004-027
ククジア王都でのスカイベアーの披露が終わって、既に数ヶ月が経過していた、後一週間でティアスの選定戦が行われる予定で、ユーマ共栄国では参加する援軍の出征式が行われている最中だ。
テガス郊外に設けられた会場には目立つ浮遊母艦が二隻も着陸しており、その二隻の間にユーマ共栄国が誇るマギガントの数々が整列している。
七実 「これだけマギガントが並ぶと精悍ですね、持って行くのは六機ぐらいなのに」
七実は自分が開発に携わったジノ・ジーカが間に合って上機嫌だ、一時はジーカの複雑な機構を残そうとして悪戦苦闘していたが、遊魔の魔力で解決する仕様に変更した事で万事上手く行った。
真夏 「妥協の産物も混ざってますけどね、それに真に恐ろしいのはダイン様のビグ・ユーマですよ、今回は参戦の予定は有りませんけど」
七実 「しかし、何でビグ・ユーマなんでしょう、スカイベアーの二番艦なのに」
真夏 「見た目だけじゃ無いですか、根本的には別物ですよ」
七実 「でも、マギガントも三機運べますからね、ビグ・ユーマ一隻でどんな都市でも手に入れられそうです」
七実はスカイベアー級二番艦を見つめて言葉を紡ぐ、見た目こそそれ程変わる所も無いが、二番艦にはダイン也の仕掛けが施されている。
そして、ビグ・ユーマの艦橋からダインの言葉が投げ掛けられると、会場の熱気が増して行く、既にダインはユーマ国王として国民の人気を不動のモノへとしているのだ。
各艦に三機ずつのマギガントを積み込んだ空中母艦が離陸すると、護衛のウィディ・ゾッフォと三機のロウディ・ゾッフォが続いて離陸する。
ロウディ・ゾッフォはウィディの廉価タイプで、複雑な魔導ジェットをより簡易化した魔導プロペラに変更する事によって運用面を格段に向上させている。
フェカト 「過剰過ぎる戦力を見せる事で、ククジアに見劣りしないという事を示すおつもりでしょうが、やり過ぎじゃ有りませんか?」
ダイン 「そうでしょうか、実質まだククジアの戦力はティアスの指揮下に有りませんから戦力の誇示は保険ですよ、駐屯地も王都郊外に設けましたし」
七実 「人類法に忠実なアーグル人と違って、地球人は疑り深いんですよ、不可侵条約が破られる歴史は繰り返されてますから、そしてダイン様の真理では人間は信じるに足らないですからね」
フェカト 「それは理解していますが、罰の効果は有効に機能していますよ」
ダイン 「罰と言えばレボト・クガトは混沌に流されたという話でしたね」
フェカト 「力を失えば守るメリットも有りませんからね、ですがアレは自発的に混沌大陸に向かったという体裁ですよ」
七実 「そんなにティアスの時代が嫌だったんですね」
フェカト 「かなり露骨にティアスに嫌がらせしてましたから、ですが、本当に流されただけなんでしょうか?」
ダイン 「確かに、起死回生の一手を秘めているのかも知れませんね、ザガルバも同行させているんですよね」
フェカト 「はい、実質は追放ですが名目は混沌大陸の探索ですから」
ダイン 「何か有るにしても、選定戦までに動きが有るでしょう、それにもし古のマギガントが出て来たとしても、私の秘密兵器に勝てるでしょうか?」
フェカト 「出来れば止めてくださいね、下手すると王都を火の海にしちゃいそうですから」
ダイン 「そこまで危険な武器は無いですが」
ダインはビグ・ユーマの腕に当たる部分を意味深に見つめている、スカイベアーに比べて複雑なスリットが入ってるところに如何にも何かが隠されている感じだ。
プロペラ式のロウディが全速力を出す事によって、一団は普段と変わらない二時間でククジア王都へと到着するとぐるりと上空を旋回してから予定された駐屯地へと着陸する。
すると程なくして、王都から三機のマギガントが飛来して、一団に向かい会う様に着陸した。
ティアス 「よくぞお越し下さいました、既に歓迎の宴の準備は整ってますよ」
普段と変わらないティアスの姿が通信盤に映し出されてダインの到着を歓迎してくれる、ティアスは余り緊張した様子も無く、ダインに会えた事が嬉しい様だ、そして晴れて王位に着いた暁には直ぐに婚礼が行われる予定でもあった。
ダイン 「私相手に気は使わなくてもいいと言ってますが、お互いの立場を考えるとそうも行きませんからね」
