野望編 第五十一話 高潔なるエルルリーカ

  002-051

  ダイン達がお茶を楽しみ続きの作戦会議も終わった頃、ちょうど協定戦が開始される時間になっていた。

  初戦を飾るラフェメは、ダインが調整した一号機に乗り込むと刺突剣と手甲を左右に持たせてると、通信盤に対戦相手の姿が映る。

  ラフェメ思考 『騎士エルルリーカですか、エディケスでも有名な騎士ですよね、正直私よりも格上の騎士ですが、不思議と焦りは有りませんね』

  エルルリーカはエディケスでも名の通った女騎士で、その勝率は九割以上という正に切り札だ、それだけエディケスはこの一戦に力を入れている訳だが、当のエルルリーカには全く緊張の色など無い。

  エルルリーカ 「お初にお目に掛かります、貴女が対戦相手のラフェメさんですね、ジーカの乗り手として聞き及んでいます」

  ラフェメ 「私などを覚えて頂いて光栄です、私も高名なエルルリーカ様と手合わせ出来る事を嬉しく思います」

  エルルリーカ 「ですが残念ですよ、ラフェメさんとはジーカで対戦してみたかったです、ゾッフォではウウルに追従出来ないと思います」

  ラフェメ 「どうでしょう、私は今日ゾッフォの持つ力を身を持って体験しましたから、その上で先鋒を任された以上は恥じない戦いをしたいと思います」

  エルルリーカ 「なるほど、それは楽しみです、私も奇跡というモノを見てみたいですからね」

  エルルリーカは当然ラフェメのジーカがダインのゾッフォに負けた事を知っている、だが、自分の目で確かめ無い以上、まだ完全に信じていないのだ、そう、ティアスが仕掛けた偽情報だと思ってもいる。

  そうして、軽い挨拶を交わした両者は互いのマギガントで、対になる入場門を潜るとお互いの姿を確認する。

  エルルリーカのウウル・ジーは事前の情報通りに右手にのみ刺突剣を持って、ウウル・ジーの身軽さを活かした戦いを行うつもりの様だ。

  その戦闘スタイルはジーカを用いたラフェメのスタイルと同じで、手の内が見える以上ラフェメは安心感を覚えた。

  対するエルルリーカは、ラフェメのジノ・ゾッフォの姿に若干戸惑っていた、重いゾッフォが俊敏さが生きる刺突剣を使う事など余り例が無いからだ、その意味でエルルリーカはラフェメを不可思議に思ったが、ジーカに乗ったラフェメな得物が刺突剣だったと思い出すと、その急造の組み合わせを笑った。

  エルルリーカ思考 『私も舐められてますね、幾らジーカで慣れた武器と行ってもゾッフォに扱える武器とは思えません、亀は槌でも振るっていればいいんですよ』

  ゾッフォのイメージはやはり亀である、対するウウル・ジーは狼でエルルリーカとしては負ける筈の無い戦いだと信じていた。

  エルルリーカ 『そうですね、今日の祝勝会には亀のスープをリクエストしましょう、ククジアの王都ならばエポポ亀が手に入りますよね』

  エポポ亀とはスッポンに近い亀である、ゾッフォが例えられる鈍間な亀とは違うが、亀を狩った後の祝勝会ならば、美味しい亀で勝利を祝うのもおかしい事では無いだろう。

  エルルリーカはティアスの流した流言などに惑わされる事無く、何時も通りのウウルの戦いをするつもりだ、変わり映えはしないがウウル・ジーの性能を引き出す事こそ、勝利をもぎ取るもっとも最短の方法だからだ。

  主審のゾッフォが闘技場中央に位置するといよいよ協定戦が開始する合図だ、ラフェメとエルルリーカは互いに距離を取って相手の出方を伺うと、主審ゾッフォの軍配が振り下ろされて戦いが始まる。

  エルルリーカのウウル・ジーは小細工など一切しない、ただウウル・ジーを信じて広い跳躍で一気に距離を詰めて渾身の突きを見舞うが、ラフェメのジノ・ゾッフォは動きを予想して大きく横に飛び退いた。

  その騎士とは思えない振る舞いに観客から落胆の声が上がるが、対峙するエルルリーカには名誉よりも奇策を取ったラフェメに対して、強い警戒を感じていた。

  エルルリーカの経験上、型に嵌っていない対戦相手の方が手強い事が多いのだ、そしてその予感は現実となって襲い掛かる。

  大跳躍の着地で体勢が硬直した隙を突いてラフェメの突きがウウル・ジーの右脚の腿を捕らえる、刺突剣の突きなので大きなダメージでは無かったが、魔動力の損傷を考えれば運動性が落ちた事は間違いない、だが、それでもウウルの運動性はジノ・ゾッフォを凌駕しているだろう。

