AdAd
  
ハロウィン失踪事件 生贄編

  [chapter:魔女の誘い]

  部屋で待機し始めて早1時間。

  バルジは瞼を閉じソファーに腰掛け腕を組んだまま事態が動くのを待っていた。

  ふと瞼を開き腕時計で時刻を確認する。

  (すでに1時間か…あれから部下からも連絡がない。恐らく俺と同じ状況か。こうなれば就寝時刻まで待機をして、皆が寝静まったら捜索をするしかない…か?)

  脳裏で今後の作戦を検討していると、突然ドアのノック音がした。

  コンコン

  「ん?どちら様でしょうか?」

  『メディアです。あの…バルジさん、少し宜しいでしょうか?』

  (メディア様?こんな時間に一体なんの用だ?)

  突然の訪問に不審に感じながらバルジはゆっくり扉を開いた。

  「こんばんわ、バルジ…さん?」

  扉を開けると、まるで何かに驚いたようにメディアは目を大きく開いていた。

  「メディア様。こんな夜分にどうかされましたか?」

  「…………」

  訪問理由を問いかけるも、顔を赤くしたまま反応しないメディアに再度声を掛けた。

  「あの……メディア様?大丈夫ですか?」

  「え?あっ…ごめんなさい。先程と雰囲気が違いましたので…その…少し…驚きました」

  「雰囲気?あ~仮装でしていたカラーコンタクトを外したからですね。実は普段コンタクトを付ける習慣がありませんので、少し目が疲れてしまいまして」

  「そうでしたか。でもその蒼い瞳の方がお似合いですね」

  「え?そう…ですか。それはどうも。ところで…どのような御用件でしょうか?」

  「え?いえ少し様子が気になりまして。その…あれからお体はどうですか?」

  (なんだ?わざわざ俺の体調を気に掛けて尋ねたのか?それならば先程のメフィストが報告をしていそうな気がするが。これも何かの策略なのか?)

  「それはご心配をお掛けしました。お陰様で体調は良くなりましたよ」

  「そうですか、それは良かったです。あの…それでしたら少しお話宜しいかしら?」

  「……分かりました。こちらにどうぞ」

  「お邪魔します」

  少々気乗りがしないが、少しでも情報を入手する為、メディアをソファーへ案内をした。バルジは向かい側に座り、早速訪問理由を確認する。

  「それで……お話とはなんでしょうか?」

  「そんなに身構えないください。実はハロウィンイベントでチョコを作りまして、良かったらご試食いただけないかと思いまして」

  メディアがチョコの箱を差し出すと、バルジは直ぐに回答した。

  「せっかくのご厚意に申し訳ありませんが、生憎甘い物が苦手です。それに先程の酔いも少し残っていますので、謹んでご遠慮させていただきます」

  「そうですか。確かにその通りですね。配慮が足りず失礼致しました」

  「いえ。それで…御用件とはそれだけでしょうか。でしたら、そろそろ休息を取りたいのですが」

  「それは申し訳ありません。大したことではないのですが、ただ…貴方のことを知りたいと思っただけです」

  「私のこと…ですか?それなら先程の晩餐会でお話をしたと思いますが…」

  「もっと教えて頂けませんか?」

  「いや…流石に初対面でこれ以上の個人情報をお教えするのはちょっと…」

  バルジが返答を渋っていると、痺れを切らしたメディアが問いかけた。

  「でしたら……単刀直入にお聞きますわ。バルジさん、あなたに婚約者はいらっしゃいますか?」

  「……は?今……なんと仰いましたか?」

  「結婚相手はいるの…ってお聞きしました」

  唐突の予想外な質問に思わず硬直してしまった。

  (な、なんだ?!初対面の相手になんていう質問をする人だ。これも何かの戦略なのだろうか…)

  「いや……そのような相手はおりませんが」

  言葉の誘導に警戒をしながら答えると、メディアはとても嬉しそうな笑みを溢す。

  「え!本当なの?!ならバルジさん。わたくしのお願いを聞いていただけないかしら?」

  (この状況でのお願い?なんだか嫌な予感がするな…)

  「はぁ…それはどのようなお願いでしょうか?」

  「わたくしの旦那様になっていただけませんか?」

  「…………」

  その言葉を聞いてしばらく沈黙が流れた。

  数秒後、正気に戻ったバルジは気が抜けたように答えた。

  「それは……何かの冗談でしょうか?」

  「本気よ、わたくしはバルジさんに一目惚れをしてしまったのよ」

  「いや…そんな急に告白されても正直困ります」

  「そんなことは重々分かっているわ。でも急がないと明日には帰ってしまうでしょう?」

  「だとしても性急すぎます。私は貴方の事を何も知りませんし、私にも自分の生活がありますので」

  「知らないのは当然だわ。だから…」

  困惑をしながら必死に説得をしている最中、メディアは立ち上がりバルジの横に移動して腕を掴み寄り添ってきた。

  「今から…わたくしの全てを教えてあげてもいいわ」

  「ちょ、ちょっと!それは勘弁してください!」

  「遠慮しないで…貴方は特別だから」

  「特別って…こんな一般男性の何処が特別なのですか!」

  「バルジさんはとてもいい香りがするもの…」

  「いい香り?またそれですか?!さっきも言いましたがそれは…」

  「化粧品の香り…でしょ。でも改めて近くで嗅ぐとやっぱり特別な匂いがするわ」

  (まさか…この人…匂いフェチなのか?だとしたら質が悪い)

  予想外の事態に困り果てていると、そんな事を気にせずメディアはバルジの太ももに乗りかかりソファーの背もたれに押し倒した。

  「ちょ、ちょっと!本当に止めてください!いくら何でも初対面の相手にやり過ぎです!」

  行き過ぎた行為に即刻抗議をすると、メディアは悪魔的な笑みをしながら両手で顔を包み始める。

  「うふふっ…ねぇバルジさん。あなたって朴念仁とか言われたりしていません?」

  「は?」

  「鈍感って言われるでしょ。そんな綺麗な顔をしているのに勿体ないわ」

  「綺麗な顔って……見ての通りすでに傷物です」

  「この傷もとてもいいと思うわ。この栗色の髪も…それにこの蒼い瞳も…」

  (まずい…非常にまずい。こんなところ部下に見られたりしたらなんと言われるか分からん。過ちを犯す前になんとか制止させなければ…)

  「あの…お気持ちは分かりますが、とりあえず一回離れて落ち着きません、、んん!!」

  制止の言葉を言い切る前にメディアは、バルジの唇を奪っていた。

  (しまった…油断した!これはいかん。早く引き離さなければ!)

