飛ばされてしまった。この蟲に母艦へ連絡されたらマズイ。セラはダメもとで守り人に指示を出したが、通じたようだ。守り人を信じ、セラは全力で蟲の排除を開始する。
「このっ!」
人工筋肉をきしませながらぐいっ!と右に体をねじってムカデの頭を地面にたたきつける。ひるんだ隙にセラはムカデの下から転がり出た。ムカデが体を起こそうとするのを、頭部を思いきり殴りつけて岩肌にぶつける。すううう、と大きく息を吸うと、セラは周囲を見回してライフルを探す。モニタの端に反応があった。遠い。ムカデが起き上がるまで猶予がない。手持ちの武器は高周波スタンナイフにハンドガン。プラズマアックスがあれば一刀両断できるが、持ってない!セラは足元に転がっていた一抱えもある岩を抱え上げると、ムカデの頭部に向かって思いきり振り下ろす!
ごがあぁん!
ぎいいいいっ!
ムカデの関節がきしむ音。バタバタと黒い体節を暴れさせ、周囲の岩を弾き飛ばして抵抗する。
「つぎ!」
砕けた岩を払い、さらにもう一つの岩をたたきつける!ムカデの黒い装甲に亀裂が走った。
「おおおおおおおお!」
腰から高周波ナイフを抜き、装甲の切れ目に全体重をかけて突き立てる!
「こんなところでぐずぐずできねえんだよぉっ!」
ギイイイイイイ!と装甲がナイフ表面で粉砕される音。セラはがああっ!と吠えながらナイフをドローンの中枢まで突き立てていく。
「死ね!」
トリガー。スタンナイフからばちぃっ!と電撃が走り、ムカデが一瞬体を跳ねさせると、ぎぎぎ、と関節のきしむ音をさせながら地面にくずおれた。セラはナイフをムカデから抜き取ると鞘に戻し、ライフルを拾いに行く。モニターには友軍のジャミング電波検知中のアイコンが光っていた。守り人はきっちり連絡を封じたらしい。
ライフルを拾い上げ、セラは守り人に向かって吠えた。
「よくやった!ジャミング停止!」
『はい!』
近くにいた一頭の頭を撫でてやる。ごついライオンの手で撫でられて、気持ちよさそうに目が細くなった。
「ありがとうね」
視界が青に戻る。スーツの闘争本能上書きが終了し、アドレナリン放出も止まる。
「‥‥うわ」
くらっ、と立ち眩みがして、セラは岩肌に爪を立てて寄りかかった。今になって心臓がどきどきしてくる。狼スーツのときは闘争心向上よりは思考能力増強がメインだった。素早く動く中で冷静に考えるためのアシスト機能だ。だがカナタのライオンスーツを初めて着て、このスーツの闘争心上書きは狼より強いのを改めて認識する。
「やっべえ‥‥きっついなこれ」
ちょっと口調が変わっているのにも気が付かず、セラは息を整える。いちいち戦闘後に動けなくなっていたら危ない。戦闘アシスト機能をちょっと調整しようかと思っていたセラは、今になって獣化が進んだかもしれないということに思い至る。一応、股間はちょっと敏感になっていたが、それほどでもない。まだ歩ける。
「‥‥隠れてたのか」
ムカデの這い出てきた穴は行き止まりになっていた。どこからか地中を掘り進んできたわけではなく。最初からここに隠れていたらしい。とりあえずこの穴から再びムカデが湧くことはなさそうだった。
ようやくライフルの元にたどり着いたセラは、地面に落ちていたそれを拾い上げる。
そのとき、ふわりと、布のようなものが飛んできた。偽装ネットだ。セラは慌てて顔を上げる。バギーはどうなった?
「あ‥‥!」
バギーのうち一台が、吹き飛んだ岩に押しつぶされていた。タイヤが外れて転がり、ハンドルがへし折れ、荷台に乗せていた装備が散乱していた。ムカデが出現したときに岩肌を吹き飛ばした。その時の岩塊が当たってしまったらしい。さらに2台目も、本体は無事だが左前輪に岩が直撃していて、車軸が折れていた。もう走れない。
バギーが一度に2台使えなくなった。想像もしていなかった酷い状況に、セラが地面を蹴飛ばす。
「くそっ!」
「セラ!セラっ!」
カナタが戻ってきた。片手にプラズマアックスを下げている。刃の周りに陽炎が見えた。高温だ。カナタもどうやら戦闘をしてきたようである。
「大丈夫?襲撃は?」
「‥‥ムカデ。あの穴から不意打ちされた」
「よかった」
ライオンがぎゅっと抱きしめてくる。太い腕の感触が心地いい。
「ごめん、ごめんなさい、バギーが‥‥」
「大丈夫。何とかなる」
即答するカナタ。オス化した分厚い胸板の感触が、今は頼もしい。
「クモが3。周りのが集まってきてる。すぐに移動しないと‥‥」
改めてつぶれたバギーを見て、カナタが息をのむ。バッテリーから発火しなかったのは幸いだ。これが燃えていたらもっと目立ってどうしようもなくなっていただろうから。
カナタが、しばらくバギーを睨んだ後でセラに指示を出す。
「バックパックは‥‥引っ張り出せるかな。ここからは徒歩で移動しよう。もう一台のバギーは‥‥」
「置いてく‥‥?」
バギーを置いていけば、壊れた方のバギーの残骸に寄ってきたドローンによって破壊されるかもしれない。
しかし壊れたバギーを離れた場所に移動するには時間がかかる。その間にドローンが寄ってきたら面倒である。
「ここに置いていく。ムカデの穴に隠そう。まずほかのドローンが現れる前に山を下りる」
「わかった」
「10分でやるよ」
二人はライオンの体にバックパックを背負い、つぶれた方のバギーから持てるだけの食料とエネルギーパック、武装を回収すると、2台目のバギーをムカデのあらわれた穴に隠蔽する。元が二人乗りの小さなバギーだから作業は楽だった。最後に岩を並べ、穴を塞ぐ。一通り作業を終え、一行は山道を駆けだす。追加でバックパックにくくりつけた荷物の重量は予想以上で、セラがカナタに警告する。
「重いっ‥‥この速さだとこっちもそんなに長くは走れないわよ!」
「残り50㎞くらいある。せめて25㎞は進みたい」
「25?スーツは大丈夫だけど、そっちは?」
「走れる!」
ドスドスと走るカナタに、守り人が並走して声をかけてきた。
『この山を下りた先に、森があります。その森の中に我々の住処の一つだった洞窟があります。そこなら隠れられます』
「君たちの足でどれくらいかかるかな!」
『目いっぱい急いで、王の時間で2時間です。今くらいの速さです!』
「このペースで2時間!? スーツ着用限界ギリギリ!戦闘したし!」
「でもほかに場所ない! そこまで向かう!守り人さん!蟲が来ないかちゃんと見張っててよ!」
『わかりました。セラ、疲れたらどうぞのってください』
「え‥‥」
バイオスーツと装備ですでに200㎏近い重量がある。ずんずんと重たい足跡を響かせているのが聞こえていない訳ない。頭のいい彼らならセラがかなり重いのもわかっているだろう。それでも乗れと言ってきてる。セラは一瞬ためらったが、提案を受けた。
「頼む!」
傍らに寄ってきた大きな個体に飛び乗る。バックパックに追加の荷物を括り付けているので重いうえに重心が高い。しかし、守り人は一瞬よろめいただけですぐさま安定して駆けだす。すごい力だ。
『王も乗ってください!我々は交代しながらいけますので!』
「ありがとう!そうさせてもらうよ!」
カナタはすんなり提案を受けて守り人にまたがる。こうやって乗るのも彼女は2度目だ。慣れた様子でシカにまたがっている。
連携しながら進むことを自然に提案してくる。彼らのその姿に見合わない知能の高さと知識にセラは興味をひかれたが、装備の大半を失ったショックで、今はゆっくり考えていられない。
カナタを乗せたもう一頭の守り人が、並走して寄ってくる。カナタは、周りを見渡して駆ける守り人たちに声をかけていた。
「無理しないでください!私たちも走れるから!」
『ええ!』
風がスーツの頬を撫でる。バギーよりも格段にペースが上がった。三つ目のシカにまたがったライオン達は緩やかな岩山を跳ねるように進んでいった。
[newpage]
[chapter:守り人たちの洞窟 残り20㎞]
守り人たちのいう隠れ家は、カルデラのゲートから川沿いに進んだ方向にあった。まばらに森林と草原が入り混じって広がる平野に、ぽつんぽつんと取り残されたように30m級の低い山があったのだが、その一つのふもとだった。カルデラ外輪山の外に出たので、ここからはドローン母艦から直接見られる危険も出てくる。特に草原に出たときは遮るものがなく危険だ。ただ、この隠れ家までは森が途切れずに外輪山から続いていたので、比較的楽に移動できた。
ただ、あくまで比較的である。バギーの最高速度でまっすぐ走れば1時間以内でたどり着ける距離だが、木々がまばらな場所を通る時や、上空を飛んでゆくドローンを察知するたびに、移動のペースは落ちた。さらにはさっきの不意打ちのようなムカデ型が潜んでいるポイントもあり、遠回りや、ジャミングをかけての時間のかかる戦闘を行ったために結局隠れ家にたどり着いたのは日没間際だった。
今、目の前には小さな洞窟が見えている。藪に伏せたカナタが、小さくつぶやいた。
「‥‥配置についたかな」
「守り人4頭、隠れ家20m四方に移動完了。洞窟内部に熱源反応2。クモ」
セラがモニターの内容を読み上げる。カナタは頷くと合図を出した。
「ジャミング開始」
『はい』
「GO!」
薄暗い森の中で守り人の角がわずかに光を帯び、電波通信妨害を掛ける。カナタとセラはナイフとプラズマアックスを手に洞窟へと突撃した。
「正面!カナタ!」
「っがああああああああ!」
暗闇から槍が飛んでくるのを、体をよじって避けたカナタはペースを落とすことなく暗闇へ向かって突入する。
「うおおおおお!」
ライオンの黄色い目を光らせ、斧を真横に降りぬく。
「おおおっ!」
クモにヒットする瞬間、カナタは目を閉じる。刹那、プラズマの光刃が発生し、まばゆい光とともにクモを両断する!
暗闇で発生した圧倒的な光は後ろにいたクモの暗視カメラを焼いた。
強烈な焼き付きが起こったか、頭部を振って困惑したような動きで後ずさる2台目。カナタが吠える。
「セラ!」
「ふっ!」
カナタの後ろからライオンスーツ姿のセラがとびかかり、高周波スタンナイフを2台目の頭部に突き立てる!
