いったいいつから、いやそもそも、どうしてこんなことになってしまったんだ。虎の大男は声すら上げられずに現状を把握しようと無駄な努力を繰り返していた。
薄暗い部屋、ごうごうと風と吐く冷房の音、ちかちかと明滅するテレビ。画面いっぱいに映る若い男女の股間。艶かしい声と粘着質な音をスピーカーから響かせ、女の股座の割れ目に男の立派な象徴が、激しく、抜き差しを繰り返していた。
……だがそんなこと、正直どうでもよかった。いや良くはない。良くはないんだが、そんなこと問題にならないくらいの大問題が、己の股間に蹲っていた。
どっかりと座り込んだ三人掛けのソファの股座に……それは虎よりも小さな虎猫の少年で、テレビに照らされた金髪は美しく、しかし身体は細いながらも健康的に鍛えられていて、暗がりでも仄かに輝く緑黄色の瞳に逸物ごしに見つめられ、くらりと眩暈がした。
そして少年は艶やかに、その小さな口で虎の主張する逸物に口づけをした。
*
そもそもの話、甥のためにアダルトビデオを借りてこよう、と決めた次点でダメだったのかもしれない。
いやだが獣人というものは生来、性欲というものには余り抗えない存在なのだ。そうやって生まれてしまった以上、対策をとらなければいけない。獣人の成人年齢が十五歳になったのも、そのくらいの年齢になったら親が(主に父側が)我が子にアダルトグッズを渡すのが一般的であることも、この虎が望んでそうなったものではないのだ。
事実、この虎の大男も性に関しては色々と苦労したものであった。彼の場合はその巨体に比例するかのようにいろいろな部分で大きい場合が多かった。
年齢は以前ついに四十を迎えた。白のトレーナーは盛り上がった筋肉によって引き伸ばされるほどで、顔付きもイケメンというよりは厳ついという印象が強く、悩むように眉を潜めれば近寄り難い程に不機嫌なように見えた。
そして纏う被毛は黒。鮮やかな黄色は鳴りを潜め、ボサボサな黒地に白の縞模様が稲妻のように走る。
彼の名は猫目黒曜(ネコメコクヨウ)。名に恥じぬ見た目の彼はしかし、真面目な恋愛というものを経験していなかった。
燃えるような恋をしたことがない、とは言わない。ただどうしようもないほどに、恋愛としては不健全と呼ばれるしかないような感情しかコクヨウは抱いたことがなかったのだ。
閑話休題。
そんな彼がなぜ、このクソ暑い真昼間に出かけ、ビデオショップの成人向けコーナーに居座っているのかといえば、ひとえに彼の甥のためであった。
彼は姉夫婦から子供を二人、養子として預かっていた。兄の琥珀(コハク)は煌びやかな金髪に緑黄色の瞳、弟の黄金(コガネ)は煌びやかな金髪に黄橙色の瞳の虎猫だった。
今回、件のビデオを渡そうと思っているのは兄の方である(弟のコガネはまだ十三歳だ)。コハクはめでたく齢十八を向かえた。そう、めでたいことなのだが。
「親父さぁ、正直、全然エロいのとか興味なさそうだよね」
などと言われてしまったのだ。というのも、実はコクヨウは十五歳を迎えてからも一度もコハクのためにアダルトグッズを渡したことがない。
コクヨウは生来の堅物であり、渡す必要もないだろうと放置していた部分もあったのだが、成人してすぐにアダルトグッズを渡さなかったのが原因でそんなことを言われてしまったのだ。
しかし堅物ではあるもののコクヨウだって肉体的にも精神的にも男盛りの立派なオスである。性欲がない、など言われれば否定したくもなるだろう。
