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俺と『彼女』と初詣について

  第十二話

  えー、皆さま。新年あけましておめでとうございます。今年も何卒よろしくお願いします。

  そんな定型文の浮かんだ今はバッチリ元旦。凍てつく寒さの中でもよく晴れた絶好の正月日和というやつだった。昨晩は紅白チラ見して、年越し蕎麦食べて、除夜の鐘聞いて、あとはアプリでみんなに新年の挨拶。昔は年賀状とか出してたけど、色々手軽な時代になったもんだよなぁ。とはいえ全国みんなおんなじような事考えて一斉送信するもんだから制限かかるのはしゃーないよな。うん。

  そんなわけで一晩明けた元旦、俺は半ば雪の溶けた道を歩いていく。去年はまあ、ナツキと出会ってから色々あったけど…今年は俺だってちゃんとしなきゃなんだよな!部活以外にも受験だってあるし!うーん、その辺の事も考えてかないと…なんで頭の中で考えながら、今日の待ち合わせ場所に到着していた。

  夏祭りの時にも来た神社は案の定、たくさんの人が集まっていた。スピーカーから流れてくる春の海が正月気分を後押ししてくる。待ち合わせの時間にはまだ早いけど…どうにも、ナツキと付き合ってからそういう習慣が身についてしまってるのかもしれない。

  ホットコーヒー片手に少し待ってると、人混みの中に見知った顔が一つ近づいてきた。

  「よ、ハルト。あけおめ。早いな。

  「ん。キャプテンあけおめー。」

  「ああ。今年もよろしく。」

  相変わらず新年でも無駄にキラキラしてやがる。クリスマス前にまたフラれたとか言ってたけど…いやほんとこいつの完璧さ加減マジでどーなってんだろ。同じラグビー部の筈なのになんか納得いかねー…いや、俺にはナツキがいるからいいんだけど!

  「…で、今度は初詣デートか。タケルじゃないが爆発した方がいいんじゃないかお前?」

  「イベント事は大事にしたいタイプなんでな。それにほら…毎回楽しみっていうか…」

  「ああ…確かに。現役モデルの彼女だからな。」

  「おぅ……」

  キャプテンも納得のファッションセンスはやっぱりモデルやってる本人とデザイナーのお姉さんの賜物だとは思う。ちなみに聞いたところ、ナツキやユウちゃんが着てる服はおんなじような体の大きい大型女子たちに大人気らしい。「やっぱり大きくても可愛くなりたい子って多いのよ。」とはお姉さんの話。それがナツキの為とも聞くと本当に頭が上がらないよなぁ…

  キャプテンとそんな事を話しながら少し待っていると、鳥居の向こうに大きな影が見えてくる。一際大きいながら、煌びやかな彩りに身を包んだ姿はよく目立つし間違えようがない。

  「ハルトくん…キャプテンさんもお待たせしました。ちょっと着付けに手間取ってしまったので……」

  そう言うナツキ、今日は見事な振袖姿だった。薄桃色を基調にした生地に織りなす鞠と桜に流水紋様、亀甲のあしらった帯…おめでたいのオンパレード。和服に合わせたアップのウィッグにはしゃらしゃらと鳴る花の髪飾り。眼鏡越しに照れているのか、薄化粧した顔ではにかみ笑いしてるのもすごくナツキらしいというか……

  「…ハルトくん?」

  「あっ!?い、いや…ちょっと見惚れてた…凄い綺麗だぞ、ナツキ……」

  いや、正直それしか出てこない。惚れた弱み?なんとでも言え。好きな子の綺麗な姿を目の前に出されたら俺の頭ではそう言うのが精一杯なんだよ!