  口付けを受けながら両手で必至に引き離そうとするが、しっかりしがみつかれてびくともしない。

  「うっ……んっ…んん」

  (なんて……力だ。全く引き離せん。本当にこの方は女性なのか?!)

  決して手加減をしているわけではないが、どうにも出来ない事態により危機感が上がった。

  「んんっ…んん……」

  必死に抵抗しながらキスが続くと、突然事態が急変する。

  「んっ…ん……うっ!!!」

  (なんだ?今…口の中に何か……はっ!まさか?!)

  身の危険を感じると、渾身の力でメディアを突き飛ばした。

  「キャア!!!」

  倒れているメディアに目もくれず、急いで口の異物を吐き捨てる。

  「ぺっ!はぁ…はぁ…危なかった。お前…今、何を飲ませようとした!」

  睨みをきかせながら倒れているメディアに怒鳴ると、そのままの姿勢で回答した。

  「本当に用心深い人ね…安心して。ただの睡眠薬よ」

  「睡眠薬…だと?!本人の許可なしに服用させることは犯罪だろ!!」

  怒りのまま告げると、メディアは悪魔的な笑みを溢していた。

  「それは…バルジさんも同じでなくて?」

  「同じ?どういう意味だ!」

  「白々しいことね。じゃあ…これな~んだ?」

  メディアが見せびらかしたのは、バルジが耳につけていた通信用のイヤホンだった。

  「っ?!それは…いつの間に…」

  「バルジさん。あなたはただの参加者じゃないわね。タビトの保安官って言っていたけど、もしかして…本当はSDFかしら?」

  「…………」

  「黙っていると言うことはそういう事なのね。あれだけお金を蒔いたのに銀河鉄道管理局も勝手な事をしてくれるわ」

  恨みの籠もった声でぼやきながら、イヤホンを床に捨て思いっきり踏みつけて破壊をした。

  バキン!!

  無表情のまま踏みつけている光景を見て、冷や汗をかきながら声を掛けた。

  「ここまできていい訳をするつもりはない…が、それはとっくの昔に分かっていたのではないか?」

  「それはどういう意味かしら?」

  「我々がSDF関係者と分かっていた上で、選定して館に招き入れたのではないかということだ」

  「そうだとして、わたくしになんのメリットがあるのかしら?」

  「それは正直分からん。考えられるのは、我々を罠に嵌めて強硬手段をさせないようにする為か、それか…毎年の行方不明者同様に才ある者として招き入れた…か」

  バルジからの追及を受けると、表情が一変して身の毛もよだつほどの妖魔的な顔でメディアはあざ笑った。

  「ふ、ふふっあははははっ、はぁ~やっぱりバルジさんは素晴らしいわ。勘の鋭さは一流ね」

  確信とも取れる言葉を聞いた瞬間、バルジは背中に隠していたコスモガンを構えた。

  カチャ!

  「やはりその様子では行方不明者について何か知っているな。正直に白状してもらうぞ!」

  「うふふっいいわよ。ただしもう何も証拠は残っていませんけどね」

  「証拠が残っていないだと…一体どういう意味だ!」

  言葉の意図が見えない状況に怒鳴りつけると、何処か楽しそうに説明を始めた。

  「そんなに気になるのなら教えてあげる。彼らはね…生け贄よ」

  「生け贄…だと?おい…この期に及んで変な冗談はやめろ!」

  「冗談ではないわ。私が魔女として生きる為には生贄が必要なのよ」

  依然として真顔で告げてくるメディアを見て、内心では暗い想像が過ぎっていた。

  (生贄……まさか…あの仮説が…。いや…流石にそんなことはあり得ん。そんな事が現実にあってたまるか)

  額に冷や汗を流しながら、恐る恐る確認をした。

  「その生贄と…行方不明者が何か関係があるのか?」

  「うふふ、鈍い人ね。関係があるも何もそのままの意味よ」

  「なに?」

  バルジが一瞬思考を止めると、再び妖魔的な顔で真実を告げる。

  「わたくしはね。人肉と生き血しか食べられないのよ」

  「…………は?おい…今、なんと言った?」

  恐ろしい発言に硬直をしていると、メディアは真実を語り出した。

  「仕方がないわね。分かりやすく教えますわ。私は人食い人種よ。人間の肉と生き血を摂取しないと、どんどん衰えていってしまう特別な人種なのよ」

  「なっ?!そ、そんな馬鹿な!そんな人種など聞いたことがないぞ!!」

  「それはそうよ。人食い人種なんて知れたら真っ先に殺されちゃうでしょ?」

  「そこまで警戒をしているのならば、なぜ銀河鉄道の乗客を狙った!」

  「それはこの星に人を呼ぶためよ。もうこの星にいた人種は食べ尽くしてしまったわ。だから、どうしても新しい血肉が必要だったのよ」

  「なんとも身勝手な……だがそんなに切羽詰まっているのならば何故才ある者達を選んだ?」

  「色々研究した結果よ。才ある者たちの血肉は絶品だし、何より若さを保つには最適な栄養分になるのよ」

  「ふざけた事を………ん?」

  メディアの話を聞いた瞬間、先程の晩餐会の食事を思い出した。

  「待てよ…だとしたら…さっきの晩餐会に出ていた肉は…」

  「うふふ、そうよ。あれは最後に残していた人肉の残りよ。新しい獲物を狩る日には最高のご馳走を食べるのが私の願掛けなのよ」

  不気味な笑顔で答える姿にバルジは急激に吐き気を感じた。

  (う“っ…なんてことだ。だが食わなくて本当に良かった。これは有紀達には絶対に言えん)

