彼女が超者になれたなら?

  水羽楠葉が「その力」を得たのはそんなに過去の話ではない。

  その力はいかに災いを祓い世を守る為、そして「選ばれてしまった」とはいえ一人の人間、一人の少女には重すぎるものであった。

  せめてもの幸いは彼女にとってのよき「理解者」、そして「協力者」に早くも恵まれたことだろうか。

  そして彼女は今日もまた「その力」とともに災厄に挑むのであった。

  うっそうとした森が静かに揺れる。

  その中に現れた邪気を隠しきれないのを示すように。

  そのふもとに一台の4WDワンボックスカーが止まるとその後部ドアが開くのももどかしいか、楠葉は手にしていたバッグをシートに放り投げながら飛び出した。

  「クスハ、すまない!せっかくの下校時だったのに呼び止めちまって!」

  周囲を警戒しながらアイドリングストップをかけている運転席の女性の隣、助手席から金髪の青年が声をかける。

  それに対して楠葉はあえて足を止めて首を横に振る。

  「ううん、これはわたしの「仕事」だから!」

  いつの間に着替えていたのか、その身はシンプルな貫頭衣然とした衣装に包まれている。

  要するに彼女は青年のほぼ真後ろで着替えていた事になるが……まあそれどころではないのは言うまでもない。

  「とにかく急げクスハ!」

  青年の言葉に押されるように楠葉は走り出す。

  それを見送るように女性はブレーキを外すと、ワンボックスカーはその場を走り去った。

  楠葉を置き去りにしたように見えるが、実際は逆である。

  彼女がこれから臨む「仕事」に専念できるように。

  足手まといにならないように。

  そして―「仕事」を終えた彼女を温かく迎えるために。

  その思いを強く感じるからこそ楠葉は走る。

  草を踏み、木々を駆け抜けて走る。

  そんな彼女の左腕にいつの間にか一枚の羽根が浮かび上がった。

  白い羽根の根元に浮かぶ瞳がかっと開き、楠葉に「その時」が来たことを告げる。

  一瞬彼女の顔が赤くほてり、かすかな迷いが浮かぶ。

  しかし、あえてそれを振り払い左拳に力を込め、突き出しながら楠葉は叫ぶ。

  「超者・降臨!」と。

  [newpage]

  その瞬間、左腕に浮かび上がった羽根の中からのぞく瞳が光を放ち、そこから楠葉の身体中にあふれんばかりの力を注いでゆく。

  その力は血液、神経、細胞の一つ一つに流れるように染み込みながら楠葉の身体を満たし、噴き出していく。

  「うあああああああっ!」

  その勢いに走り続ける事ができずに一瞬ビクンとのけぞるが早いか、楠葉はその身体を大きく広げる。

  それと同時に彼女が身にまとっていた簡易な貫頭衣がほぼ一瞬ではじけ、その中からみずみずしく豊かに映える楠葉の裸身があらわになる。

  (うっ……)

  一瞬だけ楠葉の顔が羞恥に染まる。

  人気の全くない森の中、まして「今の自分」はほとんどの人間の目には認識できないとわかっていても堂々と素肌を晒す行為に慣れるには時間がかかる。

  しかし、時間と彼女に満ちる力はそんな戸惑いや恥じらいに浸る時間を与えはしない。

  「うう、ああ、あああああっ!」

  震わせながら上げる声をBGMに楠葉のその素肌がみるみる銀色に染まっていく。

  柔らかくしなやかな身体のライン、何よりその形良く豊かな胸元が銀に染まり、その勢いはいつの間にかその愛らしい顔立ちやショートボブの髪の一本一本を染めあげる。

  麗しき純銀の裸体像―今の楠葉はまさにそれであった。

  表面の質感は輝くシルバーメタルでありながらぴくぴくと収縮する動きはまさに人の柔肌。

  人であり銀のオブジェでもある姿のまま、楠葉は自身に満ちる力を受け止めている。

  (満ちていく……わたしの中に……伸びていく…わたしの中で……)

  その力が銀色の身体に水のように満ち、木のように伸びたその時―!

