地固め編 第三話 広がる遊魔都市テガス

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  ツェリとニアが洞窟奥の探索から戻った後、更に数日が経過していた、村人が落ち着いて冷静の今後を考え始めた矢先、次なる変化の兆しが届く。

  ポロルグの兵士を引き連れたフェカトが洞窟に来訪して、村人達のテガスへの移動を認めてくれたのだ。

  これは勿論遊魔の策略で、逃げた先の安寧を広める事でツェーリアを内部から揺さぶる目的も有った。

  村長 「本当に街で受け入れてくれるのですか、儂等村を捨てた罪人なんじゃが」

  フェカト 「経緯は把握しておりますので皆さんが罪人となる事は無いでしょう、それにポロルグが後見に付きますのでツェーリアは手出し出来ない筈です」

  フェカトは意地悪く笑う、勢力を増しているポロルグと疲弊したツェーリアとの差は歴然で、意義を唱えようにもツェーリア側に協定戦での勝ち目は全く無い。

  ツェリ 「なら安心ですね、ですが村人達の生活の保証は有るんでしょうか」

  フェカト 「むしろテガスでは人手を欲しているんですよ、ダイン様の行う改革が内外に広まって訪問者が増えてます、それでテガスも人手が足りなくなってます、早急に必要なのは大工と料理人ですが、皆さんなら大丈夫ですよね」

  村長 「木こりは村の男達の主な仕事ですからのぉ、女達は森の幸を加工して街に売っておりますので料理も得意ですぞ」

  フェカト 「なら安心してテガスにお越し下さい、家が出来るまでは船で生活して貰いますが、食堂が使える分此処よりは快適な筈です」

  ツェリ 「船ですか、テガスには運河が有るとは聞いていましたが」

  フェカト 「はい、運河を使って来訪される方が多いんですが、既に宿が一杯なので自分の船で滞在して貰ってます、食堂は優先して建設してますが住居まで手が回っていません」

  村長 「どの道、洞窟暮らしも何時迄も続ける訳には行きませんからのぉ、早くに此処を立って皆を安心させたいですじゃ」

  フェカト 「なら、善は急げですね、私は所用で直ぐに此処を立ちますがご一緒出来る方々はお連れします」

  そうしてフェカトが出立する一時間後には二十名を超える村人達が同行する事になった、皆働き盛りの若い男女で、先行して生活圏を整える思惑だ。

  一行は徒歩で二日程掛かってテガスに到着したが、フェカト、ニア、ツェリは森を出たところで馬車で先行して、第一陣の村人が到着する頃には受け入れの準備を整えていた。

  フェカト 「一先ずこれでいいでしょう、残りの村人を先導する兵士も数名残して来ましたし」

  ツェリ 「本当にありがとうございます、皆さんを受け入れて下さって」

  フェカト 「いいんですよ、ツェーリアとポロルグの問題は決着を付けるべきですから、当時と違って今はどちらが優れた判断だったか明白ですしね」

  ツェリ 「上の人が決めた事ですけど、ツェーリアの人間は不満でしたからね、みんなテガスで受け入れてくれると聞いて大喜びでした、それに食堂の食事ってあれが普通なんですか」

  フェカト 「テガスの食堂は異世界の料理も提供してたりしますからね、特に新しく運河の辺りに出来たところは異世界料理多めに出してます」

  ツェリ 「いや、料理でなく量の方です、幾らでも食べれる様でしたが」

  フェカト 「ああ、ツェーリアでは毎食の分量が決まってましたね」

  ツェリ 「穀物の量ですね、私達の村では森の恵みなどで量増ししてましたが、穀物の量の制限も無いんですか」

  フェカト 「気を悪くされるかも知れませんが、ポロルグではそれが普通なんですよ、ククジア併合前の苦境の時期でも領民を飢えさせた事は有りませんから」

  ツェリ 「なるほど元王族の誇りの様な言葉ですね、フェカトさんは元王族だからこそツェーリアの民にも心を裂いてくださるのですか」

  フェカト 「どうでしょう、でも先祖の過ちを正せるのならばやってみたいと思っています、ですが、最大の目的はダイン様が楽しいからです」

  ツェリ 「領民の幸福を喜ぶお方なのですか?」

  フェカト 「そんな聖人ではありませんよ、遊魔の勢力を拡大させる事が楽しい様です、そしてその為にはツェーリアはちょうど良い領地なんです」

  堕液で堕とされただけのツェリはまだダインというモノを理解出来ていない、だが崇拝はしており、自身の考えの及ばないダインに対してますます畏敬を抱いてしまう。

  そして、新たに命じられた係の者に事後を託すと、いよいよダインの待つ国賓屋敷へと向かう事になる。

  聖女と称えられてはいても平民のツェリにとって魔動力学院は正に別世界だった、生徒達は同じ制服を身に付けており、同じ服は兵士だという認識の有るツェリはちょっと身構えてしまう。