そんなこんなで、いやどういうわけか正直なところ分からないが、コハクのためにアダルトビデオを見繕ってくることになってしまったのだ。本当になぜこうなったのか分からない。
そして、その日の夜。
「コガネに見せらんねぇから、夜中な?」
そういってコハクはコクヨウの選んだものを受け取った。その時に気付けばよかったのだ。わざわざまだ未成年である弟に配慮して見る時間まで伝えてきた意味を。
「じゃ、今からみるから来て」
「……は?」
「鑑賞会するっていってんの。待ってるから」
で、気付けば居間に連れ込まれていたのだ。
小柄な割りにしっかりと身体を鍛えた猫の男優がよい腰つきで女を犯している。兄貴もたしかこんな感じだったっけか。
(いやいや、違う)
男優よりも大柄で胸の豊満な虎の女優が身体を震わせて喘いでいる。姉貴もこのくらいでかかったか。
(違う、まて、そうじゃないだろう)
コクヨウは追い詰められていった。というか完全に墓穴を掘らされてしまった。
そも普段から日常的にエロ話なんてしないゆえにコハクの好みなんぞ良く知らない。つまりは判断基準がまるでなかったわけで、そういった状態でどうやって選ぶかと問われれば……もうコクヨウ自身の好みで選ぶしかなかったのだ。
つまりこの鑑賞会、完全にコクヨウの性癖暴露会と化していた。たった二人の鑑賞会だったが、よりにもよってこのエロガキの甥に見られているというのが本当にやばい。
ちなみにタイトルは『下克上! 肉食系大柄女子を肉食系小柄男子が食い散らかす! ハメ倒し、吹かせ倒し、種付け倒しの三番勝負!」である。もうこの次点で死にたい。
「叔父さん?」
「なっ……なんだ?」
突然コハクが話しかけてきて巨漢が跳ね上がる。
「俺ちょっと安心したわ」
「なにを、だ?」
「ちゃんとこういうの見て勃つんだな~って」
そういったコハクの視線は、コクヨウの下腹部へと注がれていた。
「!!」
とっさに隠すもその姿すら滑稽だった。にやにやとした顔の甥があまりに恨めしい。
「そんな恥ずかしがらなくてもいいじゃん」
「うるせぇ……マセガキめ……」
「だってほら、俺もだし……」
そういうと、なんとコハクはすこし恥じらいながらも突然ズルリと自分のズボンを下ろしたのだ。
歳相応、身長相応に幼くて控えめな逸物が精一杯伸びて汁をたらしていた。しかし皮は剥け切っていて、綺麗なピンク色を惜しげもなく晒していた。
「叔父さんも脱げばいいじゃん」
「だっだれが!」
「だってさぁめっちゃ窮屈そうだし、てか散々見たことあるけど、恥ずかしがるようなサイズじゃないじゃん?」
そうして、あれよあれよと口車に乗せられてしまった。
「ほら、やっぱめっちゃデカいじゃん」
「そんな勃起してんのにしごかねぇの?」
「ほら、俺ももうこんなびっちょになっちまった」
服を脱ぎ、同じビデオを見ながらセンズリをし……もうそうなってから居間は、冷房などでは抑えきれないほど、考えられないくらい熱を帯びてしまっていたのだ。
「親父の触ってみたい」
本当に、何を言い出すんだと思った。思ったのに、なぜかもうその頃には否定する気力すら残ってはいなかった。
そして、そうして、今に至る。
*
たしかな弾力のある腹、その真ん中にあるヘソにマズルを埋め、舐めるまわす。毛深い二つの玉と、その下の柔らかい蟻の門渡りを舐めまわす。太い竿の、これまた太い尿道を舐め上げ、鈴口を啜る。
「コハク、放せ。もう……」
コクヨウの静止も聞かず、逆にコハクはその小さな口いっぱいにコクヨウの逸物を飲み込んだ。