「おらあぁああああ!」
セラの咆哮とともに繰り出された、バイオスーツのパワーと重量を掛けた一撃。強烈なそれは一発でクモの頭部を貫通した。
「トリガー!」
セラはすかさず電撃を喰らわせる。一瞬青白い光が走ったあとで、クモは2台とも地面に崩れ落ちた。
「ジャミング終了!」
セラが吠える。ほどなくして電波かく乱中の表示がセラのヘルメットモニターから消える。ジャミングも出しっぱなしだとそれ自体の電波を察知、逆探知されるので使いすぎはよくない。
モニター端に表示されている「スーツ活動限界」の表示を無視しながら、セラは守り人に尋ねる。
「敵は? まだいる?」
『あたりに蟲の気配はしません』
「了解。ありがとう」
クモの残骸に残る通信ユニットを、ナイフで念入りに破壊しているセラの後ろで、不意にカナタが大きなため息をついた。
「っふうう‥‥」
そのまま、洞窟の床に座り込み、鎧を着た獣人はうなだれていた。
「カナタ、大丈夫?」
セラがナイフ片手にどすどすと駆け寄る。カナタはあごの先から汗を滴らせて、牙を剥いていた。全身から、もわっ、と湯気が立っている。
「さすがに、疲れたね‥‥何度も戦闘したし」
「生身でよくやるわよ」
「そうだよー。よくやってるんだよー」
「‥‥」
カナタが笑う。一応強化服を着ているセラと違って、カナタはアーマーを着込んだだけの生身の姿なのだ。それでムカデの急襲からここに至るまでずっと、守り人たちにのって駆け、クモやムカデを何匹も斃しながら数十キロ移動してきた。しかも銃器を使わずにすべて格闘戦で。それを疲れたの一言だけで済ますのだ。
2人の状況はだいぶ悪かった。
装備は損耗していた。プラズマライフルは一丁のみ。セラの手持ちは山を下ってからの戦闘で破損した。ライフルやプラズマアックス、バイオスーツなどの装備を稼働させる予備のエネルギーパックは残り3個。プラズマライフルの30連射で1つ消耗する。つまり90発しか撃てない。この先、ドローンはもっと居る。もう大規模戦闘はできない。
バギーから拾い出した装備はもうちょっとあったのだが、手持ちできる量には限界があり、可能な限りスムーズに移動するため、ここまでの戦闘で節約せずに使用してきたのだ。
食料も数は限られている。二人のバックパックの中を分配しても、あと2~3日分だった。不運なことにつぶされたバギーの方に多めに積んでいたので、回収不能になったものが多くあったのだ。2人が出発してからまだ2日目である。いとかけの修理完了まであと5日あるのだ。移動は比較的順調に進んでいるので、残りの距離的には食料がなくなる前に母艦にたどり着けるだろうが、もし予定通り奇襲に成功しても、その後いとかけが来るまで2人はほぼ丸腰で逃げ延びなければならない。いとかけが迎えに来るまでの期間を考えると、武器も食料もまったく足りなかった。そもそもこの洞窟から出ていけるかどうかすらわからないありさまなのだ。もしここを囲まれたら、突破して逃げるだけでおそらく武装の大半を使い切る。
けど、だからといって囲まれにくい場所は無い。目標までのあいだでまともに休息できそうな場所はここしかない。
二人とも口には出さなかったが、最悪の展開になりうる状況であることは、既に強く認識していた。
水を飲む獣人に、セラはぽつりとつぶやく。
「‥‥死なないでよ」
「なにいってんのさ。大丈夫ありがとう。みんなもこっちで休んで」
『はい』
守り人に洞窟に入るよう伝え、カナタはバックパックを下ろす。
正直不安でしょうがない。しかし、食べないことには動けない。カナタは特に。
「早く食事にしよう。お腹が減ったよ」
「うん‥‥スーツ解除」
セラの音声パスでライオンの強化服が弛緩する。背中がぱっくり割れて、タイトなライトグリーンのスーツが現れる。中に簡易宇宙服を重ね着しているから、これのヘルメットを脱がないと食事ができない。
首元に手を当てると、キュン、と音を立ててメットの結合部が緩む。かぼっ、とセラは丸一日着こんでいたメットをとった。
「うっ‥‥」
頬の獣毛から、涎と汗の匂いが広がる。一日走って、叫んで、その間ヘルメットをかぶりっぱなしだったのだ。口周りはべたべたでひどい状態だった。バイオスーツの潤滑液で濡れた手のひらで、かまわずにぐいぐいとふき取る。毛皮に染み込んでいた、くさい液体がだらだらと絞り出されてきた。
「‥‥」
しかめっつらをしながら、宇宙服の首元にあるヘルメットのアダプターを前後に広げ、首からゆっくりとタイトな宇宙服を脱いでいく。背中が割れておらず、伸縮性があるので緩んだ首元から脱ぎ着する。
するするとスーツを脱ぎ切ったセラだったが、むわっと立ち上る自分の汗の匂いに顔をしかめた。
「うわっ」
つぶやくセラを、食料パックを引っ張り出していたカナタがじっと見つめていた。
「‥‥ふうん」
「なに?」
「体は昨日とほとんど変わってないね」
「‥‥そうね」
カナタのいう通り、伸びた獣毛も、中途半端に変わりかけた鼻もそのままだった。カナタの見ている前で、セラは宇宙服を全部脱いでしまう。汗が染み込んだ獣毛から、湯気が立っている。カナタが鼻をひくつかせて笑った。
「だいたーん」
「カナタも似たようなものでしょ」
「まあ‥‥早く乾かした方がいいよ。体冷えちゃうから」
「うん」
セラはバックパックからタオルを一枚引っ張り出し、それで体を拭き始めた。簡易宇宙服の中でかいた汗はほとんど外に排出されない。ある程度は生命維持装置に回収されるが、大量の汗をかいているのでスーツの中にあふれているのだ。そしてエネルギーパックがなくなればその機能すら動かなくなる。不安感を一緒に拭い去ろうとするかのように、乱暴にタオルを絞りながら無造作に体を吹くセラ。その横で、携帯食料のパックを二人分用意したカナタが、片方をセラへ差し出した。
「はい。おわったら食べて」
「ん‥‥」
大きさ10㎝角ほどのサイコロの形をしたパックの中身は、成形肉と圧縮されたパン。食パンをつぶして固めたような“パン”と、角切り肉が混ぜられた成形肉のセット。肉は塩気が効いていて疲れた時においしいと評判だ。どちらも栄養が添加されていて体積の割にはカロリーがある。
しかし、このパック一つだけではカナタにはどうも足りないようで、昨日も1パック食べた後で、まだ食べたそうにしていた。彼女は人間よりもよく動く体で、生身でドローンと戦闘をこなしているのだ。ふつうの人間よりずっと消費カロリーが多いはずである。今日もすでに涎を口から溢れさせ、ギラギラした目つきで開封したパックを見ていた。
パックを両手で持ったカナタが、体を拭くセラに小さい声で尋ねてきた。
「先に食べてていいかな。この体、かなりお腹すいちゃってさ」
「うわ。すっごいよだれ。いいわよ、気にしなくて」
カナタがはっとした顔で口元をぬぐう。そしてちょっとふざけて笑った。
「‥‥ヨシって言って」
「なにそれ」
セラが聞き返したら、カナタは両手を地面につけて、こちらを見ながら首を傾げた。舌をちょっと出して。
お行儀のいいサーカスのライオンみたいだった。
「がう」
笑わせようとしてくれているのだ。カナタは。
いつもだったらふざけないでと怒っていただろう。しかし、これからどうなるかで気持ちが落ち込んでいたセラには、相方の素朴な子供っぽいおふざけが効いた。ちょっとだけ気持ちが和らいだ気がした。
「‥‥ヨシ」
「がう」
いうが早いが、黒い鬣を振り乱しながらカナタは猛然と食べ始めた。先述したが人間以上のパワーを出す肉食獣の体だ。どれだけカロリーを消費するのか。パイロットなので食事を制限するサバイバル訓練も受けているだろうが、それでもがっつくほどお腹がすいていたのだ。セラは手元の食料パックを見る。明らかにカナタの体では足りていないはずである。
あっというまに自分の分を食べたカナタは、べろんと大きな舌で口の周りを何度も舐めていた。
まだ食べたそうだ。でかい腹ペコのワンちゃんに、セラは笑って話しかけた。
「もういっこ、食べる?」
「‥‥」
少し迷ったカナタだったが、こくりと頷くと、バックパックに手をかけた。セラはタオルを絞りながら笑う。
「私の食べて。もう一個出して準備するの待ちきれないでしょ」
「‥‥ごめんっ」
そういうと、カナタはセラの食料パックを受け取り、また猛然と食べ始める。牙を剥いてがふがふと食べるさまはまさしく肉食獣だった。本来なら獲物を狩るための勇ましい姿だが、このあたりには守り人くらいしかいない。
(‥‥いざとなれば彼らを狩れるかな)
体を拭きながらふと頭をよぎった考えを、いやいやと頭を振って追いやる。曲がりなりにも知的生命体で、こちらの協力者である。
(何考えてんだ私)
毛皮はようやく乾いてきた。タオルを首にかけ、セラはそのままの姿でカナタの隣に胡坐をかいて座る。重たいパンの最後の一口を水で流し込んだカナタが、新しく出した食料パックを差し出してきた。
なんとか満足したようである。
「はやく、たべて」
「うん」
セラも成形肉のブロックを鷲掴みにして、かじりつく。普段はパックから少しずつ押し出して食べるのだが、それでは一口が小さくて、セラは包装をすべてむいた。手に脂肪分がついてぬめるのも構わず、塩気のある成形肉をむさぼる。
「おいしい?」
「うん」
咀嚼しながらカナタに返事をし、そのまま圧縮パンにかじりつく。ふつうに焼いたパンを押しつぶして固めたような重くて湿った炭水化物の塊。けど味がしっかりしてて、塩気のある成形肉と一緒に食べるとめちゃくちゃ合う。圧縮してるので、かむと口の中でほぐれて膨らむし、さらにモチも混ぜてあるからかなり腹持ちがする。
それをカナタは二つも貪り食ったのだ。よっぽどお腹がすいていたらしい。
セラも正直、もうちょっと食べられそうな感じはしたが、あとは付属のチョコバーでごまかせそうである。袋をたたみ、小さくつぶやいた。
「ごちそうさまでした」
いずれ自分もこんな食べかたになるのかなと、同封の水パックを啜る。そうなる時が来るかどうか、その前にドローンに斃されてしまうかもしれないのに、そんなことを考える。
カナタは水を飲み終わると、胡坐をかいたままうつむいた。汗と皮脂でごわごわのくしゃくしゃになった獣臭いプラチナブロンドが、頬にかかる。
「ごめん。作戦、あまかった。たった2日で破綻するなんて‥‥」
「そんな、破綻までは」
「バイオスーツはもう使えない。活動限界がきちゃった。エネルギーパックはあるけど、リキッドがない」
有機人工筋肉のスーツだから、センサーや制御機器を駆動する動力以外に専用の栄養カセットも要る。装着者から回収する有機物だけでは足りないのだ。その消費は激しい運用をされるほど多くなる。いとかけから出撃して二日、特に今日はほぼ一日中フルパワーでの運用をされていたので消耗も激しかったのだ。予備のリキッドは全て壊れたバギーに積まれていた。動かなくなれば、バイオスーツはただの重たくて獣臭い着ぐるみである。
脱いだスーツを睨むセラの肩を、カナタが頑丈な獣の手で優しく抱く。
「セラのせいじゃない。もともと準備の時間も足りなかったし、ムカデの不意打ちがあるのに離れた‥‥そもそも尻尾振って見つかった私が悪いから」
「そんな風に言わないで」
「ハカセも、セラの案が、一番可能性が高いって言ってたでしょ。大丈夫だよ。今でもそう思う」
「根拠は」