  満たされきった楠葉の中に落ちた一滴が波紋を広げ、伸びきった枝が一斉に芽吹く。

  「ああ、ああっ、ああああああっ!」

  内側から来る衝撃に身体を反らし、一瞬閉じた瞳がカッと開いた時その大きく優しげな瞳は緑一色に染まった激しき猛禽の瞳に変わっていた。

  それと当時に銀色に染まりながらも柔らかく震えていた素肌がほぼ一瞬で硬質な鋼に変わる。

  その豊かに整った胸の膨らみも、形良く引き締まった臀部も、形はそのままでまるでプロテクターのように硬く引き締められていく。

  緑に染まった瞳から溢れるように緑色のラインが鋼と化した楠葉の身体のラインを彩り、その印象を変える。

  より硬質に、よりたくましく、より戦闘的な銀色の像へ。

  その内側で幾重もの波紋が重なり、無数の芽吹きとともに葉が生い茂る中、硬質のメタルオブジェとなった楠葉はより強く、より確かに勢いを受け止める。

  (ああ……あっ、ああっ、来るっ、あふれるっ、はじけるっ)

  波紋の重なりが、芽吹く青葉が身体中に広がっていく感覚に満たされていく楠葉。

  「ああ、ああっ、あああっ!」

  その声も、その感覚も少女の官能から戦士の高揚へと変わっていく。

  それに合わせるように楠葉の鋼の四肢に、背筋や腹部、臀部、そして胸元に筋肉が膨らんでいくような勢いで力が満ちてゆく。

  外観は硬質でクールな形を整えたままだが、あふれる闘気の勢いはボディビルダーもかくやの肉体を形成しているかのようだ。

  その姿は羽化前の蛹か、それとも孵化前の卵か。

  事実その銀色の鋼の殻の中で重なる波紋と芽吹く若葉は交わりあいつつ新しい形を描いていく。

  それは一つの命。

  それは一対の翼。

  それはそれは今から楠葉を羽ばたかせるための力。

  そして―これからの楠葉の姿。

  銀色に染まった人型の卵の中で人という殻、楠葉という殻を破ろうとする生命の勢いは増してゆく。

  そして、ついに。

  「うああああああああっ!」

  その銀色の殻を破り、新たな命、新たな姿が現れる。

  銀色に染まり鋼の硬度を得ながらもかろうじてかつての姿を保っていた楠葉の四肢が、腰回りが、胸元がはじけながら形を変える。

  両足がはじけた中から現れるのは空を舞う翼を感じさせる足鎧をはめたようなしなやかだが力強い鋼の足。

  伸ばした両腕がはじけた中からは一見華奢だがその中に身体を支え、全てをつかむ強さを持ったカギ爪とそれを支える頑強さを思わせる手甲をつけたような腕。

  あの豊かに整った形はそのままに鳥の顔を意匠とした胸当てを感じさせる胸元。

  「ああっ!」

  一瞬その表情が揺れたあとはじけ飛んだ中から鳥の顔を模した鋼の仮面を思わせる楠葉の顔が現れる。

  そして、その背中から勢いよく一対の水の柱が吹き出すと、それは一対の青く大きな羽に変わる。

  青々とした青葉を感じさせる羽根をまとったような鋼の鎧、そしてみずみずしい水流を思わせる鋼の翼。

  鋼の身体はそのままに、人と鳥が重なったような姿。

  それが今の楠葉―いや、楠葉であって楠葉ではない。

  楠葉の身体を芯とし、楠葉の魂を宿す鋼の鳥人であり世を災厄をもたらす魔と戦う「超者」、その名は―。

  「ライディーン・リフィング!」

  体感時間に関係なく楠葉の柔肌から一転し、楠の青葉のような緑の装甲を輝かせ、水の様に青い羽をひるがえしてライディーン・リフィングは空に舞う。

  目指すは森の深奥、その奥にあるものは―!