  ニア 「大丈夫にゃ、皆んな良い子達にゃ」

  ニアはそう言って手を振ると、制服の女生徒達は振り返してくれる、森の仕事をしているニアには普段自由時間が多いので生徒と接する事も多いのだ。

  ツェリ 「マギガント騎士の見習いって各国貴族の子女が多いんですよね、平民の私には恐れ多いです」

  フェカト 「ここの生徒は余り気にしてませんけどね、特にダイン様を迎えてからは規律が緩んでいると学長が嘆いてました」

  ニア 「皆んなダイン様を狙ってるにゃ、ニアに近付く生徒達もニアと親しくなってダイン様を紹介して貰おうと考えているにゃ」

  フェカト 「それで森で特訓してたりするんですね、最近特に野鳥料理が増えてますから」

  ニア 「ダイン様の入れ知恵にゃ、ダイン様へ献上されると聞いているので皆んな必死に狩りをしてるにゃ」

  ツェリ 「そんな事してるんですか、でもちょっと楽しそうですね、私も狩りには自信があるんですよ」

  フェカト 「意外ですね、弓の名手なのですか」

  ツェリ 「いえ、罠を扱う事を得意としています、獲物の好む餌で誘導してあげる事で取る動物を絞れるんですよ」

  フェカト 「そんな狩りが有るんですか、世の中知らない事も多いですね」

  ツェリ 「やっているのは私ぐらいですけどね」

  三人は仲良く談笑しながら、ダインの居る国賓屋敷までやって来る、そしてその豪華な威容にツェリは完全に気が引けてしまう。

  ツェリ 「こんな凄い建物にダイン様が居るんですか」

  フェカト 「フェカトからすればこれでも物足りませんけどね、ですがダイン様って派手なのが嫌いなんですよ、洞窟も結構気に入っているらしくて、隠れ家を満喫する為に村人を早くテガスに送りたい様です」

  ツェリ 「それは直ぐに叶うと思います、食堂で食事した一人が大急ぎで戻って行きましたから、彼の口からテガスの待遇が伝われば直ぐに皆が移動すると思います」

  ニア 「それは良かったにゃ、ニャアも森の獲物の加工場が欲しかったにゃ、アイヤが教えてくれた燻製を試してみたいにゃ」

  ツェリ 「燻製ですか、アレは燻す植物も重要なんですよ、今度一緒に作ってみましょう」

  フェカト 「ツェリがちゃんと仕事をしてからですね、さぁ中へどうぞ」

  フェカトが扉を開けてツェリを招くと、その豪華さに完全に萎縮してしまっている。

  フェカト 「入口は特に豪華なんですよ、でもダイン様の好む地下室は飾らないので安心して下さい、でも、別の意味で萎縮しちゃいそうですけど」

  ツェリ 「地下室ですか、ダイン様って本当に土の下がお好みなんですね」

  フェカト 「窓が有るのが嫌いみたいです、人の視線に敏感みたいで、遊魔なら安心してくれるんですけど」

  ツェリ 「ダイン様にお仕えする為には遊魔への魔進化が絶対なんですね」

  フェカト 「はい、正直遊魔でないとダイン様をちゃんと理解は出来ませんから、ダイン様もそういうところを感じ取ってしまう人なのでダイン様を安心させる為にも魔進化は必要不可欠です」

  三人は屋敷に入ると、煌びやかな区画を通り過ぎて飾り気の無い使用人の区画へと移動して来る、倉庫で有った地下室への入口は当然この区画にあるのだ。

  そしてたどり着いた地下室への扉は重圧感の有る物で、何か重要な物でも隠している感じだ。

  フェカト 「お城の時代の名残りですね、よっぽど重要な物を蓄えていたんでしょう」

  ニア 「それに二重扉にゃ、ダイン様の秘密を漏らさない為にはちょうど良い作りにゃ」

  フェカト 「そう思って中の扉はフェカトが付けたんですよ、まさかアレを見られる訳には行きませんから」

  ツェリ 「何だか恐ろしいですね、ですがそれぐらいじゃ無いと国取りなんて考えませんか」

  フェカト 「そういう事です、そしてこの扉も特別なんですよ」

  フェカトは鋼鉄の扉の宝珠の部分に手のひらを当てると、宝珠が輝きを放って扉が内に開いて行く。

  ツェリ 「これは魔導ですか、一定以上の魔力が無いと開かない仕組みに見えますね」

  フェカト 「当たりです、扉自体はテガスの工房で作った物です、遊魔用に開く魔力を高く設定してますが」

  鋼鉄の扉の奥には、奥に続くであろう扉が備え付けられた小さな部屋がある、奥の扉も室内に取り付ける扉としては頑丈な様で、本当に凄いお宝を隠していそうだ。

  ニア 「一段目が閉じないと二段目は開かないにゃ、だからツェリも早くするにゃ」

  部屋の作りを見定めていたツェリをニアが急かせる、遊魔のダインに対する忠誠は深く、待たせる事を嫌がっているのだ、そう、既に屋敷へと入った段階でダインが自分達の来訪を知っている事をわかっているのだ。