  右手で払って、刺突剣の破壊を狙ったエルルリーカの攻撃は、ジノ・ゾッフォの全身を使った派手な後退で阻止されてしまう、だが、エルルリーカは腕の動きの反動を使ってウウル・ジーを迅速に立ち上がらせると軽くステップを踏んでダメージを受けた脚の状態を確認する。

  エルルリーカ思考 『大体全力の八割ぐらいでしょうか、まさか初撃を受けずに避けるとは予想外でした、ラルクルクはククジアでも名門の筈ですが』

  名門の貴族ほど戦いの型を気遣う物だが、ラフェメはそうでは無いらしい、そして隙を狙って放たれた一撃はエルルリーカの知るゾッフォの一撃では無かった。

  エルルリーカ 『おかしいとは思ってましたが、アレの中身はフーティアじゃ無いでしょうか、元々ゾッフォを軽くしたフーティアならばゾッフォの鎧も纏えますからね、そうでも無ければあの速さの説明が付きません』

  エルルリーカは己の経験を総合して結論を見出したが、そう間違った推測をさせるほどダインの調整したジノ・ゾッフォは常識を逸脱していた。

  そして、それを証明する様な鋭い攻撃がゾッフォから繰り出されて来る、エルルリーカは剣先が延びる様に変化するラフェメの攻撃に対して、普段よりも大きく避ける形で回避すると、回り込みながら数度の剣撃を放つが、ラフェメは器用に機体を追従させて回避と手甲を使い分けてその攻撃を無力化させて行く。

  エルルリーカ思考 『突きにキレが有りません、力を乗せた実の突きはそれ程変わりは有りませんが、フェイントの虚の突きが速さを失って機能を果たしていませんね、多分障壁の為だと思いますけど、こんな障壁は初めてです』

  エルルリーカがそう感じるのは仕方のない事だった、何故ならこの障壁を産み出したダインもラフェメとの戦いで思い付いて試したみたモノで、実際展開させているラフェメですらその存在に気付いていない。

  エルルリーカは実戦経験から、相手の性能を徐々に読み解き始めていたが、悲しい事にエルルリーカの愛機は主の操縦に付いて来れなくなっていた。

  今までに無い違和感を右脚に感じると、エルルリーカのウウル・ジーの華麗な動きは失われた、初撃を受けた右腿の魔動力が力を失い思う動きが出来ないのだ。

  こうなってしまうとウウル・ジー最大の利点は失われて、今やその運動性は相手のジノ・ゾッフォを下回るかもしれない、だが、エルルリーカは冷静に状況を分析して勝算を見出していた。

  何故だか相手の縦の動きは通常のマギガントの動きに比べて殆ど振れていない、なら普段は狙い難い弱点が狙い易いのだ、ならばそれを攻めない手は無い、そしてエルルリーカが練り上げた勝利への道筋にはその手が一番効果的なのだ。

  故障した右脚の為に相手同様に縦軸を使わない動きに出たエルルリーカに対して、ラフェメは警戒して打ち込みを控えている、右脚の故障は解っているだろうが、相手に対して強気に攻めて来ないところにエルルリーカはラフェメを手強く感じていた、勝利を感じて浮き足だった相手は普通隙も多くなる物だが、今のラフェメにはそれが無い。

  エルルリーカ思考 『慎重ですね、長引けばさらに自分が有利になる事が解っているんですね、壊れたマギガントはさらに悪化する事は有っても自力で治る事は有りませんから、ですから私も次の一撃で決めに行きます、幸い軸足の左はまだ持ちそうですから』

  エルルリーカは刺突剣を立てて型を作るとラフェメにもその意図が伝わる、次の一手は確実に勝負を決めに来る一手で、相手の動きに合わせる為の型にもエルルリーカの意思が現れている。

  ラフェメ思考 『右脚のダメージは見た目よりも大きいですね、ウウル・ジーの動きを止めて待ちに入るとは、でも型を取ってくれた事はこちらも好都合です』

  ラフェメは攻めの姿勢に転じる事を決断する、防戦一方の今までの戦いは少々気分的に乗らないところが有ったからだ、そして型を作ったウウル・ジーの回避力が落ちた事が最大の好機に思えるからだ。

  攻めのジノ・ゾッフォと守るウウル・ジーという中々お目に掛かれないけど状況に観客も盛り上がっていた、特にククジア国民はゾッフォへの想い入れが強く盛り上がらない筈が無い。

