野望編 第四十八話 水鳥と亀

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  勝負が決まった二時間後、既に戦いは始まろうとしていた、黒く塗られた地味なダインのジノ・ゾッフォと主人のティアスのポナリアに倣った意匠を施した白いラフェメのジーカが闘技場で向かい会い、その様相はまるで川辺で対峙した大亀と水鳥の様でも有った。

  プルル 「ダイン様勝ちますよね」

  ティアス、プルル、リレッタの三名は貴賓席で勝負の成り行きを見守っている、流石に身内同士の争いにティアスが通信盤で会話出来る状況は公平では無いからだ。

  リレッタ 「難しいですわ、ダイン様の強大な魔力もジノ・ゾッフォでは活かし切れない筈ですから」

  プルル 「でも負けちゃうとプルルのせいでダイン様が頭を下げる事になっちゃいます」

  悲しそうなプルルの顔を見てティアスが励ます。

  ティアス 「ダイン様はそんな事気にしませんよ、それに何か企んでますよね、ラフェメにゾッフォの戦い方を教えるとか言ってましたし」

  リレッタ 「ダイン様って、ゾッフォ扱っているんですか?」

  ティアス 「内緒ですけど、テガスで槌を振るって魔鋼を打っているそうです、ゾッフォで扱えない魔力が魔鋼に流れ込んで上質な魔鋼が大量に作れるそうなんですよ」

  リレッタ 「なんというか凄い事なさってますわ、ゾッフォの特性をそんな風に上手く利用するなんて」

  ティアス 「はい、ですから武器に大槌を使うと思ったのですが、そもそも武器は要らないそうです、両腕に頑丈な手甲だけ付けているんですけどあれじゃ殴る事しか出来ません、対してラフェメは刺突剣です、ジーカには相性の良い武器ですね」

  リレッタ 「なんというか、水辺で亀と水鳥が対峙している様ですわ」

  ティアス 「実はティアスもそう思ってました、そして実際そうなると亀は突かれるだけですよね」

  プルル 「そんなぁ、ダイン様なら大丈夫ですよね」

  ティアス 「ですがジノ・ゾッフォですから、確かに魔鋼の質は上がってますけど、ポナリアやフーティアみたいにダイン様の魔力は活かせ無いところが問題です」

  騎士で有る、ティアスもリレッタもダインの不利を認めている、その上で審判のゾッフォ三機が闘技場に入り、いよいよ試合が開始される様である。

  リレッタ 「ですが、ダイン様も苦難が続きますわね、この後のエディケスとの協定戦にも参加なさるんですよね」

  ティアス 「リレッタもそうですよ、まさかダイン様だけに苦労させませんよね」

  リレッタ 「えっ!」

  リレッタが変な声を上げると同時に戦いの火蓋は切られた、ジーカは持前の敏捷性を活かして一気に距離を詰めると軽いフットワークを使って素早い突きを何度も繰り出している。

  ティアス 「流石ですね、ジーカは踵を付けずに立つ事が出来るのであの身軽さであの剣撃が可能なんですよ、ポナリアやフーティアでも不可能な技です」

  リレッタ 「実際ジーカの使い手には厳しい戦いを強いられますわ、リッタも何度か敗北してますし」

  ティアス 「ティアスは負けた事無いですけどね」

  リレッタ 「それはティアス様がポロルグの姫だからですわ」

  プルル 「そんな事よりダイン様がピンチです、既に何度も刺し込まれてます」

  ティアス 「そうなんですけど、おかしいですね頑丈なゾッフォでもあそこまで刺し込まれては決まりそうなモノですが」

  リレッタ 「いえ、流石はダイン様ですわ、手甲で上手く剣先が当たる位置を調整してますわね、ラフェメの攻撃はダイン様を確かに捉えてますが鎧を抜いた一撃はまだ無い様ですわ」

  ティアス 「確かに音が違いますね、なんだか金属擦れる様な音ばかりです」

  リレッタ 「丸い球状の手甲だからですわね、それにあの手甲はとてつも無く分厚い様です」

  ティアス 「確かに王宮には変な武装が山ほど有るんですよ、昨日もダイン様はその中の一つを使いこなしてましたし」

  リレッタ 「ですが、大矛と手甲は別物ですわ、それに今はダイン様が徐々に距離を詰めている様ですわ」

  リレッタの指摘の通りで有った、戦いはラフェメ有利で展開されていたのだが、ラフェメの突きに慣れたダインはラフェメの攻撃の度に徐々に距離を詰めて追い込んで行く、そのダインの攻撃に対して攻勢しか経験していなかったラフェメは思う様に動けずに徐々に剣撃の冴えが衰えて行く。

