004-043
主賓席で待ち惚けを喰らっていたティアスではあったが、その心の内は躍っていた。
今日でティアスは幼少期から抱いていた夢を叶え、自分に相応しい異性も見つかったのだ、確かに色々と問題も有る存在では有るが、ダインの与えてくれた力のお陰で、生きる事がそれまで以上に楽しくなったのは疑い無い。
ティアス思考 『ダイン様遅いですね、三人の耳長と面会するという話でしたが、まさかもう手を出してるとか』
ダインのやり方を見て来たティアスはダイン行動が予測出来る様になっていた、相手を油断させる為に敢えて一対三の会見を行った事は確かで、ダイン自体は一人でもビグ・ユーマには何らかの仕掛けが施されているのは間違いない。
そして、会場に現れたダインと耳長の様子を見て予想は確信に変わる、だが、不思議とティアスに嫉妬心は無い、ダインが直ぐに手を付けたという事は、耳長は遊魔にとって有益な存在だという事なのだ。
ティアス思考 『まぁダイン様の行いを認めて上げるのがティアスの器の広さを知らしめる事になりますから、ですが三人とも遊魔にしちゃうなんて大胆ですよね、遊魔との相性もとても優れてます、まさかダイン様の魔力を超えちゃうなんて』
ティアスは耳長遊魔の魔力の高さを感じて、ダインの判断の正しさを実感する、魔術面でティアス勢力はクガト側に劣っており、それを挽回したいと考えていたからだ、そして魔術に秀でていると言われる耳長の遊魔への加入は、多くの魔術的恩恵をもたらせてくれるだろう。
ダイン 「遅れてしまって申し訳ありません、東方騎士達の話がとても興味深かったのでつい尋ね過ぎてしまいました」
ティアスの隣に着座したダインが謝罪の言葉を口にするがその言葉が出鱈目で有る事はティアスも理解している、そしてこの人目が有る会場で真実を語る訳も行かない事も理解出来ている。
ティアス 「美しい娘が三人も居ればつい話も弾んでしまうでしょう」
ダイン 「確かにそれも有りますが、耳長から得られた情報は今後に大きな影響を与えると思います、今は詳細は語れませんがじっくりと協議が必要ですね」
ティアス 「ダイン王がこういう人なのは理解してますけど、着飾ったティアスに対して何か言葉は有りませんか?」
ダインはその言葉に、まじまじとティアスを観察してから言葉を掛ける。
ダイン 「実にティアスらしい衣装です、自分の引き立て方をよく理解出来てます」
ティアス 「そういう感想を期待してませんけど」
ダイン 「とても美しいですよ、この場の誰よりも美しいと思います、これ程の美を王として仰げるククジア国民は幸せ者ですね」
ティアス 「もう、ティアスはダイン王の妻なのに褒めすぎですよ」
ダイン 「まだ正式では有りませんが、美しい妻を娶るのは男にとっての勲章ですから」
ティアス 「女性は勲章ですか、それならばダイン王が女性を侍らすのも当然ですね」
ダイン 「ティアスの心の広さには感謝してますよ」
ティアス 「むしろ、ティアスが割り込んだので、受け入れてくれた事に感謝です」
ダイン 「立場有る者が謙虚なのはいい事です、私は誰に対しても余り変わりませんが」
ティアス 「それがティアスには嬉しかったですよ、知らなくて普通に接して人は居ましたけど、知ってても普通の人ってまず居ませんから」
ダイン 「私はある意味で自信家なので、自分を変えたくないんですよ、全てを受け入れる器が無いと私は使いこなせないでしょう」
ティアス 「使いこなすなんて無理ですね、ダイン王は利用出来るところを利用するのが一番ですよね、こちらの思惑通りに動いてくれるわけ有りませんし」
ダイン 「そういう事です、私は好きに動いてる方が結果を出すんですよ、思い付きで生きていますから」
ダインとティアスの親しげな雰囲気は、二人に対して祝辞を述べようと列を作っていた者達を敬遠させていた、そう思わせる程に二人の仲はいい様で、その状況を作り出せただけでもティアスの思惑は達せられたと言ってもいい。
そんな二人の姿を前列ユーマ側に配置された遊魔達は複雑な心境で見ていたが、遊魔達の置かれか状況はそれどころでは無かった。
同じテーブルに配置された耳長達は、細身の身体の何処に入るのかと疑問を持ってしまうほど大喰らいで、その上食べる前に料理の説明を求めて来るのだ。
日本式の食事が主な為に、アーグル人には説明など難しく、結果、知識を持つ遊魔達が説明するしかない。
そうして、遊魔達が耳長の接待に掛かりきっている間に、招待者達の面通しが始まる、今回はククジア国内の問題で有った為に国内の有力者が主な客層では有ったが、新国王に早く近付こうとする面々で長蛇の列が出来ている。