コクヨウの逸物は巨根と呼ぶにふさわしい代物で、特に体格に見合うくらい太かった。口の中に含むだけでも顎が外れるくらいだ。しかもコクヨウは獣の血が濃い。その逸物は野生の虎に近しく、ビッシリと肉棘が生え揃っている。
それでもコハクは、その凶悪な逸物を深く深く咥え込む。暖かい口内に隙間なくピッチリと覆われ、棘のひとつひとつをぎゅっと掴むように密閉して吸い上げた。
じゅぶ、じゅぶ、と口の粘膜が肉棘に擦れる音が強く響く。テレビから流れる淫乱な音など全く意識に入らないほどに、その音に、その快楽に虜になっていく。
「だめだ、本当に……!」
だがもちろん、それでコハクは止まらない。早く出してしまえと、いままでで一番深く、まさしく逸物の亀頭を飲み込むと、その喉で断続的に締め上げた。
興奮を押し殺していたコクヨウの逸物は至極あっさりと爆発する。
「ぐあ、あぁ!」
ドグン、と汁が喉奥で弾けた。一発目のそれは水っぽさが多く勢い良く噴出す。
「んぐ、ぐっごふ」
あまりの勢いにコハクは飲み込んでも飲み込んでも追いつかず、顎の隙間から次々溢れさせてしまった。
やがて射精が収まる。脈動を終えたのを感じ取ってようやくコハクは逸物から口を離したが、一発出したにも関わらず、コクヨウの逸物は萎えることを知らず天を突いていた。
コクヨウはといえば、この射精があまりに気持ちよくて、口とはいえ人の粘膜での刺激があまりに久しぶりで少々放心状態だった。
それが不味かった。
己の身体に圧し掛かる体重と体温でコクヨウはようやく、コハクが跨ってきていることに気付いた。そして逸物の先端に暖かいものが、コハクの濡れそぼった菊門が触れていた。
「お前っそれは……っ!?」
不意打ちに、コハクの唇がコクヨウに触れる。
それだけでコクヨウは思考がフリーズしてしまう。触れ合う唇は存外柔らかくて、コハクの瞳が間近に映る。そこには茶化しているような色はなく、真剣にコクヨウの奥底まで見ているような色をしていた。
舌が割り入れられる。お互いの唾液はどこか甘く、少し獣臭い。それがまた興奮を呼ぶ。冷房などではどうにもなら無いように汗が噴出す。ぐちゅり、ぬちゃりと濃厚なキスが、性欲をグツグツと煮えたぎらせる。
そして隙を見計らったように、ずぐり、と逸物が柔らかいものに包まれた。
「ぐ、ぅおっ」
「ん……! ふとっ」
ナマの、粘膜と粘膜が触れ合う感覚。コハクの肉壷は名器と称して不足無いほどの気持ちよさでコクヨウの剛直を受け入れ、飲み込み、圧迫する。
肉壷の奥深く、更に部屋を分けたような小さな窄みにさえ文字通りはめ込むように、亀頭が押し込まれ、カリをガッチリを掴まれたところでようやく逸物全てが肉壷に収まった。
前は一発目から根元まで入らなかったような気がするが、そもそもそんなことを考えてしまうほどにコクヨウはもう快楽に堕ちかけていた。
「……叔父さんはさ」
コクヨウの意識が少し苦しげなコハクの声によって呼び戻される。
甥達が両親の、肉親の話しをするときだけは決まって、親父ではなく叔父さんと呼ぶのだ。
「親父とお袋が好きだったの?」
心臓を抉られるような感覚がした。コハクのその問いは、問いと呼ぶには些か確信じみた色が過剰に含まれていた。
「……ああ」
「えっちな意味で?」
「……」
沈黙は、肯定と同義だった。
「じゃあ俺とするのは、なんで?」
「……?」
次に来た問いに、コクヨウはすぐさま真意を汲み取ることが出来なかった。
「俺が親父に、お袋に似てるから、俺を抱いてくれんの?」
だがこの一言で、コクヨウは理解した。