  そもそも前に出るフットワークしか経験していなかったラフェメに下がりながらの攻撃など経験が無いのだ。

  だが、チャンスは不意に訪れる、ダインの踏み込みが止まってラフェメが得意な距離が産まれたのだ、そしてその機会をみすみす逃すラフェメでは無かった。

  ティアス 「嵌められましたね、あの距離はワザとです、でもラフェメもこの好機は逃せない」

  ダインの戦いの傍観者で有ったティアスは、何となくダインの戦いの癖を見抜いていた、優勢に攻撃させた上で徐々に反転させた上でわざと隙を見せる。

  この戦い方を経験した相手は当初の優位を覚えているからこそ焦りを募らせて、与えられた機会に対して躊躇無く踏み込んでしまうのだ。

  そしてラフェメも、ダインと戦うには経験が不足していた、今まで以上に練り込まれた一撃は攻撃に比重を置きすぎて、その後の隙の事まで余り考慮されていなかった。

  ラフェメ史上最高の攻撃がダインに向かって放たれるのだが、ダインはそれを今まで通り手甲で逸らす事は無かった、ダインのジノ・ゾッフォは半身を回転させて大きくその攻撃を躱すと躱した反動を今度は攻撃に転じて、すれ違うラフェメのジーカの右大腿部を右の手甲で撃ち上げる。

  この攻撃に勢いが付いたラフェメは避ける事叶わずにまともに一撃を受けてしまい、打撃の反動でジーカは横方向へと倒れ込んでしまう。

  だが、ラフェメも優れた騎士だ、直ぐに体制を立て直そうとジーカを繰るが、どうにも様子がおかしい、そうダインの手甲を受けた方の脚が明らかにいう事をきかないのだ。

  そして、会場からはどよめきが拡がり、ラフェメは自らの敗北を感じていた。

  ダイン 「まだ戦いますか、私から見るにもう無理だと思いますが、脚が曲がったジーカではこのゾッフォより動けませんよ」

  ラフェメはジーカの視線をその右脚に向けてみるが、状況はダインの言った通りだった、ジーカの白い脚は外から内に向かって曲がっており、これでは既に立つ事も叶わないだろう。

  ラフェメ 「完敗です、ですが本当にゾッフォでジーカに勝ってしまうなんて」

  ダイン 「不可能では有りませんよ、それに今の戦いを経験したラフェメさんなら、ゾッフォでも上手く戦えるんじゃないですか?」

  ラフェメ 「流石に無理ですね、ですが何かは掴めたと思います、それに私自身がジーカの弱点をよく理解出来たと思います、まさか横からの衝撃これほど弱いとは」

  ダイン 「そこにちゃんと気付いてくれましたか、ウウル・ジーも同じ弱点を持ってます」

  ラフェメ 「それってまさか、私にエディケスとの協定戦に出ろという事ですか?」

  ダイン 「私はラフェメの謝罪なんて求めていませんからね、それに今からもっと簡単な方法を伝授します、ラフェメの様なまともな騎士が勝ってこそ、相手も安心してゾッフォを使う事が出来ますよね」

  ラフェメ 「負けた以上はダインさんに従います」

  主審 「話はもうよろしいですね、ラフェメ嬢の敗北宣言が有りましたので勝者はダイン殿となります」

  主審のゾッフォはダインの方に歩み寄ると高々にその右腕を上げる、その予想外の勝利に会場は歓声に包まれて、外れた多くの掛札が空に舞うのだった。

  勝負を終えたティアス派の一行は闘技場の控え室に集まって次なる戦いの為のミーティングを始めていた。

  ラフェメは敗北によりダインの実力を認めていた、実のところラフェメはダインは魔力の強さだけで勝っているだけで騎士としては二流以下だと思っていたのだが、実際戦ってみるとその実力が自分を遥かに上回るモノだと身を持って思い知らされたのだ。

  ラフェメ 「ダイン殿は十日ぐらい前にこちらに招聘された筈ですよね、ダイン殿の世界にもマギガントは有ったのですか?」

  ダイン 「有りませんよ、でも似た様な物の玩具は有ったんですよ、それも自分で組み立てて稼働の構造などが解りやすい物なんですよ、テガスにも何個か存在してますから今度見せて上げましょう、まぁアレも玩具としての人型なので実際の動力などが考慮されておらず、無駄に可動領域が多くてマギガントに比べればリアリティには随分と欠けているんですよ、第一丈夫な金属フレームを持っているのに無駄な可動域で負荷を軽減する意味も無いと思うんですよ」