  ナツキはというと真っ赤になって俯きながら「ありがとうございます…」って…本当に可愛すぎないだろうか。新年からこんなに幸せで正直やばい。今年いい事ありそう……

  隣でキャプテンがやれやれって顔してやがる。別にいいだろ…

  「さて…邪魔するようで少し悪いが、あけましておめでとう。まだ付き合いは短いが、今年も仲良くしてくれたら嬉しいよ。」

  「あ…こちらこそあけましておめでとうございますっ!僕ったら新年の挨拶もせずにごめんなさい…」

  「いやいや、良いものが見れたから大丈夫さ。な、ハルト?」

  「お前……」

  こいつホントに高校生か。だからフラれんじゃねーのかな。とは言わないでおく。視点がもはや親戚のおじさんなんだよ。彼氏ってよりお父さんだよお前。

  とはいえこれで残りはタケル待ちか。時間に余裕はあるからこのまま待っててもいいんだけど。

  「さて、あとはタケルの奴か。集合時間には早いんだが…連絡をつけておくか?」

  「あぁ…いえ、もうすぐ着く筈ですよ?あ、ほら!」

  そう言ってナツキが視線を向けた先を見れば、鳥居からもう一人の大きな影が現れた。

  ナツキと同じくらいの体格…しかしシックなグレーのコートにサングラス、肩に大きなカバンをかけてのっしのっしと歩いてくる熊獣人の女の人。隣に立っているキャプテンも圧倒されていた。

  魔王降臨…否、お久しぶりです、お姉さん。

  「やぁ、あけましておめでとうハルト。そっちは友達かしら?」

  「お、おめでとうございます…あの、うちの部のキャプテンです…」

  「ど、どうも……」

  番長以上の威圧感と重厚感にキャプテンも怯んでいる。いや、ナツキのお姉さんなのはわかってるけど…久々でちょっとビビった。キャプテンに至っては初対面だよな…後で聞いたら「言ったら悪いかもしれないが、番長の姉というのは身をもって納得した。」だそうだ。そりゃあなぁ…

  まあ、少し話せば気のいい姉御肌で妹思いのお姉さんだってのはよく分かるんだけど。

  あとお年玉も無理矢理渡されました。お姉さん……

  と、そのお姉さんの後ろ。一緒についてきていた子に目を向けた。

  ナツキといいユウちゃんといい、お姉さんが好きそうな太めの子だけど、他の2人に比べてちょっと小柄…と言っても俺ぐらいはある猪獣人。ナツキと同じく振袖姿でこっちは青を基調とした、蝶や扇子、雲の飾りが振袖や帯を彩っている。編み上げヘアメイクにふわりとしたヘッドドレスで飾り付けられたその子は恥ずかしがり屋なのか、お姉さんにピッタリとくっついてそのコートの裾を握っていた。新人のモデルさんかな…

  それに気づいたお姉さんが、クスリと笑って嗜める。

  「ほら、ダメでしょ。ちゃんとご挨拶しなさい、『アイちゃん』。」

  「はへっ!?は、はい…お姉様……」

  ………今何つった?

  俺にはその猪獣人の声がものすごく、ものすごーく聞き覚えのあるものに聞こえた。隣でキャプテンも固まっている。ナツキはと言うと…すっごい目がキラキラしてます。やっぱり姉妹だこの二人…

  というかそれよりも!

  「え、えと……新人モデルの…その…あ、アイ、です……?」

  「というわけでうちの新人モデルよ。あ、一応学業と部活を優先させるから安心なさい。」

  「うっうっ……お、お前ら…あんま見んなよぉ…!」

  アホ猪ーー!!文化祭でのフラグ回収してんじゃねェェェェ!!!

  ……………

  初詣の神社の参道を、みんなで並んで歩いていく。新年早々ハルト君に褒められちゃったし…今だって手を繋いで歩いてくれてるのがとっても嬉しい。それに、こんな格好で神社に行くのなんて初めてだから緊張してたけど、今はなんだかハレの日のおめでたい気配を感じられて少し楽しくなってきたかもしれない。

  「大丈夫か?足下いつもと違うから歩きづらいかもだけど…」

  「ええ、大丈夫です。えへへ……」

  それでも握る手に力が入ってしまうのは、もっと触れていたいから…かもしれない。

  …あの日以来、僕は番長の姿には戻っていない。きっと、新学期になってももう変わらないと思う。僕は、僕でいてもいい…そう言ってくれたハルト君。それに、こんな僕を受け入れてくれたみんながいてくれる。

  だけど、マサヒロ君とはあれ以来顔を合わせていない。ヒロ君がついてくれているとは言っても、僕はあの子に何ができるのかな……それが、不安だった。

  これも、ケジメをつけなきゃいけない……

  「ナツキ。」

  「…は、はいっ!?」

  ぼーっとしていたみたいで、不意にかけられた言葉に思わず声が裏返った。そしてどうやら顔に出ていたのかもしれない。だからこそ、ハルト君は僕を見上げながら笑いかけてくれた。