  「今…最後の人肉と言ったな。ということはもう行方不明者達は…」

  「えぇ、すべて私の供物になったわ」

  「なんて…惨いことを。だがそれが事実ならば立派な殺人罪だ!」

  「あら?証拠も何もないのに逮捕するの?」

  「今の話で充分だ!貴様をこれ以上野放しにするわけにはいかん。大人しくこのまま投降してもらうぞ!」

  「嫌だと…いったら?」

  「貴様に拒否権はない。従わない場合はここで射殺する!」

  鬼のような形相で叫ぶバルジに、妖魔的な顔で笑った。

  「ふん、相変わらず血の気のない組織なことね。でもそんな事をしていいのかしら?」

  「なんだと?」

  意外な言葉にバルジは引き金の指を緩めた。

  「わたくしがなにもせずにここに来たと思っているの?」

  「どういう意味だ!!」

  「気になるなら付いて来なさい。でないと大切なものを失うわよ」

  (大切なものだと…まさか…)

  不可解な言葉に危機感が警鐘を鳴らしたバルジは、一時射殺を断念し提案に乗ることにした。

  「……分かった。まずはその理由を確認させて貰う。ただし、妙な事をしたらすぐに引き金を引く、いいな!」

  「えぇ、構わないわよ」

  未だにコスモガンを向けられていても余裕な笑みをするメディアに同行することになった。

  [newpage][chapter:生贄の首輪]

  しばらく黙って歩いていると、先程の晩餐会場に着辿り着いた。

  「ここは…確か先程の晩餐会場か?」

  コスモガンを構えたままドアを見つめていると、ゆっくりと扉が開いた。

  再度、気持ちを切り替えて身構えると部屋からバトラーのメフィストが出迎えた。

  「メディア様、お待ちしておりました。御命令通り準備は整っております」

  「うふふ、それは良かったわ。こちらも予定通りよ」

  「そうでございますか。流石は我が主。では…最終段階でございますね」

  「そうね。宜しく頼むわよ、メフィスト」

  「お任せください、メディア様」

  二人の不気味な会話にバルジは急激に嫌な予感がしていた。

  (こいつ…俺が主人に銃口を向けているというのに全く動じておらん。何か…策でもあるというのか?)

  策略な予感を感じている最中、会話を終えたメフィストがバルジに告げる。

  「それではバルジ様。どうぞ…こちらに」

  「貴様…この状況でよく案内ができるな。俺がメディアを殺さないと思っているのか?」

  「その心配は不要です。バルジさんは賢いお方ですから。なんの確証もない今、メディア様に危害を加えることはありません」

  「ふん。随分と舐められたものだ」

  「それはどうも。とにかく…こちらに」

  再び催促してきたメフィストに警戒をしながら、メディアと共に部屋に入室した。

  罠の類いに注意を払いながら部屋を見渡すと、予想外の事に大きく目を開いた。

  「ん?あれは……」

  バルジが目にしたのは、部屋に案内されているはずの有紀、デイビット、ルイ、ピンツ。4人は姿勢を正して壁を後ろに整列していた。

  「有紀…デイビット…ルイ…それにピンツ青年。何故お前らがここにいる?!」

  バルジを認識したシリウス一同は悲痛な表情で状況報告を行った。

  「バルジ…隊長。すみません。個室で眠らされてしまって…気が付いたらこの首輪をつけられてここに立たされていました」

  「原理は不明ですが…体が全く動きません」

  「隊長…これどうなっているのですか?!」

  有紀・デイビット・ルイの言葉を聞いて、再度よく見ると赤い首輪のようなものが4人に付けられている。

  「体が動かないだと?メディア!一体あいつらに何をしたのだ!」

  「うふふ、そんなに驚かないで。ただ生け贄の首輪を付けただけよ」

  「生け贄の…首輪?」

  「あの首輪をされた者は、ご主人様であるわたくしの言いなりになるのよ」

  「言いなり…だと」

  「えぇ、意識はそのままでわたくしの命令はどんなに嫌でも従ってしまうのよ」

  「なんとも悪魔的な品物だ…そんなもの今すぐに外せ!!!」

  「うふふ、馬鹿ね。せっかく捕まえた獲物を逃がすはずがないでしょ?」

  「そうか…ならば今すぐお前を殺して、鍵はあとでゆっくりと探すとするか!!!」

  怒りに狂ったバルジが再度メディアに構えると、メフィストが制止した。

  「バルジ様!メディア様を殺害するのはお仲間の為にもお止めになった方が宜しいと思いますが?」

  「なに?それまた何故だ!」

  「生贄の首輪はメディア様の生命反応とリンクしております。メディア様の命が潰えた瞬間、自動的に主の後を追うようになっております」

  「主の後を…追うだと?それはつまり…」

  「えぇ。全員自ら自害をするということでございます」

  生贄の首輪の説明を聞いて、想定外の事態にバルジは大きく目を開いた。

  「自害…だと。そんな残酷な仕掛けまでしてあるのか!」

  「うふふ、そうよ。これから長い日々を過ごすのだから主従関係は大切にしないとね」

  「主従関係だと…この何処が主従関係だ!これでは都合のいい奴隷ではないか!」

  「そうかもね。でもどうするの?大切な仲間が死ぬと分かっていて私を殺すの?そんなこと出来ないわよね。わたくしの知っているバルジさんはとっても優しいお人ですものね」

  「くっそ……」

  (ここでメディアを殺せば有紀達が自害してしまう。それが分かっていて容疑者殺害など出来るはずがないだろが!)

