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【162】黒髪と2人で飲み交わす。

  「セドリックか」

  「おうよ!「栄光への導き手」の魔剣士、リックさんだぜ!しかしまた遅かったなアド。町に着いたのに宿でゆっくりせずに散策か?」

  片手を上げ、人懐っこい笑みを浮かべる黒髪。

  旅の道中、彼とは交流を重ね魔物との戦闘でも協力して立ち回るなどしていた為、それなりに打ち解けていた。

  しかし、わざわざ宿に訪ねて来るとは・・何か大事な用事でもあるのだろうか?

  内心首を傾げつつ、近くに寄って答えを返す。

  「いや、「不屈の砦」のメンバーと少々手合わせを」

  「あぁ。フラウリィーラさんらのとこはかなりの武闘派だもんな」

  三つ編みとの距離を順調に詰めつつある黒髪は「キレイなのに強いって最高に最高なんだぜ」と、得心がいった様子で腕を組みしきりに頷いた。

  「それで、要件は何だ?」

  「んあ?いや、それがよぉ・・俺がフラウリィーラさんの話ばっかするのがうぜぇらしくってよ。最近、仲間に「面倒くせぇ」って邪険にされてんだよ」

  「そうなのか?」

  「そうなのよ。んで、飲みに誘ったら「余所に行け!」って泊ってる宿から蹴り出されちまったからよ。んならアドと飲もうと思ってな!」

  「成程」

  確かに最近の黒髪は「精霊が淡色を告げた」であろう事が直ぐ分かる程有頂天だったからな。

  さもありなん。

  「んで?どうよ?」とグラスを傾ける仕草で酒の席に誘う黒髪。

  そこで返事をすべく傍仕えに視線を向けると「半精霊を一体、不可視状態で付けます」と言って頷く。

  「酒の席にまで護衛が付いて来んのかよ。まぁ見えないなら気にはならないか」

  「すまんな。それで、ここで飲むのか?」

  「いや、実はいい感じだって耳にした店があってよ。良かったら試しに行かねぇか?」

  「分かった、構わない」

  「よっしゃ!」と喜びに声を上げた黒髪は席を立ち、他の席の接客していた従業員に「お代置いとくぜ」と伝え外に出た。

  私も傍仕えに一言「行って来る」と告げ、「いってらっしゃいませ」と見送りの言葉に頷くと黒髪を追って通りに出る。

  そうして待っていた黒髪と横に並び、飲み屋が立ち並ぶ通りへと足を向けた。

  既に天の光は大地の端に沈み、辺りは大分薄暗くなっている。

  しかし店先に篝火が置かれている所も多く、町中は通りが見通せる程度には明るい。

  通りの両側から照らす火や魔道具の灯りで、足元から伸びる影は揺らめき蠢いて石畳の上はなんとも忙しなかった。

  私たちと同じような目的で行き来する人々の流れに乗り、楽し気な喧噪の波を掻き分けて進む事暫し。

  黒髪が案内したのは蝙蝠を象った叩き金が施された扉の前だった。

  「ここか?」

  「おう。うちのリーダーのおすすめだぜ」

  そう言って、目線の高さに取り付けられた趣きのある金属の輪をゴン、ゴンと打ち鳴らすと、上部の小窓が開く。

  その隙間から瞳孔の細長い目がこちらを覗き見ると、低く嗄れた声で「誰の紹介だ」と問われた。

  「「栄光への導き手」のバーグからだ」

  「・・・」

  黒髪が問いに答えると小窓は閉じ、直ぐに向こう側でガチャガチャと音がして扉がゆっくりと内側に開いた。

  そうして出迎えたのは全身鱗に覆われた頭部が蛇の獣人「[[rb:蛇人 > ガラーシュ]]」の用心棒らしき男。

  片方の目を覆う眼帯の下には縦に傷が走っており、見上げる体格に相応しく歴戦の戦士の風格を漂わせていた。

  視線が合うと顎で「入れ」と示され、従って奥へと進む。

  すると従業員だろう。腰に長い前掛けを巻いた優男がカウンター横を抜け、奥の個室へと席を案内した。

  魔道具の淡い灯りに照らされた室内は飲み屋にも関わらず静かな雰囲気で、とても落ち着く。

  テーブルを挟み、黒髪と向かい合って席に着くと優男は「ご注文が決まりましたらベルでお呼びください」と品書きの板を置いて下がって行った。

  パタンと静かに扉が閉まると、店に入ってずっと無言だった黒髪が「ふいーっ」と大げさに息を吐く。

  「何か雰囲気に呑まれちまったぜ・・場違いなトコに来ちまったな」

  「そうか?良さそうな店だと思うが」

  「・・お前にきいた俺が馬鹿だったぜ・・」

  がっくりと項垂れた黒髪は小さく「これで高かったら恨むぜリーダー」と呟き、優男が置いた品書きの板を見る。

  「・・思ってたよりは安いか。お前は何飲む?俺はこれ、その後これ」

  そう言って品書きの板をこちらに向け、指で品物を示す黒髪。

  「そうだな・・私も同じ物を。食事はどうする?これなど旨そうに思えるが」

  「「[[rb:寄生鶏 > パラサイトコッコ]]の包み蒸し」?まぁ良いけど。ならこっちの「逃げ芋揚げ」も頼もうぜ」

  「良いな。では店員を呼ぼう」

  テーブルに置かれたベルを鳴らすと先程の優男がやって来て、注文を聞くと直ぐに酒の入った木のカップと炒った木の実を運んできた。

  「っしゃ!んじゃ、今日まで生き抜いた俺らに!」

  「明日への希望と英気を私たちに」

