展開編 第二十九話 変革するニ大国

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  ヒューリとエリリナを堕としてから数週間後、エゴナ王国の親ユーマ化は誰の目にも明らかな程進行している。

  新女王ヒューリは、自身が掲げた政策に反対した貴族主体の議会と協定戦という形で対立し、単身で議会に勝利していた。

  その偉業に対して国民からは英傑だという言葉が上がり初めているが、この世論自体がユーマの工作によって流布されているのは言うまでもない、だが、変革期の訪れを感じているエゴナ国民にとって、自国を導くであろう英傑の登場は大きな希望を与えるものとなっていた。

  フェカト 「エゴナは裕福な国で民意も安定していると言われてましたが、ヒューリが議会派の騎士に三連勝してユーマとの自由交易を締結した事で、民衆と貴族の分断が表面化して来ました」

  ダイン 「貴族が主導していた交易が民衆にも解放されましたから、会社という概念を浸透させた事も大きいでしょう」

  フェカト 「民が資金を出し合って、貴族に対抗する組織を短期間で作り上げちゃうなんて・・・」

  ダイン 「頭が優秀なんですよ、エリは機を見る事に長けていますからね、結果的にユーマ騎士の地位は与えませんでしたがエリには今の方が性に合っているでしょう」

  フェカト 「ダイン様の入れ知恵が有るとはいえ、短期間でここまで成長させるとは、領地も資金も無かったのに今やその勢力は有力貴族に匹敵してますよ」

  ダイン 「エリリナには人を巻き込む才能が有りますからね、ユーマもエリリナを利用していますが、エリリナもユーマを利用してますよね、このまま民衆に有効性を認められれば国以上の力を持つかも知れません」

  フェカト 「そんな事が有り得るんでしょうか?」

  ダイン 「国は民衆から税を吸い上げますが、企業という組織は給料を与えます、奪う物と与える物ではどちらが好まれるのかは明白ですよね」

  フェカト 「納税で衣食住が保証されている人類圏国家で、労働対価としてお金を渡すのは貴族の特権でしたからね、民が民に労働対価としてお金を渡したなど人類圏でも初めてでしょうね」

  ダイン 「エゴナは国家運営の実験台ですから、私の目指す社会の実現の為には既得権益を排除する事が必要です」

  フェカト 「ダイン様はシステムを存続させるだけで、無能がのさばる事が嫌いですからね、でもそれって人類圏国家の根本を破壊しますけど」

  ダイン 「いや、それは地球でもそうですよ、人類の歴史とは積み重ねられた利権の歴史で、まともな人間は閉塞感に押し潰されそうになってます、だからこそ異世界というジャンルの創作物が人気が有ったのだと思います、地球では人類の大幅粛正以外ほぼ変えようが有りませんでしたからね」

  フェカト 「ならダイン様をアーグルに召喚したフェカトは地球人類を救ったって事ですよ、ダイン様が地球に存在していたなら、あらゆる手段で理想の実現を考えるでしょうから」

  ダイン 「いや、あの世界では無理ですね、ですからフェカトにはとても感謝しているんですよ、ここならまだやり様が有りますからね」

  ダインは移動王宮とも言えるビグ・ユーマの艦橋で、ククジア王都ククージアへと来訪する途上で有った、遊魔の人類圏への浸透は滞りなく進んでおり、ククジアはもっとも遊魔の浸透が進んだ国で有る。

  今回ダインはククジアで建造が始まった浮遊母艦ユーマ・ティアスの視察と、王都周辺で始まっている、ユーマとククジアの共同事業の視察など目的は様々で有ったが、もっとも重視しているのは、魔王ルーフィンとの秘密裏の会合で有る。

  フェカト 「フェカトとヒューリがお互いを意識して変革している様に演出出来ていますからね、特に強権を手にしつつ有るヒューリの変革が早い」

  ダイン 「真面目なんですよ、そろそろエリリナのダイオーンも完成しますから、エゴナの変革は更に加速化して行くでしょうね」

  フェカト 「ダイン様が仕掛けてるのに他人事みたいな言い方して、でもそれで焦るティアスのフォローをしに行くのはさすがダイン様です」

  ダイン 「ククジアにはエゴナの様な隙は有りませんから、王の強権を縛る制度が確立されていますよね、ですがエゴナの改革が進めばティアスの支持者が増えてやりやすくなる筈です」

  フェカト 「それを狙って、エゴナに接近したんですか?」

  ダイン 「いや、エゴナの女王は美形が選ばれると聞いて興味を持っただけです、おまけに隙が有りましたからね、成り行きの思い付きですが訪れた好機は逃さない様にするのが重要ですよ」