  ラフェメはダインが見せた奇妙な移動術を実戦でより高めていた、摺り足と呼ばれるこの技で機体の振れを消して徐々に近付くと、一気に地面を踏み込んで距離を詰めつつ右の刺突剣でウウル・ジーの頭を狙う。

  奇しくも同じ狙いとなった両者だったが、エルルリーカは右に避けながらラフェメのジノ・ゾッフォの頭部を捉える、刺突剣が兜のスリットから後頭部へと貫通して勝利を確信したのだが、大きな衝撃を感じるとウウル・ジーが空に浮いて後方へと飛ばされる。

  ラフェメは手甲による打撃を胴に打ち込む事でエルルリーカのウウル・ジーの上体を崩して転倒させる事が狙いだったのだ。

  エルルリーカは咄嗟に前傾姿勢を取ってウウル・ジーを膝立ちで着地させようとするが、右脚が持ち堪える事が出来ずに砕けて、上体が背中から地に付いてしまう。

  湧き上がる歓声とウウル・ジーが仰向けになった事で映る夕暮れの空でエルルリーカは己の敗北を悟ると、刺突剣を失った右手も使ってウウル・ジーの上体を起こすと勝者の姿を視界に入れた。

  エルルリーカの放った刺突剣は狙い通りジノ・ゾッフォの目を奪って目的を達ていたが、ゾッフォはまだ両の脚でしっかりと立っていた、脚が太く重心の低いゾッフォなら視覚を失っても振れずに立つ事が出来る。

  だが、相手がエルルリーカが予測した、ゾッフォの鎧を纏ったフーティアならそうは行かない筈だ、そして勝者の姿は堂々と地に立って振らつくそ振りも無い。

  主審 「エルルリーカ殿のウウル・ジーの上体が地に着きましたので、この試合、ラフェメ殿の勝利となります」

  観客席から割れるばかりの歓声がこだまし掛札が空に舞っている観客の殆どは利益の為にウウルに掛けて損をしている、だが、観客は賭けの敗北など気にせずに賛辞をラフェメのジノ・ゾッフォに送っている。

  割れんばかりの歓声は続いていたが勝利に水を差す出来事が起こる、エディケス側からラフェメに対して不正の嫌疑が掛けられたのだ。

  その嫌疑の内容とはエルルリーカが試合中に感じた事と同じで、ラフェメの使ったマギガントがジノ・ゾッフォの鎧を纏ったフーティアで無いかという事だった。

  ティアス側は試合前から、その疑惑を持たれる事を予測して対抗策を主審に告げていた。

  主審達のゾッフォは潔白を晴らす為にまだ立ったままのラフェメのジノ・ゾッフォに歩み寄ると右脚に用意した工具を当てると簡単な作業を施して纏った鎧を外して行く。

  そして現れたマギガントのフレームは、フーティアの様な細くて繊細な物では無く、確かに無骨なゾッフォの物で有った。

  不正の嫌疑を晴らして、勝利を確実にしたラフェメに観客は再び歓声を送る、審判達の計らいでラフェメのゾッフォは支えられて、ラフェメは観客にその姿を晒す、すると新たな英雄の誕生に会場から割れんばかりの喝采が巻き起こり、ラフェメの人生最良の瞬間を味わう事となった。

  おまけ

  エディケスのマギガント エディケスは人類圏において平均的な領土を持つ国家では有るが、魔鋼鉱山を有する為高い魔鋼鍛治技術を持っている、その為比較的初期にマギガントの国産化に成功しており、今でもその技術力は高い。

  ゾッフォの模倣機であるウウルからマギガントを製造しているがほぼ同等の性能ながら製造コストは約三倍といった多難の船出ではあったが、徐々に改善を施しウウルの後期型ではコスト1.2倍程度まで生産性を向上させていた。

  そんなおり、ククジアの外圧により困窮したポロルグとの交流が深まり魔鋼供給の見返りにジーカフレームも技術供与を受けてウウル・ジーの開発に成功する。

  現在では隣国である大国オウベリアから魔鋼の供給を受けてウウル・ジーの大量生産を行なっているが、その最大供給先はオウベリアで、オウベリアのウウル・ジー保有数はエディケスを上回っている。

  エディケスはその技術力をオウベリアに利用されてはいるが、ウウル・ジーで得る利益は莫大で両国の利害関係が一致した関係でもある。

  だが、近年ウウル・ジーの自国整備やエディケスからの指導を受けたウウルの製造などでをオウベリアの技術力は向上しており、独自のマギガント開発の噂も上がっている。

  それに対してエディケスもウウル・ジーをベースとした上級機の開発を行なっており、両国の蜜月関係にも変化が生じる可能性がある。