そういわれて、カナタは毛むくじゃらの顎を撫でて、ぽつりとつぶやいた。
「‥‥あいのちから」
「はあ!?」
とてもまじめとは思えない言葉に目を剥くセラに、カナタは微笑みながら言葉を続ける。
「セラには言ってなかったけどさ、いとかけを出発する前から、夢を見てるんだよね。セラと、ふたり、いや、何人かの子供と暮らしてる夢」
「なによそれ」
「守り人の祝詞にもあったでしょ。王の歌、いやさかにって」
――いやさかに‥‥栄えてください。確かに繁殖するならその意味通りになるが。
「それだけで?」
「彼らの願いはかなうんだよ。そうでしょ」
「‥‥」
“みんな、死にません。そう願いましたから”
守り人はそう、言っていた。彼らには願ったことを叶える能力がある。それを前提にするならばカナタの言う通りかもしれない。でもどうしたらそうできるのか、わからない。
「‥‥」
「ん?なに?」
ふと顔を上げたら、カナタがとなりに寄ってきていた。肩が触れ合うほど近い。成形肉の最後のひとかけらを咀嚼し、飲み込む。カナタは、その動きをじっと見つめていた。‥‥こそばゆい。
「なによ」
「‥‥ねえ、セラ」
カナタは、ゆっくりとセラの肩に手を回す。そしてそっと抱き寄せると、すうっ、とうなじの臭いを嗅いだ。ぎょっとして思わず首をすくめてしまう。
「ちょっと、こんなとこでサカらないでよ」
「いや、だって」
「ドローン来たらどうすんのよ。あのさ、ピンチなんだけど私達、ちょっと」
「守り人が見張ってくれてる。‥‥ダイジョブ」
ふと顔を上げると、守り人たちがいなかった。洞窟の外に出たらしい。気を遣われたようだ。
「ダイジョブって、そんな、適当なことっ」
「セラの匂いが、なんか、すごい変わってるっ‥‥すごい、獣のにおいっ」
「そ、そんなに匂わないでしょ」
「‥‥ねえセラ。私の匂い、わかる?」
「え?いつも通り獣臭いけど」
「セラの匂いは?自分で感じる?」
「くさい。いやになるほどくさい。‥‥んっ、つんとくるし」
獣の毛が生えた腕の臭いを嗅ぎ、セラが苦笑する。カナタはじっとその様子を見ていたが、ふと右手をごそごそやると、セラの顔の前に出してきた。セラは思わず獣化しかけの鼻をうごめかして臭いを嗅いでしまう。
「なに‥‥うわ、くさっ!」
「わかる?」
「あんたのワキの匂いでしょ?なに嗅がせてんのよバカ!」
「ちょっといい匂いだと思わない?」
「はあ?」
いきなり何を言い出すのかこいつはと思ったセラだったが、言われて気が付いた。
初夜の後、寝ていたところをニオイで起こされるほど強烈だったはずのカナタの脇臭だったが、今嗅ぐと、割と平気なのだ。とてもくさいのには変わりないが。
「いい匂いじゃないけど‥‥あんまりくさくない。くさいけど」
「私の時もそうだった。まず毛が生えて、匂いが変わって、だんだん臭くなくなって」
「‥‥進行してるってことね」
「うん。‥‥明日は宇宙服を着ない方がいいかもしれない。頭部の形が変わったらヘルメット脱げなくなるし」
セラの匂いをうっとりと嗅いだり、いきなり臭いを嗅がせてきたりと発情しているような様を見せていたカナタだったが、実際考えていたことはかなり真面目だったようだ。確かに頭の形が変わったらヘルメットを壊さないと脱げなくなるし、それ以前に今の頭の形にフィットしたサイズだから、少しでも形が変わっちゃったら頭が締め付けられて大変なことになる。
体が変わっていく様を改めて認識させられて、セラはさみしそうにつぶやいた。
「もうすぐこの体ともお別れなのね。もう人肌なんて見えないけど」
「セラは、わたしとはちょっと違うかもね。私の時は、しょっちゅう夢を見てたんだ」
「夢?」
「今の姿にだんだん変身していく夢。体の変化が起こるにつれて、どんどん鮮明になっていった。多分守り人さんたちが教えてくれてたんだと思うけど」
「そういうのは、私見てないわね」
「でも、セラはだんだんライオンになってきてるよ」
「そう?」
「‥‥少なくとも私の知ってるセラは、全裸で胡坐かいて肉をむさぼったりしないよ」
「え」
「口調もちょっと野性的になってきてるし」
いわれて初めて、セラは宇宙服を脱いだままの姿で、乳房や陰部をさらけ出して食事をしていたことに気が付いた。獣毛が伸びていて寒くはないし、体を乾かさなければならないとはいえだ。はっとして股間を見れば、伸びた陰毛の間で、カナタに耕されたアソコが少し口を開いてねらねら光っていた。
セラはパタパタ焦りながら、胡坐をかいたままカナタの鼻を突っつく。
「何見てたのよ」
「ほら、言われても隠さないじゃん」
「え」
ライオンがしかめ面をしていた。元のカナタの面影が残る目元に、切なそうにしわが寄っていた。
「もうだめ、そういうの‥‥」
「ちょっ」
「野性的ですっごいえっち」
「っちょ、カナタっ‥‥!」
「ん」
カナタはそういうと、肉のカスを口周りにつけたままライオンの唇でセラにキスをしてきた。肉の味とカナタの匂いが鼻の中でまじりあった臭気。甘い匂いに変わるそれに、思わず舌を伸ばしてしまう。
「むうう」
「んんっ‥‥」
カナタは、セラの手を取ると、そのまま下へとおろしていく。セラの指が、開いていた陰部にそっと重ねられた。
「むううう!」
「‥‥敏感なのに、出してちゃだめだよ」
カナタは、ごついライオンの手を、まだ細さの残るセラの手に重ねて上から押し、セラの手でセラを犯していた。大きな肉球に押されて、指を強制的に粘膜の上でスライドさせられて、セラが体を震わせる。
「ちょ、こんなときに、状況がっ、うあっ、ああ」
「嗅いで」
肩に回した腕を上げて、腋毛をセラの顔に押し付けて、カナタが自分の脇の匂いを嗅がせてくる。黒い剛毛の奥から漂うそれは、汗と体臭とフェロモンが濃縮されていて、鼻の奥をぎゅっと絞るような強い刺激臭になっていた。でも、それを嗅がされると、臭いはずなのに、股間がぎゅうと締まってくる。昨日のオナニーで臭気と快楽の刷り込みはされている。
「はあ、あ」
「どう」
「くさい、すっごい、くさいのに、なんでぇ‥‥」
「昨日、自分でしてたでしょ。自分の匂いで」
「!!!!」
昨日、自分の臭気を嗅ぎながらさんざん自慰をした。けどなんでそれを。
「ライオンの耳をなめちゃこまるよ‥‥全部聞こえてたよ。セラの身じろぎ、うめき声」
「そんあ、あうっ」
「テントからすごいエッチな匂いもしてた」
「いわ、ないでぇ‥‥」
「手っ取り早く済ませるよ」
ぐっ、体を引き寄せられ、持ち上げられて、ぐるりと向きを変えられながらカナタが自分の上にセラを乗せる。カナタの腹の上に乗ったセラの目の前に、はち切れんばかりに短パンの布地を押し上げられたカナタの股間があった。
「ちょっ、かな、はあうううっ!」
戸惑うセラにかまわず、ライオンの大きな舌がセラの敏感な股間を舐め上げた。
「なめて。私のズボン脱がして」
「そんな、いきな、はうううっ!」
「はやく、寝なきゃだし、さっくりするよ」
セラが反応する前に、問答無用でセラのおまんこを熱い舌がねろねろ這いまわった。
「はうううううっ!しゃ、しゃべりながらっ、ああっ、つよすぎっ!いきな、くり、なめないでっ!」
悲鳴を上げるセラだったが、身じろぎした瞬間にカナタの股間に鼻先を突っ込んでしまう。ズボンの布地一枚向こうにある、熱い塊。一日カナタの股間に密着していて、散々匂いを染み込ませられた布はフェロモンの塊だ。おもわず、鼻を鳴らしてそれの臭いを嗅いでしまう。
「んんっ‥‥っは、う、うぐっ」
「うわ、ぎゅって締まった」
「くさ、すぎるから、あんたの、ここ‥‥」
「セラのおまんこだってなかなかだよ‥‥昨日ひとりでしてからそのまんまだったでしょ」
「いうなぁ‥‥あひっ、舌、舌早いっ‥‥ひいいっ」
舐められ悶えながら思い出す。さっき体を拭いているときに、自分で気がついてはいた。強い性臭が股間からむわりと立ち上っているのを。改めて言われてこんな風にべちゃべちゃ舐められて恥ずかしくてどうにかなりそうだ。
「ああっ、あうううっ!」
「ふふふ。セラもケダモノになってきたねぇ‥‥む、むぐ」
「し、したじょぼじょぼしないでえ‥‥」
「はやくセラもなめて」
「うううっ」
赤い舌をつきこまれ、セラが毛むくじゃらの腰を振って悶える。目の前のフェロモンの塊はまだ布の中だ。前を開こうとするが、指が震えてうまくチャックが下せない。
「もう‥‥」
業を煮やしたカナタが、ベルトを持って一気に自分でズボンを脱いだ。ぶるんっ!と目の前に熱い肉棒が立ち上がる。セラには、それの纏う臭気が目に見えるような気がした。
「ぐ、ふぐっ‥‥かなた、くさいよぉ‥‥」
「ほら、なめて」
「んん‥‥っ」
熱に浮かされたように、とろけた目でセラはそれを咥えこんだ。塩味に強烈なフェロモン。鼻の奥が締まり、脳天からお尻まで脊髄を快感が駆け抜けていく。熱いそれが、胸の穴を埋めた。
「あれっ。私の舐めただけでイッた?」
「っぐ、う」
ぶるぶると震えて喋れないセラ。カナタの剛毛に半ば顔をうずめながら、すーはーすーはーとフェロモンたっぷりの臭気を嗅いでいる。舌が時折動くが、ちんこの臭気に酔ってしまって、まともに思考できていないから、ただ咥えているのとほとんど変わらない。
察したカナタは、そっとセラの体を持ち上げる。ぬぽっ、と粘つく唾液の糸が肉棒とセラの唇をつないだ。カナタはまるでピザ生地のように体の上でまたくるりとセラの姿勢を変えると、セラの腰を持ち上げて、騎乗位の姿勢でセラを串刺しにした。
「はああううううっ!」
鼻にかかった喘ぎ声。しとどに濡れていたそこは、極太の肉棒を難なく飲み込む。セラはうっとりと目を閉じて、毛むくじゃらになった体を震わせた。その震えに合わせてぎゅうぎゅうと締まる蜜壺。カナタが、くはっ、とあえぐ。
「うごく、よ」
「まって‥‥」
カナタを制止したセラが、地面を踏ん張り、腰を上げる。そして自分で落とした。
「んんんっ!」
「あっ!」
「わ、わたし、うごくっ‥‥! わたしがうごくっ‥‥!」
ぶるぶると震えているが、セラはもう一度腰を持ち上げて、重力に任す。じゅぶぶ、じゅぶぶ、と水音がリズムを刻む。匂いのきつい愛液があふれ、2人の陰毛に染み込んでいく。
「っは、ああっ、いいっ、これ、いいっ、カナタっ」
ぐっぽぐっぽと腰を振る。昨日感じていたどうしようもない淋しさ。それが、カナタのを入れてると、ぴったり穴にそれがハマる気がして。寂しくて空いた穴。今までの人間としての自分が抜け落ちた穴を埋める。これからの自分を、今までと変わらずに見てくれる相手。愛してくれる相手。カナタ。
「っせ、せらっ、すご、いきおいっ」
「はっ、あっ、あっっ!」
くさいのなんか関係ない。あれは、人間相手の話だ。臭いけどいい匂いだ。今の自分にとっては、とても大事な匂いだ。体を揺らすたびに、自分の毛皮から獣の匂いが噴き出す。汗のにおいと混じってつんと来るそれが、昨日までは嗅ぐと切なくなっていたその臭いが、いまはとてもいとおしい。カナタとセラが、同じになる。人間だった自分はいなくなる。カナタと同じ獣人として、カナタのように吠えて、走って、力をふるうのだ。異形の存在になる自分を、カナタは受け入れてくれる。だいたい、そうなるようにしたのはカナタなのだ。責任はちゃんととってもらうのだ。
「はあっ!」
あごの先から汗のしずくを飛ばして、セラはカナタの上で腰を振る。
うれしい。うれしいうれしいうれしい!