  フェカト 「確かにそう思います、でも好機って後で気付きますよね、それでよく後悔しますよ」

  ダイン 「私は優秀な牝を欲しいと思いますから、欲望が状況を教えてくれます」

  フェカト 「ダイン様が遊魔にする娘は優秀ですからね、いや、遊魔の真理を植え付けられればどんな人間でも優秀になっちゃいますけど」

  ダイン 「超常の存在と交わらないといけませんからね、その上で自己を主張出来る程の能力を持たないと遊魔社会を楽しむ事が出来ませんからね」

  フェカト 「皆んなそれぞれの強みを活かして頑張ってますよ、でも、地球の知識が有るお陰かナナが一段優れていると思います、王都の後は造船所でしたよね」

  ダイン 「はい、ナナが試作した浮遊移動機関を持ち込みます、アレを使って安価な浮遊母艦が出来れば人類圏に移動革命が訪れるでしょう」

  フェカト 「魔鋼竜骨の上に船体を組む必要が有りますけど、魔鋼の使用量はスカイベアー級の二割で済みますからね、おまけに船大工でも作る事が出来ます」

  ダイン 「運河流通の発達した人類圏には多勢の船大工が居ますからね、彼等の持つ技術を利用出来れば、製作はより容易になりますから」

  遊魔の抱えていた問題は、個々の発想によって大きく進展していた、特にダインと七実の地球技術に魔導技術に長けたフィセーリアが加わった事で多くの難題に解決の糸口が見つかっていた、その上秀才と言えるムジカなど、遊魔技術陣はテガスだけでは解決出来ない程の技術的案件を抱えている。

  その事が人類圏最大の魔導工業地域ともクガト領を掌握しつつ有る、ルーフィンとの交渉を進める要因ともなっているのだ。

  そして、ビグ・ユーマはその卓越した高速を活かしてククージアへと到着しつつ有った。

  王都ククージアに近付いたビグ・ユーマの通信盤に七実の姿が映る、七実はククージア郊外に建設が進む浮遊母艦工房で作業中の様で、クラフト・ゾッフォとビグ・ユーマが通信圏内まで近付いた様だ。

  七実 「あ、ダイン様、もっと遅いと思ってました」

  ダイン 「思いの外竜骨の作業が早く終わりましたからね、単なる鋼板状では無く、ある程度曲げた物を出して加工した方が早かったんですよ、元々金属の魔鋼ですから圧延しなくても押し出しで上手く行きました、ですが形状は上手く行ってますが強度は絶対では有りません」

  七実 「現地球の工業レベルは不可能ですからね、そもそも素材が違いますし、でも鋳造で作った魔鋼の鎧でも強度は鋼鉄の板金鎧より上なので大丈夫でしょう、魔鋼竜骨はあくまで補強ですから」

  ダイン 「水上と空中では掛かる荷重が異なるとは思いますが、そもそも建造時は陸上で原型を作ってますからね、無茶な動きをさせない限りは空中分解とかは無いでしょう、あれは機体構造が風圧に耐えられないのが原因でしょうから」

  フェカト 「もう、また変な話が始まってます、そろそろ着陸ですよ」

  眼下に見えた王宮闘技場では出迎えの観衆が上を見上げている、最近では浮遊母艦の着陸も見物料を取っての入場制になっており、国庫のちょっとした足しにもなっている。

  ダイン 「ティアスも抜け目無いですよね、確かに浮遊母艦の着陸は迫力有りますけど」

  フェカト 「ユーマ・ティアスが完成したなら王都周辺の周遊なども考えている様ですよ、浮遊母艦は人気が有りますからね」

  ダイン 「取らぬ狸の皮算用という言葉が有りますが、商魂逞しいですね」

  フェカト 「ですが、ユーマ技術の普及という観点から考えれば良い方法だと思います、ククジア国産のユーマ・ティアスに各国の要人を招待すれば技術的優位を示して焦りを招く事が可能ですから、どの国でも差を開けられるのは嫌な事ですよね」

  ダイン 「今や変革が進んでいるのはククジアだけでは有りませんからね、二大国が率先して変革を推し進めれば周りも静観してはいられないでしょう、現にユーマ、ククジア、エゴナの三国に使者を送っている国も有りますし、エゴナにはエディケスからの技術団が来たそうですよ」

