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【155】「不屈の砦」メンバーの手土産への反応。

  固い土で作られたテーブルに広げられた料理に舌鼓を打つ。

  先程食べた[[rb:角猪 > ホーンボア]]と魚の他には、森で採集したらしい野草のスープ。

  燻製肉と茸を炒めた物。果物らしき実。そして[[rb:森狼 > フォレストウルフ]]の串焼き。

  あと、向かいの端に座る虫人の前には火を通していない肉の塊が置かれているが、あれは彼女専用の食事なのだろう。

  種族が違えば食の内容が異なるのは当然だ。

  実際の虫人の食事風景に興味が湧き、失礼にならないよう視界の端で観察する。

  前に見た時とは口元を隠す布の長さが変わっており、倍くらいに長くなっていた。

  それを上の手で軽く持ち上げ、口元を隠しつつ天幕の様にして空間を作っている。

  そこへぶつ切りにされた肉を下の手で運び、静かに咀嚼しているようだ。

  美味しいのか、目の上の触角がぴぴっと震えているのがなんとも微笑ましい。

  成程。興味深い。

  虫人の様子を知れた事に満足していると、左隣に座るリーダーが皆を見回し「注目!」と声を上げた。

  「皆!これはアドからの土産だよ!肉なんかに振りかける調味料らしい。皿を回すから試してみな!」

  そう言って、ガラスの入れ物から平らな木皿に移された物を示す。

  リーダーは小さな山になっている粉末を摘み、自分の串焼きに振りかけてから向かいのボサ髪の魔法使いに回した。

  こちらに「頂くよ」と一言告げたリーダーが、早速串焼きにかぶりつく。

  どんな反応をするのか、何となく想像が出来た私はフォークを置いて身構えた。

  肉を噛みちぎったリーダーは目を剥き、ばっ!とこちらに振り向いて何か言いたそうな素振りをみせるが、咀嚼が止められないらしく、口がきけない。

  だからだろう。話せぬ代わりとばかりに自身が感じた衝撃を伝えるため、バシバシと結構な力で私の背中を叩いてきた。

  思わず全身身体強化を発動して耐える。

  だが手をついたテーブルは無事では済まず、伝わった衝撃で少し崩れて足元に土塊が転がった。

  そんなリーダーの様子を見た他のメンバーは『そんなに美味いのか?』と疑問符を浮かべた後、回されてくる皿に順々に手を伸ばす。

  そうして、暫し無言の後に絶叫が響いた。

  「うっま!」

  「あらあらあらあら!」

  「なんっじゃこりゃうめぇ!」

  「とんでもないねこれは!」

  赤髪の双剣使い、三つ編み、褐色肌、リーダーの順で各々騒がしく感想を述べる。

  その間、ボサ髪の魔法使いは自分の皿に次の肉を確保しつつ無言で食べ続けていた。

  虫人を除いたメンバーは串焼きを片手にバンバン!とテーブルを叩いたりバタバタと足を動かしたり丸くした目をギラギラと光らせつつ無言で咀嚼を続けたりと騒がしくも争う事なく皿の調味料を減らしていく。

  ・・・まぁ。気持ちはとても分かる。

  この調味料・・たしか「まきし、もむ?」いや「ましきまむ?」という品名だったか?

  塩と胡椒に数種類の香辛料が混ぜられた物で、肉や魚だけでなく野菜や飲料など、好きな食べ物に掛けたり混ぜたりして味を楽しむものらしい。

  中央に置かれた串焼きの山が凄い勢いで減っていく中、傍仕えが手にした串焼きに調味料をぱらりとして「どうぞ」と私に差し出してくれた。

  礼を言って受け取り、躊躇いなくかぶりつく。

  うむ。美味い。

  まだ温かい肉は意外と柔らかく、然程苦労せずに噛みちぎることが出来た。

  最初に感じたのは塩味。続いて胡椒のヒリヒリとした刺激。

  舌の上に溢れた出た森狼の野性味あふれる肉汁に名も解らぬ香辛料が混ざり合うと、ただの串焼きが城の晩餐すら超越した極上の肉料理へと変貌を遂げる。

  やはり美味い。美味すぎる!

  気付けば自分も無言で肉を咀嚼し、僅かな隙にエールを流し込んでいた。

  くーっ!美味いっ!やはりエールとも良く合う!