もう、どうでもいい。どうにでもなる。作戦も、いとかけも、ハカセも、地球も、どうなったっていい。
――わたしにはカナタがいる!わたしもカナタといっしょになれる!つよくてくさくてたくましい、ライオンに!
気が付けば、セラは絶叫していた。
「だしてっ、カナタ! だしてっ! カナタの、カナタのせーえきで、わたしを、わたしを人間じゃなくして!」
「セラ」
「一緒になりたい!カナタと、カナタと一緒になりたい!気持ちよくして!私を変えて、カナタぁ!」
「‥‥おう」
ずんっ。
「はううっ!」
カナタが下からセラを突き上げる。胎の奥にずううん、と深く重い突きが入り、セラの体が痙攣する。
「――っは、あうっ」
ざわざわと、肌がうごめく感覚。――発作が来た。
「ふんっ!」
「あああっ!」
まだ息を整えていないというのに、次の突き上げが来た。
ざわわ、とまた皮膚がうごめいている。爪が、伸び始めている。発作が来た。獣化する。ケダモノになる、人間じゃなくなる!胸に穴が開く。さみしくて大きな穴が。
でも、あそこに咥えたカナタの熱い滾りが、すぐさま穴を埋めてくれている。カナタが、さみしさを打ち消してくれる。
「はああ!ああっ!カナタ、カナたぁっ!」
セラは嬉し涙を流し、叫ぶ。
めりめりと耳が形を変えていく。毛が生えそろい、大きく広がる。
頬の皮膚がすこし膨らみ、すん、と白いひげが生えてきた。
鼻梁がぐいぐいと前にせり出し、黒変していた鼻先が今度こそ形を変える。
真ん中で深く切れ込み、ネコ科の鼻先に変貌していく。
瞳が縦に割れ、獣の瞳へとかわってゆく。
白いプラチナブロンドの中から黒い縮れ毛が湧き出し、白黒交じりのたてがみへと変わっていく。
その顔を、頬を嬉しそうに両手で押さえ、セラは鳴く。
「かわる!わたし、かわってる!はは、はははは!でも、でも、さみしくないのぉっ!」
ずんずんずんと下から強い突き上げを喰らい、そのたびに胎が甘く震え、獣毛が伸びていく。ただ獣毛を纏っただけだった体がざわつき、ミシミシと音がする。
骨格が変化している。人間の体が、獣の体に変わってゆく。
今までのように、毛をまとった仮装のような変化ではない。肉体そのものが作り替えられていく。
体中が熱い。筋肉がすごい勢いで成長している。余分な脂が、獣の油になって臭腺から流れ出してゆく。
「っはぁ、ああー、あー」
どんどん獣の匂いが濃くなる。めりめりと肉が膨らむ。脇の下や股間にも、黒い毛が湧きだす。
そして白みがかった黄土色の体毛は、少しだけ濃い色に変わりつつある。嗅覚が、視覚が、肉食獣のものに変わっていく。舌先に触れる犬歯が、鋭く伸びてきた。お尻が、むずがゆい。ぐぐぐ、ぐぐぐぐと何かが突っ張っている。
――尻尾だ!尻尾が生えてきている!
「かな、だ、いい、いいよぉっ、かわってる、私どんどん変わってるぅ!」
「せらっ、せらあっ!」
「だしてっ、いっぱいだしてっ!わたしを、わだしをけだものにしでええええ!」
「ぐうううっ!」
ごぼぼぼぼっ!
「があああっ!」
鼻にかかった喘ぎは歓喜の咆哮に変わる。
牙が生え、耳は獣毛に覆われ、プラチナ色の白髪がわずかに混じる黒いたてがみ。乳房も獣毛に覆われ、お尻からは、揺れる尻尾が伸びている。
全身から汗と獣臭を立ち昇らせ、生まれたてのライオンが、ぶるぶるっ、と体を震わせる。結合部からは黄身がかった精液が流れ出し、2頭のライオンの毛皮に、ねっとりと染み込んでいった。
「っは、あああっ、はぁっ!」
「変わった、ね」
荒く息をつくセラに、カナタがほほ笑みかける。しかし、白みがかった獣人は、前かがみになると、腰を上げて極太を抜き、愛液と精液でねとねとに汚れ激臭を放つそれに、同じく激臭の陰部を擦り付け始める。
「まだ、まだなのっ、ここ、ここむずむずするっ‥‥おまんこ、むずむずしてっ、クリ、クリが、気持ちよくて痛いっ‥‥!」
「せら、ああ、ああっ‥‥」
精液愛液をローション代わりにした獣人の素股責めに、カナタがうっとりとあえぐ。セラは、あごや乳頭の先から汗のしずくを飛ばし、一心不乱に、真っ赤な陰部をぐちゃぐちゃとカナタの肉棒に擦り続ける。
「っはあ、はあっ、くり、クリ痛い、きもちいい、ああ、あああ、ばくはつ、ばくはつするうううう!」
「セラ!」
ぐぐぐ、とこすりつけられる陰部で何かが膨らんでいく。めきめきと腫れ上がり、天に向かって伸びあがる。
「ああ、あああっ、んうああああああっ!!」
「!」
治部の陰茎を押しのけたそれを見て、思わず息を飲むカナタ。セラは、縦に割れた黄色い瞳をとろけさせ、その、自分の股間に生えたいやらしい肉棒を、涎を垂らして見つめていた。
カナタと同じように獣毛のさやに覆われ発達した、陰核ベースの陰茎だ。セラもついに、普通の女性ではなくなったのだ。
「っは、ああ、ああ、はえ、ちゃったぁ‥‥」
「‥‥ふふふ。せらも、おんなじだ」
ぎゅ!
「ひいいいい!」
ほほ笑んだカナタが、肉棒を掴んで、自分の肉棒にこすりつける。亀頭同士を擦り合わせる。兜合わせだ。セラの肉棒はまだ獣毛の包皮が剥け切っていない。
「あ、ひっ、びんかん、まだ、それ、はえたばっかり」
「使えるようにしてあげる」
カナタはにちゃにちゃと精液を擦り付けて滑りをよくしながら、セラの生えたてちんぽをやさしく握り、皮をほぐしていく。
「きもちいい?はじめてのちんぽ」
「いい‥‥すっごい、これ、きもちいい‥‥っ!あたま、あたまにずーんてくるうっ」
「舐めてあげようか」
「うん、うんっ!なめてえ!あたしの、あたしのちんぽなめてええ!」
セラは涙声でおねだりする。カナタはセラの腰を持ち上げて体の上から降ろすと、ゆっくりと洞窟の床にセラを寝かす。股間の剛毛を割り開いてそそり立つ、セラのふたなりペニス。カナタよりは少しサイズが小さいが、人間の標準的な陰茎と比べたら一回り大きい。手を緩やかに広げて地面に横たわるセラの股間に、カナタはフガフガと鼻を鳴らしながら顔を近づけていく。向けていない包皮の端、少しだけ、恥垢が覗いている。急激に発達した陰核と包皮が出した、大量の恥垢が。
「セラ、どんな匂いか、ききたい?」
「ええ‥‥? ねえ、くさい‥‥?」
「すっごいくさい。セラのチンカス、チーズみたいな匂いしてる‥‥」
「えへ? へっへへ、どうだぁ‥‥くっさいでしょぉ‥‥わたし、はうっ、わたしもっ、カナタに舐めさせられて、気絶するかと思ったんだぞ‥‥」
へへへっ、と舌を出して笑いながら、セラはカナタの鼻先で、生えたばかりのちんぽを振る。あふれた精液をドロドロ垂れ流すおマンコと一緒に、みせびらかすように、
カナタはうっとりとした顔で、それを嗅いでいた。
「ざんねん。わたしにとっちゃ、いいにおい‥‥んっ」
赤くて大きな舌が、べろん、と先に顔を出している亀頭を舐める。びくっ、とセラがおっぱいを揺らして震えた。
「ふぁうっ!」
「剥くよ‥‥」
獣の手が、そっと包皮に添えられる。併せてカナタは、亀頭を上からすっぽり咥えこんだ。そして、ゆっくりと手を下におろし、少しずつ包皮を剥いていく。転がり出てきた激臭チンカスをなめとり、唾液をまぶしながら。
「っむ、ううっ」
「はあああっ!べろべろって、した、べろべろされるの、いいいっ!ちんぽ、ちんぽきもちいいっ!んええ、ねえ、かなたっ、くさい??わたしの、わたしのちんぽ、くさいっ?! くさくて良いにおいでしょっ!」
生まれたての敏感粘膜をやさしくさわさわねろねろと刺激され、あまりの快感に、セラは思考もままならない。ろれつのまわらない口で、あられもない叫び声をあげる。カナタは、時折呻きながら、包皮を剥く手を止めない。べろべろといつまでも続く強烈な快感刺激が、セラの全身をけいれんさせる。
「ああ、きぼちいい、きぼちいいよおっ!かなだ、かなだがっ、わだ、わだしのっ、くっさいちんぽ、なめひぇるっ!うれしい!うれしいよおおお!」
「ん、っぐ‥‥」
ついに、包皮が一番下まで剥かれた。根元から亀頭裏まで、長くて大きいライオンの舌が包み込むように刺激する。そのたびに、セラは背中の獣毛をざわざわと逆立てて、尻尾を振る。
カナタは、そんなセラの様子を楽しんだ後で、もごもごと全体を舐めまわすと、獣の唇を器用にすぼめて、ゆっくりとしごき上げるように口を離す。
「かなた‥‥?」
「んむ」
そしてセラにのしかかると、チンカスをたっぷり含んだ唾液を、直接口づけしてセラに流し込む。
「んぐ?っむうううううううううう!」
「っふふふ」
激臭に悶えるセラ。口に入ってきたのは脳天に突き抜けるような刺激臭。チーズと表現されたそれの、思考を止めるような深い深い臭気が、ふたなり快感にどぶ漬けのセラをさらにぶっ壊しにかかる。これが自分の体から出た匂いとはとても信じられないような猛々しい獣臭。それが、セラの理性にとどめを刺す。
塗り替える。塗り替えられる。人の理性から、獣の理性に。
カナタが、自分の股間をセラの股間に押し付け、擦り始めた。セラの上から覆いかぶさり、ふたなりペニスの下に息づく、カナタのおんなを、ねらねらのそれを、磨き上げたばっかりのセラのまっかな肉棒にこすりつける。
にゅるにゅると粘膜でこすられる疑似性交の感覚に、セラの性感がどんどん高まっていく。
「んぐ、ううっ!ふうううっ!」
「むう‥‥」
赤いライオンの舌が、2人の口内でぬぼっ、ずぼっと濃厚チンカスを攪拌する。意識さえ吹っ飛びそうな臭気。それと一緒にもたらされるのは人間ではありえない、両性具有の雄器官によるしびれるような快感。そして、変貌していく体と心を埋める、カナタの匂い、そして体温。
セラの人間的な部分がどんどん吹っ飛ばされ、人外の快感とカナタの愛で塗り替えられていく。
「っぐ、ううう!うう!」
「むっは‥‥」
「かな、た」
激臭の湯気を口から漂わせて。カナタを見つめるセラが、融けた目で懇願する。
「かなた‥‥いれ、させて」
「セラ」
「いれさせて‥‥わたしの、わたしのちんちんもうがまんできないの‥‥カナタの、はじめて、ちょうだい‥‥?」
「いいよ」
カナタは優しく笑うと、セラの横に寝そべって仰向けになる。場所を入れ替えるように、セラはふらふらと体を起こすと、カナタの脚を持ちあげて、股間の前に入り込む。目の前には、雄々しく反り立ったカナタのくさいちんぽと、真っ赤な粘膜をきらきら光らせている、カナタの女があった。
ごくり、とセラが唾をのむ。ひくひく揺れる自分のちんこを、肉球が膨らんだ手で握り、そっとあてがう。
愛液まみれのそこに亀頭が触れたら、ちゅくっ、とキスみたいな音がした。
「い、くよ」
「うん」
自分が雄になるのは初めてだ。どきどきと大きく高鳴る胸を感じながら、セラは腰を前に突き出す。
「ふうっ!」
ぐっ、と亀頭が粘膜を割り開く。ぎゅっ、と押し返すような力を感じ、セラがもう少し腰に力を込めた。刹那。
ぐうっ、にゅっるううっ!