フェカト 「はい、仲の良いところを充分に知らしめて下さい、今回の選定戦には他国からの観戦者も多いですから」
ダイン 「一応、新しく作った長距離通信盤を各国に販売しましたけどね、アイヤの異世界料理番組が大好評で、調味料の受注が凄い事になってます」
ティアス 「あのテレビってヤツですね、王宮でも食堂とかに置いてますけど、最近は居座る者が多いんですよ、この前は父王が降りて来て長時間魅入ってました」
ダイン 「王ならば自分の部屋に置けばいいでは無いですか」
フェカト 「その感覚は人類圏国家では改めた方がいいですね、面倒な貴族を束ねるのが王族で、好き勝手出来るわけじゃないんですよ、特に民の求める物を独占したとあっては混沌に流されるかもしれませんよ」
ダイン 「まぁ私の欲は些細ですから、それに民が喜ぶ事を率先してやってますよね」
ティアス 「今回の協定戦は正にお祭り騒ぎですからね、通常とは違って五つの会場で同時に行うので、かなり多くの国民が新王を決める為の戦いを直に観戦出来ます、特に軍団戦が行われる第五会場には周囲を取り囲む様に櫓が建てられてますから」
ダイン 「それはそうでしょう、私とティアスは揃って第五会場ですから、五対五の軍団戦が一番見応えがある筈です」
七実 「アーグルでは滅多に見られない戦いですからね、ナナも勿論観戦しますよ」
ダイン 「マナとファナの二対二の戦いはいいんですか、三狐衆の仲間ですよね」
最近、七実達は三狐衆と呼ばれる事が多くなっている、これは対比役の三狸衆と呼ばれる遊魔達が新たに産み出された事が大きい、もっとも最古参である三狐衆は遊魔でももっとも力を持つグループと言え、ダインの信頼も厚い。
七実 「戦闘ではナナはおまけですから、やっぱりコンビ組んでた二人には割り込めませんよ」
フェカト 「あの連帯は凄いですよね、それにダイン様が新しく生み出した武器も有りますから、確実な一勝ですよ」
ティアス 「正直言ってリボルトの勝ち筋って、勝負でティアスを殺めるぐらいしか無いと思います、でもダイン様の秘策の前ではティアスの安全は完璧ですから」
ダイン 「いや、余り過信するのは危険ですよ、ルゥへの働きかけでクガト側に五戦同時の戦いを了承させましたが、ルゥの力でもリボルト側の騎士や機体をまだ把握出来ない様ですから」
ティアス 「人が居ないだけかも知れませんよ、現行主力となっているエポポ・ゾッフォは恥ずかしくて使えないでしょうから」
ダイン 「まぁ全てテガスで手の入っている機体ですから難しいでしょう、素のジノ・ゾッフォでは明らかに役不足ですし、フーティアは数が揃っていない、ムゥディ・フーティアには手を加えた様ですが、まともに動く程に仕上がっているのか楽しみですね」
ティアス 「ほんと、ダイン様は意地が悪いです、動いてもユーマのマギガントには勝てませんよ」
ダイン達遊魔はこの時完全に相手を侮っていた、ククジアの末端にまで延ばされた遊魔と乳魔の情報網を使って国内状況の把握はほぼ完全とは言えるのだが、アーグル世界にはまだダインの予測を超える状況も生み出されるのかも知れない。
それから数日間、状況はほぼ変わる事無く選定戦当日を迎えようとしていた、だが、リボルト側の参加戦力は未だに公表されずに、リボルト側の工房が動いている様子さえ無かった。
ティアスは選定戦の公正さを示す為に王宮から離れたユーマの駐屯地で過ごしていたが、新しい情報は何ら得られていない様だった。
ティアス 「まさかこの段階でも相手の情報が出て来ないとは、結局騎士が用意出来なかったのでしょうか、戦いが観れなければ集まった民衆が可哀想ですよ」
ダイン 「なら、その時はティアスの歌唱ショーを行いましょう、時期国王の歌が聴ければ民衆も満足してくれる筈です」
ティアス 「あ、その手が有りましたね、魔導テレビを使えば全ての会場の人に観て貰えますよ」
ダイン 「冗談で言ったんですが・・・本当にやる気ですか」
ティアス 「自信が無ければ女王なんて出来ませんよ」
ダイン 「私は成り行きで、他力本願の王ですが」
ティアス 「ダイン様は他の実績が十分過ぎますから、民を楽しませるのも王の務めだと考えれば十分です、国も富ませてますし」
