ラピード型生体スウツ

  【1】

  ・・・研究員が引くリードに繋がれた首輪を抱えつつ、俺は勤務場所へと歩いて向かっていた。

  ここは商用の生体スウツが並ぶ販売施設。

  「今週のお買い得商品」

  「←竜種コーナーはこちら  犬・狼種コーナーはこちら→」

  細長い通路にPOPが立ち並ぶ室内は一見ペットショップのようであるが、室内の両側に交互に設けられた開口部に陳列されているのは、元々は人間であった者達だ。

  どの個体にも人間だった頃の地肌は残っていない。全員がラテックス状の皮膚を持つ獣人・竜人・鳥人・モンスター等々に改造されている。

  ここはそんな者達が、一部の富裕層に買われるために待つ施設なのである。

  不安に怯える者、諦めからか無表情の者、そして快楽の表情で涎を溢れさせている者・・・様々な奴らがここにはいて、今日も誰かに買われるために頑張ってアピールをすることになる。

  (・・・? いないな)

  俺の陳列部屋の隣に昨日入居してきた竜種の個体がいなかった。

  もう誰かに買われたんだろうか。すらっとした容姿の竜人型の生体スウツだったから人気があったのかもしれない。

  ・・・いつも通りこの2畳も無いような粗末な通路の開口部のスペースに連れられてセッティングをされると、普段はこちらから喋りかけることが無ければ会話をせず、終始無言で準備作業を行う研究者が話しかけてきた。

  「今日、あなたが一番待っていたお客さんが来ますよ、お昼くらいに・・・」

  口下手な研究者がはっきりとした口調で俺に話しかける。

  俺が一番待っている客・・・誰だ?

  脳裏に思い当たる人物をスライドのようにイメージさせ、1つずつ消去法で正解を導き出していく。そして・・・・

  「ああ、そういうことか。やっと・・・」

  「今日は客として来たいと連絡が入りましたので、あちらが変な事をしない限りは私達もお客様として接します。元々あなたは商用の生体スウツとして調整されていますので、まぁ、あなたの想像している通りのシナリオであれば今日でここでの勤務は終わりになるでしょうね」

  今の俺も商用の生体スウツ。ここにいる限りはショーケースに並んだ1商品としての存在なわけで、それが終わるということは・・・

  つまり俺はあいつに買われることになって、その結果この研究施設から正式に抜け出すことができるんだろう。

  常に監視され、首輪で逃亡できないようにされているこの状況から、ようやく。

  「・・・もしもだ。そいつが俺をテイクアウトしなければ俺はどうなる?」

  俺は興味本位で万が一のことを研究員に質問してみた。

  「陳列の期限日も今日までですので、仮にほかのクライアントからの購入の意思が出なければ・・・あなたは実験体として研究所で一生を過ごすことになるでしょう。そこでは毎日多くの実験体たちが朝から晩まで続く快楽拷問を、精神が壊れて使い物にならなくなるまで繰り返すだけの日々が永遠に続くでしょうね。今よりも環境は遥かに悪くなるでしょう」

  「・・・そうか・・・」

  予想を遥かに超える恐ろしい内容の回答、それを淡々と話されることで恐怖感が増してくるような感じがして、聞かなければよかったと少し後悔をする。

  ・・・あいつは、俺のことをちゃんと分かってくれるだろうか。

  あの日、潜入捜査で俺達はこの研究所の付帯施設に潜り込み、警備員に見つかってしまった。

  機転をきかせた俺は警備員の目を俺のほうに集中させ、その隙にあいつを逃亡させることに成功した。

  「必ず助けに戻ってくる!」

  取り押さえられた俺の遥か前方でそう叫び声が聞こえたのを最後に、俺は長い眠りに入った。

  ・・・次に目覚めたときはこの通り、狼獣人のような出で立ちの生体スウツへと改造されていたというワケだ。

  そもそも生体スウツになる時点で人の記憶は大半は消されるそうだ。人間だったころの記憶が枷となり、生体維持に影響が出てくるんだとか。

  だが、そうならばなぜ俺は元の記憶をそのまま引き継いでいるんだ? あいつらの気まぐれか、他に何か目的があってのことなのか。

  そこだけが妙に腑に落ちなく、わだかまりを抱えながらも商用個体としての日々を過ごして現在に至っている。

  (・・・・・・・・・)