  [newpage]

  異形のもの―まさにそう言える存在がそこにあった。

  魔性さえ超えた存在―超魔と呼ばれるそれらは己の種以外とは相容れなく、だからこそなのかそのテリトリーを広げようと魔手を伸ばす。

  いずれはそれらを浄化・救済、あるいは「理解」して共生する可能性もあるのだろうが―今はその段階ではない。

  だからこそ。

  「やあああああっ!」

  リフィングは会敵早々その左右の翼から一本の羽根のような剣を抜いて切りかかる。

  手ごたえはあった。

  しかし、その超魔は寸前で身をかわし、致命の一撃はまぬがれる。

  お返しとばかりに超魔は口元からまがまがしい気に満ちた咆哮とともにエネルギー波を放つが、リフィングもすでに態勢を整えなおしており即座に左手をかざすと水の障壁を張ってエネルギー波をかき消す。

  その障壁を突き破るように超魔が足元から襲い掛かるが、リフィングはかろうじて飛び上がりそれをかわすと右手をかざす。

  その周辺からさまざまな葉を思わせるナイフが浮かび上がり、光るような水の気をまとうや一斉に超魔に襲い掛かり容赦なく切り貫いていく。

  苦痛に悲鳴を上げる超魔に追い打ちとばかり両手に握る剣を振り下ろそうとするリフィングだったが、そこに超魔の反撃がうなる。

  まさに一瞬、超魔の体から放たれた衝撃波がリフィングをとらえて吹き飛ばす。

  「きゃあっ!」

  その衝撃をまともにうけ、リフィングはそのまま地面にたたきつけられる。

  超者の身体にさえ反動と苦痛を残す衝撃に身動きの取れないリフィングにとどめを刺そうと迫る超魔。

  「く、くうっ……」

  苦痛にうめくリフィングを嘲笑するようにとどめの一撃を振り下ろした―瞬間。

  突然リフィングの足元に何かが巻き付くと、その身体は突如として超魔の足元をくぐるようにすり抜け、とどめの一撃はむなしく地面にたたきつけられる。

  まさに一瞬の差。

  動けない代わりに意識を集中して地面から放った蔓を自分の足に巻き付かせ、一気に攻撃をかわしたのだ。

  釣りあげられる要領で一気に引き上げられたリフィングの手足に、胴体に身体に蔓が巻き付いていく。

  「くっ」

  身動きを封じられ、ぎゅっと締め上げられる感覚に声を洩らすがその鋼の顔に焦りや恐れはない。

  「ふう……はあ……」

  蔓から伝わるのは生命の気。

  リフィングの傷を癒やし、戦い続ける力が拘束にも見える光景の中で行われている。

  鋼の超者の身体となっていなければその勢いと心地よさで恍惚の果てに気を失っていてもおかしくはない力が彼女の身体を縛り、その深奥に満ちていく。

  水と木の力を秘めるリフィングならではというより森の中で戦えた事はまさに幸運だった。

  「やあっ!」

  しばしの拘束ののち、自ら解いたかはたまた蔓が自ら引いたか。

  あふれる生命をその鋼の身体に満たし、リフィングは拘束から解き放たれる。

  その勢いで一瞬腕を組み突き出すと水と木の流れのこもった光球が螺旋を描いて超魔を直撃。

  さらにそこから……。

  「はあああっ!」

  跳躍したリフィングの双剣が一気に振り下ろされる。

  今度こそ確かな手応えがあったらしく、超魔は大きな傷を受けながら吹き飛ばされる。

  それでも何とか持ちこたえたようで一気に上空に飛び上がり全身全霊の反撃を放つ……かに見えた。

  動かない、動けない。

  いつの間にかその身体は水と光の蔓に拘束されていた。

  遮るもののない上空で身動きを取れない状況、なんとか打つ手がないのなら―。

  リフィングが翔んだ。

  草むらを踏みしめ、緑の天井と大気中の水分を突っ切って。

  そして叫ぶ。

  「ゴッドバード・チェンジ!」

  その瞬間、胸元を形作っていた鳥の顔がせり上がり、リフィングの顔にかぶさる。

  同時にその視野と感覚が鳥の顔と一つになる。

  両腕が肩ごとせり上がったあとの胴体に押し込まれ、鳥の足を形作る。

  ピンと左右に伸ばした両足が腰とともにせり上がると背中の翼と一体化してより大きな羽になる。

  「はああああああーっ!」

  超者・ライディーンリフィングはその形を人からより早く、より遠く、より高く飛ぶための姿―ゴッドバードに変えた。

  足から変じた翼をはためかせ、腕から変じた両足と腰から延びる尾羽で舵を切りながらその鳥の目でリフィングは狙う。

  超魔の急所を。より確実に、そしてより苦しめずに討てる場所を。

  そして―。

  「見つけた!」

  拘束を寸前で破った超魔の様々な攻撃をかいくぐり、神の鳥となったリフィングは一撃で超魔の急所を貫ききった。

  超魔が霧散し、霞ひとつない青空にリフィングの勝利を告げる鳴き声が響く。

  [newpage]

