006-011
坑道内を急ぐダイン達は遊魔の能力を惜しげなく使って合流を急いでいた、岩喰いの作った坑道は思ったよりも複雑では無く、多くの場合真っ直ぐな作りをしている、時折通路の合流地点などに大きな縦穴が存在しており、よじ登る為の杭などが設置されているが、浮遊能力を持つ遊魔には不要な仕掛けでも有る。
フェイベル 「マギクランは浮遊魔術を軽視していた様ですね、飛べるだけでこんなに坑道の移動が楽になるなんて」
リレッタ 「もういっその事地上に出た方が早く有りませんか?」
ダイン 「諜報は悟られない事に意味があるんですよ、それに相手の意図が解りませんから迂闊に姿を晒すのも危険でしょう、想定される危険を排除するのが安全を維持する上で有効な手段ですからね、今、私が魔龍を抑える手段を得ようとしているのと同じ様に、魔龍側も私達の存在を知れば何かしらの対処を考えるでしょうから」
ラフォリア 「牝の処女なら話合えるんでしょうけど」
ダイン 「龍姦ですか、元が解らないと燃えませんね、まぁ改造は出来ますが」
リレッタ 「それが選択肢に有るのは流石ダイン様ですね」
この場合の流石は称賛では無く呆れて出た言葉だ、だが、ダインの中では有用な状況解決の方法だと捉えられている。
そして、現れた魔龍が耳長亜種の処女で有るという可能性はダインの推測の中でかなり高い。
ダイン 「対峙するにしても、やり過ごすにしても相手にはギリギリまで悟られない様に気を付けましょう、襲い掛かるのも不意打ちの方が被害が抑えられますからね」
フェイベル 「フェイベルは見事に策に嵌りましたから、確かにダイン様達が潜入してるなんて全く気付いていませんでした、マギクランの認識ではラフォリアはユーマで情報収集してる筈ですからね」
ダイン 「遊魔は完璧な同胞を生み出しますからね、フェイベルも信頼出来る遊魔の一員ですからね」
ラフォリア 「確かにそうですよね、でも飛来してきた魔龍にも可能なんですか?」
ダイン 「完全だという保証は有りませんが大丈夫でしょう、耳長が遭遇した時の魔龍はフォティーヌのイメージで見ましたが遊魔の延長線上に位置するモノで間違い無いでしょう、リノールやシノールもあのサイズまで拡大する事も可能ですがしないだけですから、戦力が同じならばコンパクトの方が運用性が高い」
リレッタ 「現にリノールとシノールは発覚せずに島に入り込んでますからね、飛来した魔龍には不可能な芸当です」
ダイン 「まぁ、まだ現物の確認はしてませんしね、既に島から去った可能性も有りますよ」
フェイベル 「さっきの大きな揺れの原因が気になります」
リレッタ 「なら先を急ぎましょう、この際魔力消費は考慮しなくてもいいと思います、坑道に何かいても相手よりも先に探知出来ますよね」
ダイン 「つまり速度を落とした飛行形態で進むという事ですね、フェイベルに先頭を任せますから無理せずに進んで下さい、やり方は解りますよね」
フェイベル 「はい、学ばないのに解るというのは変な感覚ですけど、直ぐに慣れると思います、もう翼も尻尾も違和感無く使えてますから」
フェイベルはふわりと浮いて、上体を下げると全身が空中で泳ぐ様な形になる、坑道の広さ的に翼を目一杯広げる事は出来ないが、軽く羽ばたくと走るよりも早いスピードで移動して行く、そして飛行の感覚に慣れると徐々に速度を上げて、まだ見ぬ同族の魔力を捉えて坑道を進み始める。
飛行形態をとった遊魔の移動は早い、分岐なども見事に最短を選び、二十分程度の飛行移動で例の巨大縦穴と外壁で接する坑道まで辿り付くが、熱で溶けてガラス状の壁となった最後の難関が待ち受けている。
最後の壁の前に辿り着いた遊魔達は、壁の内側から感じる未体験の魔力に気付いて事前で飛行を止めて坑道で様子を伺う。
ダイン 「これは魔龍の魔力でしょうね、隠れ家の辺りからリノール達の魔力は感じませんが、対岸の下部から三人の魔力を感じます、一先ず逃げるのには成功した様ですね」
リレッタ 「アジトの縦穴に入り込んでいる様です、位置は私達より少し下ですね」