  バルジがコスモガンを構えたまま判断に悩んでいると、人質の一同から不安の声が漏れた。

  「この首輪がそんな物だなんて…これじゃ隊長が手が出せないよ」

  「それに生贄って…それじゃあ俺たち食われちまうって事かよ?!」

  「嘘でしょ?!笑えないわよ!」

  「ねぇ!これってどういう事なんだよ!メディアさん!これもハロウィンのイベントなんだよな?」

  有紀・デイビット・ルイ・ピンツからの声にメディアは正直に答えた。

  「えぇ、その通りよ。貴方たちはわたくしへの生贄。毎年の行方不明者と同じでいずれ供物になって貰うわ」

  悪魔的な笑みを溢しているメディアを見て、一同は絶望していた。

  「おいおい…笑えねぇぞ」

  「ということは…行方不明者は…全員…メディアさんに」

  「うっ…私…気持ち悪い…」

  「い、嫌だ!!!俺食われたくない!!!」

  盤面蒼白のデイビットと有紀。吐き気を感じているルイ。恐怖のあまり涙を流し叫んでいるピンツ。その様子を横目で見ていたバルジは危機感が上がった。

  (いかん…完全に蹴落とされた。これでは解放出来たとしても直ぐに任務続行は厳しい。だが…本当に生贄として捕獲したのであれば、何故彼は…)

  状況分析を行っていたバルジはあることが気になり、思わずメディアに疑問を投げかけた。

  「おい、一つ…聞いてもいいか?」

  「な~に?」

  「何故……ピンツ青年を招待した?」

  「あら?急にどうしたの?」

  「彼はお世辞でも才のある者とは言えない。それでも選定したという事は何か理由があるのだろ?」

  「あなたならその理由はなんだと思うの?」

  メディアの言葉に、脳裏でどす黒い仮説が過ぎり嫌な汗をかいた。

  「それを答える前にもう一つ確認していいか?」

  「なにかしら?」

  「……フランツはどうした?」

  嫌な汗をかきながら尋ねると、会場の扉の方から声が聞こえる。

  「……お呼びですかな」

  声の方を確認すると、先程のドラキュラの服装ではなく、メフィストと同じバトラー服に着替えたフランツが立っていた。

  「その格好……やはりお前は…」

  「お察しの通り、私はメディア様の第二のバトラー。メディア様の命令により特別列車861号にて潜入選抜をしておりました」

  「なるほど。お互いに探り合っていたということか…」

  「その通りでございます。やはり貴方が一番食えないお方だ」

  列車で言った言葉をそのまま返されて、少しイラッとしたがこれによりバルジの仮説は確信へと変わった。

  「お前が捜査官だとしたら、ピンツ青年を選抜したのは…俺への布石か」

  「ホホホ、やはりバルジ様は賢いお方ですな。流石はSDFの隊長様でございます」

  「くっ…」

  フランツとのやり取りを聞いていた有紀がバルジに驚きの表情で確認をした。

  「隊長!今言った布石って…どういう意味ですか?」

  「……こいつらは選抜当初から俺が最後まで捕獲されないと想定をしていたということだ」

  「え?た、確かに…バルジ隊長ならそう思われても納得できますが」

  「でもよ。だからってなんでピンツの選定に繋がるんだよ!?」

  「バルジ隊長…メディアさんの狙いはなんなんですか??」

  シリウス一同の言葉に対して嫌な汗をかいたバルジは言葉を詰まらせながら口を開いた。

  「俺に……ピンツ青年の身代わりを選択させるのが狙いだ」

  「「「み、身代わり?!」」」

  一同が騒然とする中、バルジが恨みの籠もった視線で睨みながら説明を始める。

  「そんなに生け贄が欲しいくせに、毎年4人しか捕獲ができなかったのは、その生贄の首輪は4つしかないということだろう。でなければ無差別に付ければいいからな。そして、その貴重な首輪をピンツ青年に付けたのは、俺の捕獲が困難と判断したからだ。一番のお気に入りを綺麗な状態で捕獲するなら、身代わりをさせて自ら首輪を付けさせればいい…これが俺の仮説だ。何か違うか?」

  バルジの仮説を一通り聞いたメディアは嬉しそうな笑みで拍手をした。

  「大正解!流石わたくしが一目惚れした男だけあるわ」

  「どこまでも…ふざけた事を。だがそう簡単に服従すると思っているのか!」

  「あら?この状況で抵抗するの?なら、抵抗できないようにしてあげる。有紀学、命令よ。テーブルのナイフを持ってピンツの首をゆっくり切りつけなさい!」

  「うわっ…体が…勝手に…」

  「有紀くん!!」「学!!」

  動揺しているルイとデイビットを残して、命令通りにテーブルの上にあるナイフを手に取った。

  そしてピンツの下に行き、必死に抵抗して震えるナイフをゆっくりと首に近づける。

  「やめろ…やめろよ!!」

  「学!やめろよ!」

  「やめて!有紀くん!!」

  「有紀!命令だ!直ぐにナイフを手放せ!!」

  シリウス一同が血相をかいて声を上げるが、有紀はその願いを聞き入れることができずにいた。

  「だ、ダメです!バルジ隊長……体が…言うことをききません!」

  ジリジリと近づくナイフの先にピンツは恐怖を感じていた。

  「嫌だ…嫌だよ……俺…こんなところで死にたくない…なぁ!助けてくれよ!バルジさん!!」

  「くっ…ピンツ青年」

  額に大量の汗をかいた有紀が抵抗しながらバルジに苦渋の決断を求めた。

  「バルジ…隊長……俺を…撃ってください!!」

  「なんだと?!」

  「乗客の人命が…第一です。俺に構わず…任務を…遂行してください!!!」

  「ま…なぶ……」

  自らの命を捧げようとする姿にコスモガンを構えたまま硬直しているとメディアが高笑いを始めた。

  「ふはははっこれは随分とご立派な隊員さんなことね。でもね、もしバルジさんが貴方を撃ち殺しても次はルイさんに命令をするだけよ。その流れではバルジさんは自分の部下を皆殺しにしないといけなくなるわよ」