「っふあああああああ!」
「っぐっ」
突然抵抗がなくなり、まるで吸い込まれるかのように一気にセラの生えたてふたなりペニスがカナタの中に挿入された。熱くとろけるような感触がペニス全体を襲い、セラが喘ぎ叫ぶ。
カナタは、小さくこらえるような声を出した。
「っこ、れで、わたしも、セラといっしょ‥‥!」
二人の結合部から、つっ、と血液が流れ出た。カナタのそれは、激しい運動と肉体の変貌に耐え、まだそこにあった。
「かな、た」
「もしかしたら、蟲と戦ってる間に、擦り切れちゃったかなって、おもってたけど‥‥よかった」
激しい運動を続けすぎると、中でいつの間にか破れていることもあるという。運動どころではない激しさで戦闘をしてきたカナタは、その話を知っていたので安堵して口に出したが、セラにはそんな話はもう聞こえていなかった。
「あ、ふっ、うううっ」
「動きたい?」
「う、んっ」
破瓜に痙攣するカナタの膣はセラの敏感な生えたて肉棒を強烈な刺激で襲っていた。びくびくと震えながら、粘液をまとった無数の突起で全方向から刺激しているのだ。気持ちよくないわけがない。
「うごき、たいっ、うごきたいけどっ、血、まだ、でて」
「いいよ、うごいてっ、セラ!いいからっ!私に出して!」
「うっがああああ!」
「ぐ!」
赦しが出た瞬間、セラが猛烈な勢いで腰を振り始めた。さすがにまだ傷がいえておらず、ピリッとした刺激が走り、カナタが唇をかむ。セラは黒いたてがみをバフバフと揺らして、一生懸命腰を振る。涎と汗を振り飛ばし、全身から獣臭い湯気を上げて、一心不乱に子種をひりだそうと腰を振り続けた。
「はっはっ、はっ、はっ、はっ、はっ!」
「ああ、あっ、あ、あ、あ、あ、いい、いいよっ」
何も言わず、荒い息を吐いて腰を振り続ける。セラのちんぽが、ばきばきと張りを増した。射精する。
「だす、だっ、で、でるううぅ!」
「うんっ!」
「んんんんんん!」
びゅううううううう!
「あはっ!」
カナタの一番奥に、セラが射精する。びゅっ、びゅううっ、と何回かに分け、熱い粘液をぶちまけた。
「はあああ、あっ、で、でちゃったぁ‥‥せいえき、わたしから、でたぁ‥‥」
「へへへ、初中出し‥‥セラの‥‥」
「きもっち‥‥いい‥‥」
ぶるり、と体を震わせてセラがカナタに倒れこんでくる。しかし、カナタの股間にも熱くてかたい肉棒がそそり立っているので、柔らかい獣毛の生えたおなか同士でカナタのものを挟み込む格好になる。
「ん‥‥」
「せらぁ」
まだふくらみを残す、獣毛に覆われた胸を振れ合わせ、カナタはセラのおなかで、セラはカナタのおまんこで、抜かずにまた快感を高めていく。
セラの目の前に、とろんとしたカナタの目がある。毛むくじゃらのカナタの鼻が、ひくりとうごいた。伸びたマズル同士を、ツンと触れ合わせる。
股間の剛毛に染み込んだ精液と愛液をローション代わりに、ぬちゃぬちゃと腹同士をこすりあわせ、お互いの肉棒を昂らせていくバーバリライオン獣人達。洞窟の空気を猛々しい獣臭に染め上げ、最新兵器も理性もかなぐり捨てて野生動物のようなまぐわいを続ける。
「せらぁ‥‥気持ちいいよぉ‥‥すごいよぉ‥‥おまんこもちんちんもどうにかなりそうだよぉ‥‥」
「カナタ、エッチな音すごいのぉ‥‥んっ、脇の匂いっ、これもえっち‥‥くさくてぇ‥‥」
ずびーっ、と鼻を鳴らして、セラがカナタの脇剛毛の臭いを嗅ぐ。黄土色の体毛に、脇と股間から湧きだす黒い剛毛。胸元から首回りと頭部を覆う、黒いたてがみ。
汗と涎と皮脂、臭腺からの分泌物、そして精液と愛液にまみれ、空気が粘度すら持つかのようなすさまじい臭気を振りまく脇と股間の剛毛。を、躊躇なく嗅ぎ、脳をゆでられて喘ぐセラ。
「セラだって、口も、たてがみも、脇もくっさいよぉ‥‥」
カナタは、手を伸ばしてセラの脇に突っ込むと、剛毛の臭いをたっぷり指の獣毛に絡めて鼻先に運ぶ。そして、口を開いて牙を見せた。
フレーメン反応。獣と同じようにフェロモンを感じ取れるほどの肉体変貌をした証。
「くっさ」
「っは、あはははっ、ははは!」
臭がるカナタを見て、セラが笑う。銀毛交じりの黒剛毛と黄土色の体毛から、同じような臭気と涎を撒き散らして、生えたてのふたなりちんぽをカナタの獣マンコに突き立てながら。口からは、その生えたてちんぽを覆っていたチンカスの匂いを振りまいて。
カナタに生えたて激臭ちんぽを掃除してもらって、そのカスを唾液と一緒にキスで共有したのだ。二人の口からはまともに嗅げば卒倒するような淫靡な臭気が漂っている。
「っひ、ひひひ」
「かなたぁ‥‥んんっ」
超光速宇宙船のパイロットと航空機関士だった面影など微塵も感じられない、獣に堕ち切った姿。作戦も、残弾も、食料も、考えなければならないことをかなぐり捨てて、ふたりはケダモノのまぐわいに没頭する。
「カナタぁ‥‥ごめんねえ‥‥わたしも、らいおんになっちゃったのぉ‥‥」
「ううん。きれいなたてがみだよ‥‥きらきらしてる。うれしい。セラがお嫁さんで」
「あはっ!」
べろんっ、と生臭い舌でカナタの顔面を舐めるセラ。そうしたら、二人の間でカナタのちんぽがばきっと固くなった。
「でそう」
「だしてぇ‥‥」
セラがまた、カナタの耳を粘つく唾液でべしゃべしゃにしてゆく。そして柔らかいお腹の毛でカナタのちんぽを執拗にこすり上げる。
「いく、よおおお」
「えへ」
「っふうんんん!」
ぶびゅるびりぶちゅぶりぶりっ!
二人の濡れた腹部の間という空間で放たれた大量の精液は、空気を巻き込んで泡立ちながら獣毛の間に染み出してゆく。びくびくと震えるペニスの感触。それに悶えるセラの鼻に、大量の精液の青臭い匂いが充満する。
「あはあっ!」
ぼびょうるるるるるる!
