バッドコーポレーションの新社怪人

  「はーーー……また駄目かーーー……」

  ショッピングモールのフードコートで、スマホ片手に僕は深い溜息をついた。

  画面には、すっかり見飽きた内容のお祈りメールが表示されている。

  大学4年ももう中盤。なかなか上手くいかない就職活動に、内心焦りをちらつかせていた。

  と、その時だった。

  『本日2階イベントプラザにて、バッド・コーポレーションの怪人さんとのグリーティングイベントを13時より開催いたします。』

  耳に飛び込んできたのはとあるアナウンス。

  ちょうどその時、近くの通路をのっしのっしと狼とカッターを組み合わせ、首には紫のネクタイを締めた怪人がスタッフに連れられ歩いていた。

  ……ああいう着ぐるみって、事前に着ておくんじゃなくて会場の舞台裏とかで着るんじゃないか。

  そんなささやかなツッコミを心の中でした僕だったが……そんな僕に向けて怪人がペロリ、と舌なめずりをした……ように見えた。

  「……まさか……ね。」

  そのまま会場に向けてのっしのっしと歩いていく怪人を、僕は少し息を荒くして見つめていた。

  [newpage]

  「……それが、貴方が弊社を知ったきっかけですか?」

  はい、と少し緊張しながらも僕はハキハキと返事をした。

  あの後。バッド・コーポレーションについて少し調べた僕は、すぐさまエントリーシートを書き新卒採用の面接に挑んだ。

  就活には割と遅い時期だったものの、この会社はこの時期まで新卒採用を募集しているらしく快くエントリーシートを受け取ってくれた。

  「……ふう。」

  オンラインによる面接を終えパソコンを閉じ、僕は張り詰めていた緊張をほぐして物思いにふけた。

  僕が怪人着ぐるみ(?)で活動する変な会社に興味を抱いたのには理由がある。

  実は、僕は過去に本物の悪の組織に攫われて、怪人に改造されたことがあるのだ。

  しかも3回も。

  僕が初めて怪人にされたのは中学生の頃。

  『バグセクト』という、元人間の虫怪人を使役して世界を女王のレズハーレムに作り替えてしまおうと志す組織だった。

  そんな女怪人だらけの組織、男である僕には一見関係ないように見える。

  しかし……

  「ひっ……‼︎な、なにここぉ!?離してぇ!?」

  当時中学1年生だった僕はバグセクトの虫怪人に拉致され、『プラント』と呼ばれる柱に糸で括り付けられてしまったのだ。

  

  「えへへ……♡だいじょーぶ……♡このモスセイチューちゃんの糸でぐるぐる巻きにして、キミも可愛い虫怪人にしてあげるから……♡」

  「や、やめて……離してぇ……!」

  そんな僕に、幼い口調ながらもムチムチの大きな雌怪人が抱きついてくる。

  そして大きな尻尾から粘り気のある糸を僕に巻き付け……

  

  「んむう……っ!!!」

  あっという間に僕の全身をグルグルと包み込んでしまった。

  

  ……それからどのくらい経っただろう。

  繭の中は無理矢理閉じ込められたことを忘れてしまうくらい心地よく、なんともいえない芳しい雌の香りが全身を包み込んでいる。

  芳醇で濃厚な香りに委ねていると、それに呼応するかのようにまだ中学生だった僕の身体も柔らかくむっちりと肉づいてゆき、股間にぶら下がっていたものは体内に収納され消えてゆき胸も大人の女性のように大きく膨らみ、グラマラスな体型になっていく。

  そんな身体は鮮やかな緑の外骨格に覆われていき、お尻の上からは大きく丸っこい、虫の腹のような尻尾が生え、手は鎌のように変化していく。

  長く伸びた髪も緑色に染まっていき、顔も外骨格に覆われて変化し……

  「あはぁ……💕」

  艶めかしい声を上げ、僕は繭から出る。

  そんな僕の姿は、カマキリと大人の女性を掛け合わせたかのような、いわばカマキリ怪人といったものに変化していた。

  「はぁ……♡すっごく綺麗でかわいいよ〜♡カマキリセイチュー♡」

  「うふふっ💕この身体良いわぁ……💕こんな気持ちいい身体、みんなにも教えてあげなくちゃ💕」

  そう僕……いいえ、私は妖しく微笑み、目の前のモスセイチューと抱き合うのだった。

  

  その後怪人『カマキリセイチュー』として人々を襲っては繭でグルグル巻きにしていた私だったが、ヒーローに倒され人間の『僕』に戻ってしまったのだった。

  [newpage]

  2度目に僕が怪人……というか怪獣にされたのは高校の頃だった。

  その日、僕は塾帰りで夜道を自転車で走っていた。

  その時……

  「ふははは!!!ちょうど良いところに現れたな!!!」

  「うわっ!?」

  キキーーーッ!!!