  フェカト 「ゾッフォを上級機にまで高めたダイオーンは破格の機体ですからね、まぁ他所で作れる代物じゃ有りませんけど、ユーマの技術と耳長技術の結晶ですからね」

  ダイン 「かなりの精密な加工を行ってますし、魔鋼溶接技術はユーマにしか有りませんからね、他じゃ真似できませんよ」

  フェカト 「ダイオーンへの改修には時間が掛かってますからね、エポポなんて直ぐに出来るのに」

  ダイン 「削ったダイオーンのフレーム構成で、強度を維持しようとすると関節部が二重、三重のパイプを組み合わせる構造になってます、ゾッフォより格段に軽量化出来て強度自体も上がってますが、その分作るのが難しいんですよ」

  フェカト 「遊魔の本領が発揮出来るダイオーンですが、まだまだ行き渡らないみたいですね」

  ダイン 「テガスで改修するしか有りませんからね、その分浮遊母艦の建造を外部に任せるわけです、中枢技術は無理ですが」

  フェカト 「すみません、技術分野の事は私には解りませんから」

  ダイン 「いや、そこまでフェカトの手を煩わせる訳には行きません、その為にナナをククージアに送り込んでいる訳ですから」

  ダインとフェカトの会話の最中も、ビグ・ユーマはククージア王宮闘技場へと降下して行く、ビグ・ユーマには船体操作が可能なサブブリッジが備わっており、現在はそこから操作されている、ダインは何かとやる事が多いので、移動中であっても無駄な時間を作らない様に考えられているのだ。

  そうして、王宮闘技場に着陸したビグ・ユーマの船体ハッチから、ティアスが乗り込んで行く、幾らククジア王宮の中であろうとも、ユーマの領土で有るビグ・ユーマの中に断り無く入る事が出来るのはダインの家族として認められた者だけなのだ。

  ダインが自室とも言えるビグ・ユーマ艦橋にフェカトと呼んでいたのは、ククジアとの協力事案の為の最終確認の為では有るが、ダインの意をほぼ完全に汲み取っているフェカトの立てた計画に対して何ら指摘する事など無かった。

  フェカト 「ククジアとの協議は一先ずこれぐらいですが、問題はルゥですね、クガトの掌握は進んでいる様ですが魔術クガトは手強い様です」

  ダイン 「ルゥの正体は露見していない様ですが、魔術クガトの全貌もまだまだ謎の様ですね、それっぽい処女を魔進化させる手も有りますが」

  フェカト 「クガトについてはルゥに一任すると約束してますからね、ダイン様が出向いた方が早いですよ」

  ダイン 「ルゥが頼ってくれれば直ぐにでも協力するんですが、魔王の自覚かプライドが高いですからね」

  フェカト 「リレッタが何かと気を使っている様ですが、リレッタは真面目ですよね」

  ダイン 「責任感が強いんでしょうね、遊魔と接触を持った原因でも有りますから、もっともティアスという獲物が被ってしまったから当然の結果では有りますね」

  フェカト 「ダイン様らしいところが発揮されてましたよね、いい加減なんですけど取れるモノは取るんですよ、今回もリレッタは同席しますよね」

  ダイン 「リレッタは話せるクガトの代表ですから」

  失脚したレボト・クガトの後釜はまんまとリレッタ・クガトが手に入れていた、新女王のティアスとは旧知の仲であり、ユーマ国王ダインとも剣を交えて認められた存在で、敵対したティアス派との仲を修復する為には年齢こそ若いが最適任でもあった、だが、クガトの重鎮達はダインにとっても最適任で有る事までは気付いていない。

  おまけ

  英傑ヒューリ エゴナ王位に就いたヒューリはそれまでの傀儡の女王と違って積極的に自身の権限を拡大させると同時にエゴナの改革自体も推進している。

  この様な行為が可能となっている最大の理由はヒューリ自身が個人で次世代上級機ダイオーンを所有している事にある。

  これまでのエゴナ女王は騎士であってもマギガントは保有しておらず、個人的な協定戦など行える状態に無かった。

  だが、ダインから直接ヒューリにダイオーンが送られた事でヒューリ個人の意思で協定戦を行う事が可能になったのだ。

  そして次世代上級機ともいえるダイオーンは相手と刃を交える事無く戦える射撃戦専用機で、一機で協定戦の連戦が可能な機体でもあるのだ。

  実際ヒューリはダイオーンを用いた協定戦全てで三連勝を達成しており、行った全ての協定戦を一人で勝利しているのだ。

  これにはダイオーンに搭載された防御障壁展開能力も重要な役目を果たしており、実質ヒューリのダイオーンは何らダメージを受けていないのだ。