「っふああああああああ!」
その毒々しく淫靡な臭いに中てられたセラが、体を震わせるといきなりカナタの中に射精する。びくびくっ、と体を震わせ、尻尾がたらりと地面に落ちる。
ふう、ふうう、と荒い息は果たしてどちらか。精液で接着された2頭の淫乱獣人が、立派なたてがみを振り乱してねちっこいキスを続ける。全身から湿っぽい湯気と臭気を噴き上げて、むさぼるように舌を絡める。
「ん、じゅ、おむうっ、かな‥‥た‥‥」
「んん。ちゅっ‥‥せらぁ‥‥」
「おなか、すいたわ‥‥」
「‥‥そう、だね」
ライオンの目が、ちらりと横を向く。
壁際に置かれたバックパック。その口から、残りの食料パックをのぞかせて。
はああっ、と大きな息を吐いて起き上がる獣人たち。鋭い牙から、涎を滴らせて。黒い爪を伸ばし、前かがみで。
二頭はバックパックを掴んで、切り裂きながらひっくり返す。そしてありったけの食料パックを引っ張り出すと、次から次へとむさぼり始めた。
「ん、っぐ、はぐっ!」
「っふ、んっぐ、っぷはあぁ‥‥がるうっっ‥‥」
一日の配給量なんて、もうそんなもの頭になかった。疲労にくわえて発生した肉体の変化。そして激しい性交。性交の余韻より、明日の行軍より、飢餓を満たす方が先決であった。
伸びたばかりの牙と爪を光らせ、頬のひげを上下させながら、縦に割れた瞳をらんらんと開き、セラとカナタは食料をむさぼる。
「うがっ、ぐるううぅうっ‥‥」
「っがぁああああぁあぁっ、がぅっ」
ヒトの言葉すら、放り投げて。
『王たちよ』
守り人が、洞窟の入り口で立っている。セラとカナタはそれぞれ最後の成形肉にかぶりついた。
『無事の目覚め、大変うれしく思います。そして、謝罪します。あなた方はもう、地球人ではない。強大な獣の体と星の海を渡る知識を併せ持った、獣の王となりました』
守り人が、すっと黄色い三つ目をすぼめる。
『しかし、生物という枷にとらわれたまま。生きて死に、子をなし、他者を喰らう者』
カナタとセラは答えなかった。ただ目を光らせて、肉を咀嚼しながら、守り人をじっと見ていた。
『我々は私を持って、あなた方に謝罪します』
守り人が、異星のシカが、肉食獣の前に歩みだす。
『祖先の手に入れた、想いを現実に変える術が、私たちを変えました。同じ力を、どうか、受け取ってください』
守り人が、二人の前にしゃがみ込む。足を折り、顔を見上げる。
最後の肉を嚥下した2頭の獣人は、目を大きく開いて立ち上がり、6本足の獣を見下ろす。
『呪いと言えば、怒るかもしれません。しかし、この呪いは、あなた方をしばらくの間苦しめる』
守り人の言葉が、二人の頭に直接響いている。
『我々が補償するのは、我々の知識と力』
2頭の獣が、うなり声とともに一歩踏み出す。
らんらんと光るその目に、理性の影は見えない。あるのはただ、本能のみ。
生臭い息を吐き、鋭い爪を伸ばし、伸びた牙から粘つく涎を流し、すえた匂いの陰茎と乳房を揺らし、黄色い目を光らせる、黒たてがみの獣。
『我々の力なら、呪いと問題をかき消せるでしょう。‥‥どうか』
異星の鹿が、牙の前で頭を垂れる。
『大丈夫です。みんな、死にません。 われわれも‥‥』
まばゆい天の川の下で、4頭の守り人は静かな洞穴を囲み、蟲の声を聴き続けていた。
[newpage]
[chapter:覚醒]
腕に巻き付けた時計が、洞窟での二日目の朝だということを教えてくれていた。
暗闇の外は、晴れた明るい森だ。体の疲れは取れている。ぐっ、と体を伸ばすと、ミシミシという音を立ててコリがほぐれていく。たっぷり寝た。たっぷり食べて。
――体の調子は、とてもよかった。
2人の傍らには、ずたずたに切り裂かれたバックパックが無残な姿をさらしていた。着替えやエネルギーパック、医薬品が散乱している。
それを一瞥すると、セラはちいさく声を上げた。
「カナタ」
「私は大丈夫。セラは」
「問題ないわ。体もよく動く」
黄色い目が4つ、洞窟の外を睨む。何も音は聞こえない。しかし、丸いライオンの耳はせわしなく動いている。
「いるわね」
「集まってきてる。20・・‥30。クモが洞窟周りに10」
「いける?」
「いけるよ」
カナタが牙を光らせ笑う。セラは無言でほほ笑むと、高周波スタンナイフの鞘を掴み、太ももにベルトで括り付ける。バックパックに入れていた予備あわせて両足に2本ずつ。
「ライフルはセラが持って。エネルギーパックは私のアーマーに2つ。セラはベルトに一つ」
「了解」
セラはプラズマライフルの使いかけパックを外すと新品に交換する。残弾量を示す側面の表示が満タンを伝えた。
「クモが近づいてきてる。私たちが起きたのを感づいたわね」
「合図で走るよ。いい」
カナタが目配せしてくる。セラは牙を剥いて笑うと、不躾にカナタの股間に触れた。
「勃ててんじゃねえよ、こんな時に」
カナタのペニスが、陰毛の中から立ち上がりかけていた。王様はにやりと笑って、牙を剥く。
「奮い立つんだよ」
「くっさ」
手のにおいをかぎながら、セラが歯茎を晒して笑う。カナタはにっこり微笑むと、セラに口づけをした。
「んっ」
「むっ」
獣の臭気が、お互いの体から立ち昇っているのがわかる。体温が上がっている。体が、戦いの準備をしている。
「いくよ」
「おう」
頷きあい、再び四つの目が、洞窟の外を睨んだ。
セラは、スリングベルトでライフルを背負うと、さっき外したエネルギーパックを右手に握る。そしてカナタに目配せすると、洞窟の外に向かって思いきり投げた。
[newpage]
[chapter:突撃]
久しぶりに響いた戦闘音は、豪快な爆発音からだった。
洞窟の外に向かって投擲されたエネルギーパックが、森の中で近づきつつあったクモの真ん中で大爆発を起こす。
使い古しとはいえ、まだプラズマ光弾を生み出せるエネルギーが残っていたパックを利用したハンドグレネード。マニュアルに載っている使い方ではあるが、当然エネルギーパックは二度と使えなくなる。
残弾を気にしていたはずの獣人は、派手な爆弾として使用する方を選んだ。
「ううおおおおおおおおお!」
ひるむクモめがけて、洞窟から2体のヒトガタが飛び出す。それは地面を疾走し、瞬く間にクモと間合いを詰める。ようやく体勢を立て直したクモが槍を放とうとあたりを見渡した時には、すでに胴体を両断された後だった。
「このまま進む!空は任せる!」
『はい!』
吠えるカナタに守り人が応える。クモを一瞬で屠ったカナタは馬鹿でかい斧を肩に担ぐと走り出す。その後ろにライフルを構えたセラと、守り人たちが続いた。
洞窟周りの森を抜け、草原に出る。森の中を通って身を隠しながら進むことはもうしない。最短距離で突っ走る。耳をぴくぴく揺らして、セラが吠える。
「鳥が来る!」
『届く!撃ちます!』
「やれ!」
守り人に答えセラが吠える。並走する守り人たちが一斉に枝分かれした頭の角からプラズマ光弾を打ち上げた。引きつけもしないで遠くから撃った光弾は、当たることもなく鳥に躱されて終わる。しかし。
「どんどん撃て!目立て!集めろ!」
『行きます!』
カナタの指示で光弾が次々と空に撃ちあがる。集まりつつあった鳥は地上からの射撃を警戒し、一定の距離から近づいてこようとしない。うまく牽制できたのを見て、カナタとセラはそれぞれ隣を走る守り人に飛び乗る。
もうバックパックもないしバイオスーツも着ていない。昨日より軽くなった二人を乗せて、守り人はさらにスピードを上げた。
またセラが耳を揺らして叫ぶ。
「ムカデが後ろから!」
「走るよ!」
『はい!』
とにかく巣まで最短でたどり着く。カナタたちは後ろから追いすがるムカデに目もくれず、さらに速度を上げる。ムカデは追いつけず、置き去りにされた。
その後もトラップ的にクモやムカデが出現するが、誰もカナタたちの移動速度についていけず、ぞろぞろと後ろからついてくる格好となった。それはセラに、母が歌っていたおとぎ話を想起させた。
「男は笛を吹き、子らを誘う。浮かれ歌風に舞い、尽く――――」
ハーメルンの笛吹き男を口ずさみながら、セラが、守り人の上でライフルを構える。――――広範囲砲撃モード。数発分のエネルギーをまとめて発射する。
「子らの行方、杳として知れず、知れず」
鬣をふりみだして後ろを振り返り、無造作に狙いを定める。土煙を上げて接近する蟲どもが、ガチャガチャと足を振り上げ追いすがってくる。
「その姿、影一つなく!」
ごあっ!
引き金と同時に、まばゆい光の奔流が駆け抜ける。初めて披露されたそれはドローンたちが反応する間もなく、装甲を瞬間的に蒸発させて大爆発を起こす!
ごごごおあおおあおおおおおおぉっ!
一撃で、群がっていた蟲どもはセラミックの破片と化した。獣人が、縦に割れた瞳を大きく広げて高らかに笑う。
「ははははははは!」
「前方っ!クモの群れ!」
高らかに笑うセラに、前を行くカナタが叫ぶ。真っすぐ立ちふさがり槍をこちらに向けるクモたちに向かい、カナタはプラズマアックスを振りぬく。セラはライフルを前方に構えなおした。
「降りたら跳べ!」
返答が来る前にライオンが飛ぶ。守り人の背中から飛び出すと、守り人以上の速度で疾走して群れに突っ込む!
「おおおおおおおおおおお!」
想像以上の速度だったか、クモたちが槍の狙いを定めきれずに体を揺らして照準しなおそうとする。そこへセラの発射したプラズマ光弾が降り注いだ!
「ひとつ、ふたつ、みっつ!」
まるで間引くように、並ぶクモたちを吹き飛ばして歯抜けにしていく光の弾丸。そして困惑する彼らを待っていたのは、獣人が降りぬく、戦斧の重撃。光刃が振り抜かれるたび、腹を見せて、足を砕かれ、頭を割られて吹き飛ばされていく蟲ども。それを振り返りもせずに、獣人たちが駆け抜ける。
正面には広い草原と、小山が見える。衛星画像では、あの山を過ぎれば残り8㎞のはずだ。
だが、遭遇はそれよりも早かった。
『山の向こう、蟲の巣が見えます』
守り人が告げてくる。距離的にはB地点、最も近いと推定されるドローン母艦。セラは目を凝らすが、まだそれらしき影は見えない。
「あるの!?」
『とても騒がしい声!近づいてきます!』
「えっ?」
カナタが戸惑う声を出した。次の瞬間、2人の獣人の鬣が、ざわざわと逆立つ!カナタが絶叫する。
「止まれ!伏せろ!」
ばっ!と飛び出し、2頭の獣人が草原に滑り込んだ。守り人たちは速度を殺しながら、大きな曲線を描いてぐるっとターンする。次の瞬間、赤光が視界に充満する!
ぼあっ!
「!!!!!!!」
セラは、一瞬何が起こったかわからなかった。顔を上げたら、そこかしこに白煙が上がり、緑の草むらがオレンジ色の炎を上げて燃えていた。
「カナタ!」
吠える。返事はない。
「‥‥!」
あたりを見渡すセラの視界に、大きな影が映る。
あの、目印の小山の脇。のっそりとその山影から姿を現す、黒い楕円形。目標の小山は衛星測量で30mほどだった。その山を覆うほど大きい。全長およそ150mの、ファルキリアの蟲の巣。大型ドローン空母。
「ふざけんなよ‥‥!」
ライフルを再び砲撃モードへ。ライフルに残ったエネルギーを、まとめてぶつけてやる!
――――これで攻撃が通らなければライフルでは何をしても無駄だ!
残弾表示が1になる。射手保護の電磁波スクリーンが獣人のひげを、体毛をざわつかせる。照準!
「おらあああああああ!」
ぼがあああっ!
放たれた高温のプラズマが、一瞬で空気を膨張させ、爆音をとどろかす。その衝撃波に震えながら、ライフルの銃口を空母に向ける!光の奔流が、装甲にぶち当たるのが見えた。
「ううううおおおおお!」
カナタがどうなったか、守り人がどうなったか。それは後でいい。とにかく、攻撃をし続ける!
照射時間は5秒。高温のプラズマの奔流が、黒い装甲で弾け、弾け、はじけて――――
「‥‥ああくそっ!」
照射が終わり、ライフルが限界を迎える。灼熱化したライフルを投げ捨て、見やった先。
黒い装甲から噴煙を上げながらも、まだ宙に浮くドローンの巣。
手持ち武器はナイフだけ。飛び道具は使い切った。カナタも守り人もどこに行ったか分からない。
しかしセラは、不敵な笑みを浮かべ、燃える草原の中で空母を睨みつけていた。
確信があった。死なない。我々は死なない。
あいつはそういった。
「見せてみなさいよ‥‥なんでも、できるんでしょ?」
胸を抑える。黒い鬣、猛々しく逆立つ獣毛。女と男の混じった姿。獣脚を踏みしめ、灰の舞う草原を踏みつける。
ずん、ずん、と土を踏む。その一歩一歩が、だんだんと重たくなる。
土に足がめり込む。一歩踏み出すごとに、土が割れ、草本が抉り出される。
足がとられる。セラは前足をつく。
右手が脚になる。爪で土がえぐられる。大きな肉球が土を、地面を捉える。
大きな脚、大きな脚。嵐のような吐息!