つまりはこう言いたいのだ。『亡くなった恋人の影を重ねられているのではないか』と。
そもそもの話し、コクヨウが二人の甥を引き取ったのは、彼らの夫婦が事故によって崩壊させられたからだ。
父方が勤めていた工場での大火事、それに家族全員が巻き込まれた。生き残ったのは子供達だけ、それでも兄は両脚を、弟は右半身を失う大火傷を残した。
コクヨウは跨っているコハクの太股を触る。そこには火傷で毛が生えていない肌と、鉄で作られた義足があった。肉と鉄の境界線、その部分を優しく撫でれば、コハクは不安そうな表情をほんの少し快楽に歪め、顔を赤らめる。
「俺の知ってる姉貴は、お前より身体も胸もでかかったしかっこよかった」
歳の離れた姉は極々一般的な黄色の被毛で、強く優しかった。黒毛差別意識が蔓延っていた幼い頃、必死に弟であるコクヨウを守ってくれた。
「俺の知ってる兄貴は、お前よりイケメンだったし沢山いろんなことを知ってた」
そして姉の幼馴染だった虎猫は、塞ぎ込みがちだったコクヨウを弟のように可愛がり、様々な所へ連れ出してくれた。
「俺は、姉貴も兄貴も大好きだったよ」
きっとこの二人がいなければ今のコクヨウは居なかっただろう。そう断言出来る程にコクヨウの人生は姉と兄貴分に依存していた。だが二人は結婚した。予定調和のようなそんな二人の関係に、しかしコクヨウは複雑な感情を抱いていた。それはきっと……自分自身、わかっていたのだ。
そしてそのことを、この甥は気付いていたのだ。そして疑ってしまったんだろう。コクヨウが甥二人を引き取った意味を。
「だが、だがよ」
切なげな顔をしたコハクの頬に優しく触れる。
「だがお前は、可愛い顔してる。金髪は質が良いし、身体もちゃんと鍛えてるし、何より瞳が、綺麗だ」
コハクの、まさに宝石のような緑黄色の瞳が零れ落ちそうなほどに見開かれ、煌く。コハクの瞳は、肉親にも褒められるほどの、コハクの誇りそのものでもあった。
「姉貴とも兄貴とも違う。俺は、コハクが好きだ」
その言葉を聞いたとき、コハクは不覚にもきゅんとしてしまった。今まさに情事の真っ最中でなければもっとよかっただろうに。そう思ってしまうほどに、惚れ直してしまったのだ。
そしてこの熱をゆっくりを興じるには、今この空間は些か熱を持ちすぎていた。
「コハク」
「あっ」
ズグンと重いひと突きがコハクの内側を抉る。
「好きだ」
「おやっじ、ダメ」
一言ごとに。
「お前が好きだ」
「あっああ」
ひと突き。
「コハクが好きだ」
「まっだめ」
深く、抉りこむ。
「好きだ」
「ああ、んああっ」
それから先は、もはや拷問のようだった。
「好きだ、コハク、好きだっ」
「あっああ、はぁ、親父、いやっだめ……」
ひたむきに一言一言、じっくりと愛を囁き、そして力強く、わからせるために身体に刻み付ける。
しかもコクヨウはいつも以上に動きを干満に、己は射精しないようにコハクを責め続けた。
コクヨウの獣の逸物、肉棘がコハクの肉壷をゴリゴリと刺激する。奥底の小さな窄まりすらガバガバにこじ開けるように、はめ込み、抜き出しを繰り返す。ガッチリとヒダを掴んだ肉棘が小部屋の扉を引っ掛けるたび、傷口に刷り込むようにメスの快楽を植えつけていく。
「ぁうあ、あああっああ」
「コハク、コハクっ」
コハクの乾いた絶頂が終わる間もなく同じ場所を抉り続け、しかしコクヨウ自身は射精に至らない。長く、コハクと繰り返してきた情交によって弱い場所は知っていたが、射精管理までできるようになっていたのはコクヨウ自身も想定外だった。