  「ちょっ!?あ、危ないぞ貴様!!!」

  そっちが急に飛び出してきたくせに、そのちっこい人影は偉そうに叫んだ。

  自転車のライトで照らしてその姿をよく見てみると……

  「こっ……コウモリ⁉︎」

  「ククク、恐怖し慄いているようだな!どうだ!この我が輩『シュバルツ』の恐ろしい姿は‼︎」

  ただ単に驚いただけだが、すっかり僕の表情は固まってしまった。

  目の前にいたのが小さなコウモリ獣人だったからだ。

  「というわけでさっそく喰らえ!『怪人化コイン』!!!」

  「うわあぁぁぁっ!?」

  そんなシュバルツの投げた3枚のコインは僕の身体の中に吸い込まれ、それに応じて僕の身体も変化していく。

  ゴキゴキッ!!!と音を立てて足は怪獣のように大きくゴツいものとなり、手は獣のように大きくなりふわふわな白い毛が生えてくる。

  顔はググッと前に迫り出し、耳は頭頂部に移動し縦に伸びる。

  お尻の上からは丸い尻尾がぴょこん!と生え、変化していく身体はやけにトゲトゲしい黒い服で包まれていき……

  「なっ、なにこれぇ!?」

  僕は怪獣と兎……そして何故か女ギャングを組み合わせたかのような姿になっていた。

  「ククク!どうだ!これが貴様の新たな姿、ドラゴン怪獣『カイジュウサギャング』だ!」

  「ひ、人を勝手にこんな姿に……!というかなんでちょっと女性っぽいんだよこの服装!?」

  「我が輩が知るか!というわけで……『洗脳ホイッスル』!!!」

  「あっ……」

  ピイィィィィィィッ!!!とホイッスルの音が響いたかと思うと、僕の頭が一瞬クラッとなる。

  そんな頭の中に潜り込むように、シュバルツの姿が浮かんでくる。

  ああ……すっごく可愛い……💕

  こんなもふもふでちっちゃな生き物、従わざるにはいられない……💕

  「さてと、コイツは早速巨大化させるか。『怪獣コイン』‼︎」

  そう言ってシュバルツ……様は僕に一枚のコインを投げる。

  それが入り込んだ瞬間、身体はみるみるうちに大きくなり電柱を、住宅を、ビルを超えていく。

  「さあ行くのだ、カイジュウサギャング!ドラゴレンジャーをぶっ倒せ!!!」

  「グオォォォォォォッ!!!」

  僕は快楽に塗れながらも、大きく一声鳴いた。

  数分後、僕は現れた3体のドラゴンにお腹や胸やお尻でプレスされ倒されたのであった。

  [newpage]