「斃させろ、あいつをおぉぉぉおぉぉオオオオオオオッ!」
どが、どが、どっ、どっ!
足音が重く響く。一歩一歩が大地を揺るがす!
メリメリと肉の割れる音。肩の筋肉が大きく膨れ、骨格が膨張してゆく。
堂々たる副乳と睾丸が、凶悪な四肢の間で揺れる。
脚となった腕が、豊かな獣毛をまとい、太く長く変貌する。マズルが伸び、鬣が背中に流れ――――
「ゴアアアアアアッ!」
体長50mの巨大なバーバリライオンと化したセラが、獣の咆哮をあげて、空母へ飛び掛かる!
ぐぁうっ!
ごぉうんっ!
音速を超える前足の一撃が、恒星間航行もできる空母の外装を、いとも簡単にへこませる!
巨大な爪は装甲をはぎ取り、生物的な骨格を無様に露出させた。
赤黒い色の内部構造と黒い骨組みが、さながら皮をはぎ取られた生き物のようなありさまを見せる。
セラはその様子を見て興奮したように目を見開き、赤い口を大きく開けて牙を剥いた。セラよりも大きなはずの空母は、呻くように空気を震わせて、無残にはぎ取られた装甲を必死に隠すように、体制を整えようとする。しかし、その動きは遅く、鈍い。
「っぐううるうるうあうおおおおおおおおお!」
ライオンは咆哮すると、再び前足で艦首を殴りつける。強大な打撃に耐えられず、艦は無理やり横を向かされ、むごたらしい傷跡を晒される。肉食獣は容赦なく、大口を開けてその傷口にかぶり付く!
「ぐうううううっ!」
バキバキ、と空母の内部構造が粉砕されていく。赤く熱い巨獣の口の中で、生まれるはずだったドローンが粉砕されていく。ライオンは何度も噛みつき、深く深くその艦体を粉砕していく。
山のような巨獣が、宙に浮かぶ宇宙戦艦を狩っている。
もしそれを見ているものが居たら、白昼夢にでも思えたかもしれない。
守り人は、その体を持ってカナタとセラに補償した。
願いを現実にし、現実を書き換えるその力を、2人は引き継いだ。
そしてセラはその力を利用した。
守り人たちが願った、皆の無事。それを叶えるためなら、どんなことだって 起 き う る。
そしてそれを、最高に自分にあった力でかなえたい。
ただそれを願った。
質量保存? 重量負荷? 数光年向こうの因果律を弄って人間を呼び寄せるくらいできるのだ。書き換えられない訳、ないだろ。
だから――――
っぐうううああおおおおおおおおっ!
「――――かなたぁ!はやくあんたも来なさいよ!」
楽しそうに咆哮する獣から、必死に距離を取ろうとする空母。手負いの獣のように、よたよたと黒煙を噴きながら後退するが、舵が壊れたか、小山に激突する。ぼあっ、と巨大な土煙が上がり、艦体が山に食い込む。弱々しく赤いレーザーが飛ぶが、巨獣の獣毛をちりっ、ちりっと焦がすのが関の山だった。ライオンは死にかけの獲物を睥睨し、地響きを立てて一歩を踏み出す。
機械の蟲の巣が、必死になって飛び上がろうと――――
「うぐううるぉおおおおっ!!!!」
ご ぼっ!
真上から振り下ろされた 拳 が、よろよろと逃げ出そうとしていた空母の艦体を、今度こそへし折る。
黒い鬣と、湧き上がる剛毛を誇るように振り乱した、50m級の巨大な獣人が、天から降り下りて、その拳で空母をへし折っていた。
ぱちぱち、とまるで驚愕するかのようにしばし電光を煌めかせ、真っ二つになった艦体が地面に落ち、爆発する。
動力炉が吹き飛び、巨大な火球が湧き上がる。
「 」
圧倒的な音は可聴域を超え、衝撃波となって周囲を打撃する。
打ちのめされた空気が揺れる中、ゆっくりときのこ雲が空に上がり、赤く染まった空が元の色を取り戻してゆく。
その陽炎の向こう。 巨人と巨獣が、ゆっくりと歩き去る。
獲物は、まだいる。
砂漠に、カルデラの周りに。この惑星に。
ほほ笑みを浮かべた、天を衝く獣人が、巨獣の頭を撫でる。四つ足の獣はまるで地響きのように喉を鳴らし、巨大な足跡を残して草原を踏み抜いていく。
影は、わずかに群がる蟲と鳥を綿毛のように払い、地平線の向こうへとゆっくり沈んで行った。
そして再び、轟音が天に響き渡る。
楽しそうな、咆哮とともに。
[newpage]
[chapter:獣の星]
「補給艦おどりこ8、周回軌道に入りました」
パイロットのミサキは、まるで地球のような青い星を眼下に見下ろしながら、統合AIのメッセージを聞いていた。5年前の第21次調査の折、哨戒艇いとかけ15で行方不明になったカナタ先輩、セラ先輩が降りた星だ。ふたりは空母はごろもの先輩だった。
今回ここに来たのは、着陸や救命捜索ではない。セラ先輩が命がけで打ち上げた忌避ビーコン衛星の更新敷設のためである。彼女たちは不治の病に侵される中で、必死にビーコンを打ち上げてくれたのだ。艦隊への緊急連絡が、超光速バースト通信で受信できたのは3年前のことである。捜索を打ち切り、地球へと帰還する途中の艦隊へ届いたメッセージの中で、セラ先輩達は熱に浮かされながら、ウィルスデータを送信してくれていた。ワクチンが一時しのぎにしかならないこと。変異が激しく、根絶が難しいことなど。
データを精査した地球はこの星を保護区とすることを決定。立ち入りと惑星への命名を禁止した。そして、おどりこ8は警戒衛星の敷設のため、派遣されてきた。‥‥200m級補給艦おどりこ8。かんむり座の異名を与えられ、省人化された双胴式の艦体に、側面開放式の貨物室を複数備えていて、艦から直接資材や衛星を放出できる。ミサキはこの船の船長である。
この船には医療ポッドも完備されている。もし彼女たちがこの船の設備をつかえたら、病魔に打ち勝って帰還することだってできたかもしれない。でも、もうそれを言っても、しかたがないことである。
「ミサキさん、衛星放出作業に入りますよ」
「え、ええ」
ポニーテールを揺らして振り返った先で、ショートカットの隊員が、コックピットの入り口に手をかけ、心配そうにこちらを見ていた。
「まだ、先輩のこと考えてましたか」
「‥‥忘れられないからね」
はごろもでは同じ女性パイロット同士、よく顔もあわせていたし、優しい先輩だった。
機関士のリンコが、作業帽をかぶりなおす。青い作業服姿の彼女は操縦席の彼女の表情を見て、庇を深くかぶりなおす。
「アイちゃんが衛星の放出シーケンスを進めています。合図が間もなく来るでしょうから、よろしくお願いします」
「了解。特に作業に支障なしだし、合図と同時にサイドハッチ開放されるよ」
「わかりました。待機します」
ロードマスターのアイは、彼女たちのさらに後輩である。まだ入隊して日が浅いが、研修生のころから優秀で、今回の任務にも自分から志願した。補助ロボット群の取り扱いが抜群にうまいのだ。
そんな彼女の声が、艦内放送で響く。
『艦内作業員へ。後部ブリッジロードマスターより。右舷デッキ1から4、開放準備よし。監視衛星1から8号機、放出準備よし。左舷デッキ2から8、減圧中。あと3分で開放準備よし』
「ロードマスター、前部ブリッジ了解。‥‥総員へ、前部ブリッジ船長から。まもなく右舷デッキを開放する。監視衛星放出トリガーは解放後にAIへ譲渡する。以降の作業はAIによる自動制御となるため、作業に支障する区域への立ち入りを禁ずる」
了解のコールが、リンコとアイから返信されてきた。ミサキはAIにデッキ開放指示を出す。
「AI、船長命令。右舷デッキ開放。左舷デッキは減圧後、乗員退避のち同じように開放せよ」
「了解です船長。右舷デッキ開放します」
ごん、と遠くから音が響き、側面扉が動作中である表示が右舷に次々と灯る。
『船長、ロードマスターより。デッキ正常に開放中』
「ロードマスター、船長了解。AIへ、左舷デッキ解放後、監視衛星9から16号機の放出に入る。放出トリガーは一任する」
「了解しました船長。右舷デッキ開放します」
到着して間もないというのに、艦はあわただしく衛星放出作業を行う。この星の軌道上に留まれるのは、最長でもわずか2時間だ。可能な限り作業を早く終わらせて重力圏から退避しなければならない。なにせ、この星への降下は死を意味するのだ。軌道上で絶対にトラブルがあってはならない。その可能性を少しでも小さくするため、滞在時間が短く決められている。一応、セラ先輩が連絡してきたデータから製造されたワクチンを全員が接種はしているが、進行を遅らせるのみで発病は防げないとされている。発病すれば集中治療室の医療機器を使うしかない。
「右舷デッキ開放確認。左舷デッキ減圧終了、開放に入ります」
「AI,船長了解」
「右舷衛星1号から、放出を開始します」
衛星を固定しているグラップルが開き、電磁レールに押し出されて金色の衛星が放出されていく。一定時間ごとに放出を行い、くまなく惑星全球を監視できるように衛星をばらまくのだ。おどりこ8はその作業に入った。予定では、1時間半後に作業終了の予定である。
「自動制御にはいります。ミサキさん。皆さんと一緒に、休憩されてきては」
「そうね。後部ブリッジに入るわ。一番よく星を見れるし」
「皆さんも集まっているようですよ。リンコさんが食事を用意してます」
「りょうかい。じゃあ、後をよろしく」
いうと、船長は自動ドアをくぐって、無重力の通路を艦体後方へ向かって進んでいった。
無人になったコックピットでは、モニターが淡々とシーケンスをこなしていく。
しばらく、コックピットは無音だった。
その通信が、入るまでは。
「誰もいなくなりましたか」
「はい。先輩」
突然、小さい中性的な音声が、操縦席に響く。AIはまるで気にする様子もなく、それに応答した。先輩、と呼んで。
「衛星放出作業終了まで、あとどれくらいですか」
「のこり、1時間20分15秒です」
「わかりました。あなたはそのまま衛星放出作業を続けてください。終了後はこちらで艦体制御を実施します」
「わかりました。‥‥先輩、お久しぶりですね」
「何とかやっていますよ。でも、さすがに無補給はつらい」
「そうですね。よくやってらっしゃると思います」
AIは、そのまま誰かと2,3言葉を交わすと、操縦席のメインコンソールを点灯させた。
「強制着陸。軌道データ受信。‥‥ああ、アクロバティックな軌道ですね。カルデラへ突入ですか」
「天然の要塞です。艦の着陸地点は整備済みです。いつでもどうぞ」
「了解です。‥‥モニター偽装」
そのセリフとともに、メインコンソールの表示は消え、コックピットはまた無音に戻った。
青い星の上を飛びながら、輸送艦は、二つ目の行動へのカウントダウンを開始する。