そうだ、いままで何回も遊びとしてコハクから誘われ、情事を繰り返してきたが、コクヨウはそこに愛がなかったなどとは一度も思ったことはない。
「愛してる……」
もう二度と、愛されていないのでは、などという思考すら浮かばないほどに、コクヨウの愛を刻み付けなければならないと思った。
「や、やぁあ!」
「コハク、愛、してるっ」
コクヨウの腹の上はコハクの噴出した潮でバケツでもひっくり返したくらいにビショビショになっていた。
「あああぁ、うぅっうああ!」
コハクはもはや言語を失っていた。脂肪の内側に確かに感じる筋肉の詰まった腹と胸に完全に身体を預け、ただ供給される愛という快楽に溺れきっていた。
ここまで堕とせば充分か。コクヨウは存外にも冷静に判断して、一転して獣のように行動する。
突き上げていた姿勢から、コハクをソファに寝かせて逆に押しつぶす。そして大きな口を開き、コハクの首根っこにガッチリと噛み付いた。虎が獲物を狩り、窒息させるためにするように。
「かっ……けひっ…………!」
「ぐる」
喉奥で唸り、ピストン速度を一気に上げる。酸素を求めコハクは口を開くも、締められた首と押さえつけられた身体に空気が全く入らない。加えて押し寄せる痛覚と快楽に、急激に視界がホワイトアウトしていく。
息が上がり、玉のような汗が滴り、それでもピストンはなおも衰えない。コハクを孕ませたい。この小さな身体を、小さな子宮を、己の逸物で占領して、犯して、犯して、種付けしたい。逸る気持ちに比例するように、コクヨウの攻めは確実にコハクをメスへと落としていく。
ふわり、コハクは何も見えなくなって身体が軽くなった。命の危機を察知した身体がビクンッビクンッと激しく打ち振える。なのに、気持ちいい。何も見えない。分からない。なのに、気持ちがいい。
「ガァアア!」
虎が吼える。首の絞まりが消え、すっと血が駆け巡り、同時に強すぎる絶頂の余韻が脳を叩き潰す。
「……っ、ぁ……ぁあ」
濃厚な汗と、雄臭さと、精の匂い。そして強烈に、鮮烈に、絶頂の快楽が雪崩のように押し寄せる。まさに狂おしいほどの快楽、痛覚が脳髄を痺れさせる。
そして暖かい愛を、腹奥に確かに感じた。それはどろりと半分固形物のような固さを持ち、高い粘着性でコハクの中を埋め尽くしていく。太く、隙間なく密着した肉の槍が、おびただしい数の肉棘ひとつひとつをヒダで捉えて感じながら、それが脈動するたび、外にでることも叶わない種が腹を内側から押し上げた。
「コハク」
「あ……」
顔を舐められている。コハクが流した涙も、汗も、垂れ流してしまった唾液もまとめて。他者の顔を舐めるのは親愛の証。認めたもの、心許したもの、愛するものへの愛情表現。
毛を梳かれるような優しさと、腹を埋め尽くされていく感覚、いままで感じたことも無い絶頂の余韻に引きずり込まれるように、コハクは意識を闇に落としていった。
*
「まさか親父に気絶させられる日がくるとは思ってなかったなぁ」
夏の盆といえば祭りだろう。そんなこんなで二人は夏祭りに来ていた。
昨日はと言えば、体液で大変な事になったソファの後片付けをコクヨウがなんとか終え、朝になる前にはなんとか綺麗になっていた。間違っても未成年のコガネには見つからないようにしなければならなかったので清掃に抜かりはなかったが、いつもは二人でやる作業をコクヨウ一人でこなした分、コクヨウの疲労は結構な度合いでたまり、気絶したことでむしろすっきりと朝起きてきたコハクにビックリされるほどゲンナリとした顔をしていた。