  一抹の不安は拭えなかったが、それ以上に同僚に会えることへの興奮のほうが高くなっていた。

  (人生の岐路になる日だってのに・・・ふふふ)

  俺の股間は大きく膨らみはじめていた。

  [newpage]

  【2】

  「・・・お前なら買ってくれると思っていたぜ、やっぱり俺の相棒だ」

  正直なところ俺は一抹の不安を抱いていた。

  こんなケモノの姿に改造されてしまった俺に見向きもしなかったらどうしよう。

  こいつの「ケモノ萌え」という周りの同僚達には知られていない性癖を俺が随分と前から知っていたとはいえ、だ。

  それに加えて施設の研究員がこいつに提示した金額が想像以上に高額だったからだ。

  都区内の単身者向けのマンションが普通に買える金額。

  そんな吹っかけともいえる額を提示されても、こいつは躊躇することもなく二つ返事で承諾したんだ。

  俺の杞憂はすぐにかき消えた。

  俺を助けるためにはそれしか選択肢が無いということは勿論あったが、まだ独身でこれからの人生設計用に蓄えていたであろう貯蓄を俺のために使ってくれた。それが嬉しかった。

  「なぁ、、、お前、これでいいのか? 俺なんかのために・・」

  俺の言葉を塞ぐように、奴は俺を優しく抱きしめたんだ。

  「お前、、、」

  奴は俺の胸の中ですすり泣きをしていた。

  (・・・・)

  俺は、言葉も発せずただただ泣いているこいつを獣の前脚となった腕で抱え込み、しばらくして落ち着いたところを見計らって話し始めた。

  「もう一度だけ確認させてくれ。俺はもう人間には絶対に戻れない。この腕では細かい作業も出来ないだろうから職場復帰も無理だ。それ以上に・・・」

  俺は、はぁはぁと喘ぎ声に近い吐息を至近距離の奴に向けて聞かせてやった。半分は演技ではあるが、半分は地の喘ぎ声だ。

  ・・・勢い良く抱きつかれた衝撃で俺の股間が少し感じてしまっていたのだ。

  「俺は生体スウツとしての標準スペックを持っている。つまりだ・・・性的な能力だけが特化されている。だから、最後に俺がどんなバケモノになってしまったか、今一度お前の目で見て欲しいんだ」

  一通り言い終わると、俺は抱きついたままの奴の身体をいったん引き剥がした。

  「いくぜ・・・」

  俺は大きく膨らんだ股間のファスナーをゆっくりと降ろしていき、そこに収納されていた一物を右手でゆっくりと握り、奴に見せつけた。

  奴は一切視線を逸らそうとせず、俺の一物を凝視している。

  (・・・・・)

  俺は無言で一物を握ったまま、腕を前後にスイングさせていく。

  それは次第に膨らみと角度を増していき、1分程度で絶頂に達する。

  快楽に伴う喘ぎ声と吐精が交互に展開していく。

  こいつの前で披露するために自慰を封印していたこともあり、射精は1分近く続いてようやく収まった。

  後にはおびただしい量の精液が俺の全身を汚していた。

  「・・・生体スウツっていうのはこういうものなんだ。この現実を見ても俺を引き取るのか? 性欲にまみれた、人間でなくなった俺を」

  15秒ほどの間があっただろうか。沈黙を破ったのは奴だった。

  再び奴は俺に抱きついてきたんだ。

  『俺はお前を連れ戻しに来た。人間だとか、生体スウツだとかそんなの関係ないさ。お前がいないと俺もおかしくなってしまいそうだから・・・もう二度と逃げたりはしない。一生この約束は守るから・・・!』

  「お前・・・」

  俺の精液が付着した顔を俺のマズルにすり寄せながら、奴の涙腺は再び崩壊しようとしていた。

  『それに・・・お前を飼えるなんて・・・夢のようだし・・・』

  (・・・・)

  ケモノ好きの本能が最後に本音として言葉に出てしまう。奴らしいと言えば違いは無いが・・・複雑な感情だったが、まあ。

  今は良し、と割り切ろうじゃないか。

  この研究所からは出られるんだ。

  今後どういう生活になるかは想像もつかねぇが・・・

  俺はこいつのパートナーとして悔いのない人生を過ごそうじゃないか・・・