  欲を言えば冷えた「びーる」が欲しいところではあるが、それは贅沢が過ぎるというものだろう。

  皆の口数が減り、騒がしくも静かな夕食は気付けば皿という皿から料理が消え失せるという状況に陥っていた。

  無論。「ましきもむ」の盛られていた皿も舐めたようにきれいな状態で、胡椒の一粒も残ってはいない。

  1人黙々と生肉を咀嚼する虫人以外のメンバーは、各々満足気な表情で重くなった腹を擦り天を仰いだりテーブルに突っ伏したりしている。

  私と傍仕えは経験済みだったので、程々で止める事が出来ていた。

  ・・・彼女に頼めばまた食す機会もあるだろうしな。

  「・・アド・・お前さん、とんでもないモノを寄越してくれたもんだね・・」

  ぐいとエールを呷ったリーダーが、胡乱気な様子でこちらを睨めつけて言う。

  「うむ。土産を楽しんでくれたようで何よりだ」

  「そういう事を言ってんじゃないんだよ・・解ってんだろ?コレは何なんだい?」

  素知らぬふりで答える私に、リーダーは眼光を鋭くして問うた。

  「さて。「何か」と訊かれても、珍しい調味料としか答えられんな。私もたまたま譲り受けた品で、金で買えるものではないのだ」

  「は?もしかしてコレもう二度と食えねぇのか?!」

  腹に手を当て、ぼうと空を眺めていた褐色肌が私の言葉に反応して勢いよく立ち上がると、叫ぶようにして言う。

  「・・そうだな。もう手持ちには無いし、入手できる手段も・・全くないという訳ではないが、まぁ無理だろうな」

  「そ、そんな・・・あんなウマい肉食ったら、もう普通の肉なんか食えねぇよ・・」

  がっくりと肩を落とす褐色肌。

  そして今の会話を聞いたリーダーはと言うと、ギギッとこちらへ振り向き、震える声で訊ねた。

  「おい・・この調味料、金で買えないって・・そんな貴重なモンを?」

  「あぁ。もうこの世界では手に入らない・・かもしれんが、なに。いつまでも置いておける物でもなし。気にしないでくれ」

  「そんな貴重な品なら買い手には困らないだろ?!金貨何百枚だって出すヤツは幾らでもいるはずさね!」

  声を荒げるリーダーに「それはそうだが」と適当に考えた言い訳を告げる。

  「考えてもみろ。これが金持ちや貴族に知られると面倒だとは思わないか?あれだけ美味いのだ。次が欲しくなって当たり前、しかしその「次」は無いも同然。厄介な連中に知られる前に腹に収めてしまうのが得策だと思うが?」

  「・・なんでそれにウチらを巻き込んださね・・」

  恨めし気な視線を一身に浴びつつも、余裕を持って答える。

  「だが、美味かったろう?」

  少しの間を置き、虫人以外のメンバーは『確かに』と悔し気に頷いた。

  そうしてぼそぼそと「美味かったけど・・」「知りたくなかったというか」「夢の一時だったわ~」と各々感想を述べているところで、漸く食事を終えたらしい虫人が「食べ終ワったヨ!」と空の皿を掲げる。

  誇らしげな様子の虫人を見て、『そう言えば』と思い声を掛けた。

  「モウロ、だったな。土産に手を付けていなかったようだが、良かったのか?」

  「ン~?モウロ、皆みたイに美味しイの、分かラないノ」

  「そうか、それは申し訳ない事をした。何か好きな食べ物はないか?出来れば代わりに用意しよう」

  そう提案した私に、虫人は「良いノ?!」と4本の腕を広げて喜び、ちらっとリーダーを窺う。

  「アドの負担にならないなら構わないよ。ウチらだけ美味い思いするのも悪いってもんさね」

  そう許可を出したリーダーに、虫人は「わーイ!」と喜び、血の付いた口布をひらひらと揺らめかせながら言った。

  「あのネ!モウロ、肉が一番好キ!けど、果物モとってモ大好キ!」

  「果物か・・ふむ」

  確か保存食の中に・・

  考えながら腰の[[rb:魔法鞄 > マジックバック]]の中に手を入れ、表が透明で中身が見える不可思議な素材の袋に入った干し果物を取り出して見せる。

  「これは干した果物だが、試してみるか?」

  「食べル!モウロ食べル!」

  「そうか。では皿を」

  虫人は焦って手元の木皿を口布で拭き、上両手でずいとこちらに差し出してきた。

  逸る気持ちが抑えられないその様子を微笑ましく思いながら袋の端を横に破って開け、黄色く平たい中身を数枚乗せてやる。

  「ありがト!ありがト!」と礼を言った虫人は黄色い干し果物を1枚手に取り、口布の下に入れた。

  途端、キラリと輝いた目の上の触角がビビビ!と震えて、悲鳴にも似た喜びの声が上がる。

  「美味しイ!美味しーイ!こレ好キ!おいシ!おいシ!!」

  余程気に入ったのか、肉の時とは違いガツガツと荒々しく干し果物を平らげて行く虫人を見て、胸が温かくなり無意識に口角が上がった。

  「皆に土産を楽しんでもらえたようで、何よりだ」

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