  「「乾杯!」」

  カコンと軽くカップを打ち鳴らし、一気に呷って中身を半分ほどに減らす。

  「くはーっ!うめぇ!」と先に上がった黒髪の満足そうな声を耳に、こちらもほぅと酒精の籠った息を吐いた。

  久々に口にした酒は[[rb:異世界 > あちら]]の物より拙く感じるものの、胃の腑に落ちてじわり熱を生み出す感覚は、そう大きな違いはない。

  料理が運ばれて来るまでの間、木の実を摘みながらカップを傾けた。

  1杯目を空にする頃には、黒髪の口からは三つ編みに対する熱い想いが滾々と湧き出しており、今まで彼の相手をしてきたパーティーメンバーに少々同情の念を抱く。

  『成程、これは少々鬱陶しい』

  漸く運ばれてきた料理を小皿に取り分け、黒髪の前に置いたところでやっと話が途切れた。

  空になったカップを回収した店の従業員に酒の追加を頼み、品書きに「おすすめ」とあった「香味茸の串焼き」を始めとした串焼きの盛り合わせを注文する。

  目の前に来た料理を見て「お!美味そうだな!」と早速手を伸ばす黒髪。

  下品にならない程度の速さで早々に平らげたところに、追加の酒と串焼きが届けられた。

  空になった皿を持って下がろうとした従業員に「これとこれをもう1皿ずつ!」と最初に注文した蒸し料理と揚げ芋の追加を頼み、手にしていたカップを呷って渡した黒髪は「それでよ」と話を再開する。

  「何処まで話したっけ?」

  「フラウリィーラの笑顔が良い、と」

  「そう!そうなんだよ!あの優しい感じの垂れ目を細めて笑う顔を見たらよ、胸がぎゅっと締まったような感覚になって他に何も見えなくなるっつーの?こう視界が狭まってフラウリィーラさんだけが居る世界に来たみたいになるっつーか!」

  ・・うむ。解る。

  [[rb:好いた人 > アヤ]]の笑顔はとても良いものだ。

  「あと笑い顔とかでちらっと見えた歯とか舌とか・・こう、普段見えないとこを目にするとすげぇドキっとすんだよ!」

  ・・うむ。よく解る。

  スカートから覗く白い足首や、小指の爪の小ささなどを目の当たりにすると、心臓が跳ねて緊張に身体が強張るな。

  「つーか声がさぁ!良いんだよなっ!おっとり優しいのに芯が通ってるっつーの?んで俺に向けられた声がよ・・耳で味を感じてんのか?ってぐらい甘い気がしてくんの!」

  っ?!解る!

  情事の時に向けられた声など、熱を感じる程だ!

  「っはー!フラウリィーラさんに「好き」って言われてぇー!!」

  「それはもう言われた事があるな」

  「・・は?」

  「ん?」

  「いや、何の話だよ」

  ・・・・しまった!つい、考えていた事が口から!

  黒髪の話にいつの間にか同調して[[rb:彼女 > アヤ]]の事を考えていたものだから!!

  内心焦っているものの、黒髪に動揺を悟られまいと平静を装い「何でもない」と誤魔化してカップに口を付ける。

  「・・・アド。お前童貞?」

  「ごほっ!!」

  身構えていたにも関わらず、予想していなかった方向からの問い掛けに動揺して飲みかけの酒が気管に入った。

  「あーあー。大丈夫か?」と気遣いつつ「水もらうか?」とベルに手を伸ばす黒髪。

  咄嗟にそれを手で制し、水操魔法で集めた水分を直接自分の口に放り込む。

  「げほっ!ごほっ!・・・ん゛んっ!・・失礼した」

  「いや、全く失礼ではねーし、気にもしてねぇから」

  「そうか、良か―「で?好きなヤツって誰?」・・・・・・黙秘する」

  口を噤むと「んだよ」と不満そうに口をとがらせる黒髪。

  「男の友だち同士でこういった話しくらいした事あるだろ?」

  「・・・いや、ないな」

  というか、友人のような気やすい関係の者が居た事が無い。

  特異な体質の所為でつい最近まで他人とは距離を置いていたし、家族以外で唯一傍に居た者である傍仕えとは主従の間柄である。

  ・・・一応、彼女とは友人関係、ではあるが・・・・まだ。

  「お?そうなのか?んじゃアドが初めて話す恋の話、この俺に聞かせてもらおうか?!」

  「黙秘すると言った筈だが?」

  「何でだよ?!俺は話しただろ?!だから次はアドの番!!」

  「勝手に決めるな・・」と渋ったものの、酒に酔った赤い顔でしつこく食い下がられているうちに『まぁ、良いか、話しても』という気になってしまった。

  ぐい、とカップを傾けて温いエールを喉に流し込み、くふぅと熱の籠った息を吐いて背筋を伸ばす。

  始まりの気配を察した黒髪も口を閉じ、居住まいを正して聞き耳を立てた。

  「・・・彼女は濃い茶色の瞳で、黒い縁の眼鏡が、良く似合う・・」

  「うんうん」

  「肌は白でも黒でもなく・・黄色味がかっていて不思議と透明感があるんだ・・」

  「ふ~ん」

  「内面も素晴らしくて、優しいのは勿論。深い知識をもって私を助けてくれた」

  「へぇ~」

  脳裏に彼女の姿を思い浮かべ話すうち、酒は進み思考は微睡んで、先程までの黒髪がそうしていたように、彼女への想いがぽろぽろと口から零れていくのだった。

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