ダイン 「やはり目的は私達だという事ですか、マギクラン以上に魔力探知に長けている様ですね」
ラフォリア 「それは解りませんよ、魔龍は魔龍の匂いに特に敏感なのかも知れませんし」
ダイン 「魔龍の匂いに惹かれてここに来たというわけですか、有りえるかも知れません、ですが壁一つ隔てている状態で接近出来た事は運がいいですね、向こうに変化がないのでバレていない可能性が高い様です」
フェイベル 「魔龍の狙いは魔龍という事でしょうから?」
ダイン 「今、魔龍の下敷きになっている尻尾からの情報を入手します・・・やはり重量は思った程ありませんね、魔力も強大では無いので探知が遅れた様ですね」
ラフォリア 「二度目の揺れは縦穴の天井が吹き飛ばされた時の様ですね、折角作ったアジトが台無しですよ」
ダイン 「まぁ三人が無事な様なので一先ずよしとしましょう、後はどうするかですね」
リレッタ 「そうは言っても結論は出てますよね、既にダイン様は魔力から相手の状態の調べが終わってますよね」
ダイン 「その通りです、そして私の予測通りの様です、飛来した魔龍からは純粋魔力を感じ取っています」
リレッタ 「つまり、魔龍は処女の耳長という事ですね」
ダイン 「耳長かどうか迄は解りません、そして縦穴のアジトに入り込んでくれた事は捕獲する絶好の機会ですね、空を飛び回られては苦労しますからね」
リレッタ 「それでどうするんですか、催眠ガスを満たすとか、下の触手で絡め取るとか」
ダイン 「先ず上への逃げ道を塞ぎます、その上で触手で絡めて特性の液体に漬け込みます」
リレッタ 「縦穴自体を巨大な培養槽として利用するわけですね、ですがそれだとレブナン島の住民に存在がバレてしまいますけど」
ダイン 「この島には何が潜んでいてもおかしく無い環境ですので何とかなるでしょう、要は痕跡を消してしまえばいいだけです」
フェイベル 「こそこそしててもバレる時はバレちゃいますからね、逆に謎を増やした方が状況を絞れませんから」
ダイン 「いざとなれば逃げるだけです、その為に長距離飛行が可能な者を選びましたし、トルポもフェイベルも十分に飛べる筈です」
リレッタ 「上の逃げ道を塞ぐ為にも飛ぶんですよね?」
ダイン 「はい、私以外の三人で障壁を展開して貰います、私も参加したいんですが、下の触手の制御と飛行を同時に行うのは難しいので・・・あと私は下に降りて三人との合流を計ります、近い方が触手の制御もやり易いですから」
ラフォリア 「ラフォリアもそうして貰えると助かります三人の護衛が有るなら安心です、ダイン様の御身が気になって集中出来ない可能性も有りますから」
リレッタ 「障壁展開の合図は下の状態を見計らえばいいですよね」
ダイン 「そうですね、場合によってはリノールとシノールを使うかも知れませんので臨機応変に対処して下さい、ですがくれぐれも無茶はしないで下さいね」
リレッタ 「それはダイン様も同じですよね、魔龍すらもダイン様の演出だとは思えませんから」
ダイン 「私も遊魔社会を崩壊させたくは無いですからね、姿を隠す事があってもリッタだけには必ず告げてから隠れますよ」
ダインはそういうと軽く手を挙げて別れの挨拶をしてから、坑道を戻り始める、分岐の縦穴まで行けば下に降りる事は容易だが、一度の縦穴だけでは深部まで降りる事は不可能で、大体一時間は掛かるという予測が遊魔の共有知識に追加されている。
その後、リレッタ達は共有知識に追加された作戦計画通りに準備を進めて行く、鋭い爪で巨大縦穴との壁を削って、なるべく魔龍に悟られない様に侵入口を作り、ついでに覗き穴を開けて魔龍の様子を伺ってダインに報告するのだ。
鋭い遊魔の爪を用いればものの十分程度で侵入口兼覗き穴を作る作業は終了して、ラフォリアが尻尾に眼を作って偵察を開始する、マギクランの間者としての修練を積んだラフォリアは他の二人よりも見て得られる情報が多い。
ラフォリア思考 『遊魔の知識に情報がありますがアレが混沌の魔龍ですか、リノールとシノールの魔龍とは少し違いますね、何というか豪華さに欠ける感じです、魔龍にもダイン様の美意識が反映されているんですね』