  ツェリ 「すいません、とても珍しいので、魔導具なんてツェーリアには有りませんでしたから」

  フェカト 「マギガントも魔導具ですけどね、流石にアレは見た事有りますよね」

  ツェリ 「はい、王都の門番の奴を、でも大分古い物でした」

  フェカト 「ツェーリアに有るのは古い機体ばかりですからね、ほんと変わらない国ですよ」

  フェカトとの受け応えの間にツェリが部屋に入ると一段目の扉が閉じて行く、間者の多いテガスと言っても、この仕掛けを突破する事は不可能だ。

  そして一段目が閉じきると二段目が開き始めて、中に下へと続く階段が現れる。

  ツェリ 「凄く明るいですね、これも魔導具の灯り何ですか」

  フェカト 「はい、テガスは魔導具の生産が盛ん何ですよ、マギガント工員は魔導具にも精通してますからね、さぁ続いて下さい」

  フェカトが階段を降り始めるとツェリもそれに続く、降りた距離はそれ程でも無いが、どうやら空気の質が変わった感じで、何故か緊張が解れて行く。

  降りた階段の先はまた扉が有り、一段目と同じ様にフェカトが手のひらを当てるとまた内に開いて行く。

  ツェリ 「通路に比べて薄暗いですね、本当にダイン様がいらっしゃるのですか」

  ニア 「階段は危ないから明るくしてるにゃ、ダイン様はこれぐらいの暗がりを好むにゃ」

  ニアはそう言って奥へと駆け出して行く、部屋にはかなり奥行きが有る様でニアの姿は暗闇で見えなくなるが、何かしらの気配が漂っており多くの遊魔達が居る事は間違い無い。

  フェカト 「人間は不便ですよね、この程度の暗がりは遊魔には何とも有りませんがツェリには見えませんよね、フェカトが手を取って案内しますね」

  フェカトはツェリの手を取ると暗がりの奥へと歩き出して行く、フェカトに先導される事でツェリは安心して奥へと進んで行く。

  途中大きな柱が部屋の中に立っていたが、よく見ると天井とは接していない、太さもかなり太く、何より表面が生き物の様な感じで部屋の中に有るのが不思議な物だった、そしてそれを通り過ぎて振り返った時、ツェリは信じられない物を見てしまう。

  肉の柱の奥側は透けており、中に人間の少女が捕らわれていたのだ、衝撃的な光景にツェリは中の人間を凝視してしまうが、どうやら少し人間とは違っているところも有る、頭には大きな角が生えており、手足が鉤爪の様に鋭いのだ。

  ツェリ 「この娘は一体」

  フェカト 「ああ、ただ寝てるだけですね、液槽で寝るのは気持ち良くって、ダイン様も眺めるのが好きなんですよ」

  ツェリ 「確かに穏やかな顔ですが、水の中で眠れるんですか?」

  フェカト 「そこは遊魔の技術力ですね、ツェリもやってみると良いと思います、もちろん遊魔に魔進化した後でですけど」

  ツェリ 「いよいよなんですね」

  フェカト 「はい、もう村人と接する事は無いでしょうから、これからはダイン様の為、存分に働いて貰います」

  ツェリ 「でもこの身体でダイン様に喜んで貰えるんでしょうか、皆んな若い子ばっかりで」

  フェカト 「大丈夫ですよ、ポーカと近い歳ですから、それにダイン様がツェリの経験を求めている事は間違い無いですから」

  フェカトは再び歩き出してツェリを奥へと誘う、先に行った筈のニアの気配は感じられずに暫く進むと、大きなベッドが置かれている、その上ベッドは小刻みに振動しており、上で淫らな行いが行われている様だ。

  おまけ

  遊魔の地下施設開発計画 遊魔はその性質上人目につく事を避けている、そこで重視されているのが地下設備の開発で有る。

  だが、運河の張り巡らされたテガス都市部では地下水の問題が起こっており、比較的高台に建てられた学院内の国賓屋敷の地下に遊魔秘密基地が拡張されているが、既に限界に近付きつつある。

  そこで現在有望視されているのが、ポロルグとツェーリアの国境に拡がる森林地帯で、山がちの地形は地下水問題に悩まされずに地下地下施設の建造が可能だと期待されている。

  その上、森林では既に天然洞窟も発見されており、それを拡張する事で居住可能な秘密基地も整備されており、今後は更に拡大されて行く予定である。