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第1章:日常のままでいられるか
「とりあえず……飯だよな」
どんなに状況が異常でも、腹は減る
悩んだところで今すぐ元に戻れるわけ
じゃない まずは落ち着こう
冷蔵庫を開けると、昨夜買っておいた
食パンと卵、ウインナーが目に入った
いつも通りに朝食を作ろうとしたが、
ここで問題発生
爪が邪魔すぎる
ウインナーの袋を開けようとするが、
爪が引っかかり破れ方が汚い
卵を割ろうとするも、力加減が
難しくてぐしゃりと潰してしまった
「くそ……!」
なんとかスクランブルエッグにして誤魔化し、
食パンを焼く 完成した朝食は多少見た目が
悪かったが、食べられないほどではない
「……うまい」
だが、一口食べた瞬間、味に驚いた
いや、味が変わったわけではない
違うのは嗅覚だ
いつもより鮮烈に小麦の香ばしさを感じ、
卵の甘みが舌に強く残る 食材の匂いが
ここまで違って感じられるとは思わなかった
「獣人って、こういう感覚なのか……」
憧れていたはずの獣人の身体だが実際に
この身体になると、戸惑いのほうが大きかった
食事を終え、鏡の前で服を着る
体型こそ変わっていないが、全身に薄らと
毛が生えているせいか、服の感触が微妙に
違うあと、何より── 「…尻尾、邪魔すぎる」
ズボンを履くのに苦戦し、尻尾のせいで
ウエストが浮く。無理やり押し込んでみるが、
歩くたびに違和感あって尻尾を隠すのは諦めた
「…まぁ、獣人も少なからずいるし」
この世界では、獣人は決して珍しくない
比率で言えば人間のほうが圧倒的に多いが、
都市部にも一定数の獣人が生活している
外に出ることにした
外の世界と違和感
家のドアを開け、恐る恐る外へ一歩踏み出す
アパートの廊下は静かで、人の気配はない
「……よし」
階段を降り、いつもの通りを歩く
いつもの街並みが微妙に違って見える
何より、音と匂いが強い
通りを歩く人の靴音、遠くの車のエンジン音、
街路樹の葉の擦れる音すべてが鮮明に聞こえる
匂いもそうだ パン屋の甘い香り、
コンビニ前のゴミ箱の微かな臭い、
すれ違う人々の香水やシャンプーの匂いまで、
ひとつひとつが鮮明に感じられる
「うわ……」
思わず鼻を押さえそうになったが、
なんとかこらえる。獣人はこういう感覚に
慣れているんだろうか
コンビニのガラスに映った自分を見て、
再確認する やっぱり、狼の頭のままだ
この姿で普通に歩いていても、
周囲の反応は「獣人がいるな」
程度そこまで驚かれることはない
「……昼になったら、アイツに相談しよう」
友人の中でも、獣人と交流が多いやつがいる
少なくとも、獣人の生活について何か
知っているかもしれない
「なんとか、なる……はず」
そう自分に言い聞かせながら、
街を歩き続けた
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