  雄々しく空を翔けていたリフィングだったが、不意にその鳥の姿を崩すと見る見るうちに人の形に戻っていく。

  背中の翼が前後に分かれ、後部の翼が両足に変わりながら足腰の形を整えていく。

  両足だった形が左右に広がりながら両腕に変わっていく。

  鳥の顔と人の顔の感覚が途切れると鳥の顔が人の顔から離れ、その厚い胸元を再構成してゆく。

  完全に人の形に戻ったところでリフィングは辺りを見回した。

  その緑の瞳で、その鋼の羽毛で、その青き翼で全てを感じ取りながら。

  「……ふう」

  ようやく安堵の声を漏らすとリフィングはそのまま戦場をあとにする。

  青空と緑に映える木々の間を飛ぶ感覚が少しづつ戦いに高揚した心を落ち着かせてゆく中、その瞳はあるものをとらえた。

  「―うん」

  リフィングは軽くうなづくとその場所に向かう。

  木々の中、緑の壁のその奥。

  程よく木々に囲まれた一角で点滅する光。

  呼び寄せるように点滅する光に彼女は導かれると、翼をゆっくりと羽ばたかせながらその場所に降下する。

  感知範囲の中に悪意や敵意がない事を察した彼女は軽く力を抜きながらゆっくりと青空から緑の海に飛び込んでいった。

  緑を抜け、幹に覆われた空間を静かに降りながらそっと瞳を閉じ、意識を鎮めていく。

  全身に広がる波紋を一つ一つ鎮め、身体一杯に生い茂る枝葉を逆回しのように縮めながら。

  「ううっ、ううっ、うううっ」

  そうするうちにリフィングを覆う緑色の羽鎧も少しづつ色を失うように銀色に染まりながら縮んでいく。

  カギ爪を宿した手甲が、羽のような足鎧が。

  豊かに形作られた胸鎧が。

  そして鳥を模した銀色の仮面がみるみる消えていく。

  埋もれていくのか、覆われていくのか。

  その姿はいつの間にか硬質の闘士を思わせる銀色の裸像へと変わっていた。

  唯一超者としての名残を残す青き翼を残して。

  「ああ……ああ……ああ……」

  その内側に広がる波紋が鎮まり、大樹が若返っていく感覚の中でリフィングの姿は更に変わる。

  硬質の表面は軽く震えながら柔らかい素肌に解けていく。

  戦闘的に見えるいかつい体躯は優しく柔らかい形に整えられていく。

  全身に走っていた緑のラインも消えていく。

  顔立ちが柔らかく解ける中、一瞬閉じたあと開いた瞳もまた優しげな輝きを感じさせる人の目になっている。

  鋼の翼と鎧をまとった超者から翼はそのままで硬質の肢体を見せる銀の闘士像へ、そして今そこにあるのは鋼の翼をゆったりと羽ばたかせながら木々の影の中に浮かび、木漏れ日をその輝く肌できらめかせながら舞い降りる純銀の天使像―とも言える姿。