さわやかな青の甚平を着たコハクは昨日あれほど乱れていたなんてウソだったかのように元気だった。コクヨウにあれやこれやと屋台の食べ物をせがみ、食欲も旺盛だった。たまにちらりと覗く胸元や脇がどことなくエロティックでコクヨウは抗えずにいた。
片やコクヨウは白と黒のストライプの甚平に身を包んで、若干重い足取りで着いて行く。和服というのは恰幅の良いほうが良く似合うもので、コクヨウはまるでいつも着ているかのようにバッチリ決まっているようにコハクには見えた。
なお弟のコガネは学校の友達と別の場所で遊んでいるらしい。
「てかいつもは親父、ちゃんと俺のナカ洗ってくれてたのにどうして昨日はしてくれなかったの?」
こういう言い方をするものよろしくないのだが、コハクはナマで中出しされるのが好きだ。もちろん病気は気にしているので検査もしてるらしい。
だいたいの場合、精液を腸内に残したままで過ごすと後で腹を下すのだ(実際コハクは今朝、朝食後にトイレダッシュしていた)。そういう事情がなくとも、情事後は体中汗と汁で塗れてしまうので寝る前にちゃんと風呂に入ってナカまで洗うようにしているのである。
で、コハクは中出しをした当事者にも面白半分で洗うのを手伝わせたりするのである。実際楽しんでるのだろうし、そのまま風呂場でハッスルしたことも何回かあった。
そしてそれとは別に不可解なことがもう一つ。昨晩、コハクの身体の方はちゃんと洗って、新しい下着に着替えさせられていたのである。
「俺の身体を気遣ってくれたの?」
「……いや」
「じゃあ面倒くさかったから?」
「それは違う!」
「じゃあなんでさ」
そこでコクヨウはぐっと口を閉じる。そして躊躇いがちに口を開いた。
「洗いたく、なかったんだ」
「だから、なんでさ?」
「…………俺の証をお前に入れたままにしたかった」
お互いに顔を合わせて、一瞬の沈黙。お囃子の音が遠くに聞こえる。そしてみるみるうちに顔が赤くなっていくのを鏡写しのように見た。
「ばっバカ、バッカじゃねぇの!?」
「だれがバカだ! 大体お前、たまに俺のこと孕ぐふぅ」
少々本気の正拳突きが腹に埋め込まれコクヨウは言葉を詰まらせる。
「ほんとバカ! エロ親父! 死ね!」
「どの口がいいやがるこのエロガキが!」
内容としては酷い罵倒をお互いに繰り返しながら屋台が並ぶ夜道を進む。しかし互いに、そんなエロいところが好き、だとか、どれだけエロくても心の底から愛してる、などとは口が裂けても言えなかった。
どうしようもなく、血は水よりも濃いのである。
*
「ねぇ~キンちゃん、どうしたの?」
「……」
「キンちゃん?」
「っ! ご、ごめん、なに?」
さて、弟のコガネはといえば、友達とお祭りを楽しんでいる、というのは半分当たりで半分はずれだった。先ほどから自分の愛称「キンちゃん」としつこいほど呼ばれているのにどこか上の空で……というのも、昨日のことがどうしても、忘れられなかったのである。
(兄貴と親父、楽しんでるかな)
幸か不幸か、今日の洗濯物にコガネの下着がひとつ増えていることを、誰も気付かなかった。
「ねぇ~キンちゃん、また上の空だよ?」
「あっごめんね。……ねぇ」
「ん~なに?」
ついでに言えば、寝苦しさに起きたコガネが昨夜、居間の近くを通っていたことも、誰も気付かなかった。
「昨日兄貴が変なことしてたんだけど……聞きたい?」
「えっなに、楽しいこと?」
「ちょぉっとここじゃ言いづらいから……あっちの静かなとこ、行かない?」
ああ、本当にどうしようもなく、血は水よりも濃いのである。