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ボサ髪との手合わせは、想像以上に苦戦していた。
先に3回当り判定された方が負けという条件での勝負だが、私は既に2回当り判定が下されている。
一方ボサ髪は当り判定無し。
私の攻撃は一度も有効打を与えられていないという有様だ。
『このまま何も出来ずに負ければ、私を鍛えてくれた者たちに顔向けできない』
それこそ、幼い頃から指導してくれた傍仕えが見ているのだ。
これ以上無様を晒して期待を裏切りたくは、ないっ!
ボサ髪が手首を翻すのと同時に、足元から斜めに伸ばした氷壁で体を覆い隠す。
次の瞬間には、表面を赤々とした炎が舐めた。
じゅぅと溶ける氷の後ろで身を屈めたまま、魔力感知でボサ髪の位置を探り水の礫を放つ!
何かの魔法を駆使してこちらの攻撃を無力化しながら逃げ回るボサ髪。
素晴らしい逃げ足だが、これならばどうだ!
目視せぬまま、魔力感知を頼りにボサ髪を追い詰めるべく地面を凍らせていく。
辺りの地面が全て凍りつき、冬の湖の様相になった時を見計らい、氷壁から飛び出した。
不安定な氷の上だが、自身の魔力を浸透させ操る[[rb:氷 > モノ]]が身体を害することは無い。
踏みしめた足元は滑ることなく、普通の地面と同じように体を支えた。
右、左と複雑に動き回りながら視認したボサ髪に向けて、今度は速度重視で氷の鏃を飛ばした。
次々に打ち出される鏃は甲高い音を置き去りにして、ボサ髪に迫る。
しかし、突如として出現した分厚い石壁に止められてしまい、鏃はどれ一つとして届かなかった。
それでも焦らず、拳を握り石壁にめり込んだ氷の鏃を昇華させる。
鏃全てが爆ぜ、立て続けに小規模な爆発が起こると石壁は破砕されて崩れた。
腰の位置ほどに低くなった壁向こうから現れたボサ髪は、両腕で顔を庇い立っている。
が、どうやら破壊された石壁の欠片が飛んで半精霊の結界が発動したらしく、「不覚・・」と悔しそうに顔を歪めていた。
だが、今のはたまたま当たり判定とされただけで自分の意志による攻撃とはとても言えない。
『次は直接当てる!』
頭の片隅で氷の鏃の次弾を意識しながら、隙を作るべくボサ髪の足元から斜めに氷筍を生やし差し向けた!
敢えて回避が間に合うように伸びる速度を調整した氷筍に追い出され、ボサ髪が動くであろう先を目掛けて氷の鏃を待機させる。
と、予定通りにボサ髪が回避行動を取った!
次の瞬間、狙い定めた位置に氷の鏃を打ち出す!
だが、予期せぬ角度と勢いでボサ髪は転倒!
氷の鏃は空を切って直前まで居たボサ髪の位置を通り抜け、後方に立つ赤髪の剣によって弾かれた。
今度はボサ髪に偶然が味方したか。
『仕切り直しだ』と次の手を組み立てている内に、低くなった石壁を支えにしてボサ髪が起き上がると、こちらに向けて片手を上げる。
「転んだ。結界発動・・不覚。これで当り判定は同じ。最後は、魔法のぶつけ合いでの決着を希望」
・・どうやら転び方が悪かったようだ。
またしても意図せず当り判定を勝ち取った形になる・・となれば、ボサ髪の提案はこちらの望むところ。
「・・良いだろう」
そう答えて、地面を覆う氷を昇華して消した。
「同意に感謝」
肩幅に足を開き、土の大地に[[rb:杖 > スタッフ]]を真っすぐに突き立てたボサ髪は詠唱を開始した。
「我は請う―・・岸壁を削り割る潮の如き濁流を。嵐によって暴れ狂い、あらゆる命を押し流す慈悲無き鉄槌を―・・」
ボサ髪が滔々と詠唱する中、こちらも放出した魔力によってより広範囲から水を集める。
次第に、ボサ髪の魔力が杖を中心として緩やかな風を起こし始めた。
こちらの背後にも、時間が経つにつれて浮かんだ水玉が肥大していく―・・
「―・・赤々と、赤々と。大地より生まれ出でた這い寄る灼熱よ―・・煌々、燦々、玲瓏としたその身を今こそ顕現させ―・・」
ごう!と、杖から熱波が立ち上り、弾けそうだったボサ髪の魔力が一気に収束して落ち着いた瞬間。
詠唱が完成した。
「―我が眼前の相対者を打ち払え!炎泥蛇竜っ!!」
杖の先で拳半分程の大きさの魔石が煌めき、そこを中心として空間に魔法陣が展開。
陣の中央から溶岩そのものの大蛇が大口を開けて飛び出した!