  「なっ……なんだって?!」

  「そんなのあんまりよ!!」

  「ちっ!なんつう悪魔的な魔女なんだよ!!」

  一同が怒りの声を漏らしている中、バルジはコスモガンを構えたまま苦悩を抱えていた。

  (どうする……流石にこの角度ではナイフだけを狙うのは不可能だ。いや……仮にも撃ち抜けたとしても再び命令を仕掛けてくる。だからといって有紀や仲間を撃つことなどできるはずがない。くっそ…本当に悪魔的な考えを持つお嬢さんだな)

  額に冷や汗をかいて思考を回していると、生殺与奪の権利を握っているメディアが嘲笑った。

  「ふふふっ、さぁ~て賢いバルジさんはどうするおつもりでしょうか?可愛がっている学くんを自身の手で殺しちゃう?それとも学くんがピンツくんを殺すところを黙って傍観でもする?」

  「くっ……貴様…どこまで卑劣なのだ!!!」

  どうすることもできない状況に怒号を飛ばすも、メディアは冷徹な瞳で最後の仕上げに取りかかった。

  「いくら言葉で言っても無駄なことよ。さぁバルジさん。彼らを無事に助けたいのなら、武器を捨てて私に服従しなさい」

  「くっ…」

  「だ、ダメです!バルジ隊長!武器放棄なんて絶対にしないでください!!」

  「隊長までこの女に服従したら、俺たちの命運もここまでですって!!」

  「私たちのことはいいですから、ここは一度逃げてください!!」

  シリウス一同が必死に武器放棄を制止させようと説得をしていると、ナイフを向けられているピンツが泣きながら請願した。

  「バルジさん……お願い…だよ。俺…死にたくねぇよ……お願い…助けて…」

  (このままでは隊員とピンツ青年の命が危うい。この状況では逃走するのも不可能…か。……やむを得ん)

  状況の悪さに苦渋の決断をすると、勝機を失った瞳でゆっくりとコスモガンを下ろして床に捨てた。

  [newpage][chapter:身代わりのシリウス]

  「「「バルジ隊長!?」」」「バルジさん?!」

  武器放棄を目の当たりにした一同が動揺している中、傍観していたバトラー二人から拍手が聞こえる。

  「いやいや…どうやら賢明なご判断をされたようですな」

  「流石はバルジ様。メディアがお気に召すのも頷けます」

  (くっ…嫌みったらしいバトラー共だな。しかしこんな決断しかできないとは我ながら無様でしかないな)

  自身の不甲斐なさに苦笑していると、気持ちを切り替えてメディアに交渉をする。

  「メディア。お前の要求に従う代わりに一つ頼みを聞いて欲しい」

  「あら?この状況で一体どんなお願いかしら?」

  「ピンツ青年の…命を保証してくれんか?」

  「ん?それは正確にはどうしてほしいの?」

  「彼をこの館から出してやってほしい。元より彼には興味はないのだろ?ならば解放しても差し支えはないはずだ」

  バルジからの提案に先程拍手をしていたフランツが苦言をした。

  「メディア様。お言葉ではありますが、今彼を解放しては外部より助けを呼ぶ可能性がございます」

  「ふん。意外にも小心者だな。そもそも我々を捕らえた時点で管理局が気付かないはずがいないだろ。まぁ…その時はお得意の権力でねじ伏せるのだろうがな。我々の事は別にして、ピンツ青年に関しては黙ってさえいればただイベントに参加した乗客だ。黙秘さえしていれば、管理局もそれ以上追及はしてこない」

  「へぇ~でも彼が黙秘できるとは思えないけど」

  メディアの追及を受けて、バルジはピンツの方に視線を向けた。

  「ピンツ青年、シリウス小隊隊長としての頼みだ。もし…ここから脱出ができたとしても、この館で起きた事実は誰にも話さないでほしい。ただイベントに参加しただけと貫き通してほしい。できるか?」

  「で、できるけど…でもそれじゃ…バルジさん達が…」

  「我々は元より覚悟の上で潜入任務をしている。自分達の事は自身でなんとかする。だから…我々SDFを信じて頼みを聞いて欲しい」

  「バルジさん……分かったよ。それが俺にできることならそうする」

  「ありがとう…ピンツ青年」

  ピンツと約束をすると、再びに鬼の形相でメディアに告げる。

  「さぁ、彼と約束をしたぞ。俺の頼みをきいてくれんか?」

  「うふふ、随分と真面目ね。いいわよ。元より彼を食しても大した栄養にはなりませんし、その代わりに貴方が綺麗に手に入るのなら、安いお願いよ」

  「安いお願い……か」

  軽々しく約束することに、少し怒りを覚えた。

  「なら早速『取り替えの儀』を行いましょうね。学くん、もうナイフを捨てなさい」

  チャラン…

  「くそっ…ピンツくん、怖い思いをさせてごめんよ」

  「いいよ……それよりバルジさんが…」

  「そうだよな……でもきっと大丈夫だよ。俺たちは隊長を信じているから」

  「有紀…」

  「ピンツ!おしゃべりをしていないで、こちらにいらっしゃい」

  「うわっ!」

  メディアの命令にピンツは逆らう事が出来ず、ゆっくりとメディアの元へ向かった。

  ピンツが到着すると、悲痛な顔でバルジを見つめた。

  「バルジさん……俺っ」

  「大丈夫だピンツ。直ぐに助けるから、そのまま大人しくしていろよ」

  心配そうにしている青年に少し微笑むと、そんな事を気にしないメディアは命令を下す。

  「さてと、これより『取り替えの儀』を行うわ。メフィスト、ピンツから首輪を外して。フランツ、バルジの後方から両腕を掴んで拘束しておきなさい」

  「「かしこまりました」」

  フランツはバルジの下に向かい、無抵抗状態の両腕に手を伸ばした。

  「バルジ様。失礼致します」

  「ぐっ…」

  フランツは老人とは思えない程の力で両腕を背中に回してガッチリと拘束をする。

  (くっ…想像以上の怪力だ。これは瞬間的に振り解くのは無理だな。まぁ…この状況で抵抗するつもりはないが)

  抵抗できない状況に脱力して静かに待機をしている最中、メフィストは鍵を使いピンツより首輪を外した。

  カチャン!

