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緑の壁を突き破り現れた黒茶色の塊は、鼻先から額へと連なり尖る角を掬い上げる様にして突進してきた。
だが三つ編みは素早く横に飛び、[[rb:角猪 > ホーンボア]]の攻撃を華麗な動きで避ける。
そして飛び上がりから、振りかぶった[[rb:斧槍 > ハルバード]]を角猪の首に勢いよく振り下ろした。
肉と骨を断つ重く鈍い音が響くと同時に、両腕で抱えられるかどうかという大きさの頭部が跳ね転がる。
その一方で、胴体の方は首を地面に押し付ける形で突進の勢いにより縦に一回転。
背中からドォンッ!と派手に落ちると、四肢を天に向けバタバタと暴れた。
やや呆気にとられ藻掻く胴体を眺めていたが、直ぐ我に返りこれ以上攻撃する必要は無かろうと構えていた剣を下ろす。
初めての狩りという事で身構えていたが、蓋を開ければ殆どすることが無かった・・
正直、ここまで役に立たないとは思っておらず、どうにも申し訳なさが募る。
「・・凄まじいな。たった一撃とは・・」
剣を鞘に納め、驚嘆と呆れを半々に感想を述べると褐色肌は笑いながら言った。
「まぁな!フラウはウチらの中で隊長の次に腕力あるからな!けど毎回こんな上手くいくワケじゃねーぜ?どっちかってーと、失敗することの方が多いくらいだ!」
「そうなのか?」
落ちた頭部から角を切り落とすべく、短剣を手に嬉しそうに走り寄る褐色肌。
しかし鮮やかな手並みを目の当たりにした後では、その発言内容に素直に頷くことが出来ない。
「本当よ~?今日は色々な条件が重なって、上手に事が運べたという感じね~」
「だな!アドのお陰で獲物の場所も正確に知れたし、警戒の範囲も広くて余計な心配無く狩りに集中出来たからな!」
「仕留めるのに丁度良い場所があったのも、運が良かったわ~」
「だな!お陰で楽な狩りだったぜ!」
角の根本に切れ込みを入れ、「よっ」と勢いをつけて頭から角を折り外した褐色肌は、腰のバッグから紐の付いた布を広げ、角を一纏めにして包むと斜めに背負った。
「うっし!角はこれで良いとして、後は解体だな!近くに川があると楽なんだけど、時間あるし探してみっか?」
「あぁ、そういう事なら「B」、頼めるか?」
川を探すのならば、飛べる半精霊に手伝って貰った方が早かろうと声を掛ける。
護衛の「B」はこくりと頷き、スイと上昇するとすぐに降りてきてある方向を指さした。
「あちらか。距離は?」
問うと、立てた左右の指同士を近づける動きを見せる。
「わかった。近いそうだが、すぐに移動するか?」
「お、おぅ。移動は血抜きしてからな・・しかし、精霊様って割と色々やってくれるもんなんだな・・」
どうやら半精霊の行動に驚いたらしく、目を丸くする褐色肌。
しかし、護衛に付く半精霊たちについて誤解したままでいるのもどうかと思い、訂正する。
「いや、この「B」は師匠であるカルセと契約している「半精霊」で、一般的に知られている「精霊」とは異なる存在になる」
「あら~。そうなの?」
「どう違うんだよ」
2人とも精霊の話には興味があったらしく、それならばと角猪の血抜きをする間に話をする事になった。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
「それじゃあ、「半精霊」ってのは半人前みたいなもんか?」
「そうだな。使役される事で力の使い方を学び、存在を昇華させて「精霊」そして「大精霊」へと成る・・らしい。師匠の話によればな」
「精霊様も修行するのね~」
首を落とされた角猪からは勢い良く血が流れ出ていたが、大きな水溜まりになる頃にはその勢いも衰えていた。
そろそろ移動しようという事で、三つ編みと私とで角猪の後ろ足に掛けた太いロープで引いていく。
褐色肌は先を歩きながら周囲の警戒だ。
角を外した頭と、流れ出た血は放置でいいらしい。
暫くすればスライムが集まってきて食べてしまうそうで、何も残らないとの事。
「じゃあアタイでも「精霊使い」になれるのか?」