  「ああ……はあ……ふうっ……」

  その口元から盛れる声も優しく柔らかいものに変わっている。

  超者から人間へ。

  戦士から少女へ。

  その過程は静かに、確かに、そして穏やかに進んでいた。

  美しき純銀の天使はその穏やかさを保ちながらさらに姿を変えていく。

  銀色の光沢を放ちながらも柔らかく震えていた素肌から銀色が消えていく。

  輝きと硬さを失いながらもその柔らかい質感はそのままに薄いベージュ色に覆われる。

  「ふぅ……はぁ……ふう……」

  銀色の少女像から生身の人間の姿に変わる中で、その身体の中に広がっていた最後の波紋が広がりながら消えていき、全身に張り巡らされていた枝や根は小さな種となっている。

  そんなイメージを浮かべながら超者・ライディーンリフィングは人間・水羽楠葉へと変わっていった。

  「ふうっ」

  ゆったりと着地する寸前、背中に生えていた一対の翼が一瞬大きく羽ばたいたかと思うと霧のようにその姿を消す。

  木漏れ日の入る木々の中を舞い降りる少女の姿―それはまさに一幅の幻想絵画のようであった。

  その素肌いっぱいに森の空気を吸いながら素足に地面の感触を感じる一方、左手に感じていた羽根の感覚が消えたのを感じた時楠葉はようやく一呼吸つく。

  今回も「帰ってこれた」と。

  そして改めて自分が一糸まとわぬ姿で立っている事を認識し、恥ずかしげに身体を隠しながら辺りを見回す。

  超者の姿となる者は例外なく身につけている全てを吹き飛ばし、生まれたままの姿から「生まれ変わる」。

  そして人の姿に戻ったとしても都合よくそれらが再生することはない。

  せめてもの幸いは超者の力を使っている時は一般の人間には感知されることはなく、うっかりその鋼の翼のみの裸身を公衆に晒すという「負のご都合主義」もないということである。

  とはいえ超者である時はともかく人の姿に戻り、完全に恥じらいを蘇らせていた楠葉は急いで点滅していた光のもとに小走りする。

  そこにあったのは大きめのバッ グ。

  間違いなくあの金髪の青年達が用意していたらしく、中には車を運転していた女性が整えていたであろう衣服の一式、そして……。

  ”Happy Birthday Kusuha”

  と手書きで書かれたメモと小さな小箱、そしてペアチケットが一組入っていた。

  「ちょっとだけフライング、かな」

  それを見て楠葉はクスッと笑みを浮かべ、改めてあの金髪の青年のことを思い浮かべる。

  超者としての楠葉を見つめ、それ以上に「楠葉」を見つめている青年の存在。

  少なくとも彼になら今の姿を見せてもいいような、ちょっと恥ずかしいようなという気持ちを感じながらつい顔を赤く染める。

  だからこそ彼女は「楠葉の形をとったリフィング」ではなく「リフィングの力を宿す楠葉」でいられるのかもしれない。

  楠葉は笑みを浮かべてその小箱を開け、中からアクセサリーを取り出すと裸のままで身に着ける。

  そのあとチケットを取り出し、裸のままで空に掲げて仰ぎ見た。

  [newpage]

  その日、楠葉は穏やかな休日を過ごしていた。

  人々が行き交う通りにあるオープンカフェの一角に腰かけ、静かなひと時を過ごす。

  ただ、向き合っているのは例の金髪の青年―ではなくこの日初めて知り合った少女であった。

  偶然の出会いから妙に意気投合した二人はこうして向き合いながら他愛もない話を重ねている。

  赤みがかったロングヘアを大きなリボンで結わえ、幼さの残る顔を表情豊かに動かすたびにその頭頂の一本毛が軽く揺れる。

  特に家が隣同士という幼なじみの話をする時は全身で感情を露わにする姿に楠葉も笑みを感じずにはいられなかった。

  それは楠葉にとっても少女にとっても「とても小さくもとても大きく、とても大切な」ひと時。

  そんな穏やかなひと時が時ならぬ悲鳴と破壊音に破られる。

  「!」

  「!」

  ほぼ同時に楠葉と少女は顔を上げ、破壊音のした方向を見やる。

  その時、両者は改めて互いを「理解」した。

  そして改めて互いの左腕をかざし、そこに浮かぶ「羽根」を見せ合う。

  「急がないと!」

  「あいつらをやっつけなくちゃ!」

  人混みをたくみにかわしながら人知れない場所にたどり着く。

  あたりを見回す二人の顔に一瞬の迷いが浮かぶが、意を決するように身に着けていたアクセサリーだけ―少女は髪を結わえていたリボンも―をはずす。

  「―君にもらったものだもの」

  「―ちゃんがくれたんだから、これだけはなくせないよ」

  そう言って二人はアクセサリーをバッグにしまい、目立たない場所に隠す。

  そして、ほんのり赤く染まった顔を見合わせるとぐっと左手を握りしめ、浮かび上がる「羽」に力を込める。

  そして―。

  「超者!」

  「降臨!」

  舞い散る翼のようにちぎれ消える衣服と背中に浮かび上がった青と赤の翼の中で楠葉と少女はそのみずみずしい裸身を銀色に染めていくのであった―。

  了