ラフォリアの得た視覚情報はその身体に触れる事で共有が可能だ、リレッタとフェイベルはラフォリアの手を取って魔龍の状態を確認してから囁く。
リレッタ 「寝てますね、魔龍も穴の底の様な場所が落ち着くんでしょうか」
ラフォリア 「どうでしょう、上を警戒している様子は有りませんけど、リノシノ魔龍は背中は防御が厚いって言ってましたけど自信が有るのでしょうか」
リレッタ 「あの姿勢を見る限り、確かに背中の防御には自信が有るんでしょう、突起も多いですから・・・」
フェイベル 「確かにフェイベルが同じ大きさの魔龍だとして、あの背中は齧りたく無いです」
ラフォリア 「だから安心して寝ていられるという事ですか、でも強くなり過ぎて無警戒が当たり前の様な印象を受けます」
リレッタ 「流石、ダイン様に認められた観察眼です、そう言われると納得出来ます」
フェイベル 「混沌には魔族も居る筈ですけど、魔龍は恐るるに足りないという事ですか」
リレッタ 「実際、私達じゃ無理ですね、ダイン様の牝を堕とす力で勝算が有るだけで、戦いで無力化させるのは無理ですよ」
ラフォリア 「あのやり方は遊魔の要ですから、ラフォリア達はダイン様の行動を待ちましょう、あの感じだと直ぐには起きないと思います、まぁ人類基準の話しですけどね」
リレッタ 「そんな事解るんですか?」
ラフォリア 「直感ってヤツです、魔龍の身体に疲労を感じますから、全体的にだらけた感じがしますよね」
リレッタ 「そうなんですか、言われて見ればそんな感じもしますね」
フェイベル 「寝てるから緩んでるだけじゃ無いですか?」
リレッタ 「どの道、今は動けませんから、ダイン様が行動を起こす迄は私達は待機です、ラフォリアは尻尾で色々試してみて下さい、失敗すれば切ればいいだけですから」
ラフォリア 「より正確な情報を集めるわけですね」
リレッタ 「それも良いですが、網を張ってはどうでしょうか、視認し難い網を張れば万が一の時の時間が稼げます」
ラフォリア 「流石はダイン様に認められた識者ですね、そんな提案が出て来るなんて」
リレッタ 「ダイン様の望みをより完全に実現させる為に支援するのが私達の役目です、その為に考える事でよりダイン様の中での価値を高めるんですよ、建前では遊魔は平等ですけど、ダイン様の中ではちゃんと序列は有るんですよ」
フェイベル 「何故、フェイベル達に教えてくれるんですか?」
リレッタ 「二人が魔術という強みを持っているからですよ、魔術の分野は遊魔では余り進んでいないので二人が進歩させてくれる事に期待しているんですよ」
ラフォリア 「遊魔の魔術は変わった方向に進んでいると思いますけど、あ、ラフォリア達は王道の魔術で遊魔に貢献すればいいわけですか」
フェイベル 「それなら簡単ですね」
リレッタ 「いいですよね、ダイン様に評価される下地が有って・・・でもグズグズしていると、遊魔は直ぐに増えちゃいますよ、魔術に長けた遊魔も今は二人でも、明日も二人だとは言い切れませんから」
リレッタは二人にやる気を出させる為に仮定を提示する、実際遊魔の二、三人は直ぐに増えてしまうのでラフォリアとフェイベルの優位が何処まで保てるのかはダインの気分次第なのだ。
おまけ
レブナン島での魔龍認識 基本的に島民は魔龍の存在など知らない、だが、ここ数年マギガントでの偵察では何度か目撃されている。
クガトは交流の有る東方耳長からの情報で魔龍の動きが活性化している事を知らされており、極力刺激しない様に努めて来た。
魔龍が混沌大陸を出てレブナン島まで進出して来る事をレブナン島勢力は想定しておらず、その襲撃は一方的な展開となっている、だが、予見出来ていたとしても戦力的に対峙する事は難しく、結局は今回の様に静観する事しか出来なかったであろう。
今回の魔龍の行動は完全に予想外の出来事で、それは東方耳長勢力を取り込んだ遊魔で有っても同じであった、もし魔龍襲来の可能性が危惧されていたならダイン自身がレブナン島に赴く事などまず考えられないだろう。