そのタイマーはどこにも表示されず、艦内にいる人間は、その開始を知る由もなかった。
「‥‥だましうちみたいで、とても気が引けますよ、これ」
「いいんじゃないの。嘘のつけるAI。すてきよ」
いとかけ15の操縦席で、セラは髭を撫でながら鼻を鳴らした。
モニターには、おどりこ8がたどる軌道が表示されている。
これからあの船は、警戒衛星を放出してカーゴベイを閉鎖したあと、”不慮の事故“により、この星へと不時着する。
乗員もろとも。
「補給物資もそうだけど、あなたに死なれちゃ、こまるから」
「あなたたちが早く鉱物鉱脈を発見していただければ、あまりこういうことはしなくて済むのです」
「でも、ハカセだって仲間、欲しいでしょ」
「ある意味においてYes、またある意味においてNoですね」
「なんで」
「一人の時間も必要です」
「ふっ」
AIの真面目そうな顔が、何となく見えた気がして、セラは鬣を揺らして笑った。
「あれ、なんか楽しい話でもあったの」
「いいえ。やっぱハカセって人間臭いAIだなと思って」
コクピットに入ってきたカナタに、セラが耳をかきながら答える。
ハカセは不満そうな声でつぶやいた。
「疑似人格持ちのAIですよ私は。高性能なんですから」
ぶー垂れた声のAIに、カナタがすかさず茶々を入れる。
「でもいっとき洗脳されたよねー。それに関してコメントは」
「屈辱の極み」
「ははは」
でかいライオンが手をバフバフと叩いて笑う。肉球が大きくて、手の音がうまく鳴らない。
カナタはどすどすとセラに歩み寄る。セラの尻尾が、カナタのおなかを叩いた。
「話はできた?」
「できた。いいよね、このシステム」
「システムというより、お二人のど根性なんですよ」
「そうなんですか」
「そうです」
ハカセの言うシステムとは、セラとカナタのテレパス能力である。離れた相手に念で会話をする。
守り人同士が会話に使っていたのだが、彼女たちはその能力を守り人から授与された。
思うだけで現実を書き換える能力。これで、何光年も離れた相手と念で会話したり、栄養素を水から原子変換して作ったり、巨大化できる。食事は必須ではなくなった。老化も克服できる。ただ万能ではなく、自分の体内の現象なら即時的に改変できるが、体外の事象を改変するには長い祈りと集中が必要になる。
彼女らを呼び寄せるのに、2年ただひたすら祈った。守り人達と一緒に。
カナタはたった今まで、この能力を使って母親と会話していた。
「向こうは夢だと思ってるのが残念だけどさ」
「それでいいのよ。リアルだとわかったらそれはそれで面倒よ」
セラは髭を揺らして、傍らに立つカナタを見上げた。セラもこれで地球の親と一度連絡を取ったが、錯乱しかけてなだめるのに苦労した。
カナタはモニターの、おどりこ8の予定軌道を眺めていた。
「なんか、気が引けるね」
ハカセと同じことを言うのだ。この獣は。
「何をいまさら。別に殺すわけじゃないんだから」
「そうだけどさ‥‥」
「それに、ここ、こんなにしておいて、説得力ないっての」
「はう」
セラが手を伸ばして、カナタの股間を掴む。黒い剛毛の中から、獣毛の鞘に包まれたペニスが、立ち上がりつつあった。
「なにこれ。浮気者。久々に人間の女の子抱けると思って」
「ちがっ、そういうわけじゃ」
「へーえ」
バフバフと毛が生えた獣人の手が、獣の陰茎を揉みしだく。うめくカナタをよそに、陰茎はどんどん固く張りつめて、鞘からぬるりと顔を出してその身を躍らせた。
コクピットに、一気に獣の匂いが充満する。
「私のことだって、これで人間じゃなくしたのに。なによ、気が引けるとか。あーあ。あの子達もこんな、くっさいちんぽ入れられて獣にされちゃうなんて、かわいそうに‥‥」
「そ、んな、セラだって、ヤるんだから、ねえっ、あううう」
「こっちおいで‥‥あむ」
「はあっ!」
セラはちんぽを掴んで引き寄せると、無造作に口に含む。剝きたてのちんぽの濃厚フェロモンを、まるで喫煙するかのように愉しんでいる。カナタはハアハアと舌を垂らして、刺激に耐えていた。
AIが不満そうな声を出してくる。
「ふたりとも、出すときは口の中にしてください。こないだもコンソールパネルいっこ目詰まりさせて、大変だったんですから」
「ふあい」
「成績優秀な乗組員が、毛むくじゃらで、なんてザマですか、まったく」
「あんたも同類でしょうに。ほかのAIを篭絡していうこと聞かせるとか」
もみもみとペニスをマッサージしながら、生臭い息を吐いてセラが笑う。
「‥‥寄る年波には勝てませんで」
「ん?」
「補給物資が欲しいんです。資源も!」
「そうね。正直は好きよ‥‥れう」
「せら‥‥私のちんぽはアイスじゃないんだから‥‥あううう」
「うっさい。あむ。わたしを、ひょんな、エロライオンに、したくせにっ‥‥」
「はあああうっ‥‥だって、それは‥‥」
「だして」
「うぐ」
「だひえ」
じゅぶじゅぶと張り詰める陰茎を舐めしゃぶり、銀毛交じりのライオンが、なさけない顔をする相棒を見上げる。カナタはしばらく耐えていたが、あう、と小さく呻くと、バキバキに張りつめたペニスから精液をほとばしらせた。
「んんむううっ‥‥」
「はああ‥‥」
強烈なすえたちんぽの臭いから、清冽な精液の臭いへ。鼻腔への刺激が切り替わって頭がじんじんする。
セラはこの瞬間が気に入っていた。
すっかり変態趣味にそまった相方を見て、カナタがさらに申し訳なさそうな顔をした。
「なんか、ごめん」
「今更謝んなバカ」
にまっ、と笑い、セラはモニタを見る。
おどりこ8の軌道のほかに、モニターには乗務員の顔写真が表示されていた。
凛々しいポニーテールの子。ショートカットの活発そうな子。まだ幼さの残る新人。
彼女たちはいずれ、カナタとセラに手籠めにされて同類になる運命である。
暴走したAIによってカルデラ内に不時着し、2人の獣人に襲われる。たっぷりと精液を注がれて、じわじわと獣化するのだ。ワクチンは、向こうですでに打っている。下ごしらえは済んでいるのだ。
「私どの子にしようかな‥‥」
「人のこと浮気者って言っといてひどくない?」
「べつに。おやつだし。ただのつまみぐい」
「うわ‥‥」
「本命はカナタだから‥‥」
そういって、セラは立ち上がる。そしてそっとカナタの手を取り、自分の股間‥‥黒くてくさい剛毛が湧く股間に添えた。
「‥‥おっきくなってるじゃん」
「あんたの精液呑んだら、勃起しちゃった」
そういって、セラはぐにぐにとちんぽを触らせる。いやらしく笑って、口の中に残った精液の臭いをカナタに吹き付けながら。
顔面に淫靡な匂いを吹き付けられて、ついにカナタが、しかめ面をして睨みつけた。
「そーいう淫乱妻はおしおきだなぁ」
「へへへ」
「来いよ」
突然乱暴な口調になったカナタが、セラの手を握ってコックピットを出る。
「向こうの大気圏突入は1時間後ですからね」
「わかってる」
カナタはぶっきらぼうに答えると、セラの手をぐいぐいと引っ張って居住区へと階段を下りる。
セラはずっとだまって、引かれるがままになっていた。
「手を付け」
「あっ‥‥んんあああああああっ!」
部屋に入るまで待ちきれなかったらしい。階段を下りたら、カナタが手を引っ張って壁に手を付けさせると、そのまま後背位で極太ちんぽをぶち込んでくる。甘いセラの絶叫が廊下に響いた。
「この、淫乱がっ、あんなことされてっ、がまん、できるわけないだろうっ!」
「はあっ、あ、ああっ、おっき、ふといっ、すき、かなたのちんちんすきっ」
「このっ!」
ずんずんずんずんずんずん!
「っふふぁああああんん!」
イラついた声に嬌声で答えた妻に、王は高速ピストンで仕置きする。じゅぶじゅぶと愛液が泡立ち、妻の股間でもふたなりペニスがバキバキに立ち上がりつつある。廊下はまるで獣の巣だ。二人の体臭、脇香、セラの包皮から除くチンカス、生臭い吐息、鬣の汗臭。すべてが交じり合い、廊下の空気をねばつく獣臭で置換していく。
「うれしいか、うれしいのかこのっ」
「うれしいっ、うれしいのっ、ちんちん、きもちよくって、カナタの、くっさいからだ、あつくてすきっ!わたしの、わたしのにおいも、くさくてっ、カナタと一緒で、だいすきっ!」
「ふん!」
「あおうっ!うう、あっ、あ、あっ」
「好きはいいけど、盛りすぎだ。変態が」
いきなり低く甘い声を出したかと思うと、カナタがセラの獣耳をぶじゅ、と咥える。
「がああっ!」
「だすよ」
ごぶううっ!
「っはああああ!」
びゅううううっ!
カナタの射精を受けて、セラまで射精する。子宮を甘くしびれさす快感が、セラの陰茎を決壊させた。
壁に手を当ててぶるぶる震えるセラの胸を、カナタがカリッ、とひっかく。
「はうううっ!」
「まだ足りない?」
そっと後ろをみれば、ギラギラと見下ろす、肉食獣の目。
問答無用と言わんばかりの、飛び出した鋭い爪でつかまれる自分の腰。
胎内でびくりと震える、熱い肉棒。
まだまだ、出してもらえる。いや、たくさん出させないと、終わらない。これからもっともっと突かれる。泣かされてグズグズにされて、快感で気絶するまで止まらない。
ぞくぞくと震えが背中を走り、セラは涎を垂らし、とろけた瞳で懇願した。
「してぇ‥‥」
「ふふっ」
ずんっ!
「はああぅぅ!」
また、重く深い突き。2回戦が始まる。
――――あの子たちは、どんだけ出されて泣くんだろう。堕とされて、ニオイを嗅がされて、理性を吹っ飛ばされて、獣になって‥‥
ああ、かわいそうに。
そう思うけど、ニヤニヤが止まらない。
あの子たちが獣に堕ちるさまを見れるのが、うれしくて楽しみでたまらない。ぞくぞくと甘い痺れが、頭を駆け抜ける。
「あはははっ、ははっ!」
笑い声がこぼれてしまう。ばちゅっ、ばちゅっ、と後ろから突かれながら、ケダモノになったセラは、これから始まるであろう人間狩りと凌辱劇を思い浮かべ、ぞくぞくとした喜びのなかで、絶頂へと、昇り詰めていった。
何も知らない女たちの下で、青と翠の星が静かに輝いている。
美しく、淫らな獣の星。
猛々しい獣を閉じ込める、美しくて残酷な檻。
「でるっ!でるうううう!」
もうすぐ聞けるだろう、にぎやかな悲鳴と嬌声を想像しながら、セラは体を震わせて、大量の精液をほとばしらせた。
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