「それは、無理だと思う。意思疎通が出来ねば、契約は難しいと、聞いた」
「あら~。でもアドさんは「B」さんとお話通じてたわよね~?」
この角猪は大物で、重量もそれなりにある。
三つ編みは平気な顔をして引いているが、私は会話するのがやっとの状態だ。
一見華奢に見えるが、素晴らしい膂力の持ち主だと感嘆する。
ふと、水操魔法で角猪を地面から浮かせられれば楽になるのでは?と思い立ち、試してみる事にした。
「すまない、少し、止まってくれ」
「あら~。疲れちゃった?大丈夫~?」
「なんだよアド。もうへばったのか?交代するか?」
「いや、違う・・少し、待ってくれ」
会話しながらの力仕事は、思った以上に体力を消耗する。
前のめりになりながら引いていたロープを放し、背筋を伸ばして息を整えた。
「私の水操魔法で少し試して見たい事があるのだが、良いか?」
「ん?何するんだ?」
「構わないけど~。何かしら~?」
2人から了解を貰い、「直ぐに解る」と一声かけ、空気中から水分を集めて水を生み出し角猪の下へ送る。
握り拳ほどの厚みの水で地面から浮いたところで、三つ編みに「軽く引いてみてくれ」と声を掛けた。
「わかったわ~」答えた三つ編みがぐっとロープを引くと、大して力を入れていない様子にも関わらず、角猪はスルスルと移動する。
「おぉ。上手くいったな」
「あら軽いわ~。これは楽ちんね~」
「え?!何でそんな簡単に動くんだよ?!」
驚く2人に水を操作している事を伝えた。
魔力で包んだ水で角猪を地面から浮かせ、進行方向に進むように動かしているのだと。
「水だけでも運べると思うが、引いた方が早いからな」
「すっげ~・・アドお前やっぱ4級なんかじゃねぇよ絶対・・」
「そうね~。実績を積んで、早めに昇級試験を受ける事をお勧めするわ~」
「・・善処する」
「お前、やる気がない時の返事だぞ、それ」
目を細め、じとっと見て来る褐色肌の視線を咳払いと共に視線を外して「「B」との意思疎通の話だったな」と、先程の話の続きを持ち出して誤魔化す。
冒険者には「互いに尊重し合い、個人の事情には踏み込むべからず」という暗黙の決まりがあるが、2人もそれに従い私の下手な話題転換に乗ってくれた。
褐色肌は肩をすくめて歩き出し、それに続いた三つ編みは「後ろの方で警戒お願いね~」と告げると軽くなった獲物を1人で引き始める。
「分かった」と返事をして、魔力で広域把握に務めながら会話を続けた。
「まず、精霊と意思疎通をするには精霊との相性が重要になる。有名なのは種族として親和性の高いエルフだな」
「そうね~。精霊といえばエルフって感じよね~。純粋なエルフは見た事ないけど~」
「アタイも見た事ねーな。たしか、昔あった争いで数が減ったんだっけ?」
「そう言い伝えられているな。実際、エルフは子供が出来にくい種族らしい。戦で数が減り、そこからなかなか回復しないのだろうな・・他種族と関わるのも避けているようだから、外からでは増減が解らないのが現状だ」
「まぁ、種族として数が減っちまったら引き籠るのは当たり前だよな。敵対しない限りアタイらには関係ない話だけどよ。んでさ。つーことは精霊はエルフじゃなきゃ使役できねぇってワケか?」
肩越しにこちへ振り向き問う褐色肌に「いや」と否定を返す。
「稀にだが、人種でも精霊との親和性が高い者が現れる。まぁ、その殆どが精霊側の気まぐれで気に入られたり、悪戯で[[rb:取替子 > チェンジリング]]となって親和性が生まれた場合のようだがな。後はエルフの血を引く者は当然親和性は高い」
「んじゃやっぱ今まで精霊に縁の無かったアタイじゃ精霊使いにはなれねーって事か」
「ちぇっ」と残念そうな様子で視線を前に戻す褐色肌に、朗報となる可能性がある言葉を続けた。
「その通りではあるが、一時的に精霊使いのような事が出来るようになる方法が、一つだけある」
「ホントか?!」
そう驚きに声を上げ、体ごとこちらに振り向いた褐色肌に私は頷きをもって答えた。
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