  ティアス 「そんな事言ってもダインさん以外誰も解りませんよ、話続けますね」

  ツィーカ 「私は少し理解出来ますけど、マギガントのフレームの特性って大まかに三つに別れてますから、ダインさんはゾッフォのフレームの限界が解った動きをしてました」

  ラフェメ 「それでゾッフォでああいう動きが出来たのですね、操縦に勝る経験は無いと思っていました」

  ダイン 「マギガントは生き物の様な物ですからね、身体の特性が理解出来れば人の技も応用出来ますね」

  ティアス 「やはりあの動き自体が武道というモノなのですか?」

  ダイン 「元ネタは有りますけど、私のイメージですよ」

  プルル 「ダイン様のイメージですか、それなら凄くても納得出来ます」

  プルルは何故か身体をモジモジさせて、ダインの言葉に納得しているが、遊魔で無いラフェメには全く意味が解らなかった。

  すると扉がノックされて、外からリレッタが来訪を告げる。

  リレッタ 「リレッタですわ、クガト側の許可は頂いて来ました」

  すると今度はプルルが真っ先に動いて、リレッタを部屋の中へと案内する、プルルとしても無用な争いの種を蒔いた事をちゃんと後悔しているのだ。

  ティアス 「ご苦労様です、これで次の三名が決まりましたね」

  リレッタ 「試合は夕方からですから、後五時間ぐらいですけど、大丈夫なんですか」

  ダイン 「大丈夫ですよ、ラフェメがジーカで見せた戦いは概ねウウル・ジーにも共通しますから、後は相手の武器の特性を見極めれば自ずと戦い方が見えてきます」

  ティアス 「刺突剣使いと長剣使いは個人戦に出て来るのが間違い無いですね、ただ、今回の試合結果はエディケスにも伝わっているでしょうから、同じ手は難しいかと」

  ティアスは不安そうにダインを見つめるが、ダインに焦りなど全くない。

  ダイン 「むしろ好都合です、私本来の獲物は大槌ですからね、ラフェメにも大槌をおすすめしたいですが、お好きな物を使って下さい」

  ラフェメ 「本当に私で大丈夫なんでしょうか?」

  ダイン 「私は勝てると確信してますよ、擦り足で動くのが重要なんですよ」

  リレッタ 「あのゾッフォの変な動きの事ですわね、足がずっと地に着いたままでしたわね」

  ダイン 「はい、ああする事で効率的にゾッフォの力を引き出す事が出来るんですよ、踏み込みでブーストして攻撃を繰り出すわけです」

  ラフェメ 「確かにあの一撃には魔力が乗せられていませんでした、ですがあの破壊力は私の魔力撃を超えていました」

  ダイン 「重要なのは速さと重さです、重さはゾッフォなら備えていますので、後は機体の全てで速さを繰り出すわけです」

  リレッタ 「なるほど、解りましたわ、全ての動作を同時に行う事でゾッフォの速さを高めたのですわね」

  ダイン 「正解です、腕だけで無く、足、身体、腕を同時に動かす事でジーカの速さをも超えたわけです」

  ラフェメ 「ですが私に出来るのでしょうか、確かにゾッフォには幼い時より乗り慣れてますが・・・」

  ダイン 「別に負けても問題は有りませんよ、初戦で健闘して頂ければ、左に私の使った手甲を装備すれば新しいラフェメの戦い方が出来ると思います」

  ラフェメ 「いきなり実戦でダインさんを真似ろと言うんですか、難しいですね」

  ダイン 「手甲で弾く感覚は体感しましたよね、後はゾッフォの足りない素早さを防御で補うんですよ、攻撃は隙を見せて行えば良いだけです、なんなら体当たりも有りですね、組み付けばウウル・ジーの速さは無力化出来ます」

  ラフェメ 「想定外の戦いですね、でもさっきの戦いで何か掴めたとも思います、この上は騎士の誇りなど捨てて勝つ事に専念したいと思います」

  ティアス 「良いんですかラルクルクの家名に傷が付くかも」

  ラフェメ 「ゾッフォでウウルに勝つ事の方が偉業ですから、それに同じ偉業をダインさんが見せてくれましたので、私も試してみたいんですよ、次の試合は滅多に無い機会でも有りますから」

  ダインとの勝負は騎士としてのラフェメを大きく成長させた様だ、人は勝利よりも敗北で得る事の方が多いと言われているが、今のラフェメは正にその通りで先の敗北を覆す勝利を得る事がティアスに最大の利益を与える事を理解して、その意気込みは大いに昂っていた。

  その後、ダイン、ラフェメ、リレッタの三名はジノ・ゾッフォに乗り込んで本番迄の間訓練に励む、ただ先程と違うのは、ダインがラフェメ戦で仕様したジノ・ゾッフォに今はラフェメが乗り込んでいる。

  そして、ラフェメが乗り込んでいるジノ・ゾッフォは何故だか、先程のダインと同じ動きを見せていたのだ。

  おまけ

  マギガント解説 ジノ・ゾッフォ クガト領で生産されているゾッフォの改良機、新造機体は全てジノ・ゾッフォに切り替わっており、同時にゾッフォからじの・ゾッフォへの改修も行われている。

  フレームの魔鋼練度が六十練へと向上し、魔動力の速さとパワーも上がっている、その上操作系の負担を減らしており、単純な戦闘力は四割程増しているとも言われている。

  普及機のゾッフォ系と決闘機とも言われるジーカやウウル・ジーの性能差は大きく、協定戦では勝った試しが無い、だが、一戦毎にオーバーホールクラスの整備が必要な決闘機に比べて運用はかなり用意で数カ月間メンテナンス無しで稼働させた事例が多く報告されている。

  結論から言うと、性能面、整備面に関して大幅に向上されたゾッフォで、国力を向上させる意味ではウウル・ジーを導入するよりもジノ・ゾッフォを導入する方が遥かに有益で有る、だが、協定戦で物事の決着を付ける事が多い人類圏国家ではより高性能なマギガントが求められてしまうのだ。