  3度目に改造されたのはつい一年前……僕が大学3年生だった頃だ。

  「なるほど。悪くない適性を秘めているようだね。彼なら新たなスウツ怪人の素体として相応しい。」

  ポケモンのシェイミのような姿のラバースーツに身を包んだかのような女怪人が、興味深げに培養槽に入れられた僕を舐め回すように見た。

  僕はゼミからの帰り道、ゼラオラの姿をしたいわゆる『スウツ怪人』というものに攫われてしまったのだ。

  「なっ……なんだここっ……♡ぼっ……僕をどうするつもりだ……ッ♡」

  「……なんで洗脳もまだなのに興奮してるのかな、君は。まあいい。そろそろ始めようじゃないか。」

  息を荒げている僕に呆れたように溜息を吐き、機械を操作するシェイミスウツ。

  ……どうやら僕は、度重なる怪人化の影響でそういうフェチに目覚めつつあったらしい。

  その時も、恐怖心以上に高鳴る期待で胸を膨らませていた。

  どろっ……

  「んっ💕」

  そんな僕のもとに、頭から青白のラバー液が降り足に当たる。

  それはみるみるうちに全身を覆っていき、僕の身体を青白に染め上げていく。

  「あっ💕んあっ💕」

  手足は獣のようになりお尻の上には尻尾が形成され、顔にも張り付いたラバーはマズルと獣耳を形成していく。

  さらに胸元には大量のラバーがまとわりつき、まるで女性のような大きな胸を形成する。

  そして……

  「さあ、完成だ!スウツ怪人に生まれ変わった君の恐ろしさ、世に示したまえ!!!」

  「アオォォォォォォンッ!!!」

  僕は色違いの、それも雌型のルガルガンスウツとなってしまった。

  培養槽から降り立った僕は理性のない瞳のままニヤリと笑うと、目の前に差し出された戦闘員に無我夢中で襲いかかるのだった。

  その後、野生のポケモンのように人々を本能のままに襲っていた僕だったが、ヒーローに倒され元に戻ったのだった。

  ……そんな散々な目に遭ってきた僕だったが、ついにこの日社会人となる。

  ……いや、性格には『社怪人』か。

  そう、僕は最終面接にもなんとか受かり、この『バッド・コーポレーション』の内定を得たのだ。

  入社式のこの日、式の前に僕達は本社の『社怪人製造室』へと案内された。

  「それじゃ次は君ね〜。一応聞いとくけど本当に怪人になっちゃうってのはわかってるよね〜?ほら、毎年1人は分かってない子いるからさ〜。」

  改造手術台のある部屋に案内された僕は、白衣を見に纏い山猫と注射器が融合したような女性社怪人に説明された。

  そう、この会社は入社した人を本当に怪人に改造してしまうのだ。

  まさか、とは思ったが、何度も面接を受ける度にそれが真実だと明らかになっていった。

  それでもこの会社に決めたのは……その……どうも怪人にされるということにすっかりハマってしまったからだ。

  きっとこれが天職というやつなんだな……と思いながらも僕は頷き、服を脱いで手術台に横になった。

  「にゃはは〜、そんなコーフンしなくても大丈夫だよ〜。5分くらいで改造終わっちゃうからさ。」

  フレンドリーにあっけらかんと笑いながら、山猫怪人さんは僕にチューブを取り付けていく。

  そしてスイッチを押すとピンクの光が息を荒げる僕を覆い尽くし……

  「んにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??💕」

  突如身体が白い毛に包まれ、社怪人デビューを果たしていくのだった。

  [newpage]

  「ニャハハハハハハ‼︎いい気味ニャ、ヒーローくん?」

  「くっ!2体がかりとは卑怯だぞ‼︎」

  ある日曜の昼下がり、この僕『エンバランスキャット』はショッピングモールの一角でヒーローと戦闘を繰り広げていた。

  「さあトドメを刺すニャ、ドリルモール先輩!!!」

  「モーグモグモグ‼︎俺様の必殺技ドリル、受けてみろ!!!」

  そう叫んでドリルモールは全身につけられたドリルを高速回転させる。

  そのままヒーローに突っ込もうとするが……

  「させるか!ストロベリースプラッシュ!!!」

  「うにゃっ!?」

  「モグッ!?」

  どこからともなくイチゴの種のような光弾が僕達に当たり、吹っ飛ばした。

  「お前達の悪の心は、俺のT県魂で吹き飛ばす!!!カンピョー・トルネード!!!」

  そう叫んでヒーローは、勢いよく僕達にキックを決めた。

  「「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

  そう断末魔を上げ舞台裏に消えていく僕達を、子供達の歓声が見送った。

  「初任務お疲れ様!なかなか良いやられっぷりだったよ!」

  「あ、ありがとうございます!」

  舞台裏にて、僕の一つ上の先輩である社怪人『ドリルモール』さんは僕に少し変な褒め言葉をかけた。

  モグラとドリルの合成怪人となってしまった彼は、一年前この会社が本物の悪の組織だとは知らずに入社し訳も分からないまま怪人に改造されてしまったようだ。

  それを知った時は『これが人事のシリンジワイルドキャットさんが言ってた……』と思ったが、まあ歳が近く面倒見も良い人だ。

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  「それにしてもなんで僕、こんな女の子みたいな見た目なんですかね……。ネクタイもちょっとペットの首輪みたいになってるし。」

  「あ〜………君って、結構可愛い系の怪人の方が向いてるのかもね。ほら、前改造されたって時も女の子っぽい怪人ばっかりみたいだし。」

  「うう、もっとドリルモール先輩やカッターウルフ先輩みたいなかっこいい怪人が良かった……」

  「あ、お疲れ様です!大丈夫ですか?結構思いっきり蹴っちゃいましたけど……」

  「お疲れ様です!僕達社怪人は頑丈なのでどんどんド派手にやっちゃってください!」

  そんな折、先程戦っていたとは思えないほど丁寧に挨拶しにきてくれたご当地ヒーローに先輩は明るく答えた。

  僕達バッド・コーポレーションの主な目的は、ヒーローショーでの戦闘やイベントでのグリーティングらしい。

  非常に頑丈かつ攻撃力が並の人間以上に皆無な僕達社怪人は非常にヒーローショー向きであり、ド派手に戦っても僕達もヒーロー役も傷一つ負わないという寸法だ。

  こうしてヒーローショーを盛り上げたりグリーティングイベントを行うことで地域活性化を目指す組織、それがバッドコーポレーションなのだ。

  ちなみに戦闘員ももちろんいるがこちらはバイト。

  今日来てくれてるのは男子高校生の子が1人と女子大生の子が1人。というかこんなバイトあるなんて知ってたら絶対やってたのにな……

  「それじゃあ10分後に写真撮影会なので、それまで休憩お願いします!そ、それと私、前そちらのカッターウルフさんとお仕事させていただいた時に社怪人のファンになってしまいまして……その、握手とか……」

  「もちろん!握手だけでなくハグもお好きなだけ!」

  「本当ですか!?ではお言葉に甘えて……」

  そう言うとヒーローは、先輩のモフモフ獣毛におそるおそる抱きついた。

  ……子供達が見たら夢を壊しかねない絵面だな。

  というかなんか思ってたのとだいぶ違う……

  「ほら!エンバランスキャットちゃんもハグしてあげなよ!」

  「先輩今さらっとちゃん付けしませんでした!?」

  まあいいか。仕事は楽しいし憧れの怪人として働けたわけだし。何より悪の組織なのに結構ホワイトな会社だし。

  幸せのためか溜息を吐くヒーローを、先輩やバイトの戦闘員達に微笑ましそうに見つめられながら僕は複雑な面持ちでハグするのだった。