  「これで貴方は自由の身です。しかし儀式が終わるまではそこで大人しくしていなさい。万が一にも妨害行為をした場合は貴方の命の保証は致しません。宜しいですね」

  「………分かったよ」

  二人のやり取りを黙って傍観していたバルジは意外な鍵の在処に衝撃を受けていた。

  (アレが首輪の鍵。現状での所持者はバトラーのメフィストか。こんな間近で見せるとは……随分と信頼されたバトラーということか。先程のフランツといい、この二人のバトラーが常人だと思わない方がよさそうだ)

  やることがないバルジが敵の分析をしていると、メフィストは回収した生贄の首輪をメディアに差し出した。

  「メディア様、お待たせ致しました。こちらが生贄の首輪でございます」

  「ありがとう、メフィスト。このままわたくしの護衛をお願いね」

  「畏まりました」

  メディアが首輪を受け取ると、まるで罠に掛かった獲物を見るような嬉しそうな顔で近づいてくる。

  ぞっとするような状況でも何もできない事につい憂鬱な表情を浮かべる。

  「お待たせ、バルジさん」

  「……別に待っておらん」

  「うふふ、相変わらずぶっきらぼうね」

  「ほざけ」

  「それにしても意外ね。このタイミングで何か仕掛けてくると思って最新の注意を払ったのに」

  「SDFの使命は乗客の安全が第一だからな。危険な抵抗をするつもりはない」

  「へぇ~それがSDFの心得なの。縁もない乗客の為に自らの犠牲も厭わないってことね」

  「そんなつもりはない。ただ最善を尽くしているだけだ」

  「そう………でも安心して」

  甘い声で呟くと、メディアはバルジの首に腕を回した。

  そして首輪を掛けながら、耳元でそっと囁いた。

  『もう……あなたの人生ではその心得は不要になるから。ねぇ…私のバルジ』

  「くっ…」

  メディアは悪魔的な笑みを溢しながらゆっくりと首輪を装着した。

  カチン!

  冷たい装着音が部屋に響くと、傍観していたシリウス一同は絶望な表情を浮かべる。

  「あ……あのバルジ隊長まで俺たちと同じになるなんて…」

  「なんてこった……最悪だ」

  「隊長まで奴隷になったら、私たち…どうしたらいいのよ」

  一同が今後の未来に不安を感じている最中、首輪の装着を確認したフランツは手を離して距離を置いた。

  メディアは装着後も満足そうにバルジを間近で眺めていた。

  「うふふ、やっぱりバルジさんにもその首輪がよく似合うわ。まるで飼い慣らされた犬みたいね」

  「それは……褒めているのか?だとしたら光栄だな」

  反撃が無意味と悟っているバルジは脱力状態のまま嫌みったらしく返答すると、目の前では黙ってみていたピンツが涙を流していた。

  「バルジ…さん…ごめんなさい…俺の…せいで…」

  「君は何も悪くない。気にするな」

  「で、でも…」

  「大丈夫だ。俺を信じろ」

  少しでも落ち着かせる為に少し微笑んで告げると、それが気に入らないメディアは冷徹な目で話の妨害を始める。

  「ご主人様のわたくしを無視しておしゃべりなんて許さないわ。あなたの立場を理解させてあげる。命令よ…ひれ伏しなさい、バルジ!」

  「うわっ!」

  命令が下るとバルジの意志に関係なく体が勝手に地べたにひれ伏した。

  (くそ…全く体が言うことをきかん。首輪の力がこれ程のものだったとは…)

  まるで自分の体でないような感覚に衝撃を受けていると、見下しているメディアが頭部を足で踏みつけ始めた。

  「ぐぁっ!」

  「いいこと?あなたはわたくしの奴隷になったのよ。ちゃんと立場を弁えなさい」

  「ふん……悪いが…心までお前に服従するつもりはない!」

  「あら?随分と強気ね。今までその首輪を付けてそんな事を言っているのは貴方くらいよ」

  「そうか…それは嬉しいことだな。それよりもこっちの約束を忘れておらんか?ピンツ青年を館から解放しろ!」

  依然として無様な姿をさらしているのにも拘わらず、メディアを睨む蒼き瞳には奴隷とは思えない覇気の色が宿っていた。

  (なんて人なの。この状況でも全く絶望しないなんて。やっぱり……この人は特別だわ)

  バルジの覇気に圧倒されたメディアは少し笑みを溢しながらゆっくりと足を退けた。

  「意地悪を言ってごめんなさいね。ちゃんと約束は守るわ。メフィスト、彼を館の外へご案内して」

  「畏まりました」

  メディアの命令でメフィストがピンツを連れて行こうとすると、最後に泣きながら大声で叫んだ。

  「バルジさん!それにみんな!本当に…ごめんなさい!!」

  ピンツの声が室内に響く中、無情にも扉も大きな音を立てて閉じた。

  バタン!!