ダイン 「まぁ合格点は貰えているというわけですか、ですが私の与える娯楽には相手が必要ですよ」
ダインとティアスが二番艦のビグ・ユーマで語り合っていると、一番艦のスカイベアーが離陸している、個人戦三戦は王都の闘技場で行われる為に参加するマギガントと騎士を今から送り届けるのだ。
スカイベアーの離陸を確認したダイン達の元に七実と真夏が状況報告の為にやって来ると、ダインは二人を自分と向かい合うティアスの隣の席に座らせてから報告を受ける。
ビグ・ユーマはダインの移動する城としての役目も担っており、深々と安らげる王座とそれに向き合う事が可能な臣下の席が用意されている、そして、席と席の間にはテーブルを展開させる事も可能で食事から会議まで何でもこなせる様に作られている。
七実 「リィ、アキ、ラファメの三名が出立しました、ですがラファメで良かったのですか?」
ダイン 「遊魔以外を過小評価してしまうのは解りますがラファメは優秀な騎士ですよ、それにティアス直属の騎士となれば外せないでしょう」
ティアス 「不安材料の情報は入手してますが、それを含めてもラファメを信頼してますから」
七実 「まぁティアスが望むのであれば受け入れますけど、でもナナの方が強いですよね」
ダイン 「それを言うならポーカもメンバーじゃ有りませんしね、まぁテガスの護りの要ですから、それに折角騎士団を作ったのですからお披露目したいじゃないですか」
真夏 「騎士団用の機体まで作りましたからね、でも飛行仕様と陸戦仕様を換装するって無駄じゃ無いですか」
ダイン 「そうでしょうか、緊急展開時は機動力重視で、戦力重視の型が有るのは合理的だと思いますけど」
七実 「マナは自分の十八番が取られるのが嫌なんですよ、ロゥディの陸戦型はガドリング装備してますし」
ダイン 「バレルの長さが違うので、マナの方が高火力ですよ、それに装弾数も三倍ぐらいですし」
ダインは数ヶ月で銃器の開発に成功していた、だが、その機構は地球型とは違って、魔力で水を蒸発させた圧力で撃ち出す方式で、威力こそ中々の物だが発射速度が遅い為に多銃身化させて速射性を高めている。
ティアス 「正直なところ沢山の球なんて要らないと思います、当たれば終わりじゃ無いですか」
ダイン 「人類大陸ではそうでしょうが、混沌大陸の探索ならば火力と継戦能力を必要でしょう、群れなす魔獣は脅威ですから」
七実 「ダイン様は先を考えてますからね、ティアスの選定戦も重要だとは思いますけど、この世界自体に謎が多過ぎますから」
この七実の言葉は直ぐに遊魔達へと降りかかって来る、この時、ビグ・ユーマに搭載されていた魔導レーダーが上空に新たな魔導具の反応を捉えて、正面モニターに情報を映し出したのだ。
その反応は現有マギガントよりも強い光点となって映し出されており、飛行しながら王都に迫っている様で、予想外の事態にユーマ達でもは戸惑っている。
だが、ダインはその状況を楽しんでいる様で、不安な表情の眷属達とは異なって何処か楽しそうだった。
おまけ
ロゥディ・ゾッフォ ユーマ共栄国の飛甲騎士団の主力マギガント、改修事業で手に入れたゾッフォを全面的に改造した機体。
エポポ以上の魔鋼練度にユーマが開発した様々の装備が導入されている、経済性を重視した飛行装備や軽量化した射撃武装を装備可能で、もはや騎士同士が一対一で戦う為のマギガントでは無い。
飛行装備状態で移動させた機体を浮遊母艦で換装する事で、軽装の近接戦形態から重装の射撃戦形態へと切り替える事が可能で、より時間を掛ければ工作用のクラフト・ゾッフォとしても運用可能である。
騎士団設立を早急に行いたかったユーマでは、最も入手しやすいゾッフォを主力として採用する事で、短期間で国力以上の騎士団の設立を可能とした、ただ、所属騎士については格差が大きく、人類圏十指に入るポーカ、リエル、アーキアの三名以外はテガスの魔動力学院の騎士過程に属していた者を正規の騎士として登用した人材が主である。
扱い易いロゥディは未熟と言える騎士でもそれなりに戦える機体でもあり、各国の飛甲騎士団の評価は高い、だが、ロゥディの真価は集団戦に有り、現状の人類圏では披露される機会は無さそうだ。