  「一人で悩まなくたっていいんだ。俺で役立てるならなんだって一緒にやるからさ。」

  …ああ、そうだ。僕は一人じゃないんだ。こうやって一緒に考えて、進んでくれる大好きな人がいる。その言葉が嬉しくて、格好良くて…ぎゅ、と握った手にまたほんの少し力がこもると、それを握り返してくれるのがなんだか照れ臭くて。

  「ありがとうございます、ハルトくん……」

  「いいって!それよりほら、せっかくの正月なんだしさ!」

  そう言って笑いかけてくれるハルトくんの笑顔に釣られて、僕も思わず笑ってしまう。そうだ、こういうところが…明るくて、引っ張って行ってくれるところが…好き、なんだろうなぁ……

  人波の向こうに神社の本殿が見えて来る。今年最初の願掛け、初詣…何を願うかなんて、もう決まっているんだけれど。

  きっと、ハルトくんも同じだったらいいな。

  ……………

  「明けましておめでとーなっちゃん!すっごーい!綺麗ー!!」

  「ユウちゃんも明けましておめでとう…え?もしかしてバイト?」

  「そうなの!似合ってる?」

  「うん…巫女服いいなぁ……」

  願掛けの後、社務所の前に行ったらばっちり見覚えのある虎獣人の姿がひとつ。こっちに気づくとキラキラ目を輝かせながら駆け寄ってきた。もちろん目線は振袖姿のナツキに向いてるし、ナツキはナツキでユウちゃんの巫女装束見てやっぱりキラキラしていた。

  聞いたところ、年末年始の巫女のバイトだそうだ。ついでに他の巫女さんたちのガードも兼ねてるらしいが…やっぱり存在感が凄い。でも睨みを効かせてくれているお陰で盗撮被害やら巫女さんへの迷惑行為は皆無、流石だなぁ…

  そんな2人を見てお姉さんが黙っているはずもなく、持ち歩いていたカメラで即席の撮影が始まっていた。いつの間にか許可取ってたらしい。ホントやり手なんだよなぁあの人。しかしまあ…

  「…本当に、こうして見とると女子じゃのアイツら……」

  「惚気ていいか?正直すげー可愛い。」

  「分かる。」

  俺はといえば境内でタクマが開いてる甘酒屋台のそば、紙コップの中のあったかい甘酒啜りながらそんな2人を眺めていた。しかしタクマお前、ホントいろんなバイトしてんのな…すげえよ。

  まさかこの人混みの中で2人と鉢合わせるとは思ってもなかった。とはいえ去年は色々と世話になった相手だし、早々に新年の挨拶ができたのは良い事だろうな。

  ただ、お姉さんがタクマを見て目を光らせていたのはちょっと怖かった…お願いします。コイツだけはこのままでいさせてやってください。

  「…流石にワシは遠慮させて欲しいな。」

  「おう…アイツみたいになるぞ…」

  チラッともう一度視線を向けると、可愛いでっかい男の娘2人とお姉様に挟まれて褒めちぎられ、言われるままにポーズを取ってるちょっと小柄な猪の男の娘。アホ猪…だよな?あれが…おふざけ多めの文化祭の時と違って側から見たら本当に…

  いやいかんいかん。騙されるな。あれはタケルだ。アイちゃんとか名乗ってるけどタケルだ。

  だから頼むタクマ。ちょっと顔赤らめんのはやめてくれ。可愛いのは分かるから…あ、可愛いって言っちゃった。ヤバい。

  「おいお前ら……どうした?」

  「…サンキューキャプテン。助かった。」

  「うむ…感謝する。」

  「?」

  キャプテンの言葉にはっと我に返った。ありがとうキャプテン。俺たち禁断の世界に足を踏み入れるところだった。

  …いや、ある意味踏み入れてんのか。でもナツキが可愛いから仕方ない。隣のタクマもわかってくれてる。

  「しかしまぁ…馬子にも衣装…とは言えんな。似合っているとは思うぞ。」

  キャプテーーーーーン!?

  ……………

  あれから2人はそれぞれのバイトに戻って、キャプテンは家族と過ごすって先に帰った。アイちゃ…タケルはお姉さんと2人で他所での撮影があるらしい。そうなると必然的に俺はナツキと2人きりになるわけで……

  お姉さんに命じられ、俺はナツキを無事に送り届けるべく並んでマンションへと歩いていくところだった。

  「ふふ…なんだか楽しかったです!普段のお正月はお姉ちゃんと2人で過ごすことが多かったので。」

  「まあ…確かに賑やかではあったなぁ…いやあのサプライズは…うん…」

  「アイちゃん可愛いですもんねっ!」

  そんな目をキラキラさせて言わないでくださいナツキさん…あれを可愛いと口に出してしまったら自分の中の何かが壊れる気がしてならない。確かに可愛かったけど…可愛かったけど!!