そして、先頭の位置に居た者に対してティアス流の新しい政治姿勢が示されていた。
ティアス 「おかしいですね、初めに陣取っていたのはジンザのクボール卿だった筈ですが、何故イナト卿が一番何ですか?」
イナト卿 「クボール殿に譲って貰ったのです、ジンザとは何かと懇意にしておりますので」
ティアス 「私は初めに並んだ者から順番に会うと名言しましたが、幾らクボール卿に譲られたと言っても、私は自分の言葉を覆すつもりは有りません、イナト卿は後ろに並び直して下さい、そして一度列を外れたクボール卿も並び直して貰いますよ」
この言葉の結果、ティアス新王に初めて謁見する栄誉を授かったのは、末端の辺境貴族となった、どちらの派閥からも相手にされない程の地方領主では有ったが、ティアスの行いに感激して涙まで流している。
ダイン 「何だかスッキリしましたね、私も列に割り込む人間は許せませんから、世の中は秩序を守れない者に対して厳しく有るべきです」
ティアス 「ティアスも同じ考えです、有力貴族に公正に対処した事で不満を持つ者も現れるでしょうね」
ダイン 「むしろそれが狙いですよね、基礎から作り上げたユーマと違って大国の変革しは苦労するでしょう」
ティアス 「やり甲斐が有る方が日々充実出来ますから、王の権力は絶対的では有りませんが、ユーマとの繋がりは無視出来ないでしょう」
ダイン 「まぁ私も妻を無下に扱った者とは交渉など出来ませんからね」
ダインの後押しで、ティアスの地位も盤石となりつつあった、幾らティアスを煩わしく思っても、ユーマとの関係を考えるなら排除など出来ないのだ。
ここで、参列者達はティアスがユーマの独立を支持した真の意味を理解して、その思慮の深さに驚愕していた。
諸侯への目通りもつつがなく進み、ほぼ全ての参列者が今後のククジア社会への貢献の重要性を認識していた、ティアスの言を信じるならば、例えリボルト派の重鎮であったとしても、社会への貢献度が高ければ厚く遇されるというのだ、そして逆にティアスを支えた者であっても実績を上げられなければ処罰もあり得るらしい。
それはユーマ共栄国で行われている事の伝播と行ってもよく、人類圏に新しい潮流が起こっている兆しでもあったのだ。
そして、ティアス、ダインは二階の奥の部屋に下がって、同時に耳長からフィセーリア、フィリッカ、フォティーヌの三人が呼び出される、耳長との会見を早急に行う事で、自勢力に取り込んだ事をアピールするのが狙いで有る。
主賓の去った会場では、残る耳長達に注目が集まっていたのだが、彼女達もユーマ勢力にしっかりとガードされていた、三人が抜けた為に一つのテーブルに集められて、ユーマの料理長愛耶から、異世界料理に関する講義を受けているのだ。
そして、その席には愛耶の作ったデザートが大量に用意されており、耳長達の胃袋を更に追い詰めて行くのだった。
一方で、二階の奥の部屋へと移ったダイン達は、早速今後について話し合っていた、耳長達の移動手段でもあったクフィカールの何機かは飛行不能状態であり、修理する必要が有るのだが、王都ククージアの工房では情報漏洩が避けられないからだ。
ダイン 「まぁ、最善策はスカイベアーでの輸送でしょうね、行き先さえ分かれば東方大陸まで送り届ける事も可能でしょう、ですが、浮遊母艦は予定が結構詰まっているんですよ」
ティアス 「まだ二隻しか無いので予定で一杯なんですよ、特に選定戦の準備などで二隻ともククージアとテガスの往復をしてましたから」
ダイン 「新工房で三番艦の準備も急がせてはいますが、魔鋼自体が不足していてなかなか進んでいないんですよ、ゾッフォの改修ビジネスで出た余剰魔鋼を再利用してますが、後五十機分ぐらいは必要ですね」
ティアス 「予定より早く父王に退任して貰って、王都工房から融通しましょうか?」
ダイン 「王都では四番艦の建造が控えてますから無駄手間ですよ、クガトのジゾフ翁にお願いしてみましょうか」
悩むダインを前にして、新規加入の耳長が提案を行う。
フィセーリア 「あの、錬成前の魔鋼ならば東方にかなりの備蓄が有りますよ、クフィカールで二百機は作れる量です」
フィセーリアの言葉にダインの表情が綻ぶ、マギガント二百機分ならば単純に計算しても三隻の浮遊母艦が作れる量なのだ。
ダイン 「それは魅力的な情報ですね、ですが全てを融通はして貰え無いでしょう」
フィセーリア 「中央大陸奪還に必要ならば全て提供出来ます、今回の人類圏で得た情報を精査すると、浮遊母艦の数こそが中央大陸奪還にもっとも必要だと実感しましたし、もし、敵との戦闘でマギガントが破損しても浮遊母艦を使えば回収も可能ですし」