同時に、こちらも集めた水玉を真正面からぶつける!
大蛇と水玉が接触した瞬間。ぢゅごっ!!といった感じの爆音が轟き、真っ白な蒸気が全方向にかなりの高温のまま押し寄せた。
水の膜を張って襲い来る熱から身を守り、蒸気が晴れるのを待つ・・
斯くして現れたボサ髪は、杖に縋るようにして立っている。が、どうやら動けない様子・・
この場合の判定は・・
ちら、と赤髪に視線を向けると、片手を腰に当てて告げた。
「引き分けね」
確かに、互いの魔法は相殺される形で消えてしまい、どちらにも攻撃は届いていない。
私は納得して構えをといたが、ボサ髪は違ったようだ。
「―・・ま、まだ次の魔法、が」
赤髪は脚をぷるぷると震えさせているボサ髪に歩いて近づくと、「てい」と軽い掛け声とともに揃え伸ばした指先で側頭部を小突いた。
するとボサ髪は体勢を崩し、その場に崩れ落ちるようにして蹲る。
「ほらみなさい。もう魔力が枯渇寸前なんでしょう?それ以上どうやって魔法を使うというの?」
「む・・それは、秘密・・」
視線を逸らして呟き、唇を尖らせるボサ髪。
明らかに戦闘継続不可能な事を誤魔化している態度だが、赤髪は苦笑して言った。
「えぇ。リルがこの後も魔法を発動出来るのは知ってるわ。けど、今はそれを使う時ではないでしょう?今回は引き分けにして、また別の機会に勝負し直せばいいじゃない」
そう説得されたボサ髪はうろうろと視線を彷徨わせた後、しぶしぶといった感じで「むぅ・・分かった・・そうする」と頷き、こちらに向き直る。
「まだ、アドには負けてない・・・負けてないけど、勝ってもいない。また近いうちに再戦を請う」
会話の間に足を進めて蹲るボサ髪の近くに立ち、その言葉に見下ろす形で頷いた。
「・・そうだな。今回の手合わせは私も納得出来るものではなかった。再戦というなら望むところだ」
「分かった。約束」
「あぁ」
互いに拳を突き出し、軽く打ち合わせて約束を交わす。
ひと段落ついたところで、傍仕えがぽんと両手を打ち鳴らして「では宿に戻るといたしましょう」と移動を促した。
それに従い、皆で連れだって歩みを進める。
しかし、ボサ髪は歩くのも困難な様子だったので赤髪に背負われる事となった。
傍仕えが半精霊に運ばせようとしたのだが、赤髪が「世話になる訳にはいかない」と断った形だ。
町の門へと続く道を行きながら、赤髪の背に張り付いたボサ髪に先程の手合わせで疑問に思った事を訊ねる。
「幾つか質問があるのだが・・」
「なに?」
「答えられたらで良いのだが、リルベルは無詠唱での魔法と詠唱しての魔法を使い分けて戦闘するようだが、無詠唱の時はどのようにして魔法を発動しているのだ?特に一番最初の魔法は魔力の動きが無かったように思うが・・」
あの時は開始の合図直後に魔法が飛んできた。
一体どのようにしてあのような速さで魔法を発動したのか、気になっていたのだ。
「・・こちらも幾つか質問がある。答えられるなら、こちらも教える」
「いいだろう。では先に質問を受け付けよう」
「・・アドも無詠唱。どうやって?」
「む?普通に魔力による操作魔法だが・・」
私の答えを聞いて、ぐぐっと眉間に皺を寄せたボサ髪は言う。
「嘘はダメ。操作魔法であんな事、出来っこない。魔術陣、それとも魔石?、もしくは両方で補助をしていると睨んだ」
「そのどちらとも違うな。私の純粋な魔力による操作魔法だ」
「・・・・本当に違う?魔力だけであの魔法を?」
「あぁ。そうだな。魔力だけだ」
私の答えを聞いたボサ髪は口を曲げ、眉根をぎゅうと寄せて考え込み・・暫くしてまた問うた。
「アド・・最後の魔法。あれ一日で何回撃てる?」
「む?あれならば・・10回は撃てるな」
本当は50から70程撃てるが、以前も魔力保有量を誤魔化したからな。
それに合わせて今回も実際より低く見積もって答えた。
ボサ髪は私の返答に対し、肺から空気を出し切るように長く深い溜め息を吐いて押し黙る。
少しの間無言の時が過ぎ、町の門が見えたところでボサ髪は気怠気に口を開いた。
「アド・・それが本当だというのなら、あなたの魔力保有量は普通じゃない。優に私の2、3倍はある・・・・あなた、本当に人?」
言外に「魔物か?」と問うているようにも受け取れるボサ髪の言葉に、なんとも気まずい沈黙が場を支配するのだった。
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