  「…俺は、ナツキの方が可愛いと思う……」

  正直、本心はこれ。いくらユウちゃんやアイちゃんが可愛くても、俺は今目の前にいる振袖姿のナツキが一番可愛くて、綺麗だと思っている。自分でもよくこんな言葉が出てきたもんだ…と気恥ずかしさを覚えながらナツキの方に目をやると。

  「は…はわ……」

  眼鏡の向こうで真っ赤になった頬を押さえて言葉にならない声を漏らしていた。それを見た俺もなんだかその…釣られて恥ずかしくなってくる。

  いや本心だけど!ここまでなんというか喜んで?恥ずかしがって?くれるとは思わなかった訳で!というか数秒前の俺何言ってくれたんだドチクショウ…

  しかしいつまでもこうしてるわけにはいかないわけなので!

  俺は立ち止まったナツキの正面に立つと、頬を押さえる手にそっと自分の手を重ねた。大きなナツキの手を導くように下ろしながら包み込んで、ぎゅっと握りしめる。

  「お、俺の中での1番は…ナツキだけだから…!」

  …ようやく絞り出した言葉がこれだ。でも、これ以外に伝える言葉が思いつかない。ナツキが誰を可愛いと言っても、俺が1番可愛いと思うのはナツキだけだから…という事で…

  そう思った瞬間、視界が暗転した。

  ……………

  どうしよう。どうしようどうしようどうしよう……!ハルトくんに可愛いって言われちゃった…いや、普段から言ってくれてるんだけど!

  正直に言うとアイちゃんも可愛かったしユウちゃんの巫女さん姿も似合ってたからちょっと不安だったんだけど…やっぱり、とっても嬉しかった。それと同時にやっぱり負けたくないっていうか…僕、こんなに負けず嫌いだっけ、なんて思ってしまう。

  でもそれはきっと、ハルトくんがいてくれるから。ハルトくんの1番になりたいから…もしかすると、これがやきもち?なのかな。

  それでもとっても嬉しくて…気づいたらハルトくんのことをぎゅっと抱きしめていた。つい思わず…だったんだけど、今日はお正月。おめでたい日だから…って心の中で言い訳をして。

  「な…ナツキ……いきなりでその…びっくりした……」

  「ごめんなさい…でも、嬉しくって…ハルトくん……」

  腕の中にいるハルトくん。僕より小さいのに、男らしくて格好良くて…僕を僕として見てくれる、とっても大切な人。

  だからこそ、新年のこの日に決意を新たにする意味も込めて。

  「ハルトくん…今年も…いえ、これからも…よろしくお願いします。」

  僕が、貴方と一緒に新たな年を歩んでいけるように。

  つづく

  おまけ

  「……はぁ。」

  「ね、凄かったでしょなっちゃん。」

  「うむ…あの子何でも似合うんじゃなかろうか。」

  「あったり前じゃない。アタシのライバルだもん!」

  「………まあ、そうじゃな。」

  「何よその間は。」

  「考え事じゃ。」

  「ふーん…しっかし、サエさんもかなりの逸材見つけて来たわね…」

  「お前学祭で会っとるよな?」

  「あの時から片鱗は見えてた…アタシも新人に負けらんねぇわ……」

  「おいお前ちょっと出とるぞ素が。」

  「さてアイちゃん、初めてのお外はどうだったかしら?」

  「……正直ドキドキするっていうか…俺どう見えてたのかちょっと気になったり…」

  「あら、かなり好評よ?ほら。」

  「え…お、お姉様これ…!」

  「牙ありの猪獣人でも可愛くなれる証明になったわ。スカウトして正解ね。」

  「俺…こんな見られてたんだ……」

  「ふふ…次は3人セットかしら?その前にアイちゃんの担当も決めておかないとね?」

  「は…はい…頑張ります!」

  「マサ?初詣行かないの?」

  『……………』

  「先輩たちが行くって言ってたけど。」

  『…俺はいい。』

  「…そう。」

  『なあヒロ。』

  「何?」

  『……やっぱ何でもない。』

  「………うん。」

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