ダイン 「ですが浮遊母艦自体が魔龍に落とされる可能性もあるんじゃないですか、一隻落とされるだけでも大損害ですよ」
フィセーリア 「東方騎士のクフィカールは三百機を超えてますから、重厚な防御陣を構築出来ると思います、その上で浮遊母艦を配置すれば万全だと思います」
ダイン 「三百機ですか予想以上の大戦力ですね、それだけ有れば人類圏の武力統一も可能ですね」
ティアス 「怖い事言わないで下さい、せっかくククジアの王位が確定したのに」
ダイン 「まぁ人類統一して、混沌大陸征伐を行った方が効率的でしょうが、それが許される程の脅威が魔龍に有るかどうかですね」
フィセーリア 「耳長の伝承では人類種に終焉をもたらすと有るんですが、耳長の伝承だけでは受け入れられないでしょうね、人類圏は三百年の平和を謳歌しているわけですから」
ダイン 「実際の脅威が伝わっていなければ反発は必至でしょう、都市の一つでも滅されれば変わるでしょうが」
ダインは物騒な事を言い出すが、遊魔思考としては都市一つよりも脅威の排除の方が重要な事柄でも有る。
ティアス 「その魔龍についてはもっと情報が必要ですよね、脅威に関してもザキトスの魔獣だと言えばある程度の理解は得られる筈です」
ダイン 「実際に魔獣の捕食で力を得たのならば、ザキトスの残した脅威でも通用するわけですか、実物を映像で捉えて公表した方が効果は大きいでしょうね」
フィセーリア 「耳長が保有する超大型船が中央大陸東岸に配置されています、それを拠点に情報を取集出来れば魔龍の姿を捉える事も可能だと思います」
ダイン 「浮遊母艦はまだまだ数が不足していて混沌大陸には回せませんが、映像記録が出来る偵察型マギガントなら投入も可能でしょう、テガスに帰ってから早速準備を始めましょう、実験機のウィディも有りますから、アレをベースにしましょう」
ティアス 「エンジンの音がうるさくて過剰性能だと言っていたヤツですよね、普及型のロゥディの改造で済むんじゃ無いですか?」
ダイン 「運用でいうならばロゥディの改造の方が楽ですが、偵察で重要なのは無事に帰って情報を伝える事です、ならばロゥディよりも高速で飛べるウィディを改装した方が任務の達成確立が上がる筈です」
フィセーリア 「異世界の考え方って色々参考になります、生きて逃げ帰るのが役目だなんて騎士には出来ない考え方です」
ダイン 「戦力分析はもっとも重要な事ですよ、敵味方の能力をちゃんと把握しないと戦力の整備からおかしな事になってしまいますから、ですが人型のマギガントの用途はただ単に戦闘だけじゃ有りませんから、多く作っても無駄にはなりませんけどね」
ティアス 「テガスでは色々の用途のゾッフォが使われてますからね、騎士の仕事では無いと思いますが・・・」
ダイン 「特権意識の有る考え方ですね、効率的に仕事をしているだけですよ、そもそも普段から動かしていた方が咄嗟の時にも焦らない物です」
フォティーヌ 「色々と勉強になりますね、ダイン王は私達よりかなりお若いのに物知りです」
ダイン 「知っているだけじゃ意味が薄いんですよ、知識とは何かに活用してこそ意味の有るものですから」
今やダインの最大の興味は魔龍に向いてしまっている、遊魔の繁栄と生存に執着を見せているダインにとってそれを脅かす存在が無視出来ないのだ、その意味ではアーグルに来てからのダインは絶好調な状態でもあり、その現れがユーマ共栄国の急速な発展でも有る。
おまけ
ユーマ共栄国 国土は旧ポロルグ王国の八割程度でテガス領とツェーリア領からなる、テガス領1対ツェーリア領9の面積比だが人口比は1対5程度、テガス領約三万人ツェーリア領が約十五万人で十八万人の人口を持つ小国、因みにククジア王国の人口は一千万人ほどで、面積はユーマ共栄国の三十倍ぐらいで有る。
建国から半年も経っていない新興国だが、国王ダインの指揮下のもと恐ろしい急成長を遂げている。
主要産業は魔導具生産と農業で、これもテガス領とツェーリア領で別れている、農産物の生産量は二十万石ぐらいでツェーリア領が九割以上を生産している。
一方貿易で二百五十万石換算の利益を生み出しているが、これはテガスで生産される魔導具や異世界調味料のお陰である。
軍事力はマギガント約30機に兵士約1100人、兵士と言っても国内の治安を守る治安組織で他国との戦いの為の戦力では無い、特筆すべきはユーマにしかない浮遊母艦の存在で、これを二隻保有している。
新興小国にしては過剰とも言える軍事力を有しており、他国への侵攻も容易に行える状態にあるので存在を危険視されているが、大国ククジアの庇護下に有るのと、交流する事で得られる高性能マギガントの供給で表立って排除を公言する勢力など存在していない。