  ピンツが部屋を去ると、バルジは少しだけ安堵の息を漏らした。

  (一先ずピンツ青年はこれで大丈夫だろう。流石にここで彼を殺すということはメディアの性格上ないだろうしな。さて……問題は我々の今後だな)

  一人で黙って検討をしていると、目の前のメディアは急に高笑いを始めた。

  「ふ…ふふ…うふふ、あはははっやっと手に入ったわ。さぁ早く立って、バルジ!」

  (やれやれ…注文の多いお嬢さんだ)

  先程のひれ伏した状態から立ち上がると、メディアは嬉しそうにバルジに抱きついた。

  「うふふ、やった!これで貴方はわたくしの物!これからずっと大事にしてあげるわね」

  何も抵抗できないバルジは、呆れながらぼそっと愚痴を漏らした。

  「人を物みたいに言うな…」

  「あら!だって実際にあなたはわたくしのお人形さんみたいなものでしょ?」

  「人形って…こんな中年のおっさん人形を好きになるとは、相当変わり者だな」

  「そんな自虐しないで。貴方はもう少し自身の事を見直した方がいいわよ」

  「余計なお世話だ」

  「さぁ、お子様は出て行ったことだし、少し大人の遊びでもしましょうね」

  「大人の…遊び?」

  にこやかに話す姿に全身に寒気がした。

  (これは…色々と覚悟を決めないといかんかもしれん)

  [newpage][chapter:You’re so scary]

  その後晩餐会場では、メディアはテーブルにバルジを押し倒し弄んでいた。

  「ん…ん……んっ…」

  二人が長い接吻を続けている様子をシリウス一同は傍観させられていた。

  「たくっ…とんでもねぇメスカマキリだぜ」

  「酷い……あんなの…バルジ隊長が気の毒すぎるわ」

  「くそ……隊長が耐えているのに…俺たちは眺めていることしかできないのか」

  デイビット、ルイ、有紀が悲痛な思いでいるとそれを確認したメディアはゆっくりと唇を離した。

  「はぁ…いいわ。あなたの唾液も美味しい」

  「はぁ…はぁ…そうか」

  「ねぇ?部下の前でキスを見せびらかすのってどんな気分?」

  「知りたいか?はっきり言って気分は最悪だ」

  「そう?私は気分がいいけど?」

  「変質者がよくいう…」

  「酷い言われようね」

  「そんなにキス魔なら、自身のバトラー共にでもすればいいではないか」

  嫌気がさしているバルジが皮肉を漏らすとメディアは首を振って答えた。

  「それは嫌よ。だって彼らは人間ではないもの」

  「…そうなのか?」

  「えぇ、彼らはアンドロイドよ。でないと私が食べてしまいそうだもの」

  「ほぅ…アンドロイドか。道理で常人を超えていると思った。

  「うふふ、SDFの元隊長さんに褒められるなんて光栄だわ」

  「…そうか。それにしても随分と悪趣味なアンドロイドを用意したものだな」

  「でも優秀よ。私のお願いを何でも聞いてくれるもの」

  「なるほどな。それではご主人が変質者になるはずだ…」

  「それ、褒めてるの?」

  「知らん」

  素っ気なく会話をしていると、一通り話しを聞いて脳裏でメディアの分析を行っていた。

  (なるほどな。どうやら随分と甘やかされたお嬢さんらしいな。その上寂しがり屋で俺に対してかなりねじ曲がった愛情を向けている。ならば……試してみるか)

  「ところで…メディアはゲームは好きか?」

  突然のバルジからの質問にメディアは頭を傾げた。

  「ゲーム?好きだけど…どうして?」

  「俺と勝負をしないか?」

  「勝負?」

  「あぁ、どうやらこの首輪は自我と声まではコントロールはできないようだな」

  「そうよ」

  「ならば、俺が何処まで自我を保っていられるかで勝負をしよう」

  「それは…どういうこと?」

  「簡単なルールだ。勝敗はお前が俺の自我を奪って心まで掌握できるかどうかだ。条件として俺が正気でいる内は部下達に手を出さないこと。もちろん生き血を吸うのもなしだ」

  「それでは生け捕りにした意味がないわ」

  「ゲーム中は俺から生き血の摂取をすればいい。別に死なないレベルで摂取すれば済むことだろ」

  「それはそうだけど…でも、その勝負をしてわたくしになんのメリットがあるの?」

  「お前が勝った時点で俺の心と体、そして部下たちの血肉を手に入れることが出来る。俺の報酬は勝っている間の部下の命の保証でいい。悪いルールではないだろう」

  「へぇ~でも貴方にはあまりメリットがなさそうですけど?」

  「元々この首輪を付けられてしまった時点で俺の運は詰みだ。せめて何か生きる希望がないとな」

  説明を聞いて、メディアは少し不信感があったが、デメリットが殆どないので素直に挑戦を受けることにした。

  「いいわ。そのゲーム乗ってあげる」

  「そうか、なら今から開始だな」

  「ちなみにあなたの自我が保たれているかどう確かめればいいの?」

  「そうだな……ならハロウィンに因んで『Trick or Treat』と尋ねてくれ。そしたら俺は『you’re so scary』と答える。それ以外の回答なら自我なしで俺の負けだ」

  「『you’re so scary』って本当に嫌みね」

  「この状況だ。それくらい許してくれ」

  半分投げやりのような態度をみて、メディアは少し楽しそうに微笑んだ。

  「うふふ、いいわよ。なら早く貴方の心を落とさないとね」

  「自分で言うのもなんだが、噂では俺は相当堅物で朴念仁らしいからな。精々頑張ることだな」

  「あらあら…それは大変ね」

  二人のやり取りを聞いていた一同が無謀とも言えるゲームに不安に感じていた。

  (おいおい…なんて無茶な勝負するんですか!隊長)

  (いくらバルジ隊長の気が強いからって…体が言うことをきかない状態では無謀だわ)

  (これもなにかの作戦なのかな…そうだといいけど)

  シリウス一同が心配そうに見守っている最中、覇気のないバルジが再び愚痴を漏らした。

  「なぁ……そろそろテーブルに押し倒すのはやめてくれんか」

  「あら、なにか不都合でもあるの?」

  「いや…単純に背中が痛い」

  「あら、SDFの隊長さんなのに随分貧弱ね」

  「テーブルに押し倒されることに慣れている奴の方が少ないと思うぞ」

  「それは…そうね」

  「だろ?それにこんな部下の前で晒されていたら、逆に気が張って心を落とせんぞ。このままではかなり長期戦となるがいいのか?」

  「それは嫌よ!早く貴方の心がほしいもの…」

  「これは元隊長としての戦略アドバイスだが、早期に相手の心を掌握したいのならば、まず環境作りが大切だと思うがな」

  「環境づくり?」

  「自身のテリトリーに相手を連れ込むということだ。慣れた環境なら自身が圧倒的に優位に立てるだろ」

  バルジのアドバイスがあまりに説得力があったため、メディアは思わず納得をしてしまった。

  「それは確かに一理あるわね。分かったわ。ならわたくしの寝室なら文句はないのかしら?」

  「寝室…か。正直気乗りはしないが、ここで押し倒されているよりかはマシだな」

  「随分と我が儘な奴隷ね。まぁいいわ。なら早速行きましょうか」

  メディアが起き上がり、バルジを連れて部屋を出ようとしていた。

  早々過ぎる行動にバルジは思わず声を上げた。

  「おい!ちょっと待て。まさかあいつらをあのままにしておくつもりか?」

  「え?そうよ」

  まるで何か問題でもという顔で返答してくる様子に、呆れながら告げ口をした。

  「はぁ…あのな、もう少し人質は大切にしたらどうだ?あのままでは気の毒すぎるぞ」

  「別に供物だし、あのままで良いでしょ?」

  「供物だとしても生身の人間だぞ。しっかり保管しておかなければあっという間に傷んでしまうだろ」

  「それもそうね…」

  バルジがメディアと言葉の攻防をしている最中、話題の当事者のシリウス一同は何処か違和感を感じていた。

  (この状況で何言ってんだよ、隊長)

  (あっという間に傷んじゃうって…生肉みたいに言わないで欲しいわ)

  (この話にも何か理由があるのかな。俺には全く分からないけど)

  シリウス一同が各々で考えていると、バルジはメディアに提案を持ちかけた。

  「一つ提案だが、あいつらの品質を保つ為にも、地下室で監禁をしたらどうだ?」

  「仕方がないわね……分かったわ」

  意外にあっさりと提案に乗ったことに安堵をしていると、メディアが気味の悪い顔で口を開いた。

  「だたし、貴方がご主人であるわたくしにちゃんとお願いができたら聞いてあげる」

  「お願い……だと」

  「えぇ。ちゃんと奴隷としてのやり方でね」

  メディアの意図を呼んだバルジは気乗りがしないが、ある目的を果たすために心を押し殺して膝を付いて請願した。

  「メディア様…お願いいたします。私の部下にくつろぎの空間をお与えください」

  「うふふ、貴方からそう言われたら仕方がないわね。フランツ、彼らを地下室に案内してちょうだい」

  「畏まりました」

  「デイビット、ルイ、有紀、命令よ。フランツの案内した部屋で自由にしていてもいいけど、大人しくしていること。決して部屋より出ないこと。いいわね」

  「ぐっ!」「うっ!」「くっ!」

  メディアが命令を下すと、シリウス一同は無理矢理に頷かされた。

  その後、バルジはメディアの寝室に、シリウス一同はフランツと共に地下室へ移動を始めた。

  すれ違う際にシリウス一同が不安げな顔を漏らすとバルジは対照的に少しだけ笑みを溢した。

  その意外な表情に疑問を感じるもバルジはなにも告げることはなく、部屋を後にした。

  シリウス一同が地下室に案内されるとメディアの命令通りに体を自由に動かせるようになった。

  「くっそ!やっぱダメだ。扉には近づけねぇ…学どうだ?」

  「くっ…俺もダメだよ。体がどうしても止まっちゃうよ」

  デイビットと有紀が扉に向かおうとするも体が自動停止して近づくことが出来ずにいた。

  その様子をルイはベッドに座って脱力したように見つめていた。

  「それはそうよ。メディアさんが部屋から出ないようにと命令をしているもの。逆らうことはできないわ」

  「畜生…こんな首輪がなきゃどうにかなるつうのによ…」

  「そんなことは分かっているわ。問題はこれからどうするかよ」

  「そうだよ。今は隊長が頑張っているから俺たちの命は保証されているけど、もし隊長が負けたら俺たちの命もそこまでだぞ」

  状況の悪さに各々から声が漏れると、デイビットがふとあることが気になった。

  「なぁ、俺ずっと気になっていたんだけどよ。バルジ隊長…なんであんなゲームを仕掛けたんだろ?」

  「それは…少しでも俺たちを守る為じゃないか?」

  「多分…それくらいしか方法がなかったのよ」

  デイビットの問いかけに有紀とルイが答えるがあまり納得が出来なかった。

  「……いいや。俺は別の理由があると思うね」

  「それ…どういうことだい?」

  「だってよ。去り際で笑ってたぜ。それにあのバルジ隊長がそんな簡単に諦めるとは思えねぇ」

  「じゃあ…なにか作戦でもあるってこと?」

  「それは分からねぇけどな!」

  デイビットは呟きながら、再びコイントスをした。

  チャリーーーーン、パシン!

  「デイビット…よしなさいよ」

  「そうだよ…今日はこれで3回目だぞ」

  ルイと有紀は占いが怖くなり制止の声を漏らすが、聞く耳を持たずにデイビットは手の甲を確認した。

  「……やっぱりな。お前らも見て見ろよ」

  その声を聞いて、有紀とルイが確認をするとそこには1000年女王の微笑みがあった。

  「あっ!表だ」

  「良かったわ。なら…私たち助かるって事かしら」

  「かもな。まぁ…期待して待ってみようぜ」

  シリウス一同が安堵していると、突然ドアが叩かれた。

  ドンドン!ドンドン!!ドンドン!!!

  「なん…だろ?」

  「ひょっとして…早くも隊長の心が折れたんじゃ…」

  「嘘でしょ…」

  有紀・デイビット・ルイが謎の現象に恐怖を覚えた。

  【次回予告】VOICE バルジ

  完全に我々はメディアの奴隷になってしまった。

  時間稼ぎのゲームも長くは持たん。

  頼む……手遅れになる前に急いでくれ

  次回、『ハロウィン失踪事件 脱出編』

  俺たちは次の駅で